ボクの召喚獣が「お前を喰ったら本気出す」なんて言ってますが   作:草木 しょぼー

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もう一人の目撃者

「ナズナっ!」

 

 程なくして、教師たちを連れたメグが、一人で佇むナズナを見つけるなり駆け寄って抱き付いた。

 

「メグ、ハンカチあるかな?」

 

「あるげど?」

 

 メグの顔は汗と涙、さらには鼻水で、本来なら女の子としては他人には見せられない有り様だ。

 だからといって、無下(むげ)にあしらう事などナズナに出来る筈もない。あれだけ怖い思いをしておいて、わざわざ戻って来てくれたのだから。

 顔や腕の所々に、木々の枝葉で作られた引っ掻き傷が見受けられる。我が身を顧みず、先を急いだのが知れるというものだ。

  

 ナズナは、メグが取り出したハンカチを受け取ると、それで顔を拭いてあげる。なすがままにされているメグを見ていると、やはり小さな妹たちを思い出してしまうのは黙っておこうとナズナは思う。

 普段は勝気に振る舞うメグではあるが、実の所、甘えん坊の妹気質というのが、これまでの付き合いでナズナの辿り着いたメグの本質であった。

 

「ありがと。ふふっ」 

 

 奇麗になった顔で、目の周りと鼻は真っ赤だが、そう言ったメグが再びナズナに抱き付いた。

 

「メグ、先生を呼んできてくれてありがとね」

 

「ううん、ナズナのおかげで、私は無事だったんだから……」

 

 言いながら違和感を覚えたメグの表情が、次第にきょとんとしたものに変わる。

 

「あれ? え? ……ナズナ、立ってる?」

 

「当たり前でしょ?」

 

「だって足っ! 足だよ、足っ! 私なんかを庇ったせいでっ……その、酷い怪我を――!?」

 

 バツが悪そうにナズナの足へと目を向けたメグが、言葉を忘れてしまったかのように黙り込んだ。目も口も丸くしたメグは固まっていた。

 

「メグ、私なんかなんて言わないで。足は、えーっと、それが……」

 

「ぐぅえええ」

 

「「きゃっ!?」」

 

「ごめん、ごめん、ギンタ」

 

 何と答えようかとナズナが考えていると、ギンタが暴れ出した。二人の間で圧迫されて息苦しかったようだ。

 二人が驚いた隙に飛び下りたギンタは、いつもの機嫌の悪そうな目で、ナズナの足をペシペシと尻尾で攻撃している。

 

「ナズナくん、大変でしたね。他の生徒たちも気が付いたみたいですよ。全員、大きな怪我も無さそうですし、ひとまずは大丈夫そうです」

 

 ナズナがギンタに謝っていると、壮年の教師が声を掛けてきた。

 その内容にメグが驚いて聞き返す。

 

「怪我をしてないんですか? あんな攻撃をまともに受けていたのに?」

 

「はい、見た感じは――ですが。でも、騎士の子の鎧や盾なんかは、結構な衝撃を受けてかなり凹んでいましたね。体を張って守ってくれたんですね」

 

 壮年の教師が感謝の眼差しを向けた先では、まだ虚ろな目をしたライアルたちが教師と話をしている。

 

「……そうですね。なんせ、傷一つ負わせませんみたいなぁ、頼もしい事を仰っていましたからねー」

 

 教師が見ていないのを良い事に、メグが苦虫を噛んだような表情で言葉を吐き捨てた。ナズナは反応に困った様子で苦笑いを浮かべている。

 

「それで? 肝心のハイ・オークはどこに?」

 

「それなんですけど……」

 

 教師から尋ねられたナズナは、気を失う直前に知らない男の人に助けられた事。そして気が付いたら、その人物もハイ・オークも姿はなく、足の怪我も治っていたと説明をした。

 何となくだが、色々と面倒な事になりそうな予感しかしなかった為、ギンタの事は伏せておく事にしたのだった。

 

 実際、ハイ・オークの姿は無い。

 あるのは持ち主を失った、血と土汚れで変色したこん棒のみ。地面に転がるそれが、ハイ・オークが存在していた証拠として主張していた。

 

 教師の話によると魔獣の群れが暴走しているとの一報が入り、教師陣は対応に追われていたらしい。魔獣の処理をしつつ生徒の保護をしていた所、ちょうどメグに出くわしたそうだ。

 

「ともかく、全員無事で良かった」

 

「あ……あの、先生、それが――」

 

「そんな事が……。分かりました、後は私に任せて、先にみんなと戻って下さい」

 

 ナズナからマルコムの件を聞いた教師は顔色を変えると、教えられた場所へと歩いて行った。

 教師が離れていくのを見計らっていたのか、入れ替わるようにしてナズナに近付く姿があった。シシリアである。

 

「きみたちを護りきれなくて申し訳なかった。許してくれ」

 

「いえいえいえ、そんなっ、謝られる事なんて何もないですよっ」

 

 神妙な面持ちで謝罪するシシリアに、ナズナもメグも恐縮している。

 実際、シシリアのおかげで魔獣の暴走を切り抜けられたようなものだ。感謝こそすれ、謝られる事なんて本当に何もないのだ。

 

 それどころか、ハイ・オークに対しても身を挺してリーバスを救ってくれた。彼女がいなければ、それこそリーバスは二人目の犠牲者になっていただろう。

 ナズナはそう伝え、まだ立ち上がれていないリーバスの代わりにお礼を述べた。

 

 後でリーバス本人からもお礼をと、そう頭に書き留めていたナズナに、シシリアが何かを言いかけて止める。

 その代わりに? ギンタを抱き上げると「ありがとう」と一言、ギンタの額辺りに口付けをした。

 それから意味ありげな目礼をナズナにすると、ライアルたちの方へと歩いていった。

 

 ハイ・オークに殴り飛ばされた後も、シシリアには意識があったようだ。そして今の様子を見る限り、ある程度の真実を知り得たのだろう。

 

「シシリアさん、何を言いかけたんだろ?」

 

「さぁ? 何だろうね」

 

 シシリアも伏せておいた方が良いと判断したのだろうと、ナズナはメグの問いをはぐらかした。

 

「メグ、ボクたちも行こう」

 

「そうね、もう疲れたわ」

 

 ナズナとメグは、戻る準備が整いつつある、みんなの方へと歩き出した。

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