模造巨人と少女   作:Su-d

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堕天使降誕


14.呪縛

ーースクールアイドル部・部室ーー

「あ〜今日も上がってない…」

 

「昨日が4856位で今日が4768位…」

ある日の放課後。Aqoursは今日も今日とて部室に集まっていた。千歌や梨子はパソコンの画面に映し出されている4ケタの数字を見て唸っている。

 

「まぁ、落ちては無いんですけど…」

 

「最初は4999位でしたよね?1週間経つか経たないかで231組ものグループを抜き去るって私は凄い事だと思いますよ!」

皆を励ますようにそう呟くルビィと宙。この4768という数字こそ全国に存在するスクールアイドルの中でのAqoursのランキングである。このランキングが上がれば上がる程有力なスクールアイドルとして名が広まっているというわけだが……上にあと4000組以上存在すると考えるとどうにも分が悪い。

 

「この調子だと3ケタ台なんて夢のまた夢なんだけどね…」

 

「でもでも、新加入の2人が可愛いってコメントに書かれてるよ!」

千歌の言葉を聞いてルビィの表情が明るくなる。

 

「そうなんですか⁉︎」

 

「特に、花丸ちゃんの人気が凄いんだよね」 

 

「『花丸ちゃん、応援してます』『花丸ちゃんが歌ってるところ、早く見たいです!』だって!」

千歌達だけでなく画面越しの人々からも自分と花丸に好印象を抱かれている事を知りルビィは感激していた。隣で花丸も目を輝かせている。

 

「これがパソコン!?」

 

「そこ!?」 

 

「これが知識の海につながっていると言われるインターネット…!」 

花丸は自分に向けられたコメントでは無くノートパソコンに関心を寄せていた。

 

「そうね、知識の海かどうかはともかくとして… 」

大仰な反応をする花丸を見て梨子は苦笑する。

 

「おぉ〜‼︎」

 

「花丸ちゃん、パソコン使った事ないの?」 

千歌は小声でルビィにそっと尋ねる。普段おっとりしている花丸がここまで興奮しているのは随分珍しいことだった。

 

「実は花丸ちゃんのお家、古いお寺で電化製品とか殆ど無くて、この前沼津行った時も…」

 

◇◇◇

 

「これ、捻る部分が無いずら。 ……⁉︎ おぉ!未来ずらぁ〜‼︎」

 

◇◇◇

 

ルビィの話によると、花丸はトイレの洗面台の自動水栓機能に大変感銘を受けていたのだという。

 

◇◇◇

 

「未来ずら!未来ずらよ、ルビィちゃん!」

 

◇◇◇

 

ハンドドライヤーに頭吹かれながら彼女は非常に楽しそうな表情をしていたそうだ。

 

「微笑ましいですね。でもそういう事やってみたくなっちゃう気持ち、何となく分かりますよ」

 

「宙ちゃんも前に花丸ちゃんと同じ事やろうとしたけど清掃員の人に怒られたもんね…」

 

「そ、それは言わない約束だった筈です!」

 

「触っても良いですか?」 

花丸はいつでもキーボードに触れられるよう既にに両手をワキワキと動かしている。

 

「勿論!」 

千歌から許可を貰うと花丸は目を輝かせながらパソコンに近付き早速ボタンを押した。

 

「ーーーあ」

起動中のパソコンの電源ボタンを押す事がどれだけ罪深い事か千歌から知らされていた宙は電源ボタンを押す花丸を見て短く声を上げる。しかし既に遅かった。真っ暗になった画面の前で衣装のデータを保存したかどうか慌てる曜と梨子。千歌・宙・ルビィは花丸を必死にフォローする。

 

「キュ…」

どうしたら良いか分からない花丸は口から鳴き声のような音を漏らす事しか出来なかった。

 

 

ーー屋上ーー

「おお!こんなに弘法大師・ 空海の情報が!」 

 

「ここで画面切り替わるからね」 

 

「凄いずら〜 」

今度は曜からきちんと使い方を教えて貰い花丸はパソコンに齧り付いている。

 

「もうっこれから練習なのに〜」 

 

「少しぐらい良いんじゃない?」 

練習が中々始められない事をもどかしく思っている梨子を曜が宥める。もはや見慣れた景色なので千歌は大した気に留めていなかった。彼女を悩ませるのは別の問題。

 

「それよりランキング何とかしないと…」

 

「毎年スクールアイドル増えてますから。」 

 

μ'sが活動していた頃と比べ、今やスクールアイドルの数は何倍にも増えていた。勿論それに並行してラブライブへのハードルも高くなる。千歌はAqours(ここ)に他のスクールアイドルとは一線を画す何かが無いものかと考え、悩んでいるところだ。

 

「でも…こんな何も無い場所の地味!アンド地味!アンド地味!なスクールアイドルだし…」

海、周囲を囲う山々、自分を順に指差し項垂れる千歌。

 

(美しい自然に心優しい人々。この街にも良い所だって沢山あると思うんだけどなぁ…)

宙はふと思ったことを千歌に伝えようとするが……

 

(ッ!? ゔぅ……ぁ?)

言葉を紡ぐことが出来なかった。激しく脈打つ鼓動と共に視界が急速に狭まっていく。以前も屋上で感じたことのある感覚ではあったが、それまでとは比べ物にならないほど長く、深い苦痛が宙の精神を蝕む。

 

「やっぱりーーーーーーと駄目なの?」 

 

「ーーはーーだよ」

 

「何kーーーつこtーーなあ?」

突然起こった発作にも似たその症状のせいで千歌達の話がよく聞こえなくなってしまう。

(まだ皆んな私の事に気付いてない……!余計な心配させないように…しないと)

宙は腹から迫り上がってくる吐き気を堪えながら声を絞り出した。

 

「すみません…私、ちょっとトイレに……」

 

 

 

「先輩?大丈夫ですか?」

宙の様子がおかしい事に気付いた花丸は階段に向かっていく彼女に目を向け

 

「ん?」

屋上へ続く階段から1人の少女がこちらを覗いているのを発見した。

 

「善子ちゃん?」

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

「うぅ…いきなり屋上から堕天してしまった…」

屋上でAqoursが練習している様子を覗き見していた少女・津島善子は花丸と目が合ってしまい近くのトイレに身を潜めていた。

 

◇◇◇

 

『堕天使ヨハネと契約して、あなたも私のリトルデーモンに…なってみない?』

 

◇◇◇

 

(〜〜〜ッ‼︎何であんな事言っちゃったのよ!教室に入れないじゃない‼︎)

善子は入学式早々厨二病全開の自己紹介をした事が原因で、高校デビューに失敗したと思い込み不登校になっていた。勇気を振り絞り何とか学校に出向いた彼女だったが、どうしても自分のクラスに入り込む事が出来ず人目につかないような場所を行ったり来たりしているところである。

 

「ていうか何であんな所に先客が……」

ブツブツと呟く善子。不意に彼女が篭っている個室のドアが開かれた。

 

「わわっ!」

 

「あ……」

視線がぶつかる。見知らぬ少女に見つかってしまった事で善子の羞恥心は臨界点を超えてしまった。

 

「だ、誰貴方?っていうかノックくらいしてよ!」

鍵を掛けなかった善子にも非はあるはずだが、いきなり扉を開けた黒髪の少女を見て善子は声を荒げてしまう。

 

「す、すみませ……」

黒髪の少女、宙は非礼を詫びようとするが突然口を抑える。

 

「⁉︎ ちょ、ちょっと大丈夫………?」

明らかに宙の様子がおかしい事に気付いた善子は慌てて身を引く。

刹那、宙はトイレに向かい身を屈めて胃の中にあるものを全て吐き出した。

 

 

 

ーー保健室ーー

 

「宙ちゃん、大丈夫?」

 

「はい、もう平気です。お騒がせしてすみません……」

不安そうに尋ねてくる千歌、Aqoursのメンバーに向かって宙は小さく頭を下げる。そして自分がいるベッドから少し離れた所で壁にもたれかかっている少女に目を向けた。

 

「それと、津島善子さん……でしたよね?貴方の目の前でいきなりあんな粗相をしてしまって………本当にごめんなさい」

 

「き、気にしなくて良いわよそんな事!それより本当に大丈夫なの?貴方あの時自分で立てないくらい衰弱してたけど」

 

「少し休んだら大分楽になりました。もう問題なく皆さんとお話も出来るし校庭100周することだって出来ますよ」

そう言うと宙は善子に向かって優しく笑いかける。

 

「何で罰走みたいになってるの…まぁ何ともないなら良かったわ」

善子は胸を撫で下ろすと同時にそこにいる全員から視線が集中している事に気がつく。

 

「……! じゃあ私はこれで「善子ちゃん!」

早々に立ち去ろうとする善子を花丸が呼び止めた。

 

「学校来たずらか」

 

「き、来たっていうか偶々近くを通りかかったから寄ってみただけって言うか…」

嬉しそうにニコニコしている花丸を見てばつが悪そうに善子は目を逸らす。

 

「その割にはきちんと制服着てるずらね」

 

「べ、別に良いじゃない!偶々よ!」

 

「ふぅん……」

 

「何よその顔!」

にやにやしている花丸を見て善子は腕を振り回し始める。この2人が幼い頃からの友達で、善子が学校に来ていなかった間花丸が授業のノートを届けにいく仲だという事を宙は先程ルビィから教えて貰った。

 

2人のやり取りを微笑ましく思いながら見ていた宙だったが突然思い立ったように手を叩く。

 

「そういえば皆さんまだ練習中でしたよね?私になんて構わず練習して貰って大丈夫ですよ!私もすぐ行きますから」

 

「駄目です。貴方は体調を崩したんだからもう少し安静にしたらすぐ帰りなさい。今日は絶対安静ですよ」

 

「そ、そんな…」

保健室の先生にそう言い渡され宙はガックリと肩を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー通学路ーー

 

結局、その日の練習は早く終わった。皆いきなり体調を崩した宙の事を心配しており、千歌がいつもより早めに帰る宙に合わせて練習を切り上げ一緒に帰りたいと言ったのだ。

練習が終わると同時に千歌・曜・梨子は保健室に居る宙を迎えに行った。花丸・ルビィ、そして何故かAqoursと一緒に練習に付き合う事になった善子は2人と一緒に下校しているところである。

 

「ねぇ……それでクラスの皆んなは何て言ってるの?」

善子は隣を歩く花丸に不安げにそう尋ねる。

 

「え?」 

首を傾げる花丸。善子は弾かれたように喋り出した。

 

「私の事よ!変な子だね〜とか、ヨハネって何?とか、リトルデーモンだって、ひひ〜……とか!」

 

「はぁ。」 

 

「そのリアクション!やっぱり噂になってるのね⁉︎そうよね、あんなに変な事言ったんだもん。終わった。ラグナロク。まさにデッドオアアライブ!」

 

「それ生きるか死ぬかって意味だと思うずら……」

 

「あはは……凄い」

一人芝居するように話す善子を見てルビィは圧倒されていた。そのテンションにいまいちついていけない様子だ。

 

「大丈夫。誰も気にしてないよ。」

 

「でしょ〜え?」

予想外の返答に驚き善子はバッと振り返る。

 

「それより、皆んなどうしてこないんだろうとか、何か悪いことしたんじゃないかって心配してて… 」

花丸は善子を落ち着かせるように肩を叩かながら優しく話しかける。

 

「本当ね?天界堕天条例に誓って嘘じゃないわよね?」

 

「ずら!」 

 

「よっし!まだいける!まだやり直せる!今から普通の生徒で行ければ……ずら丸!」

 

「何ずらぁ⁉︎」

急に目の前に飛び出し顔を近づけてくる善子に驚き尻餅をつきそうになる花丸とルビィ。構うことなく善子は更にズイッと2人に顔を近付けた。

 

「ヨハネたってのお願いがあるのだけれど… 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉーーーい!宙ちゃーーーーん‼︎」

 

帰り道を1人トボトボ歩く宙の後ろからいつもの3人が追いかけてくる。

 

「………皆さん?練習はどうされたんですか?」

 

「練習よりも宙ちゃんの事!大切なメンバーが欠けた状態での練習なんて身に入らないよ。」

千歌はそう言って宙の手を握る。

 

「一緒に帰ろう?」

 

「………ありがとうございます」

宙は力無く笑う。いつもの元気が無いのは誰の目から見ても明らかだった。

 

(何かあったの?)

千歌・曜・梨子の3人ははそう聞きたい気持ちをぐっと堪える。自分達が無理に問い質すべきでは無いという事を察していたからだ。

 

 

重苦しい雰囲気になる……前に千歌が3人の前に飛び出した。夕陽を背にしながら振り返り、笑いかける。

 

「もし良かったら今日ウチで皆んなで一緒にご飯食べない?志満姉からさっきメッセージが来てて…私達で献立自由に決めて良いって!」

 

「おお!良いねそれ!」

曜と梨子は表情を綻ばせる。

 

「宙ちゃんは、何が食べたい?」

そう言って千歌は宙に向き直り……言葉を失った。

 

「……ッ」

彼女の目からは涙がとめどなく溢れ出ていた。

 

 

「皆さん………ごめんなさい……」

 

 

 

「私、もう皆さんと一緒に練習する事が出来ないかもッ……しれません」

 

 





今回の話は本編とは少し違う展開にしています。


宙の中にいるファウストともそろそろケリをつけないといけませんね。
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