宇宙に輝くウルトラの星   作:貴司崎

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カラータイマーを付けよう! (後編)

 という訳で、俺達士官学校訓練生はカラータイマーの移植手術を受けるために、カラレス教官の引率の下で一路宇宙科学技術局に来ていた……しかし、みんな初めて来るからか物珍しそうに回りを眺めているな。

 ……まあ、俺にとっては通い慣れた場所であるから普通にしているが。

 

「ここが光の国の技術研究・開発に於ける中心地である宇宙科学技術局……初めて来ましたが凄い所ですね」

「本当にね。……職員の人達はみんな忙しそうに動いているし、ここが光の国においての最重要区画だというのも頷けるよ」

「……あー、そうだな……」

 

 うん、ちゃんと真面目に働いている()()()職員達を見た評価としてはメビウスとフォルトの言葉が正しい場所だろうな……宇宙でもトップクラスの技術力を持つウルトラの星に於いて、多くの最新技術を扱っているこの宇宙科学技術局はまさしく光の国の中枢部と言っても過言ではないだろう。

 ……尚、多分今は奥に引っ込められているマッド達の事は考えないものとする。

 

「……ん? どうしたアーク。なんだか妙に遠い目をしているが」

「ああいや、此処には親父の伝手で何度か来ているからな。ちょっと考え事をしていたんだ」

 

 その事をちょっとゴリアテに突っ込まれたが適当に誤魔化しておいた……別に嘘は言ってないし、あのマッド達の事をこいつらに教える必要とかはないだろうしな。

 ……そうこうしている間に、俺達がカラータイマー移植手術に関する説明を受ける為の技術局内にある視聴覚室っぽい所に到着していた。

 

「それでは全員席に着け。……もうすぐ説明担当の職員が来るはずだからそれまで静かに待つ様に。……さっきも言ったがあちらも忙しい時機に無理をして来ているのだから、くれぐれも失礼な事がない様にな」

「「「「「はい、分かりました」」」」」

 

 そしてカラレス教官の指示通りに、俺達は静かに室内に設置されていた椅子に座っていく……流石にこれまで厳しく指導されて来た同期生達だからか、私語をする様なヤツは一人も居なかった。

 ……そして、俺達が席に着いてから少し後に三人の職員がこの部屋に入ってきた。

 

「よう! 訓練生諸君初めまして。俺は宇宙科学技術局所属のフレアだ。……今日はカラータイマー移植手術に関しての説明を担当する事になったから、短い間だけでよろしく頼むぜ」

 

 なんと、一人は俺も良く知っているフレアさんだった……彼が軽い口調で話しかけたお陰でかなり緊張していた同期生達の雰囲気が軽いものになったし、流石はこの技術局に於ける纏め役の一人といった所だろう。

 

「……と言っても、俺はカラータイマー専門の技術者って訳じゃないから主な説明はこっちの二人が行うんだけどな。……んで、こっちが実際にカラータイマー移植手術を担当している銀十字軍のセレイナさんだ」

「初めまして、宇宙警備隊銀十字軍所属のセレイナと申します。……今日は主にカラータイマー移植手術の段取りや、その際に於ける注意点の説明の為に此処に来ました。よろしくお願いしますね」

 

 そうやってフレアさんに紹介されたのは、物腰の柔らかそうなブルー族の女性である銀十字軍所属のセレイナさんという人だった……カラータイマー自体の設計・開発は技術局の領分だけど、実際の施術は銀十字軍が担当しているからな。当然、説明にはそっちの方の人も来る訳だ。

 ……そして次にフレアさんは()()()()()()()()()()()()()()()()もう一人の紹介を始めた。

 

「……あー、んで、こっちは宇宙科学技術局の職員で、カラータイマーなどのエネルギーアイテムの研究開発を行なっている()()()()()()だ」

「初めまして、宇宙科学技術局のマーブルと申します。……今日はカラータイマーの技術面に於ける説明を担当させて頂きますので、どうかよろしくお願いしますね」

 

 そうして楚々とした仕草でお辞儀をしながら挨拶したのは、以前に此処に来た時に遭遇したマッド職員の一人である筈のマーブル博士だった……あれれ〜おっかしいぞ〜。何でマッド職員がこんな所にいるんだろ〜。なんか態度も俺があった時とは全然違うし〜。

 ……そんな事を考えていたら、フレアさんから隠密テレパシー通信が俺の所に届いた。

 

(フレアさん、これは一体どういう事ですか? 確かマッド達はこの手の作業には参加しないとか言ってませんでしたっけ?)

(いや〜……本当は他に担当の職員が居たんだけど、急に用事が入っちまってな。それで変わりの人間を探したんだが他のカラータイマーの専門家がコイツしか居なくて仕方なく。……ったく、トレギアのヤツがタロウロス(笑)に掛かって使い物にならないのが痛いな)

 

 何ともはや……まあ、マーブル博士は基本的には物凄く優秀な人だしマッド達の中でも体裁を取り繕う事が出来る方だから、多分大丈夫だろうとはフレアさんの弁だ。

 ……尚、フレアさんがここに居るのは、もしヤバイ事になったら止める為のお目付役だそうである。

 

「じゃあ、紹介も終わった事だし、これからカラータイマー移植手術に対する説明に入るからよく聞く様に」

 

 そうして説明を行う人間に一抹の不安を孕みながらも、カラータイマー移植手術に関する説明会が始まったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「…………そういう訳で長々と解説して来ましたが、今現在のウルトラの星に於ける医療技術でならカラータイマーの移植手術は非常に手早く終わりますし、術後も直ぐに全力行動したとしも大丈夫なので皆さんも余り緊張せずに来て下さいね」

 

 さて、そういう訳で銀十字軍所属のセレイナさんによるカラータイマー移植手術に関する一通りの説明は終わった様だ……うん、実に丁寧で分かりやすい説明だったな。

 特にカラータイマー移植手術の手順や内容を今までの医療技術発展を絡めて説明する部分が良かったな。これまで何度もカラータイマー移植手術の実行や説明を担当して来たという、彼女の言葉に偽りの無いと感じられる良い話だった。

 

「……それでは、次のカラータイマーそのものに関する説明はマーブル博士にお願いしますね」

「はい、分かりました」

 

 さーて、ちょっと不安になる感じの時間がやってきたぞい……今の態度に関しては出来る研究者って感じだけど大丈夫かなぁ。

 

「では、まずカラータイマーの基本的な構造を簡単に説明させて頂きます。……『カラータイマー』とは超小型のプラズマスパークを内蔵した生体融合型のエネルギー装置の総称であり、色が赤くなりながら点滅する事で装着者のエネルギー残量の減少を周囲に知らせる役割もあります」

 

 そう言ったマーブル博士は室内の三次元プロジェクターにカラータイマーの内部構造を映し出し、それを使ってカラータイマーの各種内部機能や生態融合の構造を説明し始めた……うん、実にまともで分かりやすく、正直言って非の打ち所がない説明だな。

 ……脇で見ていたフレアさんも、そんな彼女の見事な説明に驚いた表情になっているし。

 

「……先程セレイナさんが説明した通りこのカラータイマーは我々ウルトラ族の心臓に接続して、その内部のプラズマスパークからエネルギーを供給する装置です。……これは宇宙警備隊員などの外宇宙で活動を行う者が、ウルトラ族のエネルギーであるディファレーター光線が少ない環境でも行動出来る様にする事が主な用途であり、通常行動ならほぼ無制限、限られた時間であれば戦闘行動も可能になるだけのエネルギーを供給してくれます。……出来ればそんな環境で戦闘行動を行なっても問題無い程度のエネルギーを供給させたいところなのですが、“変身やサイズ変更などの能力を問題無く使える汎用性を持っている量産可能な生態融合装置”としてはこのレベルが限界なのですよね」

 

 そこからのマーブル博士は各種グラフやら図表やらを使った非常に分かりやすい説明によって同期生達にカラータイマーの各種構造や用途を簡潔に解説しており、その説明の上手さは先程説明を行ったセレイナさんやカラレス教官をも唸らせる程であった。

 ……最も、俺とフレアさんは『何で普段からこんな感じに振舞ってくれないのかなぁ……』と内心思ったそうな。

 

「…………一方でカラータイマーは心臓に直結しているため、万が一破壊された場合には装着しているウルトラ族の命が失われるという欠点があります……が、そもそもカラータイマー自体は非常に頑丈に出来ており、更にプラズマスパーク技術の応用による局所的なバリア機能によってタイマーへのダメージを防ぐ機能が付いています。……なので、仮にカラータイマーのある胸部に攻撃を受けてもまず問題無いですし、それらの防御機能を抜いてカラータイマーを破壊出来る様な攻撃であればウルトラ戦士の肉体程度は普通に消し飛ぶので、そんな場合は回避か防御をオススメします」

 

 ……まあ、そんな感じで時折冗談も交えながら分かりやすく説明をしてくれているマーブル博士への同期生達の評価はかなり高い様で、みんな真剣な表情でその話に聞き入っていた。

 正直、俺とフレアさんもここまで的確な解説をする彼女の事は少し見直して「ですが!」……え? 

 

「最近になって現状でのカラータイマーの防御能力は直接的な攻撃以外への対応性能が低いという事が分かりました! ……その証拠がこちらの画像になります! はいドン!」

 

 何故かいきなり雰囲気を変えてしまった(元に戻った)マーブル博士は室内プロジェクターにとある映像を映し出した……その画像は何と『カラータイマーを取り外されて首からしたがペシャンコになったウルトラ兄弟の一人であるジャックさんの画像』という衝撃的な物だったのだ。

 ……その映像を見た同期生達(とフレアさん)の間に動揺が広がるが、それを無視してマーブル博士はハイテンションのまま話を続けた。

 

「これは【泥棒怪獣 ドロボン】にカラータイマーを盗まれて戦闘不能になったウルトラ兄弟の一人であるウルトラマンジャックさんの画像です。……正直、何でペラペラになってるのかはまだ分かっていないんですが、ご覧の通りカラータイマーは防御力は高くとも盗難には余り強く無い事が分かりますね。……そこで! こう言った盗難を防ぐ為に()()()()()新しい種類のカラータイマーがこちらです! デデドン!」

 

 何故か効果音を自分で言いながら手元の機器を操作してマーブル博士は室内プロジェクターの映像を変更した……そのスクリーンにはウルトラ戦士のものと思われる胴体部が写されており、その中央には()()()()()()()()()()のカラータイマーが装着されていた。

 

「はい! これが私が開発した最新式の『内蔵型カラータイマー』です! ……見ての通り、これは今までのカラータイマーが胸部に付けられるだけだったのに対して、文字通り肉体に埋め込む形式を取ることで物理的に盗難が不可能にしたタイプなのです! ……更に副産物としてカラータイマーその物の強度も従来型と比べて大幅に増強されており、もしバリアが張れない状態でカラータイマーへの直接攻撃を加えられてもそう簡単には破壊されません!」

 

 ……どうやら彼女がこの説明会に参加しようと思ったのは、自分が新しく開発したカラータイマーの宣伝の為だったみたいだな。それに気が付いてフレアさんも向こうで頭を抱えているし……。

 

「そういう訳で、どうでしょうかこの最新式! ……まあ、肉体に内蔵する関係で多少手術に手間が掛かりますが、どの道カラータイマーは一度付ければ一生涯使えるので大した問題ではないでしょう! さあ皆さんも是非にこの最新式内蔵型カラータイマーを付けましょう。……正直、まだ装着者のサンプルが少ないので技術発展とデータ収集の為にも是非皆さんには実験だ……もとい被験者に「ソォイ!」ムギャー⁉︎」

 

 マーブル博士の話がちょっとマッド方面にヤバくなった所でフレアさんの光子ネットが炸裂し、そのまま彼女を雁字搦めに拘束した。

 

「おいコラ! テメェまともな説明してたと思ったら目的はコレか!」

「ぶー、説明はちゃんとしたんだからいいじゃないですかー。それに内蔵型はまだデータが足りませんしー」

「ええい! お前は技術局では最年長のくせにこんなワガママばっかか!」

「それを言ったら戦争でしょー!」

 

 そのまま、二人は言い争いながら部屋から出て行った……そんな光景にカラレス教官や同期のみんなはポカンとして、俺はどう収集をつけたものか頭を抱えていた。

 ……しかし、そうしてみんなが動けない所で部屋の隅にいたセレイナさんだけは一人普通に動いて登壇の前に立った。

 

「それでは、これでカラータイマー移植手術についての説明は終わりになります。この後は自分が移植を希望するカラータイマーの種類を書類に書いて提出してもらいます。先程、マーブル博士が紹介した内蔵型も問題無く施術可能ですし、盗難対策に関しては後々全てのカラータイマーに施される予定ですから自分が良いと思った物を選んで下さいね。……何せカラータイマーは皆さんと一生涯付き合っていく物ですから、よく考えて決めた方がいいでしょう」

 

 その彼女の言葉によって、技術局に於けるカラータイマー移植手術の説明会は幕を下ろしたのだった……流石はカラータイマー移植手術のベテラン、その言葉には説得力でこの状況を見事に収め切ってみせたな。プロって感じでマジ凄い。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「それでアーク、お前はどんなタイマーにする気なんだ? 俺はスタンダードに半球型にしようと思っているんだが」

「ゴリアテはそれにするのか。……俺は前から決めていた通り半球状のタイマーに逆向きの涙型の土台をつけようと思う。半球状だと親父と完全に被るしな」

 

 説明が終わってから俺達は各々の希望するカラータイマーの種類を書類に書いている所だった……途中からどうなる事かと思ったが、セレイナさんの言葉もあって今はみんな真剣な表情で自分のカラータイマーを選んでいた。

 

「二人はもう決めたんですか。……私は折角なので内蔵型にしてみようかと」

「僕もそうしようかな。……万が一の事を考えると頑丈な方がいいよね」

 

 どうやらフォルトとメビウスは内蔵型カラータイマーにするみたいだな……まあ、あのマッド達の実力に関しては本物だから性能面に関しては確かだろうし、ここでああやって紹介したという事は問題とかも一切無いだろうしな。

 

「では書き終わった者から提出してくれ。……一応、まだ時間はあるし焦らずともいいぞ」

「「「「はい、分かりました」」」」

 

 そうして俺達は自分が希望するカラータイマーの種類を提出して、後日改めて移植手術に臨む事になった……それからは特に何か語る事も無く、俺を含む同期生達は普通にカラータイマーを移植する事に成功して、これから始まる宇宙での実習に備える事が出来たのだった。




あとがき・各種設定解説

マーブル博士:実はウルトラの父や母と同年代
・カラータイマー“その物”の開発にも関わっている天才科学者で、タイマー内部の『超小型プラズマスパーク』は彼女の作品。
・だが、基本的に研究出来ればいいマッド気質なので、素行不良など色々な理由を付けて出世を拒否して現場にいる人。
・本人曰く「技術局の長官なんて面倒だからやってられないよ?」だそうである。

内蔵型カラータイマー:盗難対策用の最新型
・具体的な形状は原作のメビウスみたいに体内に埋め込まれているヤツで、形は色々選べる。
・強度に関しても“全身を黄金化された上でカラータイマーを直接攻撃しても”そう簡単には壊れない程。
・ただ、盗難対策が一般化した事と手術にやや手間がかかる事などから一部のウルトラ戦士が採用するに留まった模様。

【泥棒怪獣 ドロボン】:ウルトラマンをペシャンコにした事で有名
・バリアとか張られて生体融合もしているカラータイマーを盗めるトンデモ怪獣。
・更に盗んだ“ウルトラマンにしか使えない筈の”カラータイマーを胸に付けてパワーアップしたり、3分間たったらエネルギー切れで弱体化したりする。
・上記の事や、普通はカラータイマーを外してもペシャンコになったりはしない事から、技術局では『“ウルトラマンのエネルギー”という概念を盗んでいるのではないか』と推測されている。

セレイナ:銀十字軍所属のベテラン。
・年齢はゾフィー等と同年代でありウルトラの母の薫陶を受けた一流の軍医で、今まで多くのカラータイマー移植手術をこなしている。
・実はマーブル博士の功績も知っており、彼女の事は尊敬している。

フレア:最近はお疲れ気味
・原因はヒカリが居なくなってマッド達の面倒が彼に集中している事や、トレギアのタロウロスなど。


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