再生のレギオス   作:ツルギ剣

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隣人

 

 問題解決して戻った……のもつかの間、

 翌日、また問題がやってきた。

 

 

 

「―――お前が、【ハルキ】をやった男か?」

 

 

 

 褐色肌で黒短髪の若い女性。スラリとした長身で厳しげな顔つき、暴力の鉄火場に近い生活をしている証拠。今はさらに剣呑で、静かにこちらを睨みつけてもいる。

 チラと目を向けただけで、露天商品を選び直すフリをした。

 

 明日には向かう【学園】への準備、最低限は生活できる物を揃えなければならない(メイシェンに言われてはじめて気づけた)ので、急遽揃えている。あり合わせでも良いが、一応彼女の面子も守らねばならない。ので、センスと値段とを天秤にかけながら、色んな店主達とも『相談』してきた。

 そんな連戦をこなしてきたこともあって―――

 

「……知らないな。人違いじゃないのか?」

 

 そっけない態度で応対。……今日はもう、他人とは喋る/交渉したくない気分だ。

 

「本人から聞いた、間違いない」

「なら、もう一度聞き直したほうがいい。俺はそんな名前の奴、知らないよ」

「……シラを切るつもりか?」

 

 食いついてくるな……。雰囲気から察せられたけど、頑固なタイプだろう。あまり相対したくない相手だ。

 

(それに―――)

 

 腰元に注目。服の上からでも分かる、太くだらしなくもなく細く頼りなげでもない、ほどよく引き締まっている腰くびれ……ではなく、ベルトに吊ってある革鞘/【剣帯】。に収められてる短い棒状の何かを―――、おそらく【十手警棒】を。

 さらに、吊り方や握りの見た目・全体の汚れ具合等も。ただのファッションではなく、実際に使い慣れてる証拠も見えた。

 拳銃などの小火器/一般人でも殺傷能力を引き出せる武器ではなかったことも含めると……、シラを切るに越したことはない。

 

「そいつから、俺の名前を聞いたのか?」

 

 僕の名前を当ててみろ……。その【ハルキ】/たぶん昨日遭遇したストーカーには教えていないし、そもそも真偽も定められない。後出しジャンケンで、何とでも答えられる。

 思惑通り、相手は答えようとして―――言葉に詰まった。小さく舌打ちもこぼす。わかりやすい証拠を出せないことを、自問してくれた。

 詐術に気づかれる/そのわずかな隙が消える前、すかさず差し込んだ。

 

「人違いなら、もう行くよ。そいつに会えるといいな――― 」

 

 自然な風を装った、強引な話し切り。そのまま後ろ手でヒラヒラと、離れていこうとした。……なかなかに気に入った商品があって惜しいが、この厄介から離れる方が重要だ。

 そんな害意の無い背中に、突然、剣呑な女性は十手を抜き出すやいなや、思い切り―――突き出してきた。

 空気を切る微音/首筋が泡立つ不快感。察せれた殺気に反射して、ギリギリ―――避けた。

 

 突き出された警棒。ナイフより一回り長い/肘ほどに真っ直ぐ伸びた黒い棒身。その突端/コンマ数秒判断が遅れていた突き抉られただろう箇所から、僅かながら空気を焦がす異臭も……。ただの警棒ではなく、スタンロッドだったらしい。

 半身になりながら、物騒な女と向き合い直されると、 

 

 

 

「―――よく躱したな」

 

 

 

 驚きでも謝罪でもなく事務的に、『できて当然』との含みを隠すことなく。

 想定はしていたので戸惑うことはなく。けど、想定した中でもかなり最悪な部類だったので、つい愚痴がこぼれた。

 

「…………強引だな。人目も気にしないか?」

「ココでは日常だ。それに私は―――」

 

 【都市警察】だ―――。名乗り上げながら、懐から手帳らしきモノを取り出し、見せてきた。制服を着た彼女の顔写真と、都市警察を表す『金色の星が中央にある盾』の金属バッチを。

 本物かどうか、判別できるほどの知識は無い。けど、偽造するリスクは知っている。こんな衆目の中で見せびらかすのには、特に口さがないスラムの住民の前では、後に襲って来るだろう危険が大きすぎる。……本物と見なしたほうが無難だ。

 無言で眉をひそめていると、続けて宣告してきた。

 

「【不法移民】の取締りは、【移民局】からも委託されてる優先事項。こういった、()()()()()()()()()()()()に実力行使できる権限もな」

 

 言い切るとニヤリ……と、意地悪い笑みを向けてきた。

 この都市の法律やこの街の事情も初見でしかない。けど、その大義名分はあまりにも横暴が過ぎると直感できた。向き合ってみると、彼女の顔からもそれが伺えた。……向けてきた笑みが、あまりにもぎこちなかったことで。

 なのでか……、逆に平静になれた。

 

「……アンタの必死さはわかった、そんな詭弁を使わなきゃならないほどにはな」

「ッ!? 」

 

 感じたままを返すと、戸惑いが露わになっていた。……すぐに戻す/固め直すも、ぎこちなさはもう隠しきれない。

 出鼻をくじかれてか、続けれずに睨みつけてくるだけ……。そんな彼女に、コチラから口火をきってやった。

 

「それで、仮容疑者の俺になんの要件だい?」

「『決闘』だ! 今ココで、私と―――」

 

 勝負しろ―――。怒気を露わにそう叫びながら、先ほどのスタンロッドを突き出してきた。

 直裁的過ぎて、今度はコチラが黙らされた。どうすべきか考えるも……答えは出ない。ただ、『もう避けられない』とだけしか。

 

「……勝負の方法は?」

「動かずの近接の間合い。互いに素手で、先に動いた方が負けだ!」

 

 そう説明するや、先から突きつけていたスタンロッドを剣帯に収めた。空いた両徒手へ静かに戦意を込めていく―――。すでにやる気マンマンだ。

 

(……というより)

 

 鼓舞して周りが見えなくなってる……。先に見せた意地悪な笑みと同じ、性格にそぐわないことをしているぎこちなさ。何らかの義務感で押し通そうと、無理に勢い込んでる有様だ。

 すでに、余裕が少ない。決めた一つのことしか見れてない。

 

(なら―――、やり方は他にある)

 

 そっと/警戒されないよう、歩み寄りながら、

 

「もし負けたら、アンタの奴隷にでもなるのか?」

「そ、そんなことはしないッ! ただ……勝敗がつくだけだ」

「そうか。

 なら―――」

 

 できるだけ接近するや―――踏み込んだ、一気に急接近。

 

 手を伸ばせば触れられる近距離に入り込むや、驚いてる間に、すぐさま手を突き伸ばした。

 そして―――

 

 ―――ムニュゥ。

 乳房をガッツリ、掴んだ。

 

(……けっこう、大きい)

 

 見た目に反して、手のひらにかかる弾力の強さ。……どうなってるんだ?

 女警官は一瞬、目が点になるも……、瞬時に顔を真っ赤にして―――

 

「ヒャァッ!? ―――」

 

 思い切りコチラの手を払い除けながら―――、飛び退いた。

 

 

 

 離れた先、赤面しながらの怒り心頭で、

 

「なッ!? なッ、な……何をす―――」

「俺の勝ち、だよな?」

 

 怒りが炸裂する前に、勝利宣言を被せた。

 

 何を言っているのか、睨みつけていた視線がふと地面におちていき……気づいた。さきに自分が、後ろに飛び退いてしまったことを。

 決闘のルール/先に後退したほうが負け―――。その通りを、させられてしまったことを。

 

「まだやるのかい?」

 

 また触られたいのか? ……少しゲスな感じに煽りながら、触った手にも注目させる。ニギニギともしようとしたけど、さすがに無理だった。……演技でもそこまでやりたくない。

 女警官は、顔を赤くしながらも、反射的に腕で胸をガードした。そして、殺意にまでたかまりそうなほどの怒気をぶつけてきた。

 けど、「ふざけるなッ!」と罵倒する前に、気づいてくれた。睨む瞳から戸惑いの揺れが漏れ見えた。自分は飛び退いたのではなく、退()()()()()のだという事実に。アレが実戦なら今頃自分は―――

 

 怒りと恥の熱が、一気に冷却。怖れとそれ以上の警戒心ゆえにだろう、表情は強ばっていた。……彼我の実力差を理解してくれた。

 でも……、退く気はない。負けを認めて詫びをいれて手打ちにする/物騒なことは何も起きなかった、そんな平和な結末を認めようとしなかった。感情が理性的打算を押し切る必死さが、視線を通して突き刺さってくる。

 そして……無意識にだろうか、手が剣帯の警棒へと添えられていた。守ろうとした一線/外聞まで捨てる決意。

 

(…………逆効果、だったかな)

 

 もう刃傷沙汰は避けられない……。僕という武剄者を衆目に晒してしまうことも、『敵』の目に触れてしまう可能性も。

 

(……なら、今度こそ―――)

 

 最短最小限で終わらせる―――。お調子者の演技は止めて、戦意を滾らせていく。無表情に静かに、この諍いを終わらせる最適解へと力を注ぐ―――

 

 互いに無言。もう口火はいらない。互いの剄の高まりが、敵対/初対面のはずの彼女と軽い共感状態をつくりあげていた。ソレが間の空気も変容させ、ビリビリとした緊迫感が張り詰めていく。

 先に抜くのは……彼女の方だ。大義なく先に仕掛けた以上、勝たなければならない。僕の方も、コレ以上煩わされないよう、あえて譲っての『後の先』をもって圧倒する腹積もり。彼女の出方を待つ―――

 

 戦意と打算のしのぎ合い―――。長くも僅かな焦燥の末、添えていただけの手がギッと警棒を握り締めると、一気に抜き放とうとした。

 それに対応して/封殺して、完膚なきまで圧倒する。予め用意していたどの対策カードを切るか、向かってくる彼女の攻め方から決めようと、研ぎ澄まし/凝視していると―――

 

 

 

「―――お、お……お待たせしましたッ!」

 

 

 

 遠くからも聞こえるメイシェンの大声/手を振ってくる姿に、引き戻された。

 ソレは女警官も同じで、ハッと我に帰ったかのような表情で、警棒を抜き出そうとした手をビクリとこわばらせていた。

 

 メイシェンはそのまま、間に割り込むように走ってくると、

 

「こ、コチラの買い出しは、終わりました。も、もうこれで……帰りましょう」

 

 息せきながらの緊張ぶり、あえて相手に気づかぬ空気の読めなさフリながら、チラリと目で合図/懇願してきた。

 

(……すごい、無理してるなぁ)

 

 慣れない演技でガチガチ/バレない方がおかしいぐらい、でもその意図するところはもっけの幸い。

 すぐに先までの戦意は引っ込め、彼女の演技に合わせた。

 

 コチラが退いたので、女警官も退いてくれた……というよりも、困惑して動けずにいた。

 割り込んできたメイシェンを凝視して、そのまま僕と退散しようとすると、ようやく、

 

「―――メイっち。どうしてソイツと一緒にいる?」

 

 その背中を呼び止めてきた。驚愕と戸惑いと、予想していなかっただろう目の前の光景に、声を若干震わせながら。

 メイシェンは、無視して立ち去ろうとした足を止めて、振り返ると勢い込みながら、

 

「な、ナルキには関係ない……ことでしょ!」

「それは――― 」

 

 行きましょう―――。クルリと、返答を断ち切るように背を向けると、そそくさ離れていった。

 僕もその背に従い/でも警戒は怠らずに、唖然と立ちすくみ続ける女警官から離れていった。

 

 

 ――― 

 ……

 

 

 かと言って、問題が解決したわけではなかった。

 

 

 

「―――ど、どうしてついてくるの!?」

 

 商店通りから離れた住宅小道、何事もなく帰れたと……思いきや、振り返ってみたら女警官がついてきていた。一定の距離を保ったまま/ただ黙ったまま、堂々と後をつけてきた。

 気づいてはいたけど無視し続けてきたが、さすがにこのまま診療所までついてこられるのはマズい。僕はそう思って何か対策しようと考えを巡らせていると、メイシェンの方が行動していた、まるで我慢の限界に達したかのように。

 そんな怒気を向けられても、女警官は素知らぬ顔をしながら、

 

「……たまたま同じ方向に歩いてるだけだ」

「ッ!?」

 

 わざとらしい返答にカッと、言葉に詰まらされた。……かわりに、弱々しげながらも睨みを返した。

 

 平然としている女警官は、当然このままでは何時までもついてくる。診療所にまで乗り込んでくるかもしれない。ソレはとても……迷惑だ。

 メイシェンが話しかけたのを良い機会に、僕の方からも突っついてみた。

 

「アンタは、メイシェンの友人か?」

「……聞いてないのか?」

 

 不快さを露わに言うも、答えてはくれた。……一歩前進だ。

 なのでもう一歩、踏み出してもらうことにした。

 

「ああ、聞いてないよ。たぶん、()()()()()()()()()()だったんだろう」

 

 あからさまな煽り文句に、女警官はその柳眉を逆立てた。

 当たりだ―――。期待通りの反応に、直感の裏が取れた、彼女の柔らかい部分の/弱味を。

 

「……そう言うお前は、何者だ?」

「都市警察としての質問か? それとも、彼女の友人としてか?」

 

 さらに攻め立てると、女警官の怒気はさらに増した。

 激昂か拳が溢れてくる―――寸前、メイシェンが割り込んできた。

 

「こ、この人は、私のじゅ……【従者】だからッ!」

 

 少し言いよどみながらも、叫び叩きつけると、女警官は瞠目した。

 そして、信じがたいよう/疑るよう見つめ直すと、

 

「……本当、なのか?」

 

 メイシェンではなく、僕に詰問してきた、証拠を見せろと。

 突然の割り込みとその流れに、どうしたらいいか顔を顰めるも……致し方がない。

 手の甲を見せた。剄をほんの少し活性化させて、従者契約の印も浮かび上がらせる。

 

 その確かな証拠に、また瞠目するも……受け入れざるを得ない。

 驚きの事実に、何を言うべきか戸惑っている。その間隙を刺すようにして、

 

「これで質問には答えたよ。もうさっさと退散してくれると、嬉しいんだが?」

 

 再度追い払おうとするも……、ソレには応じてくれず。

 またメイシェンへ、けど諭すように、

 

「……なぜ、コイツを従者になんかしたんだ?」

 

 なぜか悲しげをかもしながら問いかけてきた。友人というよりも保護者として、けど、そう成ることが/認められなかった者の無念さは隠しきれず。

 予想とは少し違った現れは、メイシェンにもしかと押し迫り、

 

「な、ナルキには関係ないことでしょ! 誰を選ぼうが、私の……自由だし」

 

 身勝手な風に/無神経に、けど尻すぼみな突っぱねは、言い訳をしているように聞こえた。真正面からも向き合えず、目をそらしてしまってる。

 そんな彼女を責め立てる……よりは、頼み込むような辛さをもって、

 

「……簡単に決めていい問題じゃない。メイッちが考えてる以上に、従者の選定は重大事項なんだよ?」

「そ、そんなことッ! …………わかってるよ」

 

 最後にポロリと、今まで聞いたことのなかった不満がでてきた。年相応の、溜め込むより吐き出してしかるべきムクレが……。

 

 一連の会話を傍で聞いて/二人の関係が何となしに分かると、ふと浮かんできた。

 

「……もしかして、君が候補者の一人だったのか?」

「それは―――、……違う」

 

 少し言いよどむも、断言した、苦い顔はしながら。

 そんな彼女に畳み掛けるのは、少々気が引けるも、先に仕掛けたほうが悪い。―――抱えてるだろう問題を、暴露してやった。

 

「だろうな。独力で剄を発生させられない、()()()()()()()()()()君では、彼女の従者は務まらない」

「ッ!? 

 …………なぜ、そうだと?」

 

 【源剄穴】(略称【源穴】)___。体内の奥深くに潜在してる剄の貯蔵庫/【源剄海】から、剄を取り出すための出入り口。たいがいの一般人はほぼ閉じていて、生活できる分しか取り出せない。自由に開閉/特に開くことができる人間を『武剄者』と呼んでいる。

 ただし、源穴が開けるかどうかは、生まれ持っての才能に大きく依存する。修行によっても開けるが、一ヶ月以内でできてしまう天才もいれば数十年かけてようやく開けるなど、人為的に開くことは困難な天与の贈物……とされている/されてきた。

 科学/医学の進歩が、ソレを凡人レベルにまで落とし込んでくれた。

 

「源穴を通さず剄を取り出す【剄回路移植(エミュレート)手術】の後遺症が出てるからだ。しかも、かなり荒っぽいやり方で施術された痕がな」

「えッ!? そ、そんなこと……を?」

 

 その医学の功績を口に出すと、女警官は動揺からか顔を険しくした。……心なしか片手が、下腹部あたりに寄りそうに動いた。

 

 【剄回路移植(エミュレート)手術】___。人造剄脈/【剄回路】(略称【剄路】)を移植することで、源穴を通さずに源剄海から剄を取り出せるようになるバイパス手術。才能を与えられなかった一般人が、それでも武剄者と同じ力を駆使できるようにする業。

 技術や素材は年々向上しているものの、強引な外科手術、それも全身の造りを改変してしまう大手術。当然ながら、適合させるための多大な努力と、なにより患者に訪れる猛烈な副作用/後遺症がある。その危険性を考慮すれば、施術を受ける必要性は限りなく0になるはず。

 それでも、武剄者の力は魅力的だ。何に代えても/リスクなど度外視しても手に入れたいと願う人間は、後を絶たない。

 

「手術で武剄者になった者の顕著な特徴として、瞳の色がある。剄を活性化させると緋色に、自然人体では発生し得ない色になること―――」

 

 僕も/一般の武剄者も剄を励起させることで、瞳は変色するけど、その色は翠だ。重傷を受けたり剄の残量が少なくなってくると緋色になり、焦茶色へとくすみ……最後は黄褐色になる。手術で武剄者になった者は、剄を励起させると翠ではなく緋色から始まる。

 残り体力が瞳の色で如実に露わになってしまうので、隠す技術がある、専用のメガネやコンタクトレンズも開発/発展している。けどソレは、常に戦場/外界に身を置いている者の心構え。ほぼ一般人達と相対してる都市警の場合は、むしろ威嚇効果のためにも露わにする傾向がある。……目の前の彼女は、後者だろう。

 ちなみに爪の変色もまた、特徴としてあげられることがある。残り体力を表す瞳とはちがい、体内の剄の活性具合によって色合いが変わる。最大にまで高めると翠になる。……こちらは、人工と天然の判別には使いづらい。

 

「それに、天性や修行でなった者とは違い、不老長寿じゃない。むしろ逆、寿命を削って力と若さを保っている」

 

 基本的には、武剄者は不老長寿。けど、課せられている戦う使命ゆえに、一般人より短命なことが多い。重傷や虚獣の汚染を受けすぎれば、退けられたはずの老衰にもやられてしまう。なので、都市警察など安全な都市内で活躍する人工的な武剄者と、状況はさほど変わらない。

 ただ武剄者の場合、使命から逃げさえすれば/剄を健康と寿命にのみ注げば不老長寿。だけど、人工的な武剄者の場合はそうじゃない。生きてるだけ/武剄者でありつづけるだけで、損なわれていく、獲得した剄を注いでも足りないほどに。……そもそも剄路に、注げるような設計はされていない。

 

「だから、念威奏者である彼女の従者になることは、できない。念威の流入に体が耐えられない。移植した人造剄脈【剄回路】が壊れてしまうからな」

 

 剄路の特徴にして弱点___。外部からの浸透圧には強くても、内部からの膨張圧には弱い。生体ではなく無機物なので、代謝で新調できず経年劣化で摩耗してしまう。外部からの念威/汚染には、現在では自然の剄脈以上の耐久性がある(とされてる)。けど/その分か、体内に侵入してしまった汚染に対しては、今だもって脆弱。

 念威奏者の従者になれば/契約を結びパスをつなげば、少なからず念威の侵入をゆるしてしまうことになる。一般の武剄者の場合、やはり体内侵入はあまりよろしくないことだけど、微量ならむしろ剄脈を鍛えることにもなる。汚染への耐性も強まって、武剄者としてさらなる高みへと登る一助になる。けど人工武剄者の場合は、そんなゆとり/超回復は見込めない。

 

 一通り突きつけていくと、女警官は観念したように小さくため息をつき……、メイシェンへと向き直ると、

 

「私自身の選択だ。メイッちが気に病む必要はない」

 

 静かな覚悟を秘めた言葉で、逆になだめてきた。

 落ち着いた/そんな現状を受け入れてる有様に、メイシェンは何も言い返せず……奥歯を強く噛むしかなかった。

 

 僕の方も同じだ。少々見誤っていた。……見誤り続けていた。

 そんなしっぺ返しか、先程までの動揺/迷いが消えた覚悟をもって、

 

「……お前の観察眼は認めるが、実力は別だ。

 作り物ではない本物の武剄者の力、メイっちの従者に相応しいかどうか、見定めさせてもらうか―――」

 

 そう宣戦布告するや、剣帯の警棒を抜き出し/胸の前で横倒しに構えると、

 

 

 

「【武装展開(レストレーション)】―――」

 

 

 

 【起動鍵語】を放った。手に持った武装錬金鋼を、設定された/あるべき武器の形へと変貌させる簡略呪文―――

 

 直後ボワリと、警棒が仄かな煌きを放った。

 続いてグニャリと、硬質なはずの棒身が流体となり膨張/伸長/変化していく―――

 

 

 

 時間にして、3秒弱だろうか……。僅かと見るか遅いかは、人それぞれ。

 短剣ほどのサイズでしかなかった十手警棒が、両手で扱うほどの棍棒へと変化していた。……正確に言えば『鉄鞭』に。 

 鉄鞭___。都市警察の常用武器の一つ。刃のない金属の打撃棒でしかないけど、その分かりやすい重量感と原始的な暴力性/整備いらずの短調さも、都市警察の使命に合致していた。ほぼどの都市警察でも、鉄鞭が愛用されているほどに。

 

 完全に展開しきると―――ブンッとひと振り、空を割いた。

 そして、半身に/下段の構えへと力を込めていく―――。全身にも、剄が循環し漲っていくのがわかる。

 さらに、緋色にギラつく視線が、敵意を隠すことなく僕に突き刺さってきた。……図らずもブルリと、身震いさせられる。

 

(これはもう……、やるしかないな)

 

 両足と両手をブラりと、力を抜いた/意識を集中させた。……どんな攻撃がきても対応できるように、無駄な強張りをなくす。

 そしてコチラも、剄を励起/循環/昇華させていきながら―――

 

「……今度の勝負は、どう決着をつける?」

「この一撃から、守りきれるか……だッ!! ――― 」

 

 吠えながら突如、メイシェンへと狙いを定め曲げた。

 そしてそのまま、高速循環させていた剄を鉄鞭に集約させると―――ブゥンッ、振り上げた。

 直後、高圧縮された空気の大砲/【衝剄】が、メイシェンへと放たれていく―――

 

(まずいッ!? ―――)

 

 瞬時に、発射された衝剄の軌道/メイシェンの前に体を割り込ませると、剄を集約させた怪我していた片手の掌底で叩き上げ/受け止め―――バチンッと、真上へ弾き飛ばした。

 

 

 

 間一髪……。意表を突かれた狙いの急変に、体勢と剄が乱れる。

 その間隙を逃さずにか、さらに跳び込んできた。鉄鞭をまっすく/突撃槍のようにして、自分自身を大砲に―――。衝剄は目くらましだった。

 無防備になった僕へ/開けられた懐へ、鉄鞭をもって突貫してくる―――

 

 瞬時の判断―――。避けることも防ぐこともできない。先手で潰さなくてはならない。崩れた体勢ではどれも不可能。間合いもあちらが長い。

 

(なら―――)

 

 その場で体の捻転/重心の強制移動、腰を中心に半身へと捻った。……相手に背中を向ける形になる。

 同時、遠心力をつけた廻し蹴りをもって、目前まで迫りきた鉄鞭の横っ腹を―――蹴り飛ばした。

 

 不意な方向からの衝撃に、手から武器が外れた。……驚愕/体が反応できていない女警官。

 

 その間隙に、もう一つの廻し蹴り。後ろ足/踵の刈りをもって、その瞠目している横っ面を―――蹴り飛ばした。

 不意な方向からの蹴撃にガクンッと、ブレるように/ほぼ直角に吹き飛ばされていった。

 

 そして―――ドカンッと、ゴミ置き場に叩き込まれた。

 ボロゴロと被さっていくゴミの山、すぐに立ち上がることなくそのまま……動かなくなった。

 

 

 

 着地し/残心し終えての振り帰りざま、女警官の無力化を目視確認した。

 

 とりあえずの安堵で落ち着くと、コベリついていた足の/踵の感触。急所であるこめかみ辺りを、しかもカウンターで強打してしまった……。仕方のないことだったけど、やり過ぎたかも。

 後悔がわいてくると……、周囲もざわめいてきた。人通りが少ない住宅小道とはいえ、ケンカには注目が集まってしまう。

 

 僕らに注目が集まる。それが波及して、遠くからも野次馬が目を向けてくる……。派手な行動は控えたかったけど、こうなっては致し方がない。

 狙われた/護衛対象のメイシェンに顔を向け直すと、

 

「な……ナッキぃ!? ――― 」

 

 一連の攻防で唖然としていたのは一時、倒れて気絶した友人のもとへ、駆け寄っていった。……止めようと手を伸ばすも、遅かった。

 

 被さったゴミの山を払い除け/汚れるのも気にせず、友人の安否を確認して……ホッと安堵の吐息。

 しかし、その背中を追い背後に控えていた僕に振り返り様、

 

 

 

「―――どうしてッ、こんなことをッ!」

 

 

 

 ここまでしなくたってッ! ―――。まっすぐに強烈な怒気をぶつけてきた。

 彼女にしては珍しい爆発具合に、一瞬呆けてしまった。……あんなに小動物だった彼女も、こんなに怒りを露にすることがあるのか。

 

 スレ違いながらも黙って見つめ/睨まれた一時のち。どう口火を切ればいいのか迷うも……、正直/事実を告げることにした。

 

「……そいつは、俺じゃなくて彼女に聞いてくれ」

 

 先に仕掛けてきたのはソイツだ―――。言い終えると、これでは彼女を逆撫でにするだけだと、気づいた。

 その危惧はその通りに、カッと怒気が沸いてくる/また罵倒がぶつけられそうになるも―――ハッと、我に帰ったかのように。そして、苦そうな表情を浮かべながらも……収められた。

 

 

 

 目も瞑り数秒……。開いてもう一度向けてきた表情は、先の残滓は漂ってるものの、いつもの彼女だった。

 

 その自制心に、目を見張った。

 念威奏者なら大概は、感情を抑制して平静さを保つような訓練を受けている。人間への殺意に満ちている念威を操るためには、必要不可欠な技能だ。ソレは知識としてあり、実際に幾人の奏者を見て経験していた、熟練者であればあるほどロボットみたいな不気味さまで醸している。けど、彼女もソレができるとは……失礼なことだけど、思っていなかった。

 ただし、言葉をかけられるほどの切り替えまでは、できていない。ソワソワと何かを言いよどんでいるのみ。……そうすべき状況でもないけど。

 

「……行こう。

 彼女なら、そのまま放置しても大丈夫だろう」

「あ、あのッ! 

 その腕、大丈夫……ですか?」

 

 退散を即す僕に、慌てて言ってきた。……たぶん、迷っていた心配を。

 何のことか迷ってしまうも、彼女の視線を追って……気づけた。

 途端、ジクジクと―――痛みが走ってきた。

 

 すぐさま/反射的に、感覚は切って認知だけ通した。『痛いな』と分かるだけ/痛感することはない。

 それでも、グーパーと指/手を動かしてみると……痺れて上手くいかない。力も入らない、剄の通りも最悪だ。

 

(……無理させすぎたな)

 

 我が事ながら、苦笑いした。……もうギブスで固めてでも、使用禁止にしなくちゃならないレベルだ。

 

「……心配いらない。慣れてる」

 

 そう何事もない様で返すと、納得されてない心配顔は無視して/ごまかして、踵を返した。

 

 

 ―――

 ……

 

 

 一難去って、また一難―――

 施療所に戻る手前、また厄介事がやってきた。……正確には、やってきていた。

 

 ボロが所々に見えてる個人店には、あまり相応しくない幌馬車が入口近くに止められている。さらに、体格の良い/身なりも装備も整っている強面の男たち二人が、門番のように立っていた。その場にじっと直立していながら、それとなしに周囲や街路に警戒を走らせている。

 そんな彼らの警戒網に、ギリギリ引っかからないだろう曲がり角から/遠目で、そんな異常を察知することができた。

 

 

 

「―――アイツ等の中に、知り合いはいる?」

 

 見た顔は? ―――。ブンブンと、思い切り横に振られた。……当然だ。もしいたのなら、こっちが驚く。

 

「患者じゃないなら、親父さんの秘密の友達の友達て、わけだな」

「と、友達?」

 

 緊張感のない単語に、すっとんきょうな声が上げられた。……半分冗談事なので、無視。

 改めて見渡す/考えを巡らすと、

 

「確か裏口は……、あっちの裏通りに続いていたな?」

「へ? あ……は、はい!

 ……それが、どうかしました?」

「俺はそっちから帰ろうと思う。君は、悪いが一人で正面から行ってくれないか?」

 

 一瞬ぽかーんとされたが、すぐに察してくれた。緊張感が伝わってくる。

 

 囮になってくれ……。いまは護衛対象である彼女を、あえて一人で行かせる奇策。

 直感として、彼らから敵意や害意はない。家の者であるメイシェンには特に向けられていない。けど……証拠も保証もない、危険を伴う賭けだ。

 一緒に帰るのが安全パイ、そうして悪いことは無い。だけど、取れる時は常に先手を取るのが戦場の常道。孤立無援な僕は、常に賭けをし続けなければならない。大抵の選択で安全パイは、最悪を招く選択肢になる。

 メイシェンは、何かを言いよどむが……グッとこらえて、ただコクりと頷いてくれた。

 いま事前にできることはコレまで/心構えだけ。あとはただ……、進むのみだ。

 

 「行こう―――」。そう告げるや、軽く助走をつけて……、跳躍―――

 タンタンタンと、壁に足を/手もかけ登って行きゆき―――屋根上に着地した。背丈の3倍ほどの高さにあった屋根上。

 

 軽々と登った僕に呆然と驚いているメイシェンへ、手で合図「行ってくれ」。

 ハッと気づいてくれると/意を決して、見知らぬ男達に占領されてる施療所へと向かってくれた。

 

 

 

 メイシェンが街路を出て、少し近づくと―――、男たちの注視が刺さってきた。

 彼女のことは、事前に知らされていた……。すぐに見つけ出せるほど、優先度が上位にあったのだろう。

 その警戒の偏りを見て取ると、僅かにできた死角を通ってすかさず、向かい通りの屋根へと―――跳んだ。

 

 フワリ―――と、までは残念ながらいかなかった。ものの、警戒に引っかかるほどではない静音着地。

 それでも警戒は緩ませず、緊張しながらも自宅に帰っていくメイシェンを男たちが出迎える、それを背中越しにも確認するや……、裏口へと回り込んでいった。

 

 

 ―――

 ……

 

 

 屋根上から裏通りへ、そして裏口までたどり着いて……、おもわずため息が出た。

 誰もいなかった……。

 作戦成功の安堵と、これから味方になるかもしれない相手への落胆。……コチラにも門番が置かれてるかもと警戒していたのは、杞憂に終わった。

 

 それでも/忍び足で近づきながら、ドアノブに手をかけ……鍵が掛かっていることに気づいた。

 当然の戸締り。けど、破れないほど頑丈じゃない、普通の戸締り。

 

 そのまま力づく/強化した腕力で、鍵を破壊しながら侵入する……こともできるが、さすがに控えた。音もでるし、何より今後の印象が悪くなりすぎる。

 ポケットに入れていた商店通りで買ってきた物品/細長い針金を取り出し、丸まっていた状態を真っ直ぐな棒に仕立て直し、そっと……ノブの鍵穴に入れた。奥まで入れると、剄技を発動した。

 針金を通して、鍵穴に固形化した剄を満たしていく―――。針金を芯棒にした一時的なスペア鍵。強度は芯棒に影響されるけど……、この分なら大丈夫だろう。

 

 慎重に回すと……カチャリ、鍵が開いた。

 さらに/次はドアの隙間へ、先のスペア鍵を通すと、ゆっくり上から下へと滑らせた―――

 その途中、何か硬いものに引っ掛かり、止まった。予想していた手応え。固形化した剄の部分を整形し直し/『?』な鈎状に仕立て直すと、クネクネ操作して……カチリ、チェーンを外した。

 

 もう一度ドアノブを回すと、今度は支障なくドアは開いた。

 僅かに開くと、そのままス―――と、体を滑り込ますように家中へと入り込んだ。

 

 

 

 建て付けが少々悪くなっている床。音を立てずの忍び足で中へ、一階の施療室けん応接間に近づいていった。

 入口からそっと中の様子を覗き見ると……、そこには見知らぬ男たちがいた。

 

 体格が良い強面な男たちが二人ほど、ソファの後ろで直立している。その服装、特に腰や脇腹の剣帯とそこに収められているモノから、危険人物度は図れた。

 そんな護衛と思わしき二人の間、ソファにゆったりと座って、メイシェンと父親と向き合っている男は―――

 

 

 

「―――そんなに警戒しないでもらいたいですな、謎の武剄者殿」

 

 

 

 ……気づかれた。隠れていたはずの僕を、完全に認知しての言葉。

 あるいは気づかれていたのか、何時からなのかはわからない。ここまで誘ってきた意図はなんだ……?

 

 答えの出せない問題に……観念した。

 悪びれることなく/トイレから帰ってきたのように、皆の前に姿を現した。

 

 姿を見せて瞬時―――、皆が見せてきたものを捉えた。

 声をかけてきた男/ボスと思わしき男は、とうぜん平静のまま。後ろに控えている護衛たちも、険悪さは深めるも驚きの色合いは見えなかった。……彼らもまた、忍んでいた僕の存在に気づいていたのだろう。

 

(けど、ここまで侵入されてるとは思ってなかった……てところか)

 

 警戒してたのが、いきなり臨戦態勢にさせられた。それでもボスは守り抜けるけど、護衛の指揮官としては失格、面子を痛く傷つけられた。……そんな静かな怒気が、護衛たちから向けられていた。

 まあまあな第一印象を与えられた感触を掴むと、呆れとほんの少し安堵したかのような医者から、

 

「……そっちの入口は、教えてなかったはずだが?」

「そいつらは患者かい?」

 

 あるはずのない/忍んでいたなど素知らぬ気楽さで尋ねた。

 

「いや……、ここいらを仕切ってる【組合】の頭だ」

「そして、先生の古い友人」

 

 ボスの男がそう付け足すと、医者は苦そうな顔を浮かべた。……傍のメイシェンに聞かれてしまったことが、だろうか。

 

 ボスの男___。柔和そうな初老の紳士、なれど深く大きな切傷痕が縦に走っている。ソレは片目も巻き込んでいて、向けてくるその目は白銀色の義眼だった。

 潜伏していた僕を察知したことから、武剄者であるはずだけど、そんな傷痕が残っている不自然さ。外見体格の年齢も、2・30代あたりの肉体最盛期よりも老化し、ギリギリ40代といった後退前期だろう、顔の方はもう一回り老け込んでる。

 剄によって強化された自然治癒力が、傷と老衰に追いつかなくなってる証拠だ。つまり、武剄者としてはもう働けなくなってきている。すぐに療養に移らないと、マイナスの傾きを直せなくなり……寿命を迎えてしまう。

 それだけ修羅場をくぐってきたのか、そもそも武剄の才能に乏しかったのか……。前者であると見たほうが、無難だろう。

 

「つい先日、ウチの若い者がご厄介をかけたと聞いて、急いでやってきた。先生とも、昔話ができればとも……期待して」

 

 穏やかにそう付け加えると、医者は苦そうに眉根を寄せた。……それだけで、二人の関係は何となしには察せられた。

 彼らがここで、メイシェン達には暴力を振るうようなマネはしないだろう、ことが。……それだけでも確かなら、もう十分だ。

 

「なら、俺は用済みだな。二階で休ませてもらってもいいか?」

「アナタとも話がしたくて来た。

 どうぞ、立ち話ではなんなので、コチラに座ってくれ」

 

 そう穏やかにも強引に、空いている椅子へと促してきた。

 断る理由は無い。けど、相手のペースに乗るのは危険だった。……ここはもう、敵地といってもいいだろう。

 

「……ハッキリ言わなきゃダメらしいな。

 ここの主はそこの先生だし、俺がアンタらから聞きたいのは、謝罪だけだよ」

 

 あんな使えない奴を、護衛に寄越した落とし前を―――。倒してしまったのは僕だけど、倒されてしまったことそのものが恥だ。【組合】とかいう組織を運営している以上、侘びを入れなければいけない理由は、確かにある。

 けど……当然、そう簡単にはいかない。

 

「おい、お前ッ! こっちが下手に出てると思って、調子に乗ると―――」

「【ザーフ】、静かにしていろ」

 

 護衛の一人が脅しをかけてくるのを、ボスが止めた、静かながらも凄みのある声で。

 ザーフと呼ばれた護衛は、それでも何か言い募ろうとするも……グッと飲み込んだ。僕を睨みつけるだけに押さえ込んだ。

 部下が言うとおりに抑制しきると、驚くことに、

 

「―――すまなかった。君らを守るつもりが、誤解させてしまった」

 

 ボスの方からやんわりと、しかしハッキリと頭を下げてきた。

 続けて、

 

「今後はそんな誤解がないよう、互いに顔合わせが必要だと思って、ココに来た。互の()()()()に対処するためにも。……それで了解してくれたのなら、続きを話させてもらえないか?」

 

 今度こそ、腰を下ろしてくれないか? ……驚かされたが、想定の範囲。ボスとしての度量は確かにあるらしい。

 再度促される椅子に、今度は受け入れた。

 ただし、座る手前に、

 

「……話は聞くが、一つだけ訂正してくれ。

 俺に()()()()()。あるのは()()()()だ」

 

 状況が変われば/有利なら、『共通の敵』とも組む……。必ずしも共同歩調は取らない表明。

 意味を察してか、護衛たちは顔を険しくするも、ボスはむしろ穏やかに微笑んだ。まるで、『そうでなくては困る』と言わんばかりに、紳士な微笑みの一枚下から好戦的にギラつく武剄者の顔が見えた。

 

(……なかなかに、食えない奴だ)

 

 脳内でボスの危険度を上げた。

 実際の武力は、隠してるだろう切り札を使ったとしても、退けられる格下だ。けど、胆力だけで言うならまだ底知らずだ。ボスがそうなら、組織全体も底上げされるだろう。……一匹狼の僕としては、気軽にケンカを売れない相手だ。

 そんな警戒心は露知らず、たぶんお互いにそんな危惧をしただろうけど、友好的な態度は微動だにせず続けてきた。

 

「君の目的とは?」

「はぐれた知り合いを見つけ出すこと」

 

 簡潔に、それと正直に話した。……本当の目的は、隠しているけど。

 僕が出した答えに、皆が/メイシェンや医者も含めて意表を突かれたように驚いた。

 

「……知り合いとは?」

「10代後半の若い黒髪の女。だけど、容姿は変えてるかもしれない。ただ、特徴的な双剣を使うし、化練剄の使い手でもある。【第5階梯】の武剄者だ」

「5!? ……だと?」

 

 最後の情報に、護衛のザーフが驚愕の声を漏らした。

 ただソレは、ほか皆の総意でもあったのだろう。先には制止したボスだろうとも、不意の口出しを注意することはなかった/余裕がなかった。

 

 【第5階梯】___。武剄者の力量を簡単に示す言葉。階梯は全部で『9』ある。

 『5』といえば中間より少し上程度になるけど、一般の武剄者が修行の末たどり着ける境地は『3』だ。剄を増幅してくれる霊薬や霊泉・幸運に恵まれれば『4』にまで登り、一門の師範やら都市の英傑扱いされる。その上の『5』というのは、天与の才を授けられた本当の意味での天才を意味している。

 その上の『6』からは特殊で、己の才能/運とは関係ないところで決まる。どれだけ努力しても到達できない境界だけど、持てる者は生まれた時から踏み入れている境界でもある。

 『6』は、長年に渡り受け継ぎ/鍛え上げられてきた武剄者血族の末裔か、大量の剄が込められてる物品に選ばれた者。その上の『7』は、単独で虚獣を退けられる武剄者。つまり、【天剣】を授かった/選ばれた勇者。『8』は虚獣を滅ぼせる救世主で、『9』は汚染されたこの惑星を浄化する現人神で……、つまりおとぎ話の世界の住人だ。

 

 一般の武剄者が言ったのなら、ただのハッタリにしか聞こえない5階梯。今ここでソレを教えたのは、事実でもあるからだけど、僕への脅威認識を上方修正してもらうためだ。……危険な核爆弾は、僕だけじゃないのだと。

 護衛たちは動揺を隠しきれず、ハッタリだろうと決め付けるも……できてないことが漏れていた。なにせ、彼らの斥候を一撃で沈めた僕の言葉ゆえに。

 ボスの方は……さすがと言うべきか、余裕は少なくなっているものの動揺を見せるほどには、なっていなかった。

 

「どんな知り合いかな?」

「ビジネスパートナーだ。少し厄介な状況になったから、助力してもらう」

 

 これも事実。……本当は借りたくなかったけど、致し方がない。

 なにせこの都市には、そんな第5階梯の武剄者を【夢幻】に嵌められるほどの、()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 楽勝な任務……などとは、思ってなどいなかった。けど、こんな障害があるとは考えていなかった。

 

「どうして自分で探さない?」

「土地勘がある奴に頼んだほうが早いからだ。……アンタみたいな」

 

 事実だけど、少々違う。

 今この姿で再会してしまったら、ほぼまちがいなく彼女は―――、僕と敵対する。殺そうとまでするだろう。

 協力を得るためには、少なくとも説得の言葉に耳を貸してもらうためには、第三者の緩衝材が必要だ。不意の遭遇も起きないよう、探してもらい/彼女にもソレに警戒して離れてもらえば、不幸な再会は限りなく起きなくなる。……確率の問題だけど。

 そんな『弱味』は教えるわけにはいかず、効率だけを強調した。

 

「君の人探しを手伝えば、君も我々に助力してくれるかな?」

「敵にはならないだろうな。真面目に探してくれてる間は」

「なら、総力をあげて君のビジネスパートナーを探し出すことを、誓おう。

 その女性の名前を、教えてもらってもいいか?」

「【クラリーベル=ログウェル】だ。……偽名を使ってるだろうから、あまり当てにはならないと思う」

「君のようにか?」

 

 さらりと指摘された事実に、一瞬言葉が詰まった。あて推量ではなく、確信を持って見抜いていることに。

 なぜ知っている? ……無言ながらも細めた視線に込めると、

 

「【レイフォン・アルセイフ】という名の青年は、この都市の戸籍や移民登録にも()()()()()。それなのに君は存在し、持ち合わせてるIDもキチンと可動している。()()()()()()()I()D()でなければ、できないことだ」

 

 さらりと教えてきた説明に、図らずも目を見張ってしまった。

 スラムの住民のはずなのに、都市の戸籍や移民登録者名簿を閲覧できる。【生徒】であっても幾つかの認可が必要なのに、IDの使用履歴を閲覧できる。それも、半日にも満たないだろう短時間で確認してしまえる。

 コネがあるのか、仲間を潜り込ませているのか……。そこまでの影響力を持っているとは、

 

「……期待できそうだな。

 その調子で、彼女も探し出してみてくれ」

「任せて欲しい」

 

 快諾してもらうと、「要求は以上だ」と話を切り上げた。

 ボスの方も空気を読んでか、ソファーから腰をあげて「邪魔しました」と別れに一言を告げた。そして、部下ともどもに施療所から出ていこうと……する寸前、

 

「―――あぁ、そういえば。

 ココに来る途中、若い女性の警官に会わなかったか?」

 

 さらりと暴露してきた。……アレは、自分たちが仕掛けたことだと。

 唐突すぎて/何気なさ過ぎて、怒りよりも驚きが沸きあがり頭を占めた。そんな自分を確認できるようになると、苦笑がもれた。……上手いタイミングだ。

 

「会ったどころか、警棒ぶっさされそうになったよ」

「そうか、それは災難だったな。

 今後はそういうことがないよう、キツく注意しておく」

 

 軽々と謝罪すると、今度こそ用は無いと出ていこうとした。

 けど、

 

「―――あ、あのッ!」

 

 今まで黙っていたメイシェンが、勇気を振り絞ってだろう、ボスを呼び止めてきた。

 ボスが立ち止まり/振り返ると、続けて、

 

「な、ナツキは後どれぐらい……武剄者でいられるんですか?」

 

 友人が抱えることになった時限爆弾のタイムリミットを、尋ねた。……気丈に振る舞いながら。

 そんな彼女の真剣さにボスは、一瞬言葉に迷うも……、淡々と宣告してきた。

 

「……平均して4年、長くて10年。彼女の若さなら長い方だが、今置かれてる環境では短くなるだろう」

「そ、そんな……」

「だがその間に、【源剄穴】を開き剄を自活することできれば、その限りではなくなる」

 

 困難なことだが……。もっと言えば、『不可能に近いことだが』だ。

 手術によって武剄を使うとは、密閉されてるはずの器に穴が空いている異常事態を作り出していること。当然、肉体は『傷』と認識し排除/治そうと躍起になる。その反発力すら利用して、武剄が使えるような状態に仕立て上げている。自分の体を騙してる/敵対関係にあるのと同じ。だから、ただ源穴を開くより、少なくとも倍以上の労力がかかってしまう。

 なので、手術者が本物になるには、剄路が源穴に生まれ変わらなければならない。だけど、そんな柔軟さをもっていたとしたら、そもそも手術を受けていなかった矛盾。修行していたら源穴を開くことができていたはず。……希望というには儚すぎる、夢物語にしかならない。

 

 ボスがあえてソレを教えると、メイシェンは黙って俯き……「教えていただき、ありがとうございます」、礼を告げた。

 そんな彼女に、痛ましそうな表情を向けるも……ほんの一瞬。

 踵返すやそのまま出ていき、施療所の前にとめていた馬車へと乗り込んでいった

 

 

 ―――

 ……

 

 

 来訪者たちが馬車で消えてから、ようやくいつもの静けさを取り戻した施療所。

 

「お前さんを拾ってからこの方、寿命が縮っぱなしだよ」

 

 医者/メイシェンの父親が、安息まじりに愚痴ってきた。

 場を和ますためか、ただの独り言か……。皮肉や相づち/聞き流す気分には、まだ戦闘意識が抜けてなかったからだろう、どうにもなれなかった。代わりに、その心の緩みから出ただろう言葉から、それまで引っかかっていた疑問の答えが確信に至れた。

 

「そんなに気にするのなら、【源丹】は守り抜くべきだったな」

「へ?

 ……ッ!?」

 

 その単語に、となりのメイシェンまでもが息を飲んだ。

 

 【源丹】(正式名【源剄丹】)___。源剄海から汲み上げた無色透明な剄の奔流を、活用できる形にするために自分の体に受胎/受肉させる。剄の細胞膜にして、武剄者として扱うことができる剄の大元。別名【潜在剄】。

 コレが損なわれると、上手く剄を操ることができなくなる、原色の剄が体内で暴れ回る。小さい傷なら、扱う剄の総量を手放せば事足りるも、深いものなら武剄者として不能になる。力も不老長寿も、手放さなくては死に至る。

 目の前の医者は、そんな不能に陥っている、元武剄者だ。

 

「………………どうしてわかった?」

 

 医者は一転、表情を険しくしながら問い詰めてきた。……見抜かれた怯えは、隠しきれずに。

 

「あの手の組織と縁があり、今は医者を生業にしてる。元は武剄者だったが何らかの事件で源丹を損なった、そんな奴の王道だ。

 けど、自分の不始末じゃない、組織の不始末を背負ってのこと。だから、()()()()()()()()()()置いていた」

 

 そして加えるなら、先ほどのメイシェンとボスとの会話/彼女の反応だ。どうしたら【源剄穴】を開けるのか、尋ねなかった。

 その必要がなかったから、()()()()()()()。長年考えてきたこと、自分の父親が患っていることだったから……。そしておそらく、ソレを解決するために【生徒】になったのだろう。

 

 色々と、この家の事情がつながってきていると、

 

「―――お前とその相棒は、何の目的でココに来た?」

 

 静かになれど、誤魔化しを許さぬ真っ直ぐさで尋ねてきた。ソレは、となりのメイシェンも同じだった。

 どう答えるべきか……。二人の真剣な様子に、少し悩むも、

 

「彼女と同じだ。この都市のコア【電子精霊】に用がある」

 

 正直に、けど一部隠したまま。嘘はつかないことにした。

 なので、

 

「というのは、当初の目的で、今は別にやらなきゃならない問題ができた。そいつを解決するには、【学園】に行くのが妥当だった」

 

 だから、彼女の従者ではありつづける。契約は守る……。悪いようにはしない。

 

 

 

 今言える最大の誠意。

 伝わったのか/これで満足してくれたかは……及第点、だろうか。医者は、顔の険を少しだけ解いてくれた。

 そして、メイシェンも、

 

「精霊の力なら、源丹を再生させることも……できる、ですよね?」

 

 ナツキを助けることも―――。期待を込めて、尋ねてきた。

 僕の答えは、ニヤリと不敵に笑いながら、

 

「それ以上だ。なにせ、【虚獣】を倒せる力だからな」

 

 何だって叶う―――。僕の任務も。

 

 ソレは三度の、そして今度こそ正式な―――契約の言葉となった。

 

 

_

 




長々とご視聴、ありがとうございました。

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