再生のレギオス   作:ツルギ剣

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呼出 後

 

 

「―――お見事です」

「どういたしまして」

 

 さも『当然の結果』とばかり、僕のことは全て承知とばかりの平静さは気になるも、臆面も出さず。短剣を納刀しようとした。

 そこでふと、刃の痛み具合が目に入った。魔性を直接貫いた後遺症。

 念威汚染など考えずに使った結果は……、『まだ大丈夫』だ。刀身に亀裂が入っているけど、刃足を受け止めはね上げた際だろう、設計図が入ってる核は無傷。あと2回ほどの戦闘/無茶な使用には耐えられるレベル。

 本当の持ち主のことが浮かんできた。返還する時どう言いくるめるか……。「この程度なら許容範囲だろう」と無視。そのまま納刀した。

 

「私の助けは、必要なかったみたいですね」

「ええ見事に、そうなりましたね」

 

 反射的にそう返すと、少し渋い表情になったのが見えた。……ソレを見て、軽い皮肉になっていたことに気づく。

 「大したことじゃない」と無視、この夢幻から出ようとすると、

 

「聞きたいことがあるなら、ココでお答えします。……私が答えられる範囲で」

 

 ヤバ少女から、報酬が渡された。

 

 足を止め、しばし考えた。何を聞き出せば良いのか……?

 逡巡は一時、今ココは二人だけの秘密の結界、僕の目的は決まっている。なら―――、大胆にいく。

 

「アンタ以上の奏者は、この学園にどれだけいる?」

 

 直球の問。僕の正体を晒す危険もあるが、それ以上の価値はある。……目の前の彼女なら、この質問に答えられるはず。

 その目算は正しかった。

 

「……両手で数えられる限り、です」

 

 微かにためらいがちながらも、その答えに嘘は見抜けなかった。……思った通り、彼女はこの都市/ツェルニでは指折りの奏者だった。

 

「彼らの名前と顔は? 得意な系統と使用可能な術、生徒になる以前からの来歴も含めて、全部」

 

 全ての個人情報が欲しい……。無理難題だけど、だからこそだ。コレができる相手だと見込んでる/評価してる、とのアピールも兼ねてる。

 伝わってくれたかは……、残念ながらわからない。奏者としての腕が良いこともあるが、そもそも元の性格も多分にあるだろう、彼女の表情から真偽は読み取れなかった。

 

「……全員は無理ですが、3人ほどなら可能です」

「アンタも含めて?」

 

 すかさずぶっ込んだ。あえてボカされた情報、彼女自身の実力の位置。

 先のためらいは、いったいどんな思惑を隠してのことか……。はんば挑むように待っていると、少し驚かれるも動揺することはなく、

 

 

「申し遅れました。私は18小隊所属の二回生、【フェリシア=エル=ロス】です」

 

 

 ペコリと小さく、会釈までしての自己紹介。10位以内にランクインしてる実力者だと表明してきた。……何ら奢ることのない口ぶり、こちらが拍子抜けしてしまった。

 

 もっと詳しく聞き出そうとする……前、今度は彼女のほうがぶっ込んできた。

 

「ココを出て直に、アナタの主人のメイシェン=トリスデンさんを通して、兄から話が来ると思います。その時は、どうかよしなに」

 

 頼むというよりも、義務として。あるいはもっと、「コレで私の責任は果たした」と言わんばかりに、微かながら冷たさを感じさせる言葉遣い。

 

 新情報に戸惑わされていると、立っていた足場がグニャリと、歪んだような不安定さ。

 さらに注意を向ける/周囲をさっと見渡すと、視界に映っている光景全てがくすんでいるのが見て取れた。魔性がいた時よりも、霞がたちこめたかのようにぼやけてきている。今はもう、僕らが立っている足場以外の空間/重力がないような外部全ては、空に貼り付けられたヘタな絵画/パノラマのように見えてしまう。

 

 夢幻の終焉―――。主である魔性が消滅したことで、夢幻もまた消滅しようとしている。あるいは、僕らを新たな主に据えようとも。

 奏者である目の前の彼女なら、できる。高度かつ、違法に分類されるだろう危険なことだけど、やれないことはない。ただ、武者である僕/不純物が中にいない場合を除いてだ。

 もちろん、彼女にそんな気は無いだろうなので……、秘密の話はここまでだ。

 

 開けていた/維持していた出入り口にそっと触れると……、巨大化させた。人が楽々通れるほどの大きさまで。

 

 お先にどうぞ―――。

 そう勧めるかのように、促してきた。

 

 聞き出したいことはまだまだあったけど……、勧めに乗るしかない。先に行かせて、出入り口を閉められたら敵わない。

 夢幻が完全崩壊すれば、中の人間も排出される。諸共に消滅させるほどの強力な夢幻は、魂レベルまで取り込んでいないとできない、まして武者だと不可能に近い。今回の夢幻では、元の出入り口の場所付近へ叩き出されるのみだろう。……ただちょっと、ビリッと頭痛がするだけ。

 さすがにそんな子供じみた嫌がらせ、やらないだろうが……、警戒するに越したことはない。外に出てからでも、問い詰めればいいだけだ。

 先に出入り口へと入っていった―――

 

 ……まさか、予想の斜め上をいかれた。

 踏み入って、懐かしい現実世界/先にいた大講堂裏手の庭が視界に戻ってきて……、振り返ると、

 

 

「―――それでは明日、訓練所でお会いしましょう」

 

 

 夢幻の中、残った彼女が向けた別れの言葉。

 それを最後に/内側から、出入り口を閉じてしまった。 

 

 閉ざされてしばらく、呆気に取られてしまったけど……すぐハッと、思い至った。

 【夢幻渡り】___。自分の夢幻と他人の夢幻を繋げて、移動する念威術。夢幻を展開できる奏者が使える高位の術。予め別の場所に自分の夢幻を展開しておけば、長距離をほぼ一瞬で移動できる。

 気づいた時にはもう、出入り口は影も形もなくなっていた。

 

「……やってくれたな」

 

 結局、いいように使われ/観察されて、あしらわれた。……約束した報酬情報も、彼女次第になる。

 ため息一つ/もう切り替えて、その場を後にした。

 

 

 

 ……しばらくすると、宣言通り、すぐにメイシェンから連絡がきた。

 

『―――あ、あの……、例の件です。

 講堂の二階のエントランスまで、来てもらって……いいですか?』

「わかった。一分以内に向かう」

 

 短く返事をすると、外部端末を切った。

 即座に目的の場所まで向かう―――

 

 

 ―――

 ……

 

 

 二階のエントランスまでたどり着くと/着くも、メイシェンの姿はどこにも見当たらなかった……。

 代わりに、厳しげな空気を纏った茶短髪褐色メイドと目があった。

 

 年の頃合は二十歳前後の妙齢、背は平均より低く顔立ちは整っている、可愛らしさによった美人だ。白を基調としたメイド服?…を着ているのも拍車をかけている。けど、ソレを感じさせない意志の強そうな眉と目/鋭い顔つき、気に入らない客にはスカートに隠し持っていたショットガンをお見舞いしそうなほどに。

 男であったら体格の良い生粋の兵士を想像させる。この豪華で清潔な大講堂内よりも、硝煙と土埃がまう戦場がよく似合う女性。

 

 一瞬の交錯、でも意味を感じさせるほどには印象深い。

 相手もソレで察したのか、予め知らせられていたのかもしれない、僕の方へと近寄ってきた。

 

「―――お前が、【レイフォン=アルセイフ】だな」

「……アナタは?」

 

 いきなりの断定口調に、おもわず質問返しするも、

 

「主の使いで来た。ついて来い―――」

 

 有無も言わさず指示するや、踵返して先に進んでいった……。強引過ぎるも、不思議と不快さを感じさせない自然さ。その姿が実に板についている。背中を見せて前を歩いているも、隙だらけなどにはなっていないところも。

 従軍経験があるな……。それも、末端の兵士ではなく部下に直接命令を下す立場の兵士、一・二年の短期派遣ではなく長期の駐屯軍としてだ。

 そんな彼女を、雇っている『主』。しかも、本人絶対不満だろうメイド服を着させてもいる……。それもたぶん、メイドはほぼ初心者/適正も無さそうであるにも関わらず。

 気を引き締めなければならない―――

 

「俺の主はどこに?」

「無事だ。この先にいる」

 

 会話を拒絶するような答え。……おしゃべりでも無いみたいだ。でも、だからと言って黙らせたいわけでもない。

 そっと周囲を見わたすと、講堂に入ってから気になっていたことが浮かび、聞いてみた。

 

「……もう式典は終わった?」

「いや、まだ続いている。後半部のガイダンスをやってる最中だ。―――着いたぞ」

 

 示された先にあったのは、二階の小部屋の一つ。部屋の位置と大きさ・豪華さ/清潔さから、応接室のような部屋だろう。奥にもう1部屋あるようだったが、手前の部屋を案内された。

 扉を開けてもらい、中に入ると―――

 

 

 

『―――ようこそ、【ロウファン=ヴォルフシュテイン】卿!』

 

 

 

 銀長髪の怪しいメガネ美男子が、僕の琴線に触れる忌名とともに、ニコやかにも歓迎してきた。

 

 明らかな罠、出会い頭の対戦車砲……。ギリギリ動揺は押し殺すも、すぐに返事を返せなかった。意味深な、動揺してしまったことを表明するような沈黙が流れてしまう。

 

 無表情の仮面の下、超高速で考えを巡らした。なんと答えれば良いか? そこにいるメイシェンにも怪しまれない答えは? どう返事をすれば隠しきれる―――

 沈黙の間が限界を超えそうになった時、閃いた。

 

「…………もしかして、俺のことですか?」

 

 眉をひそめ首をかしげながら、「なんでそんな間違った名前で呼ぶのか?」との不満を大いに込めた。……沈黙していたことにも、ちゃんと意味付けさせた。

 ソレは、すくなくとも及第点な返事だったのだろう。周囲に僕の『本当』を疑われることなく/その種や根も定着させずに、やり返してみせた。

 

「おや? ふむ……。

 なるほど!」

 

 しかし、銀髪メガネは動揺することなく/何か勝手に納得しては、むしろ顔をいっそう輝かせてきた。

 

「失礼。ようこそ、レイフォン=アルセイフ君!」

 

 改めての歓迎挨拶には、もう警戒心の不快しか浮かんでこなかった。……目の前の男との温度差も感じた。

 しかし、怪しいメガネは気にすることなく、自己紹介を始めた。

 

 

「私は、【生徒会】の副会長にして、第18小隊の統括者の【カリアン=エル=ロス】だ。これから君たちが所属する小隊の、総責任者だよ」

 

 

 ……衝撃は、あった。が、予期できたことでもあったので、顔にまで出すことはなく。

 問題だったのは、

 

「……所属するかどうか、まだ猶予はあったはずだが?」

「アレは、決まっていることを受け入れる心の準備期間、てだけの意味だよ」

 

 匂わせる程度だった事柄を、あっさり明言してきた。……何の悪びれもせずに。

 また唖然と、次に不快感が沸いてきて……ハタと、気づいた。

 もしや、コレがこいつの話術か? ……。とにかくコチラの注目を捉え続ける/自分の話題に誘導し続ける。その可能性/罠に気づくと、気を引き締め直した、垂れながしていた感情の栓を閉める。

 

「そうだったとしても、急な話だ。まだ式典も途中なはずだろ?」

「ソレは、君たちが最優秀な新入生であって、他の小隊に取られないための緊急処置さ」

 

 つまり、横紙破りなヘッドハンティング……。この会談そのものが、違法な可能性が出てきた。

 

「まさか、落第間近の二軍小隊員とはいえ、現役の生徒をあれだけ素早く倒した。のみならず、呼び寄せた魔性すら単独で祓った。さらに驚いたことに、生徒会が仕向けた本物のサポーターすら倒してみせた」

 

 そう評価しながら、顔をキラキラ輝かせていった、まるで僕らのファンか何かのように。……ただし、目の方はギラギラと、良からぬ企みがあると見抜けてしまう。

 

「あと10分ほど時間があれば、列車すら停めてしまったことだろう。ソレができなかったのは、ただただ生徒会の力不足なだけだった」

「あれは、停めちゃマズかったんだろ? 分岐点まで走らせないで停めると、乗客全員、永遠に夢幻に閉じ込められる危険があった」

「おや……、それすらわかってたとは!」

 

 また評価を上げてしまったが、気づいたのは現実に戻ってしばらくしてからだけど、あえて訂正せず。

 逆に利用して、薮を突っついてみた。

 

「コレはただの勘なんだが……、アンタは停めて欲しかったんじゃないか? ()()()()()()()にしたかったか?」

 

 根拠のない直感=ただの言いがかり……ではあるものの、確かな気がした。目の前のコイツなら、やりそうな手口だとも。

 

 指摘してみると……、どうやら的から大きくは外れてなかったらしい。隙のない笑顔が一瞬だけ停止したのが、見えた。

 ただし、ほんの一瞬だけだった。証拠には決してならない、気づいても「疑り深い」レッテルで黙殺できるレベル。さらに、

 

「―――素晴らしい。思っていた以上の逸材だ!」

 

 またまた褒める返し。

 やばい……、人心操縦の技量はたぶん、僕よりも格段に上手な男だ。あまりにも自然に、政治ができてる。この土俵では、勝ち目が見えてこない。

 そんな敗北な流れが見えてきたので、

 

「是非ともその力、我々と我らがツェルニのために、貸して欲しい」

「断る!」

 

 問答無用、ハッキリと断った。

 

 当然ながら、メイシェンにも驚かれた。どうして急に方向転換したのか、戸惑っている……。けど、押し通した。伝えられない/了解を得られないのは申し訳ないが、続ければ続けるほど不利になる、いっそココで切る独断を信頼してもらうしかない。

 無理強いの果てにあるのは、暴力的解決だけ。それだけはどちらも、避けるべきことだったから。……相打ち覚悟で、流れを変える。

 ソレは、おおよそ成功した。

 

「……即断だね。

 良ければ、理由を聞かせてもらえないかな?」

「アンタが信用ならないからだ。特に、【投影体(アバター)】なんて使って交渉しようとしてるところが、気に入らない」

 

 コチラの切ったカードに、策略男よりも横手に控えていたメイド(仮)が、大きく動揺を見せた。……ソレでただの直感は、確信に変わった。

 

 【投影体(アバター)】___。作り上げた自分の似姿を、現実空間に貼り付けて、あたかもそこに居る/動いているかのように錯覚させる念威術の一つ。拡張現実タイプの夢幻の簡易版。

 たいていは、術者自身の体に張り付かせて、外見や服装・声などを周囲に錯覚させるのに使われる。自分の身体を使えば、難しいとされる動きのぎこちなさは解消される。ただ、目の前のカリアンのように別の場所から、アバターのみを操り影人形のように動かすこともできる。あたかも自分が、目の前で話しているかのようにして。

 

 本当にソコにいる可能性はあった。それだけ影人形カリアンの動きには、疑いを挟む隙がなかった。けど、この部屋に入ってからのメイド(仮)の落ち着きぶり、敵に変貌するしれない僕に対しての警戒心/ボディーガードとしての意識があまりにも薄かった。その疑惑に、先の動揺ぶりが「是」と答えてくれた。

 さらに、もう一つ疑念があったけど……、ソレはまだ確信には至っていない。

 なので―――

 

「それについては、『申し訳ない』としか言えない。

 今現在私…の本体だね、持病が急に悪化していて、自室で療養中なんだ。動かせる状態にないので、失礼ながらも投影体を送らせてもらってる」

「そうだったか? でも、俺には一切関係ないことだよ」

 

 悪いが、交渉はこれまでだ―――。にべもなく切り捨てると、そのまま踵返した。後ろ手でヒラヒラと、部屋から出ようと扉に向かう。

 その手前、褐色メイドがさっと割り込んできた。

 

「―――話は最後まで、聞いたほうがいい」

 

 聞け―――。

 強引に縫い止めようとしている。けど隠れた奥には、僕への気遣いのようなものが見えた。従者としては失格過ぎる行為/メイシェンを置き去りに自分だけ立ち去るを、あえて断行している疑念でもあるだろう。

 ソレが僕の狙いと繋がってしまう前に、押し通してでも部屋から出ようとすると、 

 

 

「……ふむ。実に素晴らしい。

 気づいていないフリをして、部屋の外に出たら、()()()()()()()()()としたんだね」

 

 

 実に素晴らしい―――。

 背後の銀髪メガネに、気づかれてしまった。……思わず舌打ちが漏れた。

 仕方がないので振り返った。

 

「その様子だともう、私たちのおおよその居場所は、把握できたのかな?」

「ああ、隣の部屋だろ」

 

 仕方がないので白状もした。

 できるだけ穏便に、できるだけメイシェンの身の安全を確保したかったけど、こうなっては仕方がない。隣の部屋ならギリギリ、何か致命的なことをされる前には助け出せる。……嘘と誤魔化しに費やすエネルギーをカット、その時のためへ全集中させる。

 

「良ければ、理由を教えてくれないかな」

()()()()()()()()()()()()だ。彼女が作ってくれた影と、部屋の置物が作ってる影の角度が、微かに違ってる」

 

 僕からの指摘に、メガネは目を丸くし/熟考し……、真偽を確認した。

 

「ふむ…………、おぉ!? 確かにそうだ!

 なんと鋭い観察力だ! いや……ちょっと違うか、この場合は君の機転だな!」

 

 素晴らしい―――。ちょうど窓からの光が当たる側のソファ。あえてそちらを選び、さらには執務机のカリアンに近い場所まで詰めて座った。奥手な性格に加えて、よく知らないも力を持ってるだろう赤の他人との交渉事で独り、そんな不自然すぎる行動をあえてとったメイシェン。……脱帽ものだ。

 僕の方も、一応は【夢幻】への警戒はしていた。つい数分前にもやられたこともあって、怠ってはいなかった。ただし建物内、しかも歴史がありながらもしっかりとした造り、学園の権力者なら簡単に夢幻を展開できてしまう好条件な物件だ。さらに、人気がない個室とあれば、夢幻でない方がありえないほど。窓のない完全な密室だったのなら、そもそも入室しなかっただろう。……強すぎる警戒心の隙を突かれた。

 奏者の彼女は、それを一目で看破。僕にだけ届くメッセージ/違和感を作り、あとは助けを待ち続けた。

 

「君たちはまだ、出会って日が浅いというのに、とても互いを信頼してるんだね」

 

 良いチームワークだ……。カリアンの高評価に、改めて気づかされた。一連のコレは、互への信頼に基づくチームワークだったと。

 驚く、よりも戸惑わされてしまった。あまりにも僕の意図とは違う、他人から見える僕らの関係、ソレ以外に表現しようのない現状の結果……。『罪の意識』のようなものが内側からもたげて、口の中が苦くなる。

 そんな無言の動揺は、気づかれてか無いのか、

 

「バレてしまったのなら、仕方がない。コチラにきてもらってもいいかな?」

「……始めからそのつもりだ」

 

 どうしてか挑むように、今度こその/本当の招待を受けた。

 

 

 ―――

 ……

 

 

 隣の部屋。先の部屋と全く同じ作り、調度品までピタリと合致している応接室。

 

「―――自己紹介は……、改めてする必要もないか」

 

 同じ執務机から、席を立ちながら来訪を歓迎してきたカリアン=エル=ロス。……全く悪びれる様子もなく、感情を読ませない微笑のまま。

 

「ちなみに、コレも投影体だ。……私の本体は自室のベッドの上だよ」

 

 先に白状してきた秘密に、驚いてしまう気持ちも押し殺さざるを得なかった。

 二つの投影体を全く同時に動かした。あるいはもっと、投影体を通してもう一つの投影体を操作していた……。並みの奏者には、この好条件な建物だったとはいえ、まず不可能な超技量。目の前の男は、僕が探している奏者なのかもしれない。準備が不十分な状態で遭遇してしまった、そんな恐れが沸いているも。

 

「私からのオーダーは、まだ有効だ。……受けてくれるかな?」

 

 直接、何の装飾もない勧誘……。意図が読めず、眉をひそめた。今度は本物のメイシェンも、理解できずに困惑を露わに。

 なのでこちらも、正攻法で踏み込んだ。

 

「……なぜ報酬の話をしないんだ?」

「渡せるものは、自己満足の機会だけだからだ」

 

 名誉やカネを、求めてはいない……。とは暗に言うものの、用意できないわけではないのは、その自信に満ちた佇まいから伝わった。僕らをたてるため、誇りのようなモノを穢さない配慮だろう。

 僕は、おそらくメイシェンもだろう、高潔でも熱血でもないので現物の話で気に障ることは微か。でも、その『微か』への配慮分、黙って続きを聞くことにした。

 

「我が18小隊は、ここ最近できた急造の小隊でね。三軍や二軍や控えすらいない、実行部隊だけの超弱小小隊だ」

 

 苦笑しながら言うも、自嘲の歪みはなかった。

 ただの事実。「今は」との、望む未来へと進む意志の確かさがある。

 

「加えて言うなら、去年の学期末あたりに小隊長が重傷で入院、他の主要メンバーの2人も別の小隊にヘッドハンティングされてしまってね、存亡の危機にもある」

 

 君らが入隊してくれないと、18小隊は消滅してしまう……。軽々しく言われるも、大ピンチだ。

 メリットよりもデメリット、リスキー過ぎて賭けにもならない。……唖然としてしまう。

 

「幸い、私には力とカネと小狡さがあった。君らが本来所属するだろう第3小隊から、我らの18小隊へと変更するのは、そう難しいことじゃなかった」

 

 本来あったはずの未来に、メイシェンが目を丸くしていた。……そしてほんの少し、落胆の色合いを見せた。

 小隊についての情報は、まだ街の噂程度しか集めていない。けど、望む限りの好条件だったのはわかった。

 ということで、コチラの返答は決まった。

 

「……話にならないな。

 脅しがダメなら同情を買うとか……、『恥知らず』と思わないか?」

「ふむ、素晴らしい! 我が事ながら実に的を得た表現だ!」

 

 逆に悦ばれた……。どうにも掴みどころが無い。続く手を出せない/させてもらえない。

 話の主導権を握れずにいると、

 

「では、『恥知らず』の名に相応しくもう一つだけ、約束しよう―――

 

 

 我らが都市の魂、【電子精霊ツェルニ】に会わせよう」

 

 

「「ッ!?」」

 

 また予想の斜め上をいく答え。僕らの目的そのものが、その口から出てきた。……隠しきれず、息を飲んだのが顔に現れてしまった。

 

「通常時は、なぜか【天剣・ヴァルゼンハイム卿】が謁見すら許してくれない。が、小隊員なら特別に許可される。【都市内対抗試合】で、総合成績第8位以内に入れた小隊員のみだけどね」

 

 つまり、第一軍で活躍していなければ、どこの有力小隊に所属していても不可能……。超弱小ながらも、18小隊ならではのメリットだ。

 図らずも明かされた、もう一つの大目的への道。謁見を望まない生徒の方が稀/士道不覚悟ともなるので、いくらでも誤魔化せる。けど、あまりにも良すぎる暴露タイミング。……目の前の男は、いったいどこまで掴んでいるのか?

 

 探り出してやる―――、とはしたいものの、止めた。

 口八丁・腹芸は奴の土俵だろう。迂闊に手を出せば、もっと情報を引きずり出される、そのための撒き餌だったのかも。もしくは、ハッタリだったものに確信を与えてしまう恐れすらある。今は何もしないで、傷を最小限にとどめるのがベターだ。……焦る気持ちは抑え切った。

 

「ちなみにその謁見は、天剣の『譲渡儀式』も兼ねてる、なんて噂もある。……上手く勝ち進めば、【天剣授受者】になれる未来すらあるよ♪」

 

 都市の守護者にして、精霊の守人……。そこには、『市民の生存』は含まれていない。その非人道的なまでの強制力は、嫌になるほど知っている。……それでもソレは、あらゆる武者たちの羨望の頂点。

 おちゃらけながらも、僕を揺さぶるのが明らかな罠。そんなものには乗ってやらず、ただジトォ~…と見返した。

 

 何の反応も見せずにいると、すぐに一変、緩ませた空気を引き締めてきた。

 

「最後に、コレは正式に一軍に所属した小隊員のみに明かされる秘事だけど……、

 ツェルニにはもう、セルニウム採掘権は存在しない」

「え…………、ほえぇッ!?」

 

 仰天のあまりか、メイシェンが飛び上がった。机にガンッ!と、膝をぶつけてしまうほどに……。その狼狽ぶりに、なんとか平静さを保てた。

 

 やはり、知らなかったのか……。やはり、知らされていなかった。そしてやはり、知っていながら隠していた。

 目の前のカリアンは、『人道に対する罪』で未来永劫に断罪されるべき者達の一員だった。

 そんな前情報を知っていたので、狼狽することなどなかった。けど、次の告白には瞠目してしまった。

 

「でも、()()()()()()()()()()()()()()。いや、()()()()()と言ったほうがいいいだろう。

 その戦争に勝利できれば、ツェルニを存命させることができる」

 

 断定して告げてきた情報に、一瞬呆然としてしまった。……そんなこと、ありえないことだったから。

 そんな常識を返そうとするも、目の前のカリアンから見えてくるのは……、ハッタリではなかった。何かしらの事実に基づいた、確実なことだと。

 

 それでも、疑いを入れることはできるも、しなかった。

 いや、できなかった。喉まで出かかって……、飲み込んでいた。

 自分の行動に困惑するも、同時に気づかされた。自分の中に、『女王の勅命』を忌避している躊躇いがあることに。『彼女』だけを見つめているわけではなかった不純さに―――

 

(……勅命? それに、『彼女』て……――― )

 

 ―――、ッ!?

 

 

 戦慄が、背筋を走りぬけた―――。

 大切なはずなのに、朧げになっていた。顔や名前すらも、忘れかけていた。()()()()()()()()()()()()()()()()、かのように。

 自分にかかっていた呪いの魔の手が、こんなにも侵食していたとは……。顔を強ばらせていたのが、周りにも見えていたことだろう。

 

 幸いなことに、全てを悟られたわけではなく、カリアンは何事も見抜かなかったかのように続けて言った。

 

「―――その戦争の最中、ただの指示待ちの末端兵士になるか? それとも、打って出れる小隊員になれるか? ……今ココでしか、選択できない」

 

 残念ながらね……。そう匂わせるも、謝罪する気はない。悪罵を背負ってでも前に進むと、決定してしまった。

 その決意に押されてか、メイシェン共々に、出ようとした愚痴は抑えつけられた。カリアンの狂気にのまれそうになる―――

 

「―――そこまで分かってるのなら、なぜ市民の避難をしなかったんだ?」

 

 そんなバクチなんかしていないで―――。だからこそ、溜め込んでいた真っ当な心情をぶつけ返した。

 

 僕自身もまた、目の前の男とさほど変わらないだろう。詐欺師か盗人かの名違いだけ。……それでも、できればこんなことしたくはなかった。

 別の方法があるのならそちらを選ぶ。採掘権が無くなった直後、都市を捨てるか他の都市に帰順するかを選ぶ。市民の生命を第一に行動してくれていたのなら、今僕がしていたのはただの墓泥棒だったはず。死者は冒涜するかもしれないけど、生者を虐殺するような外道をするハメにはならなかった。……その不満をそのままに、押し付けた。

 コレもまた最低なことだ。けど、誰かが言わねばならないこと。面と向かって、このスカした銀髪メガネに。……今ここでは、僕しかいなかっただけだ。

 

 そのカウンターは……、なかなかに効果てきめんだった。

 微笑みを崩さなかったカリアンは、はじめて苦顔をみせていた。

 

「……気づけた時には、もう取り返しがつかなかった。やるしかなくなってた。逃げ場はどこにもない……。

 どれだけ微かな可能性だろうとも、勝つ以外に我々の生き残る道は、ない」

 

 『我々』、なんと大きな主語なことか……。口にも出してやろうとするも、自覚はしていた様子が見て取れて、止めた。

 代わりに、

 

「ソレは、他人の不始末なのか? それとも、()()()()()()()()か?」

 

 先ほどの言葉。曖昧にぼかされたことを、ハッキリさせようとした。……罪悪感を刺激する、勢いに任せて。

 ソレは、僕自身の目的にも繋がる問。もしも後者だったのなら、目の前のカリアンこそ探していた奏者、その可能性がより高くなる。

 

「……ソレはもう、問わないことにしている。『全て背負うためにココにいる』のだと、覚悟が揺らいでしまうからね」

 

 しかし、帰ってきたのはまた、どうとでも取れる答え……。自分が奏者でないことが悔やまれる。【魔眼】を打ち込んでいたら、違った/求めていた答えだったのかもしれない。

 

 打算が顔を出してしまった僕にできるのは、ココまでだった。

 けど、

 

 

「―――わ、私が助けたいのは、家族と友人と親しいご近所さん達だけで。それ以外の人は……知りません」

 

 

 メイシェンは違った。

 普段のように、オドついた様子など見せず。けど、搾りだすようにして吐き出した真情は―――

 

「できれば、助けたいとは思います。でも、助けられなくなる危険を冒してまでは……、やりたくないです」

 

 ハッキリと言い切るも、露わになるのは苦い俯き顔。自分の言葉で自傷したかのようで、痛みに耐えている。

 向けられた相手でないものの、驚かされた。いや、短い付き合いながら彼女のことは何となしに掴めていた。『そうだろう』とは思ってはいたけど、いざ言われると驚いてしまう不思議。……僕でもそうだったから、カリアンも悠然さを止められていた。

 

「……誠実な意見、ありがとう。

 安心して欲しい、我々もそうだったよ。おそらく、小隊員になった者たちも、初めはその規模だっただろう」

 

 小隊員になれば、自然とそうなっていく……。職責が、本来の願いをより高める/歪める。

 

 最悪なことだけど、事実だ。自分の願いに相応しくない職務につけば、どんどん歪められる。カネのため生活のため、同じ職場の人間のため……。本来の自分の願いがわからなくなるほどにも。

 そこに意志の強さは関係ない。むしろ、弱いからこそそんなドツボに嵌る。そもそも強ければ、そんな罠には嵌らない。……彼女と僕の、数少ない共通点だろう。

 加えれば彼女の場合、『断れない』。誰であれ、かけられた期待には応えてしまう/無視できない。嵌りたくなくとも引きずり込まれてしまう。……おそらく、多分な優しさが故に。

 なので、

 

「……なぜ、アナタは逃げなかったんですか? その力も機会も、あったはずなのに」

 

 どうして……? できるのは、ただ確認のみ。8割方は確信できているだろう直感を、相手の口から言葉にして欲しいだけ。

 ソレが彼女の選択ならば、それでもいい。僕の目的には反していないので、口を挟めることでもない。ただ、どうしてか……、飲み込み難いモノに顔が苦くなった。

 

「端的に言うと……、『愛』だな。私が生まれ育った、この都市に対しての」

 

 およそ目の前の謀略男とは、無縁の単語が出てきた。……ただ、ソレ以外にはありえない答えでもある。

 

「付け加えるなら、『チャンス』だと思ったからだ。

 誰もが匙を投げたこの都市を、救える。もしもソレが叶ったのなら、一時的な【執政官】どころじゃない、永世の【国家主席】になれる未来がある」

 

 男なら誰もが憧れる、位人臣を極めることができる……。それはツェルニだけの話じゃなく、この世界そのものを激震させうる革命でもある。人類史に名を残すとしたら、現代ではこれ以上ないほどの偉業だろう。……全ては、『できたら』の夢物語だ。

 そんなカリアンの誇大妄想に、唖然とのまれる……というより呆れ気味に、水を差した。

 

「……妄想話の腰を折って悪いが、俺は彼女の従者だ。たしか小隊員は、それも一軍は生徒しかなれないんじゃなかったのか?」

「ああ、そのことなら問題ないよ。君は明日から、武芸科の生徒だ」

 

 気軽にも重大な暴露に、つい訝しんだ。

 

「別にコレは、君らを招待したほどの横紙破りじゃないよ。あらかじめ、テストに合格した従者たちは武芸科の生徒にすると、取り決めていたんだ。……ただ、奨学金のランクはDだけどね」

 

 そこは、ちゃんと無理を通してAランクにしておいたよ……。学費全額免除に、月々の生活費も無料支給。カネを払いきれずに退学させられてしまう心配は、コレで無くなった。

 ありがたいことだけど、怪しさがこみあげてもきた。資金面の補助を名目に、こちらの自由を拘束しようとしている。そんな策略の臭いがプンプンする。……どうすべきかは、今後の課題だろう。

 

「―――私は、自分が狂っていることは、自覚している。この愛のためには、どんなモノも利用する冷酷さも。……正気の人々からは、決して理解されないだろうことも。

 だが今、この都市にはそんな血濡れた狂人が必要だ。この滅亡を回避するためには、小奇麗な常識人などお呼びじゃない」

 

 僕らというより、他の何か/不条理に対しての宣戦布告。邪魔だてするなら躊躇わないと、強行であることを隠さない。―――僕らの18小隊入りは、決定された。

 

 反駁はしたかったけど……、できなかった。言葉が見つからない。

 でも、どうすべきかはもう、僕らの中でも決まっていた。……僕らも、カリアンのことを悪しざまには言い切れない。

 

 心は「やめろ」と叫んでる。でも、理性がその手を……握っていた。

 

 

 

 

 

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長々とご視聴、ありがとうございました。

原作「フェリ」は、今作では「フェリシア」と改名させました。「フェリ」は、略称・愛称として使用予定です。

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