模造巨人と少女   作:Su-d

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一年以上間を空けてしまい本当にすみませんでした。

ずっとこの話を出して良いものか悩んでいました。
沢山の方に読んで欲しいのですが、梨子ちゃん推しの方は閲覧を控えた方がいいかもしれません‼︎

時間を空け過ぎたので先ずはあらすじから!



33.暗転

 

◇◇◇

 

最下位。投票数 0。

東京で開催されたスクールアイドルワールドの大会において、Aqoursは残酷な結果を突き付けられた。打ち拉がれる彼女達に対して掛ける言葉も見つからず、(こすも)は罪悪感に苛まれる。

 

自分が皆を戦いに巻き込んでいなければ–––––

もし、戦いが終わり皆を守る必要が

無くなったら–––––

 

(私はここにいて、本当にいいのかな……?)

 

人間がビースト化した敵・ビーストヒューマン。

梨子に宿りかけている光の力。

 

幾つもの混乱の最中、かつて無い脅威が襲来する。

ラフレイアの死の楔に体を蝕まれている影響もあり、宙は梨子に襲い掛かろうとしたノスフェルを取り逃したまま力尽きてしまった。

 

同時刻、TLTの地下に拘束されたラファエルも新たな動きを見せる。

 

ウルティノイドへの変身はもってあと1回。

その終わりは近い。

 

◇◇◇

 

 

ーーフォートレスフリーダムーー

 

 

声を張り上げ過ぎたせいで喉が潰れ、思うように声が出せない。固い壁に背を預け、そのまま崩れるように乱暴に座り込む。

やり場の無い怒りをぶつけるように靴の踵を強く打ち付けると、かつん、と堅牢な室内で乾いた音が虚しく響いた。

 

コマンドルーム・戦闘指揮所・中央コントロールルームから遠く離れ、隔離された棟に拘置所は存在した。

鋼鉄壁に覆われた無機質なその部屋に繋がれた瑞緒は、力無く頭を両膝に埋める。 

 

「ッ……ごめんなさい……」

 

レッドトルーパーと名乗る新鋭特殊戦闘部隊によってナイトレイダーは全員軟禁され、自らも独断でレッドトルーパーに通信妨害を行い宙の逃走に手を貸したために閉じ込められてしまった。

 

彼女と共に戦ってきた者は今、誰も動けない。

 

「どうか、無事で…」

宙の身を案ずる言葉しか吐き出せないこの状況が、どうしようもなく悔しかった。

 

『その様子だと規律違反を省みるつもりはなさそうだな』

天井に備えられたスピーカーから無機質な声が響く。瑞緒の拘束を命じた男の声だった。

 

「ええ。何度だって言います。貴方達のやり方は間違ってる。宙さんも、レッドトルーパーが勝手に管理下に置いているあの子も危険過ぎる!何を起こすか分かりませんよ⁉︎」

 

『君に下された処分を伝える』

取り合うつもりは無いと言わんばかりに男の声は淡々と続く。

 

『これまでの任は全て解き、君にはレッドトルーパーのCICに転属してもらう。もう人工生命体、あの被験体達に関わる必要は無い。記憶処理の施術を受けて貰う』

 

「狂ってる……!」

 

『これらの手続きは10分後に始まる。準備したまえ』

 

「もういい‼︎」

壁に拳を打ち付けると、瑞緒はモニター付近に備えられた監視カメラを睨み据えた。

「そうまでして私達を追い詰めたいなら、私だって手段は選ばない!私が持ち得るTLTの全てのデータを各国の主要機関に流します。当分、ここは機能しなくなりますよ」

 

『愚かな…スペースビーストを野放しにして世界を滅ぼす気か』

 

「どの道、宙さんの力無しにこの世界を救う事は不可能です。直ぐに宙さんの追跡から手を退いて下さい。…あの子も事も」

 

暫しの沈黙の後、モニターから返ってきたのは嘲笑と残酷な報せだった。

 

『先程先遣隊からミカエルを無力化、拘束したと報告が入った』

 

「え…⁉︎」

 

「既に彼女はレッドトルーパーの管理下にある。今の君に脅迫まがいの交渉を突き付ける目的は残っていない』

如何に戦闘に特化した隊とはいえ、レッドトルーパーを構成するのは人間。直接戦闘でウルティノイドに敵うはずがない。となれば、捕まった宙の状態がどれ程深刻かは想像がつく。

 

「そんな…宙さん…」

 

『世話係をやっていたのはせいぜい君くらいだったからな…その権利はある』

強い意志が込められていた瑞緒の瞳に翳りが見えた時、叩き付けるように言い放たれた。

 

『彼女に言い残す言葉はあるか?』

 

 

 

ーーー

 

 

 

「先遣隊の帰還を確認。車両・人員共に出撃時と変化ありません」

 

「よし、ゲートを開け」

 

ミカエル捕獲の報告を受けてからレッドトルーパー先遣隊が戻ってくるまでは短かった。

TLT内部へと続く車両用通路の扉が開かれると、大型トレーラーが雪崩れ込む様に次々と入り込んでくる。

 

「先遣隊、帰投。ミカエル護送中にビーストヒューマンの襲撃を受けるも被害は軽微。死傷者無し」

 

「……ああ」

激しい戦闘跡か、それとも荒い運転をしたのかーーー付近に停められたトレーラーは幾つも破損していた。出迎えた守備隊の歩哨は怪訝な目を向けるが、現状報告した男は気にする様子も無く黙っている。

 

「捕獲したミカエルはここに」

運ばれてきたのは人1人収まるほどの大きさの頑丈なコンテナ。その小窓を開いて中を確認すると、気を失って横たわっている少女の姿があった。一応、目的は果たされているらしい。

 

「よし…先程の戦闘報告を急げ。車両の収容はこちらでやっておく」

 

「その前に補給を」

 

「は?」

 

「補給を。腹が減った」

 

「…ふざけているのか?」

先遣隊の男達は瞬きもせずこちらを凝視し続けている。何かを咀嚼している者もいる。彼らは何も答えない。居心地の悪い静けさがその場を支配する。

 

「とにかく、直ぐに指揮所に向かえ。良いな?」

じわじわと湧き上がってくる強烈な違和感を振り払い、歩哨達はそれ以上彼らに構わず停車させてある車両に向かった。

 

「何なんですか、あいつら…?まるで人が変わったみたいに」

「知らん。余計な事を考えるな…うッ⁉︎」

 

トレーラーに近づいた歩哨達は一斉に口元を抑える。鼻を突いたのは強烈な血の匂い。先遣隊を載せていた車両後部のコンテナからだ。

 

(彼らは死傷者は居ないと言ったはず…一体何が?)

 

コンテナの扉をこじ開けたその瞬間、

 

「!?!?」

「うっ…おえぇぇぇぇ‼︎」

 

一面に広がる血の海とそれに沈む肉塊。ズタズタに引き裂かれた隊服から唯一分かるのは、その骸が人間のものであるということだけだ。

 

「おい!何なんだこれ———」

振り向き様に放った言葉は瞬く閃光と幾つもの銃声に遮られた。間もなく歩哨達はその場に全員倒れ伏す。

近付いてきた男はそれを無造作に蹴って転がし、絶命している事を確認すると大きな溜息を吐いた。

 

 

 

「はぁ……腹が減った

 

 

 

 

 

 

 

 

「"トロイアの木馬"——古代ギリシアにおけるトロイア戦争の逸話です。兵を潜ませた巨大な木馬を敵の城塞に運び込ませ、9年もの間攻略出来なかった城塞を一夜の内に陥落せしめた………言葉くらいは耳にした事があるんじゃ無いでしょうか」

 

「まぁ些か信憑性に欠ける話ですし、敵を内懐に自ら招き入れるなんて馬鹿な話が現実にあるわけ無いと思っていましたが」

 

「貴方達は僕が思っていた以上に馬鹿だったようです」

有働(ラファエル)は生え揃ったばかりの手足の調子を確認するように動かしながら周囲を見渡す。自らの体を弄り回していた連中は見るも無惨な姿となり、床に折り重なって絶命していた。

 

「さて、大将首を取りにいきましょうか。アレ(・・)を使うのはその後です」

 

「楽しみにしてて下さいね、姉さん」

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

 

 

後退する。撃つ。走って再び後退する。

陣形を組んでいた周囲の人員は次々に斃れ、失せていく。

 

「ッ…構え‼︎」

暗闇の向こうから迫る獣のような息遣いに銃口を向け

 

「撃て‼︎」

発破。

 

「撃て、撃てーッ‼︎」

「あと少しで3番ゲートだ!そこで追撃を振り切る!持ち堪えろ‼︎」

レッドトルーパーの生き残り達は無我夢中で味方だった者(・・・・・・)に弾丸を浴びせ続ける。

 

返礼とばかりに今度は向こうから銃弾の雨が降り注いだ。

 

(くっ…ビースト化しただけでも厄介なのに武装持ちなんて…)

 

血を撒き散らすレッドトルーパーに、ビーストヒューマンと化したレッドトルーパーが群がり押し倒す。

絶叫する仲間を尻目に、生き残り達はその数を更に減らして避難経路へと避退する。血で地面が滑り、足を取られた者が暗闇へと引き摺り込まれていく。

 

「うわぁぁぁ!?」

恐怖で本能的に引き金に手を掛けてしまい、敵ばかりか味方までも流れ弾に巻き込まれていく。縺れ合いながら逃げる彼等の眼前に見えるは一際頑丈な装甲で覆われた区画——唯一の希望だった。

 

「3番ゲート、見えました!」

「よし、飛び込ーーー!?」

だが、開閉扉は彼らを待つことなく作動。

 

「おい‼︎まだ俺達が残ってるんだぞ‼︎開けろ‼︎」

誰1人入ることが出来ずに閉じ切ってしまった。

CICにコンタクトを取ろうにも通信機からは何も返答が無い。

 

「開けろ、開けてくれ‼︎うわぁあああ‼︎やあだぁぁぁぁ‼︎開けて‼︎開けてぇぇぇえぇ‼︎」

降ろされたゲートから何度も響く衝撃音と悲鳴、断末魔。

一瞬で真っ赤に染まり、やがて静かになった。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

「基地の各所からビースト振動波を感知…尚も広がり続けています!」

「守備隊から救援要請!」

「車両格納庫、占拠されました!」

次々に舞い込んでくる凶報に、レッドトルーパーの戦闘指揮所は浮き足立っていた。

「隔壁閉鎖急げ‼︎敵を分断してから体勢を整える」

「まだ退避区域で生存者が戦っていますが…こちら(CIC)が退避誘導をするべきでは?」

「構わん!現場判断に任せろ。敵を更に内部へ侵入させると面倒だ」

 

「切り捨てる判断だけ速いのは相変わらずですね」

 

「!?」

突然床が弾け飛ぶ。穿たれた穴から飛び出した影が軽やかに部屋の中央へ降り立った。

 

「や、お久しぶりです」

軽く手を挙げて挨拶するラファエル。

 

「馬鹿な⁉︎お前はもう瀕死の状態だった筈…何故動ける⁉︎」

レッドトルーパー達はその姿を見て目を剥いた。TLT上層部が集う区画に乗り込まれたのは敵に心臓を曝け出したという事に他ならない。

必死に壇下のラファエル目掛けて銃撃を繰り出した。

 

諢帙♀縺励>謚ア縺榊ッ?○縺溘>

 

が、ラファエルの前に突如として出現した青黒い穴が濃密な弾幕を全て飲み込んでしまった。

と同時にラファエルは奪っていた拳銃でレッドトルーパーを弾き、沈黙させる。

 

「裏切り者が…何なんだその力は?何故平気で命を奪う?」

 

 

「僕を欠陥品だと定めて棄てたのはそちらでしょう?これまでの不始末だって記憶改竄で全て無かった事にして逃げ続けて…それで被害者面ですか?情けなくてこっちまで悲しくなる」

ラファエルは冷え切った目で狼狽する男達を見据える。

「これは、貴方達人間が積み上げてきた欺瞞を打ち砕く真実の力です。そして新しい世界の始まり」

 

「待て、止めろ‼︎」

指を打ち鳴らす乾いた音が響くと同時に、CICの天井が決壊。無数の触手が真上から雪崩れ込んでくる。

 

「永遠に、さようなら。そして———地獄に落ちろ」

 

広く薄暗い空間を覆い尽くす触手の群れは、次々にTLTの参謀やレッドトルーパーを捕らえ、その出所である青黒いゲートへと引き摺り込んでいった。

 

「ぎゃあああああ!?」

「やめ…体…つぶ、れァ」

「がはっ‼︎ごぽッ‼︎」

凄まじい拘束力で体を締め上げられ、苦悶に満ちた叫びが木霊する。

大勢の人間が次々に宙吊りにされていく異様な光景を、触手に取り込まれながら司令の男は呆然と眺める。

 

「やはり、ウルティノイドもお前らも存在してはならなかった…闇に支配される世界など長くは持たん!私は間違っていな」

メキメキと音を立てその体は弓なりに仰け反り、動かなくなった。そのままCICにいたTLT上層部全員が青黒い穴に呑まれ、後に残ったのはただ1人。

 

「最後の言葉にしてはつまらなかったですね」

ラファエルはさして興味も無さそうにその場から立ち去った。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「こちらレッドトルーパー守備隊!現在敵の攻撃を受け退避中も、開閉扉が全て閉鎖されており身動きが取れない!死傷者多数!CICからの指示を請う!………CIC!どうぞ‼︎………くそっ…何故誰も応答しない⁉︎」

 

「先遣隊が全員ビースト化していたとして、その兵力は約300…対して我々は残り13人…もう一度交戦すれば間違い無く全滅だ」

 

「加え残弾も僅か…どうしますか⁉︎副隊長‼︎」

戦闘区域に残された彼らは尚、その数を減らしながらも撤退を続けていた。指揮する筈の隊長が最初に撃たれ、仲間も散り散りになり、それでも上層部直々に組まれた特戦隊であるという矜持が、彼らの戦意を繋いでいた。

 

「残った火力で開閉扉を破壊できませんか?」

 

「扉は対ビースト用特殊装甲で出来ている。そう簡単に破壊は出来ないし、仮に上手く破壊できたとしてもその先に同じゲートが何重にも張り巡らされているんだぞ?音を聞きつけた奴らにそこで追い込まれてしまう」

 

「じゃあどうしたら…!?」

もっとも、その戦意も既に風前の灯火と言うべき状態だったが。

 

「もうこいつは棄てていく」

ミカエルを積んだコンテナを音を立てないよう床に降ろされる。決死の思いで運んできたコンテナも、敵の銃撃からの弾除けに使った事でもうボロボロになっていた。

 

「これ以上はもう邪魔にしかならない。ビーストに喰わせておけ」

捨て置いたコンテナから手を離すと、パリッと帯電するような音が鳴った。

 

「…何だ?」

刹那、紫電が迸りコンテナは粉々に弾け飛ぶ。

 

「ッ!?ミカエル再起動!撃て‼︎」

極限状態におかれたレッドトルーパー達は、麻酔弾に切り替える事もせずディバイトランチャーを構える。飛び出した黒い影が空中で身を翻し、レッドトルーパー達と対峙するような形で着地。

 

【コオォォォォ…】

 

「うっ…ッ⁉︎」

華奢な少女が纏う殺気では無かった。拘束マスク越しに放たれる呼吸音とこちらを睨め付ける眼光。レッドトルーパーの残党は全員その場にへたり込んでしまう。

後ろ手に組ませていた枷が弾けるのを皮切りに、宙は全身に取り付けられた拘束具を易々と破壊。拘束具の下からは赤と黒のツートンの体、壊れたマスクの割れ目から鉄仮面が現れる。

 

誰1人動ける者はいなかった。相対して初めて認識させられる底知れぬ恐怖。四肢が言うことを聞かず、カタカタと無意味な震えを繰り返す。

 

ダークファウストは片手を突き出して光球を生成し、動けずにいるレッドトルーパー目掛けて投射。目の前の邪魔な物を排除する。

 

【…!】

 

筈だった。

しかし、光弾が放たれる瞬間に腕が明後日の方向を向いてレッドトルーパーから大きく逸れる。何度撃ってもそれは変わらない。まるで何かが抵抗しているかのようだった。

 

 

【まだ抵抗できるか…死に損ないが】

ファウストは射撃を止めると目の前で震える邪魔な1人を裏拳で叩いて退かし、及び腰で逃げようとしている守備隊の副隊長の男に迫る。

 

「ひぃっ!?」

肘から先を動かしただけの最小限の打撃で、轟音を上げながら壁に叩きつけられた味方を見て男は悲鳴を上げた。その口内に自らの爪先を捩じ込んでファウストはそれを遮る。

 

【あの小僧…ラファエルとか言ったな 奴は何処にいる?】

 

「ん゛ぅぅうッ!?」

 

【力加減は苦手なんだ】

マスク状の無機質な口部の端が吊り上がる。

【喋れる内に答えろ】

 

「ん゛ー‼︎ん゛ぅぅぅぅ!!」

脅迫めいたその言葉に恐れをなして男は涙ながらに何度も頷く。

ウルティノイド及びその変身者の抹殺の為編成された上層部直属の精鋭部隊は、今や見る影も無い程に瓦解していた。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

「う……ん……?」

いつの間にか気を失っていたらしく、体を起こそうとしてすぐに周囲の様子がおかしい事に気付いた。

 

「暗…焦げ臭い…何で?」

周囲は暗闇に包まれており、何かが燃えて燻ったような匂いが鼻をつく。手探りで床を探ると、硬い石のような何かに幾つも触れる。

 

「ん〜〜?」

まじまじと目を凝らすと、手元やコンクリート片が散乱している床が朧げながらに見えるようになってきた。どうやら失明した訳ではなさそうだ。

自分を勾留していた部屋は何故か半壊しており、天井に幾つも亀裂が入っている。

 

「…!」

フォートレスフリーダムが襲撃を受けた事を察して声を上げそうになるが咄嗟に踏み止まった。

 

(今なら抜け出せるかも…!)

 

 

「よし…!えいッ‼︎」

拍子抜けするほど扉は簡単に蹴破ることができ、瑞緒は足早に外に飛び出した。

 

瑞緒が隔離されていた区画は棟のほぼ最上階で、屋上に登ればフォートレスフリーダムの全貌を見渡すことができる。何か起きているのか自分の目で確かめる必要があった。

追手がくる気配は無い。瑞緒を閉じ込めていた部屋のすぐ近くに絶命したレッドトルーパーの歩哨が数人倒れていたのみだった。手を合わせた後比較的損傷の少ない遺体から装備一式を借り受け護身用にしているが、どこまで役立つかは分からない。

 

意を決して壊れたリフトに足を掛け、屋上へとよじ登るとまず見えたのは黒煙が立ち上る空。

 

 

「そんな…⁉︎」

視界いっぱいに広がった惨状に息を呑む。

 

「フォートレスフリーダムが…燃えてる」

 

「良い眺めですね」

唐突に背後から掛けられたその言葉に、弾かれたよう振り返る。

 

「塵と肉が焼ける匂いは素晴らしい…そうは思いませんか?」

対スペースビーストの最高傑作。遠い星の者達が残した希望。

そして、こちらの一方的なエゴでそれらを全て断たれた少年。

 

変わり果てた姿がそこにはあった。

 

 

「エルくん…」

瑞緒は両手で顔を覆いながら悲しげにそう呟く。

 

「ああ、思い出した。懐かしいですね、その呼び名」

今のラファエルは体の殆どが獣化したような外見で、その表情すら伺う事は難しい。

 

「コードネーム・ラファエル…だから"エル"。安直すぎでしょ。まぁ、単純で軽薄なところは人間皆同じですが」

 

「私達が貴方にした事が許されるわけがない。でも無関係な人達まで巻き込むのはやめて」

 

「僕は人間が嫌いです。あんな腐り切った奴らが上位概念としてのさばるこの世界が心底嫌いです。その人間を駆除するスペースビーストと共に、人間を殺す…それが僕の使命です」

 

「人間全てがこんなわけじゃない…確かに嫌な奴とか、目を背けたくなる事だってあるけど、貴方に寄り添う人だっていた!私だって…!」

凶刃を向けられて尚、瑞緒は怯まずに言葉を掛ける。

 

「知ってますよ。貴方が名前を付けて呼んで話してくれたのも悪い気はしなかった。だからこそ、嫌な奴の下で身を削るのが哀れでしょうがない。そういうのを人間って役割から解放してあげないといけないんです…かつて"ザ・ワン"がやったように」

 

「何を言ってるの…?」

困惑する瑞緒を他所に、話は終わりだと言わんばかりにラファエルはじりじりと瑞緒に近づいてくる。

咄嗟に腰のホルスターに手を伸ばす瑞緒を見て、ラファエルは落胆するように目を伏せた。

 

「どんなに綺麗事言っても、最後は暴力に頼るしかない…そう言うところがウザいんですよ」

 

「私だって貴方とは戦いたくない。でも止めないと…責任まで捨てるわけにはいかないんです」

 

「戦いたくないのなら早く楽になりましょう」

今のラファエルにまともに取り合う気は無きに等しかった。

 

 

【ここにいたか 死ね】

 

「おっと!」

直上から迫る殺気を察してラファエルは素早く飛び退いた。

対峙する2人の間に割って入るような形で黒い影が落下。土煙の奥でそれは静かに起立する。

その姿を見てラファエルは顔面を喜色に染め、瑞緒の顔は強張る。

 

「宙さんじゃない‼︎今の貴方は…!」

砂塵を吹き飛ばしてダークファウストの姿が露わになった。

 

「あの炎に巻き込まれる筈が無いとは思いましたが、それでも無事で良かったです、姉さ——」

ラファエルの言葉を遮るように繰り出された蹴りがその腹を捉え、大きく後ろに吹き飛ばされる。受け身を取って立て直したラファエルの眼前に殺到するのは無数の弾幕。

 

「半(ビースト)化して尚避けるのが困難な打撃、そしてこの圧倒的な殺傷能力‼︎」

自身のすぐ側を通過した光弾は施設の外壁を撃ち砕き、後方に聳える山々を大破・炎上させる。反撃すら許されない。 今の自分では到達出来ない極点。

 

「やはりウルティノイドの力は凄い!是非…僕も欲しい‼︎」

爆風を掻い潜って前方に転がり込み、その姿を見据える。

 

「!?」

が、攻撃の主はもうそこには居ない。刹那——

 

「きゃあぁぁぁ!?」

ラファエル目掛けて落下する巨大な剛拳。一瞬でその身を巨大化させたファウストの一撃はラファエルどころか別棟の拘置施設をも半壊させ、2人のすぐ側にいた瑞緒も無数の瓦礫に巻き込まれる。

 

「今はもう少しだけ我慢します」

巨大化したファウストから少し離れた位置に着地したラファエルは静かにそう呟く。

 

「これ以上の戦いはお互い不毛でしょう。この場所は、全力を出すには余りにも狭すぎる。それに、今僕が戦うのは貴方じゃない。貴方の中にいる方です(・・・・・・・)

指し示す様に自らの胸元に人差し指を当て、挑発するように首を傾げるラファエル。

 

「聞こえてるんでしょ、姉さん?瀕死のとこ悪いですけど、貴方の通信端末には既にある地点の座標が送ってあります。そこまで来て下さい」

喋りつつ、ラファエルはゆっくりと屋上の端まで後退っていく。淡々と放つ言葉に対して、その瞳一瞬宿ったのは凄まじい悪意の感情。

 

「僕達を殺そうとしていたTLT幹部は皆消えましたし、お仲間もその機能を喪失。僕達を邪魔できるのは誰もいません。姉弟水入らず——決着をつけましょう」

 

 

「そこでお友達にも会わせてあげます」

そう言い残すと、ラファエルは後方宙返りで屋上から身を投げ出した。落下を始める前にその姿は陽炎の様に揺らめいて完全に消失。

ファウストは追撃せず打ち抜いた拳をゆっくりと持ち上げる。

 

【…物にした途端もう駄目になるか 役立たずめ】

 

「ああ…う…」

瓦礫を押し除けて出てきた瑞緒。死ななかったのは奇跡に近いが、構わず彼女は力強い眼差しで目の前の巨大な魔人を見据える。

 

「貴方があの時…秋葉原でたくさん殺したビーストヒューマン…元が人であれ、χニュートリノを身に宿してしまった時点でそれはもうビーストです」

ファウストはそれに構わず背を向けて歩き出す。

 

「だから貴方は敵を倒しただけ!ビーストヒューマンは元の人間には戻れない‼︎人間を殺したわけじゃないんですよ!だから‼︎」

頭からの流血で意識が遠退いて間も無く足取りも覚束なくなる。

 

それでも、瑞緒は懸命に叫んだ。

 

「自分を責めないで下さい!戻ってきて下さい‼︎宙さん‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アハッ♪ 痛い? 痛いよね?』

 

 

  やめて

 

大きく開けた仄暗い戦場を疾走する光と闇の巨人。互いの拳が入り乱れ、距離が限界まで縮まったところで組み合いへと絡れ込む。

 

『だってそこ——』

 

 

  もう止めてよ‼︎

 

『ぎっ・・・・・・!』

 

強引に取っ組み合った腕を解いてガードが開いた脇腹に叩き込むのは、胴体を貫かんばかりの荒々しい前蹴り。闇の巨人は猛るように叫ぶ。

 

『怪我してる場所だもんねぇ!?!?』

 

 

  どうして私は壊す事しかできないの

 

『があっ・・・!』

 

倒れ伏した巨人の脇腹をもう一度踏みつけ、痛ぶるように体重を乗せその爪先を押し当てる。鳴り響く警告音。苦悶の声。

巨人の抵抗力が弱まっていく。

 

 

  でも もう分かってる

  闇が、他者を踏み躙る悪がどうなるのか

 

『……!?』

 

『ハァァ……!』

 

再び繰り出したした足底が片腕一つで受け止められ、一瞬で弾き返される。後方に体勢を大きく崩された途端天地が逆転。

 

『デェェェヤァァァァ‼︎』

 

『がはッ!?』

 

投げ飛ばされた体が地面に叩きつけられ、揺れる視界に覆い被さる光の巨人。凄まじい怒気が吹き付けられる。

 

 

  前に見た夢と同じ

  ここが何処なのか、彼が誰なのかも分からない

 

  でも

 

『やりたい放題やってくれやがって・・・それ以上くだらねぇこと言ってんじゃねぇ‼︎』

 

 

  別の場所でも、碌なことをしてこなかった

  みたいです

 

『いい加減! 梨子を返しやがれ!』

 

 

  梨子……?

 

 

◇◇◇

 

「宙ちゃん‼」

 

(早く安全な場所に‼)

 

「…っ‼︎」

 

(梨子さん‼走って‼︎)

 

「………ごめん…!!」

頭によぎるのは、血の滲む左腕を抑えながら身を翻してノスフェルから逃げる赤紫の髪の少女の姿

 

◇◇◇

 

 

「梨子さん‼︎」

 

靄がかった思考が一瞬で鮮明になり、宙は弾かれたように身を起こした。

深い闇に包まれた樹海の中にただ1人、叫び声だけが虚しく反響する。ノスフェルと戦った場所のすぐ近くだった。

 

(あれからどうなって…?)

「梨子さん‼︎無事ですか⁉︎何処にいる…ッ!?」

体を起こそうとした瞬間全身を襲う虚脱感。

「ぐあぁぁぁぁ!?」

左足から全身にかけて拡散する激痛。

体が内側からバラバラと崩れていくような感覚と共に、再び宙の体は地面に投げ出された。荒い呼吸を繰り返しながら体を屈めると、ラフレイアと交戦して以来残り続ける左足の傷が視界に飛び込んでくる。

 

「……!」

元が色白な肌色だったことが信じられない程に真っ黒に化膿していた。

 

「梨子…さん……!」

彼女を最後に見たのはこの近くだ。あの怪我の状態だと動けなくなっている可能性もあり得た。

 

(もしそうなら、私が助けに…!)

 

片足を庇いながらゆっくり立ち上がると、宙はふらつきながら歩を進め始める。

ノスフェルと戦ってから気を失っていた筈だが、断片的にその間の記憶が呼び起こされる。

 

"ある地点の座標が送ってあります。そこまで来て下さい"

"そこでお友達にも会わせてあげます"

 

ラファエルのあの言葉が頭から離れない。それが何を意味するのか分からないが、胸騒ぎが何か唯ならぬ凶兆を想起させる。

 

 

 

  はい、ストップ そこで止まって下さい

 

「ッ!!」

 

脳中で反芻されていたその声が不意に投げられ、総毛立って臨戦体勢を取る宙。周囲を見渡すがそれらしき影は見当たらない。

 

  約束通りちゃんと来てくれましたね 

 

四方八方から断続的に聞こえるその声が気持ち悪いが、宙は臆することなく叫んだ。

 

「貴方に構う暇は無い‼︎急いでいるんです‼︎」

 

  残念ながら、ここに来た時点でもう逃げる事は不可能ですよ

  と言うかそちらから来ておいて今更何を言ってるんですか?

 

「邪魔するなら容赦しない‼︎」

 

  その体で衰えぬ闘気…それだけは大したものです

  気が触れているだけかもしれませんが

 

ダークエボルバーを握りしめると、嘲笑の混じった言葉が返ってくる。

(来るなら…来い‼︎)

 

そして、次に放たれた言葉が宙の思考を漂白させた。

 

  まあ、安心して下さい

  探し人なら手間が省けた(・・・・・・・・・・・)と思いますよ

 

「え…?」

 

刹那、目の前に立っている木々の間から1人の少女が姿を現す。背中に靡く長い赤紫の髪。見間違える筈もない。

 

「あ…‼︎」

あまりにもタイミングが良過ぎる。抱いていた胸騒ぎが確信付けられたような———

 

  先ずはデモンストレーション

  僕と戦う前に先ずその敵(・・・)を倒して下さい

 

「梨子さん‼︎」

ラファエルの言葉はもう聞こえていなかった。宙は梨子に駆け寄ると彼女の方に手を乗せる。梨子は俯いた状態で立ち尽くしており、その表情は伺えない。

 

違う 違う そんな事があるわけない

あっていい筈がない

 

「梨子さん、良かった、無事、なんですよね」

 

声が震え、掠れ、思考がままならない

 

「違うよ、宙ちゃん」

 

  これまで貴方とファウストが散々倒してきた敵

  今更、今の貴方でも楽勝だと思いますが

 

「私、死んだの」

 

  そこはまぁ、前戯という事で

 

「もう皆んなと一緒に過ごす事が出来ないの だって私——」

「もう人間じゃナくなっチャッたかラさァァァハハハハハハ!!!!!」

 

梨子の片腕がみるみる肥大化し、鋭利な爪が生え揃う。東京で、TLT内部で見たあの地獄が記憶の淵から呼び起こされた。

 

  ビーストヒューマン一体

  殺すのにどれ程時間が掛かりますかね?

 

「うわあああああああああああああああ!?!?」

 

「アハハハハハハ!!!!!」

 

絶叫する宙目掛けて狂笑を響かせながら梨子が突っ込んで来る。突き出された爪を腕ごと掴んで止めるが、踏ん張りが効かず縺れて後ろに転倒。そのまま組み伏せられる。

 

「梨子さん‼︎止めて下さい‼︎」

 

「アハハ、アハハハハハハ‼︎」

 

掴まれていない方の腕で何度も殴りつけられるが、絶望一色で染まった宙は最早痛みすら感じなかった。

 

「いや、いや、どうしたら、あ、ああ」

壊れた機械のように譫言を繰り返す事しか出来なかった。梨子を倒す事なんて出来るわけが無い。

 

「アハハ!…何で、何デ私ガこんな目ニあわナイといけないの‼︎」

 

それはまるで、恨みの籠った地獄の声だった。

 

「アハハハハハハ‼︎悲しい、寂しい‼︎」

「1人は…嫌」

 

「…‼︎」

流れ落ちる雫。一瞬、宙を押さえつけている力が緩んだ。宙は組み伏せる腕を解き、迷わず梨子を

 

「1人じゃないです、絶対に」

 

抱き締めた。

 

「私はずっと側にいます」

 

「ガアアアア‼︎」

 

肩口に喰らい付かれて鮮血が迸るが、宙は構わず続ける。

 

「私だって体の半分ビーストみたいなものです…そう変わりませんよ」

「梨子さんは梨子さんです。心は何も変わってない。戻れます、皆んながいる場所に…こんな私を皆さんは受け入れてくれたんですから」

 

宙は話し続けながら落ち着かせる様に梨子の背中を何度も撫でる。

 

「ごめんなさい、暫くこのままでいさせてくれませんか。この温もり…好きなんです」

 

 

 

 

 

 

 

「宙…ちゃん…」

 

噛み付いた事で宙の血を含んだ梨子。

抵抗する力が次第に抜けていき、その目に生気が宿る。

 

「私、私……!」

 

 

「もう良いです」

ズドン、と音が響いて何かが宙の体を突き抜けた感覚。

 

「が、はっ…‼︎」

梨子の背中からも同様に何かが突き出ていた。

 

「あ……!?」

 

 

 

背後から宙と梨子、2人同時に貫いた蔦が瞬時にラファエルの手元に収納されていく。

 

崩れ落ちる梨子と宙を見てラファエルは嘆息した。

 

「気持ち悪い…あんなに殺しといて仲間だけは嫌?正義面して犠牲の差別してんじゃねえよ、偽善者が」

 

 

 

「あ、あぁぁ…?」

すぐ側に倒れた梨子に手を伸ばす宙。

 

「あ…え…?」

瑞々しく生暖かい感触に堪らず手を引き戻すと、その掌は真っ赤に染まっていた。地面に散らばる長い赤紫の髪を塗り潰すように鮮やかな赤色が広がっていく。

 

「ごめん…ごめんね、宙ちゃん」

 

「〜ッ‼︎喋ったら駄目です‼︎今止血を」

顔面蒼白になり叫ぶ宙に手を伸ばす梨子。

 

「私…貴方の力…なりたかったのに……みんなを一緒に守りたかったのに」

「結局迷惑しか掛けられなくて」

 

「そんな事ない‼︎凄く嬉しかったのに‼︎迷惑しか掛けてないのは私の方です‼︎」

 

何で、何で謝るの

何でこれが最期みたいに言うの

 

 

◇◇◇

 

「私がもし、ウルトラマン…?になって、ファウストさんが私を殺しにきたら、戦って勝てば良い。それで仲直りして、2人で一緒に敵と戦う。だから、宙ちゃんはこれからもずっと私達と一緒」

 

「簡単に諦めちゃダメ」

 

◇◇◇

 

 

どんどん自分が自分じゃ無くなっていくのに、そんな私を正面から向きあって受け止めてくれた。

一緒にいるって抱き締めてくれた。

本当に嬉しかった。

凄く温かかった。

 

 

「梨子さん‼︎梨子さん‼︎」

あの温もりが、どんどん冷たくなっていく。

 

 

「如何にデュナミストと言えど、所詮はただの人間でしたね」

「にしても、凄い変わり様だなあ。姉さんが来るまでその子、腹が減った腹が減った煩くて」

「木の幹齧り始めた時なんかはもう最っっっ高に傑作だった」

 

「あ、駄目ですね。思い出したら…ハハッ…また笑いが…ハハハハハ」

 

「黙れ」

 

「…ッ‼︎」

梨子を笑うラファエル目掛けて放たれたドス黒い殺意。ラファエルはすぐさま左に避けるが、回避が追いつかず右目が瞬時に吹き飛ぶ。

 

深い絶望の底から湧き上がる黒。

頭も、心も、体も何もかも黒に塗り潰されていく。

 

梨子を安全な場所にそっと下ろし、ゆらりとラファエルに向き直った宙。

その華奢な背中がメキメキと隆起し、セーラー服を破って大きな二対の突起が背中に生え揃った。

 

「死ね、苦しんで、死ね」

 

紫電が、爆発した。

 

 





思うところはたくさんあると思いますが、もう暫くお待ちを…!
次回、ダークファウストvsノスフェル、二度目の戦いです!

今回宙が見た夢に引用させて頂いたのは、がじゃまる様の作品「ゼロライブ!サンシャイン!!」https://syosetu.org/novel/151536/に書かれているシーンの一部です。作者様には確認済みですが、感謝と申し訳なさでいっぱいです

本当にありがとうございました

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