宇宙に輝くウルトラの星   作:貴司崎

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大暴走! ウルトラの星! (中編)

 さて、そんな訳でメビウスがあからさまに怪しい親父(?)を連れて来やがったので、俺は正直どうしようかと悩んでいた……というか、本当に何をしに来たんだコイツ。

 暴走事件に関わっているにしてもわざわざ此処に来る理由が思いつかないし、いまいち行動の意図が読めないんだよな。

 ……それに、親父の存在に気が付いて他の同期生達も騒ぎ出した(約1名の親父ファンはなんか嬉し過ぎてフリーズしてる)しな、さっさと行動を決めないと。

 

「それで? 親父()はこれからどうするんだ?」

「うむ、さっきも言ったがウルトラキーの強奪事件について気になることがあるから、こちら側で行動している宇宙警備隊員に話を聞きに行こうと思ってな。……案内してくれるか息子よ」

 

 ……はい、ダウト。俺に案内して貰わずとも宇宙警備隊隊長ならウルトラサインなりでこっちの隊員に連絡を取るだろうし、それが出来なくても普通なら自分は指揮に集中して他の隊員に連絡を任せる筈だしな。

 それに、親父は公私をキッチリと分けるタイプだがら()()()()()()()()()()()()()()()()し、()()()()()()()()()()()()()()からな……つーか、親父は俺の事を基本的には名前で呼ぶし。

 ……しかし、この状況をどうしたものか、同期生達への影響も考えると早急かつ的確な対応を行わないと……ないと……。

 

「……どうした息子よ。悩みがあるならこの父に「もう面倒くさくなって来たからとりあえず殴る!」ゴッバァァァァァァ!!?」

 

 なんか色々と考えるのが面倒になって来たことと、訳知り顔で俺の肩に手を置いて来た親父(偽)にちょっとイラッとして来たので、とりあえずその顔面をエネルギーを込めた腕で全力でブン殴っておくことにした。

 ……うん、本物の親父なら今程度のテレフォンパンチは余裕で回避出来るだろうしコイツは偽物で確定だな。やはり暴力は全てを解決する……。

 

「ええええ! アーク何やってるの⁉︎」

「顔面にもろ入ったんだけど⁉︎」

「キャァァァァ!!! ゾフィー様〜〜〜!!!」

「一体何を「狼狽えるな!!! 」……ええ⁉︎」

 

 突然の俺の暴挙に同期生達が慌てふためき始めたので全身全霊の大声で一括する事によって混乱を抑える……こうなってしまうと一々説得とかやっている暇も無いからな、ここはなんかこう勢いで誤魔化そう。

 

惑わされるな!!! お前達はアレが宇宙警備隊隊長ゾフィーに見えるのか!!!」

「え? いや見えるけど……」

「まさか……偽物ですか?」

「そんな⁉︎ ……でも、実の息子であるアークが言うのなら……」

 

 まあ、正直言って見た目とかエネルギーの波長とかは、実の息子である俺の目から見ても親父と全く同じだからなぁ……多分、黙って突っ立っているなら俺でも見分けはつかん。

 ……とは言え一々詳しく説明している余裕は無いし、このまま勢いで押し切るんだが。

 

惑わされるなと言っておる!!! ……まず一つ! 宇宙警備隊隊長ゾフィーがこんな異常事件の最中に持ち場を離れる様な事は無いだろう、常識的に考えて! ……そして二つ! 親父は公私はキッチリと分けるタイプだから任務中に俺を“息子”などとは呼ばん! そもそも俺の事は基本的に名前で呼ぶ! ……最後に三つ! 本物の親父ならさっきの一撃ぐらい余裕で回避出来るわ! ……つまり、そいつは偽物だ。いい加減に正体を現すがいい!」

「な、成る程……?」

「だとすると、やっぱり偽物?」

「くっ! ゾフィーさ……じゃなくて宇宙警備隊隊長に化けるなんて!」

 

 まあ、今言った中で偽物云々は結構適当なんだけどな。もしかしたら洗脳とかの可能性もある訳だし……だが、どちらにしてもとりあえずブン殴って制圧すればどうにでもなるから、初手全力顔面パンチは実に合理的な選択だと思う。

 ……“殴る”と言うワンアクションで偽物にも洗脳にも対応できる。やはり暴力こそが万能の問題解決手段、これこそが賢者の拳(ワイズマンフィスト)……! 

 

「……グゥゥゥ……。まさか最初から気付かれていたとはなぁ。身内が居るとはついてないぜ」

「ふん、変身能力は一流でも役者や演出家としては三流以下だ。……宇宙警備隊隊長がこの状況で単騎とか、俺でなくても違和感を感じる様な不自然なシチュエーションだからな。変身する対象を完全に間違えているわ」

 

 そんな風に勢い任せに話していたら、さっき全力でブン殴った親父(偽)が殴られた頰を抑えながら話し始めたので、とりあえずその場のノリで駄目出しをしておく……流石に肉親じゃなくてもある程度親しければ違和感を感じるぐらいに拙い演技だったからな。

 ……さて、コイツが偽物と確定したので()()()()にも検討が付いて来たな。

 

「……しかし、こんな風に変身能力を使って暗躍する星人には心当たりがあるな。……そうか、貴様の正体は【ザラブ星人】だな!」

「違うわ!!! あんなド下手な変身しか出来ない連中と一緒にすんじゃねえ!!!」

 

 俺が適当に変身能力を持つ種族の名前を挙げると、何故か激怒しだした親父(偽)はとうとうその変身を解いた……そこに姿を現したのは黒い体に金色の鎧を纏い、二本のツノと赤い目をした宇宙人だった。

 ……その姿には見覚えがある。成る程、つまり今回の騒動に於ける主犯は……。

 

「貴様は……【マグマ星人】だな!」

「ちげ────よ!!! 俺様は【ババルウ星人】だ! あんなチンピラ共と一緒にするんじゃねぇ!!!」

 

 だって、お前らそっくりだから中々見分けが付かないんだもん……半分くらいは親父の姿を使われた事にイラついていたから意趣返しをしただけだけどさ。

 ……しかし【暗黒星人 ババルウ星人】か。確か『暗黒宇宙の支配者』とか言う異名を持っていて、以前に親父から昔のデカイ事件で戦った事があるって聞いた事があるな。

 

「しかし成る程、という事は『ウルトラキーを盗んだアストラ』の正体もお前達だな」

「くくく……その通りよ。ウルトラキーを盗んだ時に敢えてL77星出身のアストラの姿を晒す事で、ウルトラ戦士の疑いの目をL77星出身の王子達にむけさせたのさぁ。そして、ウルトラキーを使ってウルトラの星を地球に向かわせる事で、ウルトラ兄弟と地球に居るレオを同士討ちにさせると言う算段さ。……今頃、地球では醜い同士討ちが始まって居るだろうよ」

 

 俺が同期生達が落ち着くまでの時間稼ぎも兼ねて適当な質問をすると。何故か目の前のババルウ星人は今回のウルトラの星暴走事件の真相をペラペラと話し始めた……コイツは馬鹿なのかな? そこまで喋る必要は微塵も無いと思うんだが。

 ……しかし、だとするとちょっと疑問点があるな。

 

「……それなら、どうしてお前は宇宙警備隊隊長に化けてまでこんなところに来て居るんだ? ……ウルトラの星を地球に向かわせて、ウルトラ戦士を同士討ちさせる事はもう終わっているんだからな。わざわざ危険を犯してまで宇宙警備隊に接触する必要がどこにある?」

「ふっ、そんな事も分からないのか? ……簡単な事よ、ウルトラの星が大暴走して宇宙警備隊が混乱している今なら、有名な警備隊員を簡単に始末出来るからなぁ。そうすれば俺様の名も宇宙に届くって寸法よ」

 

 ……なんだ、要するにただの火事場泥棒か。こんな雑な行動を取る裏には、何かウルトラの星の暴走に匹敵する様な狙いが実はあるんじゃないかと深読みしてしまったがそんな事は無さそうだな。

 ……さて、聞きたい事は一通り聞けたし……。

 

「成る程成る程、だいたい分かった……と言うわけでウルトラサインをソォイ!」

「なぁ!? テメェ、何しやがる!」

「何って……重要情報を聞いたから報告しただけだが?」

 

 そして、ババルウ星人から情報を引き出し終えた俺は、すぐさまウルトラサインを使って今聞いた情報を簡単に纏めて他の警備隊員に伝えたのだった……一応、俺も見習いとは言え宇宙警備隊員なんだから、現在の『ウルトラの星暴走事件』の重要情報を知った時点で報告するのは当然なんだよなぁ(煽り)

 じゃあ、後は目の前のコイツをどうするかだが……個人的には親父の姿を使ってくれた礼をしてやりたい気持ちも有るが、まだちょっと話について来れてない他の同期生とかも居るしな……。

 

「チッ、クソが! ……だったらお前ら全員皆殺しにしてやるよ。この装置でなぁ!」

「むっ、これは……?」

 

 散々煽ったからかいきなりキレ出したババルウ星人は腕に付けていたブレスレット型の機械を操作した……すると、俺達の周囲からあらゆる光が消滅して辺り一帯が暗黒の空間に包まれたのだ。

 ……更に無重力の宇宙であるにも関わらず、俺の身体はまるで重石でも背負ったかの様に重くなりかなり動き難くなったのだ。

 

「フハハハハハハ!!! これが貴様等ウルトラ戦士に対する切り札『対ウルトラ戦士用擬似暗黒宇宙展開装置』よ! この空間内部には貴様等がエネルギーとする光が一切存在せず、加えてお前達ウルトラ戦士の動きを制限する重圧が常にかかり続けるのだ! ……無論、暗黒宇宙出身の俺様には何一つ効果は無く、むしろ故郷と同じ環境だから動きやすいぐらいだがなぁ!」

「か、身体が重い……!」

「エネルギーも……!」

「クソォ……このままじゃあ……!」

 

 周りを見ると同期生達もエネルギー不足と重圧によってまともに動けなくなっている様で苦しそうにもがいている……どうやら無策で宇宙警備隊員に喧嘩を売る気は無かったみたいだな。ここまでの装備を用意しているとは。

 ……異次元環境での訓練を経験している俺なら動く事自体は出来なくはないが、動き自体は鈍るので周りの同期生達をフォローしながら戦うのは難しそうだな。相手も小物臭い言動をしているが弱くは無さそうだし。

 

「本来なら変身能力で宇宙警備隊の精鋭に潜り込んで、そいつ等をまとめて取り込む予定だったんだが仕方がない。……まずは散々虚仮にしてくれた貴様から血祭りに挙げてやるわぁ!!!」

「アーク! 危ない!」

「逃げて!」

 

 そして、目の前のババルウ星人はそんな事を宣いながらさすまたの様な長い槍を取り出して俺に斬りかかって来た……後ろからメビウスを始めとする同期生達の悲鳴が聞こえてくる中で俺は冷静に相手の事を見据えていた。

 ……まあ、親父からも『自分の力には自分で責任を持つ限り好きに使っていい』と言われているし、この空間の重圧下だとこちらの姿では躱しきれなさそうだし……じゃあ()()()()姿()で行きますか。

 

「タイプチェンジ、リバーススタイル。……フロストブレード!」

「なにぃ!? 姿が変わっただとぉ!!!」

 

 そして俺は相手の攻撃が当たる直前にもう一つの姿である『リバーススタイル』へと変身して擬似暗黒宇宙の影響下から脱すると、即座に右腕から氷の剣を展開して突き出されたさすまたを受け流した。

 ……とは言え、俺の剣術のレベルでこのまま近接戦闘に付き合うと身体能力差で押し切られそうだし、ここは一旦距離を離すべきだろうな。

 

「そう言うわけで新技だ。……パームスマッシュ!」

「ゴホォ!?」

 

 俺はそのままババルウ星人の懐に潜り込むとその腹に左の掌底を押し付けて、そこから高出力の念力を瞬間的に発生させて相手を吹き飛ばした……これがリバーススタイル時の近接戦闘用の新技『パームスマッシュ』である。

 リバーススタイル時の近接戦闘での脆弱性を克服するために強力な念力を近接戦闘用に調整した技なのだが、発生速度を重視しているので威力面ではやはりそこまででは無く、相手を押し出して体勢を崩すか距離を取る為に使うのが主な用途になるかな。

 ……なので、吹き飛ばされたヤツは多少よろめいたぐらいで直ぐに体勢を立て直して武器を構えて来たしね。

 

「……クソッ! なんだその姿は⁉︎ どうしてこの暗黒宇宙で普通に動けるんだ!!!」

「この姿の名前は“リバーススタイル”、俺の父親である宇宙警備隊隊長ゾフィーから受け継いだ(多分)もう一つの姿さ。……そして、この姿になると環境への適応能力が大幅に上がる(おそらく)のでな、この擬似暗黒宇宙とやらの影響を受けないのさ」

 

 余程この擬似暗黒宇宙とやらに自信があったのか、俺がその中で当たり前の様に動いた所為で非常に動揺しているババルウ星人の質問に俺は丁寧に答えてやった……俺の姿が変わった所を初めて見て驚いているのは同期生達も変わらないので、そっちへの説明も兼ねているが。

 ……最もリバーススタイルに関しては自分でもよく分かっていない所が多いので大分適当な説明だったが、とりあえず親父の名前を出しておけば混乱は起きにくいだろう。

 

「舐めんじゃねぇ! ……他の連中が動けないのは変わんねぇし、お前をさっさと始末すれば良いだけよ!!!」

「……そう簡単に行くかな?」

 

 ……まあ、俺としても尊敬はしている親父の姿を騙って悪行を成そうとした事は許す気は無いんでな。そっちがその気なら遠慮なく叩き潰して差し上げるとしようか!




あとがき・各種設定解説

アーク:リバーススタイルを公で初披露
・実は内心結構テンパってるので色々と勢いで押し通した。

ウルトラサイン:ウルトラ戦士の伝達手段の一つ
・数十万光年離れていてもウルトラ戦士同士なら即座に情報を伝達出来るので、ウルトラの星の宇宙警備隊では主力の情報伝達手段として使われている。
・だが、偽装されたり途中で破壊されたりある程度の知識がある第三者には読み取られたりするので、実は確実性や隠匿性はそこまで高くない。
・とはいえ非常に有用な通信手段である事には変わりなく、上記のデメリットに関しては隠匿性に長けたテレパシーなど複数の情報伝達手段を状況によって使い分ける事で対応する事が推奨されている。

ババルウ星人:ウルトラキーを盗んだヤツの協力者
・あちらからは『残ったウルトラ戦士達を適当に襲う事でこちらに関われない様に向こうを混乱させてほしい』と言われていた。
・だが、本人が野心家だった事と新兵器である『対ウルトラ戦士用擬似暗黒宇宙展開装置』を貰った事でウルトラ戦士を倒して名を上げる目的で行動する事になった。
・尚、ウルトラキーを盗んだヤツの本心は『適当に暴れて少しでも向こうの目を逸らしてくれれば良いや』程度のもので大して期待されていない。


読了ありがとうございました。
次でウルトラの星暴走編は最後になると思います。お楽しみに!

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