とある宇宙の一角に展開されたウルトラ戦士の力を弱める擬似暗黒宇宙の内部。そこではウルトラの星が大暴走している裏側でウルトラ戦士の襲撃を企ていたババルウ星人と、それに対して隠していた力である“リバーススタイル”を解放した宇宙警備隊訓練生のアークが戦いを繰り広げていた。
「はっ! 擬似暗黒宇宙の効果が無かろうがテメェ一人如き直ぐにブチ殺してやラァ! 喰らえェ!!!」
「やれやれ、随分と血の気が多いな。ブラックゲート!」
まず、さっきからの挑発やら何やらで実はキレていたババルウ星人が左手から複数の光弾を放つが、アークは左手を前方に突き出して前方にお約束のブラックゲートを開いてそれらの光弾全てをその中に飲み込んで見せた。
……更にアークは直ぐにゲートを閉じると冷気と念力を操って四枚の氷で出来たブーメランを作り上げる。
「そら、今度はこっちの番だ! クアトロ・フロストスラッガー!」
「舐めるなぁ! そんなオモチャどおって事無いんだよォ!」
そして、そのまま右手に展開した氷の剣を指揮棒代わりに振るって四枚の氷のブーメランをババルウ星人に向けて次々と飛ばしたが、相手も手に持ったさすまた──“ババルウスティック”を振り回してそれらのブーメランを砕いていく……が、アークはそれを冷静に眺めるとその背後に再びブラックゲートを開き……。
「……ほら、そっちの攻撃だ。返すぞ」
「何? ……ぐわアアアアア!!!」
そして、そのゲートから先程飲み込んだババルウ星人の光弾を全て出して、それら相手の背に直撃させてダメージを与えた……以前の父親であるゾフィーとの模擬戦で敗北して以来アークはリバーススタイルでの戦闘訓練により力を入れており、その一つ一つの技の練度も大きく上がっているのだ。
「チッ! 訳の分からない力ばかり使いやがって! 貴様本当にウルトラ戦士かよ!」
「変幻自在の戦いがこの姿の特徴なんでな……そちらこそ、ウルトラ戦士を倒して名を上げると言う割には大した事は無いように見えるが?」
ダメージを受けた事でババルウ星人はアークに毒づくが、彼は適当にその発言を受け流して逆に挑発を仕掛けた……とは言っても、幾ら練度を上げた所でリバーススタイルが
アークにとっても今の戦況はそれほど余裕がある訳では無く、先程から相手を挑発しているのも、それによって敵の冷静さを失わせて少しでも戦況を有利に運ぶ為である。
……だが、散々な挑発を受けて怒り心頭に達していたババルウ星人は突然その顔を邪悪な笑みに変えて周りを見た。
「……ククク、だったらよぉ〜……こういうのはどうだ!!!」
「ゼアッ⁉︎」
「アイツ、こっちに攻撃を!」
「クソッ! 身体が上手く動かねぇ!」
「こんな程度の攻撃普段なら……」
そして、ババルウ星人は未だに擬似暗黒宇宙に囚われて上手く動く事が出来ない他の訓練生達に左手からの光弾を乱射し始めたのだ……それらの光弾は次々と訓練生達に当たって彼等を傷つけていく。
「ヒャハハハハハハハ!!! ほらほら〜アイツらを庇わなくていいのか〜! お前は宇宙警備隊隊長の息子なんだろ〜!」
「くっ……アーク! 僕達の事はいいから!」
「この程度の攻撃でどうにかなる俺たちじゃねぇ!」
「今は自分の戦いに集中して下さい!」
先程までの挑発の意趣返しなのかババルウ星人は嗜虐的な笑みを浮かべながら他の訓練生達をいたぶっていく……そんな攻撃を受けている彼等はそれでもアークに自分達の事は気にするなと言うが、それに対してアークは……。
「安心しろメビウス……
「は? ……ぎゃああああああ!!!」
攻撃されている同期生達に見向きもせず即座にアクセルダッシュ──自分の身体を念力で短距離だけ超高速移動させる技を使って一瞬でババルウ星人に接近し、そのまま右手の
……更に彼は怯んだ相手にそのまま連続攻撃を仕掛ける事で同期生達に攻撃する余裕を無くしていく。
「き、貴様ぁ! 宇宙警備隊員なんだろう⁉︎ 仲間を庇わなくても良いのか!!!」
「いや、攻撃してるのがお前しか居ないんだから攻め立てて余計な事をする余裕を無くす方が良いに決まってるだろ? ……それに、俺の仲間達はあの程度の攻撃でどうにかなる事は無いさ」
「アーク……」
まあ、流石に攻撃を受けているのが何の力も無い民間人なら庇ったかもしれないがとも考えつつ、アークは高速移動や念力などを駆使してババルウ星人への攻勢を更に強めていく。
……そうして、とうとう相手の腕に着いた『対ウルトラ戦士用擬似暗黒宇宙発生装置』を左手で掴む事に成功した。
「……やっと掴んだ。パームスマッシュ!」
「ッ! しまった! 装置が⁉︎」
そしてアークはそのまま掴んだ手に全力の念力を発生させて装置を粉々に砕いたのだった……彼は最初からこの暗黒宇宙を発生させている装置の破壊だけを目的にしており、あの散々行なった挑発やこれまでの攻撃はもどうにか接近して装置に破壊を行える隙を作る為のものだったのである。
……装置を破壊したお陰で展開されていた擬似暗黒宇宙は解除されたが、ババルウ星人はそれでも諦めが悪くアークの腕を無理矢理振り払って距離を取り彼に向き直って戦闘を続行しようとした。
「クソがァ!!! だがまだだ! 暗黒宇宙なんぞ無くても……「いや、もう終わりだ」「メビュームスラッシュ!」「フォルトスライサー!」「ゴリアテックブラスト!」ぐわアアアアア!!!」
のだが、そこに暗黒宇宙が解除されて自由を取り戻した訓練生達の一斉攻撃がババルウ星人に突き刺さり大ダメージを与えたのだった……彼等とて宇宙警備隊を目指す者達、暗黒宇宙が解除され相手が隙を見せた瞬間に攻撃出来る様に準備を進めていたのだ。
……そうして大ダメージを受けてまともに動けなくなったババルウ星人に対して、
「……貴様の敗因は俺達ウルトラ戦士を舐めすぎた事だ。アークレイショット!!!」
「ぎゃああああああああああああ!!!」
そんな言葉と共にアークがL字に組んだ腕から放たれた大威力の光線がババルウ星人に直撃して、その身体を跡形も無く爆散させたのだった。
──────◇◇◇──────
「……ふう、どうにか退けられたか……」
ババルウ星人との戦闘を終えた俺はエネルギーの使い過ぎで鳴り始めたカラータイマーを抑えながら一息ついた……あの暗黒宇宙をどうにかする為にリバーススタイルでの技の連続行使による短期決戦を挑まざるを得なかったからな。
……しかし、あのババルウ星人が弱い方で助かったな。親父から聞いた話だと強力なババルウ星人はコピー元の能力すらも自由自在に使いこなせるって話だったし……。
「アーク、大丈夫ですか?」
「今回は助かったぜ」
「……ごめんアーク。僕があの偽物に騙されていなければ……」
「気にすんなってメビウス。……正直、見た目だけなら俺でも見分けの付かない精度だからな、アイツらの変身は」
そうしているとメビウス、フォルト、ゴリアテといった何時ものメンバーが声を掛けて来たので、俺はそのままエネルギーを回復させつつ話をしていく……後、メビウスは一々落ち込むな。向こうはウルトラタワーに潜入出来る程の変身能力を持っているんだからしょうがないだろ。
……さて、後はこいつら含む同期生達にさっきの『リバーススタイル』の事をどうやって説明するかだが……。
「そう言えばアーク、先程の姿は……?」
「アレは『リバーススタイル』と言ってな、俺が生まれた時から使える所謂姿を変える事で能力を変化させるタイプチェンジ能力ってヤツだな。リバーススタイルになると身体能力が下がり光線技が使えなくなる代わりに、特殊な環境に適応出来る様になったりウルトラ念力が強力になったり凍結系の技が使い易くなったりするなどの恩恵があるんだよ。……ちなみに今の姿の時は『シルバースタイル』と呼ばれている」
そう考えているとフォルトがリバーススタイルについて聞いて来たので、これ幸いと自分の能力について一通りの説明を行っていく。
……一度見せてしまった以上は、下手に隠し立てしたり誤魔化したりするよりもちゃんと説明した方が色々と面倒が無さそうだしな。
「ていうか、お前そんな事が出来たのかよ。知らなかったぞ」
「リバーススタイルだと身体能力とか落ちるし光線技も使えなくなるから、あんまり使う機会が無くてな。……それにカラーリングが悪人っぽくなるし……」
「え? 確かに銀色の部分が黒くなってたけど、そんな事無いと思うけど」
……ん? そのメビウスの言葉にちょっとだけ違和感を感じた俺は少し
「……えーっと、赤と黒は光の国での唯一の犯罪者である“ウルトラマンベリアル”と同じカラーリングなんだが……お前らそれ知ってた?」
「そうだったの? ……ベリアルの事は知ってたけどその身体の色までは知らなかったよ」
「教科書にも名前は載ってましたけど写真は無かったですよね」
「つーか、気にし過ぎだろ。……お前が色々おかしいのは何時もの事だし、今更色が変わった所で誰も気にせんよ」
「「「うんうん」」」
なんという事でしょう、今の世代のウルトラ戦士ってベリアルの姿とか知らなかったらしいです……まあ、ベリアルの情報自体は結構制限されてるし、詳しい情報とかアーカイブの一番深い所探さなきゃ見つからないしな。
多分、親父達は直接ベリアルと戦った世代だから、今の世代とここまでジェネレーションギャップがある事へ知らなかったんだろうなぁ……。
……後ゴリアテ、色々おかしいとは何だ。他の同期生も頷いてるし。
「それで? これからどうするんだ?」
「お前ら後で覚えてろよ……とりあえず、ウルトラサインは出してあるし一旦教官達や他のチームと合流しよう」
「ババルウ星人についての詳しい報告もしなければなりませんしね」
「ウルトラサインは一度に伝えられる情報量はそんなに多く無いしね」
そういう訳で俺達は教官が居る他のチームにウルトラサインで連絡を取ってから合流する事にしたのだった……しかし、ババルウ星人は恐ろしい相手だったな。
今回、俺が遭遇したのが頭が悪くて演技や演出も雑だったからどうにかなったけど、もっと知略と演技力に優れた相手だったらと思うとぞっとする。何せ見た目じゃ全く区別が付かないからな。
……アイツは親父達をレオさんと同士討ちにさせるって言ってたけど大丈夫だよな? ウルトラキーを持ち出した弟なんて怪し過ぎるし肉親なら違和感には気づくだろうし……大丈夫だよな? (2回目)
──────◇◇◇──────
「おい、お前達大丈夫か⁉︎ ババルウ星人が現れたと聞いたが……」
「カラレス教官! ……本物ですか?」
「ババルウ星人の変身では無く?」
「……なんならお前達の普段の授業の様子を細大漏らさず言ってやろうか?」
「あ、本物みたいですね」
さて、そんなちょっとした掛け合いは有ったものの俺達は無事にカラレス教官率いる他チームと合流する事が出来たのだった……尚、カラレス教官がその言葉通り俺達の授業の様子を話した事と、向こうのチームの人がずっと一緒に居たと証言したので彼が本物だと証明されたりした。
……その後は教官に先程の戦闘について詳しい報告をしたのだが……。
「……そうか、今回の黒幕はババルウ星人だったか。……アイツらの変身は身内でも見分けられないレベルなのによく気が付いたな」
「見た目は完璧でしたが行動が親父としてはおかし過ぎたので、とりあえずブン殴って判別しました」
「…………そうか……」
ババルウ星人の名前を聞いて教官が顔を顰めていたので、ここは先程の事を詳しく報告すべきだと思い話したら何故か呆れられた……解せぬ。
……向こうはあからさまに怪しい行動をしていたんだし、姿が見知った相手でもとりあえずブン殴るべきじゃ無いですかね?
「……まあいい。事件の真実も隊長やウルトラ兄弟達にも既に報告済みだし、そう遠く無い内に解決するだろう。……っと、そんな事を言っているうちにゾフィー隊長からのウルトラサインが来たぞ」
「あ、ホントだ」
教官がそう言って指差した方向には『ウルトラキーの奪還に成功。ウルトラの星と地球の激突は回避された。今回の黒幕であるババルウ星人に囚われていたアストラも救出。ババルウ星人もレオによって撃破、これからウルトラの星を元の座標に戻すので宇宙警備隊員達は引き続き救出活動を続ける事。宇宙警備隊隊長ゾフィー』のウルトラサインがあった。
そして、それを見た訓練生達や警備隊員からは大きな歓声が上がった……いやー良かった良かった。今回はあまりにあまりな事態だったから流石に不安だったんだが無事解決して良かったよ。
「よし、それじゃあ懸念事項も消えた所で残りの救助活動を終わらせるぞ」
「「「「「はい、教官!!!」」」」」
そうして、俺達は教官や他の宇宙警備隊員達と協力してウルトラの星が戻ってくるまでに救助活動を終わらせるべく再び動き出したのであった。
尚、後日親父から今回の事件の詳しい話を聞いた所、ババルウ星人が化けたウルトラキー持ちのアストラをウルトラ兄弟がとりあえずボコってキーを奪い返そうとしたらレオさんとの同士討ちになりかけたとか……しかし、なんとそこで伝説の超人“ウルトラマンキング”が現れてババルウ星人の正体を見抜き、何だかんだあってウルトラキーを取り戻す事が出来てレオ兄弟もウルトラ兄弟に加わって一件落着したそうだ。
……きっと、ウルトラキーを奪うぐらいなんだし俺が戦ったのとは比べ物にならない頭脳派で演技派だったんだろう。多分。
あとがき・各種設定解説
アーク:ジェネレーションギャップゥ……
・基本的に身体の色が地球人で言う血液型程度の扱いなウルトラ族なので、リバーススタイルもあんまり問題にならなかった。
同期生達:陛下の事は名前ぐらいしか知らない
ウルトラの星:流石に復興にはしばらく時間が掛かる模様
ウルトラ兄弟&レオ兄弟:顛末は原作とほぼ同じ
・地球とウルトラの星の危機に焦って正体は不明だがとりあえずボコってウルトラキーを奪い返そうとして言葉が足りなかったウルトラ兄弟と、離れ離れになっていて久しぶりに再開した弟のピンチ(偽)に焦ったレオのすれ違いが原因で同士討ちが起こった模様。
・その後、ちょっとヤバいかなと思ったキング爺さんの参戦と、その直後にアークが出したウルトラサインで誤解が解けて無事に事件は解決した。
・その為、アークのウルトラサインが事件解決の一助になった事が原作との相違点になっており、レオ兄弟が彼の存在を知ったきっかけになった。
・尚、この後の展開は原作と同じ『恐怖の円盤生物シリーズ』になる。
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