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ターミナル内での戦い。5体に複製された繰念体を圧倒した。
叩き潰された5体は、地面や壁に倒れ動かなくなっている。そして、まとっていた青い燐光を流出させながら、しだいにその姿をおぼろげにしていき……消えた。
後には、戦いで破壊された跡のみ、初めからいなかったように掻き消えていた。
すべてを見届けると、【活剄】を停止させ、高ぶっていた剄の流れを落ち着かせた。
「―――他愛もなかったですね」
「行くぞ」
一言/一瞥残すと、戦闘で所々破壊の跡ができているターミナルから出た。
待合所から『改札口』へ、上層への大階段を進む―――
―――
……
。
帝都ならば、【都市環状鉄道】へと通じてる道。
都市の地下層から地上部へと出て、外周をぐるりと一周して戻ってくる。市民たちの移動手段であり、流通の大動脈になっている。他のレギオスも大体は同じ構造だ。
渡された設計図上、このツェルニも同じだったはずだが―――
「―――当然、もう動いてないですよね」
廃墟と化している、地下鉄のプラットフォーム。
もう幾月日も使われていないのがわかるほど、タイルの剥がれや砂埃の積もり具合、壁に貼られた広告は色あせとろこどころ破れている。ギリギリ電灯はついているものの、いつ消えるかわからないほど頼りない光は、時折パチパチと点滅までしている。そしてなによりも、シンとし過ぎる人の気配の無さ、もう随分と空気そのものが動いていないのが五感に染み込んでくる……。
どれだけ待っても次の列車がこないことは、察せられた。
「……都市機能はまだ生きている。ココへの巡回が塞がれているだけだろう」
「切り替えの迂回路を本線にした、てことですか?
となると―――、線路沿いに進んでも、行き止まりになる……」
詰んでませんか? ……その通りだ。
ココはもう、都市から切り離された区画と同じだった。
「……外殻から侵入すべきだったのでは?」
「それだと、ココの天剣【ヴァルゼンハイム】が発動する。……正規ルートを通るしかない」
「それじゃ、『壁をぶち破る』て選択肢も、危ないですね」
強行策も使えないとなると……。クラリーベルは苦笑とともに肩をすくめていた。
気持ちはわからないでもない。
そもそもレギオスは、外部からの侵入に対して執拗なまでの防御策を講じている。虚獣や汚染物質が蔓延してる世界の中、人間が住める空間を作り維持するのは並大抵のことじゃない。修練を積んだ一人前の武剄者であっても、外界で装備なしの裸で立ち続けられるのは、1時間が限界だ。ソレを数百年もつづけ、ほぼ完璧に維持し続けている。さらに、虚獣の侵略への対抗手段として【天剣】がある。……レギオスそのものと戦うことは、虚獣と戦うことに似ている。
ただし一つだけ違うのは、レギオスは人間が住む世界を守るためにある。達成するためには一つのレギオスだけでは足りないし、レギオス内だけで完全自給自足の世界を作ることもできない。ゆえに、完全に外界から遮断することはない。必ず一本は、外界と通じる道を作らなければならない、他のレギオスと通信できる方法も。
「いくら迂回路を使っても、『外界との流通経路の遮断』であることには変わらない。
今までは、来訪者がいなかったから誤魔化せたんだろうが……、もう無理だろう」
「このまま待ってれば、ヴァルゼンハイムがカタをつけてくれる、と……?」
「今の無防備は、突破した侵入者が迂闊なことをしてくれるのを待つ、罠だ。……時間は俺たちに味方してる」
「ははぁ……緩急つける、てわけですか、都市の守護者まで利用して。
この監視者さん、なかなかに素敵な性格してますね♪」
自分たちで塞いだ壁なのに、コチラがお節介を焼く/破壊すれば、レギオスには『敵』として見られてしまう……。なんとも理不尽な話だ。
「もしかして、だからこのホーム、
「ああ、だろうな。
一見だけじゃわからなかった……。上手い【夢幻域】だよ」
【夢幻域】___。念威によって作り出された、錯覚空間。五感に伝わる情報を改ざんしたり作り出した情報を貼り付ける、拡張現実。
五感を操作してしまうので、まるで現実のように錯覚してしまう/疑うことすらできないも、剄だけは誤魔化せない。剄による探知を習得すれば/違和感を信頼することができれば、夢幻に囚われることはない。逆に囚われてしまえば、夢幻を維持するエネルギー源に変えられてしまう。
今いる廃墟のプラットフォーム。長年使われていないだけのホームに見えるも、現実は違う。床・壁・柱・天井にまでも、武剄者によるものと思わしき破壊痕が所狭しと刻まれている。鉄道のレールも、錆びるだけでなくひしゃげ千切れており、列車そのものが通れない状態になっていた。
剄の探知を無視させる先入観/『常識』による憶測。ターミナルに門番が置かれたから、奥にあるココは無傷なはず、との誤解。……念威奏者との戦いは、常に/何事にも疑ってかかる必要がある、と同時に直感を信頼することも。
「コレは壊しても、いいですかね?」
「やめた方がいい。たぶんソレも罠だ。
俺たちじゃ、というか
「そっかぁ、そうなっちゃいますよねぇー♪
…………はぁ。
夢幻の中にいながら覚め続けるて、けっこう神経使うんですよねぇ――― 」
チラリ……。意味ありげな視線を向けられた。
何を求めてるのか、わかったけど……無視した。
「お手を拝借しても、よろしいですか?」
「……独りでできるだろうが」
「二人でやれば、余分な労力をかけずにできますよ」
「俺は、必要な労力だと思ってる」
向けてきた手を、すげなく拒絶した。
夢幻対策の基本、二人以上でことに挑むこと。他人の剄を受け入れることで、夢幻から解放される―――。つまり、手と手を結ぶこと。正確には、互いの剄の通り道/【剄絡】を交らわせて繋げる。
一人でやるより、はるかに労少ないのは、その通り。けどソレは、他人の剄を受け入れなければならない。この念威奏者と比べても脅威なクラリーベルに、手の内を明かす危険を冒すことになる。もっと言えば、剄絡を通して毒を流し込まれることも……。
「ふっふ、高評価いただきありがとうございます」
無言で警戒の睨みをつけるも、帰ってきたのは意味深な微笑み。
警戒されてることを知らずか、はたまたそれでもか、あるいはそれゆえにか……。どれにしても、彼女の内心を測りかねた。
どちらも無言でみつめあっていると―――、遠くから音が聞こえてきた。
ガタゴトと、規則だたしく揺れ軋む音。はじめはかすかだったけど、徐々に大きくなった。
音源に振り返ると……、眩しいライトに目を細めさせられた。光で視界が曇る。
見つめ続けて目を馴らすと、その姿が見えてきた。
地下鉄が、塞がれた穴からやってきた―――
思わず目を丸くするも、視界に映る奇妙な光の色彩に納得した。
走る地下鉄は、徐々にスピードを落としゆっくりと進み―――、ホームに/目の前に横付けされた。
ピタリと停車した直後、プシュッとの圧縮空気音とともに、出入り口扉を開いた。
夢幻の地下鉄―――。
現実世界列車とは違う、夢幻域で仮想されている地下鉄。現実世界で走っているように、五感を改ざんして見せつけている、錯覚でしかない地下鉄列車。……剄による知覚での話だ。
しかしながら、夢幻の中では確かな現実だ。触れてみても感触があり、体重をかけてもちゃんと乗れる。剄との反発力を利用した、質量や実体を持っているかのように思わせる錯覚。夢幻そのものを破壊しなければ、この列車は現実の列車と変わらない機能を持つ。
「…………どうします?」
「行くしかないさ」
「罠ではないと?」
「それでもだ―――」
警戒しながらも、地下鉄に乗った。
二人乗りこむと、扉が閉まった。
グラリとひと揺れするや、窓から見える駅の景色が横滑りしていく。
発車―――。スピードを増しガタゴト揺られながら、線路を進んでいった。
地下鉄が暗い横穴を通る、現実ではその奥は塞がれた壁。
しかし地下鉄は、進み続けた。どんどんスピードも上げていく―――
そして境界、塞がれた壁にぶつかる―――直前、視界がぐらりとたわんだ。
平衡感覚が揺さぶられる。目を開けていられないほどの嘔吐感……。
なんとか耐えると―――、ありえない光景が見えた。
先まで無人の列車内が、多数の乗客でこみあっていた。
灰色にくすんでいた車内も、窓からの光も相まって色彩豊かに華やいでいる。夢幻特有の青白い幽明感が薄らいでいた。乗客たちのワイワイがやがやとの騒がしさも、先にはありえなかった生命の空気感だ。
あまりの変転ぶりに目を丸くした。呆然と立ちすくんでしまう……。
しばらくすると、違和感に気づいた、乗客達から自分たちは知覚されていないのだと。いきなり都市外探索装備に身を包んだ二人が現れたのに、完全に無視しているのはおかしすぎる。
奇妙すぎる現象に頭を働かせていると、隣のクラリーベルが肩をトントンと、指で触ってきた。
接触に驚き振り返ると、彼女は口をパクパクと、動かしているのが見えるのみ。
何をしているのか/言っているのかすらわからなかったが、すぐに察せた。―――喋ってるはずなのに、聞こえない。
互の音声/夢幻域にいる自分たちが発する音は、聞こえない。そもそも、発生していないのかもしれない、と……。
しかしながら、見えてはいる、何より立っていられる/接触できている。現実だろう領域と夢幻域が、ピッタリと重なっている証拠だ。……ただし、物体のみ。
見えている乗客たちに触れられるかどうか? ……今試すのは危険すぎる。静観するしかない。
自分たちはいわば、姿のない幽霊のようなものだ。日常に紛れ込んだ不可視の異物。
(……まずいな。これじゃもう、夢幻を壊せない)
上手い具合に乗せられた。
夢幻が、現実物である自分たちを抱えきれなくなる前に、タイミングを合わせて/交差するだろう現実の列車に憑依した。【虚空】へと引きずり込む仮想現実タイプではなく、現実に貼り付ける拡張現実タイプへと切り替えた。……これなら、ターミナルを封鎖しても気づかれない。
同じ念威なれど、全く違う才能と技術が必要な二つ。ソレらをこうも見事に使いこなし、あまつさえほぼ違和感なくつなげてみせた……。改めて、この念威奏者の実力を見誤ってしまった。
予期せぬ出来事に眉をひそめていると、隣のクラリーベルも同じくしていた。……そちらはたぶん、会話できない苛立ちについてだろう。
胸の内でため息一つ。……こうなっては仕方がない。
手のひらを彼女に差し出した。先ほど拒絶した協力。
察した彼女も、自分の手のひらをあわせて……、互いに握り合った。そして、互の剄絡を結び/交わらせる―――。
互の剄が交換循環される。
自分の体内に他人が/彼女が入ってくる異物感に襲われるも―――、手のひらで押さえ込んだ。それだけあれば充分。
互いの剄が行き来する【剄橋】ができた。ソレを実感し合うと、握り合っていた手は離した。そして―――
『―――私の声、聞こえますか?』
『ああ、聞こえてるよ』
互の声が聞こえるようになった。
厳密には、声音ではなく声のイメージだ。通信装置越しの会話、この場合は【剄橋】を通じての声イメージのやり取り。……なので、表情や口の動きと聞こえてくる声が微妙にズレてる。
武剄者同士、一度剄橋を作っておけば、水中だろうと防音壁越しだろうと戦闘中だろうとも会話することができる。そしてその声は、剄橋の無い他人には聞こえない。傍受不可能な直通回線、この夢幻域を壊さずに会話できる方法。
『この監視者さん。わざわざ私たちを引き入れて、どうするつもりなんでしょうかね?』
『歓迎してくれるんじゃないのか。この都市から出られなくなるほどに』
あまりの事態に、思わず皮肉が漏れた。……ただ、不吉でもないことだが、あながち間違ってもいないだろう。
なので、クラリーベルへと顔を向けなおすと、
『……俺は、お前のお守りをするためにココにいるわけじゃないぞ』
『あら♪ 先に言われちゃいました』
突き放すつもりだったが、彼女は心得ていたらしい。……良い心がけだ。
『ご心配なく。私は次代の【ノイエラン】の担い手です。その決定された未来を阻む事象は、
天剣授受者の定め―――。都市の守護者である担い手は、天剣という戦略兵器を扱えるも、『都市の守護』の使命に拘束される。ソレは呪縛といってもいい強制力で、担い手の意志のみならず、生命活動すらも無視する。次代の担い手に継ぐまで、永遠に使命を全うさせられ続ける。
その使命/呪縛を逆手に取り、すでに特定されている/唯一の次代の担い手を守護させる、死すらも妨げさせる。……天剣の担い手を、特定の血筋に限定させることで引き起こした、天剣による絶対守護だ。
クラリーベルの自信の源、この危険すぎる任務に飛び込んだこと/あえて王家も実家も止めなかった理由……。僕とは違って、帰り道が用意されている。
……そうは言うものの、今まで幾つかの戦場で背中を預けあった経験則、彼女は天剣に甘えるようなことはしない。この任務も、自力で生還する自信があるからこそ、だ。
だからか、暗に焚きつけられた。
言葉にできない煩悶に眉をひそめていると……ヒラヒラと、蝶が目の端に映ってきた。
紫の燐光をまとった蝶のような虫。ヒラヒラと空中を彷徨い飛び、視界を横切っていく―――
見間違いかともう一度見るも……、いた。さらに観察すると、乗客の目の前/鼻先にまで飛んでいたのも見えた。
互いに目配せすると、警戒を強める。
【夢幻蝶】___。現実と夢幻の境/繋ぎ目を繕う際に現れる、自動補修現象。あえて繰念体として用意することもある。その際、蝶の形態をとることが多いことからの名称。
現実と夢幻が限りなく近接している証。現実側から見えないということは、夢幻が晴れてしまう警告になる。
(この感じだと……、次の駅で晴れるのか)
蝶の羽ばたきと燐光の具合、何より肌に感じる夢幻の圧迫感の薄れから、予測できた。……次の駅でこの夢幻は終わる。
この格好はマズイな……。いきなり現れたら、不審者に見られるだろう。
手首にある操作丸盤、スーツ内の環境を操作するボタンの一つを押しながら、
『コンプレッション―――』
二人唱えると、着込んでいた都市外探索スーツが淡い燐光を放ち、微細な粒子に分裂/分解された。そして、光の靄状にまでなると、喉元の一点/首飾りに―――収束されていった。
全ては数秒の出来事。ダイト製ならではのスーツの着脱、全身を覆ったスーツは全て首飾りの小さな金属板に圧縮された。
スーツを脱ぎ払った下には、この学園都市の市民が着ている/違和感ない服装。あらかじめ用意しておいた衣装だ。周りの乗客の市民と比べても、違和感はない……はず。
スーツがなくなった直後、外気に触れてる肌がピリピリとし出した。夢幻を構成している念威と纏っている剄が反発してあっている。スーツが無くなったことで、纏う剄が露わになってしまった副作用だ。……蝶がまとわりついては、忙しく飛び回り始めた。
微かに痒い程度だけど、振り払ってしまえば夢幻まで消し飛ばしてしまう。じっとし続けるのは少し不快だが、もう到着ならば問題はない。
走り続けてた列車は、次第に速度を落とし―――、止まった。
―――
……
。
乗客の乗降に合わせて、列車から出た。……乗客の一人であるかのように。
ホームに足を踏み入れ、しばらく人の流れに沿って歩いていると―――、まとわりついていたピリピリが消えた。見えざる抑えつけから解放されている。
夢幻域から現実空間へと、戻った。
周囲の乗客達は、いきなり増えただろう二人に違和感を示すことなく、流れに従い階段を下り続けるのみ……。
『よくできてる……というよりも、警戒心足りないんじゃないですかね?』
流れに併走しながら、少し不満げな声が聞こえてきた。
隣を見るも、クラリーベルは前を向いてるだけ、口も動かしている素振りもない。警戒されないための何気なさ。……剄橋を通じての会話だ。
夢幻から出たらすぐに切れば良かったと後悔するも、便利なのは確かだ。必要だと言ってもいい。……今は利用するしかない。
『この学園都市の『仕様』を聞いた時は、疑ってたんですが……どうやら本当みたいですね。
彼女の声から、隠しきれない軽蔑の感情が伝わってきた。
周囲の人々をサッと見流すと……確かに、共感できるところもある。
皆、顔姿体型衣服も違っているも、まとっている雰囲気がどことなく同じだった。特に目の光具合、まるで
同じ空間にいて傍で併歩しても、肌が粟立つような違和感はない。けど、これだけ傍にいても熱気がない/暑苦しさを感じない、コチラが歩きやすいように配慮されている証拠だ。配慮していることにも気づかせない配慮がある、歩調のみならず息遣いまでも……。意識だけでは到底できない体捌きだ。
同じ『人間』なはずなのに断絶がある、あるいは絶対の主従関係か……。気にしなければそれまでだけど、一度意識してしまうと不気味さが拭えない。
『……ソレがこの都市には必要で、大半の市民が納得してるのなら、部外者が文句をつけるのはお門違いだろ』
『海洋界では禁忌とされてることでも、ですか?』
『ここは陸上界だ。
海洋とは違って、人間社会を運営補佐するだけの繰念体や蟲を大量生産できない。【屍人】で補うしかない』
【屍人】___。生命活動が完全停止した人間の死骸に、蟲を寄生させ/繰念体を憑依させて動かしてる人形。人体を構成する細胞達に、まだ生きていると錯覚させることで、可動させている。生命活動が停止している中で無理やり動かしているので、稼働期間は限られてる、損傷しているのならなおさら。定期的に延命装置で補修することで、長く使うことはできる。
かつては海洋世界でも、屍人は使われた。人間社会を運営するには、人の形と動きができるモノが最適だからだ。けど、豊富なエネルギー源とセルニウムのおかげで不要の産物となった、さらには『人道に悖る行為』とのレッテルも。けど陸上界では、いまなお運用されている……。
『……どちらにしろ、ココはもう崩れる。見て見ぬフリが一番だ』
面倒な議論は打ち切り、任務に集中する/させる。
そんな思惑を察してか、それまでの不快ぶりをガラリと変えると、
『さて、それじゃ動力部に向かいますか♪』
『……いきなりだな』
『いけませんか?』
『いや……、いいんじゃないか』
通常の任務なら、協力者や拠点の確保をするのが先決だけど、今回は別だ。速攻でターゲットに向かっても問題ない。むしろ、敵地真っ只中で孤立無援のココでは、拙速こそベストだろう。
『次の列車から2回ほど乗り継いでいけば、すぐに着くはず』
『それじゃ、決まりですね♪』
『……問題なのは、敵がどう出るかだけだな』
『こんな密集地で、騒ぎを起こすと?』
気づかれたら終わりなのは、敵側も同じ……。嘘がバレるとまずいのは、どちらも同じだ。
たどり着いた待合所、次の列車を待っている人だかり。地面の導線にも入りきらず、列が乱れてしまっているほどだ。通勤ラッシュにでも、引っかかってしまったのだろう。……迂闊だった。
ただ、こんな場所で戦いを仕掛ければ、間違いなく大騒ぎになる。コチラの身元もバレ、隠していた嘘も誤魔化しきれなくなる……。監視者と僕たちは、その意味では運命共同体だ。
だから、次に仕掛けてくるとしたら―――
『……列車内なら、夢幻に取り込み直すこともできる』
『仕掛けてくるとしたら、そこでしょうね。……ま、嫌がらせ程度ですが』
いまさら夢幻に取り込んだところで、できることは限られてる。コチラにはもう、夢幻を守ってやる理由も無い。……時間稼ぎにもならない、嫌がらせがせいぜいだ。
それでも……腑に落ちない何かがあった。
『……まだ何か、気になるんですか?』
『他の都市からの刺客は……、どこにいる?』
返答というよりも独り言。
声に出して自問してみると、気にしなければならない問題に思えてきた。
『……私たちが一番乗りだったから、では?』
『海洋界では早い方だろうが、帝都からココまでは長い。陸上界の刺客だったらすぐだ』
どこの刺客/墓泥棒にしても、中に入るルートは限られている、同じ正規ルートを通るはず。……ターミナルで門番と対決したはず。
そこで全員やられた……とは、考えられない。いくら陸上界とはいえ、そこまで脆弱だとは思えない。必ず誰かは、都市内部まで侵入できたはず。それなのに/今のところは、何の痕跡も無い。……都市内部でも、凶悪な罠が仕掛けられている証拠だ。
『全滅したとしても、何らかの痕跡は残してるはず。できれば回収したいが――― 』
トン――― 。
いきなり背中を押された。体が線路へと傾き落ちていく―――
突然のことで、何もできなかった。……隣のクラリーベルも、呆けた顔を浮かべている。
ホームから足を踏み外し、線路へと落ちていった―――
傾倒の最中、押した手/誰かを目の端で捉えた、まるで殺気や気配すらも感じさせなかった暗殺者を―――。
(―――通りで、気づけないわけだ)
屍人の一人……。何も/命すらも見えない虚ろな瞳を、僕に向けてくるのみ。
ソレを理解した直後、全速の列車が体当りしてきた。
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長々とご視聴、ありがとうございました。
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