ボクの召喚獣が「お前を喰ったら本気出す」なんて言ってますが   作:草木 しょぼー

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森の中に潜む悪意

 ナズナは鼓動が速くなるのを感じていた。祈りを捧げる女性騎士、シシリアの姿を認めた時からだ。

 それでも、最悪の事態には及んでいない(はず)――とナズナが願望に等しい憶測を抱いた事は責められないだろう。

 だが、シシリアの顔が横に振られたことでナズナの思考は停止する。

 

「確保した時には手遅れだった」

 

 救助者へと視線を戻したシシリアが、背中越しに告げた言葉。それは余りに淡々とした、単なる報告の域を出ないものであった。

 その為か、ナズナに厳しい現実を突き付けるまでには至らない。

 

 ナズナは、並んで立ち止まっている男性騎士の顔をすがる気持ちで覗き込む。

 まるで、これ以上は近づきたくない――そんな青褪(あおざ)めた顔で立ち尽くす彼を見てしまえば受け入れざるを得なかった。

 シシリアの隣に静かに歩み寄ると、ナズナは両膝立ちとなって祈りを捧げた。

 

 教会の孤児院育ちのナズナにとって、物心付くころから折に触れて接している人の死は、それ程遠いものではない。

 大きな街にあるとはいえ、貧困層の居住区にある教会である。

 自分より小さな子供の葬儀に出くわす事も珍しい事ではないのだから。

 

 場に不自然な静寂が漂う中、固唾を飲み込んだリーバスが動いた。

 ナズナとは反対側、シシリアを二人で挟む形でその隣にしゃがみ込む。

 リーバスはもう一度空唾を飲み込むと、遺体の顔を覆う白い布へと手を伸ばした。

 

(むご)いぞ。慣れているのか?」

 

 やはり淡々としたシシリアの調子にリーバスは苛立ちを覚えるも、それを彼女に向けるのは間違いだと思い直す。

 

「そんな訳ねーよ」

 

 深呼吸をして気を落ち着かせ、ナズナには見えない角度で布をめくり上げた。

 リーバスは目を背けそうになるのを何とか踏みとどまる。その目が細められ、次の瞬間には見開かれた。

 

「何で、こいつが……」

 

 ゆっくりと布を戻し、その上から睨み付けるようにして見据えるリーバス。

 

「マルコムだ」

 

 絞り出すようにして告げられた名前にナズナは驚き、白い布とリーバスの顔の間で何度も視線を行き来させる。

 リーバスはそれに気が付いている筈だが、布越しにマルコムを凝視したまま、ギュッと口を結んでいる。

 

「首の骨を折られている。さっきのグリズリーだろう。それとマルコムと言ったか? 彼のパーティーメンバーだが、軽く見て回った範囲では見つけられなかった」

 

 言葉が出ないナズナやリーバスとは対照的に、シシリアはどこまでも淡々としている。

 

 ――たかが数回、しかも圧倒的に有利な状況での戦闘をこなしただけで、何を浮かれてやがる。

 リーバスの中で苛立ちが再燃した。

 それと同時に、マルコムに降りかかった災難がいつ自分の身に降りかかるか分からない、そんな当たり前の恐怖が沸々と湧き上がっていた。

 

「いや、マルコムにパーティーメンバーはいない」

 

 リーバスは声が震えなかった事に安堵し、そのまま続けた。

 

「マルコムは、体調を崩したとかで一月程前から休学している。だから、この訓練自体に参加していない筈なんだ」

 

「なるほど、先程のはそういう意味だったか。だがそうすると疑問が二つになってしまったな」

 

 リーバスの話を受けて、小首を傾げたシシリアが立ち上がった。

 ナズナとリーバスもそれに続く。

 振り返った三人は、話し合う為にメグたちの元へと合流した。

 

「疑問の一つは、何の目的で彼がここにいたのか? ですよね」

 

「そうだな。もう一つは私が彼を知らないからなのだが、一人でここに潜れる程の実力があったのか?」

 

 ナズナの問いに答えたシシリアが、逆に問い返した。

 答えづらそうにしているナズナを見て、リーバスが代わりに答える。

 

「無理だな。そもそも俺たちの実力で単独行動とか、自殺願望でしかないだろ」

 

「そうか? 戦闘を全回避する事が出来るなら可能だと思うが? 預かっていた、そこのおチビちゃんの様にな」

 

 シシリアはふっと笑みをこぼす。

 ナズナの後方に生えた木の根元で、いつの間にか丸まっていたギンタを顎で指し示した。

 

「おかげで安心して周囲の捜索が出来たよ、本当に頼りになるおチビちゃんだ」

 

「あ、ギンタ……忘れてた」

 

 シシリアからは褒められているのだが、おチビちゃんという呼び方が気に喰わないのか、ギンタは不満げに顔を背けてしまった。

 ナズナに関しては、いっそ忘れたままでいてくれと思っていそうだ。

 

「マルコムにそんな特殊技能は無かった。死んじまった奴の悪口になっちまうが、仮に持っていたら間違いなくひけらかす奴だ」

 

「そうか。であれば――雇った者に見捨てられたか」

 

 そう言ったシシリアは思考を重ねているのか沈黙する。

 その様子をしばらく(うかが)っていたナズナが、遠慮がちに口を開いた。

 

「あの、すみません、シシリアさん。一つ目の疑問には何かお考えが?」

 

「あぁ、こちらこそすまなかったな。今も考えていたんだが、あるにはあるんだ。ただな、そうすると別の疑問がな」

 

 シシリアがマルコムの寝かされた場所へと視線を向けた矢先、それまで不貞寝していたギンタが急に起き上がった。

 ギンタは森の奥をギロリと眺めると、大あくびと見分けのつかない鳴き声をあげる。その後、自分の仕事は済んだとばかりにナズナの足下まで来ると丸まってしまった。

 

「魔獣が来ます、しかも多数!」

 

 緊迫したナズナの声が響き、メンバーの顔に緊張の色が走った。

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