再生のレギオス   作:ツルギ剣

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20/12/5 加筆・修正


補欠/裏口

 

 ―――目覚めは……、()()()()()()()()()()

 

 夢を見た。……自分が殺された夢だ。

 誰かとの戦いの最中、体はボロボロになるまで叩きのめされ、終いには何処へと投げ落とされた……。一般的には不快だろうが、僕にはわりと落ち着かせてくれる夢。「ようやく終われる」と、安心させてくれるから。

 何もかも投げ出してしまった無責任さ、「ここまでやったのだからしょうがない…」から終いにはしてくれない。そんな罪悪感に追いつかれる前に、夢のまた夢へと落ちていき―――、目が覚めた。

 

 ―――

 ……

 

 

 うっすらと目を開け、ゆったりと頭を/上体を起こした傍には―――、人がいた。

 

 腰ほどまでの長黒髪、怯えた小動物を思わせる雰囲気、年の頃はまだ10代と見られるほどの幼さ。今にも泣き出しそうな童顔なれど、キッチリと着込んだツェルニの…学生服か? その服の上からでもわかってしまう、体つきは意外と―――……

 

「―――て、誰だッ!?」

「ひぃッ!? ―――」

 

 気づくとすぐに飛び起きる、距離を取った。腰元の剣帯にも手をあてる/すぐにでも抜刀できるように身構えた。……どうして気づけなかったんだ?

 焦りを隠すように、睨みつけながら対峙していると―――、少女はさらに身を強ばらせるのみ。本当に怯えているように見える。

 

 警戒しながらも周りを一瞥するも……、彼女しかいない。

 レンガ造りか「風」だけの装いの硬い/手がかりの無い壁面、高さは背丈の倍はある/常態でギリギリ飛び越えられる高さだ。横は狭く3人の人間がギリギリ通れるほどだろう。奥行は行き止まり、大通りから外れた裏路地だ。……ついでに言うなら、ゴミ捨て場だ。

 線路から投げ飛ばされた後、このゴミの山に突っ込んだ。落下のクッションになって、幸いにもほぼダメージはなかった。……臭いとベトつきはしょうがない。

 

 とりあえず周囲を確認し終えると、自分の身体状況を省みると―――

 

(―――つぅッ!?)

 

 ヤバい……。意識を向けただけで、痛みが全身を軋ませてる。頭がクラクラと重苦しく、寒気が体の芯から滲み出していた。

 

 立って動き回れることは……ギリギリできるだろう。歩くだけなら問題ない。

 が、武剄者としての動きは不可能だろう。先までの戦闘の負傷では、下半身はほぼ無傷だったはずだが……、なぜこんなにも動かない?

 強度の打撲や砕けている肋骨も、痛覚以外は動きの邪魔にならない。剄で自然治癒を賦活させれば、ソレも無視できるレベルになるはずだが……できない。どうも、内蔵に深刻なダメージがあった。そちらを治癒することに集中してるので、全身は猛烈な倦怠感で縛られてるのだろう。

 両腕も、使い物にならなくなっていた。

 仮面との戦闘で酷使した腕の他も、かなり重いダメージを負っている。二の腕の骨が複雑に砕けていた。おそらく、ココに墜落した際、打ちどころが悪かったのだろう。……運が悪い。それでもまだ、使えないことはないだろうが、『使えない』装いをしていた方が無難だ。

 総括としては―――

 

(…………ダメだ。

 一度どこかで、休まないと―――)

 

 一時撤退だ……。ここまで深刻だと、任務続行は却下だ。

 必ず返り討ちに遭う。捕まって敵の虜にでもなったら……、最悪だ。

 だとしたら次、すべきことは―――

 

「―――あ、あのぉ……その腕、大丈夫……ですか?」

 

 少女の方から声をかけてきた。

 聞き取りづらいか細い声だった。怯えていたから、だけではなく、普段の声量も小さいことがうかがえた。「覇気」とよべるような声質も、全くなかった。……熟練の武剄者で無いことは、わかった。

 黙っていると、何かを取り繕うように続けてきた。

 

「は、早くお医者さんに診てもらったほうが、良いと……思いますけど……」

 

 その通りだ。早急に医者が必要だ。……素人目からもわかってしまうほどに。

 

 自信無さげな先細り、視線を合わせることができず俯きがち。何か少しでも異変が起きたら、すぐに飛び跳ねてしまいそうな緊張……。怖いのは満身創痍の僕の方なのに。

 気弱という言葉では足りない怯えよう。他人と関わるのは苦手なのがわかる。()()()()()()()()()()()()()()、と。

 でも―――

 

(それでも面倒に関わったのは……、なぜだ?)

 

 ここの屍人達には、『瀕死の重傷者と判断したら看護する』ようにプログラムされているから?

 ありえる話ではある。

 生者と同じような振る舞い/見た目をする屍人を使う場合の、反逆されないためのセーフティーとしても。……目の前の彼女(ソレ)も、その深層命令に従ったまで。

 だけど今、僕は『招かれざる侵略者』だ。

 この都市を支配している存在/襲撃者たちに追われている身。彼らは、都市に紛れている屍人達を自在に操作することができる。彼女が屍人ならば今/もう、僕は襲撃者たちに発見されてしまっている。……殺されているはずだ。

 彼女は、()()()()()()()()である可能性が、極めて高い。

 

(……確かめる方法はある。けど―――)

 

 ソレすらままならない現状。少し身じろぎしただけで、苦悶が漏れてしまう。……想像してる以上にヤバイ。

 

 なんともし難いな……。自分一人では、自分のことですらどうしようもない。確かめる余裕など無い。

 彼女に助力してもらうしか……、ない。それが一番現実的だ。

 任務のためにはそうすべきだ。これまでそうだったように/利用できるものは躊躇いなく利用してきたように、この任務だって―――

 

 

 

「―――医者は、必要ない」

「え……?

 で、でも―――」

「このまま表通りまで戻って、いつも通りの日常を送り直す。そして、ココで見たことは全部忘れる。……ソレが、どちらにとっても一番良い解決方法だ」

「?? 

 …………どうして、そうなるんですか?」

「君に危険が及ぶからだ」

 

 口から溢れ出たのは、真逆の拒絶だった。

 頭では「今すぐ撤回しろ」と悲鳴を上げるも、嘘偽りない現状。……今更『騙す』負担を、背負いたくはない。

 ヤケっぱちながらも踏ん切りがついた僕とは違い、彼女は戸惑いを深めていた。

 

「早く立ち去ったほうがいい。……悪いが、追い払ってやれない」

「そ、そんなこと! ……できませんよ」

 

 目を逸らしながらモジモジと、決められずに迷っていた。

 その様子から、気絶していた間の状況が察せた。

 ゴミ捨て場に、傷だらけ/血だらけの見知らぬ男が、捨てられている。一般的な市民ならば、悲鳴を上げて周囲住民に知らせ都市警察に通報して処置を待つ、だろう。けどココは、スラム街だ。そんなもの目新しくもない、いちいち悲鳴を上げる気力がもったいないほどに。……ただし、ソレが『死体』だったのなら。

 生きているのなら、少々厄介なことになる。見捨てる後味の悪さ、だけでなく、助けなかった逆恨みをもたれる怖れ。確かめないわけには、いかない。その結果―――、最悪の目が出た。

 

 気の毒だとは思うが、気を回してやれる気力が無い。求められても困るだけ。……受け入れてもらうしかない。

 だから、今できることと言えば―――

 

「……選ぶまでもないこと、だろ?」

「そ、それは―――」

「早く家に戻れ」

 

 ただ突っぱねるだけ……。この関わりは、相互利益には至れそうにない。

 言い切るや、息を飲んで身を強ばらせ/見据えてくる彼女を横切り、立ち去ろうとした。―――その寸前に、つぶやかれた。

 

「…………私の家、この近くですから」

 

 一瞬、何を言ったのか聞き取れず立ち止まる/振り向き直すと……、堰を切ったかのように続けた。

 

「こ、このスラム街の出、なんですッ! 

 ですから、そのぉ……だから! えっとぉ―――…… ッ!///」

 

 言い繕うようにまくし立てると、急に赤面。俯いてゴニョゴニョ口ごもり始めた。

 

 これは……どう判断すればいいんだ? 

 首をかしげていると、表通りから「ウーウー」と騒音/都市警察専用車のサイレン音が鳴り響いてきた。

 思わず/素早く、顔を逸らした/隠した―――

 

 

 

 ……何事もなくやり過ごせた。

 

 『衝突事故』の現場へ向かう最中だっただけだろう。住民からの通報を受けて、あるいは都市の鉄道管理センターからの緊急連絡で、急いで派遣された。……の割には、少々早い気がするも、ツェルニの都市警察の練度は把握していない。襲撃者たちの指示があったかどうかは、不明だ。……ソレを考慮して動くのが、無難だろう。

 ほっと一息安堵していると、少女と目があった。……見られていた。

 

 

 

(……マズイことになったな)

 

 どうすべきなのか? もう無理を押し通すべきなのか……。

 迷っていると/覚悟を決めていると―――、彼女の方から切り出してきた。

 

「―――家に、案内……します」

「…………え?」

「こっちです―――」

 

 打って変わった転向/即断。

 こちらの了承すら聞かず、案内しようと身を翻してもいた。スラム街の奥地へと歩もうとする―――

 

「ちょ……、ちょっと待て!?

 一体どういうつもりだ?」

 

 思わず引き止めると、顔だけ向けながら、

 

「その怪我。そのままだと危ない……、ですよね?」

 

 有無を言わさぬ問いかけ。次に出てくる言葉/指示に、こちらの口は留められた。

 

「簡単な応急処置ぐらいなら、できます。父はココで治療士を……してるから」

「……ソレとコレとは関係ないだろう?」

「このまま放っておいたら…………、父に叱られます」

 

 若干のためらいを開けながらも、ハッキリとした物言い。

 

 もう断りきれない状況/空気に……、どうしたらいいのか迷う/眉をひそめた。

 全く性格が違っていたのに、こういう部分だけはダブって見えた。……なのでだろう、どんどん記憶が引き出されていく。『彼女』のことが想い浮かんでしまう、彼女なら次に何を言うのかも/言ってくれるのかが―――

 

 

 

「―――!?

 …………なんですか、このお金?」

 

 乱暴にも投げ渡した、銀貨がギッシリ詰まった布袋/高額過ぎるだろうお金に、当然ながらの困惑を向けてきた。

 

「ソレは前金だ。治療してくれたら残りを、その倍額払う」

「ッ!?

 ……そ、そんなつもりで案内するわけじゃないですッ!」

「いいから、俺の心持ちの問題だ。……受け取るのが気に入らないなら、ドブに捨てるか誰かにくれてやればいい―――」

 

 そう言い切るや、その話はコレで終いと/受け取りは断固拒否と、睨みきかせた。

 彼女は威圧に怯んでか、返そうとした手を止めた。

 

 それでも納得いかず、だろうか。布袋を返せない代わりに、

 

「―――な、名前ッ!?」

「?」

「アナタの名前、教えてもらってもいい……ですか?」

 

 一瞬キョトンとしてしまうも、すぐに頷けた。……確かに、教えざるを得ないな。

 用意しておいた『偽装身分』の偽名が、浮かんできた。ソレが口から出そうになった―――寸前、止めた。

 代わりに出たのは、

 

「……レイフォン。【レイフォン・アルセイフ】だ」

 

 偽らず、本名を名乗った。

 

 敵陣の中/潜伏中、おまけに瀕死に近い重傷の体、仲間はどこにもいない……。せっかく用意していた偽装を無視。あまりにも愚かしい選択だろう。

 けど、あながち間違いじゃない、との直感があった。

 用意した偽装身分は、過去の人物/生死すら行方不明者だ。各都市で必ず生まれてしまう、処分されずに残してある幽霊戸籍。今回の任務で持ってきたのはその一つだ。本当の自分にかなり寄せた人物を選んではいるも……、来歴はごまかせない。この若さの外見を持った屠竜士など、どこにもいない。なので必然、嘘をつく必要がある、実力を隠さなければならなくなる。……そんな余裕など、どこにもない。

 さらに幸いなことに、本当の自分も『死人』だ。帝都での戸籍は抹消されている。履歴も秘匿され、この陸上界/ツェルニの住民が暴ける代物じゃない。さほど珍しい名前/家名でもなし、知れ渡っているのは『別名』でもあるし、その頃とは容姿も変わってる。……はぐらかすことは十分可能だ。

 ただ、そんなことより何よりも、()()()()()()()()()()。……遠く離れたココですら、仮面を被りたくはなかった。

 

「レイフォン・アルセイフさん……」

「『さん』は要らない。呼び捨てでも構わない。

 というか……、不自然になるだろう?」

「へ? ……そう、なんですか?」

「年の頃合が、そう離れてはいないから」

 

 外見上の年齢具合は、どちらも似通ってる……はず。ヨソヨソしすぎては、疑われるキッカケになりかねない。

 というか……、『さん』付けで呼ばれ慣れていないので、妙に居心地が悪い。

 理解したのかどうか、曖昧ながらも頷かれると、

 

「君の名前は?」

「え……?」

「先に知っておかないと、不自然だろう?」

「あ! ……はい。

 そう……ですよね。そうでした……」

 

 ボヤくようにそうこぼすと、躊躇いがちに、

 

「……メイシェン、【メイシェン・トリスデン】です」

 

 よろしくお願いします―――。

 最後に、そんな言葉が聞こえてきそうな会釈とともに、互いに簡単な自己紹介をし合った。

 

 

 

 

 

 ◆   ◆   ◆

 

 

 

 ―――目覚めは……、最悪だった。

 

 

 

『―――これは……どういうことだ?』

 

 ノイズ混じりながらも、男の声が近くで聞こえてきた。

 

『【還命符】が働いたか? 

 だとしたら、コイツは死んでる……抜け殻か?』

「いや、死んだのは我々の方だよ」

 

 もう一人の男の声には、ノイズはなかった。

 

「正確には、この時空世界、とでも呼ぶべきものだね。

 ……今活動しているこの意識が停止したら、ココは()()()()()()にされる」

 

 ノイズの無い男の説明に、沈黙が張り詰めた。

 

『……妹さんの力か?』

「だと思う。けど、ソレだけでも無いだろうね」

 

 歯切れのない言葉をもらすと、二人の視線が集まってきた。

 そこで初めて、自分の輪郭があらわになった。ビリビリじんじんと、境界ができあがっていく。

 

『それじゃ……これからどうする?』

「決まってる。

 私たちがやるべきことを、やるだけさ―――」

 

 そう宣言するや、俺にそっと()()()きた。

 その感触/反発で、ようやく自分の形を知った。波紋のようにシミ広がっていく。

 そして―――……、口が開けた。

 

「君の名前は?」

 

 男の質問に一瞬、答えに迷うも……脳裏に浮かんできた。

 

 

 

「……ロウファン、【ロウファン・アルセイフ】」

 

 

 

 発した言葉は思いのほか、かすれた弱々しいものだった。

 

 

_

 




長々とご視聴、ありがとうございました。

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