あれから何人もの同期生がスペシウム光線の訓練へと挑んだが、ほぼ全員が一番最初のゴリアテの得点を超える事が出来ずに訓練を終えていた。やはり、疲労が溜まる後半になればなる程それぞれの的の配置が嫌らしくなり、その所為で後半になると赤い的を連続で破壊してしまうのが主な原因であるようだ。
……そして、今はメビウスが呼ばれてこの訓練に挑んでいる。
『セヤッ!』
「やっぱ、メビウスも苦戦してんなぁ。……あの的の配置はイヤらしすぎるぜ」
「特に前半で赤い的を何枚か割ってしまいましたからね。これでは後半はキツくなるでしょう」
フォルトの言う通り、メビウスは黒い的を撃ち抜く際にやる気が空回りしたのかうっかり近くにある赤い的を破壊してしまったのだ。それからどうにか立て直そうとしているが、更に追加で何枚か割ってしまっている。
……アイツはやる気を出すと最初に空回りしてうっかりミスをする悪癖があるからなぁ……。
「……まあ、それで終わらないのがメビウスなんだが」
「どういうことですか?」
「アイツは初見でのミスも多いが、真面目な性格で自分の失敗をすぐに受け入れるからかそこからの立て直しも上手いんだよ。加えて追い詰められればられる程にパフォーマンスが上がって行くタイプだからな……ほれ」
『セアァッ!』
俺がそう指し示すと、それに応えるかの様に画面の中のメビウスは次々と赤い的を避けて黒い的だけを撃ち抜いて行く……何というか、アイツって不利になる程パワーアップする典型的な主人公体質だからな。
まあ、それでも低下した体力と判断力、何より後半になる程難易度が高くなる的の配置の所為でいくつかの赤い的を破壊してしまったが。
「……そこまで! 教室に戻っていいぞ」
『セアッ! ……ハァッ、ハァッ……あ、ありがとうございました!』
そうして、訓練を終えたメビウスが教室に戻って来る……ちなみに得点は黒い的135枚、赤い的7枚の合計650点であり、後半に多数の黒い的を破壊して高得点を取ったが序盤のミスが響いている形になった様だ。
「よう、お疲れさんメビウス」
「うん、ありがとうゴリアテ。……やっぱり序盤にミスをしたのが大きいかなぁ」
「まあ、この訓練は黒い的を破壊するよりも赤い的を破壊しない方が重要だからな。多少ペースは落ちてでも、もう少し慎重に行った方が良かったと思うぞ」
「成る程、流石はアークですね、参考になります。……それでは、次は私の番の様ですので行ってきます」
そう言って、カラレス教官に呼ばれたフォルトは訓練室に入っていった……まあ、フォルトなら要領良いし上手くやるだろ。
「では、訓練開始だ」
『ハァッ!』
そのカラレス教官の合図と同時にフォルトはスペシウム光線で黒い的を撃ち抜いていった。ただし、そのペースは他のヤツ等よりも大分遅く光線の威力もかなり抑え気味だ。
どうやら、黒い的の数を稼ぐのでは無く赤い的を破壊しない様にして、更に光線の出力も抑えて体力消費を減らす方向性でいく様だな。
「まあ、アイツらしい堅実な戦術だよな。つーか、最終的な得点もこのやり方の方が高くなるか?」
「前半に飛ばし過ぎると難易度の高くなる後半でのミスが増えるからね。この訓練は体力の温存とかも重要だよ」
「流石はフォルト、特に言う事が無いぐらいソツがないな」
その後も、フォルトは順調に黒い的のみを破壊して得点を稼いでいく。時折、時間切れで的が消える事もあるが、フォルトは特に気にする事も無く淡々と的を撃ち抜いていった。
……それが正解だろうな。この訓練はとにかく“赤い的を壊さない”事が最優先だ。
「そろそろ十分経つな。フォルトはやっぱスゲェよ、ここまで一つも赤い的を壊していない」
「うん、このままなら最高点が取れそうだね」
「……まあ、
『ハァッ! ……ハァ……』
だが、残り一分ぐらいとなったところでフォルトのペースが目に見えて落ちてきた……格闘技チャンピオンのゴリアテや野球部のエースだったメビウスと比べるとフォルトのフィジカルは決して高く無いからな。
それでも士官学校に合格出来るぐらいのブルー族としては非常に高い体力を持っているんだが、光線技の連続使用は慣れていないとかなりキツイからなぁ。
『ハァッ! ……チッ!』
「そこまで! ……教室に戻って良いぞ」
『ハァー……ハァー……ハァー……あ、ありがとうございました……』
そして、その疲労が祟ったのかフォルトは残り5秒ぐらいで赤い的を一つだけ破壊してしまい、そのまま訓練終了になってコッチに戻って来た。
それでも結果は黒い的119枚、赤い的は最後の1枚のみで、合計点は1090点とこれまでで最高のものだったが。
「ようお疲れさん、最後は惜しかったな。あれは光線技を撃つ時に腕だけ動かしたから射線がズレたんだろ?」
「ええ、光線技の射線を変える時には、狙いがズレない様に身体毎動かすのが基本だとは分かっていたんですがね……実際やってみると光線技の連続使用は思っていたようも体力を持って行かれます」
「それでも、フォルトは今のところ最高点だから凄いよ!」
「いや〜、まだ実技成績ダントツトップ様が残っているからなぁ」
そう言ったゴリアテは机に肘をつきながら俺の方を見ながらニヤニヤしている……全く、一介の訓練生にそこまで過剰に期待されても困るんだがな。
……だが、俺はやる気が無いように見える所為で同期から浮いているらしいし、ここで傍目からも分かるぐらいの好成績を叩き出せば周りが俺を見る目を変わるだろう。
「では、最後にアーク!」
「はい!」
そうして、同期生達の一番最後に呼ばれた俺はやる気満々で訓練場へと入っていった。
──────◇◇◇──────
「カラレス教官、準備は出来ました」
『よし……では、訓練開始だ』
教官のその言葉と同時に、俺の前方の空間へ複数の黒と赤の的が展開された…………これまで見てきた通り、最初の方は的の配置はそこまで嫌らしく無いな。
……それならば……!
「スペシウム光線・スリーウェイショット!」
俺は十字に組んだ右手のひら側面から
……赤い的には
「……おっと、的の配置が嫌らしくなって来たな。射線上に赤い的が来たし……分散は辞めて
後半になって的の配置が嫌らしくなって来たら、俺は精度に難のある分散発射を取りやめて光線の軌道そのものをウルトラ念力で操作する戦術に変えた……今も黒い的を撃ち抜いてそのまま赤い的に向かっていた光線の軌道を捻じ曲げて、別の黒い的に当てていっている。
……とは言え、流石にこれらの方法はウルトラ念力を酷使し過ぎるので、体力に余裕を持たせる為に指定範囲内を移動しての射線調整も併用していく。
(……赤い的が奥にあるから光線を曲げて……赤が手前だからサイドステップして射線が重ならない様に場所移動……完全に重なっていたり距離が近いのは無視だな。
そんな感じで、俺は黒い的のみを次々とスペシウム光線で撃ち抜いて破壊していく……うむ、このぐらいのペースなら十分程度ぶっ続けでも問題ないかな。
そうして、俺は赤い的を慎重に避けつつも順調に黒い的を破壊していき……。
『……そこまで!』
「フゥ……ありがとうございました!」
カラレス教官の合図と同時にスペシウム光線の構えを解いて訓練を終えた……うん、最後まで赤い的は1枚も壊さなかったし、これは中々良い結果だと思って良いのでは無いだろうか!
……と、このまま他の皆と同じ様に教室へ戻る指示が出るかと思ったのだが、そうはならずにカラレス教官から質問が来たのだ。
『それでアーク、さっきの光線の分散や操作はどういう事だ?』
「え? あれはウルトラ念力のちょっとした応用ですよ。教官ならそういう事も出来ると知ってますよね?」
『ああ、まあ知っているが……』
「あ、それともスペシウム光線の直射限定の訓練でしたっけ?」
……だとするとちょっと張り切り過ぎてミスったかな。事前にちゃんと教官に詳しく聞いておくべきだったか。
『いや、それらもスペシウム光線の範囲内だから問題無いんだが……まあ、良い。流石は
「……ありがとうございます」
そう、俺の親父である宇宙警備隊のちょっとしたお偉いさんとは現宇宙警備隊隊長『ゾフィー』の事なのだ……え? どう考えても“ちょっとした”で済ませられる様な相手では無い? でも、親父が宇宙警備隊隊長になったのは、つい最近地球で死にかけたウルトラマンさんを助けた功績によるものだから、隊長としての任期は大して経っていないし。
……まあ、それでも親父は宇宙警備隊最強の戦士だから色眼鏡で見られる事も多いんだが、俺が士官学校で優秀な成績を収めているのも幼い頃から
『もう、教室に戻っていいぞ』
「分かりました」
まあ、そんな事はともかく、ここまでやる気の溢れる訓練内容を見せたんだから同期生の俺を見る目も変わるはず!
──────◇◇◇──────
そんな事を思いながら教室に戻った俺が見たものは、すっかりこちらを見る目を変えた同期生達の姿だった……主に畏怖と困惑でドン引きしている感じで。
バカな! 赤い的を一切壊さずに黒い的を236枚割ったのに!
「……どういう……事だ……?」
「いや、どうもこうも無いだろ。このアホ」
「スペシウム光線の分散やら歪曲やら、そんな訳の分からない技術を見せつけられればこうもなりますよ」
「……なん……だと……?」
い、いや、そこまで凄い技術でも無いと思うんだよ。親父みたいにM87光線の軌道を曲げられる訳じゃ無いし、光線の分散もセブンさんみたいに実践で使える程の威力は出ないし! ……と、言ったらゴリアテとフォルトの二人に『『そもそも
尚、メビウスだけは『ウルトラ兄弟の指導を受けて来たアークはやっぱり凄いな!』とキラキラした目で見てきた……このウルトラ兄弟バカめ!
「あァァ……完全にやらかしたか……」
「まあ、訓練を全力でやるという点では間違って居ないんですがね」
「とりあえず、まずお前は自分の実力に自覚を持て」
「そうだよ! アークはあのウルトラ兄弟の弟子なんだから、もっと自信を持っていいと思うよ!」
そうやって頭を抱えながら席に着いた俺に三人は慰めの言葉を掛けてくれた…………メビウスだけなんかズレている気がするが……。
……と、そこで教壇にカラレス教官が立ったので、俺達は喋るのを辞めてそちらを見た。
「さて、訓練はひとまずこれで終わりだが……お前達、何故この訓練において赤い的のマイナス点が非常に多いのか、その理由は分かるか?」
カラレス教官が発したその質問に教室は少しの間だけ沈黙に包まれたが、直ぐに何人かの同期生がその質問に答え始めた。
「黒い的の方が数が多いから!」
「えーっと、光線技の命中率の訓練の為……?」
「訓練に緊張感を持たせる為では?」
「ふむ…………アーク、お前は分かるか?」
同期生達のそんな言葉を聞いていたカラレス教官が、何故か突然俺にお鉢を向けてきた…………えー、親父から習った“ウルトラ戦士が光線技を使う上で一番気を付けなければならない事”を言えば良いのかな?
「ウルトラ戦士の光線技は
親父が俺に光線技の指導をする時に、こんな感じの言葉を何度も何度も口を酸っぱくするぐらいに言われたからな。
……と、俺がそんな答えを返すと、それを聞いたカラレス教官は深く頷いた後に俺達に向き直った。
「うむ、今のアークの答えが一番近いな。……お前達もいずれ宇宙警備隊に配属される時が来たらこれだけは覚えていてほしい。……俺達ウルトラ族は、この広大な宇宙の中でも非常に強い力を持っている」
これまでとは明らかに違うカラレス教官の真剣な雰囲気に、俺を含む宇宙警備隊見習い達は一言も喋ることなく教官の言葉に耳を傾けた。
「例えば、今お前達が使える程度のスペシウム光線であっても、小さな街一つを
……うん、親父も昔『M87光線の誤射で小さな村を一つ消滅させてしまった事がある』って言っていたからな。俺に対しても光線技の制御に関しては特に厳しく叩き込まれたし。
「宇宙警備隊に入るのなら、ここで自分達が学んだ技術は使い方を誤れば容易く悲劇を巻き起こしてしまう程のモノだと言う事だという事を絶対に忘れないでほしい。……俺達ウルトラ族には絶大なチカラが与えられているからこそ、このチカラを使う時には臆病なぐらいで丁度良いんだ」
その真摯な言葉をもってカラレス教官からの話は締めくくられた……そして、この話を聞いた訓練生の多くは真剣な表情で何事かを考えているようだった。
まあ、俺も親父からの話を最初に聞いた時には色々と考えさせられたからなぁ……と、考えていたらカラレス教官が雰囲気を明るいものに変えて話を続けたのだ。
「さて、私が今言った事の意味はこれからも考え続けてもらうとして……30分後にはもう一度同じ訓練をして貰うからな」
「「「「えぇ⁉︎」」」」
「まあ、2回目なのだから先程よりもいい結果が出せるだろうし期待しているぞ」
ふーむ、どうやら訓練はまだ続くらしいな。
「い、いや教官、光線技の連続使用で私達の疲労はかなりのものだと思うのですが……」
「だから30分はエネルギー回復の為の休憩を入れただろう? 宇宙警備隊に入ったらエネルギー回復もままならない環境で、まともな休憩も出来ない様な連戦だってあり得るのだから今のうちに慣れておくと良い」
フォルトの精一杯の言い訳を実にいい笑顔で切り捨てた教官は『30分後にもう一度来るからそれまでにエネルギーを回復させておく様に。何、
「うへー……やっぱりカラレス教官はスパルタだぜ」
「うむ、カラレス教官は実に優しいな。まさか30分も休憩時間を与えてくれるとは」
「「「へ?」」」
俺が言ったその言葉に周りの同期生はまるで信じられないモノを見るような目をしてきた……いや、親父達みたいに『ここは光の国なんだから、光線技を撃ちながらエネルギーを回復させろ!』とか『お前の内包するエネルギー量ならまだいける筈だ!』とか言わないだけ十分優しくないか?
……そう言ったら、みんな(メビウス除く)からドン引きされた……解せぬ。
──────◇◇◇──────
……生徒達に告げるだけ告げて教室を出てそのまま廊下を歩いていたカラレスは、その途中で見知った顔を見つけたので声を掛けた。
「おお、ゾフィーじゃないか。久しぶりだな」
「カラレスか、確かに久しぶりだな。警備隊の隊長に就任してからは色々とゴタゴタしていたしな」
そう、カラレスが遭遇した人物とは、かの宇宙警備隊隊長であるゾフィーだった……実は、この二人は同じぐらいの時期に宇宙警備隊に入り共に切磋琢磨してきた戦友同士であり、カラレスが“とある事件”による怪我で第一線を退いてからもプライベートの場では今の様に親しげに会話をするぐらいの仲なのだ。
……だが、そんな親しげな会話をしている最中にゾフィーが突如言い淀んだ。
「……ところで、最近の生徒達の様子はどうだ?」
「そこは、素直に自分の息子の様子を聞けばいいと思うんだがな」
相変わらず少し不器用なところがある戦友にやや呆れながらも、カラレスは気を利かせて相手が求めている情報を教えてやる事にした。
「アークの成績は座学に関しては同期の中でもトップレベル、学習意欲もあるし特に問題は無いな。後、実技に関してはこちらも問題無い……と言うか、おそらく今現在でもそこらの警備隊員よりも遥かに強いぞ。いったいどれだけ鍛えたんだ?」
「……俺とウルトラ兄弟が総がかりで鍛えた」
そう言ったゾフィーの表情は息子を誇る気持ちだけでなく、何か複雑な感情を抱いているようにも見えた。
「前から疑問に思っていたんだが、アークの実力は明らかに普通に鍛えた程度を遥かに超えている。お前は確かに厳しい男だが、自分の息子だからといってあそこまで過剰な訓練を施す様なタイプでは無かった筈だ。……あの子には何かあるのか?」
「……それは……」
その問いにゾフィーが答える事は無かった……そんな旧知の相手がした予想外の反応にカラレスは若干困惑したが、直ぐに宇宙警備隊隊長に選ばれた程の男が口を噤むという事は
「分かった。言えない事情があるなら無理に聞きはしないさ。……まあ、教官としてこの士官学校に居るうちはアークを含む訓練生達の面倒ぐらいは見てやるさ」
「……感謝する、カラレス」
こうして二人のウルトラ戦士の会話は終わり、ゾフィーは隊長としての仕事に、カラレスは教官としての仕事へと戻っていった。
あとがき・各種設定解説
アーク:ゾフィーの息子だ! とかいずれ言うかもしれない
・見た目はゾフィーからスターマークとウルトラブレスター(身体に付いているブツブツの事)を無くして、更にまだ訓練生なのでカラータイマーを外した上で全体的なデザインを平成・ニュージェネ系にした感じ。
・幼い頃から修行漬けだったせいで一般的なウルトラ族とは若干常識にズレがあり、本人が割りとアホの子気味なのでうっかりやらかす事が多い。
・父親に関しては若干思うところはあるが、ウルトラ戦士としてや宇宙警備隊隊長としては尊敬している。
メビウス:ウルトラ兄弟の大ファン
・外見は原作通りだが、まだ訓練生なのでカラータイマーとメビウスブレスは付けていない。
ゴリアテ&フォルト:アークとメビウスがボケ役なのでツッコミに回る事が多い
・見た目はゴリアテが筋肉質のレッド族で顔はセブン系、フォルトはシルバー族の赤い部分を青くした感じの銀色が多いブルー族で顔はウルトラマン系。
カラレス:慈愛の教官
・指導方針はかつてタロウを教えていた時の様に、チカラを御する事が出来る心を育てる事を重視している。
ゾフィー:スパルタ親父(理由あり)
・尚、家族関係自体は普通に良好で、最近は隊長に就任したばかりで忙しく息子と話す機会が少ないのが悩みの種。
読了ありがとうございました。