「それで? なんか磔になったり、タール漬けにされたりしたらしいけど……本当に大丈夫なのか親父?」
「息子に心配される程に落ちぶれてはいない。この通りピンピンしているさ」
……後、ウルトラ兄弟がゴルゴダ星に磔になったという報告は一時ウルトラの星を騒然とさせたが、そのすぐ後にエースさんが彼等を助け出したという報告があったのですぐ沈静化している。
「確か超高精度で偽装されたウルトラサインを使って、ウルトラ戦士が使えるエネルギーがまともに存在しない暗黒宇宙におびき寄せた上で、大部分のウルトラ戦士にとって弱点である冷媒……しかも絶対零度のヤツを使われて囚われたんだっけ。……ヤプールって本当に念入りにメタ張って来てるな」
「加えて、同時に地球に【殺し屋超獣 バラバ】を派遣して我々にエースを地球に向かわせる為のエネルギーを使わせた事もある……あの時の我々は、生きとし生けるもののマイナスエネルギーを糧とするヤプールの怨念の力を甘く見ていた。……ゴルゴダ星もヤツのマイナスエネルギーで通常の暗黒宇宙と比べても遥かに過酷な環境になっていたしな」
ちなみにこれは最近明らかになった事実なのだが【異次元人 ヤプール】は単純な異次元の生物という訳では無く、様々な生物の負の感情──マイナスエネルギーによって存在している概念生物に近い存在らしい……なので、この宇宙に生物が存在してマイナスエネルギーを作り続ける限りは不滅の存在である可能性が高いとの事だ。
……うん、改めて聞くと物凄くタチが悪いなコイツら! 一応、地球に侵略を仕掛けて来た連中はエースさんが倒したから、復活には時間が掛かるとの事だが……。
「……負の感情が糧という事は、次復活したらウルトラ戦士への復讐心とかで更にパワーアップするんじゃないか?」
「……その可能性は高いだろうな。……こちらもそれに対抗する為に宇宙科学技術局にマイナスエネルギーに関する研究を頼んでいるが……」
一応、ヤプールクラスの強大なマイナスエネルギーを感知するシステムは既に完成しているらしいが、直接的にヤプールや奴等がいる異次元に干渉出来る技術の開発は難航しているそうだ。
……ヤプール以外にも注意しなければならない相手が宇宙には沢山いるし、他にも開発しなければならない技術があるからマンパワーが足りないとはフレアさんの弁である。
「……そう言えば、地球に向かった大隊長が危篤とか噂が流れたんだけど、そっちは大丈夫なのか?」
「そんな噂まで流れているのか……あまり外には漏れない様にした筈だが、人の口に戸口は建てられんな。……確かにヒッポリト星人に捕らえられた我等を救う為に一時危険な状態になったのは事実だが、今は治療の甲斐があって容体は安定しているさ」
尚、ウルトラ兄弟が捕らえられたのはヒッポリト星人が使って来た新兵器『ヒッポリトカプセル』が非常に強力だったかららしい……このカプセルはウルトラ兄弟クラスの手練れですら中に囚われるまで接近を気付けない非常に強力な隠密性を持っており、そこにウルトラ戦士でも一度固められたら自力での脱出が困難な『ヒッポリトタール』を組み合わせる事でウルトラ兄弟全員を捉えた様だ。
……いくらウルトラ兄弟でもこれだけ周到な初見殺しを使われたら対応出来なかったらしいが、そこからきっちり逆転しているのもまたウルトラ兄弟がウルトラ兄弟たる所以なのだろう。
「それで、色々あってエースさんがヤプールを倒して任務を終えてウルトラの星に帰還した訳だ。……確か次に地球に派遣されるのはタロウさんだったっけか?」
「ああ、その予定だな。……ヤプールの脅威は去りはしたがそのマイナスエネルギーが残した影響が大きくてな。どうやら地球上にいる強力な怪獣が次々と目覚め始めている上、あのヤプールを退けた事で地球に目を付ける凶悪な宇宙人が増えていると情報局・保安庁から報告があったからな」
それだけの怪獣や宇宙人が頻出するとは、地球が本当に魔境の様相を示して来たな……並みの文明黎明期の惑星なら普通に滅びかねないし、原因の一端にはウルトラの星も噛んでるから無視は出来ないよなぁ。
……まあ、親父達ウルトラ兄弟ならそんな理由が無くても助けに行くんだろうが……と、そんな事を考えていたら、今度は親父が俺の近況を訪ねて来た、
「それで? お前の方は最近どうなんだ? 士官学校ではうまくやっているか?」
「あーうん。訓練はよりハードになって来たけど未だに成績総合一位はキープしているよ。……それに、最近はメビウス達以外との同期生と一緒に訓練とかする機会も増えて来たし!」
そう、俺が同期の中でも浮いていると言われていたのは最早昔の話! キツくなって来た授業の中で尚も好成績を叩き出している俺に授業のアドバイスを求める同期生が結構増えているのだ! ……まあ、キッカケはメビウス達が俺のアドバイスで実践訓練をクリアできたと吹聴してくれたお陰だけどな。
……後は、同期のとあるウルトラウーマンに親父の事を根掘り葉掘り聞かれる様になったりして(どうやら親父のファンらしい)少々困っていたりするが……。
「大体そんな感じで士官学校の方は上手くいってるよ。……後はリバーススタイルの方も宇宙科学技術局でフレアさん達の強力もあって、どうにか戦闘に使える形になりそうかな」
「成る程な。……確か
……俺の話を聞いた親父は少しの間だけ考え込み……。
「よし、久しぶりに稽古を付けてやろう。……あの力の事を含めてどれだけ出来る様になったのか見せて貰おう」
「…………ファッ⁉︎」
そうして、どういう事なのか俺はいきなりやる気になった親父と訓練を行う事になってしまったのだった……無論、拒否権などは存在しない(泣)
──────◇◇◇──────
「……ふむ、ここを使うのも久しぶりだな」
「……ソウデスネー」
そんなこんなで俺と親父がやって来たのは光の国から結構離れた所、ウルトラの星の僻地にある古い採石場跡地であった……ここは昔とある高エネルギー鉱石が採掘出来た場所らしいが、その鉱石を取れなくなってしまったので閉鎖された場所である。
……そして、実はここは親父が個人的に所有している土地だったりするので、人目に付きにくい事などから俺の特訓に使われていたりしたのだ。
「……しかし、折角の休暇にこんな事していて良いのか? 疲労で後の職務に差し支えても知らんぞ」
「休暇中に訓練するのはウルトラ兄弟なら皆やっている事だ。……それにお前との模擬戦
そう言った親父は自信満々にこちらに向かって手招きをした……ほう、そこまで言うなら本気で行かせてもらおうかな! 磔にされたりタール漬けにされたりしてるから気を使ってやろうと思ったが、ちょっとカチンと来たから今出せる全力で行かせてもらおう!
「ウルトラスラッシュ!」
「甘い! Z光線!」
特に合図とかをする事も無く俺は瞬時に生成した光輪を親父に投げつけたが、向こうはあっさりと手から発射した稲妻状の光線でそれを撃ち落とした。
……まあ、この程度の奇襲は効かない事は分かっていたので、俺は光輪を投げつけると同時に右方向から回り込んで親父に接近していく。
「ふむ、あっさり撃墜出来たと思ったらやはり囮だったか」
「御名答! ゼットレーザー!」
そんな余裕の態度を見せる親父に向かって俺は片手から先ほどの親父と同じ稲妻状の光線を放った……この『ゼットレーザー』は見てわかる通り親父の『Z光線』を参考にして、片手で撃てる牽制用の技として作った物である。
片手撃ちな分だけ威力はオリジナルと比べると劣る物の、その相手を麻痺させる効果は健在なので接近する為の牽制には十分な効果を発揮するのだ!
……最も、その特性を知り尽くしている親父にとっては大した脅威にはならなかった様で、光線は無造作に振るわれた片手で打ち払われてしまったが。
「この程度では意味がないぞ」
「だが、接近する余裕は出来た!」
その言葉通り、一気に加速した俺は親父に接近すると容赦無くその胸部に向けて拳を打ち込んだ……が、その攻撃は親父が半歩だけ身体を逸らしただけであっさりと回避されてしまった。
俺はそこから更に蹴りや手刀などを絡めた連続攻撃を見舞っていくが、親父は涼しい顔(ウルトラ族は元々表情の変化が薄いけど)でそれらの攻撃を捌いていき、更にはこちらの攻撃直後の隙を狙って反撃の手刀を放って来た。
俺はどうにか腕で防御する物の、軽く振るわれた様に見えて恐ろしく重いその手刀に押されて距離を離してしまった……ええい! 分かってはいたが親父相手だと正面からでは崩せないか!
「確かに腕は上がった様だが……お前に格闘技を教えたのは誰だと思っている?」
「やっぱり動きは読まれてるか……じゃあ、こういうのはどうかな? アークブレード!」
格闘では親父を崩せないと判断した俺は、距離が開いた所で腕から光の剣を展開して士官学校の選択授業で習い、更にサージさんにも指導して貰った剣術で切り掛かって行く……確かに俺の格闘技は親父直伝だから動きを読まれるだろうが、親父から習った訳ではない剣術ならどうだ?
……と思ったのだが、なんと親父は手のひらの部分にウルトラスラッシュを生成して、それを
「って! 親父何その技⁉︎」
「
まあ出来なくはないだろうけどさ! しかも高速で回転しているからこっちの剣が弾き飛ばされるし、手のひらに固定しているウルトラ念力の強度が高すぎて向こうの光輪を弾くのは難しいか!
「これでも昔はサージ達とよく打ち合ったからな、この程度は熟せるさ……そらっ」
「ッ⁉︎ 光輪を投げて! ……このっ!」
そう言った親父は打ち合いの間に出来た隙にバックステップして距離を取り、そこから手に持った光輪を投げ放って来た……飛来するその光輪を俺は光剣で打ち払うが、その時には既に親父は腕をL字に組んで光線技の発射準備を整えていた。
「ほら次だ! M87光線Bタイプ!」
「にゃろう! ブレードパージ! からのアークディフェンサー!」
そうして放たれた親父の必殺光線に対して、俺は腕に着いた光剣を切り離しながらM87光線Bタイプに投げつけると共に、爆発させてエネルギーを解放させる事でその光線の威力を弱める……更に、直ぐ前方に円形のバリアを展開して光線を受け止めた。
……とは言え、ブレードをぶつけて威力が減衰してる筈なのにめっちゃ重い! これで速射用の技だと言うんだからなぁ……だが、このぐらいであれば……。
「ヌゥゥゥゥ……イヤァァッ!!!」
俺は更にバリアにエネルギーを込めつつそのまま無理矢理M87光線Bタイプを吹き散らした……その結果、光線は四方に撒き散らされて辺り一帯を爆ぜ飛ばして行った。
……うん、市街地とかではこの防御法は使えないな! まあ、俺も
「……ほう、それなりに本気で撃ったのだがな。……それに土煙を撒くことでこちらの目を眩まして、次への布石にしているな」
そう、散らされた光線が採石場の各地に当たった事で辺りには土煙が充満していたのだ……まあ、ウルトラ戦士には透視光線とかもあるから一瞬の目眩しにしかならないが……。
「それだけ有ればもう一つの姿に変わるぐらいは出来る! ハイパーウルトラフリーザー!」
「むっ⁉︎ これは……!」
その隙に俺はリバーススタイルへと姿を変えると同時に、上空に向けて手から最大威力の凍結光線を撃ち上げた……その凍結光線は上空で炸裂するとここら一帯に強力な冷気を振り撒いて、瞬く間に採石場を氷漬けにしていった。
……これぞ新技『ハイパーウルトラフリーザー』──辺り一帯に冷気をばら撒いて一時的にウルトラ戦士が苦手な低温・高冷媒環境を作り上げる
「そして、リバーススタイル時の俺は低温環境でもスペックが下がる事は無い! フロストショット! フロストスラッガー!」
「クッ⁉︎ チィ!」
突然の環境の変化に戸惑っている親父に対して、俺は容赦無く凍結光線と氷のブーメランを立て続けに放っていく……牽制に放ったフロストショットは回避されたが、ウルトラ念力によって回避先に飛ばしておいたフロストスラッガーは動きが鈍くなった親父に次々と命中していった。
……よし! 漸く模擬戦で親父にまともな攻撃を入れられたぞ! このまま一気に攻め立てる!
「まだまだ行くぞ! フロストランス! フロストハリケーン!」
「グッ! ヌォォ⁉︎」
まずは氷で出来た槍を複数生成してから念力で投げつける事で親父の動きを封じ、そこに俺は強化された念力を最大限に使って冷気と氷の塊で構成された竜巻を形成して親父にぶつけたのだった。
(……ここだ! ブラックゲート! フロストブレード!)
ここがチャンスだと感じた俺は親父が冷気で動きは封じられたタイミングでブラックゲートを使ってその背後に転移して、右手から氷の剣を展開して親父を斬りつけて……。
「……そうだな、視覚を封じてから背後に回るのは凶悪宇宙人がよく使う手だ」
「ゲェッ⁉︎ 折れたぁぁ〜!」
その攻撃はこちらの動きを
……このクソ親父、動きが鈍っていた様に見えたのは接近戦を誘う為のブラフだな!!!
「グハァァッ!!! ……クソッ、リバーススタイルは身体能力が下がるのが問題だよな……って⁉︎」
「ハァァァァァァァ……」
岩壁に叩きつけられた俺は痛む胴体を抑えながら立ち上がると、そこには腕を水平にしながら手の先を合わせてエネルギーをチャージしている親父の姿が……ちょ⁉︎ いや
「行くぞ! M87光線!!!」
「ギャァァァァァァァァァァッ!?」
俺が形振り構わず全力で回避行動を取った直後、親父が突き出した右腕から先程のモノとは比べ物にならない超威力の光線──M87光線Aタイプが放たれて、俺の直ぐ真横を通り過ぎていった……その光線は余波だけで採石場の一部と俺が作り上げた極低温環境、そしてついでに俺自身をも吹き飛ばしながら天へと登っていった。
「まさか光線技の余波だけで極低温フィールドを吹き飛ばすとか……ていうか、ゴルゴダ星で同じ事しろよ……」
「いくら俺でも惑星環境自体が絶対零度ではどうしようもない。……それにゴルゴダ星はウルトラ兄弟ですらまともに光線技が使えない程のマイナスエネルギーに満ちていたからな。光線技に長けたエースですら兄弟のエネルギーを結集させた『スペースQ』を使わざるを得ないぐらいだった」
さいですか……流石にもう一度ハイパーウルトラフリーザーを使うのはエネルギー的にキツイんだがな。親父もそんな隙を与えてはくれないだろうし……。
……と、俺がそこまで考えていた所で親父は戦闘の構えを解いた。
「今日はここまでにしておこう。……これ以上やると明日以降の公務に差し支えそうだ」
「……分かった。俺もこれ以上エネルギーを消耗すると明日の士官学校がキツイ」
そして、その後は少し休憩しながらいつも通り模擬戦の講評をして行った……戦術面の甘さを指摘されたり格闘技術や剣術をもう少し磨いた方が良いと言われたが、漸く攻撃を当てられる様になった事は褒められた。やったぜ。
……そうして、暫くしてエネルギーが回復したところで俺達は家に帰って行ったのだった。
──────◇◇◇──────
(アークは思っていた以上に強くなっているな。……俺もそれなりにダメージを負ったし、まさかAタイプのM87光線まで使わされるとは)
あれからゾフィーは家に帰ってから自分一人になった所で、彼は
(あの姿……リバーススタイルの方も決して力に溺れる様子も無く使いこなしている。……あの姿を見てベリアルの事を想起してしまい、少し過剰なぐらいの鍛錬を施してしまったが、それも良い方向に働いた様だ)
彼が息子にあれほどまでの過剰な鍛錬を施したのは、昔にあったベリアルとの戦いでその絶大な力とその力に溺れてしまう様子を目にしていて、特異な力を持ってしまった息子には同じ様な過ちを犯して欲しくないからでもあった。
(……少なくともアークは俺よりも“黒の力”に対しての適正が遥かに高い。……この力は俺ですらその本質を理解出来ずに無理矢理使う事しか出来ない様な代物であるし……やはりアークが宇宙警備隊に入った後には
……ゾフィーはとりあえずそれだけ考えた後、タロウの地球派遣の各種報告作業などを含めた明日以降の業務の準備をして行くのだった。
あとがき・各種設定解説
アーク:親子の語らい(物理)
・なんか対ウルトラ戦士への必殺戦術を編み出したりしている。
・内心ゾフィーに一撃入れられた事と褒められた事はかなり喜んでいる。
ゾフィー:ちゃんと休暇には息子と話す様にしている
・凍結フィールドはM87光線Aタイプを出さざるを得ないぐらいには焦っていた。
・…が、息子にはなるべく良い所を見せたかったので顔には出さなかったが。
・採石場は彼の
・尚、この後にはバードンとタイラントが待っている。
読了ありがとうございました。
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