模造巨人と少女   作:Su-d

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前回登場したのはブルームタイプビースト
・ラフレイア。
ウルトラマンネクサスの第9・10話に登場しています。

人間が吸い込むとたちまち気化してしまうほどの超高熱性の花粉を武器にしてダークファウストの配下として彼と共にネクサスを苦しめていました。

この話ではダークファウストに倒されてしまいましたが…


25.凶兆

まどろみから覚め、目を開けるとそこにはビルや商店街が広がっていた。 馴染み深い景色……沼津の真ん中に私は立っていた。辺りの景色は薄暗く、まるでモノクロ写真を覗き込んだみたい。

 

まただ。この景色…知ってる。もう見たく無かったのに……何で?何でまた思い出させるの?

 

耳を塞いでしゃがみ込む。

目を瞑る事、1……2……3秒。数える間もなく塞ぎ込んだ耳の奥底に羽音が聞こえて来る。

 

「ーーーー!!!!!!」

 

「あ……あ…あ…あっあっあぁ…」

来る。来る。あいつが来る。大きな足音が近づいて来る。

脳裏にはっきりと映る歪な輪郭。目を閉じても幾ら耳を塞いでも逃れることは出来なかった。

 

 

「シェア‼︎」

突然、力強い声と地面を揺るがす衝撃が起きる。

 

 

暫くして恐る恐る目を開けるとそこに怪獣はおらず、代わりに変身した彼女が立っていた。

その姿に私は大きな安心感を抱く。

良かった。これまでも怪獣に飲み込まれる前に倒してくれたんだ。いつだって宙ちゃんは助けてくれる。いつだって私達のために……

 

幾らその体が黒くても関係無い。優しさに溢れる私の大切な友達ーー

 

「千歌さん!」

 

変身を解き手を振りながら宙ちゃんが駆け寄って来る。

安心して、嬉しくなった私も駆け出そうとした–––––––

 

 

あれ?……何か変…何でここには私以外誰も居ないの?

 

「つ か ま え た」

 

「あ……あぁ⁉︎」

突如宙の背後から現れた黒い触手のような何かが彼女の体を拘束し、体の自由を奪う。

 

「ッあ……ぐっ‼︎…な、何⁉︎」

宙は必死に振り払おうとするが、絡みついた触手は拘束を緩めるどころか更に彼女の体を巻き込んでいく。焦燥感が溢れ次第に歪み始める表情……決して逃れることは出来なかった。

 

「貴方のせいよ…貴方が私達に付き纏ってたから私はこんな姿に…千歌ちゃんに餌付けして貰っただけで何を勘違いしてるの?

ぜ ん ぶ 貴 方 の せ い な の に」

 

「やだ…やめてよ…何でこんな事」

何で?何で⁉︎開かれた暗闇の奥に立っているその顔は……私がよく知ってる人だった

 

「ぅあ……助けて下さ」

宙は背後に広がる闇の中に吸い込まれ始める。

 

「出来る限り苦しんでね」

刃物に似た何かが宙を刺し貫く。

 

 

私は何も出来なかった。

 

「あぁぁあぁぁぁぁぁァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

ただ声が漏れるだけ

 

それだけ

 

 

ーーー

 

 

 

「千歌さん‼︎」

 

「はッ!?」

揺さぶられる感覚で急速に現実に引き戻される。目を開けるとそこには心配そうな表情をした宙が千歌を覗き込んでいた。

 

「大丈夫ですか?随分魘されてましたけど…」

 

「うぅ……ん…宙ちゃん…」

千歌が手を伸ばすと宙はその手をしっかりと握りしめる。

 

「はい。私はここにいますよ」

 

「…うん。良かった」

 

「はい!」

 

「………」

 

「……何かあったんですか?」

 

「………」

怖かった。さっきのあれは夢だから、現実で起きた事じゃ無いからって割り切ることなんて出来ない。震えが止まらない。

 

いつもの調子からは想像出来ない程萎縮し、何かに怯えている様子の千歌。それを見た宙は、千歌のベッドに腰掛けその縁をさする。

「隣……失礼しても良いですか?」

 

「…うん。お願い」

 

「やった! では、失礼して…」

 

 

少し恥ずかしいけど、今日だけなら良いよね。宙ちゃんも何だか凄く嬉しそうだし…

千歌と宙は久しぶりに同じ布団で寝ることになった。

 

 

ーーー

 

 

暫く2人で同じ布団の中にいると、だんだんと心が落ち着いてきた。きっと宙ちゃんが何も言わずに隣にいたからだ。

「眠れないみたいですね」

じっと目を開けていると宙ちゃんが声を掛けてくる。

 

「どこか体の具合が悪いですか?」

 

「そんなこと無いよ⁉︎ただちょっとだけ寒くて…」

あんな不吉な夢の事なんて言えるわけ無い。でももし言わなかったら正夢に…いや、でもそんな事あるわけ… はぐらかしながらあれこれ考えていると、宙ちゃんが私の手を優しく掴んで寄り添ってきた。

 

「こうやってくっついてたら温かいですよ」

思わず宙ちゃんの顔と握られた手を交互に見つめると、宙ちゃんは目をぱちくりさせる。

 

「どうかしました?」

 

「ちょっと恥ずかしくて」

 

「誰も見ていませんよ。女の子同士だしきっと大丈夫です」

 

偶に宙ちゃんって凄い積極的になる気がするんだよね… やっぱりいくら強くても1人の女の子なんだ。誰かに頼ったり甘えたい時だってあるのかな?……でも私なんかが宙ちゃんのために出来ることなんて

 

戦いの合間を縫ってAqoursのマネージャーも一生懸命やってくれて。むしろ私がやってる事って……

 

「……? 千歌さん、やっぱり少し様子が変ですよ。何か無理してませんか?私で良ければ」

 

「1番無理をしてるのは宙ちゃんだよ」

 

「え…」

 

「私たちの為にいつも戦ってくれて…足だってまだ怪我してるでしょ?それでも私達の為に頑張ってくれて…心配なの。見えない所で迷惑を掛けてるんじゃ無いかって…私…私本当は…んっ⁉︎」

 

突然宙ちゃんが私の頭に手を回して抱きしめてきた。鼻いっぱいに広がる宙ちゃんの匂い……なんだろう?お香みたいな感じ…

 

「大丈夫です」

頭を撫でながら宙ちゃんは穏やかに話しかけてくると、不思議と心が落ち着いてくる。

「迷惑だなんて思わないで下さい。私が戦えるのは帰る場所…待っている人がいるからです。まだ少し短いかもしれないけど、皆さんと一緒に過ごし積み上げてきた時間が長ければ長いほど思いが強くなるんだって気付きました。楽しくて、温かくて。こんな素晴らしい毎日がまた送れるように戦って、守り抜く。こんな気持ちこれまで感じた事ありませんでした。全部……全部千歌さんやAqours、ここに住んでいる皆さんのお陰です」

 

「そうなのかな…?」

 

「そうです。絶対に」

 

宙ちゃんは力強く何度も頷くいている。……体が小刻みに揺れる度に胸が顔に…まぁいっか。

 

「それに私、これまで負けた事なんてありませんから。これからも絶対に負けません。だから安心して下さい。絶対に、大丈夫」

さらっと1度バグバズンに負けた事を誤魔化す宙。だが眠りに誘われようとしている千歌の耳にはもうはっきりとは届いていなかった。

 

 

 

優しい匂い…穏やかな声…宙ちゃんの胸の奥から聞こえてくる規則正しい鼓動の音。全部が重なり合って凄く心地が良い。何だかだんだん瞼が重くなってくる。

 

「大丈夫…大丈夫…大丈夫…」

 

ああ…お風呂入る時にも思ったけど、宙ちゃんやっぱり…結構……大き……く……なっ…………

 

「お休みなさい。千歌さん」

千歌の安らかな寝息が聞こえ出したのを確認すると、宙はゆっくりと瞳を閉じた。

 

 

 

  きっと、大丈夫

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

ーーフォートレスフリーダムーー

 

「始めて下さい!」

基地内では瑞緒の指示の元、ある演習が行われていた。

 

「管制プログラムSD Countrol data2 version.5」

 

「Countrol data2 version.5,level6,roger」

 

「Countrol data2 version.5,level6,roger. Selfcheck clear. All set」

 

画面内には3機の巨大な機体が表示され、それぞれが三角形を組むように並んでいる。

画面中央に「STAND BY」「OK」の文字が表示された瞬間、忙しなく飛び交い始めるナイトレイダーの状況報告。

 

「1番、2番、タービン停止。フェアリングシールド クローズ」

 

「レーザーキャノン リリース」

 

これまで幾度も研鑽を積んできたお陰か、彼らが行う情報伝達には一切の無駄が無い。

 

「チェスターα…コネクション」

 

管制が終わる頃、画面の中に表示された3機の機体は一つとなり、従来には存在しない全く別物の超大型戦闘機(・・・・・・)へと姿を変えていた。

 

 

「皆さん、お疲れ様です!」

程なくして演習は終了し、シミュレーションを終えた6人の隊員達に瑞緒が駆け寄る。

 

「素晴らしい合体管制でした!非の打ち所がありませんよ!」

 

「お褒めに預かり光栄です…しかし実際に飛んでみないと分からない事もあるでしょう」

「機体そのものが完成するのはいつですか?そろそろ彼女の力に依存しているのも心苦しく感じている所存ですが」

ナイトレイダーAユニット……TLTに所属している戦闘部隊の中でも最高峰の戦闘技量を誇る集団。人員不足で部隊内の入れ替わりが多い中、この隊だけは一切死傷者を出した事がない。まさしく精鋭中の精鋭……にこりともせず謝辞を述べる隊員達の、言葉の節々から醸し出される威圧感に瑞緒はたじろいでしまう。

 

「……それは…もう少し…」

「止めないか。俺たちは搭乗させて貰う身なんだぞ…言葉を慎め」

隊長・和倉がやんわりと言葉を嗜める。

 

「……すみません。皆さんの気持ちはよく理解しています。機体はもう間も無く完成するのですが、急遽新たな戦闘システムが導入される事になり…い、今皆さんに丁度やって貰っているやつです。このセットアップが終わり次第、完成した機体から順次配備される予定ですので…どうか今暫く…」

 

「期待しています。どうか宜しくお願いします」

和倉が一礼して立ち去ると、他の隊員もそれに倣う。

 

「はぁ……怖いよ」

ドアの向こうに隊員達が消えていくまで深いお辞儀を保っていた瑞緒は、やがて大きく溜め息をついた。

TLTに勤め始めてはや一年。対異星獣研究機関の主任を任されたり、お偉いさんとの会議に出席したり…多分そこそこな出世スピードなんだと彼女自身自抱してはいるが、とにかく、中々組織の雰囲気に馴染めずにいた。

 

「ここにいる方々って何でこんなに目がギラギラしてるんですか…」

私に緊張感が足りないだけなのでしょうか……いやそんな事はないはず!私だって一生懸命頑張って!技術班や研究員の皆んなを纏めて、上層部や隊員の方々の要望に精一杯応えて……板挟みってこんなに辛い事なんですね…さっきだって

 

瑞緒は心の中でうんうんと唸る。つい愚痴が口から漏れてしまった。

 

「……これじゃあ何だか借金の取り立てに対応してるみたいです」

 

「先日のラフレイア戦では俺達は何も出来なかった。皆大型ビーストとまともに戦えないこの状況が悔しくてしょうがないんだろう」

 

「わひゃあっ‼︎」

突然さっきまで誰もいなかった後ろから声が聞こえ、瑞緒は飛び上がる。仰天しながら振り返るとそこには1人の男が立っていた。

 

「驚かせてしまってすまない。兵器開発員として少し聞きたい事がある」

 

「い、石堀さん…」

石堀光彦さん。ナイトレイダーとしてビーストと戦いながら研究員としても活動しておられる超が付くほどのエリート。確か元々『来訪者』との共同研究もやっておられたはず…でも、私が知る限りこの人が最近一番殺気立っているというか、ピリピリしてるように見えます。ああ…私、この人も苦手です…

 

 

 

ーーー

 

 

 

「戦闘用不連続時空間・ダークフィールドか…」

 

「はい。ビースト…コードネーム・ラフレイアとの戦闘において宙さんが発現させた能力です。私達は今後、この空間内で戦う機会が必然的に増えてくると判断し、急遽α・β・γ機の連結プログラムを導入する事になりました。ジェネレーターを融合させる事で出力を大幅に増強・亜空間への突入が可能になります。詳しくは…」

 

説明しようとする瑞緒を石堀は手で制する。

「そこから先は俺もよく知っているからいい」

 

「は、はい…」

 

「俺が聞きたいのは何故以前と比べて昨今の兵器開発がかなり速いペースで進められているのかという事だ」

 

「!」

 

「搭載する武装の問題がまだ山積みだったはずだ。それが1週間足らずで解消出来るとはどうも考えにくい。一体誰の差し金だ?誰が情報を提供した?」

事実、数年掛けても芳しくない成果しか見せていなかった新鋭戦闘機・チェスターに関わる研究は、ここ最近になって突然目覚ましい発展を遂げていた。

研究員は皆予想以上に開発がスムーズに進んでいる事に歓喜していたが、どうも不自然である事に変わりは無い。

 

「じ、実は私もそれが一番疑問で…」

 

「すまないがあんたの嘘に付き合っている暇は無い。チェスター開発の総指揮を取っているあんたがこんな事を把握していないわけがないだろう?」

石堀が距離を詰めてくると瑞緒は大慌てで手を振る。

 

「本当です!信じて下さい!本当に何も知らされてないんですってば!ただ……」

瑞緒は周囲に誰もいないのを確認するように視線を彷徨わせると、小声で石堀に耳打ちする。

 

「あんまりこんな事考えたくないんですけど、最近ここ(TLT)で不穏な動きがあるんですよ。この前宙さんに処置を施そうとした時も何者かに機械に変な細工を仕込まれまして…」

 

「……何だと?」

 

「イラストレーターは、上層部が秘密裏に宙さんの体を調べ、得られたデータをそのままチェスターやその他の兵器開発に流用してるんじゃないかって考えてるみたいなんです。今お話しされていた武装の件も……私はそんな事信じるつもりは無いですよ!上層部が本当にこんな事やってるんだったら最悪組織内で対立が起こりかねないじゃないですか…ねぇ?」

 

「し!あまり大きな声で話すな!……あいつらまた馬鹿な真似を」

 

「え?」

 

「とにかく、あんたは今言ったことを絶対に他の人間に漏らすな。最悪、あんたの身に何が起きるか分からんぞ」

 

「わ、分かりました……ってあれ?もしかして石堀さん、何か知ってるんですか?」

 

「邪魔をした」

石堀は何も答えないまま去っていった。

 

 

「一体何がどうなってるんです?」

後には疑問が募るだけ。

 

「主任、そろそろ時間です。移動された方が宜しいのでは?」

 

「あ、うん!すぐ準備するから!」

 

「それからこちらに戻ってきた時、イラストレーターが貴方に用事があると仰っておられました。連絡しておいて下さい」

 

「フォーメーションについて纏めた資料、3時間後に送るので目を通しておいて下さい」

 

「主任、その後少しお時間頂けますか?」

 

 

 

 

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁ忙しい‼︎」

彼女に考え事をする余裕は無きに等しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー沼津・マンションーー

 

「こんにちは、宙さん。そしてお久しぶりです。突然ですが、私は最近あんまり元気ではありません」

 

「………一体何があったんですか?随分とやつれて見えますけど」

久しぶりに瑞緒に近況報告を行う為、会う約束をしていた宙は、TLTが宙の為に用意したマンションの一室で瑞緒と待ち合わせをしていた。宙がこの部屋を利用するのは以前千歌・梨子・曜と一緒に泊まり込みで作曲をした時以来である。

 

部屋に入るや否や視界に飛び込んで来たのは机に突っ伏してこちらの様子を伺っている瑞緒の姿。心なしか目の下に随分と隈が溜まっているように見える。

宙が苦笑すると瑞緒は力無く笑う。

 

「ちょっと最近詰め込んでいて……でもここ最近で得た成果は貴方にとってはきっと良い報せになるはずです…じゃなきゃ困ります」

 

「な、なるほど…それは有難い事ですね!……私も瑞緒さんに報告する事があるんです」

 

「分かりました。じゃあ、始めましょうか……と、その前に」

 

「?」

 

「もし良ければ宙さんにマッサージをお願いしたいのですが…何だか凄く疲れてしまいまして」

 

「え、マッサージですか?」

宙は思わず目を丸くする。最初に出会った時乱暴に振る舞ってしまいそれからずっと警戒されているものと思っていたが、体に触れて良い程までに信頼してくれていたなんて。少し……いや、かなり嬉しかった。

 

「駄目でしょうか…?」

 

「そんなわけ無いじゃないですか。是非、やらせて下さい」

宙は笑いながら腕を捲る。

Aqoursの皆にやっているもので良いだろうか?あんまり得意では無いが、一生懸命心を込めれば大丈夫な筈。

 

 

「じゃあベッドに寝そべって下さい。楽な体勢で大丈夫ですので、このまま…瑞緒さんの『良い報せ』を聞かせて下さい」

 

「あ゛い ぃ^〜〜〜」

嬌声混じりの返答が聞こえる。満足して貰えたようだった。

 

 

ーーー

 

 

 

瑞緒が宙に今TLTで行われている研究の事を分かりやすく伝えると、次は宙がラフレイアとの戦闘やその時出会った謎の少年について報告する。

 

「有働貴文…⁉︎彼はそう名乗ったのですか?」

 

「はい。蜘蛛型のビーストと戦った時も私に接触してきました。『自分の方がダークファウストの力を使いこなせる』みたいな事を言ってやたらとウルティノイドに執着しているように見えました…彼は一体何者なんですか?」

 

「私も全く分かりません…しかし、『有働貴文』という名前を私は知っています」

 

「え?」

 

「私の知る限り…有働貴文という人間は12年前に起きた『新宿大災害』で既に亡くなっているんです」

 

「何ですって…⁉︎」

 

「彼は私達にとってもかなり危険な存在です。宙さん…やはり貴方は今暫くTLTで過ごした方が良いかもしれません。……貴方が1人で戦うにはリスクが大きすぎます」

TLTを本拠地として、ナイトレイダーとの連携がとりやすい状態で戦った方がまだ安全だと主張するが、宙は首を横に振る。

 

「私の身を案じて頂けるのは嬉しいですが、私が内浦を離れたら誰もあそこに住む人達はビーストの脅威から逃れられなくなります。私が守らないと……あの場所でAqoursの皆んなや住民を守る事が、私の今やらなくてはいけない事なんです」

 

「ですが…」

 

「大丈夫です!私、ファウストのお陰で新しい技を覚えましたから。何か、ダークフィールドの中で戦うと、いつもの3倍くらい冴えた動きが出来るような感じで……なんて言うか、こう……誰にも負ける気がしないんです」

宙にしては珍しく、かなり自信に満ち溢れた様子でそう断言する。

 

「待ってください!自信を持つ事と油断する事は意味が違うんですよ。ダークフィールド……非常に強力な能力だということに間違いは無いと思いますが、慣れない力を過信しすぎるのは危険です」

 

「重々理解しています。あの植物型のビースト戦った後も何回も試し、成功させてきました。瑞緒さん達がこの力の事をよく調べられるよう研究の協力も惜しむつもりはありません。ですからお願いです……私をこのまま千歌さん達の側に置かせて下さい」

揉み解していた手を離し,宙は瑞緒に向かって深々と頭を下げる。

これだけは絶対に退けなかった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

ーーフォートレスフリーダムーー

 

「はあぁ……一体どうすれば良いんでしょう」

 

「彼女の様子はどうだった?」

取り巻く状況は目紛しく変わり、決断する事も段々と難しくなってくる。彼女の要望を尊重すべきか否か……考え込む瑞緒の前に若い男性のホログラム––––––イラストレーターが現れる。

 

「元気そうでした。学校生活も随分と充実しているみたいです。でも彼女の身の回りが中々安全とは言えない状況で………」

 

「やはり今1番の問題は『ラファエル』か」

 

「はい……でも彼女は凄いですよ」

瑞緒は先程見た宙の様子を思い浮かべて言葉を紡ぐ。

 

「知らない男から2度も命を狙われているのに一切弱音を吐いたりしないんです。それどころか『皆んなをもっと守りたい』って言っておられました」

そこまで言って瑞緒は1つ大きく息を吐き出した。

 

「もし宙さんの産みの親がご存命であるのなら教えてあげたいです。『貴方の娘さんは立派に頑張っていますよ』って……行方不明なんですけどね」

 

「………」

 

「それで、何でしょう?私に用事って」

瑞緒はイラストレーターに向き直る。

 

「君が高海宙とこれからも関わる上で、伝えておかなければならない事がある」

 

「伝えておく事……?」

 

「着いてきてくれ」

 

「……?」

突然の事に戸惑いながらも瑞緒はイラストレーターの後を追う。いつもは利用しない、フロアの最上階へと続くエレベーターに乗り幾つものセキュリティを潜り抜け………辿り着いたのは壁を埋め尽くす程大量の電子機器に囲まれた薄暗い部屋だった。

 

「やあ。生身の肉体で会うのは初めてかな?」

部屋の奥には先程まで同行していたホログラムと全く同じ姿をした若い男性。

 

「ほ、本物のイラストレーター⁉︎」

仰天する瑞緒を他所に、イラストレーター –––––吉良沢優はすぐ真後ろに設置された巨大な水槽へと歩を進める。

 

「突然で悪いけど、彼らが何だか分かるかい?」

彼が指し示す先にいるのは、水中を泳ぐクラゲの様な生き物。瑞緒が見たままの答えを出すより先にイラストレーターは話し始める。

 

「今君が見ているこの生物は、元々M80さそり座球状星団で生活していたんだ。……名は『来訪者』」

 

 

 

「彼らこそ、先程君が言っていた……高海宙の産みの親なんだ」

 

 

 




来訪者については5話の冒頭で触れています。良ければそちらを確認してみて下さい。

そして、何度も言わせて頂きます。話が進むテンポが遅くて本当にすみません。
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