再生のレギオス   作:ツルギ剣

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入門 前

 

 車窓に手を触れ、軽く叩いた。

 さらに、剄でも負荷をかけてみて―――確認できた。

 

(……やっぱり、出られないか)

 

 車窓は壊れなかった。ひび割れることもなく、奇妙な微震が起きるのみだった。まるで、一時的に通信状態が悪くなり、ラグが発生してしまったかのように。……本物/現実の車窓ではない証拠だ。

 しかも、拡張現実タイプの夢幻ではなく、仮想現実タイプの亜空間だった。同じような見た目だけど、現実空間とは位相が異なる別世界。ここで暴れても/物を壊しても、現実空間への損害は微弱。

 ただ、後者を成立/大勢の他人を取り込むには、あまりにも強制的すぎる。相当な実力者であるか、この列車を自分の自室と同じように扱える特権階級以外には、できないことだ。かなり数を絞れてしまう。

 亜空間へ取り込む引き金は、列車が通ったトンネルだろうか。人工密室/列車の密閉空間に加えて、トンネル効果でスムーズに移相させることができた。

 

「―――もしかして、伝統的な新入生歓迎会……てわけじゃないよな?」

「……聞いたことは、ないです」

 

 それじゃ、いったい何のために……?

 相手の意図を考えていると―――突然、ソレはやってきた。

 

 

 プシューと、ガスが漏れるような音が天井から響いてきた。

 

 

 同時に、半透明な白い煙が噴霧されてくる。

 

 漏出場所は排気口か―――。すばやく見上げ/分かるや否や、鼻腔に甘ったるい香りが触れてきた。それだけで頭がぼぉと緩み、眠くさせられるような香り……。

 

 

 直後/瞬時、口鼻を覆った。

 

 

 催眠ガス―――。それも、かなり強力なガスだ。一嗅しただけで前症状が現れてしまう、危険な毒ガス。

 

「催眠ガスだ。息を止めろ! ―――」

 

 急いでメイシェンに指示しながら、【活剄】を発動した。

 

 【活剄・守息態】___。気血の循環速度を強める抗毒特化の活剄。剄を筋肉等に浸透させないので身体運動強化は微々たる程度だけど、毒ガスの中でも呼吸ができるようになる。……といっても、わざわざ呼吸はしない。すでに入ってしまったモノを洗浄するために使う。

 剄絡循環/外力系剄技の【装剄】で防毒マスクを作り上げる手もあった。けど、直感でコチラを選んだ。狭すぎる密室では、すぐに毒ガスは充満する。装剄では、部屋の吸える空気の枯渇に対応できない。活剄に切り替えざるを得なくなっただろう。先にやれば、安全かつ微弱ながら毒への耐性/慣らしもできる。

 

 

 すぐに白もやのガスは、視界をも覆いはじめた。傍にいるはずのメイシェンまでみえなくなるほどに。

 これだけ蔓延すれば、対策していなければ深い眠りの中だっただろう。けど―――無事、覚醒状態だ。

 試しに、小さく/浅く慎重に呼吸してみるも……、少し頭がクラつく程度。眠りに陥ることはない。剄技は十二分に効果を発揮してくれている。

 

 安全を確信すると、メイシェンの対策。指示を聞いてか、呼吸を止めてくれていた、両手でしかと覆いながら。

 すいこまなければ効果はない/皮膚からの浸透はトリガーになっていないらしい。ので、そうしていれば眠らなくて済むが……、長くは続けられない。突然なこと/緊迫感で、すぐに苦しくなるだろう。

 

 息が続かなくなる―――寸前、彼女の額にそっと指をあてがった。

 

 いきなりのことで困惑される/払いのけられてしまう……と思いきや、反射的にビクリと強ばっただけ。触れるがままにさせた。

 向けられた目/表情を見ると、コチラの意図はしかと理解している様子……というよりは、信頼してくれているのだろう。たとえ眠りに落ちても()()()()()()()()()()()()、ということを。

 

 頭の回転/切り替えの良さ、というよりも、こんな状況を凌ぐ有効な対処方法を暗記していた、といったところだろうか。……ツェルニの塾であっても、『この応急処置』は鉄板のひとつなので、教えているはずだ。

 念威奏者なら武剄者よりも馴染み深いだろう。けど、この瞬間で対応できるのは素晴らしい。僕のように手痛い失敗を重ねたから、ではないだろうからより凄い。……彼女はやはり、優秀だ。

 

 

 信頼に応えるよう、彼女の意識を保護した。剄を浸透させていく―――

 触れた額を/【霊門】の剄穴を通して、精神活動で使われている微弱な剄の循環/流れ/瞬きと繋ぐ。現在の/まだ正常な回転速度を維持するため、ガスによって停滞させられてしまう前に―――

 

 

 指先を通して、彼女とつながり/意識の保護ができたと実感できて―――数秒後。

 息が止め続けられなくなった彼女が、たまらず吸ってしまったのだろう。すぐに、フラフラくらくらとして……たまらずガクンと、眠りに落ちてしまった。

 

 そのまま床に倒れてしまう寸前、背中に回した腕でやんわり、抱き支えてやった。

 

 

 

 

 ガスが充満していく。視界まで曇っていく。排気口からとめどなく噴出され続けている。……すでに視界は、真っ白に覆われていた。

 剄技のおかげで呼吸に問題はない。が、長居するのもよくはない。個室のトビラがあるだろう場所に手を伸ばし、開こうとした。

 

 けど……やっぱり、開かなかった。

 ガッチリと接着されたかのように、よりもそもそも壁なんじゃないかと思ってしまうほど、ビクともしない。トビラと柱にあるはずのわずかな隙間を指で撫でても、帰ってくるのは平板な感触、隙間のくぼみがない。

 ココは夢幻の中だと、再確認できた。外見はつい数十秒前の現実と変わっていないけど、触覚までは再現されていない。……トビラに見えるけどそこは、壁だった。

 

 ただ、疑問は残る。車窓とは事情が違う。

 夢幻は列車全体にかかっているはず。なので、車窓は現実と隔てるための【境界障壁】、現実世界からの圧迫/自浄作用に負けないよう念入りに強固なモノになっている。

 けど、個室のトビラはそうじゃない。内側に障壁をつくるメリットはない、せっかくの広さを活かせなければ力の無駄遣いだ。それに何より、固形化させればバレる/触れられる、もし傷がつけば他の障壁にまでヒビが走り、最悪夢幻全体まで壊れてしまう恐れがある。……障壁はできるだけ造らないのが、夢幻の基本設計だ。

 ただし、制約や条件をもうければ、その限りじゃない。このトビラも、その類の障壁なんだろうけど……

 

(ガスで眠らせるまでの間だけ、てところか)

 

 それなら帳尻は合う。

 剄で一定以上の負荷をかければ、夢幻の障壁は破れる。けど今回のコレには、無意味だろう。このガスの即効性なら、継続時間も必然短くなる。ブチ破る前に開放してくれるはずだ―――

 

 

 

 

 ガスの白もやが個室に充満しきってから……3分ほどだろうか。

 

 充満しきって噴出できなくなったからだろうか。ガスの供給が止まった。空気中に滞留できなくなり、徐々に床に落下していき……、晴れていった。そんな白もやなど、どこにもなかったと言うかのように、何の痕跡もない。

 ただ一つ、腕の中で眠ってしまっているメイシェンを除けば―――

 

 

 さらに5分後/合計8分弱ほど、武者であれ息を止め続けるには難しい時間。

 元の個室の空気まで晴れたのを確認すると、メイシェンを起こした。

 首筋の頚動脈付近、流した剄で血脈を操作/早めて―――、覚醒を促した。

 

 しばらく信号を送り続けると……ビクリ、微かに顔が引きつった。

 さらに信号を続けると、「うぅ……!」と小さく呻き声を上げると……うっすら、目を開けた。

 

 芒洋とコチラを見上げる、僕と目が合うと、

 

「―――…… ッ!///」

 

 瞬時に顔を真っ赤にするや、腕のなかでアタフタし始めた。

 まだ後遺症が気になるも、これだけ元気なら問題はないだろう……。支えを外し、自分で立たせた。

 

 自分で立ってみせるも……、少しフラついた。

 急に目覚めたばかりだから、とは思うけど、やはり毒の後遺症があるかもしれない。意識の方は剄でガードしたけど、全身まではできていない。

 

「どこかまだ、ダルいところはあるか?」

「だ、大丈夫ですッ! ―――」

 

 近づいて顔を覗いてみると、弱々しながらも跳ね除けるよう、急いで離れられた。

 

 そんなに嫌わなくでもいいのに……と、胸の内だけで愚痴一つ、切り替えた。

 

「……せっかく嵌め込んだのに、すぐに『戻した』。何のためにそんなことを……?」

 

 おかしな点を口に出してみると―――

 

 ―――カチリ……。

 鍵が開く音が、トビラから鳴った。

 

 思わず扉を注目/互いに目合わせると、

 

「……どうする、外に出るか? それともココで待機してる?」

 

 いちおう主人なので、選択をまかせて/尋ねてみると……、驚かれた。 

 僕がグイグイ先導するものだと、思ってたのか? ……そういう態度でいられても、仕方がない今までだったけど。

 

 改めるべきか? 判断に迷っていると……ふと、気づいた。驚きの中に、不快が垣間見えたことに。

 彼女ならありえること。もしかして、《選択肢がある》ことに驚かれていたのか? この状況で待機してるなんて、ありえないと? ……ただの推測/懸念だけど、思わず眉をひそめてしまった。

 

 とは言うものの、確かなことじゃない。……そうであると願いたい。

 『ただ驚かれた』体を装いながら、説明を続けた。

 

「引きずり込むトリガーが『トンネルに入る』ことだったのなら、『トンネルから外』に出たら夢幻もはげ落ちる。起点のこの個室でソレを待ってれば、夢幻から抜けるのは簡単だ」

 

 この個室の外に出たら、その限りじゃない、取り込まれ続けるかもしれない。トンネルを通過するタイミングを逃せば、個室に戻っても自動的に脱出/排出はなくなる。……待機し続けているのが、無難な選択肢だ。

 だけど……、悪い予感は当たるものだった。

 

「……何が起きてるのか、確認しないと。もしも何か、事故でも起きてたとしたら……、すぐに解決しないと」

 

 乗組員たちの助けを待つのではなく、自分たちの力で。最悪を想定して動くべき……。一理あるので、否定しきれない。彼女自身の危険を度外視している点を除けば。

 

 強硬に止めるべきか迷うも……、やめた。

 僕は彼女の家族でも友人でもなければ、教育係でもない。ここで争って禍根を残すよりも、願い通りにしたほうが無難だ。僕自身の目的のためにも。

 そうと決めれば、あとはスッパリ切り替えるだけだ。

 

「……時間の流れも、かなり遅くなってるな。いくら夢幻とはいえ、もう抜けてもいい頃合なのに……まだ続いてる」

「え……、あ!?」

 

 乗客を取り込んだ―――。先の催眠ガスは、夢幻の主による攻撃だとの推察。

 

 【集合夢幻】___。取り込んだ人間を強制的に眠らせることで、夢幻の補強材にする。構成素材の一つに/演算機能の増設。なので、夢幻の中では眠らせた人間たちを傷つけることができなくなる。

 メリットは幾つもあるけど、特質なのは『時間操作』。現実とは違う亜空間を作り/引きずり込める夢幻だけど、時間の流れまでは変更できない。夢幻の背骨である主/自分自身が、現実世界に属しているから、流れの速度の変更は夢幻を極端に脆弱にしてしまう……。ソレを眠らせた人間に代行させることで、強度を落とさず成立させられる。

 ただし、デメリットも当然ある。外部の人間を取り込んでしまえば、重要な操縦権も渡さざるを得ない。深く眠ったままなら問題はないけど、起きてしまえば壊される、少なくとも仕掛けたあらゆる罠が暴露されてしまう。

 

 無難な選択であった『待機』も、集合夢幻になっていたとしたら、あまり有効ではなくなる。……それとなく、彼女の決定の背中を押してみた。

 意図が伝わったのか、垣間見えていた不快感がなくなった。

 

「だとしたら……解決しないと、夢幻から出られそうにないな」

 

 行こうか……。彼女の決定に従い、列車内を探索することにした。

 

 となれば、次にやるべき釘差しは、

 

「俺が前にでて君が後方支援。ソレが基本スタンスなんだが、この状況ではそうも言ってられない。

 護身術の心得か携帯武器は……、持ち合わせてるよな?」

「は、はい! ―――」

 

 コレです―――。直刀の両刃ナイフ、というよりも巨大な金属杭、新米奏者のオーソドックスな武装/【片鈷杵】だ。

 

 念威の操作を補助・強化してくれる魔法の短剣/【法具】。【塾】での卒業免許/都市での活動許可を得た奏者が、常時装備を許可される。

 短剣の形を取ってるものの、刃引きされてるので直接他人に傷負わせるのは難しい。念威を通せばその限りじゃないけど、代わりに微光を放ってしまう、傷口にも念威の跡が残る。……暗殺には向かない代物だ。

 だけど、無いよりか十分マシ。ソレで死角からの奇襲を若干でも遅らせてくれれば、無傷を保障できる。

 

「た、【探査子】も展開しますか?」

「君の周囲と背後だけでいいよ。前は邪魔になるからやらなくていい」

 

 わかりました……。

 指示通り、けどじゃっかん不満?/心配?なためらいを見せ、法具に念威を通すと―――

 ボワンッと、刃の部分が微光した。

 

 そのまま光を保たせると、中からニョきりと二つ、中の刃と同じような微光突起が生えてきて……抜けた。

 抜けきるとフワフワ宙を漂うと、メイシェンの無言の指示だろう、彼女の周囲と背後へと飛んでいった。―――【探査子】を周囲に展開させた。

 

 【探査子】___。念威を通して繋げている、自分の感覚の分身体。

 五感全てを備えているモノを作り出すのは難しい/あまり意味もないので、視覚と聴覚だけが主。特化させることで感受範囲も上げている。周囲に展開することで感覚情報を倍増させ、死角を無くし敵の悪意と不透明な未来を明らかにする。念威奏者の十八番にして、求められている基本技術だ。

 武剄者も、【剄探糸】と呼ばれる感覚増大の剄技がある。使えば同じような効果を発揮できるも、汚染が蔓延してる外界では使えない。使ったりしたら虚獣にコチラの位置がバレる、のみならず、糸を通してクラッキングまでされる最悪がある。探査子ならその心配は激減する/虚獣の超絶感知を誤魔化せる。念威で構成されているこの夢幻空間も、基本は同じ。夢の主にバレる危険がある。

 

 準備を整えると、慎重にも素早く、先へと進んでいった。

 

 

 

 

 個室からでて、通路へ。

 しかし、そこは……ガランとしていた。静かすぎた。

 

 夢幻空間特有の肌触り/寒気……。現実なら人がいなくても人気が/残像のような気配が残っていて、かすかながらも命の温かみ/残滓を感じられる。しかし、どれだけ/同じように電灯で照らして見せても、その温かみはココにはない。肌のざわつきは止まらない。……お化け屋敷にいるみたいだ

 個室も夢幻のはずだが、ココはそれ以上に寒々しい。念威がものすごく濃い証拠だ……。どうやら集合夢幻説は、当たりのようだった。

 

 

 警戒しながら先へ、運転室があるだろう先頭車両へと進んでいった。

 接続部のトビラを抜け、前車両へと進む―――

 

 

 

 

 そこは、同じような客室車両なはずだった。

 

 しかし……、誰もいない。個室のトビラも空いていない。

 確認のため、開けようとするも……閉まったまま、ビクともしない。

 

「……客を起こして夢幻を自壊させる、て選択はできないみたいだな」

「そう……みたいですね」

 

 となれば、夢の主を倒すしかない。……一番面倒な選択肢だ。

 

 そこに至ると、嫌な懸念が沸いてきた。

 

 

 ―――乗客の中に、夢幻の創造主(ホスト)がいるのでは?

 

 

 安易に『車掌』、もしくは『乗組員の誰か』が主だと思い込んでいた。けど、そうであった場合、どこに潜んでいるのか見当がつけられない。一つ一つの個室を確かめざるを得なくなる……。時間がかかる。

 ただ幸い、乗客の中に主がいた場合、潜んでいるだろう個室は密封されてないはず。というか、夢幻の構造上不可能だ。全領域から自分で分断させてしまえば、自分の周囲の密室以外の領域に力が届かなくなり消滅する。

 さらに、眠ってもいないはず。

 主がダメージを受けて、念威のコントロールのみならず意識まで失ってしまうと、夢幻は消滅してしまう。眠ったフリすら危険だ。嘘であれ主の意思は、夢幻全域に反映されてしまう、どこかに消滅の綻びを作り出す/現実との境界障壁を薄くしてしまう。取り込んだ乗客をブーストに転用/集合夢幻にする荒業をやってしまった主、維持に集中せざるを得なくなっている状況なはずだ。

 

 探すのは面倒だけど、不可能じゃない。シラミつぶしに確かめていけば、必ず当たりに出会える。

 他にも眠らなかった乗客がいるはず。この列車に乗っているのは、ほぼ【生徒】なのだから。あまりにも突然の奇襲だったとはいえ、対処できたのが自分たちだけなはずはない。

 さらに加えるなら、そこまで危機意識と対応力が高ければ、同じような推察にも到れるはず。

 

 主は思ったよりも早く、見つけ出されるはず―――。

 そんな楽観が浮かんできた……直後、また嫌な推察が出てきた。

 

 

 ―――目が覚めてる乗客に合流できたら、僕らは……()()()()()()()()()

 

 

 同士討ちさせられる―――

 そんな最悪な考え/罠は、何の気のなしに手にかけた前車両へのトビラのノブに手をかけた直後に―――、突っ込んできた。

 

 

 トビラの先/前車両から、敵意に満ちた剄の奔流。ソレが暴力的な形に収束し―――、ぶち破ってきた。

 ず太い槍の穂先が、トビラを貫き破りながら迫ってくる―――

 

 

 

 

 ―――瞬時、半身になりながら斜め後方に緊急回避。寸前で凶器を躱した。

 同時、腰元に構えた片手に剄を収束する。

 

 手応えがなかったからかだろう。槍が手元に戻される。

 

 直刃の槍だったが、十字刃になっていたのが見えた。

 剄で刃を仮設/増設したのだろう。貫いたら返しになって、肉に食い込んでいたところだった……。ソレがひっかかって、トビラがさらにひしゃげていく―――

 

 同時/合わせて、即席の【衝剄】を放った。剣印での圧縮補助をかけず、掌底を突き出しての放射状。

 

 

 放った衝剄は、すでに半壊させられていたトビラに衝突すると、つっかえと支えの部分を―――バキンッ、完全破壊した。

 そのまま玉突きに―――、トビラを前車両へと吹き飛ばした。

 

 

 不意のカウンター。まさか壊されたトビラが、体当たり/復讐してくるなんて―――

 玉突き衝突させたトビラが、奇襲しただろう相手へと復讐を果たした。

 

 

 

 

 開け放たれた前方車両内。武器をもった二人組の男たちが、床に倒れていたのが見えた。……幸いなことに、背後に控えていた奴まで巻き添えにできた。

 

 視認と同時に、跳び込んだ。手に再び剄を収束させながら、倒れてしまっている奇襲者に向かって―――

 

 

 まず一人―――、「うぐぉッ!?」。

 下敷きにさせられたトビラを思い切り踏んで、トドメをさした。鈍い呻きが漏れた。

 

 

 さらにもう一人。踏みつけた僕を見上げて「ひぃッ!?」。

 瞬時に戦術判断を変えてきた。……相棒に挟まれた足を抜いて立つことは諦め、法具を差し向けてきた。

 メイシェンが使っているモノと似てるが、少し違う。柄頭にも刃がある【独鈷杵】だ。

 

 すでに念威が充填していた法具/独特な微光を帯びていた刃。僕に差し向けるや否やその穂先から―――、【念威弾】を撃ってきた。

 

 

 【念威弾】___。拳大の薄青色をした電光の塊。念威を圧縮させて発射した弾丸だ。武剄者における【衝剄】と同じ、基本念威術の一つ。

 ただし本質は、()()()()()()()()()()()だ。衝剄と違って、実際に/物理的に衝撃を受けることはない。触れると相手の神経や剄脈をクラッキングして、『ハンマーにでも殴られたような衝撃』を錯覚させる。体が再現してしまう。……なので、無機物には効果はなく、精神構造が違う人間以外の生物には効果は微弱。

 だけど……、それは現実空間での話、()()()()()()()()()()()()()()()()。衝剄と同じように、物理的にも無機物を破壊できる魔法の弾丸になる。

 

 

 なので―――、コチラも戦術変更した。

 

 発射された念威弾を、剄を収束させていた手で迎え/受け止めて―――、叩き飛ばした。

 真下へ/敵の相棒の顔面へと―――

 

 

 バチンッ―――、空気を入れすぎた風船が割れたような破裂音。

 だけどその威力は……、別物だった。

 

 ぶつけられた武者相棒は、鼻がひしゃげ/顔が凹んだ。盛大に鼻血を噴出させると、そのまま……気絶してしまった。

 完全に無力化……。倒れた床も、ひび割れ凹んでしまっている威力。

 

 

 

 

 戦慄/言葉を失っている相棒奏者、ガタガタ短剣を差し向けたまま呆然としている。……だが、それも数秒のことだろう。

 状況を受けいられる寸前、一足跳びにて相手の懐まで近づくいた。

 そして―――ガシりッ、法具ごと手を掴んだ。

 

 

 いきなり握られ/拘束された自分の手……。払いのけられる前、さらにグンッと引き寄せた。引っ張られ前のめりになる、その無防備な顔面へ―――掌底を叩き込んだ。

 

 

 バゴンッ―――と、鈍い音が弾けた。

 無防備で受けてしまった/カウンターにもなった攻撃に、奏者は思い切り頭を仰け反らされた。……肉よりも骨の硬い感触が手のひらに反射してくる。

 

 手を引き寄せる/残心すると、奏者の頭も引き寄せられて……フラフラ、首の定まりがつかずにさせていると……ガクリ、気絶してしまった。

 全身も脱力してしまい、その場にうつ伏せていった。

 

 

 ―――

 ……

 

 

 遭遇した二人を無力化/周囲の安全を確保する。……他に敵はいない。

 振り返ると、メイシェンに尋ねてみた。

 

「―――コイツらの顔に、見覚えあるか?」

 

 フルフル―――。顔を思い切り横に振られた。……どうしてか、怖がられているように見える。

 

 いちおうの確認だったけど、やはりだった。

 となると、

 

「こっちの顔を確かめないで、いきなりの奇襲だった。それもかなり致命的な……。

 夢の主(ホスト)じゃないが、協力者(サポーター)なのは間違いないな」

 

 思わずニヤリと、笑みがこぼれた。……時間がかかると思っていたけど、何とも幸先が良い。

 

「で、でも……二人共、新入生用の制服を着てます。協力者(サポーター)だとしたら、どうして……?」

 

 メイシェンの指摘/冷静さに、驚かされた。……奏者ならありえることだけど、どうしてか彼女だと意外にみえてしまう。

 

 新入生用の服か……。恥ずかしながらそこまで調べてこなったので、彼女を信じるしかない。もしもそうだったとしたら、

 

「……服は用意できたが、検問を通れるとは限らない。疑われず学園に潜入するには、本物の新入生と成り代わる必要がある。この夢幻は、その背乗りを完成させるために行われたものだった……か?」

 

 口に出して筋を通してみるも……、どうもしっくりこない。

 独り言風だったけど、答えてくれた。

 

「……そもそも、新入生として合格すれば良かっただけ……、じゃないですか?」

「……そうだな。

 合格もできないのに潜入するなんて、無謀すぎる。よほど準備期間が無かったか、速攻で終わらせられる目標だったか……」

 

 あるいは囮か……。本命はすでに内部に侵入している。あるいは、別の角度から攻め入る。

 

 ……やっぱり、しっくりこない。

 どうも何か、ズレてる気がする。僕自身に由来する何かが原因で、真相にたどり着けなくなってる―――

 

「―――あ、その法具は!」

「ん? ……コレがどうかしたか?」

 

 敵奏者から奪い取っていた法具。武剄者の僕じゃ使えないけど、つい持ったままにしていた。

 何か気づいたようなので、見せてみた。

 

「それ、【独鈷杵】です! まだ正式に生徒じゃないと、入学を終えてないと帯剣は許可されないものです!」

 

 許可されてるのは、コレだけです……。自分の【片鈷杵】を見せた。

 

 なんと、そんな規則があったのか……。基礎調査不足だ、帝都/海洋界の常識ではありえないツェルニならではの常識。短期決戦でカタをつけるつもりでいたのが、また裏目に出てしまった。

 胸の内で自戒すると、続きを拝聴した。

 

「それでも、帯剣しちゃう人は中にはいるんですが……、学園の検問でそんなことする人は、いないはずです」

 

 例外はある……。スラム出身の彼女らしい経験談だ。規則があるからと、強力な法具を使わないなどありえない。

 だけど、学園の検問は別。生徒が生活の場にする/都市の中枢部でもあるソコが、厳重じゃないはずがない。規則違反の罰則は、無視できるものじゃない。

 

 ズレていた何かが、正しくハマったような感覚/納得がした。

 僕は誰もが/正体不明の実力者たちは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、思い込んでいた。僕自身がそうであるように、この都市/ツェルニの存続など考慮に値しないと考えられる埒外者だと……。

 剥がれ出そうになるソレを隠すため、ニヤリと笑みをむけた。

 

「コイツらの正体、というかこの夢幻の正体も……見えてきたな。

 ところで、コレから情報抜き出すことは、できたりする」

 

 奪った独鈷杵から……。あるいは、こっちのアームダイト/剄器から。

 

 もう一つ奪っていた剄器/敵武者の槍___。【武装展開】したまま気絶してくれたのは、実にラッキーだった。

 法具は使えないけど、剄器なら利用できる。スラムで揃えた武器はあるものの、手の内はできるだけ晒したくない。全方位から監視できてしまう夢幻の/敵地の中なら、なおのことだ。

 

「……すいません。私、そういう探査系(サーチ)は苦手で……。たぶん、プロテクトは外せないです」

「いや、いちおうの確認だけだ。その手の機密情報は、この夢幻の主が保護してくれてるだろうしな」

 

 法具や剄器には、所有者の個人情報が詰まってる。どんな癖があるか/使用履歴やら、念威の質や剄脈の流れ方などナド。残しておきたくなくても、ダイトをよりよく使いこなすためには必要不可欠な情報だ。……だから、奪われないようにするのが、一人前の常識だ。

 味方(だろう主)がつくった夢幻の中だからと、油断したのかもしれない、手元から離れたら強制圧縮/携帯化を施さなかったのは。……奪われても構わないからだろう。

 

 コレ以上考えても、真相は見いだせない……。あとは、ノビてる彼らから、直接聞き出すだけだ。

 

「それにしても……、起きないものだな

 奏者のコイツはともかく、武者のソイツがその程度でノビ続けるなんて―――」

 

 幾らなんでも軟弱すぎる……。せっかく気づかないフリまでしたのに、気絶したままなんて―――

 

(―――いや、待てよッ!? )

 

 まさか―――。

 嫌な予感に、急いで敵の顔を覗き込んだ。

 

 

 …………最悪だ。

 油断していたのは、僕の方だったらしい。

 

「……どうしたんですか?」

「やられたよ。……【強制退去(リンクアウト)】されてた」

 

 【強制退去】___。夢幻の主(ホスト)協力者(サポーター)に与えられてる権限の一つ、何時でも何処から/何度でも夢幻に入場/退場できる。ただし、予め教えられた一定の規則を無視すれば、夢幻の中を自由に動き回れる/サポーター権限をもった仮の体(アバター)を脱ぎ捨てることになる。……例え再入場しても、僕ら(ゲスト)と同じ立場だ。

 利点として、行動不能にさせられた身体/アバターから解放される。拷問やら尋問を防ぐことができる。……目の前の『コレ』は、もう空っぽのアバターでしかない。

 

 

 思わずも、ため息が漏れた。……相手にしてやられた。みすみす逃げられてしまった。

 すぐに切り替える。

 尋問ができないなら、せめてこの残ったアバターに何か証拠でも―――

 

 ゴソゴソと、もう動かないアバターをまさぐる/丹念に探っていると―――、見つけた。

 服の内ポケットの中から、ソレを取り出してみると、

 

「……鍵、ですか?」

「ああ。問題は『何の?』だ」

 

 古い金属鍵……。今時は、ほぼ電子錠かカードキーになってるはずなのに、古風すぎる代物。

 ただし、ココ/この夢幻列車では、現役ではある。……使える場所を、何処かで見かけた。

 

 近くの密閉されてる個室につかってみようと、したけど……そもそも鍵穴がなかった。施錠しないタイプのスライド扉。

 周囲を見渡しても/通り道を思い返しても、鍵が必要な扉はなかった。―――車外への乗降扉以外は。

 

(コレで本当に、終わりか……?)

 

 夢幻の境界/乗降口の扉の鍵だ。それも、サポーターが持っていたモノ。奪うか倒すかしなければ手に入れられない。……コレが『テスト』だとしたら、まさに合格の印だ。

 でも、簡単すぎるような気がした。僕にとってサポーター達は与し易い相手だった、というのもあるけど、ここまで大げさに舞台を整えたにしては短すぎる。せっかくの集合夢幻を生かしきっていない。

 もう一つ本命/最後の課題が、この先にあるかもしれない……。

 

「……どっちにする?」

「へ? ……なんのことですか?」

「このまま先頭車両まで進むか。それとも、コレを使って外に出てみるか」

 

 当初の目的と、新しく生じた脇道。

 『サポーターから鍵を奪取する』、という課題が明確に示されていたわけではなかった。偶然の発見。突然の催眠ガスを回避した後、ゲスト達が自然に辿る目的地は、車掌たちがいる(はずの)先頭車両なはず。鍵の先の道は、脇道だ。

 ただし、自然な流れゆえに罠、という可能性もある。道すがら、サポーター達は必ず奇襲してきたはず。倒さず逃げ続けることが正解だった、とは思えない。

 

「俺としては、コレを試したい。けど、君の安全を考えると止めるべきだ、とも。だから……、君に任せる」

 

 少し無責任だけど、仮とは言えの主従関係。丸投げすることにした。……ココで考えても/今ある情報だけでは、正解を導けそうにない。

 

 いきなりの責任に、困惑色を浮かべられるも……一瞬だけ。

 すぐに飲み込んで見せると、自分なりに考えを巡らせ―――、尋ね返してきた。

 

「……どうして、()試したいんですか?」

 

 先頭車両に行ってからでも、遅くはない……。もう脅威は消えただろうなので、なおのこと。

 思わず眉が動いた。的確に僕の不自然を見抜いてきた……。でも用意はしていたので、説明を返した。

 

「『今』にこだわってるわけじゃない。決められてる一本径からあえて外れられる道、てのに興味がある。もしかしたら、このまま先に進んでも()()()()()()()なんじゃないか、とな」

 

 あるいは、引っ掛けるための罠か……。だからまず/今、試してからでも遅くはない。

 僕の懸念に、今度は彼女の方が「あ!」と目を丸くした。……理解が早くて助かる。

 

 再び熟考。選択肢に向き直ると、

 

「……もしも、この夢幻の主の目的が、私たち()()()()()()()()だったとしたら……、どういうルートで自分の下にたどり着いて欲しい、でしょうか?」

 

 尋ねるような独り言。答えを確認するようなモノだ。

 

 彼女の中ではもう、答えは決まったらしい……。ならば、言うべきことは一つだけだ。

 

「……それでいいのか?」

「は、はい……。危険は承知してます」

 

 鍵を使う―――。車外に出てみる。

 

 そうと決まれば、乗降扉の前まで進んでいった。

 

 

「それじゃ、開けるぞ―――」

 

 鍵穴に差し込み……カチリ、回し外した。……確かにこの扉の鍵だった。

 

 取っ手の凹みに指を掛けると、力を込めた。

 個室の扉とは違う感触、現実の扉のままな確かな重みにそのまま―――ガラガラ、スライドさせた。

 

 

 直後、吹き込んできた強風/走行音を、一身に浴びた。

 

 

 列車の走行風―――。夢幻特有の生気の無さもあって、忘れかけていた。今自分たちがいる場所が、列車の内部だったことに。走行中に乗降扉を開ければ、こんな風と騒音が吹き込んでくることも。

 ただ同時に、確かめることもできた。まだ夢幻の中にいることに、乗降口は、夢幻の境界ではなかったことを。

 そして、

 

「―――なるほど。この夢幻の本当の境界は、トンネルの方だったんだな」

 

 扉の先、走行中で流れて見えてしまうトンネルの壁……。のはずだけど、違っていた。

 視覚上では現実通りに再現されている。けど、剄を循環させている目から見える光景は、違って見えた。―――黒く暗い壁面に、()()()()()()()()()()()()()()が、いくつもの長い線を引いて/緩くも波打っているのが見えていた。

 夢幻と現実の淡いに発生する【夢幻蝶】が、トンネルの壁面に大量発生していたから。

 

 同じく、髪を押さえながら覗き込んできたメイシェンが、

 

「上から、いけそうですね」

「そうだな。

 先に登って確認してくる」

「い、いえ! 探査子を使います―――」

 

 浮遊させていた一つに指示、先行させた。

 走行風に吹き飛ばされないようカチカチと、壁面に張り付きながら屋根の上へと登っていいった。

 

 

 

 

 上にたどり着いた頃合、探査子から送られてくる周辺情報を確認して、

 

「……大丈夫、みたいです」

「それじゃ、先に行く―――」

「あ!? ま、待ってください!

 何かがみえ――― ッ!?」

 

 突然な『何か』を追いかけ、注視させた。

 そこには―――

 

「ひッ!? な、ま……【魔獣】!?」

 

 予想を超えた単語/危険に、思わず耳を疑った。

 

 さすがにソレは……。僕も確認できるよう、感覚共有をしてもらった。

 探査子が見ている光景が、視界に映し出される―――

 

 

 

 二つ先の前方車両の奥。

 ソコにいたのは―――、巨大なクモの怪物だった。

 

 

 

 大の大人二人分はある巨体。クモによく似た外見をしているも、先がノコギリ刃な足は全部で12本、暗闇の中でも目立つ真っ赤な複眼も4対/8。黒々とした金属質な甲殻の上、鮮血色に輝いている細線が幾十本も走り巡っている。

 明らかに、通常の生物ではありえない凶悪さ。ギリギリと歯ぎしりのような音を鳴らしながら、何かを探している様子、複眼もキョロキョロと動かしているのが見えた。まるで、この場にいてはいけない『異物』に、警戒しているかのように……。

 

 一通り見ると、メイシェンの戦慄も共有できた。……ただ一つを除いて。

 

「【魔獣】……じゃないな。コイツはおそらく、【魔性】の方だろう」

 

 【魔獣】と【魔性】___。現実世界でも実体化できるのが前者で、後者は夢幻の中でしか具現化できない。

 といっても、存在確立させるのは魔獣にとって高負担で、一時的なら魔性でも実体化できるモノがいる。明確に区分することは難しい。

 ただ、このクモを魔性認定したのは、今のココは複合夢幻の中だからだ。念威は濃厚で、時間の流れも操作されてる。こんな歪曲が強い亜空間への侵入は、実体化を犠牲にした魔性しかできない。

 

「……ど、どうして魔性まで?」

 

 魔性に見えるけど、主が念威でつくった被造物/【繰念体】だった。よくできた代物……と言いたいけど、長年の戦闘経験と直感が、迸らせてる殺意の重さが否と答えていた。

 アレは魔性だ。つまり、不測の事態だ。この夢幻に/都市の内部に()()()()()()()()()()証拠。

 

 都市の危機だ―――。

 魔性をこのまま放置すれば、いずれこの夢幻を侵食しきる。力をつけ主の奏者まで取り込み【魔獣】にでもなってしまったら、現実世界にも出現する。ほぼ侵入不可能な都市外壁を無視、ノーリスク/ノーダメージで都市内に出現できる。市民である奏者をコアに/実存の楔にするので、都市の免疫機能がほぼ働かない……。内側から喰われる。

 

 とてつもなくヤバい状況。けど/だからこそ、冷静に観察した。……恐怖を棚上げにする心理技術は、骨身に染みついている。

 

「探査子は、見えてるはずだが……、ハッキリと識別できてないてところか」

「……も、もしかしたら、動きに反応してるのかもです。

 このまま止めてれば、やり過ごせるのかも―――て、あれ?」

 

 メイシェンが異変を感知したらしい。

 共有しているとはいえ、リアルタイムではなく/コンマ数秒遅れた過去映像で、彼女の認識フィルターによる曇りもある。探査子からの生の情報を受け取れる彼女にしか、見えないものがある。

 

「どうした?」

「わかりません……。いきなり転身して、どこかに――― ッ!?」

 

 メイシェンの顔が、戦慄で固まった。

 共有してもらいたいが……、今はそれどころではないのだろう。

 

「……何が見えた?」

「ひ、人が……襲われてます!」

 

 悲鳴じみた説明、動転しそうになっている。……予想できていたことなので、冷静でいられた。

 

「新入生の一人?」

「え? あ……は、はい! そうみたいです。

 あの人は―――、リサさんの友達の一人です!」

 

 次に出てきた情報には、さすがに驚かされた。……まさか、ココでこんな偶然が起きるなんて。

 

「一人で戦ってる? それとも従者がいるか?」

「……一人、みたいです。

 まだなんとか、堪えてます。けど、足場の悪さと魔性の動きへの対応に手こずってるみたいで―――、あぁッ!?」

 

 思わずか、手で口を抑えていた。……悲鳴をあげそうになるのを。

 

 現場/屋根上の戦況は見えない。口ぶりから、リサさんの友達は致命傷をうけてしまったのかもしれない。……なんとももどかしい限りだ。

 けど―――、メイシェンが次に何をしでかすかは、確信できた。

 

 

「―――動かすな!」

 

 

 寸前、怒鳴るようにして止めた。

 効あってかビクリッと、動かそうとした手を強ばらせた。念威を込めて、()()()()()()を送ろうとしたその手を。

 

「え? ……あ!

 で、でも―――」

「助ける義理はない」

 

 それに、死にはしない……。コレが『テスト』なら、致命傷を受けても/例え生命活動が停止しても、全て夢幻の中のことで済ませられる。現実の彼女の身体に反映されないようにしてくれるはず。少しは伝染してしまうだろうけど、失敗の報いだ。

 なら、『何の問題もない』。メイシェンと仲も悪い/障害になるだろう彼女がココで消えるのは、願ったりでもある。手を汚す必要もない、ただ見過ごせばいいだけなのだから……

 しかし―――、向けてきた彼女の顔/瞳は、訴えていた。『そんな卑劣なこと、冗談じゃない!』

 

 善意の怒りを秘めた彼女と、悪意の打算で冷めてる僕。

 互いに無言でにらみ合う。意地と意地の張り合い―――

 

 

 ……先に折れたのは、僕の方だった。

 

 小さく、だけど深くため息をつくと、

 

 

「君はココにいてくれ。アイツとは、俺一人で戦う」

 

 

 せめてもの妥協案を、押し付けた。

 

 ソレが意味することに一拍、唖然とさせられていた。

 けどすぐに悟ると、慌てて、

 

「で、でしたら! せめて探査子だけでも、貼り付けさせてください!」

「やめたほうがいい。【装剄】も使うから、壊すだけになる」

 

 僕の剄を浴びてしまえば、探査子を壊してしまう恐れがある。

 相手は魔性だ、傍から見ても強敵なのがわかる、【活剄】だけでどうにかできる相手じゃないのが。

 

 ……と、突っぱね切っても良かったけど、メイシェンの表情は納得してくれそうに見えなかった。何かしら力になりたいと、ただ黙って待ってるのだけは受け入れられないと。

 

「……俺が戦ってる間に、襲われるかもしれない。持て余してるじゃないのなら、自分の身を守るために使ってくれ」

「……で、でも―――」

 

「『どちらか一方でも脱落したら減点』。……そんな気はしないか?」

 

 

 食い下がろうとする彼女にニヤリと、不敵な笑みを返すや、断ち切るようにして―――列車の外壁へ飛び出た。

 外ハシゴを掴み、屋根へと飛び移っていく―――

 

 

 

 

 

 

 

_




長々とご視聴、ありがとうございました。

思いのほか長くなったので、前後編に分けました。

感想・批評・誤字脱字のしてき、お待ちしております。
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