鮎喰響に憧れ、鮎喰響になったというのに、ことあるごとに鮎喰響との違いを実感させられる。
夜凪景。他者を惹きつけるオーラのようなものを持っている人。他者との協調性はあまり無いが、それは彼女の中で優先順位がはっきりしているからだ。
また、先程の天然発言からもわかるように、若干抜けているところもある。
はっきり言おう。彼女は『鮎喰響』に似ている。きっと、自身の目の前で理不尽なことが起きたら飛び蹴りをかますくらいのことは平気でするだろう。少なくとも、『鮎喰響』ならそうする。
頓珍漢なことを言うのなら、彼女はまるで『私』のせいで鮎喰響になり損ねた『鮎喰響』だ。そのくらい似ていると感じてしまう。
勿論、私の勝手な妄想だ。事実無根の妄言。そうやって切り捨てるのは簡単なはずなのに、それができない。
その理由の1つは、彼女の小説を読む姿にある。彼女は今、私の書いた小説を読んでいる。その姿が、とても様になっている。ありきたりな表現をするなら、1枚の絵画のように。
彼女が美人だから?そうかもしれない。だが、私がただ小説を読むだけではそうはいかない。『鮎喰響』はただ小説を読むだけで様になっているのに。
私はどうしたいのだろう。鮎喰響と同じ偉業を成し遂げたいだけなのだろうか?それとも、鮎喰響に『なりたい』のだろうか?
自分一人では正解がわからない。ので、今回も夜凪さんに頼ろう。彼女が今読んでいるのは踊り子の話。
『鮎喰響』が書いたそれとは違い、踊り子の少女の目線で描かれ、何故踊り子になったのか、踊り子になったことで何が変わったのかを描いた、『私』の書いた小説だ。
鮎喰響の真似事でしか私は『鮎喰響』になれないのか。それとも、『私』は『私』のまま鮎喰響になれるのか。
夜凪景は『私』の小説を面白いと言ってくれるだろうか。
「ねえ、鮎喰さん」
「何かな?夜凪さん」
「あなたは今まで、どうやって生きてきたの?」
「どういうことかな?質問の意味がいまいち理解できなくて」
「そのままの意味だけど?」
「えっ…と、そう…だね。普通かな?特に何か特別なことをした覚えはないけど」
「本当に?実は人の記憶を食べるお化けとかだったり、タイムマシンに乗ったりしてない?」
「待って、まず私は人間だよ?それに、前にも否定したけど未来人でもないし、タイムスリップもしたことないよ」
「じゃあ、どうして私はこの小説を読んで懐かしいと思ったのかしら?」
「懐かしい?」
「ええ、見たことない場所にいる見たこともない人の話なのに、自分のことのようにすんなりと理解できるの。それどころか、彼女が故郷へ帰ったとき、私も懐かしいと思ったわ。あんなところ、行ったこともないのに」
上出来だ。『私』は成し遂げた!鮎喰響が書く小説を『私』が書いたんだ!
「きっと、連想したんじゃないかな?踊り子の故郷と故郷っぽい所を」
「連想?」
「踊り子が見たのと似たような景色を前に見たことがあったんじゃない?それで、無意識にそれを思い出したとか」
「そう…なのかしら?」
「何にせよ、楽しんでもらえたみたいで良かったよ」
「ええ、今回もすごく面白かった。ぜひまた読ませて」
「そう言ってもらえると嬉しいな。うん、次の作品も楽しみにしててね」
未だに確固たる自信はないけれど、鮎喰響によく似た夜凪さんが面白いと言ってくれるなら、もう少し自信を持っても良いかもしれない。
鮎喰響モドキ:鮎喰響の才能、祖父江凛夏の性格、椿涼太郎の立ち位置を得たキメラ
夜凪景:モドキに鮎喰響認定を受けた