模造巨人と少女   作:Su-d

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始まりはとある人物のお話から………



15.1人じゃないから

○○○

 

大きな石造りの巨大遺跡に夕暮れ時を想起させる斜陽の空。闇夜を照らす太陽は存在しないがこの場所は光に満ち溢れている。いつ見ても美しいとは思うが、流石にもう見慣れてしまった。

足元を覆う草木も、目の前に立ち塞がる無数の木々も、もう身体のない私にとっては何の障害にもならない。全ての遮蔽物をすり抜けながら目指すのは一際目立つあの大きな遺跡。…………元々身体が小さかったから生きてた時にあそこまで向かうのは本当に大変だったなぁ。

 

 

遺跡の最深部に存在するのは人間1人分くらいの飛行機みたいな形をした大きな石。私が手を触れると何かを主張するように淡く輝き始めた。

 

「………貴方にとっては迷惑よね。貴方の力は明日を生きる人達の希望を繋ぐためにあるもの。死者の私が無理に干渉すること自体間違ってる。でも……お願い。まだあの子達のところには行かないで。」

私は脳裏に映り込む銀色の巨人に向かって必死に懇願する。

 

「今の千歌や宙にとってはそれが一番辛いことだから。あの子達に苦しい思いはさせたくないの」

 

私にやれる事は限られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーフォートレスフリーダムーー

「ファウストの残留思念………?」

 

「そう。何万年も前にファウストを含む3人のウルティノイドと光の巨人が壮絶な戦いを繰り広げていた事は君も知っているだろう?来訪者もその戦いの行方がどうなったかは分からないようだが、今のファウストの状態を見るにおそらく彼は光の巨人に敗れ肉体を失ってしまったんだろう」

薄暗い司令室の中でイラストレーターは瑞緒に話を続ける。

 

「高海宙は今のところダークファウストの力をほぼ完璧に制御出来ている。だが、先程彼女から適能者(デュナミスト)になりうる力を持つ人間とふれ合うと拒絶反応のような症状が起こると聞いた。つまり、肉体は制御できてもファウストの思念だけはまだ完全に押さえ込む事が出来ないという事だ。……ファウストの光の巨人に対する憎しみが残留思念となって融合している高海宙に悪影響を与えているんだろう」

 

「そんな……じゃあ宙さんは…」

 

「拒絶反応が起きる条件はまだかなり限られている。デュナミストになり得る力を持つ5人以上の人間が太陽光が降り注ぐ場所に集まり、その近くに居合わせた場合……だが、もし5人の内誰かがデュナミストの力を発現して残留思念がこれまで以上強大になった場合」

そこまで言ってイラストレーターは躊躇うように視線を床に落とす。

 

「高海宙はもう彼女達と同じ場所で過ごす事が出来なくなるかもしれない」

 

「………宙さんにこの事は」

 

「包み隠さず全て電話で伝えたよ。変に誤魔化せばそれこそ彼女を深く傷付けてしまうだけだからね」

 

「今何処に居るんですか?」

 

「フォートレスフリーダムの……ここだ」

施設の全体像を映し出したモニターを見て瑞緒は目を丸くする。

 

「殆ど施設外だけど……誰とも顔を合わせたく無いんだろう。七瀬君、もし出来るなら彼女の様子を見てきてくれないか?君が一番適任なんだ」

 

「分かりました。私も宙さんとお話したかったから丁度良かった」

瑞緒はイラストレーターを安心させるように微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー十千万旅館ーー

「千歌ーー。ご飯よそってよ。」

 

「もうっそのくらい自分でやれば良いじゃん!」

 

「あんたが一番近いから良いでしょ」

 

「そんな事言って……大丈夫なの?私美渡姉が体重計乗って青ざめてた事知って…すみません何でもないです」

美渡にジロリと睨まれると千歌はいそいそと炊飯器に向かう。蓋を開けると彼女は仰天した。

 

「ちょっと志満姉!梨子ちゃんと曜ちゃんいるからっていくら何でも炊きすぎじゃない?てか何このデカさ!食堂の炊飯器じゃん」

 

「マズかったかしら?いっつも皆んな沢山食べるから思い切ってこのサイズにしてみたんだけど……」

 

「私こんなに食べないよ⁉︎こんなに沢山食べれるのは宙ちゃんくらい……あ」

そこまで言って千歌は口をつぐむ。

 

「宙ちゃん……大丈夫かな?」

 

「TLTに行くって言ってすぐ家を出ていったかけど……もしかしてあの体調不良と関係があるんじゃないかしら」

 

「何があったの?」

美渡が受け取った茶碗を机に置きながら曜と梨子に質問する。

 

「練習中に急に体調が悪くなって……おかしいとは思ったんです。凄いタフで元気でウルトラマンの力もある宙ちゃんが何も無しにいきなり倒れるなんて」

曜の言葉の先を梨子が紡いだ。

 

「もしかしてそのウルトラマンの事で何かあったんじゃない?」

 

「梨子ちゃん……」

 

「だってそうでしょ?前に千歌ちゃん言ってたよね?夜になると偶に宙ちゃんが何処かに出掛けていくって。それって私達の見えない所で怪獣と戦ってるって事でしょ?人知れず怪獣と戦い続けてる内に何か目には見えない怪我や病気に……」

 

「大丈夫だよ。きっと」

曜が梨子の隣に座りながら笑った。

 

「何で分かるの?」

 

「そんな気がする」

 

「簡単に言わないでよ……ってそれ千歌ちゃんも言ってたやつ」

梨子は以前ピアノを弾けなくなった事で悩んでいた時も千歌とこんなやりとりをした事を覚えているようだ。

 

「私達に出来る事をやろう。私達が思い詰めて何も出来なくなったらそれこそ宙ちゃん責任感じちゃうんじゃ無いかな?私達が練習を頑張る分元気づけられるんじゃないかって……私はそう思う」

 

「それに、連絡なら出来るよ!」

千歌が携帯を掲げると、早速宙から一件の通知が届いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー数十分前・フォートレスフリーダムーー

 

TLTの基地、フォートレスフリーダムの外部は巨大なダムになっており、最上部にはダム一帯を見渡せる展望スペースが存在する。

宙はそのスペースで1人膝を抱えて(うずくま)っていた。感情を押し殺すように両手で足を強く抱え込む。……柔らかい。千歌達の練習に日々参加している事を鑑みると以前に比べて鍛えている方だと感じていたが、まだ鍛錬が足りないのだろう。

 

不意に背後から何かに包まれ背中がじんわりと暖かくなる。目の前に差し出されたのは「coffee」と書き記された一本の黒い缶。

 

「こんな所にいたら風邪引きますよ?」

いつの間にか隣に隣に白衣を着た1人の女性が立っていた。手には先程宙に渡したものと同じ黒い缶を持っている。

 

「瑞緒さんこそ、そんな格好で寒くないんですか?」

 

「さっきまで夏服1枚しか着てなかった人に言われたくないですね」

にっこりと笑うと瑞緒は宙に向かって手を差し出した。

 

「私の事を心配してくれるんだったら早く中に入りましょう?」

即座に先程肩にかけて貰ったコートを押し返そうとする宙を手で制する。

 

「おおっと!お構い無く。ちゃんと私の分もありますから」

得意げに鼻を鳴らしながらコートを着始める瑞緒。宙がここから動かない限り居座り続けるつもりらしい。

 

「聞いたんですね。吉良沢さんから」

 

「えぇ。ぜーーんぶ聞きました」

 

宙は手渡されたコーヒーの缶を両の手で丁寧に包み込む。

「戦う事は嫌いではないです。心の底から守りたいって思える人達も出来て……戦う事にも意義が生まれた。本来疎まれるべき闇の力が誰かの役に立つ事にも気づいたんです。千歌さんに感謝の言葉を伝えられた時も凄く嬉しかった。あの時、あの瞬間思ったんです。私の帰る場所はここなんだって。共に生きて皆さんの平穏な毎日を守る事が私のやるべき事なんだって」

 

「でも、大切な人達のそばにいる事すらできないなんて………そんなのあんまりじゃないですか」

缶コーヒーを握り締める手にぽつりぽつりと(しずく)が落ち始める。

 

「何でよりによって千歌さん達に光の巨人になる資格があるんですか?千歌さん達は私と違って全力でやりたい事(スクールアイドル)があるからわざわざ戦う必要なんて無い。安全が確立された場所で過ごすべきです。戦うのは私の役目………それに戦う力があるんだったら私だって御伽話に出てくる正義のヒーロー……『ウルトラマン』みたいに普通に戦う存在でありたかった」

瑞緒は黙って宙の話を聞いていた。しんと静まりかえった場所に少女の嗚咽する声だけが響く。

 

暫くすると宙の心は大分落ち着いてきた。瑞緒が黙って側にいてくれたからだろうか。宙は目に溜まった涙を拭うと小さく呟いた。

 

「私……こんな自分が情けないです。すぐにメソメソして泣いて………千歌さん達は私の事を「ウルトラマンの力がある」って言ってくれますけどそれは違います。泣き虫で闇の力しか使えないウルトラマンなんているわけないじゃないですか。やっぱり私は………向いてないのかもしれません」

 

「貴方は千歌さん達と出会って変わりました。千歌さん達の…人間の『温かさ』に触れた事、後悔していますか?」

その言葉を聞き宙はぶんぶんと首を横に振る。

 

瑞緒はニコリと笑った。

「良いんですよそれで。大好きな人達のために涙を流せる……自分の気持ちを周りに素直に表現出来る。私はとっても素敵な事だと思います。宙さんの気持ちを聞く事ができて本当に良かった。1人で全部抱え込むより皆んなで一緒に考えた方が良いに決まってます。泣いたって良いんです。悩んだって良いじゃないですか。だって宙さんはもう1人じゃ無いんです。私、いや私達(TLT)がいます。一緒になんとかする方法を考える事ができます。だから、千歌さん達の事……ダークファウストの闇の力の事……諦めないで下さい」

 

瑞緒を見ると、初めて会った時のなよなよしていた顔が今は引き締まっていた。彼女は右手の人差し指・中指・薬指をピシッと立てる。

 

「3日……3日間で必ず解決策を見つけます。任せて下さい。これでも私、異星獣やウルティノイドに関しては他の皆さんより少し自信があるんです。対ペドレオン戦で助けられましたから今度は私が宙さんを助ける番です!」

 

「瑞緒さん……」

 

「だからその間だけここで過ごして頂けませんか?お友達には少しだけ入院するとか何とか上手いこと携帯で伝えて貰って………ここのご飯美味しいし、宿泊室も完備されてるからその点は全く問題無いですよ!あ!何なら一緒に寝ませんか?私、宙さんと一度」

 

「1人で寝るので大丈夫です」

 

「あっはい」

 

「でも………ありがとうございます。私も何とかなる気がしてきました」

宙は微笑むと貰った缶コーヒーの蓋を開け、気合を入れるようにその中身を一気に呷った。

 

 

 

「うぇぇ………にがぁ」

 

 

 




中々進まなくてすみません
次回、喜子ちゃんにもビースト討伐に少しだけ力を貸して貰います。
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