宇宙に輝くウルトラの星   作:貴司崎

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新装備運用実験(前編)

 この俺、ウルトラの星の宇宙警備隊見習いのアークは久しぶりに宇宙科学技術局に足を運んでいた……何でも、向こうから親父を通して今開発している()()()()()の試験に付き合って貰えないかと言う話が来たのだ。

 ……しかし、何故俺が新アイテムの試験をやる事になったのだろうか? こういうのはベテランの警備隊員がやるのが普通だと思うんだが。

 

(或いは試験に俺の特殊能力であるリバーススタイルとかが必要なのかもしれないが……とにかく技術局に行って詳しい話を聞けばいいか)

 

 俺がそう考えていたら宇宙科学技術局に到着していたので、とりあえず中に入っていつも通り受付に用件を告げた後で何時もの研究室に向かって行ったのだった。

 ……そこで待っていたのはやはり何時も通りのフレアさんにトレギアさん……と、これまた何時ものマッド達だった。彼等は何かの作業をしている様で妙に静かだったが。

 

「おー! よく来てくれたなアーク。士官学校の卒業も近いのにわざわざ呼び出してしまって済まないな」

「いえ、もう卒業までの単位は既に取得済みですから大丈夫ですよ。最近は宇宙保安庁への就職を目指して応用技術を学んでいますが、それもひと段落ついた所ですし」

「うん、それは聞いているよ。……士官学校首席であるゾフィー隊長の息子が宇宙保安庁を目指しているってのは、宇宙警備隊の中で結構噂になっていたしね」

 

 え、マジで⁉︎ ……その後トレギアさんから詳しく話を聞くと、どうやら例の士官学校卒業生をそれぞれの部署へ直接引き抜く制度が出来てから、宇宙警備隊内部では優秀な卒業生の引き抜きの為に色々と調べたりしていた様だ。

 その中で宇宙警備隊隊長の息子であり士官学校首席の俺を自分達の部署に入れられないか行動していた人達も居たらしく、そこから俺が宇宙保安庁を志望した事が漏れたらしい。

 ……まあ、有名になる事自体は親父が親父だし今更だから別に良いんだが、俺も大分有名になったもんだなぁ……。

 

「……それはともかくとして、今日は一体何の実験なんですか? 親父を介して俺を呼んだ以上は何時ものデータ収集とは違うんでしょう?」

「ああ、もう伝わってると思うが今回お前に頼みたいのは開発中の新装備の試験運用だ。……お前の事だから『何で見習いの俺がやる必要があるんだ? ベテランの隊員にやらせるべきでは?』とか考えついているんだろうが、その辺りには事情があってな」

「要するに、この新装備はアーク君の『リバーススタイル』の研究データが使われているんですよ。……今から詳しく説明させて貰いますね」

 

 フレアさんとトレギアさん曰く、今回の新装備は近年外宇宙やマルチバースなどの特殊な環境下での過酷な戦闘を初めとする活動が増えてきた宇宙警備隊において、そういった環境への適応や戦闘能力上昇などを複合的に行う多目的デバイスとして開発が進められた物だという。

 ……確かに最近は地球とか並行世界の地球とか(どっちも地球じゃんとか言ってはいけない)でそういう活動が増えてきたし、そんな新装備があるのなら頼りになるだろうな。

 

「それって以前トレギアさんが言っていた『タイガスパーク』みたいな物ですか?」

「いや、私とタロウの『タイガスパーク』とはまた別系統だね。あちらは現地住民との融合の効率化とそれによる長時間活動が主軸だけど、こっちはウルトラ戦士単体での行動補助が主軸になっている物だから。……まあ、運用データの一部は使われているけどね。それじゃあ続きを「「「ここからは私達が説明しましょう!!!」」」ちょ⁉︎」

 

 そんな風にトレギアさんが話を続けようとすると、何故かさっきまで大人しかったマッド達がいきなり割り込んできた……どうやら彼等は“ちからをためている”状態だった様だ。さっきまでしていた作業にひと段落ついたからかもしれないが。

 ……その後、多少のすったもんだがあったがフレアさんが『今回はコイツらが主体で行った研究開発だし説明させるぐらいはいいだろう。……そのお目付役として俺がいるんだし』と、やや遠い目をしながら言った事でマッド達の代表であるマーブル博士が説明する方針で纏まった。全員が好き勝手話すと収拾が付かなくなるからな。

 

「そういう訳で続きを説明していきますね! ……今回の新装備は先程トレギア君が言った通り装着者の特殊環境適応と戦闘能力向上を狙った物なのですが、元は『ウルトラ心臓』や『ウルトラホーン』の様な特定のウルトラ族にしか無い器官を人工的に再現出来ないかという研究から始まったんですよね」

 

 マーブル博士曰く、肉体が粉微塵になっても再生を可能とするとウルトラ心臓や、膨大なエネルギーを集束・制御出来る様になり果てはウルトラ戦士同士の合体なども可能とするウルトラホーンなどの特殊器官は、その強力な特性と引き換えに宿している者が非常に少ない代物であった。

 ……そして、以前からそういった特殊器官の事を研究していたマーブル博士とその研究チームは今回()()()()()()から依頼のあった新装備の開発に対して、それらの研究データを元に人工的な外付け可能な特殊器官の開発に踏み切ったのだと言う。

 

「……ていうか、この依頼って大隊長からだったんですか?」

「そうだよー。お陰で予算も潤沢だから実に良い感じに研究出来たし、ウルトラ心臓とウルトラホーンのデータ収集も依頼してきたケンが協力してくれたから実にスムーズに進んだよ。……そして! これがさっき調整が終わった新装備の試作型になります! デデドン!」

 

 そう言って何故か擬音と共にマーブル博士が取り出したのは、赤色をベースに黒と銀の色が入った細長い六角形っぽい形状をしていて中央部分に球体のパーツが埋め込まれているデバイスだった……大きさ的には大体腕につけるタイプの変身用装備ぐらいかな。

 

「これが私達宇宙科学技術局の新型アイテム『試作生態融合型エネルギー運用デバイス(仮)』だ!!! ……名前に関しては完成してから決めるので突っ込まないでほしい」

「「「「「パチパチパチパチパチパチパチパチ──!!!」」」」」

「……それは分かりましたが、どうしてコレのテストを行う者として俺を呼んだんですか? こういう物のテストはもっとベテラン隊員とかがやった方がいいのでは?」

 

 マーブル博士がその試作エネルギー運用デバイス(仮)を紹介するのと同時に後ろのマッド達が拍手するのをスルーして、俺は今日ずっと疑問に思っていた事を改めて聞いてみた。

 ……するとマーブル博士を含む研究員全員が途端にテンションを下げて溜息をつき始めた。

 

「……あー、それはねー……このデバイスにはウルトラホーンの機能を疑似再現した装着者のエネルギー蓄積・増幅・解放機能や他者のエネルギーを自分に収集させて融合すら可能とさせる機能、それにウルトラ心臓の様に肉体が粉微塵になっても再生を可能とする生命維持機能、更にはケンやアーク君のタイプチェンジ能力を参考にした装着者の肉体変容を補助する機能などがてんこ盛りなんだが」

「なんだが?」

「……これまで試験の為に呼んだ隊員達には誰一人として適合せず、その機能を発揮する事が出来なかったんだよ……」

「ダメじゃないですか」

 

 詳しく話を聞くと、このデバイスはカラータイマーみたいに肉体に融合させて使う物で融合させたり取り外したりは問題無く出来るのだが、機構が複雑過ぎる所為かこれまでの被験者は人によって機能を一部だけ使えたり、或いは全て使えなかったなどとマチマチでまともな動作データが取れなかったらしい。

 ……一応、ウルトラの父が試した時は上手く動作したらしいが、元々ウルトラホーンとウルトラ心臓がある大隊長ではデバイスの機能の殆どが意味が無く良いデータは取れなかったとの事。

 

「そういう訳でケン以外でこのデバイスの機能を全て引き出せそうな人員として、ケンと同じ様に既にタイプチェンジ能力が使えてデバイスの製作時にデータが使われているアーク君ならいけると思って呼んだのよ。……だからお願いっ! このデバイスのテスト運用をして欲しいの! 運用データさえ! まともな運用データさえ取れれば稼働率の問題を改善する目処は立っているから!」

「もちろんタダでとは言わん、この試作型デバイスは調整を施した上で君にプレゼントしようではないか。変身補助機能やアイテムの保管機能など様々な便利機能を備えているからお得だぞ!」

「何なら卒業祝いも兼ねての追加プレゼントもあげるから! この『怪獣ボール』とか!」

「それジャックとセブンに酷評されて博物館行きになりそうなやつだろ。……ここはこの『ウルトラマジックレイマークII』を……」

「……というか、この試作機作るのに大分予算を使ってるからここでコケるのはマジでヤバイ……」

「ウルトラの父から頂いた希少鉱石『ダイモードクリスタル』も結構使っちゃったし、流石にここまで来て出来ませんでしたは……」

「……お、おおう……」

 

 そんな感じで、マーブル博士を始めとするマッド達が拝み倒してきたので思わず俺は一歩下がってしまった……まあ、大隊長が関わっている以上は宇宙警備隊員としても断るという選択肢は無いし、彼等にも世話になっているから助けてやっても良いと思ってはいる。

 ……だから、物で釣るためにプレゼントと称して色々変な物を押し付けるのはやめてほしい。

 

「分かりました! 分かりましたから! そこまで言わなくても実験に協力しますよ。……ただ、ちゃんとしたデータが取れるかは分かりませんからね」

「ありがとうアーク君! それに大丈夫よ、試算ではこの試作デバイスに君が適合する確率は98%と出てるから!」

「ふははは! 98%ならもうほぼ100%みたいな者だろう! 勝ったな!」

「……この研究が終わったら、俺は今度こそ自宅の積みゲーを消化するんだ……」

 

 ……以前やったシミュレーションゲームでは命中率98%の攻撃が外れて、反撃の命中率2%の攻撃が当たってユニットがロストしたりしたんだけどね……。

 

「さてさて、じゃあ早速この試作デバイスを着けてみようか。これは腕に付けるタイプだけどどっちがいい?」

「えーっと、それじゃあ右腕で」

「はいはーい、それじゃあ腕出してね〜。大丈夫、カラータイマーの技術のちょっとした応用で、ピカッとしたら直ぐにくっついて痛みも一切無いから。……はいピカー!」

 

 そうして俺が前に出した右腕でマーブル博士が試作型デバイスをくっつけると、相変わらずの気の抜ける様な擬音と共に右腕とデバイスが光り輝いた……そして数秒後に光が収まった時には俺の右腕と試作デバイスが完全に融合していたのだ。

 ……軽く腕を動かしてみても違和感は一切無いし、さっきのマーブル博士がやった融合技術も以前カラータイマー移植手術の時に見たそれと比べても遥かに高度であると素人目にも分かるレベルだったから、本当に技術面に於いてはこの人達は超一流なんだよな。

 

「それじゃあ、早速実験室でテストしてようか! ……ふひひひひ、やっとまともなデータが取れる……」

「よっしゃ! お前達機材を準備しろ! 情報は一つも漏らさずに記録するんだ!」

「「「アラホラサッサー!!!」」」

 

 ……本当に技術面に関して()()は超一流なんだけどなぁ……。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『はーい。アーク君、準備は出来た〜?』

「はい、大丈夫です」

 

 そんな訳で俺は試作デバイスのテスト運用をする為に何時もの実験室に入っていた……さて、このデバイスは一体どれほどの力があるのか、さっき一通りの説明が乗った資料(分厚い)を少し読んだところ凄い性能みたいだしちょっと楽しみでもあるな。

 

『それじゃあ試作デバイスの試験を始めるわ。……まず、デバイスに付いている球体『クリスタルサークル』に手をかざして回転させる事で蓄積されているエネルギーが解放されるから、それを光線技に上乗せして放ってみて頂戴。的は出しておくわ』

「分かりました……セヤッ!」

 

 そうして俺は言われた通り右腕の試作デバイスの球体部分『クリスタルサークル』に左手をかざして、そのまま一気に振り抜く事でそれを勢いよく回転させた。

 ……すると、俺のエネルギーが蓄積されていた試作デバイスから増幅されたエネルギーが溢れ出し、俺の右腕を中心として身体の周囲を滞留し始めたのだ。

 

『エネルギー蓄積・増幅・解放機能共に正常稼働! 現在滞留状態を維持!』

『よっしゃあ! 試作デバイスの稼働率98%! 各種データもほぼ試算通りの値が出ています!』

『ふっ、アーク君を選んだ私の目に狂いは無かったわね。ケンの方はマジで期待はずれだったけど、これならどうにかなりそう。……それじゃあ光線を撃ってみて』

「はい……スペシウム光線!」

 

 そして俺は腕を十時に組み体内のエネルギーだけでなく、滞留しているエネルギーも使ってスペシウム光線を放った……すると大体俺が想定した出力を三割程上回る光線が発射されて、設置されていた的を粉々に吹き飛ばした。

 ……これは凄いな。俺が消費したエネルギーは何時もと同じなのに威力がこれだけ上がるとは。

 

『スペシウム光線の威力が事前のデータと比べて三割の上昇を確認! 試作デバイスの光線技増強機能は成功です!』

『よぉし! 直ぐに各種データを総浚いして問題点を洗い出せ!』

『中々良い感じね。……じゃあアーク君、他にも一通りの技をその試作デバイスを使いながら撃って貰えるかしら』

「分かりました」

 

 その後も俺はウルトラスラッシュ、ウルトラバーリア、アークレイショット、アークブレードなどの自分が使える技を試作デバイスの効果で威力を増幅させながら次々と使っていった。

 その結果分かった事は、まずこの試作デバイスの増幅機能はエネルギーを運用する技ならほぼ全てに適応出来る事……本当にこれは凄い、技の効果がほぼノーリスクで三割も増すとか凄いとしか言いようのない装備である。

 ……ただ、欠点と言うか機能上の問題として試作デバイス内部に蓄積されたエネルギーが無くなれば増幅効果は使えなくなるらしい。非戦闘時とかに余剰エネルギーを蓄積しておく機能とかもあるみたいだけど、連戦で元となるエネルギーが枯渇した状態だと増幅機能は使用不能になる様だ。

 

『よしよし、良い感じにデータが集まって来たわね。……それじゃあ、次は再生補助機能を試したいからちょっとウルトラダイナマイトしましょうか』

「はい、分かりまし……えっ⁉︎」

 

 なんかマーブル博士が極自然にそんな事を宣ったから、俺はついうっかり頷いてしまいそうになってしまった……一応タロウ教官からやり方は習っているので爆発は出来なくはないんだが、再生は練習しないと出来ないからなぁ。

 ……メビウスはタロウ教官の慣習で肉体の極一部を爆破してから再生させる感じの練習とかしてたけど、俺はそこまでしてまで自爆とか覚える気無かったしなぁ……。

 

『阿呆! いきなり自爆させようと奴がいるか!!!』

『痛ァ⁉︎ 流石に冗談よ〜。自分の身体を粉微塵にさせてから再生させるなんて頭おかしい技を使わせる訳無いじゃない。……再生補助機能のデータ収集はこれから戦闘データ収集を兼ねて行う模擬戦の中で取らせて貰うから』

「は、はぁ……」

 

 実験室の方からは何かを殴る様な音と共にフレアさんの怒鳴り声とマーブル博士の説明が聞こえて来たが、俺はそれを出来る限りスルーする様にして模擬戦に備えて精神を整えて行くのだった。

 ……やっぱりウルトラダイナマイトの練習もした方が良いのか? この試作デバイス後で貰えるみたいだし、今度タロウ教官に相談してみるかな。




あとがき・各種設定解説

試作生態融合型エネルギー運用デバイス(仮):アークの新装備(予定)
・これまでの宇宙の治安の乱れから遠からず大きな戦いが起きると思ったウルトラの父が、ウルトラ戦士の戦闘能力を引き上げる為に作成を依頼した装備の試作型。
・中心に付けられた『クリスタルサークル』にはかつてウルトラの父がウルトラマンキングから賜った、圧縮する事で超高エネルギーを発生させる希少鉱石『ダイモードクリスタル』が使用されている。
・ぶっちゃけると『メビウスブレス』のプロトタイプであり、外見はメビウスブレスの色を変えて炎っぽい意匠を無くしてシンプルなデザインにしたリデコ品。
・尚、潤沢な予算が与えられたマッド達によってアホみたいな性能となっているが、その分コスト面に難があり調整されたとしても量産は難しい模様。


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