模造巨人と少女   作:Su-d

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映画ULTRAMAN 本当に素晴らしい作品でした
家族のために頑張るお父さんが主人公なのいいですよね
僕ああいうかっこいいおじさんキャラ大好きです


9.真実

それは良く晴れた日の昼下がり。浦の星女学院では午前中の授業が終わり、生徒達は皆それぞれ昼食をとっていた。

千歌もいつもは曜、梨子と昼食を共にしているがその日は少し違った。

 

「はむっ…んぐっ……」

朝あまり食べれなかったせいで昼の食欲が凄まじい千歌。その隣で箸の使い方を完璧にマスターした宙が夢中で弁当を頬張っている。

頰にご飯粒がついている事を除けば、宙の方が千歌より箸の運び方が上品だった。

 

「いつにも増して食べるわね…」

梨子がそんな千歌を見て感心している。

 

あふぁはへてなはったはへ(朝食べてなかっただけ)!」

 

「飲み込んでから喋ってよ!」

 

梨子が少し顔を背けながらそう言うと千歌はお茶で口の中の物を一気にお腹に流し込んだ。

 

「にしても宙ちゃんは本当に今まで高校の勉強した事無かったの?とてもそうは思えないけど…」

曜は頬杖をつきながら宙にそう尋ねる。

 

「基礎的な部分は以前ファウストに教えて貰った事があります。そのお陰かもしれません」

 

「いやいや、そうだったとしても大分おかしいよ…」

宙は一度読み込んだ教科書の内容を完璧に理解し、即座に知識として活用していた。千歌達は教えるどころか理解出来なかった所を逆に教えてもらう立場になっていた程である。

宙の理解力と順応性は並の人間を遥かに凌駕していた。

 

千歌・.曜・梨子は最初の内こそ驚いていたものの、宙が問題無く学校生活が遅れる事を喜んだ。「怪獣と戦う凄い力を持っているくらいだから」と三人は既に割り切っているようだ。

 

「あっ」

突然宙が声を上げる。

 

「どうしたの?」

それに気がつき曜が声をかける。

 

「この匂い…これ私知ってます」

宙が箸で摘んでいるのは牛挽肉の塊だった。

 

「ハンバーグの事?美味しいよね!」

 

「いえ、食べた事は無いんです。でも匂いは知ってます。」

 

「…どういう事?」

宙の曖昧な言い方に三人は首を傾げる。

 

「私に住む場所が無かった時…行くあてもなく外をほっつき歩いてたら近くのお家からこれと同じ匂いが漂ってきたんです。その匂いを嗅ぎながら雑草を噛んでたら何だか私もこれを食べてた気分になって………って何で泣いてるんですか⁉︎」

 

「宙ちゃん……私の分もあげる」

 

「私のも」

 

「くっ…」

 

無くなりかけていた宙の弁当箱の中に新しくおかずが乗せられる。

 

「ほ、本当に良いんですか?」

尋ねた時に弁当箱の中身は既に空っぽになっていた。

 

 

 

彼女にとって今一番大切なのはお腹いっぱい食べる事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば千歌ちゃん、そろそろ時間じゃない?」

 

「あっ!そうだった!行こう行こう!」

梨子の言葉に千歌は慌てて片付け始める。

 

「楽しみだなぁ…」

どことなくうきうきしている三人を見て宙は首を傾げる。

 

「何かあるんですか?」

 

「うん!理事長にね、部室の鍵もらいに行くの!」

 

「私達新しくスクールアイドル部っていう部活動立ち上げることになったのよ。」

 

「あぁ〜楽しみだなあ…ようやく私達ラブライブへの道を歩み始める事が出来るんだ!」

千歌は嬉しさのあまりくるくると回り始めている。

 

「すくーる、あいどる……?スクールアイドル……⁉︎」

 

刹那宙は以前の出来事を思い出した。

 

 

○○○

「やめて!」

 

「貴方に何が分かるの⁉︎」

 

「希望?輝き?笑わせないで。そんなものに縋り付いて一体何になるって–––––––––」

○○○

 

宙が以前千歌に向けたのは千歌達のスクールアイドルなる物を完全に否定する言葉だった。今更ながら自分の言った事を後悔する。

やるべき事は一つだった。宙は立ち上がると千歌達に向かって深々と頭を下げる。

 

「へ?ちょ、急にどうしたの?」

 

突然の事に驚き固まる千歌達三人。謝罪するタイミングがあるなら今が絶好の機会だった。

 

「千歌さん、今更かもしれませんが以前スクールアイドルなる物のライブに誘って頂いた時、声を荒げてしまって本当にすみませんでした」

 

他の生徒の視線を感じるが、構う事無く頭を下げたまま喋り続ける。

 

「千歌さん、曜さん、梨子さんの仰る『スクールアイドル』がどんな物かは私には分かりませんが、皆さんが誇りを持ってその活動を全うされている事は分かります。そんな大切なものを否定してしまって………本当にごめんなさい」

 

「宙ちゃん」

 

宙の肩に千歌の手が置かれ、ゆっくりと顔を上げさせられる。千歌達と視線がぶつかると視線を落としてしまう。けじめをつける為とは言え、あの時の事を蒸し返したせいで千歌達を怒らせてしまうことが怖かった。千歌が顔に向かって手を伸ばしてくる。宙は覚悟を決め目をギュッと瞑った。

 

「えいっ」

 

ぶにっと両頬を摘まれ持ち上げられる。

 

「へ?」

 

「もう、宙ちゃん気にしすぎ。そんな事で私も曜ちゃんも梨子ちゃんも怒ったりしないから大丈夫だよ。」

 

「それに宙ちゃんにも今まで辛かったり苦しい事が沢山あったっんでしょう?」

 

「尚更怒れる訳無いじゃんね。」

曜も梨子も優しく笑っていた。

 

みなふぁん(皆さん)…」

 

宙はその言葉に感激していると千歌が何かを思いついたように手を叩く。

 

「そうだ!もし良かったら宙ちゃんも一緒に部室来ない?折角だから、もう一度宙ちゃんにスクールアイドルの事、私達の事……よく知って貰いたいの!」

 

「そんな事言って…ついでに宙ちゃんにも部室の片付け手伝ってもらうつもりなんでしょう?調子が良いんだから…」

千歌の考えをとうに把握している梨子が横から半目で千歌を見る。

 

「お願いします!」

宙がいきなり千歌に詰め寄る。

 

「え?本当に⁉︎」

 

「はい!是非!」

 

「やったあーーーー!!」

千歌は嬉しさのあまり宙に抱きつく。

 

「本当に良いの?」

 

「はい。皆さんのお手伝いが出来るなら喜んで。それに……」

千歌に抱きしめられ顔を赤らめる。

 

「皆さんが部室に行ったら私教室で一人ぼっちになっちゃいますから。ついて行っても良いですか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで良し!」

千歌は体育館の隣にある小さな部屋の扉に「スクールアイドル部」の札を取り付ける。この部屋こそ今日からAqours(アクア)の活動拠点となるのだ。

 

「それにしてもまさか本当に承認されるなんて!」

 

「部員足りないのに… 」

 

「理事長が良いって言うんだから良いんじゃ無い?」

 

「良いって言うか…ノリノリだったよね」

曜は理事長・鞠莉が意気揚々と判子を申請書に叩きつける様子を思い出して苦笑する。

 

◇◇◇

 

「しょーーにんっ!」

ニコニコしている鞠莉はふと部屋の隅に控えている宙に目を向ける。

 

「Oh!貴方はtransfer studentの!無事お友達を作ることが出来たんですね?」

 

「と、友達⁉︎ お友達……へへ…友達、ですかぁ…」

 

「初対面の時からは想像もつかないくらい緩んだ顔…」

曜と梨子は宙の様子を見て唖然としている。

 

「宙ちゃんは私達の大切な友達で、家族みたいな関係ですよ。今一緒に住んでますから!」

千歌はそう言って胸を張る。

 

「じゃあやっぱり千歌さんと宙さんは血のつながりがあるの?苗字も一緒だし」

 

「いや、多分それはただの偶然じゃないかと」

 

「顔は千歌さんとは全然似てませんね。寧ろ何処となくダイヤに似てる……?」

鞠莉は宙の言葉を既に聞いておらず、彼女に近付き頭から爪先までじっくりと観察している。

 

「あ、あのもうそろそろ…」

 

「でも」

鞠莉はそう言うと少し視線を落とし、悪戯っぽく笑う。

 

「こっちはダイヤよりも大きいね!」

 

宙は鞠莉の言っている事がよく分からなかった。

◇◇◇

 

「お話を聞く限りだと理事長は当初千歌さん達に無理難題を押し付けてスクールアイドル部の活動を出来ないように仕向けたんですよね?それがどうして突然肩を持ってくれるんでしょう?」

宙は鞠莉の事を訝しんでおり、いまいち信用していなかった。

 

「スクールアイドル好きなんじゃ無いかな?」

脚立からするすると降りてきた千歌はそう答える。

 

「とにかく、入ろうよ!」

 

 

ーー部室内ーー

「うわぁ…」

 

目の前にあるのは大量の段ボールや本、クシャクシャになった紙その他様々なゴミが散乱していた。あまりの荒れように千歌達は開いた口を塞ぐ事が出来ないでいる。

 

「片付けて使えって言ってたけど………これ全部⁉︎」

千歌が悲鳴に近い声を上げる。

 

「文句言っても誰もやってくれないわよ?」

 

「大きな物を運び出すのは私に任せて下さい。皆さんに怪我をさせるわけにはいきませんから。」

梨子、曜、宙の三人は腕を捲り既に片付けに取り掛かろうとしている。

 

「もう…でも、しょうがないよね!」

千歌も慌てて作業に取り掛かった。

 

 

 

 

「なるほど…『スクールアイドル』は華やかな衣装で着飾り、歌って踊る女子高校生達の事を言うんですね?」

 

「そう!それで何に何回か全国規模でスクールアイドルの大会があるんだけど、それを『ラブライブ』って言うんだよ」

掃除中、宙は千歌からスクールアイドルについての話を詳しく聞かせて貰っていた。

 

「じゃあ皆さんはスクールアイドルで…ラブライブを目指して頑張ってるって事ですか?」

 

「そう!私が一番憧れてるアイドルグループがこの人達。音ノ木坂学院高校スクールアイドル、μ's(ミューズ)だよ!」

千歌が見せてきた携帯の画面には9人の少女達が写っていた。

 

「わぁぁ…皆さん達もこんな華やかな衣装を着るんですか?絶対可愛いじゃないですか!見てみたいです。」

 

「あはは…嬉しいけどそう言われると何か恥ずかしいなぁ…」

 

「ん? 何か書いてある。」

突然千歌が汚れたホワイトボードに薄く文字が書かれているのを見つける。

 

「歌詞かな?」

 

「どうしてここに?」

中途半端に消されているせいでその内容を読み取る事は出来なかった。

 

「ん?」

不意に視線を感じて宙は振り返る。

部室の窓から一瞬赤い髪の毛のような物が見えたのを彼女は見逃さなかった。

 

 

 

 

 

ーー図書室ーー

「やっぱり、部室できてた!スクールアイドル部承認されたんだよ!」

千歌達のファーストライブを見に来ていた少女、黒澤ルビィは声を弾ませながらカウンターにいる友人に話しかける。

 

「良かったね〜」

ルビィと共にライブを見に行ったその友人、国木田花丸は彼女に優しく笑いかけた。

 

「うん!あぁ〜またライブ見られるんだぁ…」

ルビィは恋い焦がれる様に頰に手を当て恍惚とした表情を浮かべている。花丸はそんな彼女を微笑ましく思っていた。

(良かったぁ…ルビィちゃん、これでようやくーーー)

 

突然図書室の扉が開かれる。

 

「こんにちはーー!」

 

「ピッ⁉︎」

鳥のような声を上げながらルビィが飛び上がり、ヌルリとした動きで扇風機の後ろに隠れた。

 

「あ、花丸ちゃん!……と!ルビィちゃん!」

どう見てもバレバレだったので千歌が目ざとく彼女の存在を指摘する。

 

「ピギッ!」

 

「良く分かったね?」

 

「ふっふ〜ん」

曜の言葉にドヤ顔を見せる千歌。

 

「「エッ」」

梨子と宙はいまいちそのノリに着いていく事が出来なかった。

 

「こ、こんにちは…」

天敵に怯える小動物のようにルビィは扇風機からおずおずと顔を覗かせた。

 

「かっ可愛い!」

その仕草に千歌は顔を輝かせる。

 

「これ部室に置いてあったけど…図書室の本じゃ無いかな?」 

 

「多分そうです。ありがとうございます」

 

「はい!こっちも」

梨子と曜が渡してきた古本を花丸は丁寧に受け取った。

 

「残りの本はどうしましょう?」

二人の後ろから誰かが歩いてくる。大量の本で顔は完全に隠れており、花丸からは本の山が歩いてくるように見えた。

 

「ひぇぇ…誰?」

 

「千歌さん、曜さん、梨子さんのお手伝いです」

 

「随分力持ちなお手伝いさんずら…」

 

「スクールアイドル部へようこそ!」

千歌が突然花丸とルビィの手を握る。二人は揃って小さな悲鳴を上げたが千歌は気にせずに捲し立てる。

 

「結成したし、部にもなったし、絶対悪い様にはしませんよ?二人は絶対キラキラする!間違い無い!」

 

「千歌さんって誰に対してもこんなに明るく振る舞えるんですね!羨ましいです」

 

「あはは…」

 

ルビィも花丸も言葉を詰まらせる。

 

「オラ…そう言うの苦手で…」

 

「ルビィも… 」

ルビィの言葉に花丸は悲しそうな顔をするが誰もそれに気づかない。

 

「千歌ちゃん、無理矢理は可哀想だよ?」

 

「そうだよ。二人ともまだ入学したばっかりなんだし」

曜と梨子が半ば強引に勧誘している千歌を嗜める。

 

「そうだよね。あはは…可愛いからつい…ごめんね」

 

「千歌ちゃん、そろそろ」

 

「あっそうだね。それじゃあ二人共、また今度」

曜の言葉に千歌は名残惜しそうにしながらも図書室を後にする。

最後に宙が二人にお辞儀をして退出すると図書室はまた静寂な空間に戻った。

 

「スクールアイドルか…」

 

「やりたいんじゃ無いの?」

 

「でも……お姉ちゃんの事もあるし」

ルビィはそう言って目を伏せる。彼女の瞳は悲しげに揺れていた。

 

 

 

ーーダイビングショップーー

「ありがとうございました。またよろしくお願いします。」

その日も果南はいつもと変わらず父の代わりに店で働いていた。彼女の仕事場は基本的に海である為、彼女はずっとウェットスーツを着込んでいる。学校で友人と共に勉強出来ないのは少し寂しかったが、それでも大好きな海で働く事が出来るのは彼女にとって何よりの喜びだった。

果南は長い髪をもう一度きつく結び直し気合いを入れ直すと踵を返した。

途端に何かにぶつかる。

 

「やっぱりここは果南の方が安心できるなぁ〜」

いつの間にか現れた鞠莉が果南に抱きつき胸に顔を埋めていた。

 

「鞠莉!」

果南は鞠莉の肩を掴むと彼女を引き剥がす。

 

「果南!シャイニイイイイ!」

鞠莉はダンサーのように回転しながらステップを踏み、再び果南に抱きついた。果南相手にここまで気安く振る舞えるのは二人が幼い頃からの友人だからである。

 

「どうしたのいきなり?」

鞠莉に対して果南は硬い表情を崩さない。

 

「スカウトに来たの」

 

「スカウト?」

 

「うん。休学終わったらスクールアイドル始めるのよ。浦の星で。」

重々しい静寂は二人の間に何らかの確執がある事を暗示していた。

 

「本気?」

 

「でなければわざわざ戻って来ないよ。」

険しい表情をする果南に対し、鞠莉もそれまでのおどけた態度から一変して落ち着いた態度になる。

 

「……好きにして。私はやらない。」

吐き捨てるように言うと果南は店内に戻っていった。

 

「相変わらず頑固親父だね…」

 

果南は店の椅子に腰掛けると溜め息をつく。目の前には一通のクレームの書かれた紙が置いてあった。

 

ーー

「ダイビング中に海から変な音が聞こえる。気味が悪いから早く何とかして欲しい」

ーー

 

「一体何がどうなってるの……」

 

 

ーー黒澤家ーー

ルビィは足をぶらぶらさせながらスクールアイドルの週刊誌を読み耽っていた。その週刊誌もかなり前の物だが、これを見る度に彼女は思い出す。(ダイヤ)とスクールアイドルについてあれこれ話していた何物にも替えがたい幸せな時間を–––––––––––

 

 

◇◇◇

「私は花陽ちゃんかな」

 

「私は断然エリーチカ。生徒会長でスクールアイドル。クールですわ〜」

ダイヤは楽しそうに笑っていた。

◇◇◇

 

高校生になってから、ダイヤは変わった。スクールアイドルの事を一切口に出さなくなり、忌み嫌うような振る舞いをするようになった。

 

かつての思い出が残滓の様に部屋の片隅に残っている。スクールアイドルがあったからこそ姉と沢山の思い出を紡いでこられた。が、今やそれはもう何処にも存在しない。

ルビィは失った過去を追い求めるように部屋の片隅に向かって手を伸ばす。

 

「………」

ダイヤがその様子を静かに見守っていた。

 

 

 

ーー通学路ーー

少し薄暗くなりつつある路地を四人の少女達が仲良く肩を並べて歩いている。

 

「いつも三人で練習して帰ってたから一人増えるだけでも何か凄い新鮮だよね」

 

「宙ちゃん、練習まで一緒に参加してくれて本当にありがとう。凄く助かったよ!」

 

「フォーム確認の時も一気に三人見て…改善できるとこを丁寧に教えてくれたからこれまで以上に充実した練習だった!」

 

宙は一度仲良くなる事が出来たらその人にとことん尽くす性格をしており、結局放課後も千歌達の練習に参加し、飲み物を準備しダンスフォームを一緒に確認していた。練習の半ば頃にはすっかり千歌、梨子、曜と打ち解けていた。

 

「ありがとうございます…お役に立てて本当に良かったです」

 

千歌、曜、梨子の三人は顔を見合わせ目配せする。

 

「ねぇ、宙ちゃん。私梨子ちゃんや曜ちゃんと話し合ったんだけど…」

 

「もし、宙ちゃんさえ良ければ…」

 

「「「一緒にスクールアイドル、やりませんか?」」」

 

宙は目を瞬かせる。

 

「え?私が…ですか?」

 

「うん!今日一緒に過ごしてて思ったの。宙ちゃん覚えるの凄く速くてすぐに何でも出来るでしょ?ダンスの練習の指示も凄く的確だったし…もしかしたら宙ちゃん、凄いスクールアイドルになれるんじゃ無いかって!」

 

「何より凄く可愛いし!絶対凄い人気が出るよ!」

 

「辟易せずに色んな事に一生懸命頑張ってくれるし」

三人は口々に宙を誉める。 

 

「わ、私は……皆さんとご一緒させて頂きたいです。でも、アイドルになるよりもお手伝いをする方が…」

宙はしどろもどろになりながらそう答える。

 

「遠慮しなくて良いよ。ずっとお手伝いだけなんて悪いし…あ、そうだ!折角だから今何か歌ってみてよ!」

 

千歌の言葉に宙は戸惑い、曜や梨子に助けを求める視線を送るが二人共期待の眼差しで宙を見つめている。 

 

(今なら私達以外ここに誰も居ないし、少しだけなら…)

 

「………分かりました。少しだけですよ」

 

宙は意を決して放課後沢山聞かせて貰ったμ's(ミューズ)の曲の中から一つを選び出し、歌い始めた。

 

 

 

「………どうでしょうか?」

一通り歌い終わった後宙は千歌達を振り返る。

 

「え?……うん。中々個性的だったよ!」

 

「う、うん。私は好きだな!」

 

「少し…練習は必要かもしれないけどね」

三人の口元は完全に引きつっていたが何故か宙はそれに気付いておらず、自分の歌唱力を褒めてくれているものと勘違いしていた。

 

「ありがとうございます。でも……やっぱりアイドルになるのはやめます。だって……私、自分で歌うより千歌さん達の歌を聴く方が好きですから。夢に向かって頑張っている皆さん、とっても素敵でした。私はそんな皆さんを影から支えたい。アイドルでは無いですけど一緒に頑張りたいんです。我儘かもしれないですけど…出来ませんか?」

 

「宙ちゃん……分かった。じゃあ、マネージャーっていうのはどうかな?」

 

「!マネージャーとして私もスクールアイドル部の一員になっても良いんですか?」

 

「勿論!いやったぁぁぁぁぁ!これで4人目だよ!」

千歌は喜びのあまり飛び上る。

少し異例ではあるが、4人目の部員が誕生した瞬間だった。

 

 

 

ーー高海家・浴室ーー

昨日と同じように千歌と宙は一緒に入浴していた。千歌は宙の長い髪の毛を上機嫌で洗っている。

「宙ちゃん、どう?」

 

「はい……とっても気持ち良いです」

 

「本当?良かった。」

千歌の手解きに癒された宙はそのままうとうとし始める。

 

「ひゃ⁉︎ 前は自分で洗いますから大丈夫ですよ⁉︎」

 

「あっごめん。洗うの楽しくてつい」

 

旅館を営んでいるだけあって、千歌の家の浴槽は驚く程広い。いつもは客にしか使う事が出来ないがこの日は特別に千歌達も使うのを許可されていた。

 

「「あぁ^〜」」

二人は大きく体を伸ばす。体の疲れが解されるようで、風呂に浸かった人は皆惚けた声を上げてしまうのだ。暫く二人はスクールアイドルの事や学校の事を話していたが、一段落すると宙が意を決したように千歌に話しかける。

 

「あの、千歌さん」

 

「なぁに?」

 

「私ずっと気になってたんですけど…聞いても良いですか?」

 

「何を?」

何かを言い澱んでいる宙の様子に千歌は首を傾げる。しかし、次の一言が千歌を凍りつかせた。

 

「千歌さんのお母さんの事です。姿を見ないんですけど違う所に住んでおられるのですか?」

 

浴室には水音だけが響く。触れてはいけない事だったと悟った宙は慌てて話題を変えようとするかその前に千歌が口を開いた。

 

「宙ちゃんも今は私達の家の一員だから…ちゃんと言わないといけないよね。」

 

「嫌だったら言わなくても大丈夫ですよ?」

 

その言葉に千歌は首を横に振る。

「大丈夫。宙ちゃんには私の事もっと知って貰いたいから。………あのね、宙ちゃんは『新宿大災害』って聞いた事ある?」

 

「新宿大災害?」

 

「東京に巨大隕石が落ちたっていう事件が12年前にあったの。私のお母さんもその時その場所に居合わせてしまって…」

 

「! まさか…」

今度は宙が驚愕する番だった。

 

「うん。私も宙ちゃんと同じで……お母さん…もう居ないの」

 

浴槽の中は暖かい筈なのにひどく冷たく感じられた。




僕は全世界の千歌ちゃんママを推す方に対して地に頭を擦り付けて謝らななければいけません
これが後の展開に大きく関わってきます

決して適当な理由でこうしたわけではないので、そこだけはご理解ください。
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