さて。改めて強くなろうと決意してから
一応、独学で訓練を積んでもいるのだがそれだと限度があるし、似た様な力を持っている親父に訓練を付けて貰えないかと相談したりもしたんだが、どうも最近は色々忙しいらしく時間が取れないと言われてしまったのだ……ただ、親父からは『その力を積極的に使っていく覚悟が出来たのなら、後は自分の責任において判断してもいい。お前は賢いから自分の力を使う上での問題点を理解しているだろうしな』とだけ言われている。
……その言葉の意味を考えつつ、今日俺は定期的な検査の為に宇宙科学技術局に来ていたのだが……。
「えっ⁉︎ ……ヒカリさん今此処に居ないんですか?」
「ああ、そうなんだよアーク君。……どうも、この前のバット星人襲来で思う所があったみたいでね……」
「ヒカリの奴、多くの命を救う為に開発した技術が争いの火種になってしまった事をかなり悩んで居たからな。……それでしばらく宇宙科学技術局の仕事を休む事になったんだよ」
そのトレギアさんとフレアさんの発言に俺はつい驚愕の表情を浮かべてしまった……詳しく話を聞くと、どうもヒカリさんは以前のバット星人襲来で色々と悩んでいたらしく、暫くの間休みを取って自分を見つめ直すための旅に出たという事だ。
……尚、その際『命の固形化技術』を狙う者が現れる事を危惧してヒカリさんに護衛を付けるという話も出た様だが、彼がどうしても一人で旅がしたいと固辞した事と、ヒカリさん自身の戦闘能力がそこらの宇宙警備隊員を上回っていた事から結局一人旅になった様だ。
「まー、ヒカリの奴は最近働き詰めで人事部から結構睨まれてたからな。20年ぐらい溜まった有給を消化するにはいい機会だろうよ」
「後、アーク君の検査を含むヒカリさんが関わっていた各種研究についても、ちゃんと引き継ぎの準備が出来ていますので安心して下さい。君の立場は『特殊技能保持の外部協力者』のままですよ」
「……分かりました。ありがとうございます、フレアさん、トレギアさん」
ちなみに、トレギアさんが言った『特殊技能保持の外部協力者』とは宇宙科学技術局で研究されている何らかの分野に於いて有用な能力を持っていて、技術局の研究や実験に協力する外部の者に与えられる資格の事である……俺は『リバーススタイル』のデータも異次元や空間操作、環境適応などの研究に使われているからこの資格を持っているのだ。
この資格を持っていると技術局に簡単な手続きで入る事が出来たり、局内をある程度自由に動けたりもするのだ。要するに秘匿される様な技術も多数あってセキリュティもしっかりしている宇宙科学技術局で、外部の者が活動しやすくする為の資格という訳である。
「……しかし、あのバット星人の襲撃事件は色々な所に波紋を残しているみたいですね。幸い人的被害は出なかったし破壊される施設も既に復旧していますが、まさかこんな所にまで影響が出ているとは……」
「まあ、ウルトラの星が襲撃を受けるなんて随分と久しぶりの事だからなぁ。昔あった『星間連合事件』の時も警備隊に多数の被害が出たけど、ウルトラの星自体に被害が出る前に対処出来た……が、今回は色々と後手に回っちまったからな」
「お陰で事前に襲撃を察知できなかった情報局や保安庁はてんやわんやらしいからねぇ。……ウチも各種セキュリティや戦力強化の為の研究が沢山あるし……やっぱり、ヒカリさんにこのタイミングで抜けられたのはキツイですね」
やや疲れた顔をしたトレギアさんは溜息を吐きながらそう言った……やっぱ忙しいんだろうな……。
「……忙しそうなら、俺の検査とかは後回しでも良いですが……」
「あ! いや、そこまで気を使わなくて良い……と言うか、むしろ検査回数を増やしても良いぐらいだよ。君の“リバーススタイル”のデータは色々役に立っているからね」
「特に環境適応と空間操作とかな……お前の検査から得られたデータは、今エースが追ってる【異次元人 ヤプール】ってヤツの異次元空間解析や、この前ゾフィーが使った外宇宙でのエネルギー供給用装備の『ウルトラコンバーター』とかに使われているから」
え? そうだったのか……。いっつも検査と訓練ばっかだったから、自分のデータがどう言う風に使われているのかは良く知らなかったな。
「ああ、お前の
「彼の能力は秘匿されている所為で『出所不明のデータ』になってしまっているから、おおっぴらな流用もし難いですからね。……実際、ヒカリさんが居なくなったから人員が足りませんし、もう少し彼の能力を知る研究員を増やしません? これまでの検査から能力自体の危険性はそれ程でも無いと分かって居ますし……」
……成る程、親父の言葉はこの事を踏まえてのモノだったんだな! ……多分!
「俺は別に構いませんよ。……親父からもこの力については自分で責任を持つ限りは自分で判断してもいいと言われていますし、この力を使いこなすには宇宙科学技術局の皆さんの協力が必要だと思うので」
「アーク……そうか、分かった。……つっても追加人員は厳選するけどな。とりあえずトレギアの所の『外宇宙行動用デバイス開発部署』と、俺の所の『異次元空間技術開発部署』から選ぶかな」
「これからは、アーク君に本格的な各種実験へ協力して貰う事も出来るかもしれないですね」
まあ、リバーススタイルに関しては自主訓練だけだと限界が見えて来ていたし、この能力の詳細は分からない事だらけだから詳しく知る為にも各種実験に対する協力はむしろ望む所なんだが……。
「問題は見栄えが
「当初、懸念されていたのはアークが力に溺れて闇落ちする事だったんだが、その心配は今のところなさそうだしな。その辺りをちゃんと説明すれば大丈夫だろう」
「……と言うか、力に溺れ様にもリバーススタイルだと直接戦闘能力はかなり落ち込みますからね」
正直、光線技が使えず身体能力が落ちるのが相当にキツイんだよな……念力は強力だし凍結系能力も使い易くなるけど怪獣相手とかだと決め手に欠けるし、亜空間ゲートも展開にはそれなりに集中する必要があるから使いにくいし。
亜空間に敵を永遠に追放するって言う使い方なら強いかもしれんが、似た様な事が出来る親父が『宇宙警備隊隊長には相応しく無い力』と言って使用を自重している以上は早々使えんしな。
……正直、このままだとリバーススタイルが設定だけあるのに、実際にはさっぱり使わない能力になりそうだし……。
「とりあえず、俺達が選んだ信頼出来るメンバーに事情を説明して実際にお前の能力を見て貰う事になるが構わないか?」
「はい、それで構いませんよ。……どんな結果になっても受け入れる覚悟は出来ています」
「そこまで気張る必要は無いさ。……此処の職員は
トレギアさんがやや苦笑しながら言った言葉に俺は首を傾げながらも、彼等が選んだ職員達と局内にある何時もの実験室でリバーススタイルの訓練を行う事になったのだった。
──────◇◇◇──────
さて、そんな訳で俺は局内にある仮装シミュレーター(コロセウムにあるのと同じヤツ)を使い、データ収集の為にリバーススタイル状態で仮想敵と戦っていた。
ちなみに相手はこの前の襲撃事件でバット星人が使っていた無人戦闘機だそうだ……なんでも、先日技術局では連中が残していった大量の残骸を技術研究の為に復元したらしく、その際のデータを仮想敵として反映させたらしい。
『『『──────』』』
「くっ! ……チィッ!」
そして、今俺は三体の無人戦闘機が次々と放ってくるレーザーを、その射線を先読みしながらどうにか避け続けていた……ええいっ、リバーススタイルだと身体能力が落ちるからこんな程度の攻撃を躱すのも一苦労だし、反撃の光線技を撃つ事も出来ないから撃たれっぱなしだ!
……まあ、これも訓練の一環だ。あの程度の相手を倒せないようじゃこの姿を実践で使うのも夢のまた夢だしなっとぉ!
「……それに、光線技が使えなくとも遠距離攻撃出来る手段が無いわけでは無い! フロストショット!」
『──────』
俺はそうやって攻撃を回避しながらも無人戦闘機の攻撃プログラムを把握して、そこにあった僅かな隙を突いて手から冷気を圧縮した弾丸『フロストショット』を放った……これは親父の使う『ウルトラフロスト』を参考にして、リバーススタイル時の遠距離戦闘用に開発した物なのだ。
……リバーススタイル時の強力な念力に制御された凍結弾はそのまま無人戦闘機のレーザー発射口に当たり、狙い通りその部分を完全に凍結させてレーザーを撃てなくした。
「ふむ、念力の強度は上がるから案外遠距離戦はやりやすいかもしれんな。……むしろ、その念力を直接使った方が有効かな。ウルトラエアキャッチ!」
『『──────』』
そう思い立った俺は残りの無人戦闘機に手の平を向けつつウルトラ念力を使用して、その二体を空中に貼り付けにした……念力の直接行使はシルバースタイルの時は隙が大きいから複数の敵相手だとあまり使えなかったが、こっちの姿なら無人戦闘機二体ぐらいなら念力で貼り付けにしてもまだ余裕があるな。
……ウルトラ念力は戦闘時だと光線の制御とかに集中させた方が強いと思い込んでいたから、このやり方は思いつかなかったな。
「やっぱり訓練は必要だな。シルバースタイルとリバーススタイルの時だと必要な戦術も大分違うみたいだし、これはそれぞれの戦い方を確立しないと……フロストブレード!」
『────…………』
そんな考え事をしていたら武装を凍らされた一機目が自爆覚悟で突っ込んできたので、俺は右手からサージさん直伝の氷で出来た剣『フロストブレード』を展開して、その戦闘機を真っ二つに両断した……サージさんからは自分で作った剣での剣術も少し習っているからな、身体能力が落ちていてもこれぐらいならどうにかなるさ。
それに、今の念力の強度なら二体の無人戦闘機を拘束しながらも、これだけの動作を問題無く熟せるみたいだし。
「正直、リバーススタイルの時は戦闘能力が落ちると思い込んでいたが、上手くやれば独自の戦い方が出来そうかな……こんな感じで! フロストランス!」
『『────…………』』
更に俺は空中に凍結能力とウルトラ念力を駆使して氷で鋭い穂先を持った槍を二本作り出すと、それらを更にウルトラ念力で拘束されている戦闘機に向けて勢いよく射出した。
そして、その念力によって強化された氷の槍は見事に戦闘機のボディを貫いてその機能を停止させた……セブンさんのアイスラッガーを参考にやってみたが案外いけるな。もう少し訓練すれば主力技として使えるかもしれん。
「よし! ……今のシミュレーター内環境はこの前と地球系惑星内と同じだが、以前と比べるとエネルギー消費も大した事無いみたいだな。……こういう環境だとリバーススタイルの方が強いかもしれないな」
そう、実は今回俺の頼みでシミュレーター内部の環境をこの前の授業の様に地球系惑星と同じ設定にして貰っていたのだ……その方が形態毎の戦闘能力の差が分かりやすいと思ってな。
……しかし、大気圏内ではシルバースタイルだと行動する度にガンガンエネルギーが減っていく感じだったけど、リバーススタイルの方は対してエネルギーが減らないどころか、むしろ光の国にいる時みたいに回復している感じもするな。
「……という感じで、敵は全部撃破してみましたが」
『おー、やるじゃないかアーク。リバーススタイルだと戦闘能力低いって話だったが結構イケるな』
『というよりも、今までは能力の検査や調査が主体で本格的に戦闘訓練などはあまりして来なかったですからね。……やはり、ちゃんとしたデータ収集には戦闘訓練なども必要ですか』
今までは俺自身リバーススタイルを使うのに少し忌避感があったから、本当に最低限の能力使用しかしてこなかったからなぁ……さてと、問題は今回初めて俺の姿を見た局員さん達の反応なんだが……。
『よーし! どうだお前ら。これが宇宙警備隊隊長の秘蔵っ子であるアークの特殊能力であるリバーススタイルだ!』
『クソッ! ズルイですよフレアさん! こんなに面白い研究材りょ……ゲフン! ゲフン! もとい研究協力者が居たなんて!』
『これほどの凍結能力を運用出来るとは……! これなら今私が開発している新兵器『ウルトラエターナルフォースブリザード』にも応用が効くのでは……?』
『いや、それよりもこの環境適応能力の方が興味深いな。どうやらあの姿だとディファレーター光線では無く、空間中に存在しているエーテルなどの特殊エネルギーを取り込んでいる様に見えたが……ふヒヒ、このデータがあればプラズマスパークに変わるエネルギー源の開発も夢では……』
『そんな実用性の無い研究よりも外宇宙活動用のデバイスですよ! ……このデータがあれば、あの謎の宇宙人ゾーフィ(暗喩)に『緊急事態だ!』とか言われて隊長権限で試作品を無理矢理持っていかれた上、実験無しで使ったからぶっ壊れたウルトラコンバーターの改造版を作れるわ!』
『でも、そのお陰で外宇宙で運用した時のデータは取れましたよね?』
『それはそれ! これはこれよ!!!』
『ちょっと待て! 実用性がないだとぅ!!! ……いざプラズマスパークが使えなくなった時の為に、サブのエネルギー源が必要だと何故分からん!!!』
『そんな事より今は新兵器ですよ! 再びバット星人の様な輩が現れるかもしれないのだから、ウルトラの星を守る防衛装置を作るべきです!』
『『それが絶対零度凍結装置とかいう限定用途でしか使えない物である必要は無いだろうが!!!』』
…………えーっと……。
『……うん。ほら、心配せずともキミのその姿を見ても大丈夫な人達だっただろう?』
「いえ、なんか別の意味で心配になってきたんですが」
え? 今までヒカリさんやフレアさんとかしか関わって来なかったけど、宇宙科学技術局の職員ってこんなキャラが濃い人しかいないのか? めっちゃ不安になって来たんだが……。
……後から聞いたところによると、今回は俺のリバーススタイルを見ても気にしなさそうなメンバーを集める為に優秀ではあるが性格にクセがある人を集めただけで、流石にみんながみんなこんな感じでは無いとの事。
『それよりも、このデータにある亜空間を開く能力が凄く気になるんですけど……よし、データ収集の為に敵を追加で出しましょう!』
『いやちょっと待て。とりあえずはアークに許可を得てからだ。……それでアーク、亜空間ゲートを展開する能力の戦闘実験の為に追加で敵を出したいんだが』
「構いませんよ。俺もゲートの能力を戦闘で使ってみたいですし」
亜空間ゲートはリバーススタイルの最大の能力だからな……まあ、一番よく分からない能力でもあるんだが……。
『よっしゃあ! じゃあせっかくだから新型のシミュレートプログラムを使うぜ!』
『おい、だからちょっと待てと……』
『いーや限界だ! 押すね! ポチー!』
……なんかそんな感じの声が聞こえた後、実験室の一角に一体の怪獣が出現した。その怪獣は黒色の身体に多数の赤い突起物が付いているという異形の姿をしており、これでも様々な怪獣の知識がある俺でも初めて見る怪獣だった。
『これぞエースが地球で遭遇した
『おい、いつそんなデータを作った?』
『対ヤプール対策の一環として地球でエースが戦った超獣達のデータを分析して作ったヤツですね。……分析がまだ終わっていないので再現率はあまり高く無いですけど』
『その分、戦闘能力は本物の半分ぐらいですし丁度いいのでは? ……それよりデータデータ』
超獣……確か今地球に行ったエースさんが戦っている【異次元人 ヤプール】が作り上げた生物兵器だったかな。まさかこんな所で戦う事になろうとはな。
「フレアさん、俺は別に構いませんよ……おっ、来るか」
「GYAAAAAOOOOO!!」
『ったく……危なくなったら止めるからな!』
そうして、俺はなんかグダグダな感じながらも異次元から来た生物兵器【超獣】と戦う事になったのだった。
あとがき・各種設置解説
アーク:小技の技名はすぐに決まる
・一応、必殺技名もメビウス達に意見を求めたりしてなんとか決めた、次回使用予定。
ヒカリさん:現在有給中
・本当は辞めようとしたのだが、上層部から色々な説得を受けて有給扱いになった。
・彼のその後の事は『ウルトラマンメビウス』本編や『ヒカリサーガ』を見よう!
宇宙科学技術局職員達:マッド
・今回はアークの見た目を気にしなさそうな優秀なんだが研究テーマが色々アレだったり、ちょっと人格にクセがある連中をフレアとトレギアが集めた……のだが、ちょっと後悔している。
・尚、彼等がこれだけはしゃいでいるのは纏め役だったヒカリが居なくなったのも原因の一つだったり。
・勿論、ちゃんとまともな職員もいる。
ウルトラコンバーター:出展『ウルトラマンA 大蟻超獣対ウルトラ兄弟』
・ウルトラ戦士の地球上での活動時間を無制限に出来る凄いアイテム……なのだが、まだ試作段階。
・なのでゾフィーは地球でエースに使った後に持って帰った。
・安定性・量産性などに問題を抱えている為、一般配備は現時点では難しい模様。
『星間連合事件』:Story0とは内容が違う
・この世界では『敵性宇宙人の連合が光の国のプラズマスパーク技術を狙って起こした事件』となっている。
・Story0と違って宇宙警備隊が出来てから充分時間が経っておりウルトラ戦士達は組織的に行動して星間連合と戦った為、どうにかウルトラの星に被害が出る前に事件を終息する事が出来た。
・だが、警備隊の中には殉職者やカラレスやゴライアン達の様に第一線を離れざるを得ない程の大怪我を負った者が出る大事件だった。
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