ボクの召喚獣が「お前を喰ったら本気出す」なんて言ってますが   作:草木 しょぼー

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誰の描いたシナリオか
誘い誘われ 揺り揺られ


 随分と、陽射しが強く感じられるようになってきた。じわりと滲んだ汗で、服が肌にまとわりつく。

 それでも、木陰を進む森の中は、まだマシといえた。

 

 そうは言っても、それは軽装の人間の話であり、鎧を着込んだ者からしてみれば、焼け石に水とまではいかなくとも、暑い事に変わりはない。その風通しの悪さを考えれば、蒸し焼きといった所か。

 その上、重量もあるのだから、疲労感は比べるまでもない。

 

「そろそろ休憩を取りましょうか」

 

 ナズナが、前衛を務める二人に声を掛けた。

 ある程度の見晴らしが利く開けた場所を探し、見張りを立てて順に休憩を取る事にした。

 

 今日は戦闘訓練ではない。パーティーは、調査訓練という名目で近郊の森に入っていた。

 その実の所は、初の実戦訓練で過大な負荷を負った、精神面の状態確認である。

 

 魔法で外傷は癒せても、心に擦りこまれた傷までは拭い去れない。

 事実、パーティーは一人減り、五人と一匹で構成されていた。

 

(あね)さん、お先にどうぞ」

 

 どこか違和感を覚える、ライアルとシシリアのやり取りが聞こえてきた。

 それはともかく、レディーファーストという事で、女性陣が先に休むようだ。

 

 木にもたれ掛かるようにして腰を下ろしたシシリアが、兜を外し、軽くなった頭を振った。

 奇麗な金髪(プラチナブロンド)が、解放感を楽しむように左右に舞った。

 

 ふぅーっと大きく息を吐き出したシシリアは、やはり相当暑そうだ。

 額には、玉のような汗が浮かんでいる。

 

「あの、良かったらこれ使って下さい」

 

「あぁ、ありがと……う」

 

 ナズナが差し出したハンカチを受け取ろうとして、シシリアは装備したままの籠手に気付く。

 休憩中、しかも見張りを立てているとはいえ、今は訓練中だ。

 シシリアは常在戦場の心構えから、籠手まで外すことを躊躇(ためら)った。

 

「あ、ボクが」

 

「すまないな、助かる」

 

 それを察したナズナが、汗を押さえるようにして拭きとってやる。

 

「これくらい気にしないで下さい――はい、どうですか?」

 

「ああ、すっきりした。ありがとう」

 

 目を開けたシシリアが、にこりと微笑んだ。

 その瞳を――橙と緑が織りなす、鮮やかな色彩の瞳を間近で見たナズナは、一瞬、目と心を奪われた。

 

「ナズナぁああ、私、ちょっとぉ、お花を摘んでくるね」

 

「えっ、あぁ、うん。気を付けてね、メグ。ギンタ、周りを警戒してあげて」

 

「ぐぅえ」

 

 メグは暑さにやられたのか、少しふらふらとした足取りで歩いていく。

 その後を、やる気が全く感じられない返事をしたギンタが、てててててっと付いていった。

 

「ハンカチは洗って返すよ」

 

「いいですよ。本当に気にしないで下さい」

 

「そうか、すまないな」

 

 ナズナも同じ木に背を預けて座り込むと、気になっていたライアルとのやり取りについて聞いてみた。

 

 ライアル曰く、あの魔獣の暴走時にシシリアが見せた、漢気(おとこぎ)溢れる姿に感動したんだそうだ。

 以来、尊敬の念を込めて、(あね)さんと呼ばれるようになってしまったらしい。

 

「ふっ……漢気溢れる女って、どうなんだ?」

 

 自嘲するように呟いたシシリアが、遠い目をしている。

 

 確かに、ライアルたち男性陣が狼狽(ろうばい)する状況で、毅然(きぜん)と鼓舞したシシリアは、ナズナから見てもかなり格好良かった。

 

 シシリアが男だったら、惚れてしまっていたかもしれない。

 

 励ましたつもりのその言葉は、シシリアに追い打ちをかけていたのだが、ナズナは別のある事を思い浮かべていた。

 

『将来有望な本院生さんたちと伝手(つて)を持っておきたい』

 

 以前、教会の前でビヨルドの語った言葉であった。

 

 将来――いくら本院生であっても、いきなり王国騎士団や魔法師団に入れる者などいやしない。

 最初は下部組織で経験と実績を積み、段階を踏んでそういった場所を目指すのだ。

 

 ただ、ナズナはそこまでの目標を立てている訳ではない。さらに包み隠さず言ってしまえば、名誉よりもお金の方が重要だった。

 

 自分は慎ましくとも日々の生活がおくれれば良い。それよりも、孤児院の弟や妹たちが、今よりも不自由なく生活出来るようにしてあげたい。それが、ナズナの想いであった。

 

 そういった意味では、依頼ごとに報酬額の決まっているギルドに所属する方が魅力的だ。依頼を多くこなせば、それだけ収入は増える。

 

 ただし、報酬額の高い依頼はパーティー必須な案件が多く、当然、難易度も高い。

 そんな訳で、特に固定パーティーを組めるまでは、可能な限り多くの人たちと繋がっておく必要があった。

 

 ここは、誘うしかない――ナズナは決断した。

 

 考え込んでしまっていたナズナを、シシリアが不思議そうに見ていた。

 

「あの、シシリアさん」

 

「どうした?」

 

「今度の長期休暇はどうされるんですか? ご実家の方へ帰郷されるんですか?」

 

「特訓だな」

 

「へっ!?」

 

「この前のような想いは、二度としたくない」

 

 そう言った、前を見据えるシシリアの瞳からは、強い決意が見てとれる。

 

 シシリアさん、漢だなぁ……いや、綺麗な女性なんだけど――さすがのナズナも口には出さず、胸の内に留めおく。

 

「そ、そうなんですかぁ」

 

「きみは……ナズナ、と呼んでもいいかな?」

 

「はい! もちろんです」

 

「では、私の事もシシリアで。ナズナは、どうするんだい?」

 

「ボクは、孤児院出身なので」

 

「そうだったな……すまない」

 

「いえ。でもそのおかげで、エスタークの街に招待されているんですよ!」

 

 何も気にする必要はないと顔を振り、身を乗り出して返したナズナの言葉に、シシリアが過敏とも思える反応を示した。

 

「なにっ? エスターク、だと?」

 

「え、あっ、はい。えっと、宿泊施設を経営している方が、泊まりで遊びにおいでって」

 

「孤児院、エスターク……もしかして、その知り合いっていうのは、豪商のビヨルドか?」

 

「そう! そうです! やっぱり、ビヨルドさんは有名なんですねー」

 

「まぁ、色々と名は聞こえてくるな」

 

「色々? そうなんですかぁ。それで、ですね……」

 

 続きを待ってくれているシシリアを見て、ナズナは本題を切り出した。

 

「ビヨルドさんが、友達も連れてきても良いって。将来有望な学院の生徒と、伝手を持っておきたいって話なんですけど……」

 

「なるほど、そういう事か」

 

「あの、シシリア……」

 

 意を決して、ナズナは告げる。

 

「付き合ってもらえませんか?」

 

「私なんかで良いのかい?」

 

「もちろんです! あの時に一目惚れ、しちゃいましたから」

 

「それはもう勘弁してくれ。だがその申し出は、ありがたく受けさせてもらおう」

 

「ありがとう! 良かったぁ……えへへ」

 

 苦笑して、それから、微笑んだシシリア。

 ナズナは照れくさそうに笑っている。

 

 

 

「ナズナぁぁあああ」

 

 木の陰から二人の様子を窺っていたメグが、白目を剥いて倒れた。何か盛大に勘違いをしていそうだ。

 その顔を覗き込んだギンタが、一瞬、ビクッと体を仰け反らせる。

 ギンタは尻尾を使い、恐る恐る、そっとメグの白目を閉じてやるのだった。

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