ボクの召喚獣が「お前を喰ったら本気出す」なんて言ってますが   作:草木 しょぼー

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巻き付いた糸

「行くよっ、ギンタ!」

 

 やれやれ、気持ち良く微睡(まどろ)んでいたというのに邪魔が入った。

 ショボい魔力量で働かされている、こっちの身にもなって欲しいものだ。

 そんな訳でここでの選択は寝たふりの一択。

 

「おいて行っちゃうよ、ギンタ」

 

 ……。

 

「お昼はローストビーフサンドにしようかなぁ」

 

 ! ……。

 

「飯屋【霜降り一番亭】」

 

 !! ……。

 

「極厚ローストビーフ」

 

 !!! ジュルッ。

 

「眠ってるみたいだし仕方ない、一人で行くかぁ」

 

 ガチャッ、ギィィ――ギィィ、バタン。

 

 ――行ったか? 

 いつもいつも、ハァハァ……オレ様がローストビーフ如きで、ジュルッ……釣られると思うなよ。

 悪魔の誘惑に耐えきった。今日のオレ様は自由だ!

 

 体を反らせ、凝り固まった背筋を伸ばす。

 これで心ゆくまで惰眠を(むさぼ)れる――盛大にあくびをしたオレ様の視界に、目を細め、口元に薄っすらと笑みを(たた)えたガキが。

 出て行ったふりかっ、オレ様を(たばか)るとはなんと姑息な!

 

「狸寝入りしてもダメだからね」

 

 勝ち誇った顔で近づくと、オレ様をいつもの様に抱きかかえた。

 こうして、強制連行という逃れられない現実は今日も繰り返される。

 

 それにしても、こいつの目の悪さはどうしようもないな。

 オレ様は狸じゃない。どこをどう見たら、この愛らしさを狸などと間違えるというのか。

 まったく、不愉快で小癪(こしゃく)なガキめ。

 

 

 

 

 学院は全寮制となっており、訓練は基本的に五日に一度の休日が設けられている。休日は申請書を提出すれば外出する事も可能であった。

 生徒たちは寮でゆっくりして英気を養ったり、気分転換に街に出かけたりと、思い思いの休日を過ごす。

 

 ナズナは特別な用事がある時を除いて、休日はほぼ教会に顔を出していた。正しくは教会とそこに付随する、ナズナの育った孤児院に。

 

 教会と言っても、街の外壁沿いに位置する貧困層の居住区にある、古びた小さな教会の方である。荘厳な佇まいを見せる中心区の教会とは比べるべくもなく、みすぼらしい建物だ。

 

 見えてきた小さな教会の前に、その場所には不釣り合いと言える立派な馬車が停まっている。

 その脇で、この教会のシスターであり孤児院の院長を務める女性と、身なりの良い初老の男が話をしていた。

 ちょうど話が一段落した所にナズナが声をかけた。

 

「おはようございます、シスター」

 

「あぁ、おはよう。おかえり」

 

「おはようございます、ビヨルドさん。お久しぶりです」

 

「おはようございます。その制服は……第二学院の制服ですね。はて? こんな可愛いお嬢さんが知り合いにいましたかな?」

 

「久しぶり過ぎて忘れちゃったんですか? ナズナですよ、今年から本院生になりました」

 

「……おぉ、おお! あのナズナちゃんかい? 近所のガキ大将をやっつけていた」

 

「もぉ! それ言わないで下さいよ、恥ずかしい」

 

「いやぁ、あの頃のきみは群を抜いて印象的だったからね。それにしても、これほど女の子っぽくなっているとは、まさに見違えるとはこの事ですね。しかも、学院の本院生ですか」

 

「女の子っぽくじゃなくって、れっきとした女の子ですよ! 最初からっ」

 

 ナズナが頬を膨らませて抗議している男は、どうやら昔からの顔見知りのようだ。

 ビヨルドという男は、さり気なく上から下までナズナを見定めるような視線を這わせた。その視線がナズナのふくよかな双丘まで戻り、そこに抱かれたギンタに留まった。

 

「その、召喚獣? で良いのかな。ナズナちゃんのだよね?」

 

「はい、ギンタです」

 

「見た事がない召喚獣だけど、何て種類なんだい?」

 

「それが、先生たちもよく分からないみたいなんです。たぶん……変異種じゃないかって」

 

「ほぉ、変異種……しかも、先生方がご存じないと……それはそれは。大切に育てるんだよ」

 

「はい! ありがとうございます」

 

 ナズナに優し気な笑みで二度頷いたビヨルドが、シスターへと向き直った。

 

「それじゃ、シスター。また来ますよ」

 

「ありがとうございました、ビヨルド様。道中、お気をつけて」

 

 馬車の扉に手をかけた所で、ビヨルドが不意に動きを止めた。

 ゆっくりとナズナの方へと振り向く。

 

「あぁ、そうだ、ナズナちゃん。今度、エスタークの街に遊びに来なさい」

 

「えっ?」

 

「私の経営している宿泊施設があるからね。招待状を出しておくから、なんならお友達も連れておいで」

 

「良いんですか!?」

 

「あぁ、良いとも。将来有望な本院生さんたちと伝手(つて)を持っておきたいと、常々考えていたんですよ」

 

「それが狙いですか、ふふっ」

 

「そういう事です。私は商売人ですから、これも投資というやつです」

 

 ビヨルドがぱちりと片目を瞑り、口元に楽し気に笑みを(たた)えた。

 

「分かりました。では、友達と相談しておきますね」

 

「きっと楽しんでもらえると思いますよ。それではまた」

 

「はい、お気をつけて」

 

 ビヨルドが乗り込んだ馬車が動きだし、次第にその姿が小さくなっていった。

 

 

 

 馬車の中で天幕を見上げるビヨルド。

 

「ふっ、はははっ。――あぁ、本当に楽しみだ」

 

 下卑(げび)た笑いを浮かべた口から、思わずといった様子で言葉を漏らす。

 何も知らないナズナは、馬車が見えなくなるまで見送っていた。

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