模造巨人と少女   作:Su-d

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5.ロストメモリー

無限に広がる大宇宙。

静寂に満ちた光。

新しく生を受ける星もあればやがて寿命を迎え死にゆく星もある。

 

 

宇宙も人間と同じように生きている。

 

 

そして––––––

生誕と終焉を繰り返すその場所でまた一つ、星が死んだ。

 

 

M80さそり座球状星団。

 

 

地球よりも遥かに進んだ科学力を誇る超文明を築き上げていたその星はやがて自然の理をも覆す程の科学技術に手を付けてしまい決して開けてはならないパンドラの箱を開けてしまう。

 

悪夢の始まりか終わりか。誰にもそんな事は分からない。

 

 

 ーー〈元〉M80さそり座球状星団外縁部ーー

星が超新星爆発を起こした直後で大量の熱と光が放出され、眩い光が宙域一体を包み込んでいる。その中で残っているのは無数のチリとガスだけ。

永遠に続くかに思われた静寂は光波熱線が放たれた衝撃により突如打ち破られた。

 

周囲の光が霞んで見える程その光は眩しく、美しい輝きを放っていた。

 

白銀に輝くその光波熱線は遥か彼方を飛行する黒い光球を正確に捉える。

 

突然始まった戦闘は人知をを遥かに超え宇宙の理をも覆すものだった。

宙域を縦横無尽に二つの光球が光速で何度も激しくぶつかり合い、一撃で星を消炭にする程の威力を誇る光波熱線がシャワーのように降り注ぐ。

 

新しく恒星が誕生したのでは無いかと思えるほどの爆発が何度も生じ、残響の如く宙域一体が震撼する。

 

「シェアァァァ…!」

 

「ヴ オ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!」

 

それでも両者は戦いを止めなかった。

不意に眩い光が両者を包み込む。

 

生命の営みは光に始まり光に終わる。

 

以降、M80さそり座球状星団の存在した銀河に生命の光が宿ることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー内浦・山中ーー

 

(朝からどうも体が怠い…)

黒髪の少女は自分の身体に違和感を感じていた。それが軽い栄養失調状態だという事に本人は気付いていない。

 

「街に行くしか無いか…」

 

重い身体を引きずりながら下山する決意を固める。ビーストを仕留めること以外の目的で街に出向くことは久しぶりの事だった。

 

 

 

ーー内浦・海岸ーー

「桜内さーーーん!」

 

「ゔっ」

 

何か思い詰めるように海岸から海の景色を見つめていた梨子に、千歌が手を振りながら駆け寄ってくる。梨子がうんざりした声を上げるが勿論千歌は気付いていない。

何度も何度も嫌そうな顔して断ってきたのに何で笑顔でまた話しかけて来るのか。梨子は呆れを通り越して感心していた。

 

今だって...

「もしかして海に入りたいの?4月の海は寒いよ?」

何でスカートを捲りながら水着を着ているのか確認してくるの⁉︎

 

「入りません‼︎」

 

「あはは。良かった」

 

「あのねぇ、こんなとこまで追いかけてきても答えは変わらないわよ?」

 

「違う違う。通りかかっただけ。それで、何してるの?」

 

もう良いや……この子の度を超えた人懐っこさは気にしたら負けなんだろう。私の悩みや考えごとを話せば面倒くさくて今度こそ距離を置いてくれるかもしれない。

「『海の音』…聞こうとしてたの。」

 

「海の音?」

 

「あのね。私ピアノやってるって言ってたでしょう?小さい頃からずっと続けてたんだけど最近いくらやっても上達しなくて。それで環境を変えてみようと思ったの。『海の音』が聴ければ何か変わるんじゃ無いかって」

 

「そうだったんだね………大丈夫、変わるよ。きっと」

千歌はそう言うと梨子の手を優しく握る。

 

「簡単に言わないでよ。」

 

「分かってる。でも、そんな気がする。」

 

「変な人。……とにかく、スクールアイドルやってる暇は無いの。ごめんね。」

そう言って握られた手を振りほどこうとする梨子。しかし千歌はその手を一層強く握りしめる。

 

「分かった。じゃあ『海の音』だけ聞いてみようよ。スクールアイドル関係無しに。」

 

「え?」

 

「私桜内さんに沢山迷惑掛けたから。せめて桜内さんが抱えてる悩みを解決するお手伝いがしたいの。駄目かな?」

 

千歌の言葉に梨子は暫く黙っていたが、やがてクスっと笑いながらその手を優しく握り返した。

 

「本当に、変な人ね。」

 

 

 ーー3日後・淡島・ダイビングショップーー

「イメージ?」

 

「そ。水中では人間の耳に音は入りにくいからね。けど景色はこことは大違い。見えてる物からイメージすることなら出来るんじゃない?」

 

日曜日、千歌、曜、梨子の三人は淡島のダイビングショップを訪れていた。今果南が梨子に水中器具の使い方と共に、梨子の言う「海の音」を聞くためのアドバイスをしているところである。

 

「想像力を働かせるって事ですか?」

 

「まあ、そんなとこかな。出来そう?」

 

「やってみます」

 

 

 

20分後、三度目の潜水を終えた千歌、曜、梨子が水中から顔を出し、果南の操縦する小型ボートに戻ってくる。

 

「どう?」

 

「駄目です。海の中は暗くて良く見えないし」

 

「そっか……」

 

「分かった。もう一回良い?」

そう言うと千歌と曜はもう一度海に潜った。梨子も躊躇いながらそれに続く。

 

 

何度も何度も海の中に入っているのにまるでイメージが掴めなかった。鍵盤に指をつける事すらできず、最後まで1秒たりとも演奏出来なかったあの日の出来事が脳裏に浮かび上がる。

 

(やっぱり、無理なのかな…)

 

諦めかけている梨子の肩を千歌と曜がしきりに叩き、海面の方を指差した。

 

雲の隙間から光が溢れ出し、海中の景色を優しく照らし出す。

 

その時、梨子は確かに見た。海に生きる生命の営みを。泳いでいる魚は夜空をかける流星のように時折鱗をキラキラと反射させ、サンゴ礁やサンゴ礁から伸びる海藻は海の流れに合わせてユラユラと揺れている。

 

沢山の生き物が集まり織りなすその景色は四重奏さながらだった。

 

 

 

「聴こえた?」

 

「うん……確かに聴こえた」

 

「私も聴こえた気がする!」

 

千歌、曜、梨子の三人は肩を寄せ合いながら笑い合う。三人が初めて心を通わせた瞬間だった。

 

 

 

 

 

夢のトビラ。ずっと探し続けていた。君と僕との繋がりを探してた。

 

スクールアイドルなんて興味は無かった。ある筈も無かった。

なのに何でこんなにも彼女達の歌は私の心を打ち震わせてくれるのだろう。

 

その日の夜、私は高海さんから教えてもらった歌のワンフレーズをピアノと共に口ずさんでいた所を本人に見られてしまった。彼女の家と私の家は隣同士だった事に気付く。

 

「その曲、『夢のトビラ』だよね?私大好きなんだ!」

瞳を輝かせる彼女に私は自分の本当の気持ちをポツリポツリと打ち明け始める。

 

「高海さん、私どうしたら良いんだろう?ずっと何やっても楽しくなくて……ピアノだってもう弾くことが…」

 

「やってみない?スクールアイドル。」

 

「やってみて笑顔になれたらまたピアノだってまた弾けると思う。ピアノだって諦める事ないよ。 私のこじつけかもしれないけど……えへへっ」

 

そう言って目の前の窓越しに彼女は笑う。

やりたい事を一生懸命楽しくやろうとしている顔だった。

凄く眩しかったし、何より……そんな表情ができる彼女が羨ましかった。

 

「梨子ちゃんの力になれるなら、私は嬉しい。皆んなを笑顔にするのがスクールアイドルの仕事だもん。だから……!」

 

「千歌ちゃん!」

 

「それってとっても素敵なことだと思う‼︎」

 

気付いたら私は千歌ちゃんが伸ばした手をしっかりと握っていた。

 

 

……そう言えば、人を下の名前で読んだのは初めての事だった。

 

 

 

ーー内浦湾・海岸ーー

 

「ワンツースリーフォー、ワンツースリーフォー」

 

「だんだんいい感じになってきたんじゃないかな?」

 

「うん!でもびっくりだよ。まさかあんなに嫌がってた梨子ちゃんがスクールアイドルやってくれるなんて。何かあったの?」

 

「あはは…」

あの後梨子は即座にスクールアイドルに入る決意を固め、千歌にそう伝えた。彼女の心境にどんな変化があったのか。少なくとも千歌や曜、そしてこの街に出会った事が彼女に何らかの変化を与えた事は確かだった。

 

「リズムはどう?」

 

「千歌ちゃんがちょっと遅れてる気がする…」

 

「私かあああ!」

 

千歌が悔しげに身体を仰け反らせると空には一機のヘリ。青空を悠々と飛行している。

 

「何あれ?」

 

「小原家のヘリだね。近くの淡島のホテル経営してて、浦女の新理事長もそこの人みたいだよ。」

曜がそう説明した。

 

ーー内浦湾・上空ーー

 

「どうしてもダメ?」

 

「……お嬢様。もしかしてヘリをサーカスの道具と勘違いしてません?」

 

「ワタシはカッコいいと思うのだけど」

 

「メインローターであそこの三人を斬り殺す気ですか⁉︎危険すぎますよ!」

 

「そんなに難しい事なの?空自の訓練よりも?」

 

「!」

 

「たまには昔を思い出してパワフルで豪快な事しても良いんじゃナイ?元『イーグルドライバー』だった貴方のフライトテクニックなら余裕だと思うんだけどなぁ」

 

「……その言い方は狡いですよ」

機長・倉島は大きく息をつく。

 

「先に言っておきますが、安全第一ですからね」

 

 

ーー内浦湾・海岸ーー

 

「ねぇ、何かだんだん近づいて来てない?」

 

千歌が見上げる先には何度も旋回を繰り返しながら徐々に高度を落としていくヘリ。

 

「はは、そんなまさか…」

曜は笑うがヘリは普段見ないくらいの高さまで高度を落としており、機体のマーキングやカラーがハッキリと確認出来る。

 

機首がこちらを向いた。

 

「いや……ヤバい…ヤバいヤバいヤバいヤバい!!!!!!」

 

ヘリは千歌達の頭上スレスレを飛び抜けた。

そのままスムーズに姿勢制御しながら停止。ドアが開き中から金髪の少女がニッコニコの笑顔で出てくる。

 

「チャオ〜♪」

 

 

ーー浦の星女学院・理事長室ーー

 

「貴方が新理事長なんですか⁉︎」

 

「イェース!でもあまり気にせず、気軽にマリーって呼んでほしいの!」

千歌、曜、梨子の三人は金髪の西洋人の様な顔立ちをした少女、小原鞠莉に連れられ理事長室に来ていた。

正直、先程の危なっかしい登場に文句の一つでも言ってやりたかったが理事長となれば話は別だ。学校の最高責任者を怒らせるような事を言えば最悪自分達の籍が消されかねない。

 

「ってそうじゃなくて!あの、新理事長…」

 

「マリーだよぉ!」

 

ずいっと顔を近づけ自身の呼び名を訂正してくるその少女には異様な圧力があり、三人は困惑する。

 

「ま、マリィ、その制服は…」

 

「どこか変かな?三年生のリボンもちゃんと用意したつもりだけど……」

 

「り、理事長ですよね?」

 

「しかーし!この学校の三年生!生徒兼理事長!カレー牛丼みたいなものね!」

 

「例えがよくわからない……」

 

「わからないのぉ⁉︎」

 

自由と言うか、掴みどころが無いと言うか…中々クセの強い人だった。

千歌達の後ろから誰かが部屋に飛び込んでくる。

 

「分からないに決まってます!」

 

「うわっ⁉︎生徒会長⁉︎」

 

「ワァオ!ダイヤ久しぶり〜!随分大きくなって〜!」

 

「触らないでいただけます?」

 

唐突に現れたダイヤに頬ずりする鞠莉。

 

「胸は相変わらずねぇ……?」

 

「やっ、やかましい!……ですわ」

 

「イッツジョーク」

 

ダイヤは鞠莉の襟首を掴み上げるが鞠莉は相変わらずニコニコとしている。あの生徒会長に対しても変わらず奔放な行動を取り続ける鞠莉の様子に益々千歌達は困惑した。

 

「あ、あの…」

 

梨子が申し訳なさそうに手を上げる。

 

「取り敢えず…何故私達をここに呼んだのかご説明頂けないでしょうか?新理事ちょ、じゃなくてマリー……さん。」

 

鞠莉は元々浦の星女学院の生徒で、一年生の途中から親の意向で外国の学校に通わされていた。

浦の星女学院でスクールアイドルが誕生したと聞きダイヤに邪魔されちゃかわいそうだから!という事で急遽浦の星女学院に戻ってきたらしい。

という事を鞠莉は理事長の任命書を見せながら説明した。

どうやら高校生をしながら理事長をするというのはジョークでは無いらしい。

 

とにかく、千歌は自分達を味方してくれる頼もしい存在が出来たことに興奮していた。

 

「このマリーが来たからには心配いりません。デビューライブはアキバドームを用意してみたわ!」

 

「そんな!いきなり……」

 

「き、奇跡だよっ!!」

 

「イッツジョーク!」

 

「……ジョークのためにわざわざそんなもの用意しないでください」

 

期待を思いっきり裏切られた千歌はガックリと肩を落とす。

 

「実際にはーー」

 

ーー体育館ーー

 

「ここで?」

 

「はい。ここを満員に出来たら、例え人数が揃わなくても部として承認してあげますよ」

 

「本当⁉︎」

 

「部費も使えるしね!」

 

「でも、満員に出来なければ……?」

 

「その時は、解散してもらう他ありません」

 

「ええっ⁉︎そんなぁ……」

 

「嫌なら断ってもらっても結構ですよ?」

 

ファーストライブの時に体育館いっぱいにお客さんを集める。

少し曖昧な部分はあるが、それが鞠莉が部員を五人集める代わりに出した条件だった。

 

「どうしますか?」

 

「どうするって……」

 

「結構広いよねここ?……やめる?」

 

「やるしかないよ!他に手があるわけじゃないんだし!」

 

今のところ他に部員の獲得が見込めない千歌達にとっては千載一遇のチャンスになり得る可能性もある。辞退する理由などどこにも無かった。

 

 

「OK、行うという事で良いですね?」

 

そう言うと鞠莉は優雅な足取りで体育館から出て行った。どんなに飄々とした態度をとっていても彼女が外国暮らしだったお嬢様だと言う事を実感させる。

 

 

「待って!ここの生徒って全部で何人いるの?」

突然梨子が表情を曇らせる。

 

「あぁっ⁉︎」

指を折って人数を数えていた曜もそれに気付いた。

 

「どうしたの?」

 

「分からないの?うちの生徒全員集まったってこの体育館は…」

 

「‼︎ 嘘……半分も埋まらない」

 

「まさか理事長、その事を知ってて……」

 

理事長が出した条件はダイヤか課したものよりさらに厳しいものだった。

 

 

ーー翌日・沼津駅前ーー

「東京に比べて人は少ないけど、やっぱり都会ね」

 

「そろそろ部活終わった人達が来る頃だよね?」

 

「よーし!気合い入れて配ろう!」

 

千歌達は何とかしてお客さんを集めるために他に比べて沢山人が集まる沼津の市街地に来ていた。どんなに理不尽な条件を出されたとしても諦める事なく精一杯やろうとするその姿はスクールアイドル活動を始める前の千歌からは想像も出来ない。

そんな千歌を曜も梨子も非常に頼もしく思っていた。

 

「お願いします!」

 

近くを歩く高校生にチラシを配ろうとする千歌だったが何も見られていないようにスルーされる。

 

「意外と難しい……」

 

「こういうのは気合いとタイミングだよ!見てて!」

そう言うと曜は別の高校生の二人組に向かって走っていき、元気良く声をかけた。

 

「ライブのお知らせでーす!よろしくお願いしまーす!」

 

「ライブ?」

 

「はい!」

 

「あなたが歌うの?」

 

「はいっ!来てください!」

 

快活に笑いながらビシッと敬礼を決める曜。中々好印象だったようで、その二人組はチラシをしっかり受け取ると「ありがとう」と笑いながら去っていった。

 

その手際の良さに千歌と梨子は感心する。

 

「よし!私も!」

 

千歌はそう言うと近くを通りかかった気の弱そうな少女に壁ドンする。

 

「ひぃ⁉︎」

 

「ライブやります。是非!」

 

「あわわわ…」

 

「是非‼︎」

 

半ば強引に押し付けると少女は逃げるように去っていった。

 

「勝った!」

 

「何で勝負してるのよ…」

 

「そんな事より!次梨子ちゃんの番だよ!」

 

「わ、私?」

 

「当然だよ。三人しかいないんだから!さあ!」

 

その時一陣の強い風が巻き起こり、梨子の持っていたチラシの何枚かを掻っ攫っていく。

 

「あぁ⁉︎」

 

梨子は慌てて手を伸ばすが届かず、何枚かは前方に飛んでいった。そのまま通行人の足元に張り付いてしまう。

 

「す、すみません!」

 

梨子は慌てて取ろうとするが、それよりも早くその通行人の男性は足元のチラシを掴み、残りのチラシも素早く回収する。

 

「はい、どうぞ。貴方のでしょう?」

少し髪の長い、優しそうな顔立ちをした少年だった。

 

「ありがとうございます…!」

 

温厚そうな人だった事に胸を撫で下ろす梨子。

 

「ライブ…?貴方達がやるんですか?」

 

「あ、はい。でも苦労してて……お客さんを沢山集めないと中々もう後がない状況なんですよ……」

 

「な、なるほど。それは中々大変ですね…」

 

話しても良さそうな雰囲気だったので梨子ついつい今の状況を愚痴ってしまう。

 

「僕も一枚貰っても良いですか?」

 

「え?良いんですか?」

 

「えぇ。僕も賑やかな催しは嫌いじゃ無いですから。」

 

そう言って梨子からチラシを受け取る少年。

 

「お客さん、沢山集まると良いですね。」

 

にこりと微笑むと少年は去っていった。 

 

梨子の胸は暖かくなった。

 

(初めてここに来た時は東京とは随分違って戸惑ってばかりだったけど……この街の人は皆優しい人ばかりだった。)

 

(やっぱり私もこの街の事…大好きなんだ)

 

 

ーーー

「沢山集まる……か…」

 

「ふふっ…確かに沢山人間が集まってくれたらビースト君たちもさぞかし嬉しいでしょうね。……っと。もうそろそろかな?」

 

「さあバグバズン、ご飯の時間だよ」

 

そう言うと少年はパチンと指を打ち鳴らした。

 

ドオオオオオン!

大地が揺れ、地盤が沈下する。たちまち人々の悲鳴が響き渡る。

ーーこの日沼津は二箇所目のビースト災害発生地となった。

 

 

 

 

 

 

(市街地にビースト⁉︎…でも丁度良いタイミングね!)

 

黒髪の少女は街の人々の混乱に乗じて近くのスーパーに忍び込み、パンやらおにぎりやらすぐに食べれるような物を手に取り、レジを通る事なく素早く店外へ出る。…所謂万引きというやつだが、お金を一切持っていない少女が急に訪れた空腹を満たすにはこうするしか無かった。

店員は街の騒ぎに気を取られており商品が盗まれた事に気付かない。

 

(ファウスト、ごめんだけどちょっと待って。今死ぬ程お腹空いてるから)

 

【好きにしろ。寧ろ周りの奴らを何人か喰わせておいて隙を作れば良い】

 

地面から出現した無数の触手に襲われている人の事など全く気にする事無くそのままさっき強奪したおにぎりに齧り付こうとする少女。

彼らには本来人間を助ける義理も何も無いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌ぁぁぁ!離して‼︎」

 

「千歌ちゃん⁉︎誰か、誰かぁぁぁ!」

 

千歌は突然出現した謎の触手に絡め取られ、宙に持ち上げられていた。曜も梨子も半狂乱になりながら周囲の人に助けを求めるが皆自分の身を守るのに精一杯で見向きもしない。

何で、何で、何で。何でまたこんな事が起こるの⁉︎何で私達はいつもいつも奪われるの⁉︎

誰か、誰でも良いから。

 

「千歌ちゃんを、助けてぇぇぇぇ!!!!!!」

 

他にも何十人と老若男女問わず触手は人間を捕獲すると本体がその姿を現す。

 

硬いアスファルトを突き破り巨大な芋虫に似た姿をした何かがモゾモゾと巨大な肉体をくねらせながら這い出してきた。

その先端には先程の触手を射出する口のようなものが存在し、両サイドの巨大な牙をギチギチと交差させる度に火花が飛び散る。

 

 

蟲好きをもドン引きさせる程のグロテスクな形をしていた。

 

「嫌だ!嫌だ!嫌だァァァぁぁぁぁ⁉︎」

 

捕われた人々はこれから起こる事を想像してしまい必死にその拘束から逃れようとするが人間の力ではどうする事も出来なかった。

 

 

「あっ…」

 

少女は捕われている人々の中に以前のあのオレンジの髪の少女がいるのを見つける。

 

【人間は脆い。大きな力の前にすると泣き叫び許しを乞うことしか出来ないのだから。無様な物だ】

 

少女は何も言わない。

(そうだ。遅かれ早かれこの星に住む者は皆こうなってしまう。しょうがないじゃない。強い生き物が弱い生き物に負ける。それが自然の摂理だってファウストも言ってたし…)

 

なのに。そのはずなのに。

(何なの⁉︎胸が締め付けられるようなこの苦しさは…?)

 

突然、少女は激しい頭痛に見舞われる。

「痛っ⁉︎」

脳裏に誰かの姿が浮かび上がった。その人物の後ろからは夕日のような光が差しており姿を朧げながらにしか見ることが出来ない。

 

「誰?貴方は誰なの…?」

 

【? おい、どうした?】

 

 

 

ーーー

 

「お願い………助けて」

 

ーーー

 

 

 

直後、少女はほぼ無意識にダークエボルバーを取り出し、勢いよく振り上げていた。

辺りは黒い瘴気とエネルギー粒子に包まれ収束しながら巨人の姿を生成していく。

 

突然千歌の身体を締め付けていた触手が断ち切られ、ようやく肺に新鮮な空気を充分に取り込むことができるようになった。地面に落ちるより前に千歌の視界は真っ暗になる。ふわりと優しく地面に下ろされる感覚と共に視界が開ける。

自分を包み込んでいたのは巨大な手だった。

 

「ぷはっ…ゲホッゲホッ‼︎」

何回か咳き込む千歌の上に巨大な影が覆い被さった。

顔を上げるとそこにはあの時の黒い瞳。瞳の中には千歌の姿が映し出されている。

 

「⁉︎ あの時の…黒い巨人……どうして?」

 

千歌を静かに見下ろす黒い悪魔…ダークファウストは何も言わずに街の方向に向き直ると右手首に左手をかざす。

渦を巻くように黒いエネルギーの奔流が収束し、楔形の光弾へと姿を変えるとサイドスローの要領で右手を地面と平行に振り抜き光弾を投擲。

地面を這うような高度で射出されたそれは全ての触手を切り落とし残りの人々の救出も成功した。

 

 

一瞬の信じられない出来事に千歌は唖然とする。

「私達を……助けてくれたの?」

 

 

「ーーーー!!!!!!」

 

食事を邪魔されたビーストは怒りの咆哮を上げる。蟲が口元をせわしなく動かした時に生じるような耳障りな音だ。

 

地上に露出させていた体の一部を引っ込めると土煙とガレキを巻き上げながら遂にその全貌を露わにした。

 

 

 ーーーインセクトタイプビースト・

            バグバズンーーー

クモや昆虫にも似つかない、それでいて虫のような姿をしているビースト。二つに割れた顎からは泥や岩がボロボロと零れ落ちた。

 

(相変わらずスペースビーストは気持ちの悪い姿をしたものばかりね)

 

【貴様…どういうつもりだ?】

 

少女はそう呟くが先程言った事と矛盾した行動をとる少女にダークファウストは困惑している。

 

(勝手に力を使ってごめん…でも一つだけ確信した)

 

(ビーストを根絶やしにしない限り私はずっと何かに苦しめられ続けるって事を……ねッ!)

 

突進してきたバグバズンの足元に光弾を放ち一瞬動きを止めさせると同時に腹部に強烈な横蹴りを叩き込んだ。

 

 

 

 

大地を蹴りながら敵に突っ込んでいく少女(ファウスト)の姿には自分の命を省みるような様子は一切見られない。

 

 

 

 

「美しい……」

ビルの屋上から戦闘を見物している先程の少年は感動して身体を大きく震わせていた。

 

「悩み、葛藤し、もがき苦しみながらも戦う。やはり戦闘はこうでないと見栄えしませんね。」

 

「貴方の決意に満ちたその表情がこれからどうなっていくのかとっても楽しみです。期待していますよ、姉さん(・・・)。」

 

少年はニコニコしながらその場を去っていった。

 

 

 

 

バグバズンは両手の鋭い鉤爪を何度も振るうがファウストには一撃も当たらない。

 

「シッ!」

余裕を持って躱しながらカウンターの突きと蹴りを何度も腹部にめり込ませる。攻撃前のモーションが大きすぎてどう攻撃してくるのかすぐに予測する事が出来るのだ。

 

堪らず後退するバグバズンに向かって捻り折った鉄塔を投げつける。

鉄の破片の一部が顔面に突き刺さり絶叫する敵に向かってファウストは全速力でダッシュ。

接触するタイミングを見計いバグバズンは再度鉤爪を振り回してくるが敵の攻撃レンジギリギリでファウストは一瞬停止し地面を思いっきり踏みしめる。

目の前を豪腕が掠めたところで体を横方向に回転させながら跳躍し、バグバズンの顔面にローリングソバットを命中させた。

 

力無く倒れ込むバグバズンの首を掴み、締め上げながらその巨体を持ち上げる。

 

(期待外れね…この程度の強さでわざわざ市街地にしゃしゃり出てこないでくれる?ねぇ?)

 

バグバズンは手足をバタつかせて暴れるがそんな事は一切気にせず少女(ファウスト)は敵の首を絞め続ける。

 

(人間に囲まれながら戦う程鬱陶しいものなんて無いから。貴方達に私の苦しみが分かるの?何度も何度も私を捨てた奴らがいる場所に留まらないといけない私の苦しみが)

 

バグバズンの体は何度も痙攣し、口からは大量の泡が吹き出している。

 

(ま、こんな事言ってもしょうがないか。そろそろ楽にしてあげる)

 

右の拳にエネルギーを集中させ、赤黒いオーラを纏った右ストレートを敵の腹に叩きつけた。

 

バグバズンは人形のように高く吹き飛ぶ。

落下した場所は建造物も人間も存在しない空き地のような所だった。

 

 

 

 

 

 

「やっぱりそうだ……あの巨人さん、周りの人守りながら戦ってる」

梨子は確信したように小さく呟く。

 

「私はまだ信じられない。あんな姿をしたのが私達の味方だなんて。でも、でも…あの巨人が来なければ千歌ちゃんは今ここに居なかった…」

 

「そっか…そうだったんだ…」

千歌は曜に抱きしめられた手を握りながらファウストが戦っている方向を見つめる。

 

「私達が正義の味方の姿はこうあるべきって勝手にきめつけていただけなんだね…」

 

「あの人の手の中、とても暖かかった。」

 

 

 

 

 

ファウストはフラフラになったバグバズンに止めを刺すために距離を詰めていく。

その時だった。

 

【(英雄気取りの小娘が…調子に乗るな)】

 

(あ…れ……?)

突然身体の自由が効かなくなり、その場に両膝をつく。

 

目眩を起こしたように視界が回転しほんの数秒間、立ち上がることすら出来なくなった。

 

その瞬間をバグバズンが見逃す筈がない。

眼前に迫る巨大な肉体。何とか渾身の力を振り絞り身体を捻って躱そうとするがもう遅かった。

 

「ガァァァ⁉︎」

 

腹を貫かれ苦悶の声を上げる少女(ファウスト)

バグバズンが強引に鉤爪を引き抜くと同時に腹からは黒い粒子が大量に飛び散った。

 

 

「あぁ………!」

 

ファウストは機能を停止した機械のように仰向けに倒れながら消失する。

 

バグバズンは背中の翼を広げると逃げるように飛び去っていった。

 

 

 

 

「うぅ…」

 

少女はガレキに背中を預けると深く傷付いたお腹に手を当てながら傷口が塞がるように全神経を集中させる。

 

「ゲホッ!」

 

口に溜まっていた血を吐き出した。すると近くにいた男性が血相を変えながらこちらに近づいてくる。

 

「ちょっと君!大丈夫⁉︎すぐに救急車呼ばないと!」

 

先程少女が商品を盗んだ店の従業員だった。

 

「‼︎ 盗んだのバレた⁉︎ヤバい!」

 

痛みと疲労で体中が悲鳴を上げるが構わず少女は走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

千歌たちは沼津の人々の土砂やガレキの撤去作業を手伝っていると突然叫び声が聞こえてきた。

 

「ちょっと君!酷い怪我してるから待って!てか足速!」

 

そちらの方を見ると、黒い服を着た傷だらけの少女がスーパーの店員らしき人から全力疾走で逃げていた。

 

「あの子酷い怪我…!」

梨子と曜が仰天していると千歌が少女の前に飛び出す。

 

「ストップストップ!病院行かないと大変だから!ちょっと落ち着いて…」

 

「ちっ……」

 

少女は構わず千歌の目の前まで肉薄する。

 

「わっ!」

 

ぶつかりそうになり千歌は目を瞑ってしまう。

接触寸前で重心を左に傾けながら逸れようとするとその先に梨子と曜がいることに気づいた少女は瞬時に右に切り返した。

 

そのまま三人を突破すると進行方向に集まっている群衆をーー

 

ーー飛び越えた。

 

「す、凄い…」

 

少女はそのままビルの影に消えていった。

 

 

 

 

 

ーーー

 

「はあっ…はあっ……!」

 

薄暗い小路で少女は肩を上下させる。

 

(ビーストに逃げられた…)

 

おまけに人間に同情される有様。惨めだ。怒りと悔しさが迫り上がって来る。

 

「くそっ!!!!!!」

壁に拳を叩き付ける。

その瞬間、視界がまたぐるぐると回り始める。何とかバランスを保とうとするが立つ事も不可能だった。

全身から汗が吹き出し、景色がひっくり返る。

(そう言えば結局何も食べて無い……)

 

意識が遠のいていく。

 

(はぁ、最悪………)

 

 

少女はそのまま地面に昏倒した。

 

「CIC、目標(ターゲット)の身柄を確保しました」

 

「これより帰投します」

 




遅くなり大変申し訳ありせん

カットしてしまったストーリーは後で回想シーンみたいな感じで挿入しますね
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