再生のレギオス   作:ツルギ剣

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面談

 

 ―――話は以上だ。おって連絡する

 

 そんな一方的なカリアンの言葉を最後に、応接室から退出した。

 

 

 ―――

 ……

 

 

 大講堂から出て門庭の噴水広場まで、周囲が静かに/二人きりになるとようやく、胸の内でため息を漏らした。

 するとぼそり、メイシェンの方から切り出してきた。

 

「―――従者契約。もう意味なくなっちゃいましたね」

 

 【生徒】になったから……。そういえばそうだった。他の情報が衝撃すぎて影が薄かったけど、彼女にとっては問題だろう。

 何と言うべきか、少し考える間を置いてから、

 

「……それは、『俺を解雇する』て意味?」

「へ? ……い、いえ! そういうわけじゃなくて……」

 

 最後は言葉を濁した。……俯き加減な様子から、なんとなしに察せられる。

 なので改めて、向き直すとハッキリ、

 

「君と奴が天秤にかけられるのなら、俺は間違いなく君を選ぶ」

 

 奴は、背中を預けるに値しない……。利用はさせてもらうけど、信頼はしない。たぶんお互いにそうだろう。今の僕にとって重要なのは、カネや力よりも信頼だ。

 驚かれる/何か言い返される間を置かずに、

 

「契約は続けさせてもらう。……君がよければだけど」

「も、もちろんです! 

 コチラこそ、改めてよろしくお願いします!」

 

 ペコリと/深々と、お辞儀までされた。……少し大げさすぎるので、苦笑が漏れてしまった。

 

 

 

 ふたたび先を歩く、今度は肩の荷が少しだけ軽くなって。門庭を抜けた先にある商業区の店々に目がいく。

 まず目に付いたのは、もっとも手前に建てられている喫茶店。落ち着いた/歴史あるだろう大講堂前に相応しい老舗な雰囲気を醸しながら、大多数が若者である生徒達が気軽に出入りできそうなオープンカフェ。……今は式典最中なのでか、客はいないものの、開店じたいはしていた。

 

 情報収集にうってつけだな―――。どうにかして店員と、欲を言えば店主とも懇意になれれば、この学園の表裏とわず事情に通じられるはず。

 どう仕留めるか? 頭の中で色々と算段をつけていると、

 

「―――ロウファン=ヴォルフシュテイン」

 

 メイシェンがつぶやき気味に問いかけてきた。

 突然ながらもその名前に、ピクリと反応してしまった。……たぶん、傍目にもわかってしまうほどに。

 

「どういったご関係なんですか?」

 

 真っ直ぐに問いかけてきた。その裏にある意図を読み取ろうとしたが……、やめた。そこにはただ、僕の中にコベリついてる強張りが見えただけだった。

 少しだけ考える素振りで調子を戻すと、尋ね返した。

 

「……逆に聞きたいんだが、どんな人物か心当たりは?」

 

 今できうる限りの最上の誠意/『知らない』との含意。

 その答えにメイシェンは、驚き戸惑い……訝しんできた。けど、僕の様子から『嘘』を見いだせなかったのだろう。

 どう答えるべきか少し悩まれるも、ただ言葉通りにしてくれた。

 

「……帝都グレンダンの天剣ヴォルフシュテインの授受者です。

 帝都史上最年少と言われてる授受者で、虚獣【ベヒモス】と【雷蜃】【アウラクネ・丁型】の討伐に、海賊連合【ワゴウ】の殲滅。聖都シュナイバルとの都市間戦争の際には、聖天騎士【ガイウス=ニルヴァーシュ=アントーク】を一騎打ちの末に討ち取った―――」

 

 辞書か教科書をなぞるような説明に、驚愕を隠せないで目を丸くしていると、

 

「他にも色々と戦績はありますが、今からちょうど3年ほど前…といってもツェルニでの時間軸ですが、虚獣アウラクネから受けた『死の呪い』のせいで、お亡くなりになってしまったとか」

 

 短い生涯でしたが、多大な功績を残した天剣授受者……。最後にそう、締めくくった。王宮直属の広報機関が、帝都のみならず全世界へむけた()()()()()()()()を。

 たった一つ違いは、その名前が『()()()()()=ヴォルフシュテイン』で無いことだけだった。決して、義兄ロウファンではありえないことなのに。

 

 あまりのありえない答えに、真っ先にメイシェンの正気を疑ってしまうも……、違った。目の前の彼女に嘘はない。

 彼女の伝聞情報が間違ってるのか? ……確かめる必要はあるけど、ここツェルニだけでは望み薄だろう。そのたった一つの大きな違いを精査するには、帝都に戻らなければならない。

 そんな困惑の中、思い出せた自分の現状に、ふと繋がるものがあった。―――今の僕は、ロウファンそのものだ。

 

(……歴史まで、おかしくなってるのか?)

 

 僕とロウファンが入れ替わっている……。絶対にありえないことだけど、『もしも』としては幾ばくかありえること。ロウファンであっても、同じような戦績は残せたはず。そして今、()()()によって自由に動かせる手駒となったこともあり、女王の勅命によってここツェルニに単独派遣もされたはず。

 そんな()()()()()()()に今、僕はいる―――

 

 ……その仮説が浮かんだだけで、背筋にゾッと寒気が走った。

 敵奏者を見くびってなどいなかった。けど、評価が甘かった。

 

(この奏者、もしかしたら【デルボネ】さんと同じ……【魔人】なのか?)

 

 帝都が保有している最古にして最強の念威奏者、天剣キュアンティスの授受者【デルボネ=キュアンティス=ミューラ】。

 その莫大すぎる念威量と繊細すぎる支配力は、人間の限界を超えた。人間でありながら/天剣の加護も無しに、虚獣の領域へと突破できた超越者【魔人】の一人だ。……帝都に心身を捧げている彼女にソレはあまりにも不敬な蔑称なので、【賢者】と呼ぶのが帝都民一般的。

 

 ……最悪な推察に、思わず目を背けたくなる。

 魔人が相手なら、虚獣と殺し合うのとほぼ同じだ。ソレも、帝都のサポート無し/天剣も使えない/援軍無しでとなると……、笑いがこみ上げてくる。元授受者とはいえ、荷が重過ぎはしないか?

 とは言うものの、『やるしかない』。……どうにかするしかない。

 

「……悪いが、俺はそいつを知らない、奴がなぜ俺をそう呼んだのかも分からない。

 ただ、よく似た名前の人物には心当たりはある。―――俺の義理の兄だ」

「……お兄さん?」

「そう、俺が()()()()()()()()だ」

 

 もう、10年以上前に……。ちょうど、ヴォルフシュテインの選定式の時に、最後のライバルとして。

 

「もし兄が今も生きていたら、その尊名を受け継いだはずだった」

 

 もちろん、そうじゃなかったからありえない話だ……。だから、知らない相手。()()()()()()()()()()()。ココは夢幻の異世界なのだから。

 

 

 

「―――ありがとう」

「……え?」

「『なぜ殺したのか?』、聞かないでいてくれて」

 

 答えられないし、答えたくもない過去。ただの興味本位では、教えたくなかった。

 僕からの先手に、もう過去話をする空気でもなくなった。手持ち無沙汰な沈黙が始まる前に、

 

「さて! 連絡がくるまで少し時間はあるだろう。

 俺は学園街を一通り見物してくるが、君はどうする? 寮で休んでるか?」 

「……色々と整理したいので、寮で休ませてもらおうかと―――」

 

 

「―――アナタ達、少しいいかしら?」

 

 

 突然の呼び止めに、思わずも視界にうつした。

 ソコに/前方に待ち構えていたのは―――、先にメイシェンに因縁をつけてきた金髪ツインテールの少女。背丈も他色々と小柄なのに、デンと仁王立ちしては居丈高、おまけになぜか険しげでもある。

 声をかけた以上、もう自分が中心だと確信もしている様子。ソレがどうしてか/癇に触ったのか、あえて無視してやろうと

 

「……もしかして、【結界】作りのため?」

「へ? あ……。

 い、いえ! それは後日改めてやるので、今はただ荷物ほどきだけで―――」

「ちょっと!? ガン無視とはイイ度胸じゃない!」

 

 慌てた少女の姿に、溜飲が下がった。……ニヤケそうになるも、ギリギリ胸の内だけに収めた。

 

「何の用だ? 確か……ミィちゃんだったか?」

「なッ!? 

 ……アンタなんかに、『ちゃん』付けでよばれる覚えはないわよッ!」

「悪いな。まだ自己紹介されてないんで」

 

 肩をすくめての茶化すような言い分に、「そんな言い訳つうじるとでも!」と睨みつけてきた。

 けど、僕だけでなくメイシェンにも向けた睨みに、気づかされた。彼女が紹介したはずと思い込んでいたことに、自分の口からハッキリとは言っていなかったことに、向けていた怒気の幾分かを押さえ込んだ。

 

「……ミフィル。【ミフィル=ロッテン】よ!」

「そうか。

 それじゃ、はじめましてロッテンさん。では良い一日を―――」

 

 次を遮るよう、脇を抜けてそのまま退散しようとした。

 それを遮るよう、黒短髪の大男が立ちふさがってきた。

 

「コチラは名乗った。せめて名乗り返すのが礼儀だろ?」

 

 渋めの低い声音。言葉ほど威圧感は無いものの、そもそも声に含まれてる『圧』が、冗談や茶化しを黙殺してくる。

 大柄かつ分厚い筋肉の鎧、静かだけど鋭い風貌、熊と狼と人間が混合されたかのような様相。ゆったりとしてるはずなのに隙がない、臨戦態勢が染み付いてるような振る舞いからも、腕のたつ武剄者だとわかった。声に剄を乗せることもできただろうに、あえて抑えてる。やらないのにこの圧力を保てるほどの実力者。

 ただその容貌には、微かな老いの兆候があった。完治しきれてない傷跡/片目を縦断してる斬傷まである。あえて残しているのかもしれないが、そんな『騙し』を愛用するようなタイプには感じなかった。

 ―――そんな観察結果もあって、帝都で慣れ過ぎていたこともある、常人なら怯んでしまっただろうが、

 

「悪いな、無学なスラム育ちなもので、上級市民の礼儀なんてよくわからないんだ」

 

 立ち止まりはしたものの、軽口は返した。……どう反応するか/どういう男なのか、見極めるためにも。

 驚かれることなく、かと言って眉をひそめられることもなく。ただ黙して僕を見返すのみ……。こちらの意図が読まれたからか、あまりやって欲しくなかった返答だった。警戒レベルをもう一つ、追加しなければならない。

 どちらも黙って、腹の探り合いをしていると、

 

「れ、レイフォンさん! もう……大丈夫ですよ」

 

 メイシェンが止めてくれた。

 ソレが互いの退き所にもなった。静かだけど緊迫していた空気が、霧散していった。

 

 

「……ふん! 忠実な従者だこと。

 もしかして本当に、()()()()()()()()()()からなの?」

 

 あからさまな含みの嘲り/挑発。無視すれば一番良いことだったけど、やはりどうしてか、先ほどの疳の虫がまた沸いてきた。

 ニヤリと不敵な笑みをつくり、隣のメイシェンを引き寄せるよう/軟派な優男っぽく肩に手をかけた。

 「ひゃぃッ!?」と飛び上がるほどビックリされるも、あえて無視して、

 

「なるほどな! アンタはメイシェンに比べて『小さい』から、彼は俺ほどには仕事熱心じゃないのかぁ」

「なッ! 『小さい』て何の…………、ッ!///」

 

 僕の含みを察してしまい、抱き寄せる際にプルリと揺れ動いてしまうことで注目せざるを得ないメイシェンの『立派なソコ』を見てしまい、一気に赤面された。

 そんな彼女の赤面ぶりを見たメイシェンも、何事が起きたのか察してしまい、湯気を噴き出すほど真っ赤に俯いていた。……ソレがさらに、ミフィルの『勘ぐり』を確かなものに変えてしまうと、分かっていても。

 

「へぇ…、恥じ入るだけの『器』はあるみたいだな」

「う、器!///

 て、なに言って………………、 ッ!?」

 

 ソレでさらに気づいた/気づいてくれた。自分が嵌められたことに、『下品』な心の内を晒し続けてしまったことに。見下そうとした相手に、逆に見下されてしまった末路に、舌打ちをこぼすのも隠せなかった。

 反撃とばかりに怒気をむけてくるも、逆に心地よかった。溜飲が下がったような気分に、見下すような笑はそのままにしていた。

 ……そんな、ただ損耗し続けるだけ/落とし所を見失ってる主人を助け出すためだろう。微かに苦笑を浮かべながら、

 

「―――少しだけ話がしたい。立ち話もなんだから、あそこの喫茶店ででも」

 

 護衛だろう大男の提案に、とりあえず互いに矛を収めた。

 

 

 ―――

 ……

 

 

 店外のテーブルに座り、すかさずやってきてくれた店員に軽めのドリンクを一つずつオーダーし終えるや、

 

「―――式典の最中、誰と話をしていたの?」

 

 いきなり本題を突っ込んできた。

 

「前半部までは出席していたけど、休憩が明けての後半部には、アナタの姿がなかった。バックレた奴らは何人かいたけど、アナタはそんな性格じゃない。

 『何かある』と探査してみたら、講堂の二階の応接室に入ったのがわかった。けど、()()()()()()()()()()()。何が起きたのかまではわからなかった……。私の探査を拒絶しきるだけの【結界】があった証拠ね」

 

 先手をとって淡々と、理詰めでせめてきた。……言い逃れも嘘も許さないとばかりに。

 【結界】か……。密談の場をつくっただろうことは、分かっていた。外から盗み聞きできないような処置を施していたと。でも同時、大抵のそんなものを突破できるとの自負が、彼女にはある。つまり導き出せるのは、ソレが彼女の奏者としての得意分野であり、現状の力量でもある。

 

「アナタ達の姿を捉え直せたのは、講堂のエントランスだった。この私の従者【ロイター】が目の端で捉えてくれたおかげ」

 

 誘ったのに注文もせず、着席もせずに主人の背後で黙立している大男の名前。

 二人はどんな関係なのか? どんな馴れ初めで主従関係になったのか? ……気になるところだけど、今知っておくべきは別のこと。彼は彼女の『護衛』として機能しているということだ、異質さを無視して準臨戦態勢を保ち続けている。

 職務に忠実、主人とは違う方向で事実のみを優先してる。実に厄介な相手だ……。誤魔化しが通り難い、コチラも気が抜けない。

 

「……なぜ君に教えなきゃならないんだ?」

教えたくないことなの?」

 

 質問と同時に、【魔眼】の発動―――。眉をひそめるより前に、目を丸くさせられた。あまりにも速攻すぎる……。

 黙ったままでいると、

 

「……へぇ、やっぱりアンタ、かなり腕が立つみたいね」

「そういう君は、奏者にしてはかなり短気だな」

「ごめんなさいね。知りたいことがあると、つい出ちゃうの」

 

 だから普段は、このメガネをかけて抑制してる……。胸ポケットにぶら下げてるソレを示しながら、あえて付けていなかった弁明はせずに。

 正直すぎる答えにか、腹が立つのを通り越して、呆れてしまった。隣のメイシェンにそっと目配せで、「こういう奴なのか?」と聞いてみると、苦笑しながら頷かれた。

 

「……ま、話の内容はだいたい予想はついてる。問題は『誰』だったかだけど、ソレもすぐに調べはつく」

 

 一応直接聞いてみただけ……。何かしらのハッタリを疑う所だけど、言葉通りの意味だとわかった。

 目の前の彼女にとって重要なのは、情報の鮮度と正確さ。相手が敵か味方は二の次で、どう思われるかなど知ったことではないのだろう。

 

 与し易くはあるけど、あまり舐めてかかると逆に振り回され、刺される。スピードに違いがあると、常に念頭に置かなければならない敵だ。

 そんな警戒の質を調整していると、

 

「―――もしかして、心配してくれたの?」

 

 無防備だけど真っ直ぐな指摘。

 悪意の欠片もないソレに、ミフィルは眉をピクリと動かされた。その勢いのまま言葉を/罵倒に近いだろうモノを吐きつけようとしたが……、寸前で飲み込んだ。

 

「……そんなわけないでしょう。ただの……敵情視察よ」

 

 切り捨てるような言葉はしかし、視線を逸らすのと同時に出された。……事実追求に余念のないはずの彼女に、唯一あらわれた躊躇い。

 メイシェンと彼女の関係―――。過去に何かがあったのだろうことは、もう察せられた。これで二度も直接警戒してきた相手でもある、もう放置はできない、詳しく知っておくべき事柄になった。

 ただ同時、ソレはメイシェンとの今後の関係性にもかかわってくる。聞き出すだけで悪印象を持たれてしまうかもしれない秘密だろう。機が熟すのを待つか、別の関係者から聞き出すかだ。

 

「どこに入隊するにせよ、用心は欠かさないことね。

 あの選抜試験は、ただ切符を渡されただけ。乗りこなせるかどうかは、現場の小隊員が決めることなんだから」

 

 浮かれて油断したら、即座に切られる……。自分の躊躇いを、切り捨てるかのような警告/助言。

 そんなのだから、ムッとむくれるかすれば収まったのに、メイシェンは素直に頷いた。おそらく助言と受け取って、感謝もこめながら。……ので、座りが悪くなってしまったミフィル。

 そんな誤解がつくりだした微妙な空気は、注文を届けてくれた店員に助けられた。それぞれの前に、注文のドリンクを並べていく。

 

 仕切り直しとか、ストローでズーズー吸い上げるミフィルと、美味しそうにチュルチュル飲むメイシェン。

 そんな二人が、ゴクリと飲み干したのを見計らうと、

 

「言いたいことはそれだけか?」

「そう? なら、お言葉に甘えて―――。

 アナタの正体は? どうしてメイの従者になったの?」

 

 気軽な空気で、いきなり核心を突いてきた。……心構えをしてたから動じずにいられるも、初見なら動揺が出てしまったかも。

 答えるべきか悩む。言わなくて良いのなら喋られないけど、そうも言っていられない相手/状況。どうすべきか……。

 ふと、浮かんできた。

 

「魔眼を使わなかったな。大した興味もないことか?」

「……一度見抜かれたんですもの、続けざまには出ないわよ」

「それじゃ、初っ端でぶつけてこなかったのは何故だ?」

 

 自分から敵対を宣言したのだから、一番探らなきゃならない情報のはず。それなのに後回しにした、ついでとばかりに聞いただけ……。彼女の思惑と行動には齟齬がある。

 痛いところを突いたのか、質問返しに苛立ってか、僕の中の何かを訝しるように睨んでくると……、小さくため息混じりに、

 

「……腕前はあるかもだけど、自信過剰なところがキズね」

 

 かなりの酷評をもらってしまった。嫌味ではなく、彼女なりの評価基準に則ってだろう答え。

 僕の方も驚かされた/懐かしくも新鮮な気分。本心から面と向かってそんなことを言ってくる輩には、ここ十数年遭遇してこなかった。どんな裏事情があるのか、逆に警戒してしまう。

 考えを巡らせていると、

 

「やっぱりいいわ。聞く必要もないことだし」

「……なるほど! 短気な性格てのは、当たってたみたいだな」

 

 

「―――あの、すいません」

 

 

 ミフィルが険しげに何かを言い返そうとする前に、通りからの少女の声に遮られた。

 思わずも皆振り向くと、そこには―――、先刻出会ったばかりの銀髪美少女がいた。

 

 あまりの人形じみた異質な雰囲気に、皆が呆然と注目し続けてしまう。そんな中、初対面じゃなかったので免疫があった僕は、「なぜ今ココに?」との疑念を浮かべることができた。

 そんな思考を巡らせている中、さらにもう一つ/微かな違和感に気づかされた。……彼女、こんなに目つきが鋭かったか?

 おそらく僕に対しての、敵意のようなモノまで感じ取ってしまうと、

 

「レイフォン=アルセイフさんと、メイシェン=トリスデンさんですね。

 用があります。一緒に来て頂けませんか?」

 

 言葉上では穏やかな誘い、でも含意には「ついて来い」との命令文。

 上級生かつ小隊員の証/胸ポケットにつけてる銀色のバッチを身につけてる彼女。いくら強引な割り込みとはいえ、さしもの短気ツインテールも渋い顔を向けるのみ。僕の方も、話すこと/今聞き出したいことはもう無い。……お誘いに乗ることにした。

 メイシェンにも目配せで確認すると、「了解です」との返答。

 

 ズズりと一気にドリンクを飲み干してしまうと、空のコップをそのままに、テーブルから離れた。疑惑先輩美少女の後についていった。

 置いて行かれたミフィル達は、「仕方がないわ…」と憤懣を飲み込むも、店内からの店員の眼差しに気づき……、気づいた。

 ドリンク代、奢らされた―――。ちゃっかりメイシェンもそうしていた所を見るに、先の密談とは違って、小気味よい会談で締めくくれた。

 

 

 

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 

 軽くノックすると、すぐさま返答がきた。

 

「―――入りたまえ」

「失礼します」

 

 病室の扉/患者に配慮したスライド式のソレを丁寧に開けて、入室。

 そこには、体に負担がないよう緩やかに湾曲してるセミダブルベッドの上、艶やかな銀長髪の美男子がゆったりと体を横たえていた。……病身である今、初見の人間だったら美女にも見えただろう。

 そういった色恋沙汰にはとんと疎い/興味もわずかなので、気になるのは綺麗な外面よりも腹の真っ黒さだ。いちおうは『味方』との立ち位置だけど、どこか緊張を強いられてしまう相手/上官。……なので表情も、厳しげなモノになっているのだろう。

 

「……随分な格好だね。今日はひさしぶりの休日だというのに」

 

 何のことかわからず、ふと我が身を見返して、「そう言えばそうだった」と思い出せた。……病室にこの汚れた格好/戦闘服は、失礼だったかもしれない。

 謝罪しようとか思ったが……、止めた。そんなこと気にする相手ではなかったし、そんな上司だから部下に収まっている。

 

「街に発生していた【異界】の駆除をしていました」

「街? それなら、生徒会が責任をもって対処してたはずだけど?」

「いえ、【学園街】ではなく、【市民街】のほうです。

 去年も3個ほど、出現したとの都市警の報告書を読みましたので」

 

 学園には独自の情報網があって、収集能力も分析力も都市随一だろう。けど、ツェルニは広い、都市内全てをくまなく網羅するなどできず、必ずどこかに漏れがある。小さな事件など切り捨てられてしまいがちだ。……情報担当官たちの怠慢も。

 なので、各街区を担当している都市警察の尽力が必要になる。けど、特権意識を大なり小なり持ち合わせてしまっている生徒だと、都市警の力を借りることを『恥』だと無視してしまいがちだ。ソレこそ本当の恥だと思うが、いまは仕方がない。……いずれはしかと、糺していかねばならない。

 

「……その程度なら、君が出向く必要はなかったのではないのかな? 【ギルド】や都市警に任せてよい程度だ。逆に『獲物を横取りされた』と難癖もつけられてしまう」

「確かにその通りですが……、()()()()()()()()()との噂を小耳に挟みました。万が一があってはならないと、勝手ながら出陣させてもらいました」

「【ハーレイ=サットン】君も一緒にかい?」

 

 コチラの含み嫌味をサラリと流して、逆に問い詰められてしまった……。やはり、油断ならない人だ。

 そんな警戒心が滲んでしまったのか、

 

「責めてるわけじゃないんだ。むしろ、褒めたいぐらいだよ。君の直感と行動力もさる事ながら、『仲間を頼ってくれた』その成長ぶりをね」

 

 そう言って、極上の微笑みを重ねてきた。

 コレで何人(いや何十人か?)、女性たちを篭絡してきたのだろうか……。身内だと、諸々ただ辛い。

 

「……申し訳ありません。次からは、報告してからにするようにします」

「時間がある時だけで良いよ。即応が求められている戦況だったのなら、事後報告で十分だ。君の判断を信頼している」

 

 秘密主義のアナタから言われても……。正直に反論すべきか、いつも迷う。黙ってることで『肯定』と決めつけられても、たまらないし。

 

 ため息と愛想笑いをこらえて、努めて事務的無表情を取り繕っていると、「挨拶はこれまで」とようやく本題にはいってくれた。

 

「先程、新しい隊員をスカウトした―――」

 

 コレだ―――。傍に控えていた看護師兼メイドさんが、一冊のファイルを/履歴書らしき書類を渡してくれた。

 受け取って目配せで了解を得ると、開いて中身を見分した。

 どれどれ、フムフム―――、ん? こいつは何処かで―――……、ッ!?

 

「私としては決定事項だけど、君なりにも試してくれないか? その時、『君の判断を優先する』との嘘も使っていいよ」

 

 …………冗談でしょ? 

 質の悪いドッキリを期待して見直してみるも……、そうではなかった。

 よりにもよってコイツが、()()()()()()()()()()()()コイツが、私達の新しい小隊員になる/する―――。頭が真っ白になる。何も考えられず、ただただ凝視するだけしかできない。足元までふらつきそうになるも、それだけはギリギリ抑えられた。

 

 呼吸を整え、平静さを幾分か取り戻すと、改めて上司を見返した。……これはいくらなんでも、悪趣味なのでは?

 喉元までその罵倒が出てくるも、寸前で止めた。目の前の上司であっても、『このこと』は知らないはず。……知っていたとしても、『知らなかった』とシラを切られたらそれまでだ、私からは一切教えていないのだから。

 苦いものを一気に飲み下すと、代わりに別の嫌味で晴らす。

 

「……邪推かもしれないですが、かなり『強引な手』を使ったのですか?」

「いいや、大したことない手だよ。……私としては、だけど」

 

 ……聞かなかったことにします。

 知らない方が身の為だろう。知れば知るだけ、この人との関係が悪くなるだけだ。……いや、悪くしてしまうだけだろう。

 

「これで対抗戦にはでられる。勝てるかどうかは、私と君の腕の見せどころだ」

 

 期待してるよ―――。ニヤリと不敵に、この一点だけは共感できる想いを、見せてきた。

 

 ……そうだ。この世界でワガママを貫くには、私はまだまだま力不足だった。

 私の願いに共鳴して協力し合える、そんな都合が良い他人などいない。その時々に偶然重なり合えたチャンスを、逃さず掴むだけだ。そうやって辿っていかなければ、たどり着けないのだから。他を全て拒絶したら何も成せない。たとえ目の前の男のような秘密主義者でも、ただ一点でも信じられる想いがあれば、繋がなければ。

 先に飲んだのとは、別種の苦味を飲み尽くすと、

 

 

「―――必ず勝ちます。そしてなにより、ツェルニを救ってみせます」

 

 

 この手で―――。今後こそ。

 目の前の上司/カリアンに対しての宣言、よりも、私自身に対しての誓約。

 私【ニーナ=アントーク】は、今度こそこの手で、都市の魂を救ってみせると

 

 

 

 

 

_

 




長々とご視聴、ありがとうございました。

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