再生のレギオス   作:ツルギ剣

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新人歓迎会

 

 

 

「―――まずコレが、正式な小隊員用の認証パスだ」

 

 渡されたのは、今まで持っていた仮パスとは違う、正式なパス。ペラペラなカード型、ではなく指輪の形をしたものだ。

 どんな指太な大男でも入れられるサイズ。持った具合/金属な見た目なのにゴムみたいな柔らかな材質感、何より指輪の裏に描かれている独特な紋様から、ダイト製だと分かる。指にはめれば紋様に剄が流れ/満たされて、ジャストフィットしてくれる形状変化の特性。

 

「専用の制服と防具一式はまだ来てないが、明後日までにはできる。それまでは、前のメンバー達が残してくれたお古だが、サイズの合うものを使ってくれて構わない」

 

 もちろん、そのまま予備として使い続けてもらっても……。隣りの着替え所/ロッカールームを指差して、そこに保管してあると。

 

「武装ダイトについては、専用のモノがあるから不要だろうが、本使用と訓練用の二本が支給される。どちらも刃引きか緩衝処置が施されて、殺傷力が抑えられているモノだ。

 小隊員は武装ダイトの常備を許可されているが、装備できるのは訓練用のみだ。ソレ以外を装備するのは違法、警邏に見つかったら罰則かかなりの罰金が科せられるぞ」

 

 罰則か……。悪くない。あえてやり続ければ、合法的に小隊を辞めることができるかも。

 小賢しい考えを半ば本気で練っていると、

 

「何か特別な仕様でも、あるんですか? 例えば……、位置情報が自動送信される、だとか?」

 

 メイシェンからの指摘に、ニーナは少し嬉しそうな笑みを浮かべながら答える。

 

「ソレはどちらかというと、この指輪の方に埋め込まれてる機能だな。

 武装ダイトにあるのは、殺傷力の抑制の他に、武装展開の外部からの強制ロック機能だ。特定の条件と資格を持ち合わせてる者が命じれば、即座に発動されてしまう」

 

 安全装置……。どこの国でも同じ。個人で自由に扱える暴力を保有してるがゆえ、社会はソレに制約をかける。

 ただ正直、そんなモノでは足りないはず。破ろうと思えば破れる、別の抜け道もある、システムには常に穴がある。結局の枷は、エリートとしての自制心だろう。

 なので、メイシェンが作った流れに便乗して、

 

「隊長のソレは、訓練用のものですか? それとも本使用?」

 

 イタズラ心を含めながら、確かめることにした。

 尋ねられたニーナは、ほんの少しためらいを見せるも答えてくれた。

 

「コレは……、本使用だ。このハーレイお手製の改造もされてる」

『先の試験では、あんまり活躍できなかったけどね……』

 

 残念と、わかりやすくも含ませてきた。……自慢げというよりも、ションボリ気味で。

 確かに、鉄鞭にしては独特なあの形状の謎は、最後まで分からずじまい。ハーレイの言葉を信じるなら、視界から消えていた時に発現していた、わけではなかったらしい。そしてもう一つ、先のような戦闘場面では活躍させられない機能だった、とも。

 気がかりなれど、いま追求すれば不審がられるか……。この話はそれまでと、こちらも引き下がることにした。

 

「他にも、小隊員としての特典と義務が色々とある。が、ここで私が口で説明するより、この小隊員用の【生徒手帳】に分かりやすく書かれてる―――」

 

 面倒なので、コレを見ろ―――。手のひらサイズの小冊子を、渡してきた。

 まさかの古風/貴重な紙媒体……と思いきや、それは数ページ分だけ。最後の少し厚めページは紙ではなく別の素材/電子表示板になっていた。かさばる形状なれど、携帯情報端末と同じ。

 買い揃えているので必要は無い。他人から渡された端末を使うなど、露出癖でも無ければ不利益でしかない行為だ。けど……、渡された以上は常備しなければ疑われる。身分証明と一体化していたらなおのこと避けられない。コレを中継ポイントにプライベートを覗かれる危険を、常に持ち合わせていないといけないことに。

 

 思わずため息が出そうになった。分かっていながらも避けられない、ドンドン枷を嵌められていくみたいだ……。

 

「18小隊独自の特典は……、今は無い。あるのは、先にも言ったとおりの急務だけだ。早々に都市への何らかの貢献か実績を見せること」

「あるといえば、あの副会長殿だろうなぁ。俺らが頼めば、大抵の無理難題は通してくれるだろうよ」

 

 ただし、願いに見合った以上の代償は取り立てられるが……。シャーニッド先輩が、皮肉を隠すことなく込めながら教えてくれた。

 まだ深い仲などでは決して無いものの、ありえる事だと共感してしまう……。ただ/だからこそ、

 

「彼とはそのぉ……、友好的では無い?」

 

 僕らよりも付き合いの長いはずの隊長達も、同じ嫌悪感なのが気になった。一応は同僚なはずなのに、出会ってからの距離感を保ち続けるのは、無難とはいえない。印象と経験則からしか言えないものの、そんなヘタを打つような人物とは思えなかった。

 

「信用はしているが、信頼はしていない。副会長はかなりの…秘密主義だからな」

「フェリシア先輩に対しても、ですか?」

 

 妹に対しても……。急な話題の対象替え/あえて踏み込んでみるも、

 

「……私にこそ、とも言い換えられます」

 

 さして堪える様子なく、答えてくれた。……ただ若干、不満が滲んでいるような気はした。

 

 彼らの兄妹関係には、何かわだかまりがあるのか……。僕がカリアンに対して有利になれる何かが。

 ニーナ達を見渡してみるも、ソレは確かなことだと表れていた。

 コレは、もっと探ってみるべきか―――。警戒されるだろうが、メリットに傾く。続けて尋ねようとすると、

 

「さて! 事務的な話はコレで終わりだな。

 次は、穏やかな方の歓迎会をしよう―――」

 

 ニーナがニコやかに破顔しながら、新人たちへの説明を終了させてきた。

 

 話が閉ざされ、胸の内で舌打ちした。……もう後で頃合を見計らって、聞き出すしかない。

 そんな打算で黙ることにしていると、

 

「ま、待ってください!? まだ学園に来たばかりで、荷ほどきも済ませてなくて―――」

 

 メイシェンが慌てて、待った!をかけてきた。

 

 彼女らしからぬ積極性に一瞬呆然としてしまうも……、確かにだった。

 慌ただしさで麻痺させてきたけど、ここに来たばかりだった。荷物なんてほとんど無いけど、これからの仮住まいぐらい確認しておきたい。というかそろそろ、腰を落ち着けて休みたい、一息ぐらいつきたい。……気づかされると、かなりの疲労感があった。

 なので僕も同意見だと、視線でニーナに要望してみるも、

 

「構わんさ。こういうのはノリの方が大事だ!

 荷物はコチラでしっかり保管してやる。ほどきについては終わったあとだ。女子寮への案内ついでに、私とフェリが手伝うぞ!」

「……私も、ですか?」

 

 当たり前だ―――。これから先輩になるんだからな!

 

 朗らかな強引さに、メイシェンは二の句が継げないでいた。僕の方も、頭を抱えるしかない。……コレはもう、断れない流れだ。

 

「シャーニッド先輩オススメのバーだぞ。料理も酒も旨くて、なにより値段がお手頃価格だ! ……先輩にしては健全な場所だから、安心してくれていいぞ」

「もっと面白くて刺激的なところはあるんだが……、新入生にはちょうどいい店だろう」

 

 今後機会があったら、紹介してやろう―――。言葉通り、こなれた遊び人な雰囲気がよく似合う。

 

「他の小隊はまだ勧誘と採用の最中だろうからな。気兼ねなく特等席で飲めるぞ!」

 

 さぁ皆、いくぞ! ―――。

 そのまま先頭を切ろうとするニーナを、「せめてその武装だけは外していきなよ…」とハーレイが留めてくれた。

 ただ「…確かにそうだな」と、ニーナはさして格好を気にしてる様子もなく。「少し待っててくれ――」とロッカールームへと消えていった。

 

 ため息を隠しきれずにつく彼の様子に、二人の関係を読み取ってしまうと、「君らも着替えてくるといいよ」と勧められた。それまではココで/ニーナにも待たせるから、とも。

 指摘されて改めて、自分たちも彼女のズボラさを咎められない格好なのに、気づかされた。

 

 

 

 

 

 ◆   ◆   ◆

 

 

 

 目が覚めるとそこには―――、見知らぬ白い天井があった。

 周囲には、簡素なベッドが等間隔/壁沿いに5対ほど、その横には腰ほど小荷物置き場。大部屋の隅には、四角箱の古いタイプのテレビジョンが設置されていた。……それ以外には何もない。

 テレビに映っているのは、この都市のニュース番組だろうか。帝都の標準語とは別の言語だが、キャスターらしい女性と別の場所の映像が同時に映っている様子から、内容が推測できる。大音量ではないけどソレしか音源の無いここでは、離れたここからでもよく聞こえる。

 

 自分の現状確認―――。指先はさすがにうごくも、手足を動かすのがダルい。無理に動かそうとすれば鈍い痛みが体中に駆け巡っていく。……とくに、右腕の肘あたりから。

 目を向けるとそこには―――、注射針。細い透明なチューブが伸びて、背丈ぐらいの棒の上にこぶし大のパックが吊るされている。点滴が打たれていた。中身がなんなのか知りたいけど……、もう大分注入されてしまっただろう現状、諦めるしかない。

 

 それでもマシかと、針を外してやろうとして―――ガンッと、左手が何かにひっかかった。痛みによるものではなく、手首に嵌められた拘束ベルトによるものだと、ようやく気づけた。

 足元にも注意を向けると……やはり、両足も同じような拘束がかけられていた。

 

 私は今、何処とも知らない病室の中、この粗末なベッドに拘束されている。身動きがほぼできない現状……。どうやら私、囚われてしまったみたい。

 けど、

 

(この程度で、私を拘束できるなんて―――)

 

 甘すぎる。

 全身気だるく、何より不明すぎる現状なれど、この程度の拘束具など引きちぎってやれる。ソレが第5階梯の武剄者というものだ。

 

 呼吸を整え、丹田に意識を集中。そこから全身へ伸びる大小様々な剄脈を感じては、剄を循環させていく。そして一粒一粒の体細胞へ剄を浸透させては、活性化―――。いつもの要領/【活剄】の手順、何の問題もない。

 しかし―――、気づけた。なにかがおかしい?

 いつまでたっても、十分な剄を練り上げられない。

 そもそも、丹田に蓄えているはずの膨大な剄を、感じられない。何らかの重傷を負ってその治療のために消耗した、とは考えられるも、減りすぎている。あまりにも少ない。というかコレは―――

 

(もしかして………………、無いのッ!?)

 

 ど、どういうことッ!? ―――。はじめて戦慄が沸いた。自分の寄ってたってきた支柱が一本、いつのの間にかなくなっていた不安。

 長年の修練の末に蓄えてきた剄、ソレが全て無くなっていた。

 

 厳密には、全てではなかった。

 武剄者としての最低ラインを大きく下回っている、一般人レベルの剄の総量。なので当然、活剄など発現できない。手足の拘束具を引きちぎるなど無理。全身の疲労感を払拭することすらままならない……。

 再度確かめてみるも―――……、やはりだった。

 私は今、武剄者ではなくなっている。

 

(…………一体、何が起きてるの?)

 

 とてつもない喪失感は保留。漏れそうになる嗚咽も封殺。

 全身脱力しながらも、頭は回転させつづけた。何か、なにが原因なのか―――

 

 そんな困惑の最中、いきなり病室の扉が開く音が響いた。

 さらにコツカツと、床を鳴らす足音が近づいてくる。 

 身をこわばらせながらも待ち構えていると、私のベッド脇までやってきて、

 

 

 

「―――目が覚めたようだな」

 

 

 

 見知らぬ男が、声をかけてきた。

 

 低めながらもよく通る声音。大声ではない普通の声量なのに、周囲全ての人間の耳に伝わる。何より、聞かなくてはならないと居住まいを正させる威厳ある声質。喉や声帯が活性してる武剄者ゆえ、とも違う。大勢の前での演説慣れしてる、政治家か軍の指揮官特有のモノだ。

 声の主を見上げてみると……、やはりだった。腹の読めない岩のような顔つきをしている禿頭の男。

 着ている服装は、ワイシャツにネクタイにベストにダークグレーのシングルスーツと、品格のある紳士的なワンセット。高度な特権を振るえる公務員、な見た目をしているけど、醸している厳しげな雰囲気は軍人に近い。

 

「……さすが、かの帝都からの刺客、ロンスマイヤ家のご令嬢だけあるな。

 体は()()()()()なのに、己の魂だけはしかと保持できてるとは」

 

 見定めながら、さらに考える。彼が要求するだろうこと、私がやらなくてはならないこと/できること。現状で最適な、次に出すべき返事は―――

 

 

「…………何も話しませんよ」

 

 

 素直に拒絶、拷問も尋問も無意味だと。

 

 知りたいことはある、不満は山ほどある。

 けど、目の前の禿頭は答えてくれないだろう。確かめる術もない。

 そもそも、私をこんな目に遭わせただろう元凶に、話し合いの余地など微塵もない。すぐに解放するのが当たり前、まして拘束などしているのだから……、『敵』以外の何者でもない。

 敵は抹殺すべき―――。殺人ですらない、駆除の対象だから。

 

「構わない。もう知りたいことは知った」

 

 …………なら、なぜ生かしてる?

 訝しる視線だけで返事。冗談で嬲るのが趣味な相手とは思えない。

 

「お前が()()()()で『沈黙』を貫けるのか、それとも『負け惜しみ』をぶつけてくるか。どちらの人物なのかを、確かめたかった」

 

 まっすぐ鋭く、貫くような視線で見定めてくる。コチラの腹の奥底まで焼き尽くすような炎が、その瞳の奥に見えた。

 普通なら目を逸らしたくなるようなソレは、しかし……私には馴染みあるものだ。むしろありがたい。不明瞭すぎる現状の混乱の中、ようやく一息つけたような気分。

 なのでか、黙秘し続けようとしたけど、気が変わった。

 

「……『合格』とでも言いたいんですか?」

 

 茶化すように、までは流石にいかなかった。我ながら冷徹さがにじみ出てしまったか……。

 

(……あれ? なにかが―――)

 

 おかしい……。違和感に気づかされる。

 先の第一声とは違う、病上がりのかすれ声だったからと思い過ごしたけど……、違った。全く違う。

 私の口から出たその声は、私が知っている私の声音とは別物だった。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 再びの戦慄。押し殺した喪失感と繋がり、恐ろしげな何かを引きずり出してくる―――

 

「『不合格』の方が好みだったか?」

 

 禿頭の返事に、ハッと呼び戻された。

 

 全て保留、今は考えない……。動揺が顔にまで表れない内、障りのない皮肉を返した。

 

「評価できる立場にいるとでも?」

「驚いた、不合格の方が好みか?」

「ええ。今すぐその首をへし折って、静かにテレビを見たいぐらいには」

 

 そしてプイと、顔も背けた。

 気まぐれのお喋りもこれまで、そもそも話すことなど何もないのだから……と、強がりを通した。

 そのハッタリが、功をなした。

 

「なぜソレができなくなっているのか? 今お前が、知らなければならないことだな」

 

 禿頭自身から、必要な情報を晒してきた。……罠とは知りつつも、顔を向けざるを得ない。

 

 改めて禿頭を見定めてみると、先の情報の含意が浮かんできた。

 

「……貴方たちの責では無い、と?」

「利用はさせてもらっている、ある程度は」

 

 隠すことなく教えてきた。彼らにもまた、敵対せざるをえない何かが邪魔しているのだと。……私に有利な情報を。

 だからだろう、

 

「できれば協力してもらいたい。その力も理由も、お前にはあるはずだ」

 

 従属関係、ではなく協力関係。……上っ面だけは。

 

 見定めながら、断った場合を考えてみた。生じるメリットとリスクを、今の私にどれだけ有意義なのかを。

 答えは……、残念ながらすぐに出た。

 

 

「―――私に、何をさせたいのですか?」

 

 

 一時休戦。今は従い機を伺う。……全て把握したのなら、すぐに切り捨てる。

 

「いい返事だ。飲み込みが早くて助かる」

 

 当然とばかりに私からの了承を受け取るも、質問には答えず。立ち去ろうとした。

 そんな背を訝しりながら見送ると、

 

 

「追って指示する。まずはゆっくり休んで、万全になれ―――」

 

 

 背中越しにソレだけ告げるや、入ってきた出入り口から立ち去っていった。

 

 

 

 

_




長々とご視聴、ありがとうございました。

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