ボクの召喚獣が「お前を喰ったら本気出す」なんて言ってますが   作:草木 しょぼー

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幕間 お先まっくら

 ギンタが召喚されてから十日ほど経ったある日の事。

 

「ん……んぁ、もう無理っ」

 

 へたり込んだナズナが草地へと大の字に寝転んだ。

 荒い呼吸を繰り返し、己の不甲斐なさを責めるように、赤く染まりつつある空を睨み付けている。

 そんなナズナの姿を、本人以上に腹立たしい思いでギンタは見ていた。

 

(終わったか。しかし、オレ様を召喚したのがこの程度の人間のガキだと?)

 

「ねぇ、ギンタ。キミの時は成功したのに、なんで今は出来ないんだろ?」

 

阿呆(あほう)が、才能が無いからに決まっているだろ。だがこのガキが、オレ様を召喚したのも事実。あの時はどれだけ大掛かりな、いや、神懸(かみがか)りな嫌がらせかと思ったものだが)

 

「――なんて、ギンタに聞いてもわかる訳ないよね」

 

(くっ……このオレ様が、人間のガキに舐められるとは。この情けない姿のせいか? このなりにしたって、こいつのありえん召喚のせいだぞ。思い出したらまた向かっ腹が立ってきた)

 

 ナズナの召喚魔法によって強制的に呼び寄せられたものの、ギンタをこの世界へと顕在化させる為の魔力をナズナは供給出来なかった。

 

 亜空間で身動きが取れなくなってしまったギンタはやむを得ず、ナズナの魔力量に合わせる事にした。

 つまり、脱皮するように余剰魔力を脱ぎ去って顕現したのが、今の幼生体の姿だった。

 その余剰魔力は、ギンタ本来の姿を成したまま、今も亜空間で眠りについている。

 

 召喚された側が一肌脱ぐどころか、強制的にほぼ全裸。

 その経緯を思い出したギンタが、地団太を踏んで憤るのも仕方のない事と言えるだろう。

 

「あの体が熱くなる感覚……入学試験の時にも感じたけど――ってギンタ? 何をしてるの? もしかして、空腹の踊り?」

 

(……。こいつ、いつか絶対に喰ってやる。こんな弱っちい奴、どうせすぐに死ぬだろ。その時が――契約が消滅した時が楽しみだ)

 

 呆れ返って、半眼を向けるギンタの良からぬ思惑など知る筈もなく、ナズナは夕闇が迫りつつある空に視線を戻す。

 

「ギンタだけしか召喚出来ないなんて、やっぱりボクには才能が無いんだろうな」

 

 そう呟いて、ギュッと口を一文字に結んだ。

 

(このオレ様だけでは不足と言うのか? 生意気な、オレ様の力を思い知らせてやる。一振りで王城を瓦礫と化した我がしっぽの威力、その身で思い知れ!)

 

 ナズナの頬を、ギンタの二股のしっぽがふぁさりと()()()

 

「わっ?! くすぐったい! 何? ギンタ、どうしたの?」

 

 びっくりして上半身を起こしたナズナの瞳から、涙が一粒零れ落ちた。

 服の袖で頬を拭ったナズナは、首を傾げてギンタを見つめている。

 そのナズナを見上げて、ギンタは愕然(がくぜん)としていた。

 

(く、くすぐったい――だと? 死にたい……死なんけど死にたい)

 

「ギンタ、今の……もしかしてさっきの踊りも、ボクの事を励ましてくれているの?」

 

 ナズナはギンタを抱き寄せると、羽毛で覆われたフサフサ頭に頬擦りをする。

 (わずら)わしげにしていたギンタだったが、何やらスンスンと鼻を鳴らすと、ナズナの目尻の辺りをペロリと舐める。

 

「ふふっ、やっぱりそうなんだね。ありがと」

 

 ナズナは目線が揃うようにギンタを抱え上げると、にっこりと微笑んだ。

 今度はギンタが、そのナズナをじっと見つめる。

 

(まったく、こいつの頭はお花畑か。それにしてもこのガキ、やはり分泌物の魔力濃度が異常に濃い。だがその割に魔力量が微々たるものなのは、一体どういった理由なのか。

 

 それにこの旨さ、オレ様の魔力との親和性が極めて高いのだろう。契約時に口にした血は、まさに極上の逸品だった。これは、こいつに呼び寄せられた一因で間違いないだろう。だが、どう考えても――)

 

「才能が無いなら、努力で補うしかない。そうだよね? ギンタ」

 

(そう、オレ様を召喚するには才能が圧倒的に不足している。努力なんかでどうこう出来るものではない。

 それを言ったら、オレ様を召喚出来る人間などいない筈なのだがな。

 最も、こいつの場合は魔法の才能以上に、名付けの才能が絶望的に皆無だ)

 

 落ち込んでいたナズナが一転してやる気に満ちたのに対し、ギンタはどこか遠くを見ているような眼差しをしている。

 

「ボク、もっとももっと頑張るよ。英雄譚に出てくる召喚師さんなんて、伝説級の召喚獣を何体も使役していたんだって。今では召喚出来る人すらいないのにね」

 

(頑張ってさっさと死んで、そんでもってオレ様に喰われろ。伝説級? そりゃあ、召喚出来ないだろ。あいつら雁首(がんくび)揃えて難くせつけて来やがったからな、まとめて消し飛ばしてやったわ。伝説級っていうくらいだから、そのうち復活するだろ)

 

 ギンタが昔の事を思い出して鼻先で笑った直後、ナズナが唐突にギンタの(くちばし)に口付けをした。

 

「改めてよろしくね、ギンタ。へへへ、あ――」

 

 自分でしておきながら照れくさそうに笑ったナズナが、何かを思い付いた様子でギンタをまじまじと見つめる。

 その黒曜石のような瞳に写し込まれたギンタが、えもいわれぬ嫌な予感に生唾を飲み込んだ。

 

「ボク思ったんだけどさ、ギンタが、伝説級の召喚獣並みに働いてくれれば良いんじゃない?」

 

(へ? ――この体で? それは、ゴブリンにドラゴンを倒せと言ってるのと同義だぞ? お前が死ぬ前にオレ様が死ぬわっ。

 そもそも、お前が頑張るんじゃなかったのかよ! なんてことだ、オレ様の未来も真っ暗だぞ……)

 

 虚ろな瞳で見上げたギンタの視界には、すっかり暗くなった空が蓋をするように広がっていた。

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