【地剣】→【王剣】
侵入 前
 ̄
【陸上世界】を彷徨う
現在、大半の人類が生息している【海洋世界】との継ぎ目、一般に【両生型】と呼ばれている港街。
その港を通じて、地上でしか採取できない貴重な資源を人類に運ぶ突端、一般に【爬虫型】と呼ばれている採掘船。
その船達を繋げる、小型で移動速度の早い交差点、一般に【鳥型】と呼ばれる宿場町。
そんな全てのレギオスに、確かな地図/座標を提供するため土中で息を潜めている支点、一般に【植物型】と呼ばれている観測所。
そして、地上世界を人類の住処とするための対立面、一般に【獣型】と呼ばれている戦幕営。
その獣型の一つとして、【学園都市ツェルニ】は設立された。
「―――あんたら、本当にあんな場所に行くのかい?」
悪いことは言わない、引き返せ……。荒くれ者の運び屋が、怯えをにじませながら忠告してきた。コチラの無謀を心配よりも、同行する我が身の危険を感じて。
胸の内だけでため息をつくと、懐から金色の硬貨を2枚取り出し、運び屋の前へと投げおいた。
「【セレニウム金貨】2枚。……これでも足りないのか?」
陸上世界で運用されている物質的な通貨。レギオスを稼働させる燃料にもなる/万能物質たる【セルニウム】から精製される特殊な金属=【
先の恐れはよそに、その2枚の金貨に目を奪われていた。人間二人を運ぶにしては、あまりにも法外な/命をかけるだけの値段に。
しかし/それでも……、頷かない。
「……カネの問題じゃない。あそこはヤバイんだ―――」
「もう2枚、追加してあげましょう」
横手からクラリーベルが、もう2枚の金貨を置いてみせてきた。
やり過ぎだ―――と止めたかったが、後の祭り。もう引っ込められないので、当然顔を保ちながら続けた。
「アンタは、この界隈じゃ『伝説の運び屋』と呼ばれてるそうじゃないか。どんな荷物も人も違法薬物も、時には
「なッ!? ――― 」
運び屋は息を呑みながら瞠目し、顔を青ざめさせた。……秘密にしていた情報/大罪が、知られてしまっている恐怖。
核爆弾=前世界での最強の破壊兵器。汚染物質が蔓延し虚獣が跋扈している現世界においては、最強の地位から降格された。
鉱脈から放射性物質を気軽に採取することができず、セルニウムからも作り出すことができない。しかし/それでも、その破壊力は健在。爆裂させることができれば、甚大な破壊をもたらすことができる、都市内でなら地獄をもたらしてしまうほど。……目の前の運び屋の男は、かつてソレを『ある都市』に運んだ。
幸いなことに、ソレは都市内で爆裂することはなかった。未然に防がれ、都市外で爆裂した。実行したテロリスト達は捕まるも、全てではなかった。……目の前の男は、その一味の生き残りだ。
帝都が誇る女王直属の諜報組織/【王剣】(表の【天剣】にちなんでの名称)から得た極秘情報。本人に晒してみて、事実であると再確認するも、若干の修正あり。……狼狽しているその様子は、テロリスト特有の狂信からではなく、外部の/何も知らなかった協力者の罪悪感が原因、な気がした。
どちらであっても、公表されてはまずい情報。彼の生殺与奪を握っていると、協力する以外に道はないのだと、理解させることはできた。
「これ以上お値段を吹っかけるようなら―――、わかりますよね?」
止めの脅しに、運び屋の心は完全に折れた。
なので、少しだけ譲歩した。
「アンタはただ、俺達をアソコまで運ぶ。安全で快適なクルーズは期待していない」
「そして運び終えたら、全て忘れる。何も見なかったし聞いてもいない、何もせずに金貨4枚だけもらった―――」
クラリーベルはそう、思わせぶりに無理難題を命じながら、運び屋の消沈した肩に手をかけ微笑みかけた。……コチラまで思わず、ゾクッとさせられた。
正面から向けられた運び屋はソレで、もうどうしようもないと悟らされたのだろう。大きくため息と肩を落として、捨て台詞を吐いた。
「…………どうなっても知らねぇぞ」
「大丈夫です。どうせアナタは忘れますから」
ニコリと返された黒い笑顔に、運び屋はもう何も言い返すことはなかった。
―――
……
|
。
最後の経由地点の都市から、裏稼業の運び屋の協力により、ようやくたどり着いた。
乗ってきた違法所有の高速放浪バスから、改造された一人用/カプセル型脱出ポット×2に詰め込まれ―――、射出された。
狙いはあやまたず、忙しく動き回っている多脚ではなく基底部へと着弾/接地した。その衝撃とほぼ同時に、ポットの外装に折りたたまれていた『足』が、着弾面をしっかりと掴んだ。
狭いポット内の操作盤でソレを確認すると、操縦桿を使ってポットを/足を動かした。……ポットは、芋虫のようにウネウネと動きながら、基底部面を進んでいった。
遅々とした進行状況、狭すぎて身動きが取れないポット内の悪環境、おまけに通信もひかえなければならない孤独感……。棺桶に入れられてしまったような強度のストレスに晒されながら、あるはずの目的地/都市内部への唯一の道/バス停留所まで蠢き進んだ。
そして数時間後―――、ようやくたどり着いた。
しかし……崩壊間近の都市だ。用心に越したことはない。
ポットに乗り込む時に着込んでいた、都市外探索用スーツ。ポット内では背中へと外していたフードを被り、ゴーグルと首元に下げていたマスクを装備し直した。……これで一応、安全だ。
操作盤でポットの蓋を開錠、最終警告もクリアさせると、横手の手動レバー/回転レバーを回した。ぐるぐると回すとガチャリ、背中近くで音が鳴った。……最後の鍵/安全装置が外れた。
そのままドンドン、強引に背中をぶつけながら叩くと―――バカリ、開いた。拍子に外に飛び出た。
「―――くぅぅ~~ッ! やっとついた……。
もう体中コリコリ―――」
それほど離れていない近くから、クラリーベルの声が聞こえてきた。……彼女もほぼ同時に、外に出てきていた。同じ機能優先の都市外スーツで、首を回したり手足/体を伸ばしたりしている。
こちらも同じく、体のコリをほぐした。手足/指先までの感覚を取り戻していく。……本当に快適なクルーズじゃなかった。
一通り手入れを済ますと、感覚の方も整え直した。体内に閉じ込めていた剄の流れを外へ/周囲へと広げる―――
全身が一気に膨張したような浮遊感、ふた回りは大きな巨人になったような全能感に一時襲われるも、すぐさま戻した。……感情まで溢れさせる必要はない。
二人の自分―――。五感をもって主観している自分と、背後/頭上数メートル周りから俯瞰している自分。同時に違った視点/感覚/情報が、混濁せずに同居していた。いつもの感覚。
その感覚から、確信できた。ポットのセンサーは正しかった。……ココではちゃんと呼吸できる。
フードとゴーグル、マスクも外した。横手で同じく、クラリーベルも外していた。
ほぼ半日ぶりの新鮮な空気。バス内とポット内の、浄化循環装置の人工空気とは明らかに違う。全身の細胞に染み渡る心地よさがある。……まさに都市の空気だ。
感じ取っていながらも驚く。どうしてココまで/もう不要なはずのバス停留所まで空気が行き渡っているのか? ……廃都間近とは思えない。
考えても仕方ないことに戸惑わされていると、近寄ってきたクラリーベルが声をかけてきた。
「そういえば、【ベリツェン】を出てからずっと、不満そうにムクレてましたが……。気に入らないことでもあったんですか?」
ムクレてた、僕が? 何を……?
いきなりの問いにキョトンとしてしまうも、すぐに察せた。……あのことか!
別に―――。そう返そうとしたが、やめた。……ソレでは、ムクレてたことを肯定してしまうことになる。
「…………金貨2枚で事足りた。余計な出費だった」
正直に答えてやると、クラリーベルもまたキョトンとした。
だけどすぐさま、何かを察すると、クスリと微笑を浮かべてきた。
「ふっふ、相変わらずの守銭奴ぶりですねぇ♪」
「笑い事で済ますな! 国費は無尽蔵じゃないし、持ち合わせはもっと限られてる」
これだから貴族様は―――。言おうとしたが止めた。もう仕方がないことだし、何より、彼女と距離を詰める必要はない。
そんな心の壁も、見抜かれただろうが、気にせずに続けてきた。
「ま、確かに、少しあげすぎたかもしれませんが、葬儀費用も含めたと思えばちょうどいいでしょう?」
「!?
…………どんな毒だ?」
「毒じゃありません、【蟲】です。特定の言葉を発音すると活動しはじめる《言喰の呪》です」
沈黙の誓か……。そういう毒は知っている、何より経験させられてきた。疑り深く尊大な相手/王侯貴族・高官と交渉する際には、有効な手の一つでもある。本人の同意が必須のタイプしか知らなかったが、知らず強制できるモノがあるとは……。
【蟲】___。剄で練り上げた人造生物。機械のように決められた行動しか取れない、創造した武剄者の手から離れられないので、厳密には『生物』とは言えない。しかし、剄は生命力の代名詞。その塊である蟲は、たとえ本物の血肉がなかろうとも生物と言うしかない。
蟲ならば、そのような複雑な呪いも作れるだろう、同意も必要な強制力も発揮できる。しかし、毒の生成と蟲の創生は分野が違う、必要なスキルや適性も。……彼女は毒の使い手だと思ってきたが、まさか蟲まで使えるとは。
焦りを隠すために睨みつけた。だけど……一瞬だけ、すぐにいつもの無表情を装った。
「……ふっふ、『なぜそんなことやったのか』て、聞いてくれないんですね♪」
「俺の責任じゃないからな。船頭を用意しなかった王家の不始末だ」
だから彼女が尻拭いをした……と、言えなくもないが、それでも不始末には変わりない。どうあがいても証拠を残してしまう、死体ならなおさらだ。もしも成功した後であっても、他国から「強盗」と責められる口実となってしまう。
「仕方ありませんよ。ココはもう帝都の領土外で、人類世界ですらない、開拓最前線ですからね」
開拓最前線___。そう、ココはもう【ツェルニ】の中で、周りはすべて敵だらけ/虚獣たちの領土だ。人間の住む場所じゃない。……そしてツェルニは、幾ばくもなく奴らの領土へと戻る。
「……そうだな。だから、
感覚拡張とともに捉えていた、停留所中に漂う『敵意』の存在。異物である僕らへの警戒の視線へ、睨み返した。
周囲の空気が一気に、冷たく固まった気がした。
睨みつけた先は、何もない空間/誰もいないバスの待合所広場。
だけど……『何か』がいる。濃密な気配があった。
さらに感覚を研ぎ澄ませ/剄の流れを絞り変え、差し向けた視線に乗せて照射した。力を持った視線、物理的な影響も及ぼせる『戦意』の波動を―――
ぶつけられた濃密な気配は、たまらず露にさせられた。隠れていた異界と現実世界との紗幕を纏い続けることができず―――、その青白い幽明な姿を表した。
“―――立ち去れ、異邦の武剄者たちよ。ココに汝らの欲するモノは無い”
隠蔽を剥がしたソレは、青白い微光を放ち/帯びてはいるものの、人間の姿をしていた。
姿を現したことでか、さらに周囲の空気がピリピリとしてきた。監視レベルであった警戒が、積極的防衛に変わったかのように……。
しかし、そんなことは意に返さず。落ち着きながら状況を分析した。
「【魔獣】……にしては、人型でありすぎますね。
言葉も喋れてますし、意思疎通は……難しそうですが」
「気づいてるか? ココに降りた時から監視してる気配と似てるぞ」
「!?
……なるほど! 【繰念体】だったんですね、侵入者迎撃用の門番…いえ『守衛』さん」
まだ稼働してたんですねぇ……。呆れてしまう異常事態に、苦笑が漏れる。
学園都市の門番=守衛___。外界との唯一の接点であるバス停留所で、都市に害なす敵を未然に排除する防衛機構。他都市との交流も多い都市では、生身の人間が担っているが、外界と殻一枚しか隔てていない悪職場環境、大概の都市では『別のモノ』が勤めている。
【繰念体】___。念威奏者によって創造された使い魔、念威の塊を捏ねて作り上げた機械。武剄者が作り出す【蟲】と似ているも、生命力とは違う念威/虚獣から掠め取っている力、作り出したソレは『生物』ではない。
だけど……目の前のソレは、明らかに人間そのもの。向ける警告も敵意も、機械では複雑すぎる思念だ。周囲の幽明がなければ、人間だと誤解してしまうほど精巧すぎる代物。
「帝都から来た転校生です、今日からよろしくお願いしまぁす♪
……て言っても、聞いてくれなさそうですよね」
「そうだな。ココはもう、『廃校』が決定してるからな。わざわざやってくる奴らなんて、不法侵入者の火事場泥棒だけだから――― !?」
最後まで言い切る寸前、守衛が拳を構え―――飛び込んできた。まるで弾丸のごとく、発射されたかの様な爆進。
その場から左右に跳び分かれて、避けた。
一瞬先まで立っていた場所に着弾した守衛はそのまま、拳を侵入ポットへとぶつけた。
その衝突と同時に―――、爆発が起きた。
ポットは後方へと吹き飛びながら、原型がわからぬほどに粉々になってしまった……。
後に残ったのは、地面に小さなクレーターを作った守衛の、残心の立ち姿。
「―――ひゅぅ! 良い速攻♪
紛い物のくせに【旋剄】の真似事してきましたよ♪」
「ついでに【衝剄】もな」
【旋剄】___。脚部に集めた剄を圧縮させ、踏み込みに合わせて噴射する、高速移動の基本技。剄を推進剤代わりに使うので、直線的な動きしかできないのが難点。だけど、一足で遠間を詰めれる、銃火器を時代遅れの骨董品に引き落とした剄技の一つでもある。
【衝剄】___。腕部に集めた剄を圧縮させ、拳の振り抜きに合わせて噴射する。中近距離攻撃の基本技。剄を爆薬代わりに使うことで、拳に岩すら粉砕する破壊力をもたらす。ただし、よく練り上げれば/連続使用には限りがある。コントロールを誤れば、砲身替わり自分の腕は破壊される。
どちらも基本技なので、使い方で熟練度が測れる。この守衛の腕は―――、中々に鍛えられてる。先にポットを破壊したことからも、戦術眼まである/仕事熱心であることも。
冷静に分析してると、守衛はクラリーベルへ視線を向け、すぐさま飛び込んでいった。
同じく旋剄の爆速。一気に間合いを詰め、構えていた手刀で喉を突いてきた―――
しかし、彼女もソレは読んでいた。
突きこまれる距離を見計らい、ギリギリ届かない背後まで退いた。……すぐさまカウンターを打ち込むために。
だが……予想外。
突き出された手刀が、
驚きで目を見開きながらも、体を捻って躱した。……手刀は空を切った。
攻撃直後で隙を見せてしまう守衛、体勢が崩され反撃に移れないクラリーベル。
すぐさま仕切りなおした。どちらも譲らず。
しかし、一筋の赤い雫がじわりと、首筋からにじみ出ていた。
「―――ふっふ♪
オマケに軟体化、【操身剄】まで使えるなんて♪」
【操身剄】___。剄を特定の体内部位に集めて、ソコを意識的に強化する剄技=【宿剄】。ソレをさらに発展、皮膚や筋肉・骨格を変形操作させる応用剄技。骨と筋を外し緩め、限界以上に腕を伸ばすこともできる。
仕切り直しに構え直してる間、すかさずこちらも【旋剄】で懐まで飛び込み、急襲した。
腰だめに構えた手刀を、心臓があるだろう左胸めがけて突く―――
守衛は慌てることなく、迎えうってきた。
こちらの手刀を横手で払いながら、半回転。その勢いのまま、近接の間合いから飛び離れた。……カウンターの裏拳でも打ち込みたかっただろうが、そんな余裕は与えてない急襲。
ギリギリ躱した守衛は、再びこちら二人を同時に警戒しながら、構え直した。
反射神経も中々のモノだ。常人なら確実に突き殺せた一閃だったが、躱してみせた。―――ただし、紙一重で。
空を突かされた指先には、守衛の表皮の感触が残っていた。外見上では都市外活動用スーツらしき衣服の一部、分厚い作業用ツナギの胸ポケットだけど、繰念体にとっては体の一部だろう。
その感触/纏わせていた剄が
欠損した分を補い/纏う剄の強度を高め直しながら、守衛の次の一手を待ち構える―――
「……そうみたいだな。
【硬剄】か【化練剄】にまで割り振れなかったところを見ると、形質変化の特性はなさそう――― ッ!?」
腰元に片手を隠しながら、再び飛び込んできた守衛。その無策な様な攻撃を迎え撃とうと身構え直していると―――、引き取り出された十手型警棒。同時に横薙ぎに振りかぶってきた。
間合いを計りきれず、半身捻り/横スライドで躱した。―――その一瞬先に居た場所に、鋭い斬線が走った。地面に斬裂ができる。
【硬剄】___。警棒に剄を集めて、刃の形に固めた。横薙ぎと同時にするこで、斬撃がわずかばかり飛びもした。幸いなことに空を切らしたが、背後に下がっていたらスーツに致命傷がついていた。
(……一応、使えるみたいだな)
コチラの会話に応えるような一撃。
そんなプライドじみた感情を漏らしている様子は無いが、残心からすぐさまコチラに警棒を構え直していた。
「―――武剄者を模倣することに特化させた、てところですね」
「ああ、【学園都市】らしい繰念体だよ」
この念威奏者、凄腕だ―――。
念威は剄/生命力とは反発しあってしまう力。ここまで精巧に人間の姿を、さらには武剄者の動きと力までコピーするのは、並大抵の念威奏者では不可能だ。帝都が所有している『最強の念威奏者』に比肩するレベル。ココが学園都市、様々な武剄者の情報がある都市だとしても、具現しきったその力と才能は尋常なものではない。
冷や汗と同時に舌打ちした。
(くそ! こんなヤバい情報、どうして事前に伝えなかった―――)
調査不足。あまりに辺境すぎて情報を探りきれなかったのであれば、ギリギリ受け入れられる。しかし/もしも、意図的に隠していたとしたら? ……この特務じたい、疑わざるを得なくなる。
そんな僕の危惧とは裏腹に、クラリーベルは目を輝かせていた。
「ぜひ帝都に招待したいですね。……まともに人間しているのなら」
付け足された皮肉に、思わず頷いた。
これだけ念威を操ることが出来るのなら、当然その心身も念威に侵されている。人間が許容できる限界値/
『消耗品』……。そんな不快な言葉が浮かんできたが、すぐに否定した。それだけでは、目の前の現象を説明しきれない、奏者としての才覚と技量が必要だから。
(……わからないことは、後回しだ)
答えに至れない推理は放棄、目の前の死活問題に集中。
息と剄を整え直すと、
「ただ―――、底は見えた。もう終わらせよう」
敵情分析は終わり。得なければならない情報の最低ラインは確保した。
先より強く/鋭く/重く―――、意識を切り替えた。
コチラの気配が変わったことを、察したのだろう。警棒を構えていた守衛は、目を見開いた状態でカチリと硬直した。まるで、電源を落とされた機械人形のように、あるいは
しかし、そんな隙だらけも一拍だけ。
守衛が纏う幽火がより強く濃くなった。その火からスライドしながら、
新たに現れた守衛は、4体。
計5体の守衛が横並びに現れると、コチラを囲うように位置取り、ほぼ同時に警棒と敵意を差し向けてきた。
予め示し合わせたかのような動き、あるいは思考を共有しているか……。単純に、機械的なアルゴリズムで動いていて欲しいものだ。
「……どうします? もってきた【
「こんなところでか?」
【武装錬金鋼】___。武剄者の武器、剄を流し込み纏わせ強化もできる金属武器。通常の金属武器では、剄を纏わせることすら技量が必要になる、染みこませ強化するには適性も必要になる。なのでかつては、生体素材/木製武器が主流だった。そんな金属武器の使い勝手の悪さを解消してくれた、セレニウム製の武器。
使えば簡単に倒せるが、使用限界がある。刃が摩耗することは無いが、その骨格にあたるセレニウムが摩耗してしまう。使えば使うほど/手入れも怠れば、どんな金属にも変容できる特性が失われ、ただの/特定の金属に固定してしまう。
これから何が起きるかわからない。温存できるのなら温存、ここは徒手空拳だけでやるべきだ。
「使ってもいいが、まともには抜刀させてもらえないだろう。どういうわけか【
「念のいったことですよねぇ……」
【錬金阻害粒子】___。セレニウムを特定の金属/設定された形状に錬金するのを妨げる微粒子。散布されている場所では、セレニウム製品を変異させることは非常に困難になる。セレニウム製品は、性質も形状も質量すらも自在に変えられるので、大抵は持ち運びやすいような軽量の小物になってる。
人の往来がある公共の場所では、散布することが多い、武剄者による無用の被害/犯罪を事前に防ぐために。このバス停留所のような場所なら、なおさらだ。……一つ問題があるとすれば、ココは人の往来など無い廃墟であるだけ。
すると唐突に、気づいた。降ってきた考えに、呆れてしまう……。
コレはもう、用意周到とは違う、事前に/偏執的に備えていたのでもない。あまりにも無駄が多すぎる。
まるで、そう……繰り返しているだけ。
ありえないし証拠も少ないが、落ち着かせてくれるものがあった。
ため息を一つ、不確かな仮説は一旦しまい込んだ。
「それに、なによりだ―――、
ありませんね―――。
この程度の敵に遅れを取ることなど、ありえない/あってはならない。
ニヤリと、笑みを浮かべると、丹田に力を込めた。溜め込まれている剄を噴出させた、閉じていた栓を解放させる―――
先までの微々たる剄とは、比べ物にならない大量の剄が、全身に張り巡らせてる剄絡へと流れ込んだ。穏やかな和流でしかなかった循環が、怒涛の荒波へと変貌する―――
そして、全身の隅々にまで満ち充ちさせると―――……、燃焼させた。
【活剄】___。循環させた剄を身体に染みこませ、身体機能/運動機能を増大させる基本剄技。武剄者としての戦闘開始の合図でもある。
先までは日常レベル。これからが本番だ―――
自分本来の剄の煌きを纏いながら、それでも立ちはだかろうとする守衛達に、引導を渡しにいった。
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長々とご視聴、ありがとうございました。
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