再生のレギオス   作:ツルギ剣

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入門 後

 

 叩きつけてくる暴風に、体が吹き飛ばされそうによろめいた。

 足腰に力/剄を集中させ、振りとされないよう屋根を踏みしめる。加えて、体周囲の剄脈=剄絡へと剄を流し/循環させ【装剄】を発生させた。剄でつくった透明な鎧が、暴風を弾く/和らげる。直立に問題ないようにした。

 

 屋根に飛び出して着地してから、2秒あまり、準備完了。

 しかし、高濃度の剄を感知したからだろう。魔性クモは、追い詰めていた女性生徒/リサ友への追撃を止め、コチラに目を向けてきた。……9つある複眼のうちの4つほどだ。

 僕を新たな『敵』と認識した。

 

 

 新しい敵の登場に、クモが戦術を練り直しているだろう数瞬。

 まず先、追い詰めていた敵を始末することを決めた。女性生徒をその鋭い爪先で踏み貫く―――前に、動いた。

 

 持ってきた/奪った槍型のダイトを、肩に背負い込むように片手で構えた。瞬時に/強く剄をながしこみ循環させ―――、剄技へと昇華。

 一本刃だったのが、再び十字刃へと展開。さらに高速回転が加わり、ジジジと空気を焦がす異音/バチバチとした電光を放つ突撃槍へと変化した。

 

 全身の力を込めに溜めて、槍へ穂先へと収束/圧縮/爆発寸前にさせきると―――ゴゥンッ、投擲した。

 十字突撃槍を一直線、クモへと投槍した―――

 

 

 超高速で飛来する槍に、クモの巨躯は一切の反応ができなかった……。

 宙に残光の尾をひきながら、貫き飛んだ投槍はそのままクモの腹部を―――、穿ち抉った。

 

 

『びッ…、びギギャァァァーーー――― 』

 

 

 毒々しい紫の体液と、苦悶の絶叫が撒き散らしながら、仰け反り暴れまわる。

 拍子に、屋根から一部足が外れた。さらに体勢まで崩れてよろめいていく―――

 

 

 

 致命の一撃を免れたリサさんのお供女は、引きつった表情/思わずか目をつぶってその時が来るのに強ばっていた。けど……、浴びせられた体液に目を覚まされた。

 激痛で悶え暴れていた魔性グモ。けど、それを圧倒する憤怒を沸き上がらせる。

 真っ赤に輝く全ての複眼を、傷を負わせてきた相手/復讐すべき僕に向けて―――

 

 体勢を整え直す/屋根に足を突き刺すよう踏ん張り直すと、その巨大にして凶暴な顎を―――「キシャァッ」と裂けるほどに開いた。

 何か/反撃される。その直感のままに―――、駆けた。

 

 クモの真正面に向かって一直線。

 さらに、踏みしめていた前足の柵を抜けて、懐へ。反撃できない内側へ入り込んだ。

 クモの死角に滑り込んだ―――

 

 

 見失った一瞬/見つけられるまでの間隙。

 獣の本能と超感覚ゆえだろうか、その複眼はそれでも/すぐに僕を捕捉してきた。

 

 そして反射行動、開けた顎も僕に向ける/喰いちぎろうとする―――

 けどソレは、コチラも読んでいた。それこそが狙いだ。

 

 顎を/顔を無理に向けることで、首元にわずかな無防備が生じた。硬い甲殻の隙間、ねじり開けた関節部から除く柔らかな肉……

 すかさず/一直線にそこへ、剄で強化した手刀を突き込んだ―――

 

 

 手刀は過たず/抵抗も少なく、クモの首筋/関節部を貫いた。

 

 

 手首まで、柔らかい肉の感触に締め付けられるや、【衝剄】を放った。

 首肉の内部で炸裂する衝剄。肉も筋もその強烈な内圧に耐え切れず―――、爆裂した。

 

 

 細肉と脳漿/大量の紫の体液が、あたり一面に爆散する―――

 

 

 クモの頭部は爆断し、大量の吐瀉物を噴出させる。

 

 腕を残った首無し胴体から引き抜くや、支えを失ってグラグラ揺れて……ドタンッ、横倒れてた。

 不幸にも、すぐ傍にいたリサ友は頭から吐瀉物を丸かぶりしてしまい……。全身が紫色にズブ濡れになっていた。

 

 

 

 

 残心……。完全に動かなくなるまで、警戒の睨み。

 人外の獣である魔性であっても、ある程度は現実物理法則が無視される夢幻領域内でも、断頭したら動かなくなる。爆砕したのなら再生など不可能だ。

 頭部を失った胴体は、それでもピクピク蠢いていた。けど、徐々に動きは鈍く小さくなっていくと……、完全に止まった。

 

 完全静止すると……パキンッ、ガラスが割れたような破砕音がソレから鳴った。

 そして直後、胴体部が淡い光の粒子を瞬かせ/霧散していき―――、消滅した。

 屋根に撒き散らされた体液も、腕にコベリ付いたモノも同じく、蒸散するように消え去っていった。

 

 

 全てを見届けるとようやく、安息を漏らした。

 肩の力も抜くと、まだ腰を抜かしたままのリサ友……は無視して/スタスタ、クモに投げ刺した十字槍を拾いにいった。

 

 拾い握り直して……、違和感に目が曇る。

 

(……いや、コレが正常な反応だろう)

 

 十字槍の損傷。魔性に触れるのみならず、貫いたことで強烈な念威を浴びてしまった当然の結果。……耐念威のコーディングがされてない、都市内戦闘用である証拠。

 表面はほぼ代わり映えは無いけど、内部機構の演算処理部分/コアのダメージが大きい。コレでは、剄を流して強化するのは難しい。どころか、戦闘の打ち合いによる衝撃だけで緊急安全装置が作動/【強制携帯化】してしまうかもしれない。

 

 見た目は鋼鉄の槍だけど、木の棒よりも脆い代物。他人の武器/【起動鍵語】は不明なので、一度携帯化したらそのままだ。……もう武器としては使えない。

 ほぼお荷物。なので、そのまま車外に捨ててしまおうとすると、

 

「―――ちょ、ちょっとそこのアナタ!? 

 いい加減、『大丈夫か?』の一つぐらい声かけしてくれても、いいんじゃないの#!」

 

 憤懣と喚くリサお供に、止められた。

 そうも喚かれたので向かい直すと、

 

「……………………大丈夫か?」

「遅ッ! そして、なんで嫌々なのよッ!?」

 

 本音を見事に読まれた。……たぶん、表情にも出てしまったのだろう。

 ただコレで、義務は果たした。

 そのまま横切って、メイシェンの元へ帰ろう/呼びに行こうとすると、

 

「ちょッ!? ちょ、ま……、待ちなさいよ#!」

 

 ……また呼び止められた。

 

「…………まだ何か?」

「うッ! ……み、見てわかるでしょ?

 目の前で、レディが困ってるのよ? つい先に、あんな怪物に襲われて殺されそうになって……」

 

 チラチラと/恥ずかしそうにも、それとなく何かを伝えようとしてきた。

 何を言いたいのか、分かりそうだけど……、考えること自体が億劫になっていた。

 やはり無視して/ため息も一つ、横切ろうとすると、

 

「ちょ!? ま―――、くッ!

 ……て、手を貸してく……くれないかしら#!」

 

 怒鳴るように、懇願してきた。

 とても必死だったので、また振り返ると、

 

「……なぜ?」

「そ、それは……。

 こ、腰が……抜けてしまったからよ#!」

 

 立てないのッ―――。ようやく、抱えていた問題が明らかになった。……恥ずかしがるわけだ。

 

 

 さすがにもう、見て見ぬフリはできなくなった。

 けどため息一つ、手を差し出した。オズオズと、伸ばしてくる相手の手を掴みあげようとした―――寸前、

 

 

 

『―――レ、レイとんダメェ!!』

 

 

 

 機械音声化されたメイシェンの声が、背後から呼び止めてきた。

 

 はからずもピクリと、手を止めた。自称レディも止まった……。

 いや、()()()()()()

 目の前に見えた彼女から、恥ずかしながらも敵対従者に手を貸してもらおうとしている貴族小娘、ではありえない邪気が、現れていた。

 さらに/即座に一瞥してみると、差し出していない方の片手が、背中の腰元に回されていた。そこからギラリと、鋭い光を反射する『何か』が垣間見える。今にもソレを抜き出そうと、腕に力がこもっている―――

 

 ソレを見抜いたのを、察知されたのだろう。自称レディの表情が、さらに剥がれ堕ちた。瞳は暗く黒く、鋭くも落ち着きすぎる様相に転変する―――

 瞬時、同時に動き出した。

 

 

 

 即座に背後へ飛び退いた。

 させじと、握っていたモノをシュンッと、横薙ぎに突き刺してくる―――

 

 

 

 交錯は紙一重。

 黒女の奇襲に、手の皮が浅く切られた。……躱しきったはずだけど、傷は付いてしまっている。 

 

 緊張と疑念に息を飲まされていると、女の方も「チッ!」と舌打ちを漏らしていた。

 けどそれも、一拍の内で切り捨てる。

 

 女の凶器は、両刃の短剣。刃身は特徴的な鋭角三角形になっている。……近距離戦では優位だ。

 片や僕の手にあるのは、壊れかけの十字短槍だ。剄を流していないので一本短槍とでも呼ぶモノ。……こんな近距離では、小回りが利かなくて使えない。

 そんな僕の不利を見て取ったからか、女はさらなる追撃に踏み込んできた。

 体当たり気味に、逆手に握り直した短剣を胸溜めに両手で力を集中、僕を刺し潰そうしてきた―――

 

 

 反撃の間すら与えない、完璧な追撃タイミングだった。踏み込みの強さも、何より決断力も。

 僕にできるのはもう、刺される前提、ギリギリ致命傷を外すだけだ。そして、自分の身体/負傷を囮にして、女の勝ち誇っただろう横っ面に強烈なカウンターをお見舞いしてやることだった。……猛烈な激痛は棚上げにしながら。

 即座に切り替え、でも女には悟られないよう胸の内だけで、即席で組み上げた逆転の計算式をなぞろうとした―――

 

 

 けど―――バタンッ! 「ふぎゃっ!?」

 

 突然、女が目の前で()()()

 受身も取れず、顔面を思い切り地面にぶつけながら……転倒した。

 

 

 

 

 一連の唐突に、僕も思わず、カウンターしようと振り上げていた片腕をそのままに……放けてしまった。

 最大限の警戒を払いながら、豹変女を見下ろすも……、やはりだった。女はただコケただけだった。

 

 うつ伏せに/無防備を晒しているコケた女を一瞥してみると、原因がわかった。

 どうやら、踏み込んで体当たりしようとした時、スカートの裾を踏んづけてしまったらしい。

 腰抜けの演技からの奇襲なので、仕方がない事故と言えばそうなるけど、

 

(……締まらない終わりだな)

 

 女が起き上がる前に、首筋の【命門】を点穴した。

 

 

 ―――

 ……

 

 

 コケ女の手足も針金で縛り上げ、完全拘束。ついでに短剣も没収した。

 

 手に取って改めて確認すると、チンクエデアだったことがわかった。

 何処かの都市の暗殺者達が好んで使ってる短剣。刃身が手刀に酷似してることから、切先を延長/拡大する【硬剄】との相性が抜群に優れてる。……紙一重で躱したのに切られたのは、そのせいだったらしい。

 さらに調べると、刀身に【化練剄】による剄毒が仕込まれているのも判明。切られると侵食、即死な猛毒ではないだろうけど、麻痺させて体の動きを鈍らせる劇毒ではあるはず。……延長させた剄刃に乗せられないのは、不幸中の幸いだった。

 コチラは十字槍とちがってまだまだ使える。まだ敵が潜んでいるかもしれないので、そのまま拝借させてもらうことにした。

 

 

 改めて十字槍を車外にポイ捨てすると、傍らで待っていてくれたメイシェンに/主人同様にオロオロと不安げな探査子に感謝を告げた。

 

「……どうしてこの女が敵だと、わかったんだ?」

『え? あ……はい!

 前の車両内を走査してみたら、【ナターシャ】さんが倒れているのが見えたんです。それで……』

 

 コケ女≠ナターシャ―――。教えてもらうと、失念していたことに気づかされた。

 

 

 夢幻の住人は、簡単に外見を変えられる。

 

 

 ホストは言うに及ばず、サポーターにもその『変身能力』が付与されている。……使えるかどうかは、ホストの力量とサポーターの技量による。

 ゲストに変身することは、基本は夢幻を壊す元凶になる。ので忌避されることだけど、倒して夢に取り込んだのなら構わない。ゲストの精神情報等も入ってくるので、演じるの/騙すのも簡単になる。

 とても基本的な注意事項/外見だけで人を判断するな。失念していたのは……、かなり恥ずかしいことだ。遭遇状況からも気づけてしかるべきことだ、油断しすぎていた。

 

「―――ありがとう。よく気づいてくれたな」

『へ……は、はい!

 こ、こちらこそです。レイとんが前衛をしてくれたから、できたことですから――』

「あ! そういえば、その名前……。なんでだ?」

 

 どうして『レイとん』? ……。よりにもよって、どうしてそんな間が抜けた呼び名で?

 

『……す、スイマセン!

 夢幻の中で本名をそのまま呼ぶのは、危険だと思って、別の呼び名を考えて出てきたのが……ソレだったんです』

 

 ご不快なら、別のものに変えます……。

 

 なるほど、そういうことだったのか。

 確かに、本名が知られることは危険だ。『探査系』に強い奏者が相手だった場合、そこを端緒に弱点まで引っ張り上げてくる。この夢幻の主である奏者が、そうであるとは……勘だけど可能性は薄い。けど、警戒するに越したことはない。

 ただ、『レイとん』はない。呼ばれるのも、返事をするのも辛い。……彼女のネーミングセンスを疑わざるを得ない。

 かと言って、全面肯定してしまうと、またややこしい話になってしまう。……僕も彼女に、別の呼び名を使わざるを得なくなる、そんな仲良しな関係じゃないのに。

 

「…………気遣いは、ありがたくもらっておくよ」

 

 なので、こんな曖昧な返事しかできなかった。……たぶん、苦笑いもしていたはず。

 

 

 メイシェンを屋根に引き上げよう―――。彼女がいる乗降口の上まで向かった。

 屋根伝いに進めば、先頭車両まで一直線だ。また敵が立ちふさがってくるかもしれないけど、『正しい道』の確かさを証明もしてくれる。先にあれだけの障害が出てきた以上、この屋根ルートが答えになるはずだ。

 

 上部にたどり着くと、舞い上がってしまう髪を押さえながら覗き上げている彼女へ、しゃがんで手を伸ばした。引っ張りあげようとする―――

 

 

 寸前、いきなり視界が開けた。

 

 

 密閉された硬いトンネル壁だったそこが、柵状に変わった。

 その柵の向こう/隣車線に、()()()()()()()()()()()が見えた。

 

 そう、あるはずがない……。視界に映っているそれら全てが、淡い薄紫色の光のフィルターで覆われていたから、『現実ではない』と教えてくれたから。

 夢幻の中であるココでは逆、()()()()()()()を表している―――

 

「―――なるほど、こうやって現実との整合性をとってるわけだな」

 

 並走しているもう一つの幽霊列車=現実に走行している列車。……僕らが今乗っているコレこそが夢幻列車。

 進路の先へと目を向けると、トンネル出口手前に分岐点が見えた。そこで現実の列車と交差して―――合流する。

 この夢幻列車から、ゲスト達を現実に帰す。そして夢幻列車はそのまま、トンネルの中をさまよい続ける……。ただのおとぎ話/噂話へ、【都市伝説化】することで強度を維持する。

 

 

 引っ張り上げようとしたが、止めた。もう幾分もなく、この夢幻は終幕する。……危惧していたような『集団拉致事件』には、ならずに済む。

 となると、後は分岐点を待つだけだが、

 

(……外に出てると、どうなるんだ?)

 

 現実でも、屋根の上なのかもしれない……。夢幻から解放してくれるだろうけど、個室に戻してくれるまでは……わからない。

 もしそうなってしまうと……、悪目立ちしすぎる。そのまますぐ駅に着いてしまったら、晒し者になってしまう。

 

 車内に入って待つか―――。急いで乗降口へと降りていった。

 

 

 

 

_




長々とご視聴、ありがとうございました。

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