わたしは、小さなころから下を向いて生きてきた。
人の目が怖かった。上から見られるのが、怖かった。
なぜかは分からないけど責められるような気がして、わたしが何かしたんじゃないかって罪悪感でいっぱいになって。
優しいお母さんとお父さんは、そんなわたしに気を使っていつも屈んで話してくれた。
……けれど、そのことがまた、わたしの罪悪感を強めて。
わかっている。二人は、わたしに気を使ってるだけでそんなつもりはない、って。わかっている。わたしが、悪いんだって。
――やっぱりわたしが、駄目なんだって。
きっと、そんなのだから友達が少なかったんだろう。
いつも怯えていて喋るときいつもどもってしまうような子と、活発で元気な子。
考えてみれば、どっちと遊ぶのが楽しいかなんて、当然で。結局数少なかった友達も、いつの間にか離れていった。
中学校にあがっても、また同じなんだろう。
そんなことを、思っていた時期だった。
あの子に、……ミラクルズに、会えたのは。
最初は、怯えて、怖がって、ものを――堅いものを投げる勇気はなかったから、クッションとかだったけど――投げて。
怯えてるうちに、ふと思った。
この子は、わたしの味方なんじゃないか、と。
ただふよふよと浮いてるだけで、何もしてこなかった。
……何も、してこなかった。わたしの方をただぼーっと見ているだけで、何もしてこなかった。
それが、わたしにはなんだか嬉しかった。理由はわからないし、ないのかもしれないけど。ただ、なんとなく、嬉しかったのだ。
ねえ、と呼びかけてみると、それはふよふよとやってきた。
不思議と、怖くなかった。
「触る、ね?」
返事はなかったけれど、きっと大丈夫だと思って、触ってみた。
「……わ……な、なん、か、……不思議な、感じ……。気持ち、いね……」
そう漏らすと、それは擦り寄るように体をこちらに寄せた。
……それを、抱きしめるとなんだか久しぶりに、心から安心できたような気がして、わたしはそのまま眠り込んでしまった。
――結局、わたしは駄目なままだった。
高校生になっても人と話すのは怖いし、喋ったとしてもどもって。
一年目の夏休みにも入ってないのに、わたしは半ばあきらめていた。
昼休み、少し疲れたわたしは少し気に入ってる静かなところに行こうとした。
……そして、わたしは彼を見つけた。
彼はいつもつけてるガスマスクを外すと、少し疲れたようにため息を吐いた。
……いつもガスマスクをつけている理由が、わかってしまった。なにがあったのか、なんてことも考えたくない。
怖くて仕方ない。正直、あまり近くで見たくない。
……なんて思っているのに。
どうして、わたしは彼の元へ行こうとしているのか。
怖い。もしも暴力を振るうような人だったらどうしよう。あの顔は喧嘩があったからではないか。
……でも。
だけど、まあ。ちょっとくらい、頑張ってみよう。
駄目なままなわたしだけど、何かがあっても、きっとこの子が……ミラクルズが、守ってくれる。
そう考えると、少しだけ怖くなくなった気がした。
大丈夫。
一歩踏み出して、話しかけてみよう。
「ら、雷電、君……や、やっほ?」
To be continude...