今日は士官学校が休みの日で、俺は前からの予定である宇宙科学技術局での検査に来ています……この宇宙科学技術局とは光の国における最高峰の研究機関であり、宇宙警備隊の後方支援や新技術の開発などこの星の科学技術にまつわる様々な仕事を執り行っている部署である。
その宇宙科学技術局の成果として有名なところでは、近年このウルトラの星において最高峰の天才であるヒカリさんを中心として発見された『命の固形化に関する技術』などがある。ちなみにそのヒカリさんは俺の検査を担当してくれる研究者の一人でもある。
……そして、俺は現在そこの受付で自分の到着を伝えているところだ。
「すみません、今日検査の予約をしたアークなんですけど」
「はい、本日予約されたアークさんですね。……今担当の者に連絡しましたので、迎えが来るまでロビーで暫くお待ちください」
「分かりました」
とりあえず、俺は言われた通りロビーにある椅子に座って迎えを待つ事にした。
……少しすると、奥の方から見覚えのある人物がこちらに近づいて来るのが見えた。
「やぁ、アーク君、待たせたね。今日もよろしく頼むよ」
「いえ、そんなに待っていませんよトレギアさん」
なんか手をコネコネしながら俺に声を掛けて来たブルー族の男性はトレギアさん、この宇宙科学技術局でさっきも言ったヒカリさんの助手をしている優秀な科学者である……ところで、あの手をコネコネする動作はクセなのかな?
……まあ、それはともかく、彼はこれまでも何度も俺の“チカラ”の検査を行ってくれたメンバーの一人である。
「それで? 今日はどんな検査をするんですか?」
「ああ……でもその前に、今日はもう一人ゲストが居るんだよ。……どうやら来たみたいだね、ホラ」
そう言って、俺の後ろを指差したトレギアさんに釣られて振り向くと、そこには技術局内に入って来たカラレス教官の姿があった……そう言えば、親父が教官にも俺の“チカラ”について知っておいてもらうって言ってたな。
「ああ、カラレス教官、こちらですよ」
「ん? ……おお! 久しぶりだなトレギア。それとアーク、今日はよろしく頼む」
「はい、よろしくお願いします教官。……ところで、お二人は知り合いなんですか?」
どうも二人の反応を見るに以前から面識があったようだが……カラレス教官はかつてタロウさんの師匠をしていたらしいし、トレギアさんはそのタロウさんの親友だからそれでかな?
その疑問に対して、トレギアさんは肩を竦めながら答えてくれた。
「ああ、私はかつて宇宙警備隊を志していた事があってね。……まあ、私はあまり身体が強く無かったから士官学校の試験には落ちてしまったんだが、その時の試験官がカラレスさんだったんだよ」
「そういう事だな。……まあ、それからもヒカリやタロウから、その若さで宇宙科学技術局の要職に就く程の優秀な人物だと聞いていたがね」
「いえ、私などまだまだ若輩の身ですから。彼の検査でもヒカリさんの手伝いをするのがやっとですよ」
……光の国の歴史に残るレベルの研究者であるヒカリさんの手伝いが出来る時点で、トレギアさんも十分非凡だと思うんだけどなぁ。
「……しかし、ゾフィーからある程度の話は聞いていたが、ヒカリやキミ程の研究者が彼に関わっているとは……」
「彼の“チカラ”は私としても興味深いモノですからね。……さて、ここで立ち話も何ですし奥の研究室に行きましょうか」
そう言って建物に向かったトレギアさんに続いて、俺と教官も宇宙科学技術局の奥にある研究室へと向かって行った。
──────◇◇◇──────
そうして暫くの間、俺達は宇宙科学技術局の廊下を歩いていく……いつもの研究室はこの建物の大分奥にあるから結構歩かなければならないのだ。
……と、そんな時にカラレス教官が真剣な表情でトレギアさんに問いを投げかけた。
「この一角は技術局の中でも相当に機密レベルの高い区画だった筈だが……アークの能力はそこまでのモノなのか?」
「まあ、彼の“チカラ”は光の国でも他に類を見ないモノですが……どちらかと言うと、今はあまり公開しない方がいいという宇宙警備隊隊長の指示ですね」
「今の親父は隊長就任や地球の事とかで色々と大変な時期ですからね、厄介事が少ない方がいいでしょう」
そんな話をしている内にいつもの研究室の前に到着したので、俺達はトレギアさんの先導で中に入って行く。
そこにはヒカリさんを始めとする
「ヒカリさん、アーク君とカラレスさんを連れて来ました」
「ああ、ご苦労様。……それとカラレスは久しぶりだな」
「確かに、お互いに最近は忙しかったからな。本当に久しぶりだ、カラレス」
「お互い、第一線を引いた後は顔を合わせる機会が少なかったしな」
「……ちょっと待て、ヒカリが居るのは聞いていたがお前達まで居るのか⁉︎ サージ! フレア!」
そうして中に入ってメンバーと顔を合わせた途端、カラレス教官は驚きの声を上げた……あれ? 親父から聞いてないのかな?
……同じ事を思ったのかフレアさんも教官に聞き返していた。
「あら? ゾフィーから聞いてないのか?」
「……ゾフィーからは『ヒカリを始めとする知り合いの研究者達が協力してくれている』としか聞いていなかったからな」
「ふむ、アイツは息子の事になるとかなり神経質になるからな。どうせ『詳しい事は研究室で聞いてくれ』とか言ったんだろう」
……あー言いそう。うちの親父ってたまに言葉が足りなくなる時(例:『ゼットンは倒した』)があるからなぁ……。
「しかし、科学技術局に勤めているフレアは兎も角、主にM78星雲の周辺惑星警備を担当していたサージまで来ているのか」
「俺は以前ゾフィーからアークの特殊能力に関して相談を受けてな、それでこの検査にも顔を出しているんだ」
「こっちもそんな感じ。……それに、アークの能力は俺が研究している事にも関わっているからな、科学技術局の一人としてもな」
ちなみにサージさんとフレアさんはカラレス教官と同じ様に宇宙警備隊員だった時に怪我を負って第一線から退いた人達で、現在ではそれぞれサージさんはM 78星雲周辺にある友好的な怪獣が住む惑星──メタル星やバッファロー星などカプセル怪獣になる事もある怪獣が住む星々の警備を、フレアさんはここ宇宙科学技術局で異次元や空間についての研究を行っている。
……そして、それぞれサージさんは寒さに弱いウルトラ族としては例外的に氷や冷気を操る能力を持っており、フレアさんは身体を光の粒子に変えたり異次元での行動を可能にするなど特殊な能力を持っている人達なので、俺の“チカラ”に関する事にも相談乗ったりしてくれているのだ。
「しかし、ウルトラ兄弟だけでは無くお前達まで関わっているとは……アークの能力とは一体……?」
「それについては直接見た方が早いかもしれないな。……アーク君、実験室の用意は出来ているからまずは一通りの能力を使ってみてくれないか?」
「はい、分かりました。……では行ってきます」
カラレス教官のその疑問にヒカリさんがそう答えた後に俺へいつもの練習を行う様に言ったので、俺は指示通りに研究室の隣にある実験室に入っていった。
──────◇◇◇──────
『では、アーク君、準備はいいかい?』
「はい、大丈夫です」
そうしてカラレス教官達が見守る中で実験室に入った俺はその中央部で待機していた……尚、この実験室は士官学校の訓練場の様に隣ににある研究室で中の様子を見る事が出来る上、壁や床には危険な実験を行う為に訓練場よりも遥かに強力なバリアフィールドが張られていたりする。
『じゃあまずは念力用ターゲットを出すから、
「分かりました」
そのヒカリさんの言葉と同時に俺の目の前に三つの球体が置かれた……これは士官学校におけるウルトラ念力の訓練にも使われる念力用ターゲットであり、非常に念力による干渉がし難くなる特殊なエネルギーフィールドを纏っている。
……ちなみに士官学校の訓練ではこれを念力で持ち上げる事で、自身の念力の出力・制御能力を磨くのが主な使い方である。
「さて、じゃあやりますか……ハァッ!!!」
『なっ⁉︎』
そして、俺はいつもの通りに自分の内側にあるモノを身体の外側に出すイメージで気合いを入れた……すると、俺の身体の銀色の部分が一瞬で
……研究室からカラレス教官の驚いた様な声が聞こえてきたが、まあ初めてこの姿を見たら驚くよなぁ。俺自身や親父もそうだったし。
「セヤッ」
姿を変えた俺はそのまま三つあるターゲットに手を翳すと、それら全てををウルトラ念力であっさりと持ち上げた……一応、このターゲットは一般的な宇宙警備隊員が全力でウルトラ念力を行使する事で辛うじて持ち上げられるぐらいの物であり、事実普通の姿の時の俺は一つを漸く持ち上げるのが限界である。
……だが、この姿の俺はウルトラ念力の強度が大幅に上昇する為、これぐらいのターゲットなら複数同時に持ち上げる事が可能なのだ。
『トレギア、あの姿での念力の強度は?』
『ターゲットに備えられた計測器からのデータだと、一般的な宇宙警備隊員のものと比べても十倍以上の強度がある様ですね』
『うーん、やっぱり以前士官学校入学前に測った時よりも強度は上がってるよな。これは本人の成長が関係しているのかね』
隣の研究室ではヒカリさん、トレギアさん、フレアさんがこの姿の俺の色々なデータを取ってくれており、その間に俺はターゲットを念力だけで動かしたりしてみていた……うーむ、やっぱり前よりも念力の強さが上がってるなぁ。
……しばらく動かしているとヒカリさんからデータを集め終わったからもういいと言われたので、念力を切ってターゲットを床に置いておく。
『それじゃあ次は空間操作──ゲートの展開とそれによる空間移動をやってみてくれ』
「分かりました……セイッ」
そのヒカリさんの指示に応えて、俺は両手を前に出して前方にある空間に干渉していく……すると俺の前方の空間に
「じゃあ、入りますね」
そして、その穴の大きさが大体ウルトラ族一人分の大きさになったところで、俺はヒカリさん達に穴の中に入る事を告げてから目の前の黒い穴の中に入っていった……すると、そこには無限に続いているのではないかという程の広大な闇の空間があった。
そして、目の前には先程入って来た穴と同じぐらいの大きさの穴が空間に穿たれており、その先には実験室の中の光景が見えた……俺はその穴をくぐると、先程少し離れた場所に作ったもう一つの黒い穴から出て実験室に戻っていた。
……これが今の姿の特殊能力の一つである『闇の亜空間に繋がるゲートの生成』である。
『フレア、実験室内の空間データは?』
『室内に取り付けられた各種センサーでは空間に穴が空いている事は観測出来ている……が、その穴の中までは観測不可能だな』
『それと、穴が空いている空間以外の場所は一切の異常を感知出来ませんね。ここまで安定した空間操作は今の光の国の技術でも不可能でしょう』
尚、研究室内の皆さんがデータを取り終わるまで、俺はゲートを維持しながら手持ち無沙汰に突っ立っている……このゲート内の『闇の亜空間』は俺自身にもどういうものかよく分かっていないからな。研究室の皆さんには期待している。
一応、この姿なら闇の亜空間内にずっと入っていても大丈夫だし、その気になればいつでも内部からゲートを開いて通常空間に戻って来れるんだが、どうせならどういうものか分かった方がいいしな。
『アーク君、データは取り終わったからもう穴を閉じてもいいよ』
「分かりましたトレギアさん」
『それじゃあ、次は環境対応試験だな。……今回はちょっと特殊な擬似環境を用意しているぜ』
言われた通りワームホールを閉じると、フレアさんが次の試験の開始を告げて来た……この姿と元の姿では体質とかにも色々と違いがあるからな、擬似再現された環境対応試験はその為のものなのだ。
……しかし、特殊な環境とは一体?
『その名も“擬似異次元空間”! 名前の通り異次元を擬似的に再現したものでな。今エースが追っている
「はい、大丈夫です」
『それじゃあ“擬似異次元空間”展開!』
そのフレアさんの言葉の直後、実験室内の空間がめちゃくちゃに歪んだ様に感じた……これが彼の言う“擬似異次元空間”なんだろう。
……ふむ、確かに俺が入れる『闇の亜空間』と似ている様な気もするが、あっちと比べるとなんかグニャグニャしているというか騒がしい感じというか……。うーん、上手く言葉に出来ないな。
『どうだ? 動き難いとかはないか?』
「いえ、特には。跳んだり跳ねたりも普通に出来ますね」
『……普通は異次元空間に入ったら対策を取らないとまともに動けなくなるんだがな。やはり、その姿だと特殊な環境にも適応出来る様になるんだろう』
『計測不可能な闇の亜空間内に問題無く出入り出来る上、通常ウルトラ族が苦手とする低温・高冷媒環境でも問題無く活動出来ていましたしね』
そう、この姿だとそういう特殊な環境でも問題無く活動出来たりするのだ。『闇の亜空間』の中で活動する為にそういった能力も上がっているのではないか、と言うのが皆さんの推論だが。
『それじゃあ、姿を元に戻してみてくれ』
「分かりました……ぬおっ!」
ヒカリさんに言われて姿を元のシルバー族のものに戻すと、途端に身体がまともに動かせなくなってしまった。これが異次元空間……!
『異次元空間に素の状態で適応出来る訳ではないと』
「ぬおう、凄いグニャグニャする。なんか気持ち悪くなって来た」
『普通は身体にバリアフィールドを展開したりして異次元の影響を遮断するんだがな。……それじゃあ“擬似異次元空間”停止っと』
フレアさんが擬似異次元空間を解除してくれたお陰で俺はどうにか動けるようになった。身体にバリアフィールドか、後で練習しとこうかな。
『それじゃあ、今日はこのぐらいにしようか。……カラレスへの説明もあるから研究室に戻って来てくれ』
「分かりました」
そのヒカリさんの指示の下、俺は実験室を出て研究室に戻っていった……さて、カラレス教官にはどう説明しようかな。
あとがき・各種設定解説
アーク:実は平成ウルトラ的なタイプチェンジが出来る(名称未決定)
・この『黒の姿』に関する詳細は次回だが、ただの強化形態という訳でも無い模様。
トレギア:まだ普通の宇宙科学技術局職員
・アークとはプライベートでもそこそこ中が良く、彼の能力にも強い興味を抱いている。
ヒカリ:公式技術チートラマン
・この物語ではゾフィーやカラレス達とは昔からの知り合いである設定。
フレア&サージ:出展『ウルトラマンstory0』
・カラレスと同じ様に今は第一線を退いて各々の職場に付いている。
・また、アークにはそれぞれの特殊技術を教えたりしている師匠でもある。
読了ありがとうございました、次回は後編になると思います。