宇宙に輝くウルトラの星   作:貴司崎

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続々・アークの日記

 α月β日

 

 先日のアーカイブでの問答でタロウさんに言われた『アーク、お前はいずれ宇宙警備隊に必要な人間になるかもしれない』と言う言葉……正直言って俺はまだ自覚は持てない。

 ……昔から、いや生まれた時から俺はこの光の国の極端な善性を持つ感性に何故か馴染めなかった。どうしても悪い側にも一定の共感を抱いてしまうのだ。

 ただ、俺は別に悪い事がしたいと言う気になる訳ではなくてそういう事に関する嫌悪感もちゃんとあるし、親父を始めとするウルトラ兄弟の在り方について憧れを抱いたりもしている。だから宇宙警備隊に志願したんだし。

 

 実際、幼い頃から俺は周りからかなり浮いていて(今も浮いているとは言ってはいけない)かなりボッチな感じだったし。そういうのを完全に無視して俺に話しかけるど天然なメビウスが居なければ、今もずっとそうなっていたかもしれない。

 生まれつき持っている他者とは異なる力、生まれつき周囲とは異なる価値観。……宇宙警備隊に志願したのも親父達に憧れたからだけでは無く、この星の“光と善”の象徴みたいなそこに入れば自分の事を認められるかもしれないと考えたからでもあると思う。

 だが、先日のタロウさんの話を聞いて俺は多分それだけでは駄目だと感じた……彼の様にこの星の外に居る様々な人達と接して、そこから自分なりの“答え”を見つけて行くべきでは無いかと思ったのだ。

 

 ……そういう訳で、実は前々から少しずつ考えていたのだが卒業後の進路として『宇宙保安庁』を目指してみようと思う。あそこは宇宙の様々な星系を周り各地の調査や苦戦して居る支部の救援を行う部署なので、多くの人と接せられるという俺の目的に合致するだろう。

 それにタロウさんが言っていた客観的なものの見方が出来る俺の価値観や、今まで得て来た様々な知識も調査などを生業とするそこでなら活かせるだろう。

 とりあえず宇宙保安庁への入隊を目標に今後の訓練も頑張って行きたいと思う。

 

 

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 α月γ日

 

 士官学校のカリキュラムも後半に入って来たので、その内容も応用的なものが増えてきた今日この頃。俺は将来の進路として『宇宙保安庁』の入隊を目指す事をカラレス教官に伝えて、その為に何をすれば良いのかを相談してみた。

 ……俺の将来の進路を聞いた教官はやや驚いたものの快く相談に乗ってくれた為、以下の事を知る事が出来た。

 

 まず、基本的に宇宙保安庁や勇士司令部、宇宙情報局などの部署には宇宙警備隊で働いて居る中でそれらの部署に向いている者に移動の打診を出して、その者がやる気があれば(断る事も出来る)受託してその部署に移動するというのが一般的だそうだ。

 最も、この事については以前から知っていたし講義でも習ったから改めて確認しただけであり、重要なのはこの後カラレス教官が教えてくれた事である『士官学校の成績優秀者は教官からの推薦と本人の希望とその部署の判断次第で、卒業後に直接それらの部署に配属される事が出来る』制度の事である。

 

 この制度は最近になって親父と各部署の長が協力して最近制定されたものらしく、俺も知らなかったので少し驚いた。どうやら今後俺達訓練生に公表する予定だったらしい。

 何でも近年この宇宙の治安悪化を受けて宇宙警備隊の人員が少しずつ不足していっており、特に専門的な技術や経験が必要なこれらの部署は徐々に業務がキツくなっているのだとか。

 幸いまだ業務に支障が出るレベルでは無いので、いっその事余裕のある今の内に若い人材を自分達の所で育成する事で、将来的な業務の増大に備えて部署の戦力を拡充する目的で制定された様だ。

 

 もちろん、これらは専門的な部署なので普通の警備隊員よりも高い能力が必要とされる為、本人の希望だけで無く士官学校での成績や教官からの推薦も必要になってくる……が、俺はこれでも士官学校首席! 更に宇宙警備隊隊長の息子というネームバリュー(笑)とバット星人やババルウ星人事件での活躍などから推薦するだけの信頼は問題無いそうだ。

 

 とりあえずカラレス教官は宇宙保安庁の方に俺の推薦をしておいてくれるとそうだ。教官曰く『宇宙保安庁や宇宙情報局は戦闘以外に特殊な技術や経験を必要とするから万年人材不足気味だし、士官学校首席が希望すれば向こうも諸手を上げて喜ぶんじゃないか』との事。

 ……まあ、これで将来の進路も(多分)決まったし卒業までに残りのカリキュラムもしっかりとやりますかね。

 

 

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 Σ月Ω日

 

 今日は久しぶりに親父が家に帰って来た。どうもヤプールの封印の為にウルトラ兄弟四人が地球に滞在する事になって親父の仕事も増えているらしい。折角なので少し世間話をしてみたら、どうやら地球関連でまた厄介な事が起きていたらしい(またかよ)

 ……と思ったのだが厄介な事は起きたのはこの宇宙の地球では無く、こことは()()()()()()の地球だという話だから俺も結構驚いてしまった。

 

 詳しく話を聞くとヤプールが地球に封印されて以降、地球の周辺に次元の歪みの様なモノが観測されていたらしく、封印されたヤプールが何らかに干渉を行なっている事も考慮して宇宙科学技術局が中心となって調査を進めていたのだが……ある時、この宇宙の地球とよく似た、だが明確に違う並行世界の地球がこの世界の地球に重なる様に観測されたらしい。

 尚、最初に並行世界の地球を見つけたのは調査の指揮を執っていた親父らしく、何でも『こことは異なる世界の地球から助けを求める“星の声”が聞こえた』のだとか。

 ……それを聞いた俺はつい働き過ぎで幻聴でも聞こえたんじゃないかと思ってしまったが、親父曰く『“星の声”とはその星とそこに生きる全ての生命が発する意思の様なモノで、その星を守ろうとしてきた我らウルトラ兄弟を何度も導き助けてくれた』らしい。正直よく分からんが幻聴とかではない様だ。

 

 とにかく、並行世界の地球が観測されたという事は世界間の次元の境界線が歪んでいるという事なので、早急に何らかの対処を行わなければこの宇宙の地球に甚大な被害が出るかもしれないと言う声が上がったらしい。

 そこで同行していたチームUSAのスコットさん、チャックさん、ベスさんの三人が並行世界の地球へ調査に向かう事となった様だ……最初は“星の声”を聞いた親父が行こうとしたんだが、指揮を執る隊長がこの場を離れる訳にはいかないと判断したらしい。当然だな。

 ……まあ、親父は三人に『“星の声”は助けを求めていた。もし並行世界の地球に助けを求める者がいるなら宇宙警備隊として力になってやれ』と言って三人に戦闘許可を出して送り出した様だが。

 

 その後、チームUSAの三人は並行世界の地球で起きた事件を解決したのだが、そんな彼等が帰還した直後にまるでもう役目を終えたかの様に次元の歪みが消えて並行世界の地球が観測出来なくなったのだとか。

 それから引き続き地球の監視を続けていると更に二回程同様の現象が観測されたらしく、加えて二度目に観測された地球には宇宙の全ての生命を自身に取り込み、滅ぼそうと企んだ悪魔のような生命体【邪悪生命体 ゴーデス】が、三度目に観測された地球にはバルタン星人の過激派が入り込んでいると報告されたのだとか。

 コイツらがいつ並行世界に入り込んだのか、或いは入り込んだから観測出来る様になったのかは分からなかったらしいが放置する訳にも行かず、任務でそれぞれの相手を追っていたグレートさんとパワードさんが並行世界の地球に派遣されたらしい。

 ……そして彼等がその地球で起きた事件を解決したら、また同じ様にそれらの地球は再び観測出来なくなったのだそうだ。

 

 この現象については宇宙警備隊の方でもまだよく分かっていないらしいが、今後も同じ事が起きる可能性もあるとして地球周辺の次元の観測は継続していっているそうだ。

 推測としては『次元の悪魔とも呼ばれるヤプールのマイナスエネルギーによって、何らかの悲劇が訪れる並行世界の地球と一時的に繋がってしまったのではないか』という説もあるが詳細は不明である……ウルトラの星でも並行世界──マルチバースの研究はあんまり進んでいないからな。今後の研究と調査が待たれる。

 

 ……後、俺が宇宙保安庁を志望している事を親父も知ったらしく(最近会ってなかったから聞いていなかった)自分で決めたのならやり通せと激励を貰った。頑張ろう。

 

 

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 Σ月α日

 

 追加報告。どうやらまた並行世界の地球が観測されたらしく、今回はZ95星雲にある宇宙の環境保護を主な活動としている光の国とも同盟関係にある『ピカリの国』から人員が派遣される事になったという情報が入って来た。

 何でも向こうが追っている【ベンゼン星人】の一人の反応がその地球に観測されたらしく、光の国に協力を求めて来たので並行世界の地球の各種データを渡したとの事。

 ……流石に星が違うからこれ以上の事は分からなかったが、本当にどの世界でも色々と事件が起きるな地球。

 

 

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 Δ月β日

 

 今日も今日とて士官学校で訓練の日々である……と言っても、戦闘能力の面では俺はほぼ問題無いなどとタロウ教官、カラレス教官から言われているので、カラレス教官おススメの宇宙保安庁で使えそうな技術や知識を学ぶ事にした。

 技術面においては人化技術の発展系である様々な姿・種族に擬態する変身技術、知識面においてはこの宇宙に存在する様々な生物・文化・風習を学ぶ応用宇宙文化学とか応用宇宙生態学などを追加でやっている。

 

 学習面に関しては以前からアーカイブなどで節操無く知識を得ていたので、特に問題無く進んでいる。これでも知識を得る為の勉強は好きな方なんでな……問題があるのは変身能力の方だ。

 俺は肉体変化系技術の適正は高いから変身自体は出来るのだが、好きな姿に変身するにはその姿を正確に頭の中に思い浮かべるイメージ力が重要になってくるのだ。写真で見た姿をそのまま真似するのは簡単に出来るのだが、自分のイメージだけで変身すると微妙に変な感じになってしまう。

 ……どうやら俺はイメージ力に関する才能は余り無かったらしい。覚えた技も殆どが親父かウルトラ兄弟の真似だからな……。

 

 

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 Λ月γ日

 

 今日の応用宇宙生態学は意外と興味深かった……まさか【パゴス】と【ネロンガ】と【マグラー】と【ガボラ】が種族的にはかなり近い種で、その大本は“バラナスドラゴン”という恐竜だったと言うのは初めて聞いたな。

 ……確かに良く見てみるとこの四種は骨格などがそっくりだし、あらためて言われると近似種だと納得できるな。しかし骨格はほぼ同じなのにここまで別物に見えるとは、生物と言うのは不思議なものである。

 授業では他にも【チャンドラー】と【ペギラ】が元は同種の怪獣が住んでいる環境の気候で異なる姿に進化したものだという話や、【ゴメス】と【ジラース】は元を辿ると大昔に生きていた“とある恐竜”に行き着くだのというマニアックな知識を得る事が出来て結構面白かった。

 

 

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 β月α日

 

 今日は応用宇宙文化学でこの宇宙に於ける宇宙警備隊的に要注意な種族について学んだ……その中でも印象的だったのは【バルタン星人】の事についてだったな。

 地球でウルトラ兄弟と何度も戦っている事で有名な【バルタン星人】だが、彼等は元々“全てのバルタン星人が一つの意志を共有している”という特殊な生態をしていたのだと言う。どうも彼等は種族をより高位に進化させようとしていたらしく、昔に全バルタン星人の意思を共有させ“個”を捨てて種族そのものを一つの生命体とする事が究極の進化だと結論付けたらしい。

 ……その行動の正誤は今は問わないが、少なくともそれまで【バルタン星人】の間で起きていた同属同士の争いは一切無くなったそうだ。まあ“自分自身”と積極的に争おうとは思わないだろうな。

 また、意思を共有した事で【バルタン星人】という一つの生命となった影響なのか“個を持つ生命”というものを理解出来なくなり、更に感情などもかなり希薄になった所為で、他の種族への配慮が欠けてしまい宇宙警備隊を始めとする他の種族と何度も衝突する事にもなったが。

 

 だが、その意思の統合作業上手くいっていなかったのか、或いは長時間の統合で何かバグでも起きたのか……ある日突然一部のバルタン星人が何故か共有意思を無視する様になり、遂には核兵器を使って母星を滅ぼしてしまったのだ。

 ……どうしてそんな実質自殺の様な事になったのかは未だに分かってはいないが、その後に滅び行く母星を捨て幾つかにのグループに別れて宇宙へ逃げた【バルタン星人】の共有意思はそれぞれのグループ毎に別れてしまったらしい。

 

 具体的には地球でウルトラマンさんと戦った地球への移住を図った一派……というか、本来の【バルタン星人】の意思に近い“他の生命を理解出来ない共有意思を持つグループ”が有名か。

 彼等は自分達の新たな移住先として地球に住もうとしたのだが、その際に未だに黎明期の文明である地球人では【バルタン星人】と確実な争いとなるから火星などの別の惑星にしたらどうだ、とウルトラマンさんに説得されたそうだ。

 ……だが、“生命”を理解出来なかった彼等は『それならば自分達が移住する為に人類を滅ぼすしかない』と考えて先行していた一体は巨大化して破壊活動を行い、更には宇宙船に積まれていた生物兵器で地球人を虐殺しようとした為、ウルトラマンさんは止む終えず彼等を倒すしか無かったのだとか。

 まあ、これで地球に来た【バルタン星人】が全滅した訳ではなく、私怨からその後も幾度に渡って地球とウルトラ兄弟に復讐戦を挑んで行ったのだが……それらの個体は数が減り過ぎて共有意思が無くなったのか、各々でかなり強い個性を持ち始めたという。

 ……そもそも私怨や復讐の為に動いている時点で、“生命”が理解出来ず感情が希薄とは言えないのではないかと俺は考えているが……。

 

 ちなみに他にはパワードさんが追っていた積極的に他の星を侵略しようとするグループや、生き残り同士で宇宙の片隅でひっそりと暮らしている穏健派グループ、更には完全に個を持つようになって単独行動している【バルタン星人】もいるのだとか。

 ……本当にこの宇宙には色々な価値観があると改めて考え直された話でした。

 

 

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 Ω月Σ日

 

 今日は久しぶりに戦闘訓練に顔を出した、ここの所は座学ばかりだったからな……尚、俺は既に卒業までの単位は取得済みなので後は自主練だけやってればいい感じである。

 まあ、そういう訳で訓練としてメビウスと10本勝負の模擬戦を行ったのだが、俺はシルバースタイルのみでの戦いとは言えなんとメビウスに五本も取られてしまったのだ。

 

 前までは俺の勝利が八割ぐらいだったのでメビウスはこの短期間でかなり強くなっている様だ。どうもタロウ教官の指導を同期の誰より積極的に受けたのが理由らしい……俺も似たような理由(ウルトラ兄弟式スパルタ指導)で強くなったから納得だな。メビウスは元々資質はあったのだし。

 ……尚、その後にメビウスが天然のくせに調子に乗って『アークって腕落ちた?』とか聞いて来たので、最近覚えたシルバースタイルとリバーススタイルを瞬時に切り替える『高速タイプチェンジ』を含めた全力で10連勝して差し上げたが。これでも日々の戦闘訓練は怠っていないのだ。

 兎に角、士官学校ももう少しで卒業だから同期全員最後の追い込みに掛かっているし、俺も宇宙保安庁就職に向けて頑張っていこうか。




あとがき・各種設定解説

アーク:将来の進路が決まった
・何だかんだ言ってもメビウスの事は親友だと思っている人。

並行世界の地球:この作品の独自設定
・ウルトラマン〜メビウスまでが訪れた地球と整合性が合わない地球に訪れたM78スペースのウルトラマンは、この現象で観測されたマルチバースの地球に訪れた設定で行きます。
・尚、マルチバースはウルトラの星でもまだ未知の概念であり、他にやる事が沢山ある事もあってマルチバースの研究は中々進まない模様。

応用宇宙生物学:主に着ぐるみとかモチーフとかが元ネタ。

【バルタン星人】:鳴き声は印象的なウルトラシリーズに登場する宇宙人の中で最も有名な方達
・共有意思に関しては『story0』の設定で、代が進む毎にキャラが立って来た彼等の設定としてこういう形式を採用しました。
・ウルトラマンが彼等の宇宙船を破壊した事は結構突っ込まれるので、この作品では透視光線で即座に破壊しなければならない生物兵器を投下寸前だった設定になりました。


読了ありがとうございます。
時系列が結構飛ぶので日記形式にしました。もうそろそろ士官学校編が終わりそうですし、卒業後の宇宙警備隊編について考えていかないと……。

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