変態は下ネタを言いたい 作:下ネタ万歳
少しのおやすみ話。
ある日の放課後。龍珠は一人屋上でスマホゲームに勤しんでいた。
特にゲームをしなければいけない理由があるわけではない。家に帰ってゲームすればと言われてしまえばそれまでだが、彼女にそれをする気はなかった。
彼女の目的はただ一つ。一人の男がここに訪れて、いつものようにどうでもいいような会話をする事。いつも不定期に現れては、フラッと消えてしまう、そんな神出鬼没の男を心なしか待ち望んでいた。
そのために彼女は自分の出現スポットを固定していた。そうすれば、自分を求めてやってくる男が、自分のことを簡単に見つけることができるからだ。相手が神出鬼没だというのなら、自分がその出る位置を固定してやればいい。そうすれば、あとは勝手に不定期に現れてくれる。そう言った、策略で彼女は毎日放課後、自分の陣地と言わんばかりに屋上を占領していた。
龍珠がゲームをしていると、屋上の扉が開かれる音が聞こえる。龍珠は誰が来たのか瞬時に理解すると、スマホの画面をブラックアウトさせ、扉のほうにぬるりと視線を向けた。
視線の先には龍珠が待ち焦がれていた男が一人、片手に大きな白い塊の入った透明のゴム袋のようなものをぶら下げている。男の顔は嬉々としていて、それが常人とは比べようも無いほどの端正な容姿をより際立たせいていた。
男は龍珠が自分のことに気付いてくれた事が分かったのか、先ほどよりも笑顔の度合いがさらに増す。龍珠もそれを見て、相手に気づかれない程度に顔を綻ばせた。決して気恥ずかしいとか、笑っているのがバレたくないとかそう言った意味で龍珠は笑顔を隠しているわけでは無い。ただ、ここで破顔してしまうと、これから先、これからずっと歯止めが効かなくなってしまいそうで嫌だった。
「桃ちゃん、桃ちゃん。これ見てどう思う?」
嬉しそうに、純粋な子供が宝石箱を見せびらかすかのように差し出されたのは白い塊が入った透明なゴム袋。一体何を見せられているのか龍珠自身何一つとして理解できないが、それでも彼が嬉しそうなのだからその気持ちだけでも共感してあげようと考えた。
「すごく、大きいな……」
龍珠のそれを聞いて、満足したのか目の前の男はより一層口角を上げる。
キラキラとしたその表情が眩くて、綺麗で、星空のようで、龍珠はただ目を細めることしかできなかった。
「でしょ?すごいよね、これが文明の利器ってやつだよ」
息を荒くさせながら、興奮した口調で話す男に龍珠は上体を起こして、愛想笑いを浮かべた。本当の笑いを浮かべることはできなくても、こうやって作った笑みを前面に浮かべることはできる。
龍珠はそろそろ男の持っている透明のゴム袋がなんなのか気になって、それを指差して尋ねてみる。
「で、それなに?」
男は龍珠のその質問に、さも当然のことを聞かれたときのような平坦な声で答えを教えてやった。
「え、コンドームに飲むヨーグルトを限界まで入れたもの」
下ネタ。女子であれば誰もが引いてしまうほどの奇行。だが、それでも龍珠はそれに慣れ親しんでいた。今更この程度の奇行を見せられたところで何も思わないほどに彼女の思考は壊れているし、男の背景を知りすぎていた。
だから、龍珠はなんでも無いような顔で下ネタに答える。その下ネタをさらに加速させる。龍珠はいつだって彼のことを肯定し、彼のことを承認する。それが自分の役割だと言わんばかりに、傲慢に不遜に答えてみせる。それが龍珠と生徒会庶務の男の関係性だった。
「そっか、じゃあ次は濃いカルピスでもぶっ込んでみなよ」
今日も今日とて、龍珠桃は変態の彼を咎めない。