ボクの召喚獣が「お前を喰ったら本気出す」なんて言ってますが   作:草木 しょぼー

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魔王なのに丸でダメ出し

「ち、近寄るな化け物っ! 止まれっ!」

 

「化け物? そう言うお前は、化けの皮が剥がれてしまっているぞ?」

 

 焦燥感に駆られたビヨルドは、咄嗟に取り出したナイフを構えた。その姿に、いつもの紳士然とした面影はつゆほども見られない。

 神経を逆撫でするギンタの笑みに苛立ちつつも、手元のナイフへとちらりと視線を移したビヨルドは、それがまったく意味をなさない代物である事にさらに焦燥感を募らせる。

 ビヨルドは、すがるような気持ちでナズナの首筋にナイフを当てた。

  

「この娘がどうなっても良いのかっ?!」

 

「好きにしろ。既にそいつとの契約は切れている。オレ様にとって何の関係もない、どうでもいい、ただの子供(ガキ)だ。そいつの事はどうでもいいのだが、お前は何となく気に食わん。とりあえず――潰れとけ」

 

 すっと笑みを消したギンタが、凍てつくような眼差しとともに告げた最後の一言。

 それを合図として、ビヨルドとナズナを大きな陰が塗りつぶした。

 反射的に仰ぎ見たビヨルドの視界に、踏み潰そうと襲い来る巨人の足のようなものが迫り――腹の底に響く衝撃音と土煙を上げて二人のいた場所を圧し潰した。 

 

 

 

 助かった……のか? 何だ今のは? 娘は、死んだか――間一髪で逃れたビヨルドは、地面に投げ出していた体を起こしながら、まだもうもうと土煙の舞うそちらに視線を向ける。

 

「これは一体なんだ? どうなって……」

 

 その先にあった物は、およそ三メートル四方の黒鉄(くろがね)の檻。それが、ビヨルドとナズナを襲ったものの正体であった。

 しかし、ビヨルドの目を見開かせたのは重厚な檻そのものではない。

 その中で、呆然とした面持ちでへたり込むナズナの姿であった。

 

「これってもしかして……監獄(プリズン)?」

 

 はっと我に返ったナズナがにじり寄り、黒光りする格子に触れる。

 ひんやりとしているはずの手触りが何となく温かく感じられ、ナズナは思わず顔をほころばせたのも束の間、慌てて体を()()らせた。

 

「何だと聞いているんだっ、これはっ! こたえろぉぉおおおぁぁぁあああああ」

 

 癇癪(かんしゃく)を起した子供のように詰め寄ったビヨルドが、格子を両手で掴んだ途端に奇声をあげた。

 全身を震わせ、こぼれ落ちそうな程に目を見開き、意志とは無関係に音を吐き続ける口の端からは(よだれ)を垂れ流している。

 数秒後、弾けるようにして後ろに倒れ込み、ようやく解放された。

 

「がっ、あっ、はぁ、はぁ……なんで……私……だけっ」

 

「当然だろう」

 

 突き刺さるギンタの視線に短い悲鳴を上げたビヨルドは、磁石が反発するように後ずさり、足をもつれさせながらアグエロの方へと逃げていった。

 格子を挟んでナズナと対面したギンタは、呆れと不満の入り混じった表情を浮かべている。ナズナは顔色を曇らせ、俯くしかなかった。

 

「お前、いつも捕まっていないか?」

 

「いつもって、二回目だし……」

 

「契約する時に、死が分かつまで――とか言っていなかったか?」

 

「それは、その……本当にごめんなさい」

 

 歯切れの悪い言葉を口にしたナズナの瞳にじわりと涙が(にじ)み、さらに追い打ちが掛けられ、ついには決壊した瞳からポタリとしずくがこぼれ落ちた。

 

「ふん、ど阿呆め。しばらくそこで反省していろ。言っておくが、監獄(こいつ)は契約を反故にしたお前への罰だからな。こいつの内部空間への干渉は、物理的にも魔法的にも、他の奴にはまず不可能だ。つまり、誰にも邪魔される心配はない。せいぜい深く反省して、オレ様に許しを請え。そして敬え」

 

 頭ごなしに投げ付けられた言葉であったが、顔を上げたナズナはきょとんとした表情でギンタを見つめると「それってつまり……この中にいれば安全だから、安心しろって事?」と首を傾げた。

 

「お花畑か、お前の頭は。誰もそんな事は言っていない」

 

 きまりが悪そうに目を逸らしたギンタへと、ナズナは笑顔を向ける。

 

「ありがとう」

 

「ちっ、泣くか笑うか、どっちかにしろ」

 

 ギンタがナズナの腕を拘束する縄に触れるとスルリと解けて下に落ち、腕に残った痛々しい痕や滲んでいた血も手をかざすだけで奇麗に消えた。 

 

「ナズナ、召喚の魔法陣を開け。展開するだけでいい」

 

「あ、うん、分かった」

 

 ナズナにより、檻の中に青白い魔法陣が展開される。

 魔法陣から白銀色の光の柱が立ち昇り、そこに横たわった女性が現れた。

 

「えっ、サーシャ姉さん?」

 

「巻き込んで死なせたら、お前が五月蝿(うるさ)いからな」

 

 サーシャを抱き起こすナズナから視線を逸らし、不愛想に呟いたギンタが、にわかに眉を寄せた。

 

(どういう事だ? 亜空間に眠らせておいた魔力塊(まりょくかい)残滓(ざんし)程度しか感じられん。あの状態なら霧散する事はない。何が起こった? ちっ、今はこの程度でも無いよりはましか)

 

 

 

「な……なう……な」

 

「サーシャ姉さん? ナズナだよっ、分かる?」

 

 意識が戻り、薄っすらと目を開けたサーシャが、ナズナの声に弱々しくも頷いてみせた。その目元と口元には、微かに笑みが湛えられている。

 

「サーシャ(ねえ)――」

 

 頬は()けているが、思い出の中と同じように優しく微笑みかけてくれるサーシャに、ナズナの瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。

 

「ごめんね、何も知らなくて……何も出来なくて、ごめんなさい」

 

 泣きながら謝り続けるナズナに、サーシャは左右に小さく顔を振る。

 サーシャに困ったような顔で見つめられ、ナズナは泣くのをこらえようとしているが、嗚咽が漏れるのを止められないでいた。

 そんなナズナに、ギンタから声が掛けられる。

 

「おい、ナズナ」

 

「ん、なに? って……あれ? なんかキミ、大きくなってない?」

 

 つい先ほどまで、ナズナと変わらないくらいの年頃であった筈のギンタが、今はすっかり成熟した大人へと姿を変えていた。

 

「思惑は外れたが、魔力の補充が多少は出来たからな」

 

「思惑?」

 

「こっちの話だ。それよりも、やつらが遊び足りないらしい。すぐに終わらせる。その後でもう一度だけ、お前と契約してやる」

 

「えっ? えっと……いいの?」

 

「言っておくが、三度目はないぞ」

 

「うん、分かってる。ありがとう」

 

 感謝の心を込めて頭を下げたナズナであったが、上目遣いで遠慮がちに口を開く。

 

「あの……ボクからも一つだけいいかな?」

 

「なんだ?」

 

「服、着てね。格好つかないよ」

 

「小さい事を気にする奴だな」

 

「小さくないから……困るんだよ」

 

 丸出しでダメ出しされたギンタは、不服そうに口をへの字に曲げる。

 無言で振り返ると同時に黒衣をまとったギンタが、ビヨルドたちへと向かって歩み出した。

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