模造巨人と少女   作:Su-d

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ごめんなさい……短めだし見ようによってはあまり中身のない話かもしれません


27.殺戮都市 2

終わった–––––––––––

 

頭が真っ白になり、しばらくの間硬直していた梨子。我に帰るまで一体どれ程の時間が経っただろう。ショックから立ち直った彼女の顔は一瞬にして赤く染まった。恥ずかしい。このまま灰の様に消え去ってしまいたい……心の内でほろほろと涙を流しながら床に散らばった本に手を伸ばそうとする。

 

そこでようやく気が付いた。

 

「」

宙も同じようにその場で固まっているのだ。

 

(こんなもの見られて……私やっぱり宙ちゃんに幻滅されちゃったんだ……)

梨子が顔を伏せると同時に宙も赤面しながら顔を背ける。2人は同時に散らばった本に手を伸ばし、躊躇うようにもう一度胸元に引っ込めた。

 

「…ん?」

鏡と対面しているのかと思う程全く同じ動作。

 

(ていうか、私が買おうとしてた本ってこんなに多かったっけ?)

明らかに多い……というより手に取った覚えのないものまである。表紙のイラストを見るに、ジャンルは似ているが明らかに違った。

 

わ、私のです……

消え入りそうな声と共に宙がそれらを拾い始める。

 

「あー……え?」

さっきまでの羞恥心はいつの間にか消えていた。代わりにあるのは僅かな親近感。もしかして彼女も…

 

梨子はいそいそと本を拾い始めた。

 

 

 

 

 

 

ばったり出会った手前、また別れて自由行動するのも気が引けるので、店から出た2人は側に設けられたベンチに座った。一息つくと、ちらりと横を見て互いの様子を伺う。

「「あ、あはは…」」

……気まずい事この上ない状況だった。

 

「……梨子さん」

 

「な、何かしら?」

 

「こうゆうのっておかしいんですかね?」

雑踏を眺めながら宙はぼんやりと呟く。両手で抱え込んでいるのは同人誌が入った鞄。やはりどうしても買わずにはいられなかったのだ。

 

「どうかしら…でも絶対にダメなんてことは無いはずよ」

 

「でも、梨子さんとばったり会ってしまった時凄く恥ずかしかったです」

 

「うん。私も」

 

「手に取った時も何故か後ろめたさがありました」

 

「うん。私も」

 

「幻滅されたらどうしようって思いました」

 

「うん。凄く分かる」

そこまで言って梨子と宙は互いに顔を見合わせる。

 

「なんだか…」

 

「ちょっと似てるよね。私たち」

2人は揃って笑い声を上げた。

 

「そうですね」

こんな事で話が合ってもどうしようも無い気がするが、取り敢えず最悪の事態を免れた事は確かだった。

 

「ねぇ、宙ちゃん。この事は」

 

「はい。私たちだけの秘密…ですね?」

 

「うん。そうして貰うと助かるな」

梨子は引き攣っていた表情はようやく元に戻り、話を切り替えるように両者を叩いた。

 

「…よしっ!じゃあ折角だし一緒に色んな所見て回ろっか。私も一応東京育ちだし宙ちゃんに色んなとこ案内できるかも」

 

「はい!」

2人は揃って歩き出す。心なしか以前よりも距離が近くなったように感じられた。

 

「……そういえば宙ちゃん、憧れると言うか…好きなシチュエーションは?

「……壁クイです」 

 

2人は無言で固い握手を交わすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梨子と一緒に行動する事で、1人で歩いていた時よりも大分心に余裕が生まれた宙の目には様々な物が飛び込んで来る。やっぱり都会は凄い。数歩歩くだけでどんどん景色が目紛しく変わっていくのだ。

煌びやかな電気街。奇抜ともいえる服装を格好良く着こなし歩き回る人々。何でも入っているカオスな自販機。梨子はこんな場所で生活していたと思うと畏怖の念すら抱いてしまう。幼い頃、訳も分からず都会で乞食生活をしていた自分が恥ずかしかった。*1

 

「皆んなで集合するのは夕方頃ですし、お昼ご飯も各自で食べてって事なんでしょうか?」

 

「あ、お腹すいたの?」

 

「い、いえっ!別にそういう訳ではなく…」

ついこぼれてしまった言葉を取り消すように慌てて口を覆うと、梨子は微笑みながら頷いた。

 

「丁度お昼頃だし……何処かで食べていこうか。宙ちゃんは何食べたい?」

 

「私は梨子さんの好きな物で……」

宙の言葉は届いていないようで、顎に人差し指をあてながら梨子は真剣に考えている。

 

「宙ちゃんの好きな食べ物っていったらやっぱりカレーかな?」

 

「ちょ、ちょっと……」

 

「私たちの絆を繋いだ思い出深い食べ物だしね!」

 

「〜〜ッ‼︎も、もうっ!あんな事忘れて下さい!」

2人で観光してからというもの、彼女のペースに乗せられてばかりな気がする。宙は恥ずかしさを紛らわすようにそっぽを向いたーーーその瞬間何かが視界に引っかかる。

 

「ん……?あれルビィさんですよね?あんな所で何してるんでしょう?」

 

「! あれは…‼︎」

指さす方向に目を向けると、ルビィが2、3人の男に絡まれていた。彼女の顔は青ざめており、男達はそんな彼女を取り囲むように立ち馴れ馴れしく話し掛けている。どう見ても非常に良くない状況だ。

 

状況をいち早く理解した梨子が叫ぶ。

「ナンパよ‼︎」

 

「!? 行きましょう‼︎」

2人は弾かれたように現場に向かって駆け出した。

 

 

 

 

「ねぇ君、こんな所1人で歩いてたら危ないよ?俺達と一緒に回らない?大丈夫。俺、金たくさん持ってるから欲しい物何でも買うよ?」

 

「あ…あぁ…」

 

「怖がられてるじゃねえか。お前ほんとヘタクソだな」

 

「いいからちょっと黙ってろよ」

 

(ど、どうしよう…手、掴まれてるから動けない…)

 

「服凄い似合ってるね!もっと可愛い服買ってあげる!」

 

「ピッ⁉︎」

(た、助けて……お姉ちゃん)

 

「「ルビィちゃん(さん)‼︎」」

よく聞いた事のある声と共に2人の少女がルビィと男達の間に滑り込んで来る。

 

「ちょ、何あんたら?」

 

「こんな所にいたのね?随分探したんだから」

 

「怪我は無いですか?」

 

「せ、先輩……‼︎うぅっ!」

思いも寄らない助けに、全身の緊張が抜け安心のあまりルビィは2人に飛びついた。梨子はルビィを抱き寄せると男達の方に向き直る。

 

「彼女は私達の友達なんです。これから一緒に行く所があるのでこれで失礼します……何ですか?」

そのまま踵を返して歩き出すと男達はその先に回り込んできた。喜びに満ち溢れたその表情に、梨子も宙もたじろいでしまう。

 

「うわめっちゃ可愛い!君たちこの娘の連れ?」

 

「俺達3人だし丁度人数揃ったじゃん」

 

「一緒に遊んでこうよ!」

右に行こうとすると右に、左に行こうとすると左に……まるで反復横跳びするようにしつこく絡んでくる。

 

((……やっぱり怖い…‼︎))

近くで見ると皆背が180cm以上ある。自分達を見下ろす目には明らかに好奇と(よこしま)な感情が宿っている。周りの人はこちらに目もくれず、このままでは切り抜けられそうに無いのは火を見るよりも明らかだ。

 

(どうしよう……こっちから手を出したら過剰防衛になっちゃうかな?)

咄嗟に拳を振るって切り抜ける事が思い浮かんだが、こんな所で警察沙汰になれば梨子やルビィが明日のライブに支障をきたしてしまうかもしれない。それに何より……彼らはビーストじゃない。普通の人間を殴ったり蹴ることなどどうしても出来なかった。

梨子とルビィを守るように立ち必死に考えを巡らせる宙を他所に男達は話を進める。

 

「そろそろ13時だしご飯行こうよ。俺達金あるから何でも奢ってやるからさ」

 

「……ご飯を奢る、ですか?」

 

「ちょっと宙ちゃん!?」

 

「勿論!君たちは一切払わなくて良いからね」

 

「分かりました。良いですよ」

 

「マジ⁉︎よっしゃあぁぁぁ‼︎」

 

「宙ちゃん!何考えてるの⁉︎」

宙は血相を変えて詰め寄る梨子の肩に手を乗せ、微笑みを浮かべる。

 

「私に任せて下さい。梨子さんもルビィさんも多分遠慮しなくて良いですよ。言質はしっかり取りましたから」

 

「……え?」

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

 

バクッ!ムシャムシャモグモグ…ゴクッ…ズルズルズルゥ……ズバババババ‼︎

 

「」

目の前で、自分達よりも小柄な少女が机から溢れんばかりに並べられた大量の料理を次々と口の中に収めていく姿を見て男達は絶句する。

長くなっていくレシートに表示された金額がどんどん悲惨な事になり男達の顔は青ざめる。

 

「おいアンタどんだけ食うつもりだ!」

 

「んぐっ… まだまだ全然いけますよ?頑張ったらもっといけます」

 

「頑張らんでいい‼︎」

 

「お金、一切払わなくて良いんでしたよね」

 

「ギャアァァァァァァァ!!!!!!」

店内に絶望の叫びが響き渡る。

 

「宙ちゃん……」

 

「先輩っ!」

梨子は引き気味に笑い、ルビィは頼もしそうに彼女を見つめていた。

 

 

 

「ごめんなさい…食べ過ぎました…」

宙が空腹を満たす頃、男達は微動だにせずただ茫然とレシートに目を向けていた。その焦点も既に合っていない。

 

天井に届くのではないかと思うほど高く積み上げられた皿。宙の基準がバグっている事を嫌が応にも思い知らされる。

 

「やっぱり私が食べた分は私が払います…」

 

「いや、いいんだよ。もう……もう良いんだよ」

全て奢ると啖呵を切り、結果やっぱり払うからと心配される始末。彼らはプライドがズタズタになる直前に最後の見栄を張った。

 

「気をつけて帰ってね……」

そのか細い声を聞き本当に申し訳なくなった宙は自分の財布を開く。

 

「あ……」

だがその中身に入っているお金でも払える物では無い事に今更ながら気が付いてしまう。ならばせめてもと彼女は中にある札束を全て彼らの机に置き、梨子・ルビィと共に店を立ち去るのだった。

 

 

 

 

 

 

「これで良かったんでしょうか…」

 

「うん。あの人達もこれに懲りてナンパなんて辞めると思うよ。…にしても凄かったわね。宙ちゃんの胃の中にはブラックホールでも入ってるのかしら?」

 

「あはは……太ったらどうしよう」

そうは言うものの、彼女の腰回りは食べる前と一切変わっていなかった。梨子は宙の胃の中には本当にブラックホールがあるんじゃないかと疑ってしまう。

 

「先輩、助けてくれて本当にありがとうございました」

ペコリと宙にお辞儀するルビィ。その笑顔を見て彼女の為になった事だけは実感する。もっとも、ただひたすら食べていただけだったが。

 

「そうね。私もルビィちゃんも宙ちゃんのおかげで助かったわ。ありがとう」

 

「ルビィさんも私達と一緒に回りませんか?さっきみたいな事が起きるとも限りませんし…3人いれば心配無いですよ」

 

「そうですね…お願いします!」

ルビィはそう言ってしっかりと宙の手を握った。これで3人……なんだかメンバー集めをしているみたいだ。

 

「よし!折角3人揃ったんだし……ショッピングモール行こうよ!洋服とかたくさんあるし好きな服お互いに選んで買うなんてどうかな?」

梨子の提案を聞いたルビィが瞳を輝かせる。

 

「良いですね!是非行きましょう‼︎」

 

「あ……でも私、さっきので殆ど使っちゃって」

宙はそう言って小銭しか入っていない財布を見せる。

 

「大丈夫!ルビィが払います!」

 

「いや駄目ですよ⁉︎」

 

「大丈夫です!」

言われるがままに手を引かれていく。ルビィの楽しそうな顔を見るともう何も言うことが出来なかった。

 

*1
第6話参照




ウーラーかお前は

今週中にもう1話更新できたらなと思っています
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