ボクの召喚獣が「お前を喰ったら本気出す」なんて言ってますが   作:草木 しょぼー

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大切なのは中身だ

「入れ」

 

 シシリアが頑丈そうな木の扉をノックすると、部屋の中から威勢の良い声が返ってきた。

 シシリアとナズナが中に入っても、部屋の主は書類を睨み付けたままであった。

 

「ゴリアス叔父様、お久し振りです」 

 

 シシリアの朗らかな声に、部屋の主、ゴリアスがじろりと視線を動かす。

 その姿を確認するが早いか、ゴリアスは書類を机に放り出し、席を立ってシシリアを出迎えた。

 

「おうおうシシリア、よく来たな」 

 

「お元気そうで何よりです」

 

「うむ、お前さんこそな。しかも今度はこんな所にまで来るとは、実に刺激的な学院生活を送っておるのう」

 

 歩み寄って抱擁したシシリアに、ゴリアスがニタニタといった――どこか面白がっているような眼差しを向けてそう言った。

 

「もしかして、長期休暇の件をお聞きになっていらっしゃるのですか?」

 

「もちろんだとも。そのお前さんをナダルの森に行かせると言うではないか。

 兄貴はフリードを護衛に付けると言うたが、あの若造だけでは安心出来ぬからな。儂も行くと言うて承諾させた。

 シシリアの護衛よりも重要な任務なんぞ、他にありゃせんだろ」

 

「もぅ叔父様、ダメですよ。そんな事を仰っては、部下の方に示しがつきません」

 

「示し? そんなもの、儂の部下にとっては今更だろうて」

 

「確かに、それもそうかもですね。ありがとうございます、叔父様」

 

 花が咲いたようなシシリアの笑顔に、ゴリアスの強面(こわおもて)が緩みきっている。

 その様子をナズナは部屋に入った所で眺めていた。

 

 ゴリアスの第一印象は、はっきり言って恐怖でしかなかった。

 シシリアに続いて入室した途端、ナズナは視線を強制的に固定させられた。

 実際、悲鳴を上げなかった事を、心の中で何度も自画自賛していたくらいである。

 

 ゴリアスは座ったままでもそれとわかる筋骨隆々とした大男で、日に焼けた浅黒い肌をしている。眉間には深い皺が刻まれ、太い眉は吊り上がり、魔獣に削がれたのか右耳は抉れていた。

 

 そして、その鋭い目つきから放たれる眼光。初見の者であれば、最初の一瞥(いちべつ)ですくみ上ってしまってもおかしくはない。

 ナズナが自画自賛したのも頷ける、それほどゴリアスの放つ威圧感は半端でなかった。

 

 だがそんなゴリアスも、シシリアにかかっては前述の通りである。

 シシリアの言っていた「見てのお楽しみ」とはこの事か、とナズナが考えていた所にゴリアスから声を掛けられた。

 

「嬢ちゃんも、よく来てくれたな」

 

「は、はい! 初めまして、ゴリアス……様。ナズナと申します。その、なんとお呼びすれば良いのか、無作法をお許しください」

 

 上級貴族に謁見するというのに、どうして肝心な事を聞いておかなかったのか――ナズナは血の気が引く思いで頭を下げた。

 

「そんなもん気にせんでいい。なんなら嬢ちゃんも、叔父様って呼んでくれてかまわんぞ?」

 

 ナズナの危惧を余所に、そう言って豪快に笑って見せるゴリアス。

 顔を上げたナズナは、なんとも言えない心地良さに包まれ、緊張で強張っていた頬も自然と緩んでいた。

 その様子を見てとったシシリアが、茶目っ気たっぷりに言った。

 

「ナズナ、叔父様はこんなですから、貴族の間では【全く貴族らしからぬ貴族】などと陰口を叩かれているのですよ。こういうお人なんです。本当に気にしないくて良いですよ」

 

「う、うん」

 

「なんだ? シシリアも儂の事をそんな風に思っておったのか?」

 

「いえいえ。私は叔父様のそのお人柄、とっても好きですよ」

 

「おお、そうかそうか。近頃は平和ボケした貴族どもが増えてな、困ったものだ。お上品に着飾って、舞踏会だの茶会だのにうつつを抜かしとる。いざという時の為に備え、守るべきものの為に体を張る――それが真に貴き者、貴族というものであろう」

 

 ゴリアスが不服そうに眉を(ひそ)めてそう言うと、シシリアはナズナをちらりと見て微笑んだ。

 

「そうですね、叔父様。そう言った意味では、このナズナは真に貴き者ですよ。初めての魔獣討伐訓練でハイ・オークと出くわした時には、自らの身を投げ出して――」

 

「ちょっ、ちょっと、シシリアやめて、恥ずかしいからやめてっ」

 

「そう言わずにナズナ、私が叔父様に聞かせたいのですよ。それでね、叔父様、この間の長期休暇の事件の時も――」

 

 我が事のように誇らしげに語って聞かせるシシリアを、ナズナは真っ赤になって制止しようとしたが、しっかり最後まで語られてしまった。

 

「いやいや、誰にでも出来ることではないぞ。謙遜なんぞせずに嬢ちゃんは誇っていい。ご両親の教育も良かったのであろうな」

 

「えっと、生まれてすぐに孤児院の前に捨てられていたそうなので両親は……それにボク、じゃなくて私のは、そんな立派なものではありませんから……本当に……」

 

 いたく感心した様子のゴリアスに対し、話の途中で俯いたナズナの声は尻すぼみになってしまった。

 

 傍から見れば、恥ずかしさのあまりナズナが謙遜して言った言葉に聞こえるが、その言葉は掛け値なしにナズナの本音であった。

 ギンタにだけ告白した、ナズナの行動原理に基づくものでしかなく、決して人様からたたえられるようなものではない。ナズナ自身はそう思っているのだ。

 だから、俯いたナズナは申し訳なさと自嘲の念で、なんとも言えない悲し気な微笑を浮かべていた。

 

「ナズナ、もう手遅れですよ」

 

「手遅れ?」

 

 シシリアの言葉の意味がわからず、おもむろに顔を上げたナズナの前で、ゴリアスの両目から瀑布となって涙が流れ落ちていた。

 

「嬢ちゃん、いや、ナズナだったな。苦労しただろうに立派に育って。シシリアが認めるくらいだ、もう儂の事はお父様と呼んでいいぞ」

 

「へっ!? シ、シシリア?」

 

「叔父様は感激屋ですからね。本人がそう仰っている事ですし、呼んでさしあげれば良いのでは?」

 

 困惑したナズナがシシリアに助けを求めるも、諦めろとばかりに首を横に振られてしまった。

 

「いやいやいや、それは流石に……すみません、せめて叔父様で、お願いします」

 

 

 

 思いもよらぬ展開を見せたその後、三人は和気あいあいと食事を囲んだ。

 その終わりしなに本格的な調査は三日後からと告げられたのだが、次の日、新たな喧騒が舞い込んできた。

 

 ちなみに部屋に戻ると、食事に呼ばれなかったギンタがむくれていた。

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