模造巨人と少女   作:Su-d

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遅くなってしまいすみません!



28.殺戮都市 3

 

 

「……あれ?」

目を開けると、寝起き特有の心地良い感覚と共に賑やかな声が聞こえてくる。日は少し傾き、昼間と比べると通行人も少なくなっていた。半日ずっと人混みに揉まれながら歩き回っていたせいか、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

 

(戦ってる時の疲れとは全然違うなぁ…)

内浦の田舎の生活と雰囲気にすっかり馴染んでしまった事を改めて実感する(こすも)。隣に目を向けるとルビィも静かな寝息を立てている。

 

「あ、目が覚めた?」

両手に飲み物を抱えた梨子が駆け寄ってくる。

 

「梨子さん…ずっと起きてらしたんですか?」

 

「うん。2人に飲み物買ってきたよ。喉乾いたでしょ?」

 

「わわ、わざわざありがとうございます!」

全然疲れてなさそうな様子の梨子。やっぱり都会育ちの人はこの程度の人混みは何とも無いようだ。

 

「どういたしまして。はい、これ––––––」

 

 

見つけた

 

あいつだ

 

 殺 せ

 

 

 

刹那、容器が地面に落ち、中から溢れ出した琥珀色の液体が宙のワンピースに大きな染みを作った。

 

 

 

 

ーーフォートレスフリーダムーー

 

モニターに表示された波形が跳ね上がり、基地内にサイレンが鳴り響いく。

 

「ビースト振動波確認‼︎ ナイトレイダーにスクランブル要請‼︎」

 

「場所は?」

 

「!? ……東京の中心部です‼︎」

 

「何だって!?」

 

「80体以上の反応が見受けられます。おそらく人型サイズです。……今もなお増え続けています」

その場にいる全員に激しい動揺が走る。無理もない。これまである一例を除いて(・・・・・・・・)首都圏にビーストが現れた事は無かったからだ。と言うより、あってはならなかった。

 

 

「ポテンシャルバリアが機能していない……来訪者の限界が近いのか?」

TLTはビーストによる人的被害を極力避けるために、人口密集地である都市部には『ポテンシャルバリア』と呼ばれる結界を張っていた。これが機能しなくなるというのはビーストが全国至る所を自由に攻撃できる事と同義。危機的状況に他ならない。

 

「ミカエルとの連絡が取れません!」

 

「何をやっている!彼女は内浦にいるんじゃないのか?ウルティノイドの力を行使すべきはこの時だろうに‼︎」

 

「『ラファエル』が現れたとみて間違い無いでしょう。彼のこれまで通りミカエルを狙っているのなら、ミカエルもそのエリアにいる可能性が高いですね」

 

状況が逼迫する中、イラストレーターはナイトレイダーにある指示を出した。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

「うわ⁉︎せ、先輩?」

 

「宙ちゃん!いきなりどうしたの⁉︎」

 

宙は何も答えること無く梨子とルビィの手を引いて走り続ける。

いくら走っても宙は全く止まろうとしない。それどころか手を握る力が強くなり、どんどんスピードが速くなっていた。

 

ちらりと宙が一瞬後ろを振り返る。これまでの彼女からは想像もつかないほどその表情は焦燥感に溢れていた。梨子もルビィも言葉を失う。

 

(も、もう息が……)

だが、もう呼吸が間に合わず、梨子もルビィも膝を折りそうになる。

 

「っ……失礼します!」

宙は梨子と真っ青になっているルビィを担ぎ上げると、さっきまでとは比べ物にならないスピードで走り出した。

 

「「わぁぁぁぁ‼︎」」

抱え込まれた2人は目を回しそうになる。

 

 

それが良くなかった。

 

3人の体重を乗せたまま全力疾走する負荷に耐え切れず、宙が履いているサンダルの紐が千切れてしまう。

 

「う––––––!?」

バランスを崩し、大きく前につんのめる宙。その瞬間、後ろから迫る2つの影が彼女の隣に並び左右から彼女の両腕を掴んだ。

 

「ぐ…!」

「「きゃあぁぁぁ‼︎」」

 

一瞬で3人の体が宙に浮き、近くに積み上げられた段ボールの塊を薙ぎ倒しながら吹っ飛ばされる。

 

 

「ルビィさん……梨子さん!」

 

「大丈夫…」

「うう…何…怖い……」

2人とも特に目立った外傷は無いのは奇跡に近い。宙は咄嗟に彼女達の前に滑り込み、いきなり襲ってきた者へと目を向ける。

 

 

長い黒髪

 

こいつだ

 

この女だ

 

ようやく、見つけた

 

すぐ殺せ 

 

こいつは邪魔だ

 

そうだ殺せ 

 

殺せ

 

殺せ

 

殺せ

 

殺せ

 

殺せ

 

殺せ

 

殺せ

 

殺せ

 

 

 

 

「ひっ……」

見た目はどう見ても普通の人間。そのはずなのに皆目が異様にギラギラしている。同じ言葉を譫言のように繰り返す彼らの顔からは生気が抜け落ちていた。

 

(有り得ない…何で全力疾走したのに追いつかれるの⁉︎)

 

足を止めてしまった間に襲撃者の数はどんどん増え、あっという間に宙・梨子・ルビィの3人を建物の壁際まで追い詰めてしまう。

 

「止まれ!」

尚も間合いを詰めてくる襲撃者達に向かって宙は声を張り上げた。

 

「それ以上近づいたら警察呼びますよ!」

 

一瞬、襲撃者達の動きが止まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あははははははははははァ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

が、それもほんの一瞬。

宙の大声に触発されたのか、1人の男が奇声を上げながら突っ込んできた。

 

「くっ!」

宙は咄嗟に足を振り上げ前蹴りを放つ。

 

(こうなったら、多少怪我させてでも––––––)

宙の狙い通り放った蹴りは男の鳩尾に突き刺さる。が、男は一切怯む事なくその足を両手で掴んだ。

 

「え?」

 

そのまま持ち上げられ、地面に叩きつけられる。

 

「あ゛ッ!?」

背中の激痛を感じる間も無く、今度は反対側の建物目掛けて投げ飛ばされる。

 

「宙ちゃん‼︎」

「いやぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

「ぅあ……」

ガラス張りの壁を突き破り、飲食店の机や椅子を巻き込みながら投げ飛ばされた勢いは強引に止まる。店内の人が血相を変えて駆け寄ってくるが、宙はその手を払って叫んだ。

 

「駄目です…ここから逃げて!」

多分、テロか何かだ。ここにいたら皆んな殺される。

 

言い終わる間も無く突き破ったガラス張りの壁から謎の襲撃者達が殺到。真っ直ぐこちらに突っ込んでくる。何故か他の人間には一切目も向けない。

 

(狙いは私だけ⁉︎)

反射的に体を起こし、天井に備え付けられたシャンデリアを掴むように跳躍。集団の頭上を飛び越える。

大通りへと飛び出した宙は、一瞬後ろを振り返ると追跡してくる襲撃者を殴りつけた。

 

「ーーっ!」

拳に伝わるその生々しい感覚に顔を顰めながら、今度は体勢を低くしてこちらに向かってくる別の1人の足元に潜り込む。敵は足を取られて大きく転倒。その後ろを追随していた集団はドミノ倒しのようにバタバタと倒れていった。巻き込まれる前にその場から素早く離れた宙は先程殴り飛ばした男の背後に回りその首を思いっきり締め上げる。

 

「落ちて––––––‼︎」

しかし、締め落とすより先に残りの集団が四方から飛びかかりその場から離れざるを得なくなってしまった。

 

(くそ……一体どれだけいるの!?)

人間とはいえ、あまりにも数が多すぎる。そもそも何故人間同士で争わなければならないのか。相手が相手なだけに宙は中々力を使う事が出来ない。

 

 

「宙ちゃん血が!早く逃げよう‼︎」

 

「駄目です!この人達の狙いは多分私……私が何とかしないと‼︎」

 

「わけわからないよ!何で宙ちゃんが⁉︎」

 

「いいから、梨子さんはルビィさんと逃げて!人間相手に遅れはとりません!」

梨子と押し問答していると襲撃者の1人が襲いかかってきた。宙は敵の襟首を掴み、片腕を巻き込んで背負い投げる。

 

「あはッ」

しかし、敵は脱力して自ら投げ飛ばされると同時に空中回転しながら軽やかに着地。人間離れした身体能力で受け流されてしまった。

 

「強い……痛⁉︎」

歯軋りしていると頰を何かがつたった。瞬間激しい痛みが生じ、頰を拭った手が赤く染まる。

 

(顔を切られた?でも刃物も持ってないのに何で⁉︎)

敵がこちら振り返ると同時に宙は言葉を失う。

 

「惜しいなァ……あとちょっとで目玉潰せたのにィ…」

敵の腕は肥大化し、指先の爪は刃のように長く伸びていたのだ。

 

「そんな……」

 

「ひっ!」

久しぶりに目の当たりにしてしまった(・・・・・・・・・・・・・・・・・)その姿に、梨子もルビィも短く悲鳴を上げる。

 

1人が形を変えたのを皮切りに、襲撃者達は次々と体の一部を肥大化・変化させ、瞬く間にそれらは異形の集団となった。

その醜悪な見た目……見間違う筈もない。

 

 

「スペースビースト……‼︎」

まだダークファウストの力の事を知らないルビィがすぐ側にいるのも忘れ、宙は目の前の敵にダークエボルバーを向ける。

 

(敵が貴方達なら容赦しない‼︎)

ビースト群目掛けて閃光が瞬いた。

 

「ぃギャアァァァァァァ‼︎足がァ‼︎だれか、だれかたすけでぇ!」

 

放たれた真空衝撃波動弾はビーストの一部を吹き飛ばした。激痛に悶え地面を転げ回るビースト。他の個体ほど体は丈夫ではないようだ。急所は外してしまったが。

 

……いや、外されてしまった(・・・・・・・・)

 

 

「早とちりは良くないなあ」

 

「⁉︎ お前……!」

ダークエボルバーを握っている右手を掴み、こちら射線をずらした者の姿がそこにはあった。

 

「目に見える物だけが全てじゃないと……TLTの奴らは教えてくれなかったみたいですね」

 

「有働…貴文‼︎」

 

「ようやく名前で呼んでくれましたね」

その声に頭痛を覚えながらそれを睨みつけるが、彼は飄々とした態度を崩さず逆に笑い返してくる。

 

「死ぬ程嬉しいですよ、姉さん」

しかし、血走ったその瞳から溢れ出すは狂気。作り笑いをしているのはもはや隠しようがなかった。

 

「僕と戦う前に彼らを倒して下さい。一応、僕の配下ですし……で・す・が」

 

(この男……なんて力なの…⁉︎)

掴まれた右手は岩のように硬く握りしめられ、まるで動かす事が出来ない。有働はその血走った瞳を身動きが取れない宙の顔に近づけ話を続ける。

 

「彼らを1人でも殺せばその瞬間姉さんは『人殺し』になっちゃいますけどね」

 

「どういう意味……?」

 

「言葉の通りですよ。彼らは正真正銘ただの人間です。少しだけ手を加えさせて貰いましたが」

有働が目を向ける先には体の一部が異形と化した襲撃者達。今は薄ら笑いを浮かべたままその場に留まっている。

 

「下らない嘘を吐かないで!あれのどこが……ビーストが人間に化けているだけでしょう‼︎」

 

「なら何故姉さんのビースト感知能力は途中まで彼らに反応しなかったんでしょうね?」

 

「……!」

 

「途中で言ってましたよね。『人間相手に遅れは取らない』とか何とか。姉さん、途中まで彼らを人間だと思って殺さないように手加減してた癖に酷い変わりようじゃないですか」

 

「……私は…」

有働はそこまで言ってにやりと笑うと宙の手を離し、宙の攻撃範囲外まで素早く飛び退く。

 

「いや、こんな事言ってもしょうがないですよね。見た感じ姉さんなら余裕で彼らを倒せそうですし。まぁ彼らにも一生懸命頑張って貰いましょう………おーーい!皆さん!」

有働は襲撃者達に向かって叫ぶ。

 

「姉さんを殺した方には特別に元の人間に戻れる権利をあげますよ‼︎千載一遇のチャンスです!さぁ頑張って!」

 

刹那、襲撃者達は一斉に宙目掛けて走り出した。

 

 

ーー ビーストヒューマン ーー

 

 

殺せ!

 

(彼らはビースト……人間じゃない)

 

俺が先だぁ!

 

(ビーストは倒すべき敵…)

 

邪魔だ!退けぇ!私はもう一度––––––

 

(ビーストを倒して…私が皆んなを守る……それが)

 

「キャハハハハハァッ‼︎」

 

(私が今やるべき事なんだ……‼︎)

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

宙は絶叫しながら右腕を一閃し、1番最初に突っ込んできたビーストヒューマン……幼い少年を殴り飛ばす。石畳を握り潰し細かな礫を作ると残りの集団に向かって投擲。怯んだ隙に地面を転がった先程のビーストヒューマンにのし掛かりダークエボルバーを振りかざした。

 

「あはハハハハハハ‼︎いだい!いだいよぉ‼︎」

心臓部をひと突きしたのにそのビーストヒューマンは死なず、発狂しながら抵抗してくる。

 

「あァァァ‼︎」

 

(奴はビースト……奴はビースト‼︎)

敵の首を抑え付け、何度もダークエボルバーを胸部に突き立てようとする。返り血が飛び、顔にかかる。……いつしかルビィを手当てした時に嗅いだ匂いと同じだった。

 

 

ーーーふと、地面に組み伏せたビーストヒューマン……少年と目が合う。

 

 

………ろして…お願い…おねぇ……ん

その目から溢れた一筋の水滴が少年の頬を伝う。

 

(ビーストは……て……き………)

 

 

ガッ‼︎

 

宙はダークエボルバーが地面に思いっきり突き刺さした。

そしてビーストヒューマンを精一杯抱きしめる。

 

「……できっ……ないよぉ…こんなの……」

言葉にしてもどうしようもない筈なのに……それでも言わずにはいられなかった。

顔中血と涙でぐちゃぐちゃになりながらも宙はワンピースの裾を引きちぎって少年の胸に当てがう。

 

「ごめん……ごめんね……!すぐに止めるから‼︎」

 

しかし、背後から髪の毛を掴まれ少年に向けて伸ばした手は空を切った。

 

つかまえたぁ!

 

殺せ……殺せぇ!

 

そのまま地面に引き倒され、無数の拳が、足が打ち付けられる。何度も、何度も殴られ、蹴られる。

 

「あぐッ⁉︎がはぁッ!?うげぇッ!?」

 

(力を……早く……!)

 

……駄目だ。ここで巨大化すれば周りの人間、建物皆んな巻き込んでしまう。

 

(せめてこの大きさのまま変身が出来れば……‼︎)

 

ぐしゃっ 

 

「ぎゃあァァァァァァァ‼︎」

踏みつけられた右手から鈍い音が響く。

 

 

「アハハハハ‼︎見ていますかファウスト!貴方が選んだ器はこんなにも脆い‼︎人1人殺せない臆病者がァ!これで分かったでしょう!姉さんはウルティノイドの器に相応しく無いッ‼︎僕こそ……僕こそが本当の正しい器なんです!待っていて下さい。すぐに迎えに行きますからね」

有働は嬲られ続ける宙を見て嘲笑する。彼の言うように、宙は幾ら体に幾らビーストヒューマンに痣や裂傷を刻まれようとも、もう彼らと戦おうとしなかった。

 

 

 

 

(痛い……痛い…いたいイタいイタイイタイイタイ‼︎)

 

視界がだんだん暗くなり、意識が遠のいて–––––––––––

 

 

 

 

もうやめてよ!!!!!!

 

 

 

 

何かが激しく輝き、宙に覆い被さっていた影がさっと退く。代わりに伸ばされた手が宙を優しく抱え込んだ。

 

「宙ちゃん!……もう止めてよ!宙ちゃんが何したって言うの⁉︎何でこんな酷い事を……‼︎」

梨子だった。彼女は決死の覚悟で物陰から飛び出し、傷付いた宙を庇いながら有働を睨み付ける。その瞬間、また小さな光が彼女の胸元でスパーク。ビーストヒューマン達を大きく後退させた。

 

 

「今のは……!?」

ビーストヒューマンのみならず、有働も大きく目を見開く。

 

「何……?今の……」

光を発現させた梨子が1番状況を飲み込めていない様子を確認すると、有働は目を細めて梨子を見据える。

 

 

「……僕だって意味もなくこんな事をやっているわけではありません。全ては僕に課せられた使命を果たすために……彼にもう一度命を……その為にはウルティノイドの力がどうしても必要なんですよ」

 

「意味が分からない……いや、分かりたくもない。私は、宙ちゃんをこんなにしたあなたを……絶対に許さない」

静かな声だが、その語気には明確な敵意と怒りが含まれていた。

 

再びピリピリと帯電するように梨子の胸の中で小さな光が迸る。

 

 

 

「出来る限り無関係の人間は殺すつもりはありませんでしたが……そうも言ってられないようですね」

 

梨子にビーストヒューマン達の視線が集中する。

 

 

邪魔するなら、お前も殺す

 

こっちは人間の女か?

 

うまそうだナァ……

 

四肢を引き裂いてから食ってやる

 

 

その血走った目に射竦められ、梨子は恐怖で足が震え立ち上がることが出来なくなってしまう。

 

「来ないで‼︎」

無茶苦茶に腕を振り回すが、先程の光は消え失せ再び輝く事は無かった。

 

 

 

「悪い芽は摘み取らねばなりません」

有働の合図と共にビーストヒューマンは一斉に2人に群がった。四方八方より殺到する鋭利な爪。戦いを経験した事が無い梨子と、既に満身創痍の宙にそれらを避ける術は無い。

 

「……ッ‼︎」

梨子は恐怖から逃れるように目を瞑り宙を抱き寄せる。

 

 

(何が……絶対に負けない……だ……今、何も出来ないのに……)

 

 

 

 

 

 

 

【馬鹿が】

 

 

 

 

 

 

 ぐしゃり。

 

 

 

「???」

 

 

ビーストヒューマン達の爪が2人を切り裂こうとした瞬間、解き放たれた赤黒いオーラが彼らの胴体を高速で通過。両断された胴体が周囲に撒き散らされる。

 

「……何で」

先程まで何も出来なかった少女が、躊躇なくビーストヒューマンを惨殺し有働は驚愕の表情を浮かべる。

 

「元人間のビースト……殺せない兵隊か。面白い。確かにこれならこの娘(・・・)は手が出せまい」

 

「この小娘に限った話だが」

 

「……宙……ちゃん……?」

梨子は戸惑いの声を漏らす。いきなりの人格豹変……揺らめく黒髪の隙間から覗く口元は不気味な微笑みを形作っている。

そして、目が合った瞬間梨子は確信した。これは彼女……高海宙ではないと。

 

「むぐっ!?」

突然それに首を掴まれ、無理矢理引き寄せられた。

 

「感じる……お前の中に忌々しいあの光を……」

口角が吊り上がり、端正な顔が不自然に歪んだ。

 

「復活の時は近いようだな」

 

「違う!宙ちゃんじゃない……あなたは誰!?宙ちゃんに何したの!?」

 

「喜べ……お前は特別だ。力を発現するその時までは殺さないでおいてやる」

 

「何を言って……!?」

会話がまるで成り立たない。梨子は目の前に立つ少女に底知れぬ恐怖を覚え、それ以上何も言えなくなった。

 

 

「へえ……なぁんだ。姉さん、さっきまで猫被ってたんですね。それが本性なんだ。だったらもっと早く見せて下さい……よッ‼︎」

刹那、有働の体が揺らめき一瞬で宙に肉薄。背を向けている彼女目掛けて拳を引き絞る。

 

「失せろ。目障りだ」

死角からの一撃……だが宙は首を捻ってその拳を躱し、顔の横を空振った腕を掴んだ。

 

「げはァ!?」

景色がひっくり返って顔面にアスファルトがぶつかる。投げ飛ばされた––––––理解するより先に今度は紫色の光弾が有働の腹を貫く。

 

「ぐああぁ……」

足を旋回させて拘束から逃れた彼はその場から大きく飛び退いた。

 

「有り得ない……何なんだその力は!?」

 

「何か勘違いをしているようだな…私に肉体の半分を譲った(・・・・・・・・・)この娘はもうここにはいないというのに」

自らを指差して宙はそう告げる。

 

「……!」

その意味を次第に理解していき有働の目は大きく見開かれていく。

 

 

「しかし、ようやく自由に動けるようになって最初の敵がこれとはなぁ……雑兵にもならんが」

 

「奴と戦う前の余興にはなるだろう」

宙……否、彼女の体を纏った魔人、ファウストは目の前の敵に暴威を奮う。

 

 

 

 

 

 




うう……やっぱり前回との温度差が凄い

ていうかここまで書いてこんなに進みが悪いのはほんとにすみません

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