ボクの召喚獣が「お前を喰ったら本気出す」なんて言ってますが   作:草木 しょぼー

39 / 47
決断と分断

 時間は少し遡る。ゴリアスとフリード、そしてシシリアの三人は森の深層へと足を踏み入れていた。

 

 ここまで来ると魔物同士の争いは見られない。

 だが三人の緊張感は、中層までのそれとは一線を画すものとなっていた。

 魔物の群れを難無く(ほふ)ったゴリアスでさえ、戦闘行為を避ける為に気を抑え込んでいる。

 

 森の奥深くに生息する魔物はその脅威度が跳ね上がる。

 大きさや力の強さといった単純なものだけではない。

 麻痺や猛毒、或いは石化といった状態異常を起こさせ、魔法を使う知性を備えている。

 深層は、十分な装備と道具を揃えて(なお)油断ならない魔物の住処(すみか)だ。

 体力や道具類の消耗を抑えるのは必須であった――が。

 

「ちっ、こんな時に……まさか……いや……」

 

 苛立ちと疑念に駆られるゴリアスの視界には、三体の巨人が行く手を遮るように睨みを利かせていた。

   

森の守護者(バクスター)

 

 記憶に新しい歪な容姿に、シシリアの口からその名が零れ落ちていた。

 この場限りならまだしも、その先の道程まで考えれば、まともに相手をするのは得策ではない。

 ゴリアスの決断は迅速であった。

 

「フリード、右の二体に重点的に弾幕を張ったら、シシリアを連れて離脱しろ。儂が時間を稼ぐ」

 

「承知しました」

 

「叔父様っ」

 

 シシリアは出かかった言葉を飲み込んだ。

 ゴリアスの判断は最善であり、それ以上の代案を示す事が出来ない。であれば、感情に従って口にする事は、その決断を侮辱する行為に他ならないのではないか。

 

「――ご武運を」

 

 だからせめてもの祈りを言葉に込めて、そう思って告げたのに、浮かべた笑みに(うれ)いが滲んでしまっているのを自覚出来てしまう。

 そんなシシリアに、頷いたゴリアスは「案ずるな」そう言っているかのように優しく微笑んだ。

 

 

 

「行きます、【石礫】」

 

 フリードが空中に展開した七つの魔法陣から、おびただしい数の弾丸が撃ち込まれた。

 濛々(もうもう)と立ち込める土埃の煙幕から一体の巨人が飛び出し、間合いを詰めるゴリアスへと襲い掛かった。

 

 ゴリアスを杭に見立て、地面に打ち込もうとでもいうのか、巨人は拳を小槌のように振り下ろす。

 それを急制動をかけてやり過ごしたゴリアスは、同時に、眼前に降って来た巨人の拳をハルバードで力任せに薙ぎ払った。

 想定外の横方向へのベクトルを加えられ、重心がブレた巨人の体が泳ぐ。

 その隙を逃さず、先に放った一撃から一回転して繋げたゴリアスの追撃の一打が、巨人を転倒させた。

 その頃になって、遅れて姿を現した残りの二体が参戦し、ゴリアスの命を削る遅滞戦闘へと突入する。

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

「シシリアお嬢様、向こうに水の流れる音が」

 

 フリードと戦場を離脱したシシリアは、幸運にも魔物と遭遇する事なく沢へと辿り着いた。

 冷たい水で顔を洗うと、良い感じに冷えた頭で戦況を分析する。

 

「叔父様、厳しいですよね」

 

 つい先日、バクスターの強さは嫌というほど目の当たりにしている。

 あれはギンタさんが相手をしたから圧勝しただけであり、あの巨体による物理攻撃に加えて、精神に作用する魔法や強力な攻撃魔法まで操るのだ。

 それが三体……いくら叔父様が強いと言っても流石に手に余るだろう。

 

「正直、三体相手は分が悪いですね。しかし、あの場では最適な判断だったと思います」

 

「そう……ですよね」

 

 もしやと心の片隅で思っていたのだけど、返って来たフリードの答えは予想に違わぬ内容だった。

 わかってはいても、簡単に割り切れるものではない。

 どうにか自分を納得させようとシシリアは試みる。

 そんな苦悩が透けて見えるシシリアへと、フリードが神妙な面持ちで声を掛けた。

 

「お嬢様、先を急ぎましょう。日が暮れる前にせめて中層を抜けなければ、全てが無駄になってしまいます」

 

 木々の合間から見える太陽は既に傾き始めている。

 シシリアは悲壮感の漂う表情で頷くと、沢に沿って下流へと移動を開始した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。