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ツェルニの街上を、駆け抜けていく。
目的地の動力部までの道のり。設置されているだろう監視装置や、屍人たちの目から外れるため、警戒しながら屋根伝いを駆け抜けていった―――
しかし……、それも限界がきた。
集合住宅地から住宅群からも、商店街らしき通りにも差し掛かり、静観な豪邸宅が建ち並ぶ広々とした通りへと至り……打ち止めだ。ここからは地上を歩くしかない。
最後の隠れ場所にて、駆けてきて早くなっていた息と体内リズムを整えると、剄技【止剄】を発動した。
【止剄】___。基本剄技の一つ。全身の剄穴・剄戸を閉じ、剄脈・剄絡の流れを止める。通常状態でも循環してる剄の流れすらも止めてしまう。
完全に剄の流れが止まることで、気配が消える。物理的にはそこにいながらも、意識的にはどこにもいない。注意を向け続けなければ隣にいても気づけなくなる。……いわば、【屍人】と同じになる。
同じになれば、気づかれない。屍人同士の認知方法を逆手にとった潜伏法、紛れ込めれば一般人たちからも屍人だと誤解されるようにもなる。
発動して、完全に流れを止めてしまうと……、通りに出た。人の流れ、屍人たちの流れの中へ、何気ない顔で加わっていった。
屍人たちと一体になりながら/流れのまま、動力部へとつながる【中央管理塔】へと進んでいった。
―――
……
たどり着いた天突く巨塔=中央管理塔前。レギオスの全てを管理している、背骨に値する建物だ。玄関広場のココからでは頂上を視認しきることはできないが、レギオスと猛毒の外界とを隔てる【
まだちゃんと機能しているも、あと幾ばくもない……はず。何らかの誤魔化しがなされているか、もしくは、帝都でも知られていない新しい手法を発見したかの、いづれかだ。
(……ま、そんな可能性は無いだろうけど)
誤魔化しの延命処置、だからこそ、もう安楽死させる。……それが、導き出された預言で、自分に課せられた任務だ。
屍人たちの流れに従いそのまま、管理塔へと入る―――前に、横道へ。……このままでは、塔入ゲートに引っかかってしまう。
前を歩いていた屍人の一人へ、何気なくも素早くちかづいた。背後まで接近し、そのまま横並びになるや―――スパんッと、首筋を突いた。
超高速の手刀。生きてる人間の目から見えないような位置で、目に止まらないほどのスピードで放った。……たぶん気づかれてないだろう。
屍人はガクンッと、その場に崩れ落ちそうになる―――寸前、手を差し伸べて支えてやった。
突然のことに、周囲がざわついた。しかし、「大丈夫だ」と手でアピール。ついでに、「彼は屍人だ」とも。……通行人たちはやや落ち着いた。
止めに、支えていた/一時機能停止状態になっていた屍人の耳元へそっと、吹き込んだ。とある命令を。「しばらく僕に従え」、バレたら逮捕されるだろうクラッキングをした。そして、止めたスイッチをもう一度―――オンに/剄を流した。
腕の中、支えられていた屍人はソレでパチリと、虚ろだった瞳に意識を灯した。
「―――え……あれ? どうして……てッ!?
す、スイマセン!」
慌てて自分で立った。
市民たちへの精神ダメージを緩和させるための処置……。ただ目眩をしただけと、周囲に弁解するような苦笑を配りながら安堵させた。それを見せられると、もう問題は解決したと、洗い流されてしまう。
通行人たちの注意が離れるや、屍人へ無言で/視線だけで命令した、「あそこまで歩け」。屍人は、先に見せた人間らしい仮面から一転、元の人形らしい無表情に戻るや、頷いた。そして誘導先、塔広場の脇にある公衆便所へと向かわせた。
そこへ二人、何気なしに入っていった。
中に先客がいないことを確認するやいなや、もう一度命令した、「お前の服を貸せ」。
屍人は黙って頷くや命令通り、着ていた作業着を脱いで―――わたしてきた。
その間、僕の方も着ていた(偽)市民服を脱いだ。脱ぎ終わるや、渡されたソレを受け取って着替える―――
着替え終えるや、下着姿のまま棒立ちの屍人に最後の命令、「そこの個室に入って座ってろ」。
屍人はやはり頷くや命令通り、便所の個室へと入り、中からがチャリ……鍵をかけた。『使用中』。
確認するや、作業帽を目深に被り外へと出た―――。室内清掃員の屍人に成りすました。
服装を整えると、中央塔へと入った。
広々と開放的なエントランスホールを抜け、市民たちが通る搭入ゲートへ……ではなく、横の作業員用の非常階段へと逸れて向かった。
ひとめ、ゲート前に検査員の屍人に注意が向けられるも、服装から屍人だと誤認してくれたのだろう。あるいは、止剄を発動させたことで、屍人と同じ気配を漂わせていたからだろう。呼び止められることなく/軽く目で会釈までされて、非常階段への扉をくぐれた。
バタり……。背後で扉が閉まった音を、狭い無機質な非常用通路を歩きながら聞き取るや、胸の内でほっと一息。
(……第一関門クリアだ)
通路を進み続けると、無骨な階段と作業員用のエレベーター。案内の文字盤を確認して……階段へと向かった。
ココから地下の動力部までは、かなりの距離がある。エレベーターを使って降りたほうが早いし楽だが……、エレベーターの中は密室。くわえて監視カメラもある。おまけに、先の失敗があった。……この都市の移動手段は、凶器に変貌する。
ガタコトがたこと―――と、足早に非常階段を降りていった。
―――
……
長い長い、非常用階段を下っていった先―――、ようやく終点/最深部にたどり着いた。
分厚い耐熱扉をそっと、開けては……中へと体を滑り込ませた。
そこに広がっていた光景は―――、レギオスの心臓部だった。
ドーム型の巨大な空洞の中心部には、吸い込まれるような柔らかな白光に包まれている、巨大水晶が鎮座していた。……そのひし形に近い水晶は、成人男性が6人は詰め込められるほどの巨大さだ。
その周囲には、優しげな空色に輝いている6本の円筒形水晶が、等間隔に円を描きながら配置されている。……その円筒形すら、成人男性が詰め込めるほどの大きさだ。
そしてその円筒形から、幾本もの配管や配線が伸びては交差し、圧力を調整する増幅器や取り出したエネルギーを分別する濾過装置を通過し、ドームの地面/壁面/天井へと伝わりながら広がっている。都市の各所へと、巨大水晶から吸い上げたエネルギーを送るため/都市機能を稼働させるために。あるいは、各所から送られてきた情報/フィードバックを受け取っている。
機械的な無機質さ/無骨な外見と横暴なほど絶え間なく続く駆動音、だけど、中央の水晶たちの輝きがココに生命の空気を保たせていた。一般的なレギオスの動力部の造りと同じ。ただ、一つだけ違うのは―――
(……光が弱い。これではもう―――)
死に体だ……。動力部に満ちている水晶の輝きは、あまりにも弱々しい。専門家やメカニックでなくともわかってしまう、もうダメだと、いつガス欠を起こしてもおかしくないと。
預言は正しかった。
けど、疑問は残ってる。
こんな状態でありながらも、都市はちゃんと稼働しているようには見えた。少なくとも、エアフィルターはしっかりと稼働しているし、食糧難に陥っているほどの困窮ぶり/荒廃ぶりは見当たらなかった。
何か裏がある……。市民たちを騙している、だけではない、実際に稼働させうるだけの
(そう考えるのは、自然だけど……)
そんなもの、存在するのか?
……一時的には、可能だろう。熟練の武剄者たちが剄を込め続ければ、稼働させることは不可能じゃない。
けどそんなもの、3日ももたない。代わり替わり休ませながら続けたとしても、それが限界だろう。ただし、レギオス全域をくまなく覆い守っているエアフィルターがまだ稼働できている状態で、だ。……中央にある水晶たちには、ソレができる
預言が告げられてから、ココに来るまで一ヶ月ほど。
たどり着いた後にやることは、廃墟とかした元動力部/あの巨大水晶から、エネルギー源たる【電子精霊】を確保することだった。その障害となるのは、【虚獣】が生み出した【魔獣】たち、そのさらに配下たる【化生】や【怪物】達だと想定していた。動力部が停止したレギオスの末路は、奴らの住処なのが一般だ。……ここ、ツェルニは違っていた。
ずっと抱えさせられていた疑問に、またぶつかってしまう……。
(……それでも―――)
一歩、踏み出した。
疑問は棚上げに、今は今だけを、任務に集中する。
中央の水晶達の下へ、周囲に警戒を向けながらも、進んでいった―――
―――
……
ゴールは常に見えながらも、複雑に入り組んだ金属通路/階段/梯子のおかげで……、なかなかたどり着けない。道なりに進んでいけばたどり着けるはず、だろうに、どうして……?
進んでいるはずなのに、近づいていない……。そんな矛盾した考え/錯覚まで浮かんできた。もしかしたらこのまま、永遠にたどり着けないのでは? とも……。
そんな不吉でもない考えに苦笑を浮かべると―――ハッと、閃いた。
そして瞬時に、その場に立ち止まるや、意識を切り替えた。
今までとは違う、外ではなく内を見つめ直す/治す―――
すると―――ピリッ、額に痛みが走った。
さらに続けると、痛みも強く増していく。ただの頭痛が、徐々にガンガンと割れんばかりの激震へ、そしてグラグラと酩酊したかのように平衡感覚までおかしくなった。遂には、地面そのものがなくなってしまったかのような、墜落感まで……。
そこまで至って目を見開くも、ソレは錯覚ではなかった。
見えていた光景も全くの別物に、目を疑うような/超現実的な闇色のモザイク映像に変わっていた。自分はその中/奥底の暗闇へと、落下し続けている。……そのあり得無さ過ぎる光景が、確証だ。
―――
(ッ!?
いつだ……? どこで嵌められたんだ!?)
起点はどこ/何時だったのかは、わからない。油断など一切していなかった。
けど/それでも、強引に取り込まれてしまった……。
通る理屈は、一つだけだ。
念威を強化してくれる/武剄者を弱体化する【場】に追い込まれた―――。
けど、ソレはありえない。
完全警戒中の/いくら片腕を負傷しているとはいえ、僕を圧倒するだけの場など外界以外には存在しない。まして動力部、剄に満ち溢れているはずのココは、念威奏者こそ弱体化してしまう死地だ。……けど現実、夢幻に取り込まれてしまっている。
なので、根本的に改める必要があるだろう。
そもそも
そこに至ったからか/夢幻の捕網を掴めたからか、いきなり全身が―――
どこからともなく、まるで体内から溢れ出たかのような発火現象。全身が一気に炎に包まれ、高熱と痛みが襲いかかる―――。
さらに止めとか、呼吸まで苦しくなってきた。
まるで本当に、火炙りにさせられているかのようなだった。
上手く空気も吸えず、意識まで虚ろに引き落とされていく―――……
……しかし寸前、正気を取り戻せた。
生きるか死ぬか/消えてしまうかの境目で、湧き上がってきた疑念が、夢幻の煙を吹き飛ばした。
今全身で感じている灼熱の激痛と、数時間前に/
そして今、絶体絶命/意識消失寸前の刹那の中では、微差は微差にあらず/他と同列の感覚情報の一つ。念威ではまだまだ作り出せない、これからも不可能だろう膨大すぎる体感覚の総情報。ソレらをも精査対象になることで―――、
取り戻したそこから、声なき雄叫びを上げると―――パキィンッ、亀裂が鳴った。夢幻そのものに傷を負わせた感覚。
さらに続けると―――ピギイィィッ、ガラスを爪でひっかくような耳障りな擦過音が掻き毟る。ソレとともに、亀裂は縦横へ走り広がっていった。……いつの間にか、全身の炎は掻き消え、激痛も消え失せている。
そしてついに、臨界まで亀裂と音が詰め込まれた。
『ぎぃやあああ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――!!』
脳髄に直接響いてくる、
そんな脳みそがズタズタになるような絶叫とともに、夢幻は―――爆散した。
◆ ◆ ◆
現実感覚を取り戻したのは、驚愕をこもらせた男の声からだった。
『―――驚いた。
まさか、あの【フェリ】の念威すら、払い除けてしまうとは……ね』
聞いたことのない声を認識すると、ぼやけていた頭をハッと目覚めさせた。
続いて/すかさず体も覚醒させようとするも……、痺れが酷い。まるで、剄を過剰に消費してしまった反動の極度の疲労感、全身がゲル状化してしまったかのような猛烈な虚脱感で、言うことを聞かない。先の夢幻から強制脱出した報いだろうが……、ありえないほどの消耗ぶりだった。
戦慄で強張りそうになりながらも、無理やり、澱んでいた剄を賦活させた。
急げッ! 急げッ! 急げッ! ―――
(もっと早く――― )
カツカツ……と、硬い足音が近づいてきた。
『……だが、ここまでだ。
そう宣告するや、近づいていた何かは足を止めた。と同時に、空気が重々しく圧迫感が増した。……もうすぐそこまで/手を伸ばせば届く距離まで、接近していた。
そしてカチリと、微かな金属音を鳴らした。―――
『サヨナラ、帝都の刺客殿。
私たちはまだ、この
言い切るとともに、出された指示は―――「撃て」。
接近して何か/誰かは、忠実に/即座に―――、引き金を引いた。
そして弾丸は、誤たず僕の頭を破壊する―――はずだった。
ギリギリ直前、僕が体を跳ね起こさなければ―――
パァンッ! ―――
横に緊急回避させた体/耳に、銃の破裂音が追いかけてくる。……さきまで頭があった硬い床に、特大の銃痕が穿たれていた。
冷や汗が滲んでくる……よりも早く、すぐさま次の反撃へ移した。
飛びながらうつ伏せから反転、四足でつかみ直した床を蹴り出し、まだ見ぬ殺し屋へと―――、突貫した。
熊手の形で突き出す片手に、即行で練り上げた【衝剄】を込めて―――
突き出しながら衝剄を放つ―――その直前、ようやく襲撃者の姿を見た。
先の列車で襲いかかってきた襲撃者と同じ、奇妙な仮面を被った武剄者。ただし、体型はまるで違う、別人だった。
回避されたのみならず、反撃してきた。そのことに驚き居着いていると……思いきや、至極冷静だった。
その場に居着くどころか、こちらに向かってきた。まるで、体をよろめかすような自然さ/滑らかさで―――、突き出した腕の内側まで、
放った衝剄は、仮面の武剄者の肩ごしに背後へ……見当はずれの空へと、放射されてしまった。
「ッ!? ――― 」
躱されたことに驚愕する―――間もなく、襲撃者のカウンターが襲いくる。
伸びきってしまった腕を掴まれ/背負い込まれると、そのままグルン―――、投げられた。
ただし、掴んで腕を離すことはなく自分を軸に半回転させ、床に叩きつけてくる―――
考えるより先に、体が動けた。
そのまま叩きつけられてしまう直前/背負われている最中、重心をほんの少しだけ/無理やり前に置き直した。……叩きつけられるタイミングを、わずかに/自分から早めた。
背中を強打させられてしまう前、足を先に着地させられる―――。襲撃者もともに巻き込まれてしまう。
だが、ソレは相手も同じだった。
違和感をいち早く察するや、あるいは予め読んでいたかのように―――、掴んでいた腕を緩めていた。
完全に体が/両足が、宙に浮かされている最中、突然支えを失ってしまう……。相手との間に僅かな隙間ができる、
(ッ!? しまった――― )
そう後悔/焦る間もなく、襲撃者は膝が地面につくほどにしゃがむと、振り返りざまに―――発射した。
上段カカト蹴り―――。両足一直線に伸ばし/撃たれたその一撃は、緩んでいた腹の中へ、内蔵部にまで貫かれていった。
宙に浮かされていた僕は、さらに跳ね上げられることは僅か、カウンターの威力全てを受け取らされてしまった。
強烈すぎる一撃に、一瞬、意識が吹き飛ばされていた。
カカトがえぐった場所が、人体の急所の一つ/腎臓だったからだろう。意識を保つことができなくなるほどの大量の激痛が、脳みそをクラッシュさせた……。
―――それでも、戦闘状態/今までの戦闘経験値が、そのまま眠らせることを許さなかった。
焼き焦がされているような現実の中、無理やり焼き付かされた意識が捉えさせられたのは―――、襲撃者が腰だめに拳を構えている姿だった。
重心をおとし、呼吸を深く深く整え、全身の力を拳に集約する―――。筋力のみならず剄も、同時に何かが急速に練り上げられてもいた。
その暴力/致命の予感に、本能が動かした。
力も剄も込められずだが、腕を前に、体を庇う―――
衝突の瞬間。雷のような爆速/剛力がこもった拳が、僕を穿孔する。
ガラ空きの心臓が穿たれる―――ギリギリ、割り込ました腕が身代わりになった。
バキゴキィッ―――と、砕けてはいけないモノが砕ける音が、全身を震撼させる。
同時にグルゥン―――と、振り回されながら/切りもみ回転させられながら背後へと、吹き飛ばされる―――
腕を割り込ませたことで、打点がわずかにズレてしまった反動だろう。心臓を破裂させられる代わりに、腕が抉り鞣された。
グルグルと、上下左右がわからなくなるほどに回されながら、吹き飛ばれていた。そして、硬質な床にボールのように撥ね付けられ/擦り付けられながら―――、何とか止めた。
全身にはもう、激痛以外の感覚が無い。脳みその中の意識も、焼き焦がされてしまっていた……。
でも、
虚獣を屠る者。奴らの絶死の一撃に耐えねばならない者、耐え続けねばならない者……。注意を惹きつける『囮』として、真に虚獣を屠れる者の道を作るため。
だから、
―――
……
―――体を、跳ね起こしていた。
襲撃者は、それに戸惑うことなく追撃に、迫っていた。砕けていた両腕はだらりと、前かがみに迎え撃つ。
【旋剄】とともに繰り出された/【活剄】でも強化されただろう拳が、僕の頭を穿とうとする―――
寸前、避けていた。……こめかみから血が噴き出す。
同時に、硬い感触が直接、脳みそを揺さぶった。……拳に打ち抜かれる寸前、踏み込んで頭突きカウンターをしていた。
『―――ぐぶぅッ!?』
モロに食らった襲撃者の嗚咽。……若い男の声だった。
カウンターは決めた、ただし、割れたのは被っていた仮面だけ。
襲撃者の男は、仰け反りたたらを踏むも……、すぐに転身していた。
その場で体を捻転させながら/頭突きの反作用を利用しながらの、回し蹴り―――
避けようと、バックステップしようと足を動かそうとしたが……、思ったようには動かなかった。もつれてしまっていた。
しかしソレが、幸運にもなった。
回し蹴りが着弾した場所が、わずかばかり心臓部から外れていた。
すでに、屠竜士としての本能でしか動かせない体/脳みそは完全に機能停止状態。一時的にでも心臓が止められたら、糸が切れた人形、完全に動かなくなっていた……。
蹴撃のまま、背後へと蹴り飛ばされていった―――
『まずいッ!? その先は――― 』
そんなもう一人の/指示者の慌てた声が、耳朶に届く前、僕の体はどこか深い深い大穴へと落ちていた―――
―――落下の感覚……。
投げ出された空中から真下へ落ちていく、そのまま遥か下の地面に激突するのかとの諦念がわいてくるや―――バシャンッ、背中と頭に柔らかい衝撃が響いた。
そして、反発の跳ね上がりの代わりに、ひんやりとした不定形な何かが全身を包み込んできた。
ソレが『液体』だとわかるや……顔面まで覆われていた。
全身が飲み込まれると、ブクブクと大量の泡に肌を撫でながらも―――……、沈んでいった。
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長々とご視聴、ありがとうございました。
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