ボクの召喚獣が「お前を喰ったら本気出す」なんて言ってますが   作:草木 しょぼー

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明日への帰還

 ナズナの膝の上では、召喚獣のギンタが丸くなって眠り、さらにその羽毛をベッド代わりに、妖精のロリスが寝息をたてる。

 ナダルの森での一件を終えたナズナは、デブルイネの街へと向かう馬車に揺られていた。

 ガタゴトと、車輪が刻む音色に耳を傾けながら、遠ざかる地に思いを馳せていた。

 

 

 

 色々とあったけど、良い出会いに恵まれた。

 ゴリアス叔父様。

 見た目はちょっと怖いけど、実は優しくて、凄く暖かい人だった。そして何より、頼りになる。

 別れ際には、卒業したら絶対に会いに来い、とまで言ってくれた。

 もう一人、一緒に森に入ったフリードさんは、そこで挨拶したきりになってしまった。事後処理で忙しそうだったから仕方がない。

 ウインクらしきものも、なんとなく見分けられるようになった気がした。

 

「フリード……なんで……」

 

 ちょうど頭に思い描いていた人物の名前が聞こえた。

 ボクの肩に寄り掛かって眠るシシリアの寝言らしい。

 その目じりには涙が滲んでいる。服の袖を、そっと押し当てるようにして拭ってあげた。

 

「んん、あれ? 私……眠ってました?」

 

「うん、良い陽気だしね。おかげで、シシリアお嬢様の寝顔をたっぷりと、堪能させて頂きました」

 

「もうっ」

 

 頬を膨らませるシシリアの可愛い事。

 これはこれで「御馳走さまです」と、心の中で呟いておく。

 見ていた夢の内容には触れない方が良さそうだ。別の話題を口にする。

 

「ゴリアス叔父様も大変だね。森から戻って次の日には、王都に向けて出立されたものね」

 

「報告すべき事が、事ですから」

 

 ナダルの森が、大麻草の栽培に麻薬の精製といった、犯罪組織の一拠点となっていたのは事実だ。管理責任を問われるのは避けられないだろう――とは、ゴリアス叔父様の言葉だ。

 

「やはりなんらかの処罰はあるでしょうが、今回でその処理を出来る目処も立ちました。そして何より、もう一つの懸念事項が――」

 

 言いながらシシリアは、ボクの膝で眠るギンタとロリスを見て微笑むと、

 

「ギンタさんの取りなしで、一触即発となっていた妖精族と協定を結ぶ段取りが整いました。ロリスさんは、友好大使としての任も与えられていますからね」

 

 大使に任命されたロリスは、はしゃぎ過ぎて、疲れて眠ってしまっている。ロリスが大使って、大丈夫だろうか。

 任命したダルメシアさんも、気が気でないんじゃないだろうか。

 

「叔父様も、ギンタさんには危ない所を助けられた、と感謝していましたよ。ただ、あいつはもうちょっと人の心の機微をよめ、と仰ってもいましたが。なんの事でしょう? ナズナ、わかります?」

 

「ああ、うん、ほらっ、ギンタはオレ様、だからね。もうちょっと、周りに気を使えって事じゃないかな。特に、ボクにさ」

 

「そうですか? 私から見ると、ナズナの事を凄く気に掛けていらっしゃると思いますけど?」

 

「いやいや、ぜんっぜん、そんな事ないっ……事も、ないか……」

 

 なんだかんだで、今回も助けてもらったな。実際、ボクが無理出来るのも、結局はギンタを頼りにしちゃっているような所もある訳だし――

 

 口ごもっていたら「そうですよ」と、シシリアがボクを見て、可笑しそうに微笑んだ。

 それから正面に向き直ると、

 

「しかし、色々ありましたね」

 

 そう言って、胸に秘めたわだかまりを吐き出すように吐息した。シシリアの顔は、晴れない。

 

 シシリアとゴリアス叔父様が、生存していた【明けの明星】ミリアさんの許に向かうと、ベッケンさんの姿が消えていたそうだ。

 捜索した所、脱出用の抜け穴が発見され、そこから出た二人は、変わり果てたベッケンさんの姿を見つける。

 無残に食い散らかされていたが、遺留品などから見て間違いなさそうとの事だった。逃げ出した途端に、運悪く魔物に遭遇したのだろうとも。

 ベッケンさんがすぐに動ける状態ではないと、(たか)(くく)っていたシシリアは責任を感じている。

 

 また悪い事に、ファブレガスという人は、命に別状はなかったが、廃人と言える状態になってしまったそうだ。

 叔父様との一戦で使用したという麻薬が強過ぎたのか、それとも他の要因か。

 何を聞かれても怯えてうずくまり、言葉にならない喚き声を上げるその様は、金等級冒険者としてならしていた頃の面影は、全く見られないとの事だった。

 

 そんな訳で、組織の拠点の一つを潰せたのだが、それ以上の手がかりが途絶えてしまった。

 叔父様からも気にするなと言われていたけれど、シシリアの性格だとそれも難しいのだろう。だから今、隣の少女は浮かない顔をしているのだ。

 

 掛ける言葉が見つからない。

 代わりに、シシリアの肩にそっと頭を乗せる。

 

「本当に色々あったね。帰ったら、暫くは平穏に過ごしたいな」

 

「そうですね。それにしてもナズナ、随分と叔父様に気に入られていましたね。その内、養女にでもされるんじゃないですか?」

 

「えぇっ!?」

 

 返ってきたのは、余りにも想定外の内容だった。

 思わず()()って大きな声を上げてしまう。膝の上のギンタも、ぴくりと反応したような。

 シシリアは、悪戯をしかけた子供のように、明らかに反応を面白がる顔をしている。

 

「はははっ、それはない……よね?」

 

「さて、どうでしょう? もしかしたら養女どころか……嫁、もあるかもですね」

 

「嫁っ!?」

 

 絶句したボクの隣で、真剣な顔つきのシシリアが、うんうんと一人納得して頷いていた。

 ギンタの耳が、ぴくぴくと動いている。

 

「あの、ゴリアス叔父様って、おいくつなのかな?」

 

「今年で四十に成られたと思いますけど……ふふっ、ふふふっ。まぁ、嫁は冗談ですよ、たぶん」

 

 シシリアが、堪えきれないといった様子で笑みを漏らした。冗談だったみたいだけど、最後の一言にまだ多少の不安を覚える。

 

「たぶん、なんだ」

 

「ええ。だって私なら、ナズナを嫁に貰いたいですからね」

 

 満面の笑みを咲かせたシシリアに、自然とボクも破顔する。

 

「帰ったら、とりあえずのんびりしたいなぁ」

 

「ですね」

 

 互いに頭を寄せ合い、目を瞑る。

 一定のリズムで響く車輪の音が、心地よく刻まれていた。

 

 ―― 第一部 了 ―― 




ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
ちょうど一冊分くらいの文量になりましたので、ここまでを一巻としたいと思います。
ありがたい事に色々とご指摘を頂けたのですが、ちょくちょく改稿も入れたのでそのあたりの確認も含めて、自分でも読み直したいと思います。
続きは、王都に行って第一学院と絡んだり、伝説の神獣の復活に関わったりやら……あくまで予定なので未定です。
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