再生のレギオス   作:ツルギ剣

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バイト面接

 

 なんとも、良いタイミングじゃないか!

 アポ無しの強引にしては、妥当な条件になるだろう―――

 

 

「―――コイツらを追い払ったら、彼女との従士契約、認めてくれるか?」

 

 

 医者が対峙させられている問題、大小二人の男/筋肉大柄の悪相ハゲ男と高級そうだけど似合ってないスーツを着た偽笑い小男たちと、玄関先でいがみ合っている。……といっても、一方的に。

 いかにもな悪党が、いかにもな悪行をしようとしている。どの都市であってもスラム街には必ず生息している類の連中。どうしてココにやってきたのかは……謎だが、関係ない。どう言いくるめようか、出たとこ勝負ながらもプランを考えていた最中、とても困った/とても美味しすぎる状況を作ってくれていたから。

 いきなり現れ/割り込んできた僕に、悪党たちは当然眉をひそめた。

 

「なんだぁ、このクソ生意気な小僧は?」

「俺の患者だ。見ての通り、死にかけの重傷人だよ」

「デグの棒にやられるほどじゃないさ」

 

 片腕を包帯ぐるぐるに吊っている姿。僕の方もいかにもな重傷患者だったので、あえて強気に煽らせてもらう。

 皆その横柄すぎる態度に、一瞬だけキョトンとするも、すぐに緊迫した空気が流れだした。特にハゲ大男から、敵意満載な視線が向けられる。

 

「……止めろ。話がこじれちまうだろうが」

「話? 恐喝の間違いじゃないのか?」

 

 内容も事情も初耳だけど、おおよそはわかる、というか分かる必要はない。こんな奴らのそんな人間らしい対応など、偽り/当てつけの礼儀でしかないと熟知していたから。……暴力のための準備運動、だと。

 ソレは、ここの住民たる医者も心得ていたのだろう、苦い/何かを疑るような顔を向けてきた。それでもどうにかして、実害を食らわない細い綱渡りをしていたのに、僕が台無しにしようとしている察して。もっと杭を打ってやろうと、口を開きかけると、

 

「失礼ですねぇ。ビジネスですよ、ビ・ジ・ネ・ス。

 我々の組員の何人かも、先生にはお世話になっています。これからも末永くお付き合いしたいとも、思ってますので」

 

 ただし……、主従関係はある、自分たちが上で医者たちは下だと。小男の薄笑いには、そんな傲慢さがたっぷりと含まれていた。

 おもわず―――ため息が漏れた。胸の内だけで済まそうとしたけど、実際に漏らしてしまった。……嘲笑ってもよかったけど、あまりの愚かさに哀れみが沸いてきていた。

 問答してやる価値も無い……。さっさとコチラの要件を達成することにした。

 

「―――おい、そこのデグの棒! さっさとかかってこい」

 

 少々強引ながらも、宣戦布告した。指でチョンチョンと、誘うようにもして。……これでもう、どちらも後に引けなくなる。

 医者や後ろのメイシェンですら、思わずも息を飲んだのがわかった。

 

「ここの流儀は、弱肉強食。舌先三寸の臆病者よりも、度胸と腕っ節があるイカレ野郎、だろ?」

 

 そのあからさまな罵倒に、小男は黙るも……殺意満載な視線を向けてきた。

 直接ケンカを売りつけてやったハゲ大男は、しかし買うことはなく、

 

「その威勢だけは買ってやる。が……すっこんでろガキ!」

 

 睨みと凄味を効かせただけだった。……後ろでメイシェンが「ひぃっ!?」と裏声を上げてしまったのが聞こえた。

 この仕事/恫喝に慣れているのか、自分から手を出さずに納める機転は、持ち合わせていたらしい。今ココでは、披露して欲しくないスキルだ。あるいは、そもそもするつもりが無い/いつもソレだけで終わってきたのか……。医者の言うとおりだったのかも。

 

(でもまぁ……、関係ない)

 

 やはりやることは変わらない。加えれば、目の前のハゲ大男への評価も、変わらなくなった。……経験則の使い道を、見誤ってしまったから。

 ため息混じりの肩すくめ、にじみ出てしまう嘲りの表情を向けながら、

 

「いいのか? 

 それじゃ、俺から行かせてもらうよ―――」

 

 さっさと終わらせるぞ―――。

 撓めた中指と人差し指を撓めながら、親指の腹で止めた。力を込める。剄も込めていく―――デコピン。

 

 ババンッ―――。

 空を弾いた指爪から、圧縮した【衝剄】を発射した。

 その半透明な剄の弾丸は、まっすぐデグの棒の額へと飛び―――激突した。

 

 直後―――バチンッと、破裂音。

 そしてガクンッと、デグの棒は頭を仰け反らせた。まるで、見えない両手ハンマーにでも殴りつけられたかのように、不意打ちの無防備も相まって突然に仰け反らされる―――

 ハゲ大男はそのまま、耐え切れず背後へ―――ドスゥンッと、倒れてしまった。

 

 

 

 受身も全く取れずの後倒、背中から思い切り倒れてしまった。……衝突の直後にはもう、気絶してしまっていたのだろうか。

 隣の小男は、ソレをただ、目を丸く/口をポカリと開けながら見ていた。何が起きたのか? 信じられないモノを見せられてしまった、現実逃避の白紙化―――

 

「―――ちっ! 

 思ったよりも弱かったな……」

 

 やはり、いつもとは違った……。

 万全の状態だったら、額を軽く割りながら、デグの棒の巨体そのものを押し倒せていた。中指一本でもだ。怪我を考慮して二本でやった/微偏差撃ちで威力も高めていたのに……、ギリギリだった。

 武剄者の/それも屠竜士たる自分と、ただ体格に恵まれただけの大男。見た目も筋肉量も圧倒的に後者に軍配があがるだろう。が、争えばコレが順当な結末。剄の力はほぼ天井知らず、制限がある筋力など軽く超える暴力を秘めている、デコピン空気砲で昏倒させてしまえるほどにも。

 外見で人を判断してはならない……。ハゲ大男は、暴力を生業にしていながら、そんな大事なことを失念していた。

 

「な、な、な……何が、なんで……どうして―――ひぃッ!?」

 

 ピト―――。即座、不意をついて接近すると、小男の額にデコピンをセットした。

 その微かな、触れるか触れないかの触覚に小男は……ゴクリ、息を飲まされながら青ざめた。

 

「―――想像できるだろう? 

 遠間から撃ってアレなのに、直接撃たれたら……どうなるか」

 

 たぶん、破裂するだろうな……。そんなつもりはないけど、やろうと思えばできる。

 現実に起こり得るだろう、非現実的な悲惨な未来に、小男はガタガタと絶句するも……絞り出してきた。

 

「……ぶ、武剄者……だったの、ですね。

 た、大変失礼なことをし――― 」

 

 パンッ―――。言い終わる前に、デコピンをぶつけた。

 ただし、威力は先ほどより抑えて。……ギリギリ男の頭蓋が弾けない程度まで。

 ぶつけられた衝撃/不意打ちも相まって、小男は後ろへおおきく仰け反り、そのまま―――頭から床に倒れた。

 ハゲ大男と二人、仲良く床にのびていた。

 

 

 

「―――よし! 上手く調整できた」

 

 今度は思った通りに動かせた……。小男へのダメージと結末、想定した通りにできた。この身体を、元の自分の体と同じように動かせる。

 

(内部構造まで、別人に変えられなかったのか? それとも―――)

 

 【ロウファン】だったからこそか……。血は繋がっておらずとも、剄の結びつきは兄弟以上にあった、()()()()()()()()で作られ鍛え上げられてきた。僕の中に『できる』との確信があったからこそ/記憶を読まれたからかもしれない。……まだまだ予断は許さない。

 ここでできる検証は良好、これからの見通しも立てた一石二鳥。唖然とする二人へと振り返ると、朗らかに

 

「どうだ、これで認めてくれるだろう?」

 

 あの二人を倒してみせた。それもデコピンだけで……。愛娘を任せる従士選抜として、これ以上ないパフォーマンスだったはず。戦力は問題なく/たぶん過剰にもアピールできた。

 医者父親の表情は……返す言葉は無い。その点についてだけは頷かざるを得ない。でも―――

 

「…………まだ、問題が片付いたわけじゃ、ないぞ」

「そうか? これで、収まるべき所に収まると思うぞ?」

「収まるわけ無いだろうがッ!? 奴らにこんなことを仕出かしておきながら――― 」

 

 思わずも激昂をぶつけてきたが……、怯えるメイシェンが目にとまったのだろう、無理矢理にも抑え込んでくれた。

 第一印象通り。話のわかる人物で助かる……。さすがに無神経が過ぎたのかもだけど、自分の身すら疑わしい現状だ。ここは図々しく行かなければ、最悪へと流されてしまう。

 

「この手の暴力を生業にしてる奴らが、医者を脅すような頭の悪過ぎる行動をした場合、考えられるのは、二つ―――」

 

 一旦区切って、チラリと様子見。

 医者の顔には、いきなり解説し始めた僕への訝しりがあった。けど、ソレだけだ。……これから説明するだろうことを、知っている顔つきだ。

 ちょうどいい……。なら後は、答え合わせをするだけ。

 

「一つは、捨て石だ。

 ココの仕組みを理解しきれてない新興勢力が、これでどんな波紋が広がるのか、調べるためのな」

 

 だからこんな、いかにもな外見だけの奴らを投げてきた……。だからたぶん、拷問しても本当の雇い主まではたどり着けない。

 本腰を入れてるのなら、武剄者を使う。というか、武剄者以外にその手の生業で生活するなど、困難極まる。それ以前に、脅すよりも懇意になれるよう贈り物をする。……医者と敵対して良いことなど何も無い、スラムの住民たちの反感を買ってしまう悪手だ。

 

「もう一つは、敵対都市からの攻撃。

 これから起こす戦争のため、事前に医者を潰しておきたかった」

 

 よくやってきた、からこそ断言できてしまう……。医療崩壊させることが、戦意は大いに挫ける。全面戦争を回避するための特殊工作の一つ。

 ただ、コレは無いだろう。いちおう言ってみただけ。なぜなら、この都市/ツェルニはもう、崩壊するから。他都市からの攻撃に怯える心配はない。……墓荒らしには、大いに気をつけなければだけど。

 

 僕の答えに医者は、驚きに眉を上げた。間違ってはいないが、想定してた以上の大局読みだったか……。ちょっと自画自賛、彼との食い違い。

 ゆえにか/どうしてか、返答代りに()()()()()()()()()()()()を見せてきた。暗く黒く、何よりも落ち着きすぎた眼―――

 垣間見えたソレに、僕の方も驚かされた。

 

(……まさか! この人こそが―――)

 

 探してた人物だったか? ()()()()()()()()()()()。……言い知れぬ予感に打たれた。

 度重なる偶然、コレは良縁なのか、それとも……。目眩がする。きっと重傷によるものだけでは、ないはずだ。

 けど―――杞憂な妄想、では終わってくれなかった。

 

 

「―――思っていた以上に、頭の回る奴だったらしいな」

 

 

 医者の返答は、問診の時と同じような語調だった。……この状況には相応しく無い、()()()()()()()いた。

 

(……やばい、すこし侮りすぎたか?)

 

 まだ想像の範疇、証拠も証言もない直感だけだったが……、だからこそだ。

 これから口に出す言葉で、大きく変わる。今後の僕の方針を、『撤退』にまで変えざるを得ないほどに。

 

「それで、どっちだと考えてるんだ?」

 

 次の返答を、すばやくも胸の内で熟考した。

 もう用心深さは、忘れちゃならない。目の前の彼が、()()()()()()かもしれないとの可能性を、無視しては。

 

「……両方だ。カネか何かに目がくらんだ阿呆達を、どこかの敵対都市が操ってる」

 

 後者は無いと思っていたけど、先の直感で考えが変わった。もしもそうだったとしたら、ここの勢力図はほぼ把握しているはず、コントロールできていない/こんな事件が起きることそのものがおかしい。外部の/敵対都市の介入以外考えられない。……そんなことはありえないけど、そう考えるしかない。

 しかし……答えは違った。

 僕のひねり出した推測にニヤリと、薄い/微かな笑みを口元に浮かべると、

 

「なかなか良い線を突いたが……その線は()()

 首謀者は『軍』だよ」

 

 軍!? バカな。都市を守るはずの軍隊が、都市を攻撃してる? ……というか、やっぱり断言した。

 僕の胸の内の困惑は、医者にも聞こえたのだろう。

 

「俺達の存在は奴らにとって、この都市に巣食う『癌』みたいなモノだ。一刻を早く取り除きたい。

 だが、俺達は警察と昵懇の間柄にある、境界が曖昧になるまでの深い仲だ。……同僚のはずの警察は頼れないから、自分たちでやるしかない」

 

 その結果がコレ。こんな荒っぽく雑、でも確かに衝撃は与えられる無法者の所業。

 言われ通り軍隊の仕業なら、コレは『威力偵察』みたいなモノになるかもしれない。そして追求されたとしても、架空の『敵対都市』の仕業とシラも切れる。……軍の仕業な気がしてきた。

 だけど、確認しなければならない。

 

「……どうして、軍の仕業だと言い切れる?」

「最近この街に、見慣れない奴らをチラホラ見かけるからだ。ただの旅行客にしては、物腰が座りすぎてる奴らがな」

 

 例えば、お前のように―――。暗にそう、突きつけられたような気がした。実際、そんな含みをもってるだろう鋭い視線を向けていた。

 僕も疑われてる……。けど、そんなこと今更だ。疑いがあっても受け入れたのは、そちらの方だ。

 だから……、この話はココまでだ。

 

「……教えてくれ。どういう形に収めるのが、最善だ?」

 

 未来の話をしよう……。答えの出せない過去よりも、実りあるはずの未来を。

 僕から話を切り替えると、チラリと躊躇いを垣間見せるも、教えてくれた。

 

「…………()()()()()()()()

 今日までの平穏が、明日以降も続けられるようにしてくれ」

 

 ……やっぱり、そうなって欲しいのかぁ。

 変転しつづけるスラムの生活には慣れている、けど変化が好きなわけではない。特に、家族の身に危険が迫るような案件は、願い下げ……。君子危うきに近寄らず、博打よりも堅実さ。立場が逆なら同じことを言う。けど、ココの住民にしては充分な倫理を持ち合わせている、これ以上は求め過ぎだろう。

 だけど……、ここで引き下がるわけにはいかない。

 

「残念ながら……、そいつだけは無理だな。

 俺はもうココにいる。明日以降は、彼女の従士になっている」

 

 ソレだけは譲れない―――。実質、突っぱねる形だ。

 何も言い返さず、けど顔には険しさが増す。……あちらも譲れない。

 このままでは平行線、か……。さすがにもう、妥協を入れるべきだろう。

 

「ま、そうは言っても……限りなく近づけることは、できると思う」

 

 ココでの身分は、何も『従士』だけにこだわる必要はない。

 ()()()()も必要だ。公開できるのとは別、探りにくる奴らを満足させられる秘密。むしろそちらの方が、重要になってくるだろう。……彼なら、ソレを用意してくれるはず。

 

 倒れてる男たちの傍に寄る。

 しゃがんでざっと一瞥、目星をつけた体表の幾つかへと伸ばした指/剣印を―――トントントンッ、【点封穴】をしていった。

 【点封穴】(略称【点穴】)___。全身体内を駆け巡ってる剄の交差点/体表に表れてる【剄絡穴】に、適度な刺激と剄を突き込むことで栓に/封じることができる。完璧に突かれてしまうと、しばらく金縛りにあったように動けなくなる、自分の肉体/剄脈自体が自分の動きを妨げてくる。捕縛術の基本にして奥義。

 気絶にくわえて、力量の差も見せつけてやった。あまり必要ないけど、不測なことは起きる。暴れられたり逃げられるのは面倒なので、いちおう点穴しておいた。

 

 小男への尋問―――する前に、メイシェンに尋ねた。

 

「脳波パルスの解析、言語への復号はできる?」

「え? 解析、復号て…………あ」

 

 戸惑われるも、僕がこれからやろうとしてることを察してか、気づいてくれた。……さすが【生徒】だけある。ちゃんと履修していたのだろう。

 

「……あんまり、得意じゃないです」

「よかった。俺も苦手だ」

「おい! ……メイを巻き込むなよ」

 

 医者/父親が釘を刺してくるも、たぶん次に何を要求してくるか察してか、けど構わず続けた。

 

「今からコイツを尋問して、パルスを集める。そいつを君に渡すから、言語化してくれ」

 

 念威奏者なら、できるはずだ……。集めるのは武剄者だが、弁別は奏者の方が得意分野だ。

 僕の突然の協力要請に、当のメイシェンよりも父親の方が慌てた。……当然だ。彼女が念威奏者だと、僕が看破していたのだから。なによりソレを、彼女自身が了解している現状に。

 だから、次の要請も自然な流れになる。

 彼女へと、手を指し伸ばした―――

 

「不安なら、先に【契約】を済まそう。その直通剄路(パス)があれば、渡せる情報にノイズが混じることはない」

 

 先に報酬をもらう……。狡いやり方だったが、後になるか先かだけの話だ。後回しにして良いことは、僕はもちろんのこと、彼女にも益少ない。

 ただ当然、警戒された。メイシェンはオロオロとしながらも、父親に判断を委ねる。

 

「ダメだ! テメェの実力だけでやれ」

「……提案したのは俺だけど、主人には()()()()()()()()()()()があるべきだ、とは思ってる。今回のコレは、ソレを測るのに一番適してるはずだ」

 

 食い下がってみるも、父親は頑として譲らず。できるだけ娘を関わらせまいとしてる。……コレ以上やれば、追い出されかねないほど。

 

(……仕方がない。僕だけでやるか)

 

 さっと切り替え/諦めて、尋問&情報分析に移ろうすると―――

 

「―――あ、あのッ! 

 私……やります。契約します!」

 

 彼女からGOサインを出してきた。……奥手な彼女にしては、意外な即断。

 

「……【従士契約】のリスクとメリットは、心得てるか?」

「おおよそは、です」

 

 いちおう確かめてみても、意思は固いらしい。……そんな彼女を見て、戸惑いを隠せずにいる父親。

 何か口出しされる/その意思が揺らがされる前に、忠告を続けた。

 

「主人である君には、目立ったリスクはほぼ無い。ただ、ほぼ直通で繋げる以上、存在はする。例えば、俺に嘘をついたり秘密を保ったりすることは、難しくなるだろう」

「うぅッ」

 

 ……やっぱり。先に忠告しておいて良かった。

 『序列』を含んだ契約において、隷属側の現象面への縛りは分かりやすい/明記もされてる。けど同時、主人側の想念面への縛りは見えづらい/無視もされてる。上下/優劣がもたらす絶対不変の法則、逆らえば逆らうほど反動/取り返しは強くなる……。【呪術】に分類されてもおかしくない契約だ。

 ただ、短期的ならそんな問題は微小。契約において、彼女にはリスクなんて無い。僕という『都市の外敵』の隠れ蓑になってしまったこと、以外は。……当然、それだけは教えない。

 

 知らなかったリスクにか、少しだけ怯んだものの、やはり変わらず。その視線は「やる」と促してきた。……隣の父親は、眉を潜めるも、ただため息をこぼすのみ。

 その答えに応えるよう、もう一度手を指し伸ばした。

 差し出した手のひらの上、そっと彼女の指が触れて/でもすぐにピクッと跳ねて、それでもと意を決して重ねてきた。

 

 気息を整え集中していった。怯え揺れ続けていた表情が、微睡みの瞑想状態へと変わっていく―――……

 同時に僕の方も、手のひらの剄絡を解き剄脈を晒した。彼女が繋ぎやすいよう整えていく―――……

 そして、完全に同調できた頃合。微かに開かれる彼女の唇から、従士契約の呪文が/念威の源である【虚獣】達の言語が、漏れ紡がれていった。

 

「遘√?雋エ譁ケ繧呈髪驟阪☆繧九?りイエ譁ケ縺ッ遘√↓譛榊セ薙☆繧九?

 蜀?↑繧矩ュゅ?郢九′繧翫?縲∽サ翫%縺ョ譎ゅh繧頑」倥?骼悶∈縺ィ螟峨o繧九?

 縺薙?骼悶′骭??蜊??繧後k縺セ縺ァ縲∫ァ√?雋エ譁ケ縺ョ荳サ莠コ縺ァ縺ゅj縲∬イエ譁ケ縺ッ遘√?蠕灘」ォ縺ィ縺ェ繧九?」

 

 ……相変わらず、意味は全くわからない。けど、頭の奥底を爪で掻き毟るような、言い知れぬ不快感だけは確かにある。

 そして何より、触れ合った手のひらから、何かが侵食/根を張っていく感覚も―――

 

 それらが手首辺りに収束していくと―――チクリ、微かだけど確かな刺しこむ痛み。ソレがもたらされると……終わった。彼女の指先も、いつの間にか離れていた。

 彼女の表情も、いつものモノに戻ったのを見ると、手を返して手の甲を確認した。

 そこには確かに、従士たる証/念威による刺青が刻まれていた。グーパー動かしても消えない。……ソレを見てか彼女も、ホッと安息を漏らしていた。

 

「……後は、俺が期待に応えるだけだな―――」

 

 そう言うやさっそく/もう一度、小男の傍にしゃがんだ。

 そして……ピト、薬指で額に触れながら、首筋の剄脈に干渉し―――目覚めさせた。

 

 無理やり気絶から目覚めさせられた小男は、目を見開き/顎を強ばらせ/仰け反りそうになりながら、声にならない唸り声をあげた。そして徐々に、意識と目の焦点が現実に合わさっていく。

 完全に目が覚めた後、何が起きたのか認識/うろたえ始める前、もう聞こえているだろう耳に尋問を突き込んだ。

 

 

「―――今からお前に、幾つか簡単な質問する。お前は別に()()()()()()()()

 

 

 僕の声/顔を見て、小男は恐慌寸前の金縛り状態。……すんなり入っていった。

 触れてる薬指の感覚に集中しながら、続けた。

 

「お前たちにココへ行くよう命じたのは、女か?」

 

 まず出した質問に、小男以上に周りの二人が首をかしげていた。……当たり前の反応だけど、ちゃんと狙いがある。

 事実、薬指から伝わってきた。その微かな/生のままのパルスが、いま目に映ってる小男の微表情/生体反応と重なり繋がって―――、答えを直感した。

 さらに続ける。

 

「その女は、若いか? そこの彼女と同じぐらいに」

 

 メイシェンを指して。……ありえない年齢層として。

 ゆえに、また小男から伝わってきた。答えも直感するも、コチラが驚かされた。……まさか、そんなに若いとは。

 予断は禁物。念威奏者や武剄者なら、外見と実年齢が全く違うことはザラだ、特に女性は。……メイシェンほど/10代後半の見た目にするのは珍しい、大抵は20代あたりだけど、いないわけではない。

 

「その若い女に命じられて、お前は嬉しかったか?」

「なッ! そ、そんなこと…… ッ!?」

 

 思わずか、小男自身が漏らしてきた。……予期してなかったのだろう、隙を突いた質問になった。

 ゆえに、それまでよりも大量に、小男から伝わってきた。答え以上の個人情報を、直感してくる。……なるほど、確かにそそる様な外見をしてる。

 三つの質問と答えで、準備はできた。ようやく―――もっと()()()

 

「お前が好意をむけてる若い女の、名前は?」

「ッ! ―――」

 

 喋るわけ無いだろう―――。怯えた表情ながらも、隠しきろうと強ばらせてきた。今までの質問が誘導だったと、さらに警戒心を高めながら。

 けど/()()()、流れ込んできた。表面を固めたが故に、緩んでしまった内面/無意識野。今まで得てきたモノと比較/繋ぎ合わさり、名前の発音を直感できた。

 しかし、ソレが文字にも及ぼうとする―――寸前、いきなり小男が苦しみだした。

 

「うぐぅッ!? ―――」

 

 バチッ―――

 同時に、触れていた僕の薬指にも痛覚。静電気を食らったように弾かれた。

 

 突然/意に沿わぬ中断。

 反射が引き起こしてしまった失敗だと、もう一度触れる/再接続しようとするも―――ビリッ、また痛みが走った。今度は、沸騰したヤカンに触れてしまったような火傷感。

 二度の痛みで、ようやく異変を認識すると、その発生源たる薬指を確認して―――、思わず眉をひそめた。

 

(ッ!? ……やられた)

「だ、大丈夫……ですか?」

 

 すぐに気づいてきたメイシェンに、舌打ちを見せてしまうも、構わず、

 

「ああ、問題ないよ」

「で、でも! ソレは―――」

 

 不安そうな/まるで自分が痛がってるような目に写っているのは、薄紫に変色してしまっている僕の薬指だ。第二関節にまで侵食している。……思い切り突き指したとしても、ほぼ一瞬でこうは変わらないだろう。

 我が身の異変だけど、平静状態、その症状も対処法も知っているからこそ。教えよう/宥めようと口を開きかける……前、代わりに父親/医者が説明してくれた。

 

「ほとんど体内には入ってないな。皮膚だけで抑えられてる。これなら、数分ぐらいで抜けちまう」

「そ、そうなんだぁ……」

 

 よかったぁ……。オロオロしていたのが一気に、ホッと安堵した。

 そんな彼女/僕以上に僕の心配をしていたことに、どう反応すればいいのか……、いっそうの無表情に逃げ込んだ。そうしながら、別にある懸念に集中する。医者の顔に目を向けると/ソレだけで診断を止めたことも鑑みて、同じ懸念を抱いているとわかった。

 苦しんでいた小男は、それで事切れる……ことなどは無かった。しかし、そのまま気絶してしまっていた。

 

(……まさか念威じゃなくて、【剄毒】とは)

 

 【剄毒】___。【化練剄】によって毒素に変化させた剄。通常の生物毒よりも毒素は薄いものの、武剄者の意によって変化させられる強みはある。コレを主剄技として極めてる武剄者は、稀だ。

 なぜなら、念威の方が()()()()()()()()()。何の変化も加えなくとも、人を死にいたらしめる劇物。……念威自体が、人類に殺意をむけてる【虚獣】の力ゆえに。

 だから、情報漏えいを防ぐためには、念威術が使われる。自分や秘密に繋がるだろう情報を、確実に/保存してるだろう脳細胞ごと抹消してくれる。ついでに、ハッキングしようとした盗人にも念威を侵食させ、結節点と情報を抹消する。

 でも当然、そんなことは折り込み済み。作動させないため、あえて相手には何も喋らせてない/曖昧な脳波パルスだけしか読んでない。猛毒過ぎるがゆえに命令はハッキリと限定しなければならない、スイッチさえ避ければいい。その死角を突いた……はずだった。

 剄技/剄毒なら、そんな死角は生じえない。逆に地雷となる。

 

 相手の用意周到さ……というよりは、異質さだろう。

 あえて念威術を使わなかった。それとも使えなかったか……。どちらかはまだ、断定できない。

 

「……君は、他にも何かわかったか?」

「え? 他にも、て…… あ。

 は、はい! えぇと――― 」

 

 メイシェンにも流していた、小男の脳波パルス。僕には、尋問した答えと関連映像情報しかわからなかったけど、奏者の彼女ならもっと復号してくれたはず。

 その期待通り、今後の指針を定めるに足る情報を、読み出してくれた。

 

 

_




長々とご視聴、ありがとうございました。

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