再生のレギオス   作:ツルギ剣

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スーパー猫の日に間に合わなかった……


新入隊員

 

 多重展開の【轟剣】による打ち下ろし斬撃。

 できあがったのは―――小規模なクレーターな破壊痕。

 加えて、【奈落】のおかげで脆弱になった底の境界面にもヒビが入り、大量の夢幻蝶が現れては、乱舞している。

 

 現実世界への流出/侵食―――。もはやこの夢幻空間には、かの奏者の絶対支配権は無い。彼女らの優位性は崩れた。

 なれど……舌打ち。

 

(4重のつもりが、3重だけか……)

 

 正確に言えば、2重と7割ほどだ。いつもの調子なら4重は繰り出せたはずなのに……。

 亀裂だけしか入れられていない。当初の思惑では、この一撃で大穴を穿って完全破壊してしまうつもりだった。これでは、復元の余地を残してしまう。

 

(……出力が落ちてるのか?)

 

 体表へ顕在させられる剄、あるいは瞬間的に引き出せる剄の総量が、明らかに減退している。潜在している剄の総量にはあまり不具合を感じていなかったので、見落としてしまった。

 この身体は、元の自分の身体よりも劣化している―――。そう考えるしかない。あるいはまだ/楽観的に考えれば、使いこなせていないだけか……。

 

 

 悔やむのも焦りも一時。すぐに切り替えると、いまだ不動の構えでコチラを見据えてるニーナと相対し直す。

 戦意にあまり乱れのない彼女に、刀の鋒と睨みで訴えた、「まだ続けるか?」

 返答は―――ニヤリと、肉食獣のような笑み。規律厳しそうな軍人気質な第一印象とは違う、どこまでも戦い抜こうとする蛮族的な勝利への飢えだ。

 

 ソレに気圧される代わりに、胸の内でため息をついた。……現状の盤面は、気迫で覆せるほど不安定じゃない。

 これ以上は『試験』にならないはずだ―――。そう改めて無言で訴えてみると……カチャリと、ニーナは構えていた鉄鞭を下ろしていた。

 そしてさらに―――

 

 

「―――降参だ。私の負けだな」

 

 

 武器を剣帯に収め、両手を上げてきた。

 その顔には依然、戦意は陰っていないものの、そこまでしたのなら言葉通りだろう。

 

「……試験は合格、てことですか?」

「その通りだ。予想していた以上の結果だよ」

 

 まさかこんなやり方で勝ってしまうとは……。自嘲は表情だけ、ただただ賞賛のみ。コチラの健闘を祝ってくれた。

 

「なら……、すぐにココから出してもらってもいいですか?」

「もちろんだ。ただ、フェリの夢幻は濃度が高い。この不安定な状態で解除すると、【漂流】してしまう怖れがある。良くても戻った直後、かなりの頭痛と吐き気に襲われる。

 奏者の彼女なら大丈夫だろうが、お前は当たってしまう。……私の傍まで来てくれないか?」

 

 すぐに裏を読もう/だまし討ちを警戒するも……、さすがにソレは無いだろう。降参宣言の手前、いくらなんでも卑怯すぎる。

 こじ開けた『亀裂』から現実へ出られる保証は、無い。これほどの使い手なら、戻る手前で別の夢幻へと引き釣り込む荒業も、やってのけるかもしれない。……改めて、自分の不甲斐なさが身に染みる。

 

 背後のメイシェンに目で了承を取ると、それでも警戒は解くことなく/刀は収めず、ゆっくりと近づいていった。

 

「用心深いのは良いことだが……、さすがに疑り深すぎないか?」

 

 呆れられたけど……、仕方がない。こんな無茶ぶりをさせられた後だと、仲良しこよしではいられない。

 

 さらに近づく、ニーナの間合いだろう距離にまで……踏み込んだ。

 彼女に反応は無い。さすがにちょっとした強張りは見えるも、奇襲を仕掛けるほどじゃなかった。

 

 僕が一方的に斬れる間合い、彼女に戦闘継続の意思は無い。ソレをハッキリさせると、こちらも刀を剣帯に収めた。

 戻してくれ―――。

 目だけで言うと、ニーナも頷いた。

 

「フェリ、夢幻を解除してくれ」

 

 虚空に向かってそう言うや、『……わかりました』。そんな渋々な返答が聞こえたような気がした。

 

 コレでようやく終いか……。ようやく気が抜ける。

 そうふと/ほんの少し、肩の力を抜いて待ち構えていると―――、

 

 

 

「レイとんーーーーーッ!!! ――― 」

 

 

 

 いきなり背後から、メイシェンが叫びながら駆けてきた。

 それでも足りなかったのか、手前で飛び込んでは―――ダイブしてくる。

 

 何事だッ!? ―――。奇妙すぎる行動に目が点になっていた。

 

 しかし直後、その切迫の意味が分かった。

 僕の足元から伸びる、巨大な()()()()()()()()の奇襲で―――

 

 ダイブしてきた彼女を受け止めさせると、ほぼ同時、悪魔の手腕は僕らを握りつぶしていた。

 

 

 

 ―――

 ……

 

 

 

(ここは……、何処だ?)

 

 握りつぶされ、引き釣り込まれた場所は―――、別の夢幻空間だ。現実とは明らかに違う不快な圧迫感/居心地の悪さが確信させてくれる。

 次に『どうやって?』も、分かった。この強制試験をやる前、僕にかけられた【魔界転身】の念威術をそのまま、解き放ってきた。対象を任意の夢幻空間に引き釣り込むまで追い続ける呪法。……凍結して、首輪を付け替えて無力化したと、約束したはず。

 だから残る問題は、『どうして?』だ。……場所はどこでも同じ、危険地帯だった。

 

 自分と周囲を観察/分析して、心理的な衝撃から回復すると、ようやくもう一つの/腕の中の大問題に気づけた。

 

「ッ!? 

 メイシェン、無事か!?」

「は、はい……。レイとんは?」

 

 心身ともに問題なし、いつものメイシェンだ。

 

「問題ない。……予想していたよりも重かったが」

「へぁ? 

 …………あッ!? ___」

 

 アワアワと急に僕から離れるや、顔を真っ赤にしながら俯かれた。

 

 思わず、顔がほころびそうになっていた。彼女には驚かされることばかりで、かなり対等な扱いをしてきてしまったけど、こんな年相応な反応をされては……ホッと和まされてしまう。

 ただ―――、そんな和やかな空気は、すぐに吹き飛ばされた。

 

 

 

「―――やっぱり、気づきましたね」

 

 

 

 いきなり投げかけられた無機質な少女の声に、思わず振り向かされた。

 そこにいたのは―――、銀髪の美少女。先の講堂裏手でみた小さな先輩だった。……今度こそ本物だ。

 

 コチラは困惑を押し殺しての警戒全開、なれど相手は一見無防備そうにしているのみ。

 罠にかけた……、とは思えないほどの無機質さ。そうでしかない現状なのに、赤の他人であるかのような雰囲気。奏者特有の感情を抑え付けた無表情とも違う、元から欠落しているような人形に近しい白面。だからか、敵意も持たずに他人を傷つけられる。

 意図が読めない、次を先読みできずの焦りに蝕まれていると、

 

「どうして私が、あの時こうするて、分かったんですか?」

 

 ようやく気づけた。その注目が向けられているのは、僕ではなくメイシェンだったと。

 戸惑うメイシェンを無視して、

 

「隊長の初撃が彼に繰り出された時も同じ。アナタは、分かったからこそ飛び込んだ。

 彼だけなら脱出不可能だったけど、奏者であるアナタがいれば、活路が見いだせる」

 

 ただ純粋に、尋ねているだけ……。図らずも、先の試験での引っかかりを解消してくれたけど、黙って成り行きを見守る/活路を見出すことに集中。

 そんな僕の意図/緊張を察してくれたのか、メイシェンが時間稼ぎをしてくれた。

 

「……こ、コレは試験、なんですか?」

「個人的な興味ですが、そう捉えてもらっても構いません」

 

 チラリと目で尋ねてきた、どうすべきか?

 僕の答えは決まってる。そのままやりたい事をやればよし。

 

「で、では……まず、ココから出してください」

「先に答えてください。満足いく答えなら、すぐに開放します」

 

 二の句が継げない返答に、閉口させられてしまう。

 僕らの警戒を読んでの先手封じ、という理由では無さそうなのに、結果はそうなっている。……やはり何を考えてるのか、分からない。

 メイシェンも読めずか、次に何を口にすれば良いか分からないで戸惑い続けている。

 

「―――ただの興味本位なら、悪趣味過ぎるな」

 

 なので、フォローを出した。

 時間稼ぎはもう無理。分からないのなら、攻めたてるしかない―――

 

「アンタの隊長が、俺たちを『合格』だと言った。試験はコレで終わりだと、負けを認めた。それなのにアンタは無視して手を出してきた。……みっともないと思わないのか?」

 

 事実を重ねての常識論。

 ためらうことなく大義をぶつけてみると―――、意外な反応が帰ってきた。

 

「……確かにそうですね。

 で、ソレが何か?」

 

 ……と思ったけど、やっぱり彼女らしいモノが投げ返された。

 思わず呆れた。眉までひそめてしまいそうになるも、()()()()()

 僕らはその前提を隠しながら常識をぶつけるも、彼女は見誤らなかっただけだ。……本当に分かっているのかどうかは、自信がない。

 なので、食い下がることにした。

 

「俺たちはこれから、アンタを『先輩』と呼べそうにないぞ」

「アナタたちに『これから』があるんですか?」

 

 冷徹な返答。例え気圧してくる雰囲気は無かろうとも、この解釈は間違えられないだろう。……これ以上は、もう交渉不可らしい。

 ため息一つ……。呼吸を整え/心を切り替えると、丹田に力を込めた。体内に眠る大量の剄を一気に―――発火させた

 

 

 【活剄】―――。全身から吹き出した剄が周囲の空気を揺るがす。この夢幻を構成している念威ともバチバチ反発し合い、まるで紫炎を纏っているかのような現象が起きている。

 

 今できる最大出力の活剄/完全臨戦態勢。

 噴出を安定させ、現れた色を確認すると……『紫』からあまり変色していない。

 思わず舌打ちがこぼれそうになった。コチラの剄の噴出だけでは、彼女の夢幻はビクともしないほど強固な証……。

 そんな怖れと焦りは抑えつけると、

 

 

「―――俺の前に姿を現しているのに、その態度。

 そんな危機感の無さじゃ、逆立ちしたって分かりっこないね!」

 

 

 活剄で強化した声音と気迫で、逆に脅しつけた。

 

 立場はすでに逆転してる。

 この夢幻が彼女の絶対支配領域だろうとも、奏者が露わになっている/前衛である武剄者すらいない現状、今の僕だけでも踏みつぶせる。……メイシェンを守りながら、を除けば。

 そんな僕のヤル気が、正しく伝わったのだろう。向けてくる彼女の視線に、注目以上の何かが現れたのを見て取ると、

 

 

「―――そちらの興味も、ありますね。

 アナタと私、いったい()()()()()()()()?」

 

 

 ……残念ながら、帰ってきたのは交渉決裂。彼女もヤル気満々だ。

 

 一触即発―――。緊迫した空気が張り詰める。ソレは夢幻か体内からか、微かになりつづけていた雑音がかき消された形でも、現れていた。

 どちらも動かず/動けず、次の手と決め手を脳内でしのぎ削り続けた。震えだしそうになる手足を抑えつけながら/瞬きも惜しんで、自分に勝利を呼び寄せようと集中する―――

 

 

 

「―――む、夢幻空間の完全支配は、『心の無防備さ』と裏表ですッ!

 ソコでは全て、支配した奏者の意図が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですッ!」

 

 

 二人に割り込む/仲裁するように、メイシェンが叫んできた。

 敵奏者も思わずか、必死な彼女に目を向けると、

 

「……その弱点は知ってます。だから、自分で一からつくった夢幻ではなく、『訓練場』のフォーマットをそのまま崩さずに使ったんです。漏れても存在維持のルールで、自動修正させるために」

「そ、その修正が間に合わなかったんです! 先輩の念威が大きすぎて」

 

 空間完全支配=心象風景の漏出―――。他人に見せたい表層の幻想、ではなく、思考や情動などプライベートな深層域が、露わになってしまう。特に戦闘などの緊張が強いられる場だと、次に何をするのか予兆が現れてしまう。

 力はあるけど未熟な奏者が陥る弱点。相手は人間/自分もまた人間、その事実を忘れて傲慢になりすぎると、手痛いしっぺ返しを喰らう……。奏者たちが肝に命じ続けなければならない鉄則だ。

 目の前の凄腕が、ソレを怠ってしまったということだけど―――

 

「……確かに、漏出値の事前確認作業は、完璧だったとは言いがたい……。

 『見えるわけがない』、とは言い切れないですね」

 

 ただ―――。メイシェンを見据えてきた。その胸の奥に秘めているだろう、何かをエグり出すように目を細めると、

 

「アナタの得意分野は『攪乱系』で、『探査系』では無いと思ってましたが……、違うんですか?」

「ッ!? 

 そ、それは…… 」

 

 言いづらそうに口ごもった。……得意を当てられてのオドつきとは違う、『何か』を隠している証拠だ、おそらく切り札に近しい何かを。

 今後のため僕としても聞き出したいけど、目の前の敵奏者抜きでだ。こんな無理やりでご相伴に預かる形も、最適とは言えない。……今は助け舟を出すべきだろう。

 半歩ほど前へ、かばうようにすると、

 

「そこまで教える必要が?」

 

 彼女の優秀さと、アンタの不手際さが重なった……。話の流れから導き出せる結論。当たり障りの無い答えでしかないけど、納得するしかない一般論。

 そんな無理矢理なまとめに、敵奏者ははじめて表情を変えた。眉をひそめたのがわかった。

 

 無視はできる。でもコレで、()()()()()()()()()()()選択肢は、なくなった。僕は彼女をかばいながら戦う必要がなく、二対一の不利な戦況になってしまった。もう強気にゴネることはできない。

 そんな現状/自業自得な末路を叩きつけるよう、わざとらしくニヤリと、嗤いも見せつけた。……敵奏者の眉が、いっそうひそめられる。

 それでも、全てご破産に自爆する、そんな危険もあったけど―――、杞憂だった。

 

「……ここでソレを確かめてみたいものですが……、()()でしたね。

 答えては、もらいました。なら次は、私が約束を果たす番―――」

 

 ほんの小さくため息混じり。鍵の手印/人差し指と中指を絡めた指先を頭上まで上げて……クルッと、虚空で半回転ひねった。

 

 カチリッ―――。開錠めいた音が響きわたった。

 すると直後、僕らと敵奏者の間に、縦長の楕円の渦が発生した。超高速で渦巻き続け―――……、白く輝く異空への穴となった。

 

 

「今度こそ、現実への扉です」

 

 

 悪ふざけは、もうしません……。少しハードな冗談だった。そう言いたいのだろうけど、全く空気や表情すらも場違いすぎる。

 全て本気だったとしか思えなかったのに……。思わず、メイシェンと顔を見合わせた。どこまで本気なのか/そもそも本気があるのか、謎すぎる先輩だ。

 

 

 

 ―――

 ……

 

 

 

「―――改めて、第18遊撃小隊へようこそ」

 

 お前たちを歓迎しよう……。

 先の『試験』で使った訓練所に酷似した広間が、壁のように張られた強化ガラスの向こうに見える控え室/観客室。空調管理やら記録映像の機器が部屋の端に、折りたたみ式のパイプ椅子の束と机がさらにその隅にピッタリと畳まれて置かれている。他には救急器具らしき物品が壁際にキレイに備え付けられてる。……必要最低限のものしかない。

 とても淡白な場所だ。人の息遣い/ゴミ付いた汚れみたいなモノがあればまだマシだったけど、残念なのか幸いなのか、掃除と整頓が行き届きすぎてる。新品から目新しさを抜いた無機質な感じで、居心地はあまり良くない。

 

「メンバーを紹介しよう。

 奏者のフェリシア=エル=ロスに、狙撃手の【シャーニッド=エルプトン】先輩―――」

 

 よぉ! ……。ストレートな金髪ロン毛/手足も長いスラリとした長身/サングラス風なシャレたメガネをつけた軟派そうな男が、遊撃小隊員の制服越しからもにじみ出てきている。さらに拍車をかけるよう、軽薄そうにメイシェンへアイコンタクトもしてきた。腰のガンベルトと収まっている武装ダイトがなかったら、決して遊撃小隊員だとは信じられなかったことだろう、決して。

 

「このデカブツは、メカニックサポーターの【ハーレイ=サットン】―――」

『で、デカブツはないよぉ……』

 

 見た目とのギャップがありすぎる弱気な機械音声に、思わずも驚かされてしまった。

 

 そこにいたのは、2メートルは超えているだろう鋼鉄の準巨人だった。手を伸ばしたら、天井に指が届いてしまうほどの背丈。

 さらに、筋骨隆々で重厚感ある体型。人型戦車のような暴力を感じさせ、首から上にあるウサギに似せたような頭部でも、恐ろしさを軽減しきれていない。そこにただ立っているだけでボディーガード役を全うできそうな威圧感。だけど今は……、頭二つ分は低いニーナに合わせるよう背を丸めていた。おまけに、声変わりする前の少年みたいな音声が出てきた。……『サポーター』という紹介に幾分か納得できた。

 

「そして私、隊長代理の【ニーナ=アントーク】だ」

 

 以上だ……。

 

 

 簡単すぎるメンバー紹介の後、小さな沈黙が流れた。

 ソレは、僕らが当然するだろう『返事』を期待しての間であることは、わかった。カウンター待ちのように身構えてる風なのも、証拠だろう。おそらく、いつでも受け止めると、紹介しながらも覚悟を示し続けていたことだろう。

 

「俺は前衛で、メイシェンは彼女のサポートを担当て、ところですか?」

「……そうだ」

 

 期待には答えず、障りの無いことを尋ねてみると……やはりだった。表情が少し険しくなってきた。

 先の『試験』の当てツケだ。このままギリギリまで焦らしてやろうと、あえて無視を決め込もうとするも、

 

 

「い、医療サポーターがいないのは……どうしてですか?」

 

 

 メイシェンが封を切ってしまった。……残念だ。

 ただ、彼女の質問は外堀を埋めるようなモノだ。ニーナは何かをグッとこらえるよう、それでも平静さを保ちながら、

 

「……外部委託している。信用できる相手だ」

 

 身の内の恥の一部をさらけ出した。……短くハッキリと、余分なことまで言わない。

 あまり趣味はよろしくないけど、話の流れに合わせると、

 

「専属じゃないのは?」

「できないからだ」

「そ、そんなことあるわけが―――」

「ソレが、我が小隊の問題点の一つでもある」

 

 言われる前に、自分からさらけ出してきた。

 

「現在は、カリアン会長のゴリ押し…もとい、議会との交渉で何とか保たれているが、本来なら前学期には潰されていてもおかしくはなかった―――」

 

 廃部寸前の弱小小隊……。カリアンからも聞かされていた問題点。改めてニーナの口から/嘘を感じさせない言葉で聞かされると、先に免疫をつけておいて良かった。

 

「実働メンバーを集め、今学期中に何らかの実績ならびに都市への貢献がなされなければ、取り潰されることが決定している」

 

 だからそんな小隊には、大事な医療サポーターが配属されない……。もちろん控えの二軍も、先が保証されていないのだから。

 切ない事実を改めて受け止め直すと、

 

「……まだ無事だったときのメンバーは、どうしたんですか?」

「重傷を負って入院中か、他の小隊に再配属されている。……ソレが、18小隊が延命できた理由の一つでもある」

 

 ニーナも口に出し続けてはいたくないのか、謎かけてきた。あのカリアンが、延命できると確信できるだけ/誠実そうなニーナを納得させるだけの根拠……。答える義理はないけど、思考が巡る。

 ハッキリとしたモノが浮かばず、黙っていると、

 

「使える人材を他小隊のベンチで腐らせるよりも、弱小で死にかけとはいえ、活躍できる権限だけはあるオレ達が必要だったてわけさ。大多数の人間にとってな」

 

 会長殿の交渉力には脱帽ものだ……。代わりにシャーニッド先輩が答えてくれた。

 その通りだとしたら、確かにそうだろう。その程度の大義で皆を丸め込んで見せたのだから、コネも話術も一級品だ。

 ただソレ以外、一度作ったモノを壊すのは面倒だ、そんな怠惰が幅を効かせていたゆえだとしたら……危険な兆候だ。都市の滅びの予兆だといってもいい。

 

「功績さえ上げれば、人材も資金も集まってくることだろう。……お前たちには期待してるぞ」

 

 ……頭が痛い。

 要は、俺たち頼り。しかも、前任者の残した多額の借金を払わされることになってる、超マイナスからのスタート。優秀な若者達の未来が、老朽化したシステムに潰される……。最悪だ。滅ぼした方が正義と思えてしまう。

 悪いと思っているのだろうけど、顔には一切出さずに相対し続けるニーナ。その誠実さを前にすると、より一層ため息がこぼれる。思わずも、憐れみが沸いてくる。

 

 ただ……、()()()()()()なことだ。

 この都市が滅びようが延命しようが、二の次。最優先事項は、この都市の核/電子精霊ツェルニを誰よりも早く獲得し、帝都グレンダンに届けることだ。

 改めて当初の目的を思い出すと、冷静になれた。愚痴など不要だ。

 なので今、やるべきことは、

 

「―――なら一つ、尋ねたいことがあるんですが?」

「なんだ? 私の答えられる範囲でなら、答えよう」

 

 予想通りの快諾に、さらに勢いをつけると、

 

 

「彼女が起こした先ほどの一件には、どう落とし前をつけてくれるんですか?」

 

 

 何事も無かったかのように立ってる彼女/フェリ先輩へ、糾弾した。

 今までずっと無視してきたけど、忘れたわけじゃない。ニーナ自身もなぜか、無かったこととしてメンバー紹介をしてきた。それぞれの思惑で置き去りにしてきたけど、ようやく話題にあげた。

 当然、何かしらの謝罪をしてくれるかと……思えば、

 

「―――特に、何も無い」

 

 ニーナも当然と、期待を裏切ってきた。

 

 さすがにソレは……。納得できない。侮辱に捉えられてもおかしくない。フェリ先輩へのえこ贔屓、というよりも媚びへつらいですらある、彼女は部下であるはずなのに。

 これから多大な重責をかける僕たちに対して、するべき対応ではないはず……。隊長として信用できなくなる。顔をしかめながら、そんな不満を返そうとしたら、

 

「彼女自身の問題だからな。アレを命令違反だと自覚できてる程度には大人で、その意味が理解できない程度には()()()()彼女の」

 

 本人の前で、あからさまな酷評をしてきた、見捨ててるような冷たさをもって。

 普通人なら、腹から何かが沸いてきて言い返したくなる罵倒。彼女はそんな一般には当てはまらず、我関せずと聞き流すのかも―――と、期待のような諦めのような印象を抱いていたけど、

 

 

「―――ソレ、どういう意味ですか?」

 

 

 感情の乏しそうなフェリ先輩が、微かながらも明らかな、不快と分かる感情をニーナに向けてきた。

 

 驚いた、狙ってけしかけたことも含めて……。隊長は、先輩のことを把握していたのか?

 続く成り行きを見守ると、

 

「もともと会長のテコ入れで小隊入り、やりたくもないのに小隊存続のために所属してもらっていた。そんなお前の気持ちはわかっていたが無視してきた、申し訳なかったと思っていたんだ。

 だから、次に私の命令を無視したのなら、小隊をやめてもらっても構わないぞ。……どうやら彼女なら、お前の代わりを十二分にこなしてくれるみたいだからなぁ」

 

 最後にうっすらと、嗤いを見せてきた。

 その意味を読み取ってか先輩は、すぐに反応/ムッと顔をしかめた。

 

 弱味を掴まれて、どうすることもできないので不満が顔に現れる……。とても常人らしい、人間味のある反応だ。

 本当に有効なのか? 信じきれずにいると、

 

「…………わかりました。できるだけ善処します」

 

 渋々ながらも、謝罪の言葉が返ってきた。

 

 出てくるはずの無いモノができてきた……。思わずも目を丸くさせられた。どんな魔術を使ったんだ?

 驚きのままニーナを見つめていると、

 

「もう一声言わせたいのなら、そうさせるが……どうする?」

 

 私としてはオススメしない……。僕としても、コレ以上はいらない。もらっても恨み付きではかなわない。

 他のメンバーからも、クスクスと忍び笑いがこぼれていた。

 

 

 

 

 

 

 

_




長々とご視聴、ありがとうございました。

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