「『堕天使』の力を貸して下さい!」
「………はぁ?」
扉から顔を覗かせる少女はいきなり突拍子も無い事を言われて戸惑いを隠せない様子だった。分かってる。普通だったらあんまり関わった事の無い人の家を訪ねるなんてするはずもない。でも恥ずかしがっている暇は無いんだ。
「堕天使の格好でライブ配信やったりする事があるんですよね?それでたくさんの人が見にくるって!」
「ッ⁉︎/// 何で貴方がそれを知ってるの⁉︎」
「千歌さんから聞きました」
「あの子余計な事を……!」
「とにかく!ライブ配信を今していただけないでしょうか?」
「い、今⁉︎何でよ?」
「それは……」
いざ善子と実際に会うと、宙は今やろうとしている事に途方も無い後ろめたさを感じて言い澱んでしまう。しかし、今この街に蔓延る幾百ものアラクネアを一網打尽にするにはどうしても彼女の協力が必要だった。
◇◇◇
ーー2日前・千歌との通話にてーー
「そういえば、善子ちゃんって凄いんだよ!偶にね、堕天使の格好でライブ配信とかしてるみたいだけど、その生配信を100人以上の人達が見にくるんだって!」
「100人⁉︎そんなにですか!」
「うん!自分の大好きな事がたくさんの人に見てもらえて楽しんで貰えるって本当に素敵な事だよね」
「そういった意味じゃ善子ちゃんは私達より何歩も先を進んでるのかも」
◇◇◇
「ッ‼︎」
何とか敵の第一陣を一掃しつかの間の平穏に包まれていた沼津一体だったが、遂にまた新しい個体が波状攻撃のように群を成して地下から這い出してくる。研ぎ澄まされた感覚は既に奴らの接近を感じとっていた。
宙は目の前の少女を遠慮がちに見つめる。こんな美少女を危険に晒して良いわけがない。 それでも……‼︎
宙は善子の両肩を掴む。
「うひゃッ」
「貴方の『大好きな事』で皆んなの命を救う事が出来るんです!お願いします!力を貸して下さい……!」
「!………ははーん、なるほどね」
善子は宙をビシッと指差す。
「貴方、
宙は思わず上機嫌になっている善子の手をしっかりと包み込んだ。
「ありがとうございます……‼︎私、絶対善子さんを守りますから……宜しくお願いします」
ーーー
「………来た。合図だ」
宙から発せられた発光信号を確認した和倉は小さく呟くと、手に持っている長大な重火器を握りしめた。
それぞれ別々の高台に移動し、場所を確保したナイトレイダー隊員も次々にナイトレイダー仕様のスナイパーライフルを構え、バイポッドを立て始める。
宙が立案した作戦。
それはライブ配信で大量の電波を一箇所に集め、街全体から出現するアラクネアを一点に誘導し一気に殲滅するというものだった。一点に集まってくる敵を宙を含む各所の高台に展開しているナイトレイダーが狙撃で殲滅する。かなり単純ではあるが、電波が集まる所に人間がいると判断して行動する敵にはこれが今出来る1番有効な手立てだった。
ナイトレイダーは以前から何回もビースト・アラクネアと交戦しており、その戦闘から敵の嗅覚と聴覚は非常に優れているが地底生活に適応しているため視力はかなり低いというデータを獲得していた。嗅覚や聴覚でカバーしきれない遠距離からであれば、こちらが一方的に攻撃する事が出来る。
しかし、この作戦には問題点が2つ存在する。
1つは、敵がナイトレイダーの無線を傍受出来る能力を持っているので作戦区域にいる間ずっと部隊内で一切通信が出来ないという事だ。そのため、作戦中は常に部隊から孤立した状態で敵を捕捉、攻撃しなければならない。
そしてもう1つは……
(ビーストを殲滅するまで善子さんを危険に晒し続けてしまう)
善子が住むマンションの屋上に登りながら宙は唇を噛み締める。守らなければならない人間を1番の危険に晒してしまう私は、つくづく最低な人間だろう。
変身するとどうしても巨大化してしまうので、街中で大混乱が起きかねないし動くと建造物を壊しかねない。本当なら、人間大サイズのまま変身して
(……それでも私は多くの命を助けられる方に賭けたい。千歌さん達が住むこの街をもうこれ以上血で汚したくないから)
ーーー
ーー善子の部屋ーー
カメラを乗せた三脚を立て、目の前にそこそこな額を払って購入した燭台を設置。蝋燭に火を灯して部屋を暗くすればもうそこは幻想的な暗黒の世界。ここに扇風機を設置すると折角の雰囲気ぶち壊してしまう気もするが、衣装をひらめかせるにはこうするしか無い。…これで良いんだ。これで。
善子は段ボールの中から昨日片付けた堕天使コスチュームを取り出し、その身に纏わせると鏡で自分の姿を確認する。誰かにお願いされてこの格好になる事は初めてだったので、いつもより気合が入っていた。
(自分の好きを迷わず伝える…ね。………よし!刮目なさい!戸惑いも迷いも捨てた新しい堕天使ヨハネの姿を‼︎)
●REC
カメラに赤い光が灯る。
ーーー
「凄い!アクセス数がもう100を超えてる」
ライブ配信が開始される時、宙は善子が住むアパートの屋上に登り周囲の状況を確認していた。配信の様子を映した携帯に表示されている数字が3桁を超えた瞬間、街中至る所から一斉に敵がこちらに殺到する気配を感じ取る。
「どうだ?ビーストの動きは」
彼女の隣にいる斎藤が様子を尋ねてくる。
「少しずつですがこちらに近づいて来ます。ここからだと……南東約2kmにいるのが1番近いです!」
「了解。そのまま接近してくる敵を捕捉し続けろ。目標の殲滅は俺達が引き受ける。お前は無理に攻撃する必要は無い」
「分かりました。宜しくお願いします」
彼が敵を攻撃出来る狙撃班に発光信号を送ると彼方から了解の意を示唆する発光信号が返ってくる。無線を使うことが出来ない代わりにナイトレイダーは発光信号を用いて情報伝達を行っていた。これならばビーストからこちらの作戦行動を傍受される危険性はかなり低くなる。
立ち込めていた霧は少しずつ晴れ、次第に状況は好転しつつある。静寂に包まれた小さな街で、静かに戦いが始まろうとしていた。
◇◇◇
「お客さんにどう思われるとか、人気がどうとかじゃない。自分が一番好きな姿を、輝いてる姿を見せることなんだよ!だから善子ちゃんは捨てちゃダメなんだよ!自分が堕天使を好きな限り‼︎」
善子に黒い羽を握らせ微笑むと千歌は更に言葉を続ける。
「それに、堕天使だって本当にいないなんて限らないよ?この世界に私達の知らない事なんてたくさんあるもん。堕天使みたいに特別な力を持った人が私達を守ってくれる事だって………ぁ」
慌てて口を抑える千歌を見たい善子は怪訝な表情を浮かべる。
「何?どうしたの?」
「何でもない。とにかく、堕天使や悪魔を好きでいるのは全然悪い事じゃないよ」
「もし本当に何か特別な存在が目の前に現れたとしても、善子ちゃんなら受け入れてくれそうね」
「?」
梨子の意味ありげな一言。その言葉は善子の頭に残り続けた。
◇◇◇
止まない雨。
轟く雷鳴。
その中に大きな何かが立っている。あの日は確か、Aqoursのファーストライブを見に行って––––––
「はっ!?」
暫くの間ボーッとしていた事に気付き善子は慌ててカメラに向き直る。いかんいかん。折角の配信の最中に何をしているんだ私は。彼女は思考を切り替えるために頭をブンブン振ると堕天使ヨハネとしての姿に戻る。
「ごめんなさいね、我がリトルデーモン達。少々考え事をしていたわ……」
何か大切な事を忘れているような気がしてならなかった。
ーーー
「ギャッ!」
「ガアア⁉︎」
一匹、また一匹と頭部を撃ち抜かれ跡形も無く消滅する。アラクネアは誘蛾灯に吸い寄せられる虫のように街の一点に誘導され、次々にその数を漸減させられていく。
反撃も逃亡も許さない一方的な殺戮が小さな街の中で繰り広げられていた。
「新手です!北北西1.7キロ、加藤さんが防衛している場所に7体来ます!ポイントQを防衛している西条さんと共同で攻撃すれば仕留められる筈です」
「了解!」
「……発光信号確認。前方11時の方向より7体」
ナイトレイダーが使用するメットには暗視・サーモスコープ機能が搭載されており、霧がかった場所でも問題無く活動する事が出来る。信号を受け取った隊員が狙撃銃を構えながら指示された方向を確認すると、建物の陰から7体の赤い影が姿を現すのを確認。息を吐き出し銃身を安定させ敵の頭部に標準を定めると、一気に引き金を引き絞る。銃身の先端にはサプレッサーが取り付けられておりアラクネアは持ち前の卓越した聴覚を利用する事が出来ない。
ナイトレイダーは宙と斎藤がいる場所を中心に、お互いの発光信号が確実に見える距離で円を描く様に展開していた。全方位をもれなく索敵できるその配置は海上戦における艦隊陣形の一つである輪形陣さながらで、中央の防衛を極限まで高める事に成功していた。
(凄い‼︎このペースなら善子さんの配信が終わるまでに確実に全ての敵を仕留められる!)
敵の注意を集める事で被害を最小限に留め、宙が接近してくる敵をいち早く発見。それをナイトレイダーが見事な連携で確実に掃討。人間の力だけで大量のビーストに対抗出来る事に宙は身が震える程の興奮を覚えていた。
貴方は1人じゃない。私達がいる。
瑞緒が以前自分に言ってくれた言葉の意味を今更ながら理解する。ずっと前からビーストと戦い続けていた凄腕の先頭集団。その存在が世間に明かされる事はなく、人知れず平和を守り続けていたと考えると………頭が上がらない。
(私もこの人達から『仲間』って呼ばれるような間柄になりたい)
ビースト振動波の数値が0になる頃、宙は人間の持つ力と可能性に魅入られていた。
ーーー
「ありがとうございます。貴方達のお陰で殆ど被害を出さずにこの街を守る事が出来ました」
作戦が終了した後、宙は斎藤に話しかける。彼はジロっと宙を見ると鼻を鳴らした。
「それはこっちの台詞だろ。お前がいなきゃ俺達は何も出来なかった。俺達には現状に対応できる力がまだ無えんだ」
「そんな事」
「だか、絶対にお前と肩を並べられる程の力をつけてみせる。その時ようやく俺達もお前の仲間を名乗る事が出来ると……思う」
「仲間」という言葉を聞いて宙は嬉しそうな表情をすると、「善子さんの様子を見てきます!」という言葉を残して身を翻した。
「ちょっおい!…………何でビルから飛び降りる事が出来るんだよおかしいだろ」
ーーー
(⁉︎ まだだ!まだ何かいる‼︎)
宙は地面に降り辺りを包む霧に触れた瞬間、微かに悪寒を感じる。
(でもおかしい。気配を全く感じない……?)
いつもであれば距離が遠くとも奴らの出現をはっきり感じ取る事が出来るのに、こんな感覚は初めてだ。見えない所から誰かに見られているような………
「ちょっと貴方!何で外にいるのよ?すっごい見たいって言ってたのに!」
後ろから声が掛かると共に足音が近づいてくる。
「善子さん⁉︎」
「命がどうこう言ってたのにあれ嘘だったの?凄く嬉しかったのに……酷い」
「ち、違います!……危険ですから今は外に出ないで下さい‼︎」
シュルッ
オロオロしながら善子を説得しようとした瞬間、何かが空を切る音が響く。
(ッ‼︎)
宙は咄嗟に懐からダークエボルバーを取り出し、善子を黒いフィールドで包み込むと渾身の力を込めて蹴り飛ばした。
ーーー
「痛ったぁ……もう、何なのよ〜〜?」
吹き飛ばされ、ゴミ箱から頭を引き抜きながら善子は力無く呟いた。
ーーー
「う……何…これ?」
真っ白な何かが身体に絡み付き、宙の身体を地面に縫い付けていた。手足丸ごとすっぽりと覆われているため全く動く事が出来ない。目の前にダークエボルバーが落ちているのに拾う事が
「へえ、これ使って変身してるんだ。姉さん、結構良いもの持ってますね」
視界の端から手が伸び、それを拾い上げる。宙の前には1人の少年が立っていた。少年はそのまま身を屈めると宙の顔を覗き込むとにっこりと笑う。
「うん。やっぱり僕とは全然似てないですね。あっ睨んだ」
「貴方……誰?」
「でもごめんなさいね。僕せっかちなもんで、欲しい物手に入れたら貴方の事はどうでも良いんですよ」
謎の少年はニコニコしながら言葉を続ける。
「だから死んで下さい」
突如、霧の中から4つの赤い目が現れる。
ーー アースロポットタイプビースト
・バンピーラ ーー
「ーーーー!!!!!!」
「え?……は?」
眼前に迫り来る異形の
更新遅れてすみません。今週もう1話上げます……そのつもりです
蜘蛛型の怪獣が強いのは特撮シリーズのお決まりなのでしょうか?