宇宙に輝くウルトラの星   作:貴司崎

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新装備運用実験(後編)

『はーい、じゃあ二人共準備は良いかしら〜』

「ああ、私の方は問題ない。……アークはどうだ?」

「は、はい! 大丈夫です!」

 

 そんなこんなで、何故か俺は宇宙警備隊大隊長であるウルトラの父と共に宇宙科学技術局の実験室で試作生態融合型エネルギー運用デバイス(仮)の試験運用を行う事になっていた……改めて字面にしてみると訳が分からないよ()

 ……ウルトラの父とは親父の関係で以前に何度か会った事があるんだが、それはそれとして一宇宙警備隊員(見習い)としてその組織のトップが目の前に居ると基本小市民の俺は緊張してしまうのだ。

 

「……ふむ、そこまで緊張する事は無いぞアーク。私はこれでもエネルギーの受け渡しに関しては得意な方だからな」

『ケンはウルトラホーンのエネルギーを解放して強化形態に変身出来るぐらいには、各種エネルギーの運用技術に習熟しているからね。……ちなみに今もずっと強化形態に変身し続けているし。疲れないのかしら?』

「そ、そうなんですか……」

 

 ……緊張しているのは実験の事じゃなくて、伝説級の超有名人かつ勤めている組織のトップの人が目の前にいるから何ですがね……。

 

『それじゃあ今から行う実験内容を改めて確認するわね。……と言っても、やる事はケンがアーク君にエネルギーを譲渡してその経過を観測するだけなんだけど。アーク君にはエネルギーが譲渡された状態で光線技の一つでも撃ってくれれば良いから』

「了解しました」

「うむ。……ではアーク、準備が出来たのなら言ってくれ」

 

 そんな俺の心情をスルーしてさっさと話は進んでいった……まあ、こうなってしまったら腹をくくるしか無いか。所詮は只の実験だし何か面倒な事が起きる事も無いだろうさ。

 

「ふー……準備は出来ました。お願いします大隊長」

「分かった。……では行くぞ。ハァッ!」

 

 そうして覚悟を決めた俺は試作デバイスを付けた右腕を前に出して大隊長に準備が整ったと告げた……その直後、それを受け取った大隊長は頭の両側に聳え立つウルトラホーンから膨大なエネルギーを発生させて試作デバイスに照射した。

 ……ぬう、流石は大隊長と言うべきかとんでもないエネルギーの質と量だな。だけど試作デバイスのエネルギー蓄積機能はまだ正常に作動しているし、このまま蓄積されたエネルギーを俺の身体に還元していけば……。

 

「……よし、エネルギーの還元は問題無さそうだな。これほどの高エネルギーを受けても特に支障は無いし」

『うんうん、こっちの観測機器でもケンのエネルギーが安定してアーク君のエネルギーと融合しているのが計測されたね。……それじゃあケン、もうちょい送るエネルギーを増やしてみてー』

 

 ……まあ、いつも通りの無茶振りですね。知ってた(白眼)……まあ、マーブル博士はクッソ優秀なので本当に出来ない事をやれとは言わないのが救いなんだが。

 

「……ふむ……まあ、アークのエネルギーは安定している様であるし、ウルトラホーンを模した試作デバイスも正常に機能している様だから供給エネルギー量を多少上げても問題無いだろうが……危なくなったら直ぐに辞めてエネルギーを抜くからな」

「分かりました、お願いします! ……ぬおっ⁉︎」

 

 うむ、大隊長から流れ込んで来るエネルギーが一気に増えてちょっと驚いたが、それでも試作デバイスによるエネルギーの蓄積・還元は正常に作用しているのか特に問題無く俺のエネルギー量は増え続けていた。

 ……改めて大隊長のエネルギーの流れを感じ取ってみたが、その流れは他者の肉体に流し込んでいる筈なのに違和感が殆ど感じ取れないぐらいスムーズだな。俺も他者へのエネルギー譲渡は使えるがここまで上手くは出来ないし、流石は大隊長だな。

 

『……ん? これは……アーク君のエネルギー波長が……? ケン、ちょっとストップ』

「む、どうしたマーブル?」

 

 そんな事を考えていたら、いきなりマーブル博士からエネルギー譲渡にストップが掛かった……いったいどうしたんだ? 

 

『ちょっとアーク君のエネルギー波長が若干()()してるみたいなのよね。……二人は何か違和感を感じていないかしら?』

「私の方は特に違和感は無いが……こちらはエネルギーを譲渡しているだけだから、アークの肉体に起きている変化は解りづらいからな。アーク、そっちはどうだ?」

「えーっと、譲渡されたエネルギーは普通に試作デバイスに蓄積されつつ自分の肉体に還元されてますし、特に異常は……んん?」

 

 マーブル博士と大隊長にそう言われたので少し念入りに自分の身体を流れるエネルギーを調べてみると、何というか身体の内側というか深い所から何かが“ある”感じがしていた……さっきまでは違和感を感じなかったのにコレは一体なんなのだろうか。

 ……どうも普段『シルバースタイル』と『リバーススタイル』を切り替える際の感覚に似ている気がするが、とりあえず二人に事情を説明した上でタイプチェンジする感覚でエネルギーを操作してみるかな。

 

「……そういう訳なので、ちょっとエネルギーを操作してみます。……このまま違和感が続くと気持ち悪いので」

『んー……まあオッケー! 正直こっちの機器でも若干エネルギー波長が変化しているぐらいしか分からないし、そっちでどうにか出来るならやって良いよ。……万が一、何かがあってもケンが居ればどうにかなるでしょう』

「まあ、最悪エネルギーを抜くか私が張る結界の内側でエネルギーを放出させるかすれば良いだろうが、くれぐれも気をつけるんだぞアーク」

 

 そういう訳で二人の許可も取れたし早速この深い所にあるエネルギーを引き出してタイプチェンジの要領で肉体に反映……おお、コレは⁉︎

 

『……おお! 姿()()()()()()ね。……確かにアーク君やケンのタイプチェンジのデータを試作デバイスには組み込んでいたし、理論上は装備者に何らかのエネルギーが加算されればそれに合わせて肉体をある程度変化させる事が出来るだろうけど……おっと、それよりもデータを取らないと』

「……ふむ、姿は変わったが特に異常は無さそうだな」

 

 そうして俺が自分の身体を見下ろすと、何と姿が先程までとは別の物に変わっていたのだ! ……具体的には親父そっくりだったシルバースタイルの姿に両肩から胸のカラータイマーの下辺りに掛けて二層ある金色のプロテクターの様な物が付けられていて、身体の模様も赤色の割合が増える形で一部が変わっていたのだ。

 ……うーむ、見た目はそんな感じだが、肝心のスペックの方の体感的にはエネルギー量が増えているぐらいしか分からんな。

 

『……エネルギーの観測機器を回せ! 貴重な新しいタイプチェンジのデータだからな!』

『内包エネルギー量が増えているな。……これは大隊長のエネルギーが入ったからか?』

『このままだと大した事は分からないし、アーク君には何かアクションを取ってもらった方が良いのでは?』

『……そうね。アーク君、ちょっと的を出すからそこに光線技を適当に撃って見てくれるかしら』

「あ、はい。分かりました」

 

 なんか大隊長が来た事でちょっと大人しくなっていた他のマッド達も、この俺が新しい姿にタイプチェンジしたという事態に復活したみたいだな……まあ、それはそれとして(スルー)この姿がいつまで続くか分からないし、さっさとこの姿の能力を試していきますか。

 

「じゃあとりあえずスペシウム光線で。……セヤッ!」

『……おお! さっきと比べても威力が三倍以上になっているな。やはり能力が大幅に強化されているのか』

『身体能力とかも測ってみたいな。……とりあえず比較の為にまたベムラーでも出してみるか』

『あっ、でもまだ実験室に大隊長が……』

『ケンはシミュレーションの怪獣程度にどうにかなる様なヤツじゃないからほっときなさい。そんな事よりもデータを集めるのが優先よ!』

 

 なんかアレな言葉が聞こえて来た様な気がしたが、あのマッド達との付き合いも長くなったのでとりあえずスルーしつつ各種実験や模擬戦でこの姿の能力を確認していった。

 その結果分かった事は、今のこの姿では身体能力・光線技の威力などの全パラメーターがシルバースタイル時の数倍に跳ね上がっている事。そしてこの姿だとリバーススタイルへの変身が出来ない事が分かった。

 ……その後もこの姿のままでいくつかの実験をこなしたのだが、その途中で大隊長のエネルギーが切れたのか姿が元のシルバースタイルに戻ってしまった。

 

「……あ、姿が元に戻りましたね」

『そうみたいね〜。持続時間は三分ぐらいかしら。……とりあえず身体に何か異常が無いかどうかメディカルチェックを行うから、一旦研究室に戻ってきて頂戴。……あ、ケンももうやる事は無いから戻って来て良いわよ』

「…………」

 

 ……さっきまでの実験や模擬戦をずっと黙って見守っていた大隊長を相変わらず雑に呼び戻しているマーブル博士の事を可能な限り考えない様にしつつ、俺は実験室を出てメディカルチェックを受けるのだった。

 ……大隊長、さっきからずっと黙っているけど不機嫌になったりはしていないよな? 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 そうしてアークが研究室に戻りメディカルチェックの為の装置に入って他の研究員達がその各種データを取っている間、機材を操作していたマーブル博士はそれと並行して部屋の隅で待機していたウルトラの父に回りに聞かれない様に秘匿テレパシーを使ってとある話をしていた。

 

『それでケン、貴方アーク君があの姿になっていた時に“本気で”警戒していたみたいだけど何か知っているのかしら。……例えばアーク君が()()()M()7()8()()()()()()()()事とか』

『……マーブル、あの子の“母親”について知っていたのか?』

『知らないわよ。アーク君がゾフィーの息子でその母親は彼が生まれた時に亡くなったとは聞いてるけど。……コレは今まで彼の身体データを取った時に感じた違和感からの推測よ。まあ私以外は気付いていないけど』

 

 ……部屋の中に居る他のメンバーは自分達の作業に集中している事と、彼等二人の秘匿テレパシーの技量もあってそんな会話が行われている事に気がついてはいなかった。

 

『別にL77星やZ75星雲、TOY一番星とウルトラの星のハーフとかなら珍しくは無いけれども、彼の肉体は一般的なM78星雲人に見える……と言うか、あれだけ“異質な”タイプチェンジ能力があるにも関わらず肉体は純粋なM78星雲人に()()()()()からね。……こんな事はこのウルトラの星でも不可能だし本人も気付いていないみたいだから、多分やったのはキングの爺様でしょ?』

『……私もゾフィーからそう聞いている。かのウルトラマンキングにアークの中にある“母親の力”を封印して貰ったのだと。……それ以上の事は俺の口から言う気はないし、アークに言う必要が出来たのならゾフィーかキング殿が伝えるだろう』

『まあ、私も人様の家庭環境に口を出したりする気は無いしね。今聞いたのも自分が作った物でアーク君に悪影響が出てないか確かめる為だし。……そもそもキング爺様の封印とか厄ネタすぎて私程度じゃどうしようもないしね』

 

 ……そうこうしている内にアークのメディカルチェックは終わり、その結果としてあの姿の変化は他者のエネルギーを注ぎ込まれた事によるウルトラマン同士の融合──『スーパーウルトラマン化』に近い現象である事が明らかになった。

 

『ふーん、想定通りのデータね。元々試作デバイスにはスーパーウルトラマン化を補助する機能もあったし、それとタイプチェンジの為の肉体変化補助機能が合わさった偶発的な変異って事みたいね。……特に貴方が懸念する様な事は無さそうよ』

『そうか……まあ、キング殿の封印が俺のエネルギーを譲渡した程度でどうにかなる訳も無いからな。杞憂だったか』

 

 ……その会話を最後に彼等二人の秘匿テレパシーは途絶えたのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「そういう訳で、さっきのアーク君の変身はケンの高エネルギーを譲渡された事による一種のスーパーウルトラマン化だと分かったわ。……後、特に身体への異常は無かったわよ」

「ありがとうございます、マーブル博士」

 

 とりあえず俺はメディカルチェックも終わって異常無しと判断されたので、データ整理の為に全力で機器を操作している研究員達の横で待機していた……今日はもう遅いので実験はこれで終わりらしい。

 

「今日は色々と手伝ってくれてありがとうねアーク君。お陰でデバイスの完成に目処が立ったわ」

「私からも礼を言っておこう。……きみのお陰で私が頼んでいたいずれ来る()()に対抗する為の力が完成出来そうだからな」

「脅威?」

 

 そう言えばこの試作デバイスを何に使うのかは詳しく聞いていなかったな……大隊長が発注したという事はかなり重要な役目を持つアイテムなのでは? 

 

「ああ……近年、地球圏で起きている数々の異常事態を初めとしてこの宇宙のバランスが乱れ始めているからな、幸い今は小康状態だがおそらく近くに状況が大きく動き出すだろう。……このデバイスはもしそんな状況になった時、まだ未熟だが高い潜在能力を持つ若手を危険な任務に従事させる際のサポートアイテムとして作られた物だ。例えば再び地球に問題が起きた時に有望な若手を派遣する際に使われるとかな」

「ウルトラ兄弟みたいなベテランが動ければいいんだけど、警備隊も人員的に余裕がある訳じゃ無いからねー。……これは危険な任務に送らざるを得ない新人に対する底上げ目的の装備なのよ」

 

 成る程、確かに“魔境”地球に新人を送り込むならこのレベルの装備は必須だろう。そのぐらいのサポートが無いとすぐに死にそうだ……多分、大隊長は再び地球にウルトラ戦士を派遣しなければならない事態になると、何らかの要因で確信しているんだろうな。

 ……そう考えていたら突然マーブル博士が手を叩きながらこんな提案をしてきた。

 

「そうだ! この装備も完成の目処が立ったしいつまでも『試作デバイス』じゃ味気ないから名前を付けましょうか。……実験に協力してくれたアーク君の名前を取って『アークブレス』とかどうかしら」

「……自分で使うならともかく、他人が使う装備に自分の名前が使われるのはちょっと……」

 

 この自分が使う試作デバイスの名前を『アークブレス』と呼ぶならまだいいんだけど、他人が使う正式版にそんな名前がつくのは色々と小っ恥ずかしいし。

 ……それに有望な新人に渡されるという正式版が、罷り間違ってメビウスとかに渡ったら……。

 

『へー! この『アークブレス』はアークが開発に協力したんだー! 凄い性能だよねこの『アークブレス』! 本当に便利だから色々助かってるよ! ありがとうねアーク! この『アークブレス』を作ってくれて!』

 

 ……と、こんな感じで天然全開にデバイスの名前を連呼するに決まっている(断言)! そんな酷い事が御免被るので何としてでも阻止せねば!

 

「……そもそもこの装備が量産化の予定がない以上、専用装備として名前は使う者に合わせればいいのでは?」

「まあ、そんなに自分の名前を付けるのが嫌なら無理に付けようとは思わないわよ。……じゃあとりあえずそのデバイスはアーク君の物だから名前は『アークブレス』で良いわね」

 

 そういう訳で俺は新装備である『アークブレス』(と怪獣ボールとウルトラスパーク)を手に入れたのだった……まあ、これから宇宙警備隊で勤める訳だし強い装備は幾らあっても困る事は無いでしょう。




あとがき・各種設定解説

アーク:出生の秘密がある系主人公
・今回変身してアークブレイブ(仮称)はエネルギーを譲渡された事による一時的な変化で恒常使用は不可能、具体的にはメビウスブレイブやメビウスインフィニティーみたいな感じ。
・アークブレイブ(仮)と彼の出世の秘密は“外観以外”は余り関係無い。

マーブル博士:アークの事は色々と気に掛けている
・今回の運用データを元に外部からのエネルギー譲渡などの“何らかの要因”があれば装備者をタイプチェンジ可能にする機能を付けた正式版を完成させた。
・理論上は装備者の精神的な変化を肉体に反映可能だと力説したのだが、まともに運用データが取れなかったので泣く泣くそのまま正式版として父に提出した。

ウルトラの父:雑に扱われても怒らない人
・彼やマーブル博士はウルトラ族の中でも特に優秀な為、逆にウルトラマンキングの規格外さをよく理解している。


読了ありがとうございました。
主人公の出世の秘密は士官学校卒業後の次章で書く予定です。

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