6回目の戦闘シーンを宜しくお願いします。
(もっと戦う機会増やさないと)
ーー2週間前ーー
木々の中を2つの影が走り抜ける。
「はあっ…はあっ…」
「お嬢様!あと200メートル程で森を抜けますから、もう少しだけ踏ん張って下さい!」
「わかっ……てる!」
山の中を全力疾走するなんていつぶりの事だろうか。まだスクールアイドルをやっていた時はよくやっていたものだが…
前を走る男に手を引かれ、叱咤激励される少女・小原鞠莉は途切れ途切れに叫ぶ。
周囲は黄色いガスに巻かれており、自分達を飲み込まんとばかりに背後から迫ってくる。中々切羽詰まった状況だが、幸い進む速度は煙と同様大して速くなかった。
鞠莉の前を走るボディーガード・倉島の言った通り程なくして森を抜け、車を待機させておいた場所に戻ってくる。後ろを振り返ると、ガスに飲み込まれた木々は既に立ち枯れを起こし始めていた。
「やはり有毒ガスか……この周辺に火山は無かった筈なのに何故?」
「言ったでしょう?今この街で普通じゃない事が起きてるって。貴方もここに来た時に見た筈よ。淡島を蹂躙する化け物の姿を。まぁ覚えてるのが私だけだったらこんな事言ってもしょうがないか」
狼狽える倉島に対し、鞠莉は顔色を殆ど変えずに車内に乗り込み取り出したカメラで周囲の状況をカメラに収める。
「やっぱりこんなのじゃ駄目。皆んなに信じて貰えない。もっとちゃんとしたevidenceがあれば…」
「とにかく、すぐにここを離れますよ」
倉島はアクセルを踏み込む。巨大な地響きが聞こえたのはその直後だった。
微弱ながらもビースト振動波を感知し、急いで駆けつけた
「………!」
「凄い……!」
地上から様子を眺めていた鞠莉は、その手際の良さに感嘆の声を漏らす。密かに期待してはいたが、やはりあの巨人は来てくれた。彼女はカメラ取り出す。
(これがあれば皆んなだってきっと信じてくれる筈…)
未だ空中に浮遊している巨人の姿を収めようとしたその時ーーー
危機がまだ差し迫っている事を悟り彼女の目は大きく見開かれた。
(これで一先ずは安心かな……)
手早く対処出来た事を確認し、宙は高空を警戒しながらゆっくりと降下していく。次はこのガスを撒き散らした本体を見つけ出さなければならないが、周囲に一切敵の気配は感じられない。一体どうしたものか……
「危ない‼︎避けて‼︎」
突然警告を促すような叫び声。咄嗟に地上を見下ろすと、そこには槍状に尖った無数の何かが視界一杯に広がっていた。
(は–––––––––––?)
何かを考えるより前に体を思いっ切り捻って反射的に被弾面積を抑える。顔面のすぐ隣を突き抜けていく黒い棘。奇跡的に胴体貫通は免れたが、右足首に槍状の何かが突き刺さった。
◇◇◇
そして今、その本体が目の前を闊歩している。撒き散らされる黄色い有毒ガスからみてあの時取り逃がした敵である事に間違い無かった。ビーストは眠りから目覚めたばかりの体を奮い起こす様に大きく全身を震わせ、咆哮する。
「ーーーー!!!!!!」
ーーブルームタイプビースト・ラフレイアーー
蔦が何本も絡まって精製された肉体の至る所に醜く垂れ下がった植物を想わせる突起物が突き出している。格子状の黄色い花冠はおおよそ花とは思えないほど歪な形をしていた。
「傷はまだ痛むでしょう?2週間前に出来た怪我なのにまだ治らなくて大変ですよね」
動き始めたラフレイアに向かってダークエボルバーを振りかざそうとすると、有働が煽るように話しかけてくる。貼り付けた微笑みが無性に腹立たしかった。
「何故私の事をいちいち把握しているんですか」
「その力を継ぐ物として当然の事です。姉さん、貴方のこれまでの戦いは全て見てました。どう拳を振るうか、どう蹴るか、どのタイミングで髪の毛を掻き上げるか、戦闘中何回呼吸するか……とかね。僕、その力を正しく行使する者として一生懸命頑張ってますから」
「気持ち悪い」
吐き捨てるように呟くが有働は一切余裕の表情を崩さない。
「ひどい言い様だなぁ。僕達やっぱり仲良く出来そうに無いですね……ってそんな事より早く何とかした方が良いんじゃないですか?ラフレイアは市街地に向かってますよ。姉さんが今この状況でどうやってAqoursの皆さんを守るのか、僕に見せて下さい」
彼はAqoursの事まで知っていた。バンピーラ戦で突然姿を現し、スペースビーストを自由に使役出来る(と思われる)、自分の弟を騙る謎の少年……疑問は尽きないが、今は彼の相手をしている暇が無いのは確かだった。
「……五月蝿い」
「無理だったら遠慮せず諦めて下さいね!姉さんが素直にその力を僕に引き渡すならすぐにラフレイアの破壊活動を止めさせますから!」
雑音を聞き流しながら今度こそダークエボルバーを空に向かって振り上げ、その身を黒い巨人へと変化させる。
【(成程な……確証は無いが…分かってきたぞ)】
ーーー
「おい!あれ見ろよ!何かおかしくないか?」
「煙……山火事か?」
ラフレイアの吐き出した毒ガスにより、近隣の住民はその異変に気づき始めていた。浦の星の屋上でPVの撮影をしていた千歌達も山の麓の景色がおかしい事に気がつく。
「ねぇ、宙先輩ってあの山に登ってスカイランタンの撮影してましたよね?……大丈夫なんですか?」
「宙ちゃん………よし、私達も行こう!」
千歌、ルビィの2人が校内へ続く階段を駆け降りようとした瞬間、件の山に稲妻が走り、紫の閃光が辺り一帯に迸る。
「何……今の?」
「ルビィちゃん」
動揺しているルビィの肩を千歌が掴んだ。
「やっぱり……あそこに行くのは止めよう?危ないから」
「そんな……先輩はどうなるんですか?危ないなら尚更誰かが助けに行かないと」
「そうずら!マル達だけでも」
宙のもう一つの姿を知らないルビィは、突然尻込みする千歌を見て困惑する。後から追いついた花丸も同様だった。
「上手くは言えないんけど、宙ちゃんなら絶対に大丈夫。私達がこれまで過ごせてこれたのも宙ちゃんのおかげだから。私達は私達に出来る事をやろう。警察呼んで、消防呼んで……きっと、大丈夫だから……」
「一体どういう––––––」
ルビィはそこまで言って気がついた。千歌の足が小刻みに震えている。まるで何か怯えているようだった。
ルビィが千歌に向かって手を伸ばそうとした時、突如千歌達が向かおうとしていた山が轟音と共に大爆発を起こす。
「嫌ッ‼︎嫌ぁぁァァァ!?」
半ば半狂乱になりながら頭を抑えてその場にへたり込む千歌。
「千歌ちゃん!大丈夫、大丈夫だから……」
駆け寄った曜・梨子が必死に千歌を落ち着かせようと抱きしめる。普段の彼女からは想像も無い程激しく取り乱す姿を見て絶句するルビィと花丸。
千歌は宙が変身して既に戦っている事を察していた。そして、宙が変身したという事はそこにビーストが現れたということ。
千歌はバグバズンに捕食されかけた時の恐怖がトラウマとなり心の中に残っている。わざわざビーストがいる場所に足を運べる筈が無かった。
ーーー
「グゥ…!」
追い討ちとばかりに発射された槍の如く鋭い弾丸
ーー
(やはり先に
タイミングを見計らって真横に跳び、攻撃の軸線をずらしながら両腕にある限りのエネルギーを込める。
(殺さなくては!)
牽制の為に軽く一射…などという悠長な事をするつもりは無い。最大火力で一気に灼き殺す。こうしている間にも有毒ガスがどんどん飛散しているのだ。時間をかけている余裕は無い。
【ッ‼︎…止めろ‼︎】
突然警告が頭の中に鳴り響く。
(え?)
【罠だ‼︎】
ファウストの警告も虚しく腕は正面に突き出され、拳の前に浮かべた光球がダークレイ・ジャビロームを形作る前に炸裂。敵に向かって放たれる前に大爆発を引き起こした。
(がっ……ぁ…)
爆風に飲み込まれ、肉を引きちぎられる程の激痛が全身を駆け巡り一瞬視界が真っ白になった。
(な………に…が)
「あらあら……光線技なんか使うから」
有働はその様子を見て口元を覆う。
「ラフレイアの振り撒くガスは可燃性……それも人間が吸い込めば炭化してしまう程の超高熱性です。下手に攻撃すると誘爆を引き起こしますよ」
ガス濃度の薄い場所で炸裂してこの破壊力。もう少し近い距離で光線技を使用していれば最悪街全体が吹き飛んでいたかもしれない。
最初から最大の切り札である光線技が封じられた状況に置かれていたのだ。
「オッ……ガァァア」
懸命に立ち上がろうとするが頭を持ち上げた途端地面に吸い寄せられるように突っ伏してしまう。
(立て……立て…ぇ!)
ラフレイアは地面を這い回るファウストを嘲笑うように何度も蹴り転がし、踏み付ける。その巨大な足がファウストの右足首を捉えた。
「◼︎◼︎◼︎◼︎ーー!?」
激痛により無理矢理意識を覚醒させられた
(まだだ‼︎)
光線が駄目なら徒手空拳とばかりに間合いを詰め連続で殴りつける。
(戦えるのは私だけなんだから…こんなところで絶対に死ねない!)
インファイトに持ち込んだ事で毒ガスの影響をモロに受けてしまうが、遠距離攻撃が封殺されている以上このまま殴り蹴り続けるより他は無い。
「ッ!」
足元から伸びてきた蔦を飛び上がって回避し、花冠を踏みつける様に蹴ってもう一段階大きく跳躍。追撃のシードミサイルを身を沈めて避けながらハイジャンプキックを叩き込む。
「ーーーー!!!!!!」
位置エネルギーを利用した攻撃を織り交ぜながら
「グッ…」
時間が経つ毎に増殖して迎撃する蔦を躱しきれず、やがて大きく殴り飛ばされてしまう。
(ぐあああ時間が…もう時間がない!)
これ以上戦闘が長引けばラフレイアの毒ガスが街に到達してしまう。
(な……!?)
手足が痙攣して思うように動かせなかった。有毒ガスを浴びながら戦闘を続けた影響が遂に現れ始めたのだ。
「もう満足に動けず、切り札の光線技は使えない。ラフレイアを倒す術を失った今、貴方に出来る事は何も無い。このままじゃこの街に住む人間は皆死んでしまいます」
「でも大丈夫。言ったでしょう?『無理だったら遠慮せず諦めて下さいね』って。姉さんにはまだ選択肢が残されています」
有働は指先を動かして指示する。これが最後通告だった。
「ラフレイアを止めたいなら変身を解いて下さい。そして僕に力を渡すんだ」
【………】
ラフレイアは
宙は奥歯を噛み締め、答えを出した。
「断る……信用できるわけない」
「……そうですか」
「残念です」
無数の蔦が槍の如く突き出され、
叫ぶ力も残っていないのか、断末魔は一切聞こえなかった。
「ま、こうなる事は大体分かってたんだけどね。さて、後は姉さんの遺骸からウルティノイドを回収するだけ––––––」
そこまで言って有働は気が付いた。
やがてエネルギーの奔流がドーム状に広がっている事を理解したその時、微笑みを浮かべていた有働の表情が大きく崩れ驚愕の色に染まる。
「嘘だ!姉さんがその技を使える筈がない!何で、何で……!?」
広がり行く暗黒の中心で何事も無かったかのようにダークファウストは立ち上がる。
「あ、貴方は姉さんにその力を託すんですか……!?」
ダークファウストを中心に生成された黒いドームは山一つ分を飲み込んだ所で一息に収束する。ダークファウストとラフレイア……及びラフレイアが撒き散らした有毒ガスは消え失せ、そこにはいつもの景色が広がっていた。
ーーー
宙が目を開くと、そこには赤黒い空に不気味な光が明滅する異空間が広がっていた。だが彼女はもう驚かない。この場所をよく知っているからだ。
(ここは……もしかして…)
【暗黒時空間ーーダークフィールド…以前私と貴様が雌雄を決しようとした場所だ】
いつものようにファウストの声が体の中から響いてくる。
【この空間内ではビーストの能力は飛躍的に向上する】
「ーーーー!!!!!!」
全身が更に禍々しく変化したラフレイアが空気を切り裂く音と共に蔦を伸ばす。
【そしてーーー】
【
まるで誰かに補助された様にスムーズな動きでバク転し、蔦を躱す。
伸ばされた蔦を右肘と右膝で挟み込み粉砕。先程まで全く動けなかった体が嘘の様に軽く、視界は明瞭に冴え渡っていた。
「ハアァァァ……」
地面を踏みしめ全傾姿勢を取ると筋組織が熱を帯び、地面が大きく陥没。砂煙が舞い上がった瞬間に体を前方に思いっ切り投げ出す。
「フッ‼︎」
初動の踏み込みから三歩目をついた瞬間……目の前の景色が歪んだ。
「は、はは……嘘だ」
目の前で暴風が巻き起こっている。黒い影がラフレイアを高速で何度も抜き去り、擦れ違う度にラフレイアの肉体は削り取られていく。
全方向に撒き散らされる弾幕は残像を突き抜け、本体には擦りもしない。上手くいくはずだった計算は外的な力によって大きく狂わされ、有働は乾いた笑い声を上げるより他なかった。
ばら撒かれる濃密な弾幕。視界が埋め尽くされそうになるほどの量だが当たらなければ意味はない。
(……っ!)
蔦、有毒ガス、シードミサイルの混成攻撃を軽く飛び退く事で躱し、ラフレイアの背後を取る。スピードを殺さないようにステップを踏み敵の死角からダイブ。フェイスクラッシャーの要領でラフレイアの花冠を勢い良く地面にぶつけ、ファウストのスピードに完全に制動が掛かるまでその巨体を引き摺り回す。
停止した時には既にラフレイアは原型をとどめていなかった。
撒き散らされる有毒ガスが届いていない距離まで退避し、もう一度最大火力の光球体を作り出す。
(さっきの……お返しです)
再びダークレイ・ジャビロームが放たれるがそれはこれまでのような光弾ではなく、その熱量を放射し続ける「光波熱線」へと変化していた。
熱戦は高濃度の有毒ガスに誘爆し、巨大な爆炎がラフレイアを飲み込んで跡形も無く崩壊した。
ーーー
「はぁっ……はぁっ……はぁっ…」
元の撮影していた場所に戻ってきた宙は人間の姿になるとその場に寝っ転がる。流石に疲労は残っているが、戦闘で生じた痛み、苦しみは一切無かった。そして何よりーー
「はぁ…………くっ……ふふ……あはははは!」
ダークフィールドの中で感じた恍惚感を忘れる事が出来ず、笑いが止まらない。
暗黒時空間・ダークフィールド。一度展開すると身体パフォーマンスが桁違いになる程向上し、光線技の破壊力も格段に上がる。その上周囲への被害を完全に抑える事が出来る……何て素晴らしい力だろうか。
ファウストとの同化もより深いものになった感覚がある。
「凄い……これなら私、もっと戦える」
「皆んなを守れる」
宙は、人知れず千歌達やTLTの皆が喜ぶ姿を思い浮かべた。
ダークフィールド……本当は使う予定はありませんでしたが折角個性ある技なので結局使う事にしました。
ラフレイアが本編と全く違う攻撃使ってる……