ボクの召喚獣が「お前を喰ったら本気出す」なんて言ってますが   作:草木 しょぼー

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強者の戦い方

「何だ? まさか、人化したとでも……ふっ、ふふっ、はははははははははっ――凄いな……そんな召喚獣、聞いた事ないぞ」

 

 唖然として黙り込んだアグエロが、突然、高らかに笑い声を響かせた。

 気でも触れたかのような笑い声が途切れたかと思うと、今度は一転、腹の底から絞り出したような重々しい口調で感嘆の言葉を吐露した。

 

「ビヨルドさん、少し離れていてもらえますか? 個人的にも大変興味が湧きました。もう一度契約しますが、力尽くでも構いませんね?」

 

 興奮のあまり、先の声に震えが生じていたのを自覚したのだろう。語りかけた口調は、感情の発露を取り繕うように努めて平静を装ったものであった。

 

 ビヨルドの返事を待つまでもなく、アグエロからすでに漏れている好戦的な気配を察し、アークウルフが伏せていた体を嬉しそうに起こせば、キラーマンティスは大顎をガチガチと打ち鳴らす。

 飛び上がったインファントドラゴンがギンタを見下ろし、値踏みするかのように金色の双眸を光らせた。

 

「出来るんですね? アグエロ、謝礼は弾みます。何としてでも手に入れて下さい」

 

 人化する召喚獣という、まさに唯一無二の存在に収集欲をおおいに刺激され、ビヨルドはすでに興奮しきっていた。必然、ナズナを掴む手にも力が入り、引きずられる少女の顔が苦痛に歪む。

 

 ビキリッ――と、ギンタのこめかみが音を立てた。

 

 臨戦態勢をとっている魔獣などお構いなしに、己の姿をためつすがめつ眺めては大袈裟に嘆息して見せたギンタが、(うろん)な目つきでアグエロを見据える。

 

「やれやれ、あれほど糞不味い魔力を我慢して喰ってやったというのにこの程度とは。銀等級とやらも高が知れるな。だが喜べ、オレ様は慈悲深い。相応の礼ぐらいはしてやろう」

 

「礼には及ばんが、折角の申し出だ――お前たち、遊んでもらいなさい。決して油断してはいけませんよ」

 

 ギンタの挑発を意に介した様子もなく、アグエロは魔獣に命令を下した。その口元には余裕の色が浮かんでいる。

 

「なんだ、そんな事で良いのか? 欲の無い奴だ。なら軽く遊んでやる、三体まとめて来い」

 

 そう言って傲慢(ごうまん)な笑みを浮かべたギンタが、足を一歩踏み出そうとした所で不意に顔をしかめた。

 ちらりとナズナを見やるとギンタは舌打ちし、足を止める原因となったサーシャへと素っ気なく手だけを向ける。横たわる彼女を収容する形で【監獄(プリズン)】が現れた。

 ふんっと鼻を鳴らしたギンタが、今度こそ足を踏み出した。

 

 正面でキラーマンティスが大鎌をぎらつかせ、空からはインファントドラゴンが見下ろす中、アークウルフがギンタの死角へと回り込んだ。

 立ち止まったギンタは、不敵な笑みを浮かべている。

 インファントドラゴンが口を開け、ブレスの兆候を見せた瞬間、ぎりぎりと弓を引き絞るように力を溜めていたアークウルフが動いた。

 音を置き去りにするような瞬発力で空気を切り裂く。

 

(のろ)い」

 

 悲鳴じみた鳴き声と、それを上書きして鳴り響いた衝撃音。

 振り返ったギンタが左膝を地につけ、地面を殴りつける形で右手を地中にめり込ませていた。

 立ち上がったギンタの足元では、まるで根元から踏み倒された雑草のように地面からアークウルフの胴体が生えている。

 

「まとめて遊んでやるって言ったのに、お行儀の良い奴らだな」

 

 土汚れを払い落したギンタは振り返ると、アグエロへと皮肉げな視線を向けた。

 

 この場にいる人間で、今の一瞬の攻防を目で追えた者はアグエロだけであった。それもどうにか目で追えただけで、魔法師であるアグエロが同じ事をやれと言われても、到底出来る芸当ではない。

 

 瞬間的なスピードに関しては、魔獣の中でもトップクラスであるアークウルフの動きに反応し、尚且つ、それを上回る速度で打ち抜いたのだ。 

 予想だにしないギンタの身体能力に、アグエロの頬は引き()っている。

 他の者にしてみれば、目の前に広がる光景を結果としてのみ理解し、ただただ唖然とするばかりである。

 

 ギンタだけが一人、泰然とした態度でたたずんでいる。

 

「ころころと顔色を変えて芸達者な奴だ。まさかその芸で銀等級になった訳ではあるまい。それとも、銀等級というのも上っ面だけのメッキだったか? こっちはまだまだ遊び足りないんだ。一片残らず剥がしてやるから、かかってこい」

 

「くっ! 舐めるなよ、小僧」

 

 激昂(げきこう)しないだけの余裕が、かろうじてアグエロに残っていたようだ。奥歯をきしませながらギンタを睨み付け、魔獣に命令を下す。

 

 即座に間合いを詰めたキラーマンティスが、両腕の大鎌を袈裟斬りに振り下ろす。死神の鎌が、風切り音をあげて交差した。

 

「ギギッ!?」

 

 切ったという感触の無さに、何事も無かったかのようにたたずむギンタに、キラーマンティスは驚いたような音を発して複眼を曇らせる。

 そして、有るべきものが無い事に気付く――と同時に、(かたわ)らでドサリッと何かが音を立てた。

 

 獲物(ギンタ)を切り裂いた筈の大鎌が、逆に切断されて地面に転がっている。

 

 わずかに狼狽(うろた)えた様子を見せたキラーマンティスであったが、大鎌を失った腕ですぐさまギンタを抱き抱えて動きを封じる。

 その頭を噛み砕こうと大顎が開かれた。

 

「【切断(スラッシュ)】」

 

 ぽつりと、吐き捨てるようなギンタの一言。

 

 キラーマンティスの上顎からが、ぬるりと後ろにずれ落ち、噛み合わさる事の無くなった相方を探すように、下顎だけがカタカタと動いている。

 

「昆虫なんぞに抱擁されるとは。これならナズナにされる方がまだマシだな」

 

 抱き抱えられたままのギンタが呟いた瞬間、その視界が赤く染まった。

 インファントドラゴンからの一撃。

 上空から出し抜けに放たれたブレスは、キラーマンティスの死骸もろともギンタを飲み込んだ。 

 

 焦ったのはリーバスたち。繰り広げられる戦闘に驚愕しつつも、その隙に縄を外して拘束を解いていた。

 その後は、どこか別世界の出来事でも見ているような感覚で成り行きを見守っていたのだが、そこにブレスの余波が襲いかかってきたのだ。

 リーバスとメグが慌てて魔法を紡ごうとするも間に合うはずがない。

 地表を滑るように迫りくる炎に目を見開き、あるいは固く目を閉じて、その時を待つのみであった。

 

「メグ……おいっ、メグ、目を開けろっ」

 

「なに? もう天国に着いたの? ひっ!!」

 

「馬鹿言ってんじゃねーよ」

 

 リーバスの声で恐々と目を開けたメグを、視界を埋め尽くす業火が飲み込んだ――そう思わされる光景が、眼前に広がっていた。

 今も猛威を振るい続ける炎は、魔法障壁によって遮られている。

 腰が抜けたのか、崩れ落ちそうになったメグをリーバスが支えた。

 

 障壁を突き破ろうと荒れ狂っていた炎は徐々に勢いを弱め、ついには途切れる。その通り道はあまりの高温に表面が融解し、液化してしまっていた。

 残された爪痕がブレスの威力をまざまざと見せつける中、何事も無かったかのように仁王立ちしているギンタが愚痴る。

 

「ちっ、役に立たんガキどもだ。馬車が無くなったら帰るに帰れんだろうが」

 

 馬車を護るついでだ、とでも言いたいらしい。

 本当に愚痴りたいのはインファントドラゴンの方だろう。

 最強の一撃を限界まで繰り出しておきながら、ダメージを全く与えられなかったのだ。尊厳を傷付けられ、実際には愚痴るどころか、狂ったように荒ぶっていた。

 

(やかま)しい」

 

 眉間に皺を寄せてそう言ったギンタの右手に炎球が生まれた。

 人の頭ほどの大きさでしかないその燃え盛る炎が、見る者の心胆を寒からしめる異様な圧を放っている。

 

「こいつでも喰らっとけ」

 

 炎球に目が釘付けとなっていたインファントドラゴンの腹へと、右手から射出されたそれが食い込んだ。インファントドラゴンが目を剥いたかと思うと、穴という穴から炎を吹き出し、内側から侵食されて蒸発するように燃え尽きた。

 

「馬鹿なっ……。なんだ? 本当に何なんだっ、あいつはっ」

 

 インファントドラゴンが消滅した上空を凝視したまま、アグエロは呻くように言葉を洩らすと膝から崩れ落ちてしまう。

 たわいも無いと言わんばかりに鼻を鳴らしたギンタが、ビヨルドへと向かって歩み出した。

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