模造巨人と少女   作:Su-d

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Zや虹が咲 どちらとも大好評だったのに劇場版や続編の情報が一切無いのが寂しいです…でも最高の状態で締め括るのも良いのかも知れませんね

前回についてですが、ネクサス本編でネクサスの変身者にビースト振動波を照射して人体実験を行う描写がありまして……最後の描写はそれをオマージュした感じです
所々曖昧な描写があってすみません



21.行く末

宙の視界に飛び込んでくる景色は目紛しく変わる。

ベッドの上から真っ黒な空間……そして今、赤黒い空に不気味な光が明滅する空間が目の前には広がっていた。

 

そんな中、彼女の見開かれた瞳はその先に佇む影を捉えている。

 

ダークファウスト–––––かつて終わりの見えない孤独に苛まれ、生きる意欲を失いかけていた宙に手を差し伸べた黒い魔人。

 

「私に服従しろ……それならば身が滅ぶその時まで貴様の理解者になってやる」

 

宙の肉体を利用して一万年前の戦いで失われた肉体を取り戻そうとしたウルティノイドと、彼の思惑に気付き、利用されているだけだと悟りながらも人間の生活圏で生きる事が出来なかった為に彼を頼り続けた少女。

 

彼らの利用する・服従するの関係はあの日……初めて宙がダークファウストとして内浦の海に降り立ち、力を行使したあの時に瓦解する。

 

1つの肉体に宿る2つの意思が対立している今、どちらか片方が淘汰されようとしていた。

 

 

【一つだけ教えてやる】

赤黒い空間内にファウストの声が響く。  

 

【貴様と私は今、互いに精神体……この空間で戦い、勝利した者がこの肉体の主になる。今まで通り人間と仲良しごっこがしたければ全力で私を殺しに来い。私も全力で貴様から全てを奪いに行く】

手短に話を終えたファウストは腰を低く落とす。

 

「ま、待ってよ!私は貴方と殺し合うつもりは無い。まずは私の話」

宙が言葉を言い切る前に目の前の赤と黒に覆われた空間からファウストの姿が消える。

 

【動かないなら】

瞬きする間もないまま黒い影が宙の眼前に現れる。

 

【死ね】

ファウストの拳は躊躇なく宙の鳩尾を撃ち抜いた。

 

「……ぉ⁉︎」

腹から迫り上がって来る鈍い痛み。それは現実で感じるものと全く一緒だった。

 

目の前が真っ白になる。

 

 

 

 

 

 

「ギャアァァァァ‼︎」

 

「宙さん!」

瑞緒達が宙のいる治療室に駆けつけると、腹部を抑えた宙が部屋中を転げ回っていた。先程まで穏やかに過ごしていた少女が髪を振り乱しながら暴れ回り、周りにある物を蹴散らしていく………瑞緒はその凄惨な光景に顔を真っ青にしながらも、宙に駆け寄ろうとする。

 

「危険過ぎますよ!あんな状態で近づいたら怪我どころじゃ済みません‼︎」

研究員達はそんな彼女を必死に抑え込む。宙は以前、並大抵の脚力では破壊出来ない強化ガラスを蹴り破った事がある。自我を失い見境無く室内にある物を破壊している今、彼女を直接抑え込むのは不可能に等しかった。

 

「このままじゃ宙さんが……宙さんがぁ………何でこんな事に、ぇ?」

 

「分かってますから!落ち着いて下さい!貴方が取り乱していたらどうにもならないでしょう⁉︎」

瑞緒は頭を抱えながら宙から背を向けてしまう。刹那背後から彼女に飛びかかる宙の黒い影。

 

「危ない!」

瑞緒の盾になるように2人の研究員が割って入った。

 

「ぐあっ!?」

宙に比べてかなり大柄な体格の研究員が2人まとめて地面に抑えつけられてしまう。

 

「ゥゥゥゥゥゥ……」

 

「うわぁぁぁ‼︎」

目を剥きながら獣の様に喉を鳴らすその姿に、抑えつけられている研究員は堪らず悲鳴を上げてしまう。自我を失ったまま目の前の人間の首を締め上げようとしたその瞬間、発砲音と共に宙の体が側面に大きく吹き飛んだ。

 

「はあっ……はあっ……」

その先には銃を構えた瑞緒

 

「主任……撃ったんですか⁉︎」

 

「大丈夫…麻酔弾です。異星獣捕獲用ですけど」

瑞緒はそのまま地面にへたり込む。

 

「早く宙さんに取り付けた機械を外して下さい」

 

「もう全部外れてます。取り敢えず何とか落ち着いたようです」

宙は地面に倒れ込みもう暴れる事は無かったが、それでも彼女の表情は苦痛に歪み体を小刻みに震わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぁぁぁぁ!?」

木の葉の如く体が宙を舞い、夢でも現実でも無い空間に何度も体を打ちつける。すぐ側まで近づいてくる足音を感じながら反射的に身を起こすと、直前まで宙の頭があった場所を爪先が鋭く反り返った赤い足が踏み抜いた。

片膝をつきながら急いで立ち上がろうとするも、体勢が崩れガラ空きになっている脇腹に再度蹴りが叩き込まれる。

 

「うげぇ……ッ」

さっきから起きあがろうとしては蹴られの繰り返し。ファウストの攻撃が止む事は無い。

 

「もうっ……いい加減にして!」

首元に向かって伸ばされた腕を掴み、受け止めながら声を絞り出す。

 

「何でこんな事……」

 

【…………】

突き出された腕から放たれる拘束力が更に強くなる。

 

「貴方とは戦いたくない…まだ私達あの日から何も話していないでしょう!貴方に話したい事、沢山あるから!私がこれまでに出会った大切な友達、家族の事……皆んなに会う事が出来たのはこれまで私を育ててくれた貴方のおかげなんだよ‼︎」

 

【黙れ】

バランスが崩れ景色がひっくり返った。ファウストの腕を抑えるのに精一杯で、足元の注意が散漫になっていたところを蹴り払われてしまったのだ。

 

「きゃうッ‼︎」

 

【随分と女々しい声を上げるようになったもんだ……この程度の人間に今まで……】

ファウストは地面を転がる宙を踏みつけ動きを止めると、その長い髪を乱暴に掴み、引き寄せる。

 

【お前は私の為に戦い、私が復活する為の力を蓄えてからその身を差し出す筈だった。それなのに何故……何故私に支配されない?貴様は一体何だ?何故私の邪魔をする?】

 

「うぅ……ッ!」

容赦無く放たれる膝蹴りを手を交差させる事で辛うじて受け止める。だかファウストは宙が下腹部のガードを緩める前に彼女の襟首を掴んで無理矢理顔を上げさせると、渾身の力を込めて殴り付けた。

 

「ぐふっ…」

強い衝撃と痛みが伴いまた転んでしまいそうになるのを何とか堪え、数歩後ろに下がる事で踏みとどまる。

 

【……手応えが無さ過ぎる。そのくせ足掻く……一体どういう事だ?】

 

「私は今まで勝手に貴方の力を使い続けた。それを都合良く言い訳する事なんて出来るわけないよ。だから行動で示すしか無い。私が殴り返したら………もう後戻り出来なくなる」

 

千歌さん達と会う前にファウストは言っていた。私には何も無い……と。確かに最初は何も持ち合わせていなかったけど、千歌さん達の優しさに触れ、Aqoursの皆んなと出会い、沢山の人と絆を紡ぐ事が出来た。何も無いのなら、少しずつ積み上げていけば良い。そして、紡いできた関係は絶対に失いたく無い。それがダークファウスト……貴方であっても。

 

「貴方のこれまでの怒り・憎しみは私が全部受け止める!貴方と過ごしてきた時間を、繋がりを失いたく無いんだ‼︎例えそれが偽りの関係であったとしても」

宙は目の前の魔人に向かってあらん限りの声を張り上げた。

 

【………そうか。貴様はこの殺し合いからは何も見出す事が出来ないと言っているのだな】

ファウストは握られた拳を緩め、手の平をじっと見つめる。

 

「ファウスト……!」

宙は引き締めていた表情を緩め、笑みを浮かべる。

 

【甘ったれた理想論者が……反吐が出る!】

 

「え?」

刹那ファウストの指先から紫の光が迸り、放たれたダークフェザーが宙の胴体を貫いた。

 

【私と過ごしてきた時間を失いたく無いだと?笑わせるな!ビーストを嬉々として殺し続けてきた貴様が今更何を言う】

蹲る宙の体を立て続けに無数の光弾が貫き、弾け飛ぶ。

 

【私もビーストも大して違いは無いというのに……まあどうしようも無いだろうな。私の力が無ければ何も出来ない貴様には】

 

【自分にとって都合の良い物は受け入れ、害になる物は排斥する。貴様も結局周囲の人間とやる事は何一つ変わらない】

 

【そんな人間にこれからも力を利用されるだと?ふざけるのも大概にしろ!私は私自身の目的を果たす為にこの力を使う。そのためには……貴様の意思は邪魔だ】

 

「ごっ……は…」

少女の体勢は大きく崩れ、遂に地面に体を横たえてしまう。それでもファウストの光弾乱射は止まらない。

 

【どうした?私の怒り・憎しみを全て受け止めるのだろう?その気が本当にあるのなら早く立ち上がるがいい…その前に貴様の精神は死んでしまうかもしれんがな】

ファウストの声が次第に遠ざかっていく–––––––––

 

 

 

 

Aqoursの面々、十千万の皆、ナイトレイダーの隊員達、イラストレーター、瑞緒……脳裏に今まで私が出会った人々の姿が浮かび上がり、様々な光景が混ざり合いながら収束しやがて眼前に小さな光が灯る。

思い返せば今まで会った人は皆進んで私に歩み寄ってくれた。私はお膳立てに乗っかり行動していたに過ぎない。だから、今度は…今度こそ私が歩み寄らないとダメなんだ。

これは彼に直接語りかける事が出来る最後のチャンスだから。

 

ファウストの自由を私が奪っているのならどうすれば良い?どうやったら彼に理解して貰える?

 

………答えは程なくして出た。

 

今まで通りファウストの力を借りながら皆んなを守るには––––––

 

 

 

 

ファウストは地面に転がっている少女を見据えると、ゆっくりと近づいていく。

【随分と手こずらせてくれたな】

 

【これで私も漸く………⁉︎】

地面を踏みしめる音と共に宙は再び立ち上がっていた。

 

【……馬鹿な】

宙はファウストに微笑みかけ、彼を招き入れる様にゆっくりと両手を広げる。

 

【いい加減………消えろぉぉぉぉ‼︎】

ファウストの手刀が宙の胸部を貫いた。

 

【な……⁉︎】

全てを受け止める。その言葉通り彼女は命が絶たれる程の一撃も正面から受け止めた。宙の体の半分は黒く染まり、手刀を放ったファウストの腕からは宙の命の流動が流れ込んでくる。

 

「貴方に体が必要なら、私の半分を貴方にあげる。それなら貴方も都合の良い時に私の体を借りる事が出来るでしょう?」

 

【馬鹿な!……私と貴様は目的が違う。 奴を殺し、この世界を闇に塗り込める為に造られた私に共存など考えられる筈も無い‼︎人間の命を奪う事だって容易く…】

 

「その目的を果たす前に人間の温かさを貴方にも知って貰えば良い!ほら、今だって温かいでしょ?」

宙は体からファウストの腕を引き抜くと、優しく包み込んだ。

 

「この温もりは皆んなから貰ったもの……ビーストの危険に侵されながらも今を精一杯生きる人達の素晴らしさを貴方にも知って欲しい!私に生きる意味を教えてくれた大切な人達の事を」

 

【意味が分からん。貴様のその異常な自己犠牲の精神は一体何なんだ?ウルティノイドも貴様が今まで殺してきたビーストと変わりないというのに】

 

「それは違う」

宙は膝をつき、ファウストに寄りかかりながらも言葉を続ける。

 

「貴方とビーストが同じだというのなら、何で今こうやって話し合う事が出来るの?何で私を育ててくれたの?」

 

【………】

 

「私は内浦の皆んなも、貴方も…どちらも失いたく無い。今は生きる理由が違うかもしれないけど、共に歩む事が出来る様にしてみせる……だから!」

どちらか片方を淘汰せず、共に生きる。不器用ながらもそれが宙の出した答えだった。彼女は距離をとったファウストにフラつきながらもゆっくりと歩み寄っていく。

 

【やめろ……近づくな…来るな!】

ファウストは再びダークフェザーを射出するが、それは宙に直撃する前に霧散してしまう。

 

【⁉︎ 何故だ?何故当たらない?】

思わず光弾を放った腕を凝視した瞬間、地面を蹴る音と共に宙が飛び込んで来る。ファウストは応戦しようとするが、一切の殺意を感じさせない潤んだ黒い瞳を前にして全く動く事が出来なかった。

 

軽い衝撃と共に2人はぶつかり合い、宙は黒い魔人をーーー

 

【な⁉︎】

思いっ切り抱き締めた。

 

【離せ!】

 

「嫌だ!絶対離さないもん‼︎」

 

【はぁ!?】

ファウストは必死にホールドを解こうとするが、彼の体に回された二つの細い腕は硬く締まって離れない。

その後も両者はもつれ合う様に転がっていたが、やがてファウストは抵抗する事を諦め、押し倒される形で地面に転がっている彼は赤黒い空を仰ぎ見る。

 

【……………はぁ……もう良い…】

ここ(ダークフィールド)で彼が起こそうとした事……その全てが馬鹿馬鹿しくなった瞬間だった。

 

光を通さない静かな空間で少女の啜り泣く声だけが響き渡っていた。

 

【…………泣くのは弱者のする事だと……言ってなかったか?】

 

「そんな事分かってる……私弱いもん」

 

【………】

 

 

 

 

フィールド一帯に亀裂が走り瓦解しようとしている最中、ファウストと宙は静かに向かい合っていた。

 

【貴様が体の半分を私に差し出したという事は、私も自由に活動出来るという事だ……その意味が分かるか?】

 

「分かってる」

 

【私は貴様の意思に関係無く行動する。……第一目的は奴を……ノアを抹殺する事だからな】

 

「………分かってる」

 

【手段は選ばない。邪魔をするなら貴様の周囲の人間にも容赦はしない】

 

「それは駄目」

 

【…………】

 

 

亀裂は空間一帯に広がり直上から砕け散り始め、辺り一面が白く霞む。

 

【人間の事などどうでも良いが、貴様には少し興味が湧いてきた……貴様の意思がこの先何をもたらすのか……】

 

【その行く末を見届けてやる】

 

ファウストのくぐもった声が途切れると同時に、目の前が真っ白になったーーー

 

 

 

 

 

「………んぅ?」

目を開けるとそこにはこちらを覗き込む沢山の顔。目の焦点がはっきりと合い、見える景色の輪郭が鮮明になった瞬間、割れんばかりの歓声が響き渡る。

 

「……え?え?…ぎゅ⁉︎」

辺りを見回そうとした瞬間、誰かに思いっ切り抱きしめられる。

 

「良かったあ……宙さん…戻って来て本当に良かったぁ……」

もう耳慣れてしまうくらいに聞いた頼りなさそうで、それでいて何処か優しさもある女性の声。

 

「瑞緒さん………苦しいです…離して下さい」

 

「嫌です!暫くは絶対離しませんから‼︎処置を中断してからも凄く苦しそうにしてたんですよ……もう駄目かと何度思った事か分からないですよ」

 

(あれ?……デジャブ……?)

 

 

 

ひとしきりもみくちゃにされた後、自分の身体を確認してみると何処にも傷跡の様なものは残っていなかった。結局あの後どうなったのかよく分からないが、彼と思いをぶつけ合う事が出来たのは紛れも無い事実であり、私にも今後少なからず代償が伴う事は覚悟しなければならない。

 

彼は私の事を受け入れてくれたのだろうか?………いや、彼は御伽話のヒーローとは少し違うし、そう都合良く事が進むとは思えない。

 

はっきりとしない事ばかりではあるが、それでも一つだけ分かった事がある。 

気が遠くなる程長く感じた3日間の後に十千万に帰り、再びいつもの学校生活に戻ったその時にふと気が付いた。

 

Aqoursと一緒に居ても、もう以前の様に体の内から湧き上がる拒絶反応みたいなものを全く感じなくなっていたのだった。

 

 

ーーー

 

 

ーー十千万旅館ーー

それはある日の新しい1日の始まり。千歌の部屋に志満でも美戸でも無い1人の少女が飛び込んで来た。

「千歌さん、起きて下さい。もうすぐアラームが鳴りますよ」

 

「うぅ……せめて鳴り出すまでは寝かせてよ……」

 

「もう後5分も無いですよ……それに今日は私達で朝ご飯準備する日じゃないですか。3分でも2分40秒でも早く起きた方がいいに決まってますって!」

 

「………途中まで1人でやって貰えないかな?……まだ眠い…お布団…あったか……い…」

 

「…………分かりました」

宙は一息吐くと千歌の布団に手を掛ける。

 

「私も一緒に寝ますね♪」

 

「あああ分かったから!起きるよ!起きるからもう服は脱がないでぇ‼︎」

 

他の誰かから見たらありふれてるのかもしれないけど、私にとってはかけがえの無い大切な日常。心躍るこの楽しく、素晴らしくもある日常を守る為なら私は何だってやってみせる。

 

「おはようございます、千歌さん」

 

「ふふっ、おはよう。宙ちゃん」

 

彼女達と共に生き、彼女達の望む夢を共に追いかける。それが私の生きる理由………そして

 

「ファウストも……おはよう」

 

【………】

 

彼とだって………共に生きていく。

宙は自分の胸にそっと手を置いた。




何かとんでもないキャラ崩壊をしてしまった様な気しますが、ダークファウストとのわだかまりは一応これで何とかしたつもりです。すみません……

漸く次回からサンシャイン本編の内容に触れていきます。何卒宜しくお願いします。
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