宇宙に輝くウルトラの星   作:貴司崎

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謎の遺跡・謎の女性

 さて、試練と称して戦わされたアントラーをどうにか倒した俺の目の前に現れたのは、見上げる程の巨大な遺跡と何故かそこにいる親父(ゾフィー)の姿だった……しかしこの親父、何処か何時もの親父と比べてなんか違和感があるというか……。

 ……そんな風に首をかしげる俺を無視して親父は目の前にある、よく見ると結構ボロボロになっている巨大化したウルトラ族と同じぐらいの高さとそれ以上の広さがありそうな巨大な遺跡を観察していた。

 

『しかし、なんだってこんな辺境の惑星のここまで巨大な遺跡があるんだ? この惑星は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と事前に調べた情報にはあった筈だが……』

「……んん? 親父がこっちに気付いていない……いや、違うな。これはもしかして幻術か?」

 

 試しにちょっと目の前の親父に触れようとした俺の手がそのまま擦り抜けてしまったし、やっぱりこの親父は良く出来た幻の様だ……というか、よく見たらこの親父は昔の姿なのか?

 実際、今と比べても大分若く見えるし胸のスターマークや肩のウルトラブレスターも無いし。こんな分かりやすい違いに気が付けないとか、ちょっと俺は動揺し過ぎているな。

 

「ふむ、宇宙警備隊隊長の証であるウルトラブレスターは最近つけられた物だから兎も角、スターマークも付いてないという事は大分昔の親父なのか?」

「その通りだ。……これは昔、ゾフィーがとある辺境の惑星に調査に赴いた時の状況を、私が作り上げた幻術空間で再現しているものでな。ゾフィーはこの惑星から不審なエネルギーの反応を感じ取って調査に来て、そこで現地に生息していたアントラーに襲われて撃退した所でこの遺跡を見つけたという状況だな」

 

 そんな事を考えながら思いついた推測を独り言で呟いていると、あの謎の老人が俺の推測を肯定しつつ詳しい説明をして下さった……正直、この謎の老人()の正体は予想が付いているけど、向こうが話すまでは空気を読んで黙っていよう。なんか言い終わったらすぐにまた消えちゃったし。

 まあ、要するに今のこの場所は超高精度のシミュレーターの中という事なんだろう。周辺の環境もさっきまでは高温の砂漠地帯だったのに、今は見た目だけは砂漠だが実際の環境は俺が過ごしやすい様にか光の国とほぼ同じ環境になっているし。

 ……ちょっと何が幻術で何が現実か分からなくなって来たけれども、多分そういう考え方でいい筈だ……おそらく。

 

『……まあ、ここでこうしていても拉致があかないか。とりあえず中に入って詳しく調査するしかないか』

「おっと、親父(過去)が人化して遺跡の中に入っていったな」

 

 そうしている間にも幻術による過去の光景の再現は進んでいる様で、親父は自分の肉体を縮小させてからヒューマノイドタイプの生物の姿(以前見た事があるのと同じ濃ゆい外見のヤツ)に変身して謎の遺跡の調査の為にその中に入って行った……そしたら、いきなりこの幻術空間が一変して遺跡の内部を探索している親父の映像に切り替わった。

 

『……ふうむ、外部は高温の砂漠環境なのにこの遺跡の内部はむしろ涼しいぐらいで、大気環境なども含めて一般的な生物の生存に最適な環境になっている。一見機械類が見えないから分かりづらいが、この遺跡は相当に高度な環境調整技術が使われているな。……この遺跡のサイズからしてヒューマノイドタイプぐらいの大きさの生物が使う為の物として作られている様だが、こんな技術形式は俺も今まで見た事が無い』

「……確かに、俺はこれでも宇宙保安庁入隊試験をクリアする為に色々な文明の建造物を勉強してきたつもりだが、こんな遺跡の様式は見た事が無いな」

 

 ……その遺跡の内部は以前ちょっとだけアーカイブで見た地球にある“古代の神殿”の様な内装であり、入ってからすぐのエントランスの様な場所には大分風化していたが不思議な文様が刻まれた柱や怪獣と()()()()()()()()()()()巨人が戦う様子が描かれた壁画などがあった。

 

『この壁画はウルトラ族と怪獣の戦いが描かれているのか? それにウルトラ族の様な巨人同士の戦いや怪獣が街を襲う様な壁画もあるな……ただ、大分風化しているから詳しくは分からないか。……しかし、一体この遺跡はどれだけ昔の物なのか、一応調査用に簡易の各種測定デバイスを持ってきたから調べてみるか』

 

 そう言った親父は腕に付けていたブレスレット型の測定デバイス(時代が時代だからかちょっと旧式)を手慣れた様子で操作して辺りを調べ始めた……確か親父ってこの手のアイテムは『昔からよく使っていたから扱いには慣れている』って言ってたっけ。それでテレポート能力と合わせてアイテムを届けるお使いをやらされてたとか……。

 ……しかし、この遺跡は何なんだろうか? あの老人の解説が入らないという事は、このまま親父の過去を見ろって言うんだろうが……。

 

『……測定結果は遺跡を構成している建材の材質は解析不可能、ただの石では無いな。少なくとも光の国のデータベースには載っていない素材で作られているのか。……それで、この遺跡が建造された推定年月は……およそ()()()()()だと⁉︎ ウルトラの星ですらまともな文明が無かった時代だぞ!』

「うーん、確かウルトラの星で太陽爆発が起きたのは二十六万年前、更に四十万年間一度の犯罪が無かったと伝わってるから結構ウルトラ族の文明は長く続いているんだよな。……一応アーカイブで調べたら百万年前ぐらいのウルトラの星の情報があったりもしたけど、文字通り桁が違うな」

 

 ……ふむ、なんか歴史ロマン物の番組を見ている感じでちょっと楽しくなってきたな。ここは超古代文明の遺跡か何かなのか? 

 

『……ここは超古代文明の遺跡か何かなのか? ……流石に簡易測定デバイスではこれ以上の調査は無理か。俺の感覚だと何か特殊なエネルギーの流れを感じ取れるんだが、この測定デバイスでは検出出来なかったし。……仕方ない、後は自分の足で調査を続行するしか無いか。せめて観測された謎のエネルギーが危険かどうかだけでも確かめないとな』

「お? どうやら過去の親父は先に進むみたいだな」

 

 デバイスを使った測定を終えた親父は遺跡の中を慎重に隈なく歩いて探索していったので、俺もその後に続いてこの遺跡の内部を見て回る事となった。

 ……それから一通り遺跡の内部を探索したがエントランスと同じ様に壁画が描かれていたり、風化しかけていたが先程見た様な柱や何かの飾りの様な物があるぐらいで特に新しい発見は無かった。

 

『これで一通り調べ終わったがこの遺跡の内部は壁画や柱があるだけで、その壁画も鎧を着た様な怪獣や翼を持った怪獣、或いは巨大な植物の様な怪獣と巨人が戦っている物か、巨人同士が戦っている物ばかりだった。……観測されたエネルギーは次元や空間に異常が起きた際に発生する物に近似していたし、出来ればその原因を明らかにしたかったのだが……』

「まあ、次元系エネルギーは危険度が高いからね。主にヤプールとかヤプールとか」

 

 ……というか、そういった高位の存在や超高度な科学技術でもないと次元や空間には干渉出来ないって言って方が正しいのだが。

 

『残る手掛かりはこの遺跡から感じ取れる謎のエネルギーか。……これまで遺跡を歩き回りながらこのエネルギーをより詳細に感じ取れる様に感覚を研ぎ澄ませたら、何となくではがあるがこのエネルギーは俺達ウルトラ族のものに近い感じがするんだが。……このエネルギーがどこから流れているかを感じ取れればこの遺跡の秘密が分かるかもしれん』

 

 そう言った親父は目を閉じて精神を集中させて周りのエネルギーを感じ取ろうとしていた……まあ、なんか『星の声』とか聞けちゃう親父だし謎のエネルギーを感知する事も出来るんだろう。

 ……そうしてしばらく集中していた親父だが、ある時いきなり目を開けながら振り向いて遺跡の一点を見つめた。

 

『……エネルギーが流れている方向はあっちか』

「お、ようやく動くみたいだな」

 

 そう呟いた親父はエネルギーとやらの流れを追う為だろうが、物凄く集中しながら先程見た方角に向けて遺跡の中をゆっくりと進んでいった……そうして親父は暫く歩いていき、やがてとある壁画の前で足を止めた。

 ……その壁画には男性型っぽい巨人が三人、女性型っぽい巨人が一人の合計四人の巨人が並んでいる姿が描かれていた。

 

『……やはりこの遺跡を流れるエネルギーはこの壁画……おそらくはこの壁画の向こう側から流れ出ている様だな。……ふむ、この奥に行く為の隠し扉とかは無い様だがどうするべきか……いっそ壊すか? だが何がエネルギーの原因になっているか分からない以上は下手に遺跡を破壊したくは無いしな……』

 

 そうやって親父は壁画やその周囲を色々と触ったり測定デバイスを使いながら調べて行った……うーん、俺はむしろこの壁画自体に何か意味がある気がするんだよな。他の壁画に描かれていた巨人は怪獣や同じ巨人と戦っている物ばかりだったけど、この壁画のはただ並んで立っているだけだし。

 ……そう俺が考えていたら突如としてその壁画が()()()()()()()。それを見た親父は即座に飛び退き距離を取って光る壁画を警戒した。

 

『なんだ⁉︎ いきなり壁画が……』

「光り始めたな」

 

 そうして壁画から出た光はその前方へ徐々に何かの像を結んでいき、気付くとその壁画の前には白いローブの様な衣装を着た白髪の女性が立っていた。

 ……よく見るとこの白い女性の姿には所どころノイズが走ってるし、これは多分一種の立体映像(ホログラム)だな。

 

『……これはホログラムか?』

『私は地球星警備団の団長ユザレ。……現世を離れ亜空間を旅するこの“方舟”に人が訪れたという事は、時間が来て再び何処かの現世に浮上してしまったという事なのでしょう』

 

 そのホログラムの白い女性──地球星警備団の団長であるユザレと名乗る彼女は警戒している親父を無視して、何か凄く意味深な感じでそんな事を話し始めた……まあ、ホログラムである以上は以前に録画した物でしかないだろうからしょうがないんだが。

 ……しかし“地球星警備団”なんて聞いた事が無い名前だな。地球にいくつかあった防衛チームにもそんな名前の組織は無かった筈だし……。

 

『この方舟は私の世界にいる事が出来なかった“彼女”を何処か別の世界に逃がす為の物。この壁画に“光の力”を当てる事で彼女が眠るこの先の部屋に行く事が出来るでしょう。……どうか、この映像を見ている者が彼女を“闇”から救い出せる“光”を持つ者である事を切に願います……ザザッ……ザザザ……』

 

 そのユザレと名乗る女性のホログラムは喋りながらも徐々にノイズが酷くなっていき、一通り話終わった後に全身がノイズに包まれてそのまま完全に消えてしまった。

 ……ふうむ、何かこう物凄く抽象的すぎてよく分からなかったが、要するにこの先に誰かが居るって事だよな。

 

『……つまりこの先に誰かが居て、先に進むには光をこの壁画に当てればいいと……こんな感じか?』

 

 話を聞き終わった親父は早速掌の上に小さな光球を作り出し、それから発せられる光を壁画に当てていった……すると、まるで親父が出した光を吸い込んでいる様に壁画が再び光り出した……そして、その光が徐々に強くなっていくと共にいきなり壁画がまるで引き戸の様に真っ二つに割れ出したのだ。

 ……やがて壁画が動きを止めて光が収まると、そこには如何にも遺跡の奥に続いていそうな隠し通路が現れていたのだ。

 

『……進もう』

 

 ……あのユザレという女性の話を聞き、更にその通路を見た親父はこれまでとは違う本気で真剣な表情となって通路の奥へと進んでいった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『……ここが遺跡の最奥部か。先程までとは全く違うな』

「確かに凄い明るいし」

 

 そうして親父が通路の中に入ると再びこの幻術空間が一変して場面が切り替り、遺跡の最奥部にある隠し部屋に親父が足を踏み入れる場面になっていた。

 ……その隠し部屋はこれまでのボロい石で出来た遺跡とは全く違い、壁・床・天井・柱など全てが淡い光を発する白と金の中間の様な色合いの素材で出来ている神秘的な空間となっていた。

 

「ウルトラの星の建築に使われているクリスタルと似た感じがするが、こっちは大理石みたいな感じがするな」

『ふむ、光の国にある建造物に似ているが全く違う素材で出来ているな。……む? 部屋の奥にに何かある様だな』

 

 そうやって俺が周囲を見回していると親父が部屋の奥に何かがある事に気が付いて、それが何かを確かめる為にそのまま奥へと進んでいった。

 ……そうして奥に進んでいった親父(と俺)が目にした物は……。

 

『……これは()()の様な物……ッ⁉︎ この上に乗っているのは……!』

「……()()()()()()()()()()()()()()()()が祭壇の上に置いてあるな」

 

 部屋の奥にあったのは何かを祀る為に作られた様な一つの巨大な祭壇と、その祭壇の上に鎮座する俺達ウルトラ族に似ている女性巨人の石像だった……うむむ、状況から考えるにこの石像があのユザレという女性が言っていた“彼女”って事になるのかな? 

 ……そう考えていたら突然その石像が輝き出すと共に色が付いて行き、額にクリスタル、胸に逆涙滴型の台座があるカラータイマー、肩から胸部に掛けて金色のプロテクターの様な物を身に付けた銀と赤と青のウルトラ族の女性っぽい巨人に変化したのだ。

 

『なっ⁉︎ 石像がウルトラ族に……いや、この女性が石像になっていたのか?』

『……あ……ここ……は……』

 

 その女性が何か言おうとしたら再びその身体が光輝くとそのままどんどんと小さくなって行き、最終的に光が収まった場所には先程のユザレと同じ様な白い衣装を着た銀髪のヒューマノイドタイプの女性が倒れ込んでいた……どうやら人間の姿に変化した、或いは元に戻ったといった感じみたいだな。

 

『いかん! 君、大丈夫か!』

 

 それを見た親父は即座に祭壇を駆け上がってその女性を抱き起こしながら呼び掛けた……すると女性は割とあっさり目を開けて親父を見た。

 

『……んん……貴方は?』

『私は宇宙警備隊のゾフィーだ。この遺跡には観測された不審なエネルギーの調査に来たんだ。……それで君は一体?』

『……私は……ティアと言います……』

 

 その女性──ティアはそれだけ言うと再び目を閉じて眠りについてしまった……こういう展開になったという事は多分あの女性が……。

 

「そう、あの女性……ティアこそがアーク、御主の母親なのだ」

「うウェイ⁉︎ びっくりした……」

 

 そんな風に考えていると、いきなり背後に現れた例の老人がそんな事を言ったのでつい驚いてしまった……いきなり消えたら現れたりするからね、この謎(笑)の老人。

 ……しかし、この人が俺の母親……まさか石像だったとは(混乱中)




あとがき・各種設定解説

アーク:実は内心だと大根が走り回ってる(笑)
・実際、普段なら冷静に対応出来る様な事にも対応出来ていないのはそのせい。

謎の老人:何故か出たり消えたりしている
・本人的にはアークに集中して過去の映像を見てもらう為の気遣いのつもり。

ゾフィー:まだ一般警備隊員だった頃
・この時点でもアントラーをタイマンで倒せるぐらいに強く、遺跡の調査の様な戦闘以外の事も問題無く熟せる警備隊のエースだった。
・人間態の外見は『ウルトラマンstory0』の者をイメージしてほしい。

ユザレ:いつも通りホログラムで登場
・心に高い善性を持った者があの壁画に触れる事でメッセージが再生される様になっていて、更に強い光エネルギーを当てる事で扉が開く仕様になっていた。
・これは高い善性を持つ心と強い光の力を持つ者でなければ最奥に進めない様にする為である。

ティア:アークの母親
・お察しの通り(感想でもバレてた)ネオフロンティアスペースのウルトラウーマン、その詳細は次回。


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