ここ大事なので区切らせて頂きます
宜しくお願いします
◇◇◇
その喪失感に耐えられず閑散とした校舎で茫然自失となる千歌。理不尽な現実に耐えきれず、彼女の心がラブライブから離れつつある事を曜は察する。
何とかしたい。助けたい。でも、何もできない。
「力を貸していただけないでしょうか」
「宙さんと梨子さんを助け出す為に」
苦悩する2人の前に現れたのはTLT隊員の1人、宙の目付役でもある七瀬瑞緒だった———
◇◇◇
『今からちょうど40年前。地球は怪獣や侵略者の脅威にさらされていた。人々の笑顔が奪われそうになった時、遥か遠く、光の国から彼らはやって来た。ウルトラ兄弟と呼ばれる頼もしいヒーローたちが———』
画面の向こう側に映るのは赤や銀に輝く雄雄しき姿のヒーロー達。それを食い入るように見つめる少女の瞳もまた、キラキラと輝いていた。
「かっこいい……‼︎」
「こすもちゃんまたウルトラマン見てる」
その後ろからとてとてと歩いてきたもう1人の少女がそれを指差し笑う。
「すきだねえ」
「だってだって‼︎こんなにおっきいんだよ!すごく強いんだよ!いっつも街のみんなをかっこよく助けてくれるんだよ!」
「チカちゃんもいっしょに見ようよ!」
目を輝かせながら捲し立てる宙の姿に若干気圧される千歌。
「うーん…チカはいいかな…女の子だし…男の子が見るやつでしょ」
「女の子は見ちゃダメなの?」
「そういうわけじゃないけど…」
心底不思議そうに首を傾げる宙。心の底から夢中になれるものに出会うと、こんなにキラキラできるんだなあ。その姿を見て千歌は思った。
(いいな…)
「わたし、大きくなったらウルトラマンになりたい!ウルトラマンになって、街のみんなをかっこよく守る‼︎」
初めて出会った時の、機械のように抑揚のなかった声や表情がまるで信じられない。少しだけ、羨ましかった。
「ふふっ」
「な、なんで笑うの〜!?」
「ごめんごめん!なんとなく分かってたけどやっぱりそうなんだなって」
「もう…じゃあチカちゃんは?」
「え?」
「チカちゃんの夢も聞かせてよ」
頭を捻って、ついでに体も捻って考えてみる。そして、千歌は悲しそうに首を横に振った。
「いまは…よくわかんない…」
「そっか。じゃあ」
「!!」
不意に手を握られ、目を見開く。千歌の目の前には満面の笑みを浮かべた宙の顔があった。
「チカちゃんがちゃんと夢を見つけて叶えられるようにわたし、ウルトラマンになっていつもそばで守ってあげる」
「……うん!じゃあこれからも、ずっと一緒だよ?」
つられて笑う千歌。宙は嬉しそうに何度も頷く。3人はまた、声を上げて笑った。
3人…?
「わ!お母さん!?」
「いつの間に!?」
「娘達が今日も仲良しで、お母さんとっても嬉しいです」
千歌によく似た、みかん色の髪の小柄な女性は2人のすぐ側に腰を下ろす。
「因みにお母さんにも夢があります。それは——」
そして、千歌と宙は彼女に抱き寄せた。
「娘達をずっっっと守れるスーパーヒーローなお母さんになることてです!」
「やっぱりお母さんも男の子みたいな夢なんだ…」
「別に良いもん!大切な誰かを守りたいって気持ちに男の子も女の子も関係ないでしょ?」
「それにほら、こんなにも可愛い‼︎」
「「くるしい…」」
じゃれ合う3人の片隅に置かれたテレビに映し出されるのは、怪獣と戦う赤と銀のヒーローの姿。声援を送る人々。
そして——
ーーー
「…ぐ……ぁ…」
「本当に強情ですね。ここまでしてまだ何も喋ろうとしないなんて」
「仕方ない。なら次は残った右目も」
【もう良い。ここまでだ】
「何故貴方が止めるんです?庇うんですか?」
【こいつの中にはまだ私の闇が残っている。殺すのは全てを奪い、利用価値が無くなった後だ】
「おっと、これは失礼…そういうことなら少しだけ猶予を」
「適能者を誘き出す餌にもなるか……確かに、使い道はまだありそうです」
「怪獣……侵略者……笑顔が奪われ……った時……光の国からウルトラマンはやってくる………」
「最後は必ず勝って…皆んな笑顔になる……みんなのヒーロー」
「ありがとう、ウルトラマン……って」
「………。」
何故、こんな時に思い出す?
「そんなの、作り話の中だけだ……」
黒い瞳。黒い体。怒り。憎しみ。殺意。そして……
"出ていけ‼︎"
"来ないで‼︎"
"化け物に殺される‼︎"
恐怖。
でも、その化け物の力すらもうなくなって、残ったのは壊れかけの体と償い切れないほどの罪。
そうだ。私は、あの大都会の大通りで沢山の人を殺した。
私のせいでお母さんは死んだ。梨子さんは死んだ。
私が側にいたから、他の皆んなも殺されそうになっている。
"わたし、大きくなったらウルトラマンになりたい!ウルトラマンになって、街のみんなをかっこよく守る‼︎"
「…ごめんなさい」
何も守れなくて
「ごめんなさい」
傷付けることしかできなくて
「ごめんなさい」
側にいたいと思って
ーー フォートレスフリーダム ーー
「何で…」
「何で今まで忘れてたの…?」
「千歌ちゃん⁉︎」
涙を流しながらその場に崩れる千歌。側にいた曜が肩を抱きながら尋ねるが、反応する事なく千歌は絞り出すように言葉を続ける。
「私、宙ちゃんとずっと家族だった…一緒に暮らしてたんだ…なのに忘れてた」
「宙ちゃんはずっと1人で……!」
「千歌ちゃん待って‼︎」
静止の声も聞かずに走り出す千歌とそれを追う曜。
フォートレスフリーダムが壊滅して数時間、唯一残った別棟にいるナイトレイダー隊員達と少女2人。それらを交互に見やり、瑞緒は部屋の隅で静かに佇むイラストレーターに歩み寄る。
「良かったんですか、宙さんのこと…千歌さんと曜さんに全て打ち明けてしまって」
「特別な力を見出した以上、あの2人には高海宙やそれを取り巻く世界の事を知る権利がある。知り、受け入れなければ今後、高海宙の隣に立つことはできないだろう」
イラストレーターは淡々と言葉を紡ぎ出す。未曾有の危機の真っ只中であるというのに、そこに焦燥も絶望もなかった。生き残ったナイトレイダー達に向き直ると、既に脳内で完成させていた作戦を読み上げる。
「敵は主要司令施設のほぼ全てを破壊していますが、地下の予備格納庫は辛うじて被害を受けていません。残りの戦力でここを奪還し、その後速やかに出撃して下さい。基地内部のビーストヒューマンの掃討は最小限に留めて構いません。作戦発動は15分後——」
「クロムチェスターα、γ、β及びストライク・メガキャノンフォーメーションの使用を許可します」
「「「「「了解‼︎」」」」」
初の実戦投入において機体が有するスペックの全力始動。
全ての訓練はこの時の為にあったに等しい。その重圧たるや凄まじいものだが、隊員達もまた全員が落ち着き払っていた。
「宙さんが囚われている特殊異空間の座標を正確に捉えるは、適能者の力が不可欠…信じてるんですね、あの2人のこと」
そう問いかける瑞緒に対しイラストレーターは無言を貫くが、言葉は無くともその真意を理解する。
「千歌さんの記憶の断片が閉ざされていたのは私達の責任です…お2人と話してきます」
「待って千歌ちゃん!待ってったら‼︎」
薄暗い廊下を抜け、小講堂程度の開けた空間に抜けたところで何とか千歌に追いついた曜。肩を掴んで向かい合うように立つと、そこにあるのは真っ赤に充血した瞳。
「っ……!」
曜は一瞬言葉に詰まるが、ひとしきり泣いて少し落ち着いた千歌を抱き寄せながら静かに語りかける。
「今まで散々宙ちゃんの凄いとこ見てきて、今更あの男の人の話…宇宙人だとか、造られた命だとか、私はそんなのには驚かない。宙ちゃんは宙ちゃんでしょ?」
千歌の体が少し揺れる。
それが首肯と分かり曜はゆっくりと言葉を続ける。
「千歌ちゃん言ってたよね?"ずっと家族だった"って。千歌ちゃんと宙ちゃんの昔のこと、教えてもらえないかな」
暫くの沈黙。ここまで憔悴しているの千歌は見たことがない。普段はすぐに成り立つ会話が、快活な声が、嗚咽と静寂で塗り潰されていた。 けど、無理もない。こうやって寄り添う自分もきっと、ひどい顔をしているから。
(梨子ちゃん…宙ちゃん…)
曜の胸中が焦燥で染まる寸前、千歌はぽつりと漏らした。
「小さい頃の宙ちゃん、よく笑ってた」
「ウルトラマンになりたいからって、泥だらけになるまで駆け回って、私もよく振り回されてた」
「えっ…」
唐突に告げられた可愛らしい情報に、思わず笑みを溢す曜。
「意外、宙ちゃんにもそんな時期があったんだ」
「うん。やりたいことに真っ直ぐで、太陽みたいな笑顔で——なのに」
◇◇◇
「貴方に何が分かるの⁉︎】
「退いて。気安く名前を呼ばないで‼︎」
◇◇◇
「曜ちゃんだって覚えてるでしょ?
感情の澱みを言葉にすればするほど出てくるのは激しい悲嘆と後悔。あの掛け替えのない思い出も、今となっては呪いでしかなかった。
「何で今になって思い出すの⁉︎もっと早く気付いてよ‼︎言うべき事、たくさんあるのに…ずっと家族でいられれば、宙ちゃんが戦って傷付くことも苦しむこともなかったのに」
「私のせいだ…私のせい「千歌ちゃん」
静かに、それでいて力強い声が千歌の懺悔を一瞬断ち切る。
反射的に顔を上げると、穏やかに微笑む曜の姿。
「そんな事ないよ」
「千歌ちゃんのせいじゃない」
「むしろ、千歌ちゃんのお陰で宙ちゃんは初めて出会った時と内浦で再会した時…2度も救われたんじゃないかな」
「どういうこと…何でそうなるの?私は家族を捨てた酷い「じゃあ聞くけど」
反駁しようとする千歌を曜は即座に遮る。
「千歌ちゃんと、私達と一緒にいる時…一緒にスクールアイドルしてる今、宙ちゃんがそんな事気にしてると思う?」
「宙ちゃんの顔を思い出してみて」
「……!」
◇◇◇
「練習メニュー終わった方から来てください。順番にマッサージしますので。あ、それから疲労回復の為に作ったレモンの蜂蜜漬せも是非——そこ、まだ死にたくないってどういうことです⁉︎」
「これがAqoursの衣装…!最高に可愛いです…!」
「私が戦えるのは帰る場所…待っている人がいるからです」
◇◇◇
「過去のことも勿論大事だけど、今やこれからの事も同じくらい大切…私はそう思う」
「それから、もちろん宙ちゃんだけじゃなくて、私も梨子ちゃんも千歌ちゃんのお陰でスクールアイドルやれてるんだからね!」
「曜ちゃん…」
心の翳りが引いていく。胸の奥底で僅かに何かが瞬く。
「でも、宙ちゃんも梨子ちゃんももういない…皆んながいるあの時に戻れるの?」
「取り戻す為にここに来たんでしょ?」
曜はもう一度千歌に微笑みかけた。
「言うべき事、全部言われちゃいましたね…」
「「!?」」
いつの間にか部屋の隅に立っていた女性の存在に、千歌と曜は2人揃って飛び上がる。
「えっと…七瀬さん…?」
「貴方達まで巻き込んでしまった我々が、これ以上何か話す資格はないですが、それでも1つだけ言わせて下さい」
2人の前で瑞緒は深々と頭を下げる。
「宙さんを見つけて下さり、本当にありがとうございした」
「この世界で宙さんに出会ってくれたのが、貴方達で本当に良かった」
顔を上げるとその目は少し赤くなっていた。
「私は戦う時の宙さんにしか出会えませんが、貴方達のこと、スクールアイドルのこと、一緒に過ごしてる時のことをよく聴かせて貰ってます。本当に素敵な方たちに巡り会えた、と」
「感謝してるのは私も同じです」
「助けられるんですよね?2人とも。今の私たちにできること、教えて下さい」
「勿論です。我々の全存在を掛けて必ず助けます」
曜の言葉に瑞緒は力強く頷く。
「それから、先程別働隊から入った報告ですが———」
瑞緒から告げられたその言葉に、2人は顔を見合わせた。
「それって、じゃあ…!」
「まだ予断を許さない状況ではありますが、意識も呼吸もはっきりあります。TLTの医療班は精鋭中の精鋭ですので必ず」
目を閉じて数秒吉報を噛み締めると、千歌はゆっくりと目を見開く。
「私、ずっと逃げてた」
「宙ちゃんが戦ってる時、見ないふりしてた…怖かった」
「でも、もう終わりにしたい」
「私に、やらせて下さい」
「今度は、私達が宙ちゃんを助けます」
瑞緒ははっきりと見た。
千歌の胸に光が灯る瞬間を——
ちょっといい加減くどいですね 僕もめちゃくちゃそう思います
鬱屈としたのは次回で流石に終わります
筆者も諦めずに頑張ります
次回「新宿大災害」