僕は心が痛むような描写は苦手なので上手いことお話に挿入出来るか不安です…ご理解の程宜しくお願いします
混濁した意識の中、思い出すのはあの忌まわしい記憶ーー
◇◇◇
「ーーーー?」
やめてよ…何でそんな顔するの?
「ーーーー! ーーーー?」
昨日まであんなに優しかったのに…何で⁉︎
「ーーーー。ーーーー、ーーーー?」
違う、違うから!嫌、そんなの嫌……
次にかけられる一言がどんなに恐ろしいものか想像してしまう。
「私の子供に触らないで!」
その想像と現実に寸分の差異も無かった。
やだ…やだやだやだやだやだ
「ひっ…近寄らないで!この……化け物!」
心の中で何かが音を立てて崩れていくような感覚
私は悲しみと絶望に打ちひしがれ、ただ叫び声を上げることしか出来なかった。
「うっ、えぐっ… わああああああああああああああああああああ!!!!!!」
◇◇◇
「んぅ…?」
目を開けるとまず目に入ったのは知らない天井。慌てて身を起こそうとすると左手に管が繋がれている事に気が付く。少女はそれが栄養剤の点滴だという事に気づかず乱暴に引き抜いた。チクリとするがこんなものは痛みの内に入らない。
少女は一先ず身の安全が確認できた所で周囲の状況を把握する。
まず自分がいるのは何処かの部屋。周囲には幾つかの器具が備え付けられている。寝かされていたベッドはシンプルな作りではあるが正直かなり寝心地が良かった。
……普段自分が寝ている所と比べ物にならないくらいには。
ベッドの側にダークエボルバーと上着が置いてある事に気付き、急いで身に付けようとする。盗まれていない事に胸を撫で下ろす少女だったが、同時にわざわざ外に出してあるという事は誰かがダークエボルバーや自分の事を調べたという事にーー
「…よく眠れたかな?」
目の前にいきなり一人の男性が現れた。
「‼︎」
その男性にダークエボルバーを向け臨戦態勢に入る少女。
「待って!急にこんな所に連れて来てしまったのは少々手荒だったし本当に申し訳ないと思っている。けど僕たちは君に危害を加えるつもりは無い」
「僕『達』……?他にも何人か仲間が居るという事ね…まぁ一般人が何人寄ってたかろうが私を倒せるとは思えないけど」
「君は酷い怪我をしていただろう?その治療をしただけなんだ。まさか点滴を引き抜かれるとは思わなかったけど」
なるほど、だから病人が着るような服装と身体中に包帯が巻かれているわけか。
「知らない男が勝手に私の身体に触らないで頂けます?そんな変態の弁解など誰が信じろと?」
話は済んだとばかりに目の前の男性をダークエボルバーで気絶させ部屋から脱出しようとする少女。部屋一体が切迫した緊張感に包まれる。
その時だった。
「あっあの!」
部屋の扉が開き、白衣を着た若い女性が飛び込んで来た。
「わっ私が貴方の傷のっ、てっ手当てをしたんです!だっだから…
白衣を着ている女性の顔立ちは非常に整っており、背もかなり高いのだが、しどろもどろになりながら話すせいで全く大人びた雰囲気や威厳は感じられなかった。
「ああ、そうなんですね。でもそんな事どうでも良いです。私を拉致した時点で貴方達の事は信用していませんので」
「えっ…そ、そんなぁ………」
その女性は怒るような事はせず…泣きそうな表情になる。
「
「あぅ…ごめんなさい。で、でも外からその女の子と
「あと僕の事は名前でなく……」
「あぁっ!失礼しましたっ!イラストレーター、さん。あはは…」
「………」
どうも自分を拉致した組織の一員とは思えない程気の抜けた会話をするその女性に少女は調子を狂わされる。
【おい、話だけでも聞いてやれ】
(ファウスト⁉︎)
【普通の人間からは認知されないお前に向こうから接触して来たんだ。おそらく私の存在も把握しているだろう。下手に攻撃的になるのも危険だ。】
(ファウストがそう言うなら…)
「この感覚…やはり君がウルティノイドの力をその身に宿しているんだね?」
「ファウストの事が分かるの?」
「僕自身も特殊な能力を少しだけ持っているからね。君ほどでは無いけど」
「……貴方達…一体何者?」
若い男性は軽く咳払いすると胸に手を置いた。先程の少し気安い態度とは異なり格式張った口調ーー態度を改めたらしい。
「自己紹介が遅れてしまいましたね。僕の名前は
「みんな彼の事を『イラストレーター』って呼んでるんですよ!」
背の高い女性の方も白衣の襟を正すと背筋をピシッと伸ばした。
「わっ私の名前は
それでも頼りなさそうな雰囲気はあまり変わっていない。
「……少し驚きました。まさか私以外にスペースビーストと戦うのがいるとは。まぁ大して役に立ってないみたいですけど」
先程から失礼極まりない事を平気でつらつらと述べる少女。
「ビーストに関する情報収集と街の修復が僕たちTLTの主な任務ですからね。一応戦闘部隊も所属しているけど大型ビーストと戦える程の戦力はまだ保持していません。……ですが」
イラストレーターはそこで一旦話すのを辞め、少女の顔を真っ直ぐ見つめる。
「スペースビーストの生態・行動目的その他様々な情報を取り扱っています。例えば……『記憶』とか」
「……! 詳しく話して下さい!」
「もちろんです。その為に君をここに連れてきたのですから。」
いきなり詰め寄ってくる少女に対して淡々と答える男性。何処か緊張しているようにも見える。
「あの!」
突然先程の背の高い女性、瑞緒が話に割り込んで来た。
「貴方のお名前…まだ聞いてませんでしたよね?もし良ければ…」
「七瀬君!彼女は………!」
何かを言おうとするイラストレーター。触れてはいけない何かを彼は既に把握しているようだ。
「
「え?」
「いや、だから。私の名前です。知りたいんでしょう?まぁ知られたところで別にどうなるとも思いませんけど。」
「……君を育てた親は居ますか?」
「私に名前があるって事はいたんでしょうね。物心ついた時からずっと一人でしたけど」
自分の名前にさして興味も無い少女。「それより」と再びイラストレーターに詰め寄る。
「『記憶』を取り扱うとはどういう事ですか?説明して下さい。」
「………分かりました。それも踏まえてまず君には我々TLTについて説明しなければなりません」
時は二十世紀後半まで遡る。
1990年、アメリカ・コロラド州に巨大な飛行物体が落下。人類は初めて地球外知的生命体と接触する。その場に立ち会った調査員達は、遠く離れた別宇宙から地球に訪れたその生命体を「来訪者」と名付ける。
来訪者の母星は謎の生命体「スペースビースト」とそれを操る「黒き生命体」により壊滅させられており、その脅威が地球にも迫っている事を来訪者により伝えらた。
その脅威に対抗するために世界各国の政府は新たな組織を設立する。それが
TLT。正式名称はTERRESTEIAL-LIBERATION-TRUST(地球解放機構)であり、日本支部は関東に存在する大型ダムの内部に建設された巨大要塞・フォートレスフリーダムを活動拠点としている。スペースビーストの駆除を行いながらその生態を調査・研究し、更にはビーストによって破壊された街の修復も行っている組織である。
「ビーストに破壊された場所に、我々が来訪者と共に開発した特殊人工衛星『レーテ』から撃ち出す光を当てる事で修復する事ができます。流石に死んだ人間を蘇生させる事は出来ません。一日に一回、人間の活動が一番減少する深夜に起働させています。」
少女は話の内容が自分の知る常識を逸脱しており困惑している。
しかし彼の明瞭な話し方と真っ直ぐこちらを見つめる視線からはとても嘘をついているようには見えなかった。
現に彼はいきなり目の前に現れ、自分の体に自分以外の存在が宿っている事を一瞬で見抜いた。特殊な力を行使していることは間違い無い。
「そこで、ビーストに襲われた人々の記憶も消去するんですよっ。皆さんに恐怖やトラウマを植え付けさせてしまうわけにはいきませんから。」
宙の拳は血が流れ落ちるほど固く握りしめられていた。
「………つまり貴方達が今までずっと人々からビーストとそれに関する記憶を全部奪っているんですね?」
「はい、ですg」
イラストレーターが口を開いた瞬間、その顔面目掛けて足が飛んでくる。
【ホログラムか…】
「わあああ!何するんですか⁉︎やめて下さい!」
瑞緒が慌てて動きを抑えようとするが突然逆鱗に触れた宙の怒りは収まらない。瑞緒をそのまま突き飛ばした。
「きゃっ!」
「おい!そこを動くな!」
騒ぎを聞きつけた制圧部隊が何人も部屋に突入し、瑞緒の安全を確保しながら宙に大型ライフル・ディバイドランチャーを向ける。
「待て!」
イラストレーターが手を伸ばしてそれを制した。小さな部屋の中は今度こそ完全に一触即発の状態になる。
「ふざけないで……!」
「私が今までどれだけ惨めに生きてきたか……貴方達のせいで!」
こんなに怒りを覚えたのは久しぶりなのかも知れない。視界が真っ赤に染まって見える。出来る事ならこの施設を壊し尽くしてやりたかった。
物心がついた時から私はずっと一人だった。
大きな建造物が立ち並び大勢の人々が大通りを行き交う中、何故か一人でその中に放り出されている状態。誰も私に見向きもしないので道行く人に勇気を持って話しかけてみると気味悪がられ避けられた。
そんな中私は生きるためにゴミ箱を漁り食べられる物を見つけながら必死に命を繋ごうとした。
……あの時何故あそこまで必死になっていたのか今でもよく分からない。誰かから貰った命だからだろうか?
誰も私という存在に見向きもしない。例え誰かが運良く拾ってくれても次の日には忘れられ、追い出される。私は寂しくて辛くて胸が張り裂けそうだった。
どうして…
どうして皆私のことを忘れてしまうの?
何でいつも一人にならなければいけないの?
その理由がようやく分かった。
……これまで私はファウストの言うように全ては突然地球に現れたビーストのせいだと思い、憎しみをそいつらに向けていた。
けどそれは違う。TLTとかいう奴らが全世界の人間の記憶から私の存在ごとビーストを抹消させていたのだ。
何故私の存在も一緒に人間の記憶から消去されるのか……それは私に「ダークファウスト」の力が宿っていたからだろう。
人間がスペースビーストに対して恐怖を抱くのならそのスペースビーストを何度も殺してきたファウストの力に恐怖を抱かない筈がない。
そういった脅威に遭遇しながらも生き長らえた人間から記憶を消去する事で、
何も知らずに生きるのはさぞ幸せなことだろう。
毎日世界規模で記憶の改ざんが行われていれば誰も私という存在に気付く訳が無い。私は大勢の人間の無知と幸せの為に死ぬ程の思いをしながら毎日生き、血を吐きながらビーストと戦ってきたのだ。それが許せなかった。
「……君の怒りは最もだ」
イラストレーターは声を絞り出すように話し始める。
「我々はこれまでずっと君という一人の人間の生きる場所を奪ってきた。今更許して欲しいと懇願する資格も無い。………だが世界中の人間からビーストに対する恐怖の感情を消さなければこの星にビーストは無限に現れてしまう。いくら倒したとしても。」
「……どういう事?」
「ビーストは生物の『恐怖』を糧として誕生する特異な生き物なんだ。もし倒されたとしても人間からより多くの恐怖の感情を得る事ができればまた新しい個体が誕生してしまう。放置していればトラウマや心的外傷後ストレス障害を持つ人間が続出したり世界規模で混乱が起き経済活動が停滞するだけでは無い。時間をかける事なく地球上にビーストが大量に発生し、あっという間に死の星となってしまう。
……それだけは絶対に避けなければならない。」
「だから私にはこれからもこのままビーストと戦い続けろって事?ふざけないで‼︎」
「いや、違う。今度こそ君に普通の生活が送れるよう支援がしたい」
「は?」
ーー数時間後・TLT・司令室ーー
「イラストレーター、お疲れのようですね。」
「ホログラムのシステムには本当に感謝しているよ。あれが無ければ今頃僕の頭は胴体から切り離されていたかもしれない。」
「それで……『ミカエル』との交渉は?」
「あの少女には高海宙という名前があるみたいなんだ。だからそんな呼び方はしないであげてくれ。」
咄嗟に釘を刺すとそのままイラストレーターは話を続けた。
「一応僕たちの要求には応えてくれたよ。ただ、無理にこちらから歩み寄ろうとすれば今度こそ彼女はこちらに牙を向くかもしれない。今は落ち着いて様子を見ようと思う」
「なるほど……しかし驚きましたね。名前があるという事は少なくとも一定期間誰かが育てていたという事になりますが、そうなるとその育てていた人間は……」
「間違いなく
「しかし本当にあの少女の力を頼りにしても良いのですか?彼女に宿るのはウルトラマンや人類に敵対する『ウルティノイド』の力なのでしょう?」
室内は静まり返り、ただ機械が情報を処理する時に生じる電子音だけが響く。
「彼女が今までどんな目的を持ち戦っていたのか…僕には分かりませんが……管理官?」
「どうしました?」
「彼女が2回目に『ウルティノイド』の力を使った時……まず何をしたか覚えていますか?」
「報告によれば……ビーストに捕われた十数人をまず解放した……と」
管理官の言葉には疑いの念がこもっていた。報告の内容に『彼女が味方であって欲しい』という希望的観測が含まれており、判断における資料的価値に欠けると感じているのだろう。
「僕たちがまず信頼しなければ、彼女も心を開いてはくれないでしょう。」
「本気ですか?ビーストから人間を奪い返したのは他に理由があったかもしれないんですよ?殺さず捕らえてずっと『恐怖』を与え続ける……のように」
「その可能性があったとしてもだよ。僕たちは二度と同じ過ちを犯すわけにはいかないんだ。」
そう言うとイラストレーターは椅子を回転させくるりと後ろを向いた。
「貴方達もそう思うでしょう?」
そこには巨大な水槽があり、中には何匹かのクラゲが泳いでいた。
「そう言えば、一つ報告する事が……」
「どうしました?」
イラストレーターが続きを促すと管理官は緊張を含んだ声でこう答える。
「8日程前の10時13分42秒、富士山のある区域に『レーテ』の光が放たれていた事が分かりました。
ーーー無断で使用されたものと思われます」
「ここが、今日から宙さんが暮らすお部屋ですよ!」
瑞緒は声を弾ませながらとあるアパートの一部屋を駆け回っている。
「ここがキッチンで、ここがトイレ!バスルームだってあるんですよ!あっバスルームっていうのはですね…」
「ねぇ」
瑞緒の止まらない話を宙が遮る。
「何で今更私に『普通』の生活をさせようとするんですか?」
「何でって……宙さんは女の子なんですよ!いつまでも山中でサバイバルみたいな暮らしを強いるわけにはいきません!こんなに綺麗な女の子をッ!」
「そうさせたのは貴方達ですけどね」
「本当にごめんなさい……」
瑞緒は顔を俯けながら一言一言丁寧に言葉を紡いでいく。
「私達は不手際のせいで今まで貴方にずっと苦しい思いをさせてきました。もう辛い思いをさせるのは無しにしたいんです。レーテにも修正を加えたので宙さんはこれからは誰にも忘れられずに生きていく事が出来ます。だから…!」
「戦いはどうするんですか?貴方達が何とかしてくれるんだったらもう私が何かをする必要もないのだけども」
【…………】
「私達にはまだ大型ビーストに渡り合えるような力はありません。でも……宙さんに戦いを強いるつもりもありません。」
「へぇ……意外です。何かを質にとって私に戦いを強いるか泣きついてくるかどちらかの手段を取るのかと思ってました。」
「確かに貴方の力は本当に必要なんですけど……まずは人と関わって、温かさを感じて、友達を作ったり恋をしたり……泣いたり笑ったり、たくさんの事を体験して欲しいんです。」
「今までファウスト以外誰とも関わりを持たなかった私にそんな事出来るわけ「大丈夫です。」
瑞緒が優しく宙の手を握る。
「私の言うことなんて何の根拠も無いかもしれないですけど……でも、ここに住む人結構良い人達ですから。きっと上手くいきます。これから生きていく中でもし、本当に『守りたいもの』が出来たらその時は力を貸してくださいね。」
瑞緒は手を離した。宙の手の中にはまだ温もりが残っている。
「そろそろフォートレスフリーダムに戻らないと。あっお金とかは私達TLTが全て負担するので心配しないで下さい!困った事があって何か相談したい事があれば携帯から私にかけて下さいね。使い方は教えたので多分問題無いと思うんですけど…… それでは!これからの日常生活や
瑞緒は急いで部屋を出て行った。階段あたりで何か凄い音がしたが気にしない事にする。
「何で……あんなに簡単に彼らの言う事を聞いたんだろう?」
部屋の端に視線を移すと高校の制服が掛かっていた。
正直、「学校」という場所に行く必要も勉強する必要もどこにも無いが、今までの様に過ごしていてもビーストが出現した時以外はずっと暇になってしまう。
暇を持て余すにはちょうど良いだろう。
宙は今着ている黒い服を脱ぎ、試しにその制服を着てみる。
その制服は紛れもなく「浦の星女学院」の制服だった。
ようやく主人公の名前を明かす事が出来ました。
彼女の過去についての説明は不十分な所もあったかもしれないですが、これから話を進めていく上で結構重要になってくるので是非覚えておいて欲しいです。
次回からは主人公の学校生活が始まるので千歌ちゃんたちとチョメチョメ絡ませていきたいです。