とある士官学校が休みの日、俺は暇つぶしに光の国にある情報集積施設『アーカイブ』に来ていたのだが、そこで何か言い争っているタロウさんとトレギアさんと遭遇した。
どうやら彼等は地球と地球人についてお互いにどう思っているのかで言い争ってっていたらしく、その成り行きで何故か俺が地球や地球人についてどう思っているのかを話す事になったのだ。
……そして、今は地球で起きた痛ましい事件である【メイツ星人】の事について、俺はその詳しい話を聞いて自分自身が思った事を二人に語ろうとしていた。
「俺はこの【メイツ星人】が地球人に殺された事件の原因は『両者の価値観・常識の違いとそれによるすれ違い』だと考えています」
「それは……地球人が【メイツ星人】の事を理解しようとしなかったって事かい?」
俺の言ったその考えに対してトレギアさんは地球人側の非を主張したが、俺はそれだけでは無くこの事件の根底には【メイツ星人】側が地球や地球人に無理解だった事も原因にあると考えている。
「それも有るんですけど……そもそも、未だに宇宙進出していない地球のごく普通の一般市民が【メイツ星人】が善人なのか悪人なのか、そんな事なんて理解出来る筈が無いでしょう? ……さっきも散々言いましたが、宇宙人に侵略され続けてきた地球人にとってはウルトラマンの様な例外を除いて“宇宙人は悪い者”と言うのが当時の一般常識で、それが当たり前の考え方だったと思います」
「……まあ、そうだろうが……」
「と言うか、宇宙に進出していない黎明期の惑星文明にとっては“異なる能力・外見の相手は排斥する”のが
「……それは【メイツ星人】の方も地球人の事を何も理解していなかったという事かな?」
まあ、大体はトレギアさんの言った通りですかね……この事件は【メイツ星人】側が文明黎明期の地球で宇宙での常識が抜けきっていなかったのも原因の一つになっていると思うんだよな。
……例えば保護していた子供を庇うために【メイツ星人】は超能力を使用したと有るけど、超能力なんて一般的には存在しない地球では、むしろ恐怖を煽って排斥を強めるだけの結果になったと思われるしな。
「まあ、地球人の方に非がないとは言いませんけど【メイツ星人】の方も怪獣を封印している事を、そう言った話を聞いて、分かってもらえる防衛チームの人とかに説明して保護を求めるとかすれば……いや、それも難しいか」
「……この【メイツ星人】は地球に不法侵入した側だからね。彼が地球の情報を得て、そこの状況をある程度知っていたなら、地球の防衛チームにもし自分のことを知られたら問答無用で殺される可能性があると考えるのも当然か」
「……地球人にも話が分かる善き人達は大勢いるのだが……それはお互い長い時間を掛けなければ理解は出来ないものだからな……」
タロウさんの言う通り、地球人にも【メイツ星人】が保護していた子供の様に宇宙人とも分かり合おうとする善き人達が大勢いるんだろうとは俺も思う……むしろ、あれだけ宇宙人に散々侵略されているのにそう言った善性の人達やウルトラ兄弟を命がけで助けてくれた防衛チームみたいな正義感の強い人達が大勢いる時点で、地球人は本当に宇宙でも稀に見るぐらいに善性よりの種族であると言えるだろう。
……だって宇宙には惑星規模で他の星を侵略したり、略奪する事を生業としていたりする種族とかもいるしね。
「……ただ、彼らは、地球人は宇宙人と付き合うには余りにも未熟で経験も知識も足りなさ過ぎた。そして既に先に進んでいるが故に本来こちらから歩み寄るか、彼等が宇宙に巣立つ時まで待ってあげるべきである筈の宇宙人側もその殆どが地球に対して散々な侵略活動をする有り様。……この【メイツ星人】の悲劇を始めとするこれらの事件は、そう言った要因が重なり合って起きてしまったものだったんだと思います」
そもそも地球ではまだ惑星規模での統一国家やそれに準ずる組織すら出来ていないので、宇宙に存在する様々な価値観を持つ多種族と当たり前に交流出来る程に文明的・精神的に成熟にするのは後数百年は先の話になると思うんだよ。
……本来、宇宙進出を始めた惑星との接触や外交はもっと慎重に行い、その上で発生してしまうトラブルを時間を掛けて相互に協力した上で解決していくのが理想系な筈なんだけどな……。
「ただでさえ宇宙進出をし始めた惑星では大小様々なトラブルが起きるものなのに、こんな混沌とした状況では色々と酷くなるのは当然でしょう。……むしろ地球はこんな状況でありながらこの類いのトラブルが起きた回数が非常に少ない方です。まあ、前例が他に無いから断言は出来ないですけど、普通はもっと酷いことになりそうなものなのに本当に良くやっていると思いますよ」
「……成る程、確かにアーク君の意見にも一理あるな。……だが、それだと今現在の地球が持っている武力の大きさが私には不安に思える」
俺は一通り自分なりの考えをタロウさんとトレギアさんに言い終わった……それに対して二人はしばらく考えこんだ後、まずトレギアさんがそんな疑問を口に出した。
「地球人が度重なる侵略に対抗する為に止む終えず武力を求めたと言うのは理解出来たのだが、精神面や文明面がまだ未熟な状態でそれだけ大きな武力を持ってしまっているのは問題じゃないか? ……もし地球人がその武力を以って過去に自分達が散々侵略されたからと逆に他の惑星へと侵略行為を行ったり、地球に攻めてくる可能性があると近くの有人惑星へ先制攻撃を仕掛けたりする可能性もあるんじゃ無いか?」
「……それでも、俺は地球人を信じるよ。トレギア」
トレギアさんがそう言っている間それを黙って聞いていたタロウさんは静かに、だが力強くそれだけを口に出した。
「確かにトレギアが言った通り地球人達がそんな未来を選ぶ可能性もあるだろう。……だが、俺は地球で一人の人間として生きていた間に様々な人間を見てきた。その中には悪い人間も数多くいたが、それ以上に良き心を持つ者達もいたのだ」
そう言ったタロウさんは、彼が地球で旅をしていた時に出会った様々な人間の話をしていった……その中で語られて人達の殆どは別に防衛チームの人の様に怪獣や宇宙人と戦ったり、むしろごく普通に生きているだけの一般人であった。
それは例えばボクシングのトレーナーとして働いていた時の教え子が始めた試合に勝った際に共に喜びを分かち合ったり、或いは寿司屋でバイトをしていた時に先輩に色々教えて貰ったり、或いは落語を聞きにいったらとても面白かっただのという、ありふれた話だった。
……だが、その事を語るタロウさんの表情がとても輝いている様に見えて、それが何より雄弁に彼が地球人の事を愛していると伝わって来て、俺もトレギアさんも何も言えなかったのだ。
「だから、私達ウルトラ兄弟は地球人達がいつか正しい形で宇宙へと進出して、私達と本当の意味で友人になれる日が来ると信じている。……それまでは彼等が自分達の力だけでは乗り越えられない危機に直面した時に、それを乗り越えられる様な手伝いを私達は続けよう。……そして、もし彼等が道を誤る様な時が来たのなら、その時は私達ウルトラ兄弟の手によって彼等を止める事も覚悟している」
「…………ハァ……分かった。……タロウ、君がそこまで言うなら私はもう地球人に関して君にとやかく言わないさ」
タロウさんが語った地球人を“信じる覚悟”を聞いたトレギアさんはどこか呆れた様な、或いは何処と無く嬉しそうに雰囲気で溜息を吐きつつ、少し寂しそうな感じでそう言った。
……やっぱり本当に地球の為に命掛けで戦って来たウルトラ兄弟の言葉には、俺の薄っぺらな意見と違ってこれ以上ないくらい説得力があるよなぁ……。
「しかし、そこまで言うなら地球人に宇宙側の詳しい事情を教えれば良いと思うんだが……それは不味いしな」
「ああ、ウルトラの星が所属している『銀河連邦』には、宇宙進出のレベルに満たない文明の惑星への干渉は最低限に留めるべきだと言う各種法律があるからな。……我々、光の国の宇宙警備隊にはかなり大きな裁量権が与えられているが、だからこそ最低限の干渉に留める必要があるんだ」
「下手に口を出すと他の銀河連邦所属の惑星が『ウルトラ兄弟がやるなら、俺達もやって良いだろう』みたいな理由で、これ幸いと利権目当てで地球へ内政干渉して来て状況が更に混沌として来かねませんからね。……そう言った事がないのもウルトラ兄弟が最低限の干渉に留めているからですし」
ちなみに『銀河連邦』とはこの宇宙に存在する複数の惑星・種族による主に侵略などを積極的に行う者達から身を守る目的で結成された連合組織で、このウルトラの星も所属している
……地球は色々あったせいで宇宙でも注目度の高い惑星だから、将来的な利権目当てで穏健的な“交流”を目論んでいる連邦所属の惑星が結構いたりするのだ。ウルトラ兄弟が今も地球圏をこっそり防衛しているのは、侵略から地球を守る為だけでは無くそう言った連中への牽制を兼ねていたりする。
「先程トレギアも言った通り地球は高い戦力を持ってしまっているから、文明黎明期の惑星としては特例として銀河連邦との“外交”や“交渉”を行うべきでは無いかと言う派閥も一部あってな……」
「……そこは“支配下に置きたい”や“利権を得たい”の間違いじゃないのかい?」
「駄目ですよトレギアさん、タロウさんがせっかく当たり障りの無い言い方にしたのに」
そんな感じで、ウルトラ兄弟が色々なリスクを覚悟した上で地球への干渉を最小限に留めているのは、下手に手を出すと状況が更に混乱しかねないからでもあったりする……まあ基本は地球人の自主独立を信じているからなんだけどね。
……侵略者と違ってブン殴るだけじゃ解決出来ない問題だから、下手をするとこっちの方が厄介かもしれないけど。
「ウルトラの星って外交そんなに上手くないですからねー。圧倒的な保有戦力による権威でごり押ししてる感じだし。やっぱり種族としての極性が善性に偏ってるから、時には騙し合いが必要な交渉とかは上手く無いのか……トレギアさん、どうしました?」
「ああいや……アーク君、君は考え方が
俺が適当に自分の考えを言っていたら、何故かトレギアさんが非常に感心した様な雰囲気で頷きながらそう言った……いや、そんな大層なものでは無いんですけど……。
「ええと……俺のは単に聞いた事のある情報から、なんかそれっぽい事を言っているだけの薄っぺらい意見なんですが……」
「そんな事は無いぞアーク。……俺は地球での任務や生活の中で片方の面から見れば正義だとしても、別の側面から見れば悪になる様な物事を沢山見てきた。だから光と闇、どちらか一方から見るだけでは本当の意味で何が正義で、何が悪か、それに気付く事が出来ないと知ったのだ」
そう言って俺を見ながら己の考えを話すタロウさんの雰囲気は非常に真剣なものであった……その雰囲気に当てられたのかトレギアさんも同じく真剣な表情で彼の話に聞き入っているぐらいだった。
「アーク、確かにお前の言う通りこの光の国は高い善性を持つところだ。故にそちら側からの見方だけでは気付けない事もあるかもしれないのだ。……お前のその視野の広さと客観的に物事を捉えられる価値観は、いずれこのウルトラの星に必要になりうる優れた資質だ。もっと自信を持つと良い」
「タロウさん……ありがとうございます」
……正直言って、生まれつきこんな考え方しか出来ない自分の事はあんまり好きでは無かったんだけど、タロウ“教官”の言葉のお陰で少しだけ前向きに宇宙警備隊を……“ウルトラマン”になる事を目指せる気になったかな……。
「中々良い教官っぷりだったじゃ無いかタロウ。……私としてもアーク君の意見は色々と
「いえ、こちらこそ色々話せて良かったです」
そんな風にタロウさんを少し茶化しながらトレギアさんがお礼を言って来たので、こちらからも今回の問答は自分を見つめ直すきっかけなったと思った俺はキチンとした礼を返しておいた。
……うん、それにタロウさんとトレギアさんの雰囲気もギスギスした感じでは無くなっているし、とりあえず二人の中が元に戻ったみたいで良かったよ。
「それじゃあ俺は今度の授業の準備とかがあるからそろそろ帰らせて貰うぞ。……アーク、また士官学校で会おう」
「私も『タイガスパーク』関連で色々とする事があるからここで失礼するよ。……君との話は本当に興味深いものだったよ。お陰で私が今抱いている
「はい、俺はもうちょっとアーカイブで暇を潰してから帰ろうと思います」
……そうしてアーカイブから出て行った二人を見送った俺は、当初の予定とはちょっと違う地球関連の情報を検索しながら休日を過ごして行ったのだった。
あとがき・各種設定解説
アーク:帰りにTOY一番星製のゲームを久しぶりに買ってみた
・尚、プレイする時間が無いので積みゲーになる模様。
タロウ:トレギアとの中が改善出来てにっこり
・地球では各地を旅しつつ様々な事に挑戦していた模様。
トレギア:今回の件で光と闇は表裏一体ではないかと考え始めた
・タロウが地球について語っていた時には地球人に超嫉妬しながらも、やっぱりタロウは超かっこいい! みたいな内心だった模様。
・今回の一件で真実に至るためには光だけでなく闇についても深く知らなければならないと思い行動していく事になる。
銀河連邦:SFお約束の善玉組織
・大昔に侵略や暴力が蔓延っていた(今も蔓延っていないとは言っていない)M78スペースで自分達の種族だけでは身を守りきれない惑星同士が組んだ連合組織。
・その後も自分の身を守れない多くの惑星が加盟した為、現在ではM78スペースでも最大規模の勢力になっており宇宙での一般法律なども制定している。
・ただ、この宇宙では力ある種族は自主独立を選ぶ事が多いので、加盟惑星個々の戦力は一部(ウルトラの星とか)を除き低い
・ウルトラの星は宇宙警備隊発足後に加盟しており、前述の理由から大歓迎されて宇宙での治安維持に多大な権限を与えられている。
・ウルトラの星の宇宙警備隊以外にも宇宙Gメンなどの各惑星の治安維持組織が協力して宇宙の平和を維持しているが、実の所宇宙警備隊とその同盟組織(TOY一番星・Z95星雲ピカリの国・アンドロ戦士団など)が全体の50%近くを対応しているぐらいに戦力差がある。
・その為、ウルトラの星の発言権は銀河連邦の中でも非常に高い……と言うか、加盟惑星は誰も敵に回したくないと思わせる抑止力となっている。
・なので、極端な善性を持つ彼等に目をつけられない様、この手の組織に有りがちな分かりやすい汚職や圧政などはかなり少なくなっている。
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